【本編完結】黒く濁った罪を背負って   作:RH−

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 連載中の一次の息抜きがてら書いてたらいつの間にかそこそこの量になってたので、これも投げようと思います。基本書きたい物を書いてるだけなんで偉大なる先輩方のような凝った展開や緻密な設定は期待しないでください。
 それと、いろんな個所から偉大なる諸先輩方の影響が散見されるかと思いますが……設定自体は一応全てオリジナルで組んでおります。

.24/04/11 追記:閲覧設定で文章整形を「有り」にしていると、特殊タグで入れた演出が機能しなくなってるみたいです。できれば今話だけでもチェックを外してから読んでいただければ幸いです……。


前日譚 / とある可能性の幕開け
始めまして、青く透き通った世界


 視界一面に広がる炎。

 煤に覆われ一酸化炭素を吸い過ぎた身体は遅々として進まず、視界も端の方はぼやけ始めた。まあたとえ意識がはっきりしていたとしても、崩れてきた柱のせいで右足を負傷しているからまともに動けるとは思えないんだけど。

 こんな所で実家の広さを恨む日が来ようとは。一人だけ留守番して惰眠を貪っていたのがマズかったのだろうか。

 

 …………ああ、ダメだ。脳が生存を諦めたのか、思考がまとまらなくなってきた。

 家族は巻き込まれていないだろうか。もっと親孝行しておけば。どうしてこんなことに。模試の結果もようやく安定してきたのに。あ、でも受験せずにいられるのはちょっといいかも。

 

 今現在に関係があるようでない事ばかりが浮かんでは消えていく。始めの頃は意識を苛んでいた右足の激痛も、肺の息苦しさも薄れ、ただぼんやりと「これが死ぬことなんだ」と理解してしまう。

 

 火事のさなかで暑いはずなのに、どうしようもなく寒い。痛くて苦しいはずなのに、何も感じない。楽で、心地よくて、そしてそれが何よりも恐ろしい。

 

 …………ああ、嫌だなあ。でも、もう本当にダメそうだ。

 

 地面に這いつくばって死ぬのなら、せめてうつ伏せじゃなく空を見て死にたい。そう思って仰向けになった俺の視界に映ったのは、焼け落ちて降り注ぐ黒々とした天井の梁で────

 

 

 

 

 

 

 暗転

 

 極彩色

 

 接触

 

 見ている。見られている。近寄られる。

 

 入り込む。入ってくる。

 

 入ってく────────

 

 

 

 

 

 

 

「…………ッ!! ハッ、ハッ、ハッ……」

 

 あれ? ここは!?

 気付けばどこかの廃ビルらしき建物の中に俺はいた。

 

 落ち着け。まずは記憶を整理するんだ。俺の名は薪浪(まきなみ) 彩土(あやと)、全寮制の高校に通う高校二年生。冬休みで実家に帰省していて、いつの間にかその実家が火事になっていて……。

 

 うん、やっぱり死んだよな。あの痛みも暑さも苦しさも、寒さも気持ち悪い心地よさも夢だったとは到底考えられない。思い出すだけで体が震え、指先の感覚が薄れてくる。

 やめやめ、これ以上あの時の事を思い出すのは恐ろしすぎる。

 

 しかし……となると、ここは所謂死後の世界というやつなのだろうか。でも廃ビルのある死後の世界ってのもイメージと違うような。

 こうなったらやはり一度周囲を探索するべきか。幸いというべきか、トイレにあった鏡の残骸で確認した俺の姿は火事に巻き込まれる前のままであったため、屋外に居ても別段違和感のあるものではない。

 何はともあれ、まずはとにかく他の人を探すべきかと廃ビルの外へ俺は足を踏み出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 …………なぜ? どうして? Why?

 

 あの後数時間ほど歩き回って、おそらく大通りらしき場所を遠目に見つけた俺の脳内では、疑問符が踊っていた。踊ってない夜を知らない無名の司祭とタメを張れそうなぐらいには踊り狂っていた。*1

 

 オーケイ、一旦落ち着こう。

 まず、俺の視界の先には他の人間……人間なのか? まあとにかく少女の姿を取り、頭上に天使のわっかのようなモノを浮かべ、銃を片手におそらく通学している子どもたちや、その子らに挨拶するロボットやけもけもした獣人の方々が。そして極めつけに、視界の端のガードレールには『アビドス道路管理局』の文字が。

 

 

 

 

 どうやら俺は死後の世界ではなくブルアカ世界、つまりキヴォトスに転移? 転生? したらしい。

 

 …………なんで?

