守り狐の魔法少女   作:百合書きたい

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1. 出会い

 山本にとって魔法少女は当たり前の現実だった。

 

 世の中にはなんだか真っ黒でどろどろした怪物がいて、時折現れては人々を食べてしまう。それを防ぐために、怪物を倒す魔法少女がいる。

 

 小学一年で実際に人が食べられるのを目撃する前からそのことを知っており、人の死によるショックによって覚醒し、初めて魔法少女として変身できたときも、乳歯が生え変わるのと同じくらい当たり前の感覚だった。女の子はいずれ魔法少女になるものだと、そう思っていた。

 

 しかし親や同級生に「魔法少女ってたいへんなんだよ」と愚痴をこぼしても、架空の話と受け取られる。どんなに真剣に訴えても同じで、山本の剣幕に同級生は困惑し、親は面倒な子供の悪ふざけと耳を塞いだ。

 

 人を襲う化け物は一般人には認識できず、犠牲者は行方不明者あるいは身元不明の肉片として処理される。魔法少女はひとたび変身すれば圧倒的な身体能力と不可思議な魔法の力を使えるが、人には見えず、触れることもできなくなる。

 

 そういった制約を理解できた頃にはすでに遅く、山本は子供にしたってしつこいほどの妄言をたれ流す変人として周囲から距離を置かれた。家庭では父親の連れ子で厄介者扱いだったこともあり、奇妙な子供として疎まれ、山本は学校でも家でも一人で過ごすことが多くなった。

 

 最初は辛くなかった。自分は普通とは違う特別な子なのだという優越感は幼い心を浮つかせ、毎日変身しては魔法の練習に明け暮れた。やればやるほど上達し、およそ週に一度現れる怪物にも、初戦から余裕をもって勝利できた。人々を守る達成感、使命感も相まって、山本は友達ゼロ人のまま充実した魔法少女生活を送っていた。

 

 しかし間もなく戦いの中でケガを負い、山本は甘い認識を改めざるを得なくなった。

 

 きっかけはちょっとした油断だ。いつものように怪物が現れた気配を感知し、現場となる学校へ急行。学校は中高問わずなぜか怪物が現れやすい。

 

 問答無用で倒しにかかるのが山本のやり方だったが、度重なる楽勝に気が大きくなって、ついつい前口上と技名を披露したのだ。まるでアニメに出てくる魔法少女たちがするように。

 

 結果、無駄な動きをしている間に不意打ちを食らった。セリフの間は自分に酔っていたこともあり、回避もできず直撃。そのときは大して痛みを感じず、邪魔されたのにむくれてあっさりと怪物を倒した。

 

 だが油断の代償は後からやってきた。変身を解除して普通の少女に戻ったとたん、立っていられないほどのすさまじい痛みに襲われたのだ。痛みの発生個所は怪物の攻撃を受けたところを中心としていて、山本は丸一日自室のベッドから動けず、その後三日にわたって鈍痛が続き、蒼白な顔に冷や汗を浮かべ、猫背になって過ごすことを余儀なくされた。同級生たちは心配よりも不信感をあらわに、露骨に山本を避け、親は山本を疫病神扱いして不在がちだった。

 

 痛くて苦しくて辛いとき、寄り添ってくれる人は誰もいない。そう理解した山本は、とても泣きたくなった。泣いても痛みは消えないから、泣かなかったけれど。

 

 その出来事をきっかけに、魔法少女への向き合い方を覚えた。痛みはときに薬となる。怪物と戦って人々を守るのは立派だが、少しでも油断すれば自分が辛い思いをすることになる。ふざけている場合ではないのだ。

 

 そうして一層孤独に、真剣に修練と実戦の日々を送って三年。

 

 浴室の鏡に映った古傷だらけの痩せた体を前に、山本はふと思ってしまった。

 

「別に私ががんばらなくても良くない?」

 

