【本編完結】黒く濁った罪を背負って   作:RH−

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パヴァーヌ編のはじまりはじまり~。
この編から少しずつアクセル入れていくつもりです。つまり? 原作崩壊が始まるという事です。


時計じかけの花のパヴァーヌ / 道の定まる二幕目
行列舞踏と暗躍者


 カツ、カツと音を立てながら、線路の上を歩く。

 ここ数日の間この路線は一切の列車が通っていない。有人も、無人も。したがって俺の周囲に人気は無く、誰かが居たような痕跡も見られない。

 

 その中を周囲を探るように注意しながら、最大限の警戒をもって進む。

 

 なにせ、この路線の向かう先には『エリドゥ』があるのだから。

 

 

────────

 

 時は少し遡り数日前。

 

 レッドウィンターの山の中、227号特別クラスでさえも近寄らないその奥地に造られた地下施設。

 しばらくはその拠点を店として利用しているガラベーヤを纏った人物と、明らかに怪しげな黒一色の装備を身に纏った男が会合を行っていた。

 

「いやー、お待たせしました。私に会えなくて寂しかったでしょう? マクガフィンさん」

「自意識過剰すぎんだろ。んで、そっちはもう追っ手は大丈夫なのか? 繋ぎ手」

 

 両者とも特徴的に過ぎる風貌をしている彼らは、ご存じの通りここ暫く闇市(ブラックマーケット)を騒がせていたマクガフィンと繋ぎ手の二名だ。

 原因はいたって単純、彼らの不倶戴天の敵であり闇市でも上位の企業であったカイザーコーポレーションが失脚したことである。

 

 闇市だけでなくキヴォトス全域を見ても有数の大企業というだけあって、まだ再起不能にまでは陥っていない。

 しかし、カイザーローンの目に見えて無理のある利子設定を代表とした無数の不正取引の告発に始まり、アビドス自治区における不法なテロ活動、極めつけにアビドス高校の生徒を拉致・監禁したという数々の罪状。

 

 次々と明らかになるそれらに流石に連邦生徒会も見て見ぬふりをするわけにもいかず、カイザーコーポレーションはうず高く積もった過去の負債を払わされる羽目となり。

 かつての飛ぶ鳥を落とさんとする勢いはどこへ行ったのやら、提携企業に手を切られないよう必死に駆けずり回る哀れな姿になったのが今のカイザーである。

 

 

 さて、ここで一つ。実はマクガフィンがカイザーコーポレーションと敵対していたことは闇市では有名な話だったりする。

 もちろん、それは都市伝説としてではなく実在する存在としてのマクガフィンを知っている人物に限られる話ではあるのだが……特に闇市の上位に君臨する企業などは彼の事を単騎で軍に匹敵する暴力装置として注視していた。

 

 彼の同盟相手であり、そして個人でありながら無数の企業とパイプを持つ『繋ぎ手』もまた、同じように注目されていた。

 なにせ彼は後ろ暗い部分の多くある闇市と外部の市場とを繋げる窓口の筆頭であり、カイザーコーポレーションという大企業と真っ向から対立して今日まで生き延びていた紛れもない傑物なのだから。

 

 この同盟によってただでさえ纏まりの無い闇市は『親カイザー派』、『反カイザー派』、『遠巻きに眺める中立』に分かたれることになっていたのだが────ここに来てのカイザーコーポレーションの失脚である。

 

 

 騒動の中心となったアビドス自治区において黒ずくめの怪しい人物を見かけたという話が出てきたことや、不正取引をクロノススクールなどに告発した『匿名希望の個人』は闇市まで含めたカイザーの活動に詳しすぎたことから、この二者が関わっていることは最早自明。

 

