コトダマン~濁りし世界と半径1mの絆~ 作:Gisellektdmn
無音神、ムオンとの戦いが終わり平和になった世界
戦いで傷ついた者たちの傷も癒え、壊された建物なども復興され
全て元通り…いや、それ以上の平和が訪れた
…しかし、まだ気付いている者は少なかった
言霊界の平和を脅かす、新たなる脅威に
これは、世界を平和に導いた象徴、『光の子』とその一行が
次なる言霊界の危機、強大な力に立ち向かった物語である
「ふあぁ〜…」
大きなアクビをした少年。彼こそ言霊界と音言界、ふたつの世界を救いし新たな『光の子』、ユーキである。
「シャベルンダ村は今日も平和だな。」
『光の子』として少し忙しくなったユーキは、たまにこうして故郷の村へ帰り様子を見ると同時に休養に来ていた。いつもと変わらぬ自然の静けさに若干の人の賑わいのある、いつものシャベルンダ村だった。
「さて、知った顔に見つかる前に行こうかな。」
ここ最近は大きな事件も起きていなかったため、長居してもいいかなと少し思ってはいたものの、なんとなく嫌な気を察知してユーキは村を後にしようとした。だが、少し決断が遅かったようだ。
「おお!ユーキではないか!」
大きな声をあげて走って向かってきたのは、
村の長であるウタワレだった。ウタワレはユーキが村の出口から立ち塞がり、
「帰ってきたのなら声くらいかけてくれてもよかろう!」
と、明るく話しながらも少し眉をひそめながら責めた。
「各地回って疲れたからさ、ここくらいのんびりしたかったんだよ。みんなオレが帰ってきたと知ったら大々的にもてなそうとするだろ?」
「そりゃあそうじゃ、みーんなユーキのことが大好きじゃからのう。シノブなんか特に…おっと…」
「ん?シノブがどうかしたのか?」
「そ、そんなことよりユーキに会わせたい者たちがおるんじゃ。自警団の新入りの者達じゃが、お主への憧れが人一倍強い。挨拶しに行ってあげてくれんか?」
「ああ、手紙の…めんどくさいな…まぁいいけど。」
ユーキは渋々承諾した。なんとなくウタワレの思った通りに動かされているように感じたが、あまり気にせず自警団の本部へと向かった。
自警団の待機室に着くやいなや、見覚えのある顔があった。ユーキの幼馴染で、エンジニアのシノブだった。隣には彼女のサポートAIのウマクイクもいた。どうやら何かの開発に勤しんでいるようだった。
「こっちはこうでしょ?で、ここをこうするとこうできるけど、でもこの機能が…」
「シノブママ、そのパーツをここに付けるときっと上手くいく♪」
「なるほど!さすがウマクイク!じゃあそれあっちに置いてるから取って…」
シノブが機材を指そうと振り向いた瞬間、彼女の目に初めてユーキが映った。シノブは今まで持っていた道具を思いっきり投げ捨て、ユーキの元へ駆け寄る。
「ユーキ!!もー!!帰ってきてたんなら言ってよ!!」
シノブはユーキの肩をバシバシ叩きながら帰還を喜ぶ。
「…ウタワレにも似たようなこと言われたぞ。」
「え!?姐さんに似てきた?アタシにも箔が付いたのかなぁ!」
「そうだな…」
テンションの激しく上がったシノブを軽くあしらいつつも、ユーキはどこか温かな気持ちになった。
「お前も帰ってきてたんだな。元気そうでよかった。ところで自警団の新人って誰のことか分かるか?」
「え?新人?あの二人かな…ウマクイク、どこにいるか分かる?」
「イシンジさんとウィナスさんなら奥の訓練所で訓練中♪」
ウマクイクが教えてくれた訓練所の方を見ると、そこには確かに三人分の人影が見える。ユーキはその方向へ進んでいった。
ガキィン!
「ぐわっ!いってぇ!」
ユーキがよく見える位置まで着いた時には、少年の剣が弾き飛ばされる瞬間だった。剣を弾かれた少年こそ、シャベルンダ村自警団の新人の一人、イシンジである。戦闘訓練で思いっきり先輩のグラシャ恩に負けていた。ユーキはその新人二人の様子を見てみることにした。
「ふふ、ユーキ君の一番弟子になるにはまだまだ遠いね。」
「グラシャ恩さん、次、私と対戦お願います!」
もう一人の新人のウィナスも、イシンジの戦いぶりを見て奮起していた。グラシャ恩は前向きに頑張る二人を厳しく指導し、さらに自分も二人のやる気に感化もされていた。
キィン…!