 誰かに戦えと言われたわけではない。感謝されるでもなく、傷を隠すため包帯と絆創膏まみれの山本はむしろ奇異の目を集める。そんな思いをしてまで人々を守りたいかと考えると、答えは否だった。

 

 なんとなく魔法少女とはそういうものだから。根拠のない思い込みで戦っていた山本は、夢から覚めたように戦いを捨てた。怪物の気配を感じても駆けつけることなく知らんぷり。そのせいか町では行方不明者が増え、そのことにもやもやしたりもしたけれど、戦意は湧いてこない。山本は疲れていた。

 

 そうして戦いを放棄した山本に転機が訪れたのは、小学五年の春のことだった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「初めまして、一木(いちぎ)千惟(ちい)です。両親の都合でこの春に転校してきました。念のため言っときますけど、『上から読んでも下から読んでも』とか『新聞紙の同類』とかいじられたら拳が出ます。よろしくお願いします」

 

 その経験があるのだろう。凄みのある笑顔で自己紹介したのは、山本はおろかクラスの誰も目にしたことがないほどの美少女だった。教室に差し込む陽光を、さらりとした黒髪が照り返す。シンプルなボブカットに縁取られた小顔は、幼いながらも目鼻立ちが綺麗に整っている。大粒の丸い瞳は子猫のようだ。

 

 一木千惟。容姿だけでなく、注目を集めながらも堂々と背筋を伸ばしたその立ち姿に、クラスメイトたちは呆気に取られていた。

 

「あれ、半分は冗談ですよ? そんなにびびらなくても」

 

 こてん、と首を傾げる一木。そこでようやく緊張が解け、クラスの誰かがくすりと笑いを漏らした。

 

 黒板の脇に控えていた教師が口を挟む。

 

「学校や町のことで分からないことも多いだろう。みんな優しくしてやってくれ。一木、席はあそこな」

 

 一木の座席は窓際最後列。廊下側最後列の山本とは正反対だ。

 

 一木は休み時間になると瞬く間に人に囲まれ、質問攻めにあっていた。どこ住みから始まって趣味や親の仕事のこと。はきはきと物を言う性格で、質問がひと段落した頃にはもう友だちができたのか、クラスで人気者な少年少女たちと親し気に話すようになった。

 

 山本にとってはすべて他人事だ。びっくりするほどかわいい美少女転入生が、順当にクラスになじみ、人気者になった。無口な変人としての地位を確固たるものとした山本にはまったく縁がない。

 

 その認識は転校初日、覆されることになる。

 

「いやいや、名前いじり自体は別にいいんですよ。でも前の学校の男子はしつこかったんです。いちいちからかいの体をとらなきゃ人と話せないのかって」

「その子、一木さんのこと好きだったんじゃない?」

「好きな相手にダル絡みはしないでしょう」

 

 放課後の教室。一木とクラスメイトたちが話しているのを、山本はぼんやり聞いていた。

 

 戦うのを辞めて以来、山本は終礼後も教室でぼうっとすることが多くなっていた。家に帰ってもやることがなく、戦いの他にできることもやりたいこともない。

 

 かといってずっと呆けていたって何も思いつかない。

 

 気だるげに立ち上がり、ランドセルを肩に引っ掛け──瞬間、悪寒を覚えた。

 

「あ」

 

 思わず声が出る。それは近所に怪物が出たとき特有のもので、小学一年の頃から慣れ親しんだ感覚だ。

 

 なのについ声を出したのは、感覚の発生源、つまり怪物がかつてないほど近くに感じられたから。

 

 感覚が示す方向に顔を向けると、一木千惟とクラスメイトたちが窓際で屯していた。その後ろ、窓の外側から黒い塊がせり上がってくる。

 

 光を反射せず、空間に穴が空いたように黒い粘性の怪物。その見た目から山本が「ヘドロ」と呼んでいる怪物が、窓から教室にずるりと入り込んできた。

 

