叛逆の刻印〜刻まれし天命〜   作:炎駒枸

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叛逆の刻印⑨

 

 聖域の城に帰還したフレアはその帰宅がみこにバレた途端に詰められる。

 

「おい『不死火』! 外に出るなッて言ったじゃねェか」

「うるさいなァ……気分落ち着けてきたんだから態々また害さないでよ。そう言うパワハラがあるからここには居たく無いんだッて」

「オメェは重要なポジションに居るッつッたろ。下手にウロウロされると――」

「アァもゥはいはい! 分かったから。そんな事よりアンタに伝言」

「ァ?」

 

 ミオの顔に似つかわしく無い顰めっ面でフレアに鋭い眼差しを向ける。

 

「ノエちゃんの家に『叡智の書』が来てた。アイツからアンタに伝言」

「――内容は」

 

 ムスッとした顔で問い返す。

 

「次の金曜日の17時、聖域に乗り込む。それだけ」

「…………」

 

 フレアは伝言を告げると顔を背けて部屋を出ようとする。

 

「おい」

「なにもう!」

「……オメェ、また寝返る気か」

「…………」

 

 直球な問いにフレアは瞳を燃やし迫力のある眼光でミオの容姿を捉えた。

 鋭い視線が交差する。

 

「……ノエちゃんだけは殺さないッて約束するなら、寝返らない」

「……みこ、ソイツの顔知らねェぞ」

「短めの銀髪で胸が大きい子」

「……分かった。約束しよう」

「……」

 

 パタン、とフレアは扉の向こうへ消えて行った。

 

「……」

 

 フレアの部屋移動を察知してそらとはあとが別室から顔を出してきた。

 簡易的に用意された安物の椅子に腰をかけると皆一斉にため息をついた。

 

「みんなの様子はどうだった?」

「おかゆちゃんとわためちゃんの管理が大変。特におかゆちゃんは日に日に狂気が弱まっていってるよ」

「しかもルーナちゃんが機を見て奇襲仕掛けようとするから……」

「はァ……なんかもう、いっそ手放した方が安定しそうだね」

 

 わためはちょこが力を解かない限り束縛は解けないが、おかゆの狂気は本人の心境の変化に左右される為不確定要素となっている。

 ころねの死のショックから心が黒く染まった事に起因しているが、時間経過でそのダメージは徐々に和らいでいく。

 ミオに関しては、みこが身体を支配している為はあとの力が弱まろうとも自力では復帰できない。だがおかゆは場合によってはそれが可能である。

 味方としてカウントするには実に不如意な存在なのだ。

 

「呪さえ無ければとっくに手放してるんだけどね」

 

 おかゆの呪の素性も知れぬ状態で見逃すわけにはいかない。

 らでんや莉々華がここまで隠していた呪が無能なんて有り得ないから。

 

「そういえばフブキちゃんは?」

「寝てる」

「そう」

 

 フブキが寝ている部屋を一瞥して無感情を装った。

 そらも深掘りせずに話を切る。

 

「どうするの? 金曜日の17時に戦うつもりなんでしょ?」

 

 はあとが相変わらず見慣れないミオの横顔を見つめた。

 みこはグッと大きく首肯して覚悟に燃える琥珀の瞳を返す。

 

「聖域の一帯を平地にして大きなスペースを設ける。そしてこの城も崩す」

「本当に最後にするんだね」

「うん。当日、はあちゃまとまつりはどこか安全なとこに居て」

「分かった」

 

 特別な作戦は立てない。

 ただ向かい来る者たちと本気で戦争し、訪れる結末を受け入れる。

 

 予言を信じて、みこは死力を尽くすのみ。

 

「みんなにはまた個別で伝えてくよ」

「分かった」

「ん」

「それとそらちゃん」

「うん?」

「ホープダイヤはみこが持っておくよ」

「――そうだね。それがいいかも」

 

 みこはそらに預けていた最後の命のカケラを受け取りネックレスとして首にぶら下げた。

 その輝きを目に焼き付け、服の中へと仕舞う。

 

 

(これが最後だ莉々華。みこを殺してみろ。そして呪を消滅させてみろ)

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 木曜の夜、唯ならぬ空気がAZKi宅のリビングに蔓延していた。

 莉々華が最終作戦に関する会議と称して皆を集めたからだ。

 誰1人余計な口を挟まず、おちゃらけた態度も見せず、下らない喧嘩をふっかけることもない。

 