 結果、現在の闇市は以前に輪をかけて混迷を極めるようになった。元々派閥が分かれていたのに、そこに裏切りや賄賂や抗争などが重なったためである。

 そんな騒動の中心にいる彼らが闇市にいられるわけも無く。繋ぎ手は一時的に情報屋以外の活動を停止して各地を逃げ回り、マクガフィンはその分の注意も集めるように動き続け、ようやくほとぼりが冷め始めたのが現在なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「にしてもここまで大事になるとは思いませんでしたね」

 

 サービスだと出されたホットココアを啜っていると、対面からそんな言葉が投げかけられた。

 

「……わざわざ外の大企業にまで根回しして反カイザーの動きを大きくした奴が言うセリフじゃねえだろ」

「ふむ? ナンノコトデショウカ?」

 

 コイツ…………ここまで来てシラを切るつもりか?

 アビドスから闇市に戻れば既に騒動が始まっていたせいで全貌こそ掴めていないが、それでも繋ぎ手とは定期的に連絡を取っていたこともあり、おおよその事態は把握できている。

 

「セイント・ネフティスがあそこまで早く声明を出したのはお前の仕業だろ? ここまで来た以上そう簡単に手を切れないんだ、次からはやる前に一言入れてくれ」

「いえ……実はあそこには何も伝えてないんですよ。私も驚きましたよ、まさか覚えてくださっていたなんて

 

 じゃないと俺の活動に支障を来す、という副音声を付けた注文の言葉に、しかし同盟相手は歯切れ悪く答えた。

 ……随分珍しいな、繋ぎ手がこんな様子を見せるのは。セイント・ネフティスと何かあるのだろうか。

 

 そう思いつつも、あまり触れてほしくなさそうな気配を感じたのか、彼は話題を切り替えることにしたようだ。

 

「まあいい、これでカイザーもしばらくは大人しくなるだろ」

「ですね。それで、本日のご用件は?」

「諜報だ…………ってか情報屋以外は辞めてたのに他の依頼できんのかよ?」

「無理ですね」

 

 いつものようにふざける繋ぎ手にじゃあなんで聞いたんだよ、と呟きながらも依頼の詳細を語る。ここでツッコミを入れてしまうと更にボケが加速するからだ。

 

「対象はミレニアムで秘密裏に建設されている要塞都市『エリドゥ』。最低限その座標だけ調べてくれたら十分だ」

「都市の規模や防衛力は必要ないと?」

「別にその辺りはどうでもいいからな」

 

 パヴァーヌ編でやりたいことをやるには、どうしてもエリドゥの場所が分かっていなければならない。少なくとも2章が始まる前に、できるなら1章が展開されている間には把握しておかなければ。

 しかし、そんな思考は続く言葉で霧散させられることとなった。

 

「ふむふむ。規模も防衛力も、場所でさえも分かっていないのに名前とその用途は分かっていると。秘密裏に建設されている都市なのに」

「…………ッ!?」

 

 依頼に関する自然な会話であったはずがいつの間にか鎌をかけられており、更には矛盾点の指摘までされた。

 そんな全く警戒していなかった方向からの攻撃に先までの冷静な思考は驚愕へと上塗りされ、その胸中には疑念が満ち始める。

 

 一体なぜ? 裏切ったのか? だがこんな僻地でどうやって逃げるつもりだ? それとも俺を消す算段が付いているのか?

 そんな思考で反射的に体を動かしてしまってから、その時になってようやく悟る。

 

 ここまでの反応を示してしまえば、自分から『あなたに指摘された矛盾点は、正しく矛盾したおかしな物です』と説明してしまったも同然ではないか、と。

 

「別に秘密主義者なのは構いませんがね。アビドスでもそうでしたが、最低限計画……せめて目的ぐらいは共有して頂けないですか? そうでなければ取れる連携も取れなくなります」

「それは……」

 

 もっともすぎる繋ぎ手の意見に何も反論できず、俺はただ弱々しく反駁するのみ。そんな俺に対し、繋ぎ手は畳みかけるようにその口を開く。

 