 ヘドロは汚泥のような体を蠢かせ、ゆっくりと一木とクラスメイトの方へ近づいていく。一木たちは気づいた様子もなく雑談を続けている。

 

 やがてヘドロの体は横一文字に裂け、人一人を軽く呑み込める(あぎと)と化す。これが閉じれば、彼女たちの体は怪物に呑み込まれ、幸運であればわずかな肉片が後に発見されるだろう。山本が戦いを辞めてから、幾度も見過ごしてきたことだ。

 

 ただし、それは手の届かないどこかでの話。

 

「どっか別のとこでやってよ、もうっ!」

 

 目の前で発生しかけている被害を見過ごせるほど、山本は冷酷ではなかった。

 

 荷物を放り出し、胸に手を当てて手早く変身。衣装はぴっちりしたハイレグのような黒のインナー、白のケープ、下は黒のサイハイブーツ。茶色がかった黒髪はケープと同じ白に染まり、大きなキツネ耳がぴょこんと飛び出し、尾てい骨のあたりからもふもふの尻尾が生える。低学年の頃に見た、動物をモチーフとした魔法少女アニメが参考になっている。

 

 変身すると不可思議な力が総身に漲る。魔力と呼ぶそのエネルギーを両手に集め、刃渡り五十センチの刃状に固定。白く輝く双刃を手に、山本は教室の床を強く蹴る。

 

 直線の軌道でヘドロに迫り、瞬く間に間合いに捉えた。すれ違いざま、双刃が閃く。練習と実戦で鍛えられた我流剣技だ。

 

 細切れにされたヘドロが、塵になって消えていく。そのすぐ横で他愛ない話題に興じる一木たち。

 

 山本は勢い余って窓の外に投げ出され、落下の最中にその様子を眺めながら、

 

「あ、ランドセル教室だ……」

 

 面倒くさそうにため息をついて、難なく着地するのだった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

 魔法少女の活動は辛い。山本は数年の経験で身に染みており、目の前で誰かが襲われるような状況でなければもう戦わないつもりだった。そんな状況は交通事故に遭遇するくらい稀であり、一木たちを助けたのも稀有な例外。二度と起こらないはず、と考えた。

 

 が、山本の思惑はことごとく外れる。

 

「だーかーらー! 知らんところで襲われろっつってんの!」

 

 一木の転入翌日、またも学校に怪物が出た。場所は同じく教室。さっさと帰ろうとしていた山本は気配を察知するやいなや教室へ引き返し、キレ気味にヘドロを切り刻んだ。

 

 翌日。今度は帰りの通学路に怪物が出た。怪物を感知する範囲はそう広くなく、魔法少女の膂力なら数秒で駆けつけられる程度の距離だ。その距離を走破すると、やはり狙われていたのは一木だった。他のクラスメイトとは別れ一人で帰途についていた。

 

「なんかフェロモンでも出してんのか、ああん!?」

 

 背後から顎を開いて迫るヘドロを切り飛ばしつつ、山本は一木に八つ当たりした。変身中は不可視のため、一木はどこ吹く風でとことこ歩くだけだ。釈然としないまま、山本は肩を落として帰宅するほかなかった。

 

 翌日、やはり一木は怪物に襲われていた。

 

 その翌日、また翌日。一木は襲われ、山本は戦った。

 

 ここにきて山本はやっと頭を働かせる気になった。

 

 なぜ一木ばかりがこうも狙われるのか? そもそも怪物や魔法少女はどういった関係で、どこから発生しているのか?