 

 

 

 

 

 

 

 俺が生きていた世界にはブルーアーカイブというソシャゲがあった。ジャンルは日常で奇跡を見つけるRPG、透き通る()ような世界観と共に見目麗しい美少女たちが青春の物語(Blue Archive)を送るゲームである。

 プレイヤーはそんな少女たちを教え導く『先生』として、生徒たちと共に数々の苦難を乗り越えていく。

 

 ここまで聞けば何の問題も無いように思えるが、話はここからなのだ。

 

 まずこのキヴォトスという舞台、死ぬほど物騒なのである。

 さっき見たように生徒がゴツイ銃を持つのは当たり前。民間人である獣人ニキネキも護身として手榴弾を携帯しており、それを取り締まればむしろ横暴だと罵られるような世界観なのである。

 生徒たちはヘイローと呼ばれる頭上の光輪による加護? で護られているため銃で撃たれても怪我で済むからか、ちょっとしたケンカがすぐに銃撃戦にまで発展するし、主要キャラがナチュラルに銀行強盗を行おうとしたりもする。その様からきららGTAなどと呼ばれる始末である。

 

 

 そして何よりもこの世界、厄ネタが転がり過ぎてて簡単に滅びかねないのだ。

 

 本編においてプレイヤーは先生として活動するとさっき語ったが、その先生がしくじると世界が終わる場面というのが軽く思い出すだけで3つも4つも出てくる。なんならその先生自体がキヴォトスが滅びるたびに最初からやり直しているというループ説が提唱されていたぐらいだ。

 

 さらに言えば、たとえ世界が終わらずとも失敗ルートでは生徒たちが死ぬほど酷い目に遭うことが確定している。

 

 それも、肉体は生きたまま自我を喪失して死亡するとか、一緒に生活した仲間を殺すことになるだとか、敬愛する上司であり大切な友達でもある人が死んでしまうとか、友達二人を手にかけたうえ魔女と蔑まれるようになるだとか、現実に絶望して自殺するだとか、大切な人の身代わりとして生贄になって死ぬだとか、とにかく無駄にバリエーション豊かな方法でだ。

 

 

 ちなみにそんな終着点に到らないように奔走する先生も、意識不明の重体になって生死の境を100日以上彷徨った挙句死亡し、それでもなお生徒のために責任を負おうとしたりもする。

 

 そう、全体的に労しいのだ。本編は成功したルートであるため隠されているが、蓋を開ければこの通り。一歩間違えるだけでとにかく後味の悪いバッドエンドに直行する。

 

 

 そんな世界に転移する、それもヘイローも無い男の体で。これでどうしろと言うのだろうか。むしろ気が触れて踊り狂わなかっただけ褒めてほしいぐらいだ。

 

 とはいえ興奮していないわけじゃない。

 こんな風に語れるぐらいにはメインストーリーは読み込んでいたし、そのぐらいにはブルーアーカイブというゲームに夢中になっていた。生徒たちが頑張る姿に胸を打たれたり、先生が『大人』として責任を果たす姿に憧れたことも一度や二度じゃない。

 だから喜んでる自分がいるのは事実だ。

 

 事実なんだが……じゃあどうしようという話だ。せめて生徒として転生していたならばやりようもあったが、ここには────あの時俺が死んだのかは分からないが────前世のままの肉体しかない。銃弾が当たろうものなら一発で致命傷だ。

 というかそもそも身分を証明する物が無い。このままでは生きて明日を迎えることができるかすら怪しいだろう。

 

 なんならすでに歩くのが辛い。砂漠にほど近い位置に存在するアビドス自治区に転移したせいか、喉がカラカラだし、段々と意識が朦朧としてきた気がする。おかえりこの感覚、できれば二度と味わいたくなかったよ。

 

「のわっ!」

 

 足元の注意が疎かになっていたようで、石につまずいて転んでしまった。そしてそれが決定打になったのか、視界が暗くなり始める。

 

 ああ、せっかくブルアカ世界に転移したってのに、俺は脱水症状で死亡するのか。まだ一人も原作キャラに会えてないのに。

 

「おい、兄ちゃん! 大丈夫か!? くそっ、ダメだ。返事が────────」

 

 呼びかける声が聞こえる気がする。誰かは知らないが、嫌なもん見せちゃうな……。ごめ、ん。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………知らない天井だ」

「おう、目が覚めたか。道端で倒れてるの見たときは肝が冷えたぜ。ほれ、水だ。塩をちょっと混ぜてるからしょっぱいかもしれねえが……まあ、ゆっくり飲みな」

 