「たしかに私と貴方はビジネスの関係ですが、それにしても貴方は何も語らなすぎる。ビジネスというのは『大人と子ども』のような非対称な間柄ではなく、あくまでも『対等』な2者の間に成立するものだと私は考えています。今のように片方が何もかもを一人で抱え込んでいる状態ではなく、です。マクガフィンさん、貴方はどうお考えですか?」

 

 口調も態度も柔らかく丁寧なまま、普段の様子と変わりはない。

 だというのに、その姿からは嘘もごまかしも許さないという意思が強く滲み出ていた。

 

「全てを語れ、だなんて事を言うつもりはありません。誰にだって言いたくない事はあるものですし、私にも貴方にだけは知られたくない事があります。それでも、せめて貴方が何を目的として行動しているのかぐらいは教えてもらえませんか?」

「そういう……お前の目的は────」

「最初に語った通りです。貴方に出会った、一番最初の時に」

 

 

『私はカイザーを潰したい。そして何よりも、貴方の救けになりたい』

 

 

 そんな言葉が脳裏を駆け巡る。

 嘘くさい、信用にならない台詞だと思っていた。しかし繋ぎ手はその言葉の通り、俺を支援し続けている。稀に……時々…………いやそこそこの頻度で無茶ぶりをしていたが、そこに関しては俺も変わらない。

 むしろ俺の方が多かったぐらいだ。

 

「少しで構いません。一人で抱え込まずに、共有してください」

「……俺の…………目的は」

 

 繋ぎ手の理論に穴は無い。

 苦し紛れの反論も潰された。

 

 なら、語るしかないのだろう。俺の矛盾の象徴を。

 

「俺の目的は……子どもたちを、守ることだ」

 

 ハハッ…………。ああ、気持ち悪い。

 どの口で言っているのだろうか。ユメ先輩を殺して、ホシノを絶望に叩き落して、それで口にするのが『子どもたちを守る』だと? ふざけ切っている。

 そして何よりも気持ち悪いのが、これを言って心が軽くなったことだ。俺は良い事をしているんだ、なんて思ってしまっていることだ。

 

 自分の罪から目を逸らして、償いから逃げ出して、挙句やることが安っぽい自己肯定か? 違うだろ。

 オマエに許されているのはそんな事じゃなく、どうしようもない罪人として行動することだけだ。だって俺は、俺が何よりも恐れていることをユメ先輩にやったんだから。

 今更何をやったところでそれは変わりようのない事実だ。だからこれは贖罪なんかじゃない。逃げ出す理由を付けるための言い訳で、死ぬまでの時間を稼ぐための悪足掻きでしかない。

 

 

 だって。命を奪った罪なんてのは、同じように命を捧げることでしか償えるわけないんだから。

 

 

 息を吸い込む。静かに、そして深く。

 歪む視界も、込み上げる吐き気も、あの時のように聞こえてきた幻聴も、何もかもを呑み下すように。

 

 大丈夫。

 俺はまだ大丈夫。

 自分のやるべき事は見失っていない。罪の意識も薄れていない。だから大丈夫、最期までやり遂げられる。

 

「子どもたち、ですか。それはアビドスの子たちでしょうか」

「いや、違う。全てだ。キヴォトスの子ども全てが、苦しむことも罪の意識を背負うことも無いようにする。何があろうともそんな結末に行き付かないようにする」

「…………なるほど。でしたら、まずはカイザーを潰すことが第一目標ですかね」

「まあ、そうだな」

 

 相当無理も矛盾もある目標だが、それで繋ぎ手は納得したらしい。

 

「では、『エリドゥ』とやらの調査は引き受けました。報酬は今回のオーパーツ査定から差し引く形で良いでしょうか」

「ああ、それで頼む」

 

 

────────

 