 

「分からん……」

 

 途方に暮れた。山本はそんなに賢い女の子ではないのだ。

 

 分かっているのは、一木が襲われやすい体質であること。時間帯は夕方、放課後が多いこと。後者は本格的に魔法少女をやっていた頃から感じていたことで、怪物の出現はその時間帯に集中する。

 

 情報が足りない。相談できる誰かもいない。手の届く範囲でクラスメイトが食べられるのは看過できず、山本はなし崩しで一木を守るため毎日戦い続けた。

 

 幸運なのは、怪物の種類がもっとも弱い「ヘドロ」であったことだ。この種は鈍重かつ脆弱で、出会い頭に仕留めてしまえば反撃も受けない。おかげで余裕をもって一木を守ることができた。

 

 やがてその余裕は、一木に対する好奇心へと転じる。

 

「やけに人気者だな……美少女だからか?」

 

 一木はクラスのアイドルだった。外見は大きな理由だろう。ぱっちりした目元に整った顔立ち、すくすくと発育していくしなやかな肢体。絵に描いたような美少女を嫌う者はいない。

 

 能力も優れていた。テストはいつも満点か九割。運動神経に秀で、五十メートル走では校内一位の記録をたたき出していた。運動と勉強ができる生徒というのは、学校においてヒーローと同義であり、チヤホヤされるのは当然の成り行きだった。

 

 しかし、浅い。

 

 観察を続けるうち、山本は理解が浅いことを思い知った。

 

 美少女で運動と勉強ができる。それだけでも一木千惟は魅力的が、もっとも大きな美点は内面なのだ。

 

「好きな人、ですか? そういうのは中学入ってからで良くないですか。ややこしいし、面倒です」

「お、なんか経験ありそうな言い方」

「ありませんって。ただ、マンガとかドラマとか見てると、めんどくせーって思いません? 登場人物全員、誰かを愛さなきゃいけない呪いにでもかかってるみたいで、あんなの絶対私やりたくないですよ」

「たとえ面倒でも、好きになったらどうしようもない。恋ってそんなもんだよ」

「だったら誰も好きにならないのが正解でしょうね」

 

 物怖じせず、はきはき意見を言う。内容もなんだか達観しててかっこいい。クラスメイトたちは若干引いていたが。

 

「うぇーい!」

「……そういうノリ、私が嫌いなの知ってますよね?」

「やべー逃げろ!」

 

 男子グループの悪乗りに巻き込まれ、不意にお尻を叩かれたときには、野生の獣じみた目つきで下手人の男子を追い回し、腹パン。首謀者を割り出してこちらにも腹パンをお見舞いし、男子からは畏怖の目で、女子からは畏敬の目で見られていた。

 

「低学年じゃねぇんですから、もう少し考えて行動しなさい」

 

 そう吐き捨てる彼女は、幼い見た目に反して美しく、誰よりもきれいに見えた。

 

 一方、年相応にかわいらしい面もある。

 

 いつも通り山本は変身状態で一木の帰り道を護衛し、二体の怪物を瞬殺した。

 

 一木の自宅が近づいて、そろそろ引き上げようかというとき、

 

「にゃーん」

 

 一木が猫になった。聞いたことがないレベルの超絶猫撫で声だった。

 

 見ると、一木は屈みこんで一匹の白猫と向き合っている。

 

「ちいちゃんが帰ったぞ大五郎。ほれ、挨拶」

 

 鼻先に突き出した細い指。白猫の大五郎が鼻をつける。

 

 とたん、一木の顔はふにゃふにゃに相好を崩した。

 

「挨拶できて偉いにゃー! うにゃうにゃうにゃー!」

 

 うにゃうにゃ言いながら、大五郎の尻尾の付け根をとんとん叩く。大五郎は目を細め、前足を地に付けて尻だけを上に突き出すポーズを取った。

 

「あぁ~尻尾! 尻尾がピンと立ってるねぇ! 偉いねぇかわいいねぇ!」

 

 一木はもう片方の手で額をわしゃわしゃ撫でながら、もうひと様には見せられないほどの蕩けた笑顔になっている。悪ノリ男子に腹パンをかました怜悧な面影は、そこには欠片もない。

 

「えっ、かわいっ」

 

 不思議なときめきが山本の胸を駆け巡る。その日の夜は悶々としてなかなか寝付けなかった。

 