「最終決戦は明日の17時。よって、明日の朝には聖域へと出発することになります。事前に行える細かい指示はその際に話します。この会議はその為の幾つかの確認が目的です」

 

 ぐるりと概観すると引き締まった表情がいくつも並んでいた。

 

「まずなにより『不死火』不知火フレアについて。彼女を止める術としてノエルさんに協力を仰ぎました。作戦の日時は知っているので足を運んでくれるでしょうが、ぎりぎりの時間までフレアさん本人が彼女を見張り家から出さないでしょう。となれば、ノエルさんの遅刻はほぼ確実となります」

 

 皆一様に頷く。

 

「よってノエルさん到着までの間、誰かにフレアさんを足止めしてもらう必要がある。フレアさんとみこさんを互いの能力が届く範囲に同席させてはいけませんから」

 

 戦場の統制で最も重要な部分だ。

 これを失敗すればどうにも手出しが出来ない。

 

 この発言は至極当然であり、皆が真っ先に思い至る詰み要素。

 だからこそ、トワが堂々と挙手した。

 

「不知火フレアの相手はトワがやろう。あんなの他の誰にも相手できねぇだろ」

 

 トワの主張に莉々華はこくりと頷いた。

 今トワが口にした通り、他の誰にもフレアを止める事はできない。

 トワの主張に莉々華が答えかけた時――

 

「あたしも行く」

「は?」

 

 すいせいがトワを真横から見つめて主張した。

 トワだけが異議を唱える様に眉を寄せる。

 莉々華は敢えて一度成り行きを見守ることに。

 

「その怪我で何言ってんだよ。邪魔なだけだから、お前はもっと軽い奴とやっとけよ」

「いやだ、あたしも行く」

 

 聞き分けのない幼児のように答えた。

 星の瞳を見つめ返してトワは髪をかき乱しながら声を大にする。

 

「あのなあ!――」

「トワに死んでほしくない」

「――――は、ぁ⁉︎ トワが死ぬかよ!」

「――――――」

「――――――――っ……!」

「――――――――」

「――――――――……勝手にしろよ」

 

 数秒間の見つめ合いの激闘の末、トワが赤面して屈した。

 顔を背け紅潮するトワを前にすいせいが頬を緩める。

 

 二人の特殊ないちゃいちゃにあやめとマリンが辟易していたが、やじを飛ばさなかっただけ十分偉い。

 莉々華は話の決着を見届けて目を細めるとやっと口を挟んだ。

 

「お二人の意向に関わらずそのつもりでした」

「……」「――」

「ノエルさん到着までの間、フレアさんの足止めはトワさんとすいせいさんにお任せします」

「ああ」「まかせろ」

 

 最難関をチームの最高戦力に預ける事が確定した。

 二人に止められなければ、この戦いは莉々華たちの負けでいい。

 

「莉々華」

「――はい。なんでしょう?」

 

 次の課題の対応に移ろうとした莉々華にマリンが遠慮がちに口を挟んだ。

 眼帯の下から心眼で莉々華を見つめている。

 

「ノエルは本当に来てくれるんか? 距離もそれなりにあるし、ぎりぎりまでフレアが見張るってんなら走っても2時間以上遅刻する。それだともう、決着がついてるんじゃ……?」

「――」

 

 マリンの言葉の真意を汲み取り莉々華は頬を柔らげた。

 

「ありがとうございます。でも安心してください。ノエルさんは必ず来ます。多少の遅刻はありますが出来うる限り最善の手を尽くしましたので、皆さんが予想するよりは早く到着するはずです」

「……そうか。ん、ならいい」

 

 詳しくは語らないが既に策を講じていることは明かした。

 今更莉々華に疑いの目をかけはしない。

 マリンが静かに身を引くと莉々華は首肯して視線をAZKiに向ける。

 

「次に――AZKiさん」

「うん」

 

 莉々華はAZKiを一直線に見つめる。

 

「そらさんの相手をお願いします」

「りょーかい。私にしか出来ないもんね」

「はい」

 

 第二関門となるときのそら攻略。

 彼女もまたみこの間近においてはいけない存在だ。

 そしてそらを相手できるのは同じく回復の力を有するAZKiのみ。

 他の戦力は割くだけ無駄だ。

 

「そして、おかゆさんなんですが……」

 

 莉々華が苦い顔をして次の話題を取り上げる。

 その表情を目にした上でシオンが声を上げた。

 