 フィクションでお決まりのセリフに答えたのは、小麦色の毛色をした犬の姿の獣人だった。ただしその右目と左の頬には傷が付いており、口には煙管を咥えている。

 

 アビドスで、この風貌で、わざわざ見ず知らずの俺を運び込む人情味あふれる獣人。間違いなく柴関ラーメンの大将だろう。

 

「すいません、助けて頂いたようで。えっと……」

「柴だ。ラーメン屋を経営してる、しがない大人さ」

 

 やっぱり。

 

「あ。僕から名乗るべきでしたよね、ごめんなさい。薪浪(まきなみ)彩土(あやと)です」

「アヤト君か。それで、なんだってあんなとこで倒れていたんだ?」

「えーっと……」

 

 なんて言い訳をしようか。作中の大人でも随一の善人である柴大将だとしても、正直に「別世界から転移してきました」などと言われれば精神の異常を疑うだろう。しかし俺には一瞬で真実味のある話など作れないし……。

 

「それが、気付いたらここに居まして。とにかく見覚えのある人とか場所とかを探そうと思って……それで歩き回っていたら意識が朦朧としてしまい」

 

 こういう時は真実を混ぜた嘘を吐けばバレにくいってどこかで読んだ気がする。そもそも今回は純度百パーセントの真実だし、これできっと大丈夫だろう。

 …………嘘です、こんな見ず知らずの俺にも優しくしてくれる大将に嘘を吐く度胸が無かっただけです。

 

「なるほど。となると、アビドスの外から来たのかい? 住んでた自治区は?」

「いや、えっと……」

「……まさかだが。もしかして、キヴォトスの外から来たのかい?」

「たぶん、そうです」

 

 俺の返事に少し唖然とする柴大将。

 

「いや、すまねえな。何分キヴォトスの外から人が来るなんてのは滅多にないもんだから、驚いちまったんだ。ただ、そうなると帰るのは難しそうだなぁ。連邦生徒会を訪ねれば何か分かるかもしれねえが……俺じゃあ力になれなさそうだ、すまん」

「いやいや、そんな。倒れていたところを助けてもらっただけでも十分ありがたいですって!」

「そうかい? それならいいんだが」

 

 こんな良い人……人? とにかく、こんな良い方に対して感謝こそすれ恨むことなどあるわけがない。そこだけは訂正しておかねば。

 

 

 

────────

 

 柴はいま、悩んでいた。

 今日の開店は夕方からのみの予定だったため散歩に出かけてみれば、道端で行き倒れている少年を発見。返事も無く気絶しているようであったため、どうにかこうにか店と兼用している住処へと運び込み、目覚めたので色々と話をしているのが現在。

 

 そうして話を聞けば、驚くことにこの少年はキヴォトスの外から来たと言うではないか。それも気が付けばいつの間にかここに居た、と。

 

 正直な話、眉唾だと思う。それこそ、どこかから逃げ出してきた生徒が元居た自治区に送り返されないように、苦し紛れで放った作り話だという方が信じられる。

 

 それぐらいキヴォトス外から人が来ることは珍しいのだ。いや、珍しいと言うか、そもそも柴は一度もそんな話を聞いたことが無かったぐらいなのだ。

 年々廃れてきているアビドスに訪れる人ですら少なくなっているのに、それがキヴォトスの外から来たと言われてハイそうですかと納得する方がおかしいだろう。

 

 しかし、この少年が身に付けている────おおよそ制服らしくない────衣服は初めて見るし、男の生徒というのも耳にしたことが無い。そもそも、もし家出してきたのならば相応の準備をしているはずだが、この少年は鞄も何も持っていないのだ。

 

 

 柴は人情味あふれる大人だが、同時に嘘やごまかしには敏感であった。むしろ情に厚いからこそ敏感になった、と言っても良いかもしれない。

 それ故、ここまでの話の中で彼が嘘を吐いていないであろうことは分かっていた。同時に、全てを話しているわけではない事も。

 

 ────アビドスに迷い込んだってんなら助けてあげられたが、流石にキヴォトスの外から迷い込んだとなると俺の手には負えねえ。そもそもそんな簡単にキヴォトスを出入りできるのかも分かんねえしな。だが、まがいなりにも一度はこうして手を差し伸べたってのに、無理そうだからって突き放すのは忍びない。

 

 

「お前さん、家族は?」

「両親と祖父母、それに妹が。…………ただ、(多分あの時死んだし、死体が残ってるかは分かんないけど)探されては無いと思います」

「……そうかい。悪いこと聞いたな」

「(やっべ、勘違いされた!?)いやいや、全然大丈夫です!」

 

 ────この雰囲気じゃ家族が迎えに来るって可能性も望み薄だろう。ってぇなると、この子を守ってあげられんのは今は俺だけか?