 繋ぎ手の報告によれば、エリドゥはミレニアムタワーなどがある中心街からは遠く離れており、今俺がいる地点からもまだ2・3kmはあるらしい。

 普段ならここまで距離があるなら神秘を使って移動するのだが……今回はまず間違いなく戦闘になるため、できる限り消耗は避けておきたい。罠が仕掛けられている可能性もある以上、下手に進み過ぎるのも危険だし。

 

 

 とはいえその分の移動時間が無駄だというのも事実なわけで、こうして俺は色々と思考を纏めながら歩いているわけだ。

 

 

 まず考えるべきは…………『修正力』だろうか。

 この手の異世界転移モノではありがちだが、どうやらこの世界にも“原作”の展開を維持しようとする働きがあるらしい。

 

 正確に言うのならば、何かしらの変化があったとしても重要イベントの節目ごとに元のストーリーへと戻そうとする働き、だろうか。

 対策委員会編が全体を通して概ね原作通りに推移したことからもこれは想像できるが、何よりもこれが顕著に読み取れたのはブラックマーケットでの一幕だ。

 

 基本的に原作の流れを維持するために監視をしていた俺だが、あの時に関してはその役割から大きくかけ離れていた。むしろ、本来無かったはずの闇市全体に影響を及ぼす騒動を起こすという真逆の行いをしていたのだ。

 

 だというのに、あの場で起こった事象は『人ごみから離れた先生たちが偶然闇銀行の近くにまで行き、そしてたまたま俺の騒動で焦ったカイザーの銀行員が予定時刻よりもかなり早くに銀行に到着し、幸運にも先生たちから見えている場所で取引を行う』という、明らかに無理のある展開だった。

 改めて冷静な視点から見れば分かるが、これは『偶然』という言葉で片付けられる範囲を大いに逸脱している。何かしらの『修正力』が働いたと考える方が自然だろう。

 

 

 つまり、原作の流れを破壊するにはあんな間接的な騒動ではなくもっと直接的な騒動が必要ということ。できるなら規模も大きい方が良いだろう。

 

 

 これに関しては対策委員会編後のカイザーコーポレーション周りを見れば分かりやすい。

 原作ではちょろっとしか描写されていなかったが、この世界ではカイザー失脚の規模はかなり大きくなっている。PMC理事の首を飛ばすだけでは足りず、カイザー全体で事業を縮小しなければならなくなっているほどだ。

 場所によってはカイザー排斥の動きさえ起こっている。

 

 原因は……まぁ間違いなく繋ぎ手が動いたからだろう。

 不正取引の告発といった直接的な形でアイツが大きなムーブメントを作った結果、カイザーは原作以上の打撃を受けた。これが俺の予想だ。

 

 

 

 

 さて、これらを踏まえた上での俺の計画だが……実のところ、やること自体は随分前から決まっている。

 一言で表すならば“ヘイトタンク”だろうか。

 

 

 

 メインストーリーvol.2『時計じかけの花のパヴァーヌ』。

 ざっくり纏めると、廃部の危機に陥ったゲーム開発部が中心に据えられた物語。特に焦点が当たるのはミレニアム郊外の廃墟で発見されたアリスという少女で、彼女が人として成長し、そして生まれの定めから抜け出して自分のなりたい存在を決めるまでが描かれている。

 

 ここからも分かるように、このストーリー自体はハッピーエンドで終わっている。ゲーム開発部は廃部を逃れたし、アリスは『勇者』として生きることを選べた。みんなが笑って終われるハッピーエンドだ。

 

 だが、笑って終わることができなかった人物もいる。

 例えば、ミレニアムサイエンススクール生徒会長『調月リオ』。アリスをミレニアムの生徒ではなく無名の司祭が残した『名もなき神々の王女』として捉え、その危険を取り除くために行動した少女だ。

 

 それ故原作では先生と真っ向から対立することとなり、パヴァーヌ編が終わった後には責任を感じてミレニアムから失踪。最終編にて再登場するまで一切の音沙汰がなく、一人で罪の意識を抱え続けていた。

 

 