「おかゆはシオンがなんとかするよ」

「……私も行きます」

「んーん、マリンちゃんはダメだよ」

「――な。どうして!」

 

 シオンに続いてマリンが名乗りを上げるが、何故かシオンが反発する。

 マリンの目的はもはやおかゆの奪還のみである。そこに一役買わずに何をしろと言うのか。

 

「ころねはおかゆとマリンちゃんを助ける為に命を落とした。2人じゃ話し合いは成立しない」

「――――そんな事無い!」

「そんな事ある。かなたんが死んだ時の自分を思い返してみてよ」

「っ…………でも……‼︎」

 

 想い人を亡くした時を想起してマリンが美貌を曇らせた。

 それでも何とか役に立とうと言葉を探す。

 

「マリンちゃんもころねに助けてもらっておきながら、おかゆと言葉なんて交わせないでしょ。きっとこの中じゃシオンが適任だよ」

「っ…………」

「それに、シオンは戦えないから、ね」

 

 シオンの言葉にぐうの音も出なくなる。

 もとよりメンタルが崩れやすいマリンにおかゆの解放は難しい。

 それにマリンは銃の扱いが群を抜いて高いのだ。苦手な話し合いに混ぜるのでは無く、その才が輝ける戦場に立つべきだろう。

 

 莉々華もマリンの意向を尊重したいが故に、バツが悪そうな表情を見せていた。

 マリンが助けを求めるように莉々華を見つめるが、苦い笑みを溢して諦めろと瞳で告げられてしまう。

 

「諦めてシオンちゃんに任せときなよ」

 

 シオンの隣から身を乗り出してぺこらがマリンの肩に手を置く。

 そのぺこらの態度を見ると莉々華の表情の苦味が増した。

 

「シオンちゃん。ぺこーらも付き添うよ」

「ん――ありがと」

 

 やはりそう転ぶ。

 ぺこらがシオンの護衛から離れるはずが無い。

 莉々華はらでんの言葉を心に宿して気を引き締め、真摯な顔でぺこらを見た。

 

「ぺこらさん」

「ん? どしたー?」

「――すみません。ぺこらさんはみこさんの相手をお願いしたいんです」

「んぁ⁉︎ んやいや! おかしいぺこだろ、それは!」

 

 絶望的すぎるマッチング想定にぺこらが発狂した。

 莉々華は慌てて言葉を足す。

 

「あああすみません! 1対1じゃないです! まだ細かくは決まってませんが奏とはじめ、それからアキロゼさんと莉々華もみこさんの相手に回ります」

「――いや! それでもっ‼︎ ぺこーらはいらんだろ‼︎」

「いえ、あなたが必要なんです。だからすみませんがぺこらさんは莉々華たちと行動してもらいます」

「――‼︎」

 

 ぺこらが懸命にシオンに付き添おうと反発するが莉々華は断じて譲らない。

 我儘が一切通じずぺこらは怯んだ。

 言葉に詰まり苦し紛れにシオンを見つめると可愛く優しく微笑んでくれる。

 

「ありがとぺこちゃん」

「ぅっ……」

「あくあとの約束をずっ――と大事にしてくれて」

「…………」

「ぺこちゃんが居てくれたからシオンはここまで生きてこれた」

「……怖いこと言わないでよ」

「ぇっへへ……ごめん。でも――大丈夫だよ! シオンは大丈夫だから!」

 

 向かい合って見惚れた可愛さにうっとりした。

 いつまでも鈍感なシオンの親切心にもっと心打たれる。

 だがその言葉の不穏さがぺこらを安心させてくれない。

 

「…………」

 

 でも――ぺこらはいつだってシオンの意思を尊重する。

 シオンの容姿がどれだけ幼く愛くるしいとしても、10数年の人生を歩んで来ている――立派な大人だ。

 

「分かったよ……」

 

 シオンの可愛さに屈したぺこらは観念したように肩を落としてシオンの銀髪を撫でた。

 莉々華は「ふぅー」と大きく息を吐いて気持ちを整理した。

 

「ありがとうございます、ぺこらさん」

「――ん」

 

 莉々華の謝礼にぺこらは一拍置いて普段と何ら変わらない相槌を打った。

 

「最後に――青さん」

「ん? 僕?」

「今回は青さんにも参戦してもらいたいの」

「――――っ」

 

 一段と引き締まった莉々華の様相に青は絶句した。

 どうやら本気のようだ。

 ごくりと唾を飲みこむ。

 