 

「お前さん、しばらくウチで働かねえかい?」

「……え?」

「正直な話、キヴォトスの外から迷い込んだってなら俺に力になれることは無い。連邦生徒会なら助けてもらえるかもしんねえが…………D.Uまでは徒歩で行ける距離じゃないし、移動費も安いもんじゃねえ。結果が分からない段階でポンと出してやれる額じゃ収まらん」

「なるほど……」

 

 申し訳なさそうに肩を縮こまらせるアヤトに心苦しくはなるが、流石に柴もそこまでお人好しではない。ラーメンのサービス程度ならともかく、解決できるかも分からない方法のために大金を出せるほど余裕は無いのだ。

 

「そこで、だ。その分の資金をウチで働くことで稼がねえか? もちろん住み込みでいいし、必要なら身元保証人代わりにもなってやる。悪い条件じゃねえと思うが……」

「そこまでしていただいて、本当にいいんですか?」

「いくつかは知らねえが、お前さん、まだ若いだろう? 若いやつを助けてやんのが年長者の務めってやつさ。本当はもっと力になってやりてえが……」

「いやいや、十分すぎるぐらいですって!」

「それならいいんだが。ま、これからしばらくよろしく頼むよ」

「はいっ!」

 

 よっぽど嬉しかったのかアヤトが満面の笑みでした気持ちの良い返事に、柴は満足げに頷くのだった。

 

 

 

────────

 

 柴大将に拾ってもらってからおおよそ2週間ほど経過した。その間に色々と分かったことがあるため、それぞれまとめていこうと思う。

 

 まず、今がメインストーリーにおけるどの辺りなのかについて。これについては柴関ラーメンが屋台ではない点から対策委員会編からかなり経過した段階か、そもそも本編開始前であるかの二択だったのだが、どうやら後者であるらしいことが分かった。

 

 理由としては、アビドスに通っている生徒がまだいっぱいいること、そして何よりも一瞬だがユメ先輩らしき生徒を見かけたことだ。

 

 もっとも、ユメ先輩の容姿は対策委員会編エンディングのスチルで描写されただけだし、そのシーンでも顔部分に光が当たっていたため確証は持てていないのだが。とはいえ、あの淡い浅葱(あさぎ)色の髪と立派な胸部装甲はユメ先輩と見て間違いないだろう。

 

 もしかしたら、探せば『暁のホルス』時代のホシノもいるかもしれない。

 正直……凄く見たい。何を隠そう、ブルアカにおける俺の推しはホシノだったのである!

 

 のほほんとした雰囲気と小柄で可憐な姿、そして“おじさん”という特徴的な一人称。それでいて先輩として後輩を護るために黒服に自らの身を差し出す自己犠牲の精神。おそらく過去に色々あったことで何もかも自分一人で抱え込もうとし、大人への不信感から先生も中々信用できずにいたその不安定な側面。碌なことにならないと理解し、対策委員会のみんなに殺される覚悟までしてアビドスのために尽くすその強さ。そして何よりも、対策委員会の面々と先生が迎えに来た時に見せた花のような笑顔。

 まだまだ彼女の魅力は尽きない。むしろ知れば知るほど彼女に夢中になっていった、そんな日々が懐かしい。

 

 

 さて、話がかなり脱線してしまった。えーっと、何についてまとめてたんだっけ?

 あー、そうだそうだ。現段階で分かったことだ。

 

 というわけで、次に分かったこと。それは……どうやらこの体、とんでもない量の神秘を宿しているらしい。たぶんアビドスのモブちゃんの10倍以上はある。あの子たちがキヴォトス全体でどのぐらいのレベルなのかは分からないが、この量で少ない方ということはないだろう。

 

 ブルアカのストーリーにおいて、保有する神秘の量はかなり重要視されている。具体的には戦闘力とほとんど同値のものとして扱われていた。つまり、『保有する神秘の量が多い≒戦闘力が高い』ということだ。

 例としてはホシノが分かりやすいだろう。彼女はキヴォトス全域でも最高レベルの神秘を保有しており、同時にキヴォトス有数の実力者であるゲヘナの風紀委員長、空崎ヒナに警戒されるほどの戦闘能力を持っている。

 

 だが悲しいかな、俺にはヘイローがないからか身体は脆いままなのだ。仕込み作業中に包丁で指を切ってしまったことがあるため、肉体強度が前世と大差ない事は確実だろう。やっぱり銃弾一発で致命傷じゃないですかやだー。