ウィナスの剣は持っていた腕ごと大きく逸らされた。
「きゃあっ!」
攻撃を弾かれた反動そのままにウィナスは腰をつき、そこにグラシャ恩が切っ先を彼女の顔に向け、勝敗は決した。
「よお、精が出るなお前ら。」
一通り練習試合が終わったところを見計らい、ユーキは声をかけた。イシンジとウィナスは息遣いが荒いまま声の方向を向くと、そこには憧れの人がいた。二人はさっきまでバテていたはずなのに、剣を投げ捨てユーキに突撃する。
「ユーキさんですよね!お噂は兼ね兼ね…」
「だぁ!まどろっこしい!ユーキ!弟子にしてくれ!」
「ユーキ君、帰ってたんですね。」
三者三様に喋り出す光景に、ユーキはやっぱりなと呆れた顔をした。
「お前らがウタワレの言ってた自警団の新人か。元気だな。」
「元気だ!弟子にしてくれ!」
「イシンジ、ちょっと黙ってて。」
「ふふ、おかげで退屈しないよ。」
「そうか、自警団頑張れよ。じゃあ挨拶はすんだしオレはこの辺で…」
帰ろうとしたユーキの腕をグラシャ恩が掴む。
「ユーキ君、ちょっと運動していかない?」
「いや、オレ結構『光の子』として忙しいから…」
「自警団頑張ってって言ったよね?新人の成長のためにも、戦い方を見せて貰えないかな?」
「でも、言っちゃ悪いがお前たち相手だと一方的な戦いになってしまうぞ?」
実力差を言い訳に手合わせを拒否しようとしたユーキだったが、
「大丈夫!アタシに任せて!」
颯爽と登場したのはシノブだった。そして何か等身大くらいの大きなモノを抱えていた。そのままユーキたちの元へ歩いてきて、近くにそれを置いた。
「なんだこれ…」
それはブリキのカカシのようなものだったが、手に剣と盾を携えていた。
「戦闘訓練用カカシ!姐さんに依頼されて作ってたの!」
「だからシャベルンダ村にいたのか。ウタワレのやつ、もしかしてわざと…」
「これ、まだ試作品なんだけど、試してみてくれない?これなら誰も傷つかないしいいでしょ?ユーキ!」
シノブがいつもの元気でゴリ押ししてくる。
「しょうがないな…壊しても知らないぞ?」
やれやれといった様子で、ユーキは剣を構えるのだった。
「とりあえず強さを設定するね。『破滅級』っと…」
「…なんかすごい物騒な難易度が聞こえたんだが、ユーキは大丈夫なのか?」
「ユーキさんの剣技を拝めるなんて、いい機会だわ。しっかり観察しないと。」
イシンジたちは距離を取って観察の姿勢に入る。シノブが難易度を調節している少しの間、機械の音以外ない沈黙が訪れた。
ガコン!ウィーン…
「よし!いいよユーキ。このカカシに向かって攻撃を叩き込んで。カカシも状況に応じて色んな動きをするからね。」
「よし、行くぞ!」
そう言うと同時に、ユーキはカカシに距離を詰め斬り掛かる。カカシはそれを盾で防ぎ、カウンターとばかりにユーキを斬ろうとする。ユーキはそれをかわし、カカシの横っ腹に思い切り剣を叩き込んだ。
「すげぇ…」
「これが英雄の戦い方…」
イシンジもウィナスも、まばたきも忘れるほどユーキの戦いを見守っていた。あらゆる攻撃をするカカシに、ユーキがいなし、かわし、攻撃する。
「ユーキ、ここのところ平和だしちょっと鈍ってるかなとも思ったけど、余計な心配だったね。」
「惚れ直した?」
「うん、惚れな…ななななな!?」
見守るシノブにグラシャ恩が揺さぶりをかけていた。そんな乙女の会話のこともつゆ知らず、ユーキはカカシと激闘する。
しばらくの攻防を重ねた後、
「うらぁ!」
ユーキの渾身の一撃がカカシに当たり、それによりカカシは動きを止めた。
「一定量ダメージが入ったから、止まったね。」
「お?もういいのか?なかなかいい運動になったな。」
ユーキはふーっと深呼吸しながら剣を収めた。
「すっごかったな、ユーキ…」
「うん…」
世界を救った英雄の剣技に見惚れ、複雑な思考ができず素直な感想が自然に出たイシンジとウィナスだった。
「シノブ、訓練用のカカシにここまでの難易度はいらないんじゃないか?普通に何回か危なかったぞ。」
「姐さんに、ユーキでも手こずるくらいの難易度まで追加してって頼まれたんだもん。村の英雄に憧れてる二人のためにって。」
「うーん、それならいいか。」
二人の相談する時間を少し挟んだ後、夕方を知らせる時報が鳴った。
「もう夕方か…今日は泊まるか。」
ユーキがそう呟いた瞬間だった。ウマクイクが高速で飛んできて
「宿屋の部屋を予約しておきました♪ウタワレ村長の奢りだそうなので、皆さんで宿泊なされてください♪」
と、明らかに示し合わせていたようなタイミングで泊まる場所の確保を通達してきた。
「いや、オレは自分の家で寝るから…」
「パーティの準備もしてるので、主役のユーキさんがいないと上手くいかない…」
「うっ…分かったよ。行けばいいんだな。」
完全に逃げ場を防がれたユーキは、渋々みんなと宿屋へ迎った。
村のみんなに帰還を祝われ、散々持て囃されたユーキは嬉しくはあったものの、カカシと戦った時より疲労感を覚え、その夜はとてもよく眠れたらしい。
───これが新たな異変の幕開け前の最後の安息だったとは、この時は誰も思いもしなかった。