「絶対に無理はさせないから――莉々華を信じて付き合ってほしい」

「――いいよ。その告白を僕が断るわけにはいかないし」

「――」

「莉々華ちゃん『と』付き合ってあげるよ」

「ありがとう。詳細は明日追って伝える」

「りょーかい」

 

 らでんとぺこらには及ばないが、中々に目を見張る意思疎通の迅速さ。

 素早く話が片付いて莉々華はねねとラミィに視線を送った。

 

「因みに、少々酷ですがお2人にはマリンさんと一緒に尾丸ポルカと姫森ルーナを相手してもらうつもりです」

「「…………」」

「よろしいでしょうか」

 

 ねねとラミィは揺らぐ双眸を向け合った。

 トワとすいせいに視線をずらすと二人は覚悟を決めた顔で頷いてくれる。

 

「「……はい」」

 

 莉々華に視線を返し、ねねとラミィも勇気を持って首を縦に振る。

 マリンを一瞥したがこの采配に文句は無いようだ。

 

「ボクやあやめちゃんはどうなるの?」

「はい。状況次第で変更はかかりそうですが、ロボ子さんはわためさん、あやめさんにはフブキさんの相手をお願いすると思います」

「なるほど。おーけい」

「――」

 

 大方その通りになるだろう。

 

「今日の会議は以上です。今日中に細かく策を練って明日の移動時、皆さんに伝達します」

 

 莉々華は声を大にして話を締め括る。

 

「明日は早めに出発します。皆さんはしっかり寝て明日に備えてください」

 

 数名が大きな声で返事をした。

 あまり一体感は無いが、気力は十分。

 

「それでは解散です」

 

 会議の終了が告げられ一部の者たちがリビングから散ってゆく。

 

 

 莉々華は会議終了宣言後いきなりロボ子を呼び止めた。

 

「ロボ子さん、一ついいですか」

「うん。どうしたの?」

「作ってもらいたいものがあるんです」

「作ってもらいたいもの? なぁに?」

 

 莉々華はある機材の制作をロボ子に依頼したのだった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 金曜の朝。

 誰1人寝坊することなく大半の支度を終えている。

 

 全員が必要なものを揃え、一部は莉々華の指示に従い装備品を整える。

 

 既に張り詰めた空気が漂っていた。

 

「ばんちょー、外出よ」

「うぃゃ」

 

 奏がはじめの手を引いて最後の外出確認を行いに玄関へ。

 

 マリンが銃の手入れを済ませて懐に仕舞うと、ポケットから厳重に袋詰めされた羽を取り出して胸元で宝物のように握る。

 

 あやめは縁側で刀の手入れを済ませ、物静かに天を見上げている。

 

 すいせいは全身の包帯を剥ぎ捨てて身体の状態を確かめる。

 それをトワが不安げに眺めている。

 その間近で震えるねねにラミィが手を添えるが、いつまでも震えは止まらない。

 

 ロボ子が異空間の工房からリビングに帰還する。

 

 アキロゼは心を落ち着ける為、1人静かに瞑想している。

 

 青は洗面所の鏡の前に立ち、出発の寸前まで己の美を磨いている。

 

「ぺこちゃん」

「ん?」

 

 シオンが緊張した面持ちでぺこらに握った片手を差し出した。

 ぺこらが右手を広げて同様に差し出すとその上にある物を置く。

 

「髪、結んでくれない?」

 

 ぺこらの手のひらにちょんと乗ったのは、あくあのヘアリボンとヘアゴムだった。

 シオンが食卓の椅子に行儀良く座ってぺこらに背を向ける。

 

「ツインテールにしてほしい」

「――うん」

 

 あくあのヘアリボンをぐっと握り締めると、シオンの銀髪を繊細に撫でて持ち上げた。

 鼻先を寄せて香りを嗅ぐとAZKi宅で使用されているシャンプーの香りに紛れて「紫咲シオン」の香りが漂ってくる。

 シオンの香りに酔いながら手際良く、でも敢えて時間を掛けてシオンの銀髪を結った。

 

 

「はい――できたよ」

「――、――」

 

 右手で右のテールを、左手で左のテールを撫でる。

 右側にあくあのリボンが使用されていた。

 くるりとツインテールを回して振り返り、眼前のぺこらを上目遣いに見つめる。

 

「似合ってる……?」

「うん――世界一」

 

 

 