 

 

 ええ、俺も一瞬期待しましたよ。「もしかしてこれ俺TUEEEしてバッドエンドフラグ粉砕できんじゃね?」と。

 そんな幻想の方が簡単に砕け散ったけども。そもそも銃火器なんか一切使ったこと無いし、考えれば戦えない事は当たり前だったんだけど。

 

 とはいえまだ完全に希望が無くなったわけじゃない。脳裏に浮かぶのはカイザーPMCの姿だ。

 あいつらはヘイローを持たないが、装備と訓練のお陰か先生の指揮下の対策委員会組ともいい勝負を演じていた。つまり、身を守る防弾着のような装備を整えて訓練さえすればワンチャンはあるということ。まあそんなもの買う資金もコネも無いから今は神秘の操作を練習してるだけなんだけど。

 

 それと、神秘関連でもう一つ。

 保有する神秘量が多いからか、今の俺は神秘に対する知覚能力がかなり高くなっているらしい。具体的には、生徒それぞれの神秘量とその雰囲気まで把握できるぐらいだ。雰囲気は性質と言い換えても良いかも知れない。

 アビドスのモブちゃんをぼんやりと観察していたら段々感じてきたから、最初の頃はビックリした記憶がある。

 

 放出された神秘が消えずに残留しているのか、生徒たちだけでなく周囲の空間にも薄っすらとだが漂っているのだから本当に驚いたものだ。思わず素っ頓狂な声を出してしまい柴大将に心配されたことは忘れたいが。

 

 

 更に言えば、どうにも俺の神秘の雰囲気は普通とはかなり違うようだ。

 見かけた生徒たちは皆似たような神秘だったし、空気中のそれもあの子たちのを薄めたような感じなのだが、俺の神秘はなんて言うか……そもそも種類が違う、みたいな。

 感覚の話なので説明が難しいが、『同じカテゴリーの中の別種』とでも言うのが表現として近しいだろうか。醬油ラーメンと豚骨醬油ラーメンみたいなイメージ。つまり同じ『神秘』であることには違いないが、しかしその内実は異なっているということだ。

 

 

 さて、ここで俺は疑問に思った。

 「なぜ俺にこんな妙な神秘が宿っているんだ?」と。

 

 

 結論としては、おそらく臨死体験(臨死どころじゃないけど)とその後の異世界転移によるものだろう、というのが俺の仮説だ。

 考えるまでも無く、これらの経験は常識的じゃないと断言できる。

 

 ……え? キヴォトス自体に常識的な存在がほとんどいないって? それは……そうですけど…………。

 

 とにかく、これらは奇跡と呼んでも問題ないほどあり得ない事だろう。それが原因となって特殊な神秘を大量に保有するようになった、というのなら頷ける話だ。少なくとも俺にはこれ以上に説得力のある説明は思いつかなかった。

 もしかしたら黒服とか“先生大好きサークル(ベアおばを除く)”の誰かならもっといろいろ解るのかもしれないけど……でもゲマトリアには関わりたくないしなぁ…………。

 

「おーい、アヤト君。そろそろ店開けるよー?」

「はーい、今行きます!」

 

 おっと、もう時間のようだ。それじゃあ、ひとまず今日はこの辺りで。

 

 

 

*1
踊るなーー!!




 彩土君の自分の神秘に関する考察は大体当たっています。具体的には、原因の8割ぐらいは言い当ててます。じゃあ残りの2割はって? さて、なんでしょうか……。
 ちなみに彩土君は深く考えないようにしていますが、天井の梁が堕ちてきたタイミングで彼は一度死亡しています。だから正確にはキヴォトスに転移したわけじゃないんですよね。一度死んで、蘇ったわけですから。
 そういえば、我々の世界にも一度死んで蘇った救世主がいましたね。まあ現時点の彩土君はかの宗教とは無関係なので何かトリニティと因縁が発生するということは無いのですが。とにかく、彼には原作以上のハッピーエンドのために動いてもらう予定ですので、頑張ってもらいたいですね。途中で曇らせ要素が出てくるのは確定なんですが。
 終わり良ければ総て良しって偉大な先人も言ってたし、まま、大丈夫やろ。(なお彩土君がハッピーエンドになるとは言っていない模様)
 ちなみにですが、薪浪彩土という名前にはこじつけ染みた物も含めて3個ほど小ネタを仕込んでいます。全体的にしょーもない上、別に分からなくても問題無いようなものですが。良ければ予想してみてください。
 次回も読んでいただければ幸いです。ではでは~。
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