 そしてかっこいいエピソードの極めつけといえば、朝礼のあの事件だろう。

 

 週明けの全校朝礼。全児童が運動場に直立不動で並ばされ、校長の長話を聞かされる毎週のイベント。長時間日光の下に立たされるので、一人か二人は体調不良で座り込むのがお決まりになっている。

 

 その日の朝礼で犠牲になったとある女子は、疲労が溜まっていた。それに長話と日光が追い打ちをかけ、めまいと吐き気が同時に襲ってきたのだ。

 

「大丈夫ですか?」

 

 顔面蒼白でふらつく彼女に声をかけたのが、一つ後ろに並ぶ一木だった。

 

 その女子は力なく首を横に振り、

 

「気持ち悪い……」

 

 口を両手で覆い、猫背になる。

 

 一木は血相を変えて女子の背中をさすりながら、

 

「お手洗いまでがんばりましょう。先生! 体調不良なので失礼します」

「お、おう。大丈夫そうか?」

「おそらく無理かと」

 

 短いやり取りの後、一木と彼女が列を外れ、校舎に入る直前で事件は起こった。

 

 連日の戦闘で疲労のたまった女子──山本が堪えきれず、吐いた。

 

 両手で口を抑えていても、音とゲロは隠し切れない。背後の全生徒たちがざわめき、悲鳴が上がった。

 

 涙に滲んだ視界の中、山本は手から漏れ出したゲロが一木の服を汚すのを目撃して、どうしようもなく死にたくなる。

 

「ご、ごめんなさい……」

「悪いのはあなたじゃありません。朝礼とかいう拷問と、聞き手のことを何も考えてない大人たちです。あんなの新手の拷問ですよね」

 

 ばっさりと言ってのけた一木には、後光がさしているように見えた。

 

 衆目は無視し、汚れるのも気にしないで、一木は山本を支えて励ますような声を上げた。

 

「とりあえずトイレまで行きましょう。うがいして洗って保健室コースです」

 

 言った通り、一木は保健室まで介抱してくれた。肩を貸してくれる一木からは、柑橘系の中にほんのり線香の匂いを感じる。こんなに綺麗で清潔な人を汚すなんて、とベッドの上で自己嫌悪に耽った。

 

 しばらく後に教室へ戻ると、真っ先に一木が駆け寄ってきて、

 

「もう平気ですか?」

「う、うん。大丈夫」

「しんどくなったら我慢しない方がいいですよ。人は簡単に死ぬんです。余裕のあるうちに音を上げましょう」

 

 死。だしぬけな強い言葉に面食らう。

 

「そう、だね。ごめん、服、汚して」

「いえ、洗えば済みますから。とにかく、無理はしないでくださいね」

 

 話を切り上げ、背を向ける一木。

 

「い、一木さんっ!」

 

 思わず呼び止める山本。

 

 振り返った一木としっかり目を合わせ、伝える。

 

「ありがとう!」

「──どういたしまして」

 

 優しい微笑を返されて、山本はすっかり一木が好きになった。

 

 全校生徒の前で吐いた山本の扱いは、変わらず「クラスの目立たない、良く分からない子」のままだった。あの事件のことでからかわれることもない。ある程度覚悟していた山本だったが、これは一木の影響だった。校内一の人気者と言っていい一木千惟が優しく介抱した子をからかうなど、誰も考えなかったのだ。その理屈に思い至ったとき、山本はさらに一木を好きになった。

 

 その思いが恋愛感情かは分からない。

 

 一つ確かなのは、戦う理由が決まったこと。

 

 不特定多数を、理由もなくなんとなく守るのではない。目の前の惨劇をなし崩しで防ぐのでもない。

 

 ただ一人を自分の思いのためにのみ、確実に絶対に、何を犠牲にしてでも守り抜く覚悟が、山本の心に芽生えたのだ。

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