 玄関の扉が開き――車の点検を終えた莉々華とAZKi、そして外出確認を終えたはじめと奏がリビングに戻ってきた。

 

「皆さん準備は出来ましたか?」

 

 果てしない緊張感の漂うリビングに一同が集結する。

 

「持つべき物も、持ちましたね?」

 

 全員を丁寧に見渡して、最後に奏によくよく確認する。

 奏もポケットを優しく叩いて豪快にピースサインを莉々華に突きつけた。

 

「では――出発します」

 

 

 ふたつの車に分かれて乗り込みAZKiと莉々華の運転の下、聖域の近場へと一同は足を運ぶ。

 刻々と迫り来る――最後の戦いに向けて――。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 17時の15分前――とある村のノエル宅。

 

「んょっし、じゃああたし行ってくるね」

「うん……気を付けてね」

「大丈夫。あたしは死なないから」

 

 玄関までフレアに付き添い、ぎりぎりまでその背を見届ける。

 フレアが不意に振り向いてノエルに最後に強く釘を刺した。

 

「いーいノエちゃん、くれぐれも危険な真似はしないでよ。聖域にも来ちゃダメだからね!」

「……うん……分かっとるよ」

「絶対だよ⁉︎」

「……うん」

 

 ここまで釘を刺したが、もうノエルの足では間に合わない。

 どれだけ頑張ってもここから聖域まで2時間はかかる。

 2時間あれば決着をつけてフレアが帰還する余裕まである。

 たとえ誰かが今から車を飛ばしたとしても、道路の難解さもあり1時間ではつけないだろう。

 それに万が一に備えてみこにも保険はかけておいた。

 

 だからノエルの力無い返事も最早心配にはならい。

 

「戦いが終わったらさ、二人一緒にここで静かに暮らそうよ。楽しく、長閑に」

 

 フレアがニッと太陽のように笑った。

 忘れられない笑顔だ。

 ノエルも穏やかに微笑みを返す。

 

「うん。いってらっしゃい」

「ん、行ってきます」

 

 玄関を出るとフレアは四肢の先を発火させ、その爆発のエンジンで空高く飛び上がる。

 薄暗い空に浮かぶフレアが沈んでゆく夕日に照らされる。

 

 フレアは直角に方向転換して一直線に聖域目掛けて飛翔していった。

 その明かりは瞬く間に目で捉えられなくなる。

 

 ノエルはフレアを見送った後潔く家に戻った。

 本心では莉々華の声に応えて多少の加勢はしたい。

 しかし今から足を運んでも手遅れだ。

 だからフレアの言い付け通り、静かにここでフレアの帰宅を待つ事にする。

 

 玄関の鍵をかけて夕食後の食器の片付けに手をつけ始めた。

 

 

 ぴんぽーん。

 

 

「……え? 何……?」

 

 不意に響くインターホンの音。

 近頃この音は莉々華やその周辺の人物が訪れた時の合図と化している為、自然と莉々華を連想した。

 だが莉々華がこの時間に訪れるとは思えない。

 

「……」

 

 備え付けのカメラから来訪者の姿を確認しようとしたが、脳天の小さなアホ毛がちらりと見えるだけ。

 加えて大きく奇妙な角が生えていることも判明したが、その角さえ記憶に無い。

 ノエルは通話ボタンを押した。

 

「はい……」

「白銀ノエルさんっすね。迎えに来ました」

「ぇ……? 迎え……?」

 

 ノエルはそんな依頼を出していない。

 莉々華の差金であることは容易に想像がついた。

 

 

「早く行きますよ――――聖域へ」

 

 

 




 幾つもの想いを背負って彼女たちは戦う。
 それぞれの思いの衝突の先に待ち受ける結末とは――。
 これこそが彼女たちの運命だ。

 次回、最終章「天命の乱」


 *****


 次章でついに最終章となります。
 ここまでの到達に1年以上掛かりましたが、もう間も無く完結ですので是非最後までお付き合いください。
 最終章でだれたりする予定もありません。執筆が進めばサクサクと進むでしょう。
 ラストバトルは見所なのでお楽しみに。

 最後に少しだけ……。
 完結後、若しくは今からもう一度最初から読み返してみると意外な発見があるかも知れません。もし時間と興味がある方は是非。
 様々なところに色々仕掛けてありますが、私個人のお気に入りは「叡智の書①」で前回のアレが……

 はい。
 最終回前の作者の自我はこの程度にしておきます。
 それではまた次回以降!
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