 ではなぜ彼女はそうなってしまったのか。

 その理由は大きく二つに纏められると俺は考えている。

 

 『アリスを殺すために先生と敵対したこと』、そして『そのための計画を誰にも相談せずに一人で練り上げたこと』だ。

 前者は言わずもがな、リオが罪の意識を抱くようになった一番直接的な理由。そして後者によって、自分一人でやったのだから責任を負うのも自分一人だけだと思わされ、誰かと責任を分け合うという選択肢が消え去った。

 俺はそう考えている。

 

 もともと後者に関しては、この件に関する責任を自分一人に集中させることでいざという時は周りを巻き込まずに責任を取れるようにする、などの考えもあったのかもしれないが…………結局のところコレのせいで彼女が追い詰められたのは変わりない。

 

 

 じゃあここで問題になってくるのは彼女のこれらの選択は誤っていたのか、という点だ。

 

 実際に危険なのは『名もなき神々の王女』ではなく『アリス』として生きることを選んだAL-1Sではなく、彼女を王女として『プロトコルATRAHASIS』を実行しようとしたkeyの方だと知っていれば、アリスを殺そうとするというのは少しばかり的外れであると言えよう。

 誰にも腹の内を明かして相談しなかったことで自分の考えに囚われてしまい、結果一人で暴走することになったのだと言うこともできるだろう。

 

 しかしこれらは全てメタ知識を前提とした批評でしかない。読者という高次の視点に立たなければ出せない結論だ。

 

 なにせ彼女はミレニアムという国家の舵を取る生徒会長なのだ。

 目に見えたリスクの塊であるアリスを野放しにする、だなんて選択はどう足掻いても取りようのない愚策でしかないし、相談した誰かが情に絆されて外部に漏らすリスクを考えれば全てを一人で抱え込んでしまうのも頷けなくはない。

 

 それにしたって暴走しているようには見えるが……そもそもの話としてそこまでの責任を子どもが負わされている時点でおかしいのだ。

 どれだけ優秀で大人びていようと彼女は高校生でしかない。世界が滅ぼされるかもしれないだなんて案件は、そんな少女が背負うべきものではないだろう。

 

 以上より、俺の結論は『一概に正しかったとまでは言えないが、彼女の立場を考えればその選択は単純に間違っていたと断言できるものでもない』、だ。

 

 

 

 ならばどうすれば良いのか。

 

 

 

 単純だ。そもそもこの案件をリオ一人で扱える規模を超えさせてしまえばいい。『アリスの抹殺』をどう足掻いても彼女一人では実行不可能にして、周囲に助けを求めざるを得ない状況にすればいいのだ。

 

 彼女が相談を持ち掛けるとしたらその候補は限られる。高い知性を有しており、リオ自身も理解者になってくれるかもしれないと期待していたヒマリと、リオと同じく責任を負うものであり大人である先生。

 この辺りが筆頭だろうか。

 

 そして、原作ではそのどちらもがアリスを殺すことに反対の立場であった。何かしらのイレギュラーでヒマリの態度は変化するかもしれないが、先生は必ず反対する。反対してくれる。

 

 こうなった時点でリオが『アリスを殺すために先生と対立する』ことはできなくなるし、相談を行った時点で彼女一人が責任を感じる事態は無くなる。

 なにせアリスに関わる案件というのはリオの手に余るものになっているのだから、妥協案を探る以外の選択肢が無いのだ。

 

 

 では次に浮かぶ疑問というのは、“理論は分かったがどう実行するつもりなのか”という点だろうが…………これに対する答えも実は単純だったりする。

 俺が敵対勢力として暴れればいいのだ。できる限り派手に、パヴァーヌ編における敵役をリオから俺に書き換えられるように。

 

 

 そしてそれがそのまま今俺が線路を歩いている理由でもある。

 リオの計画、その中核には要塞都市『エリドゥ』の存在がある。その重要性はこれが無ければ彼女の計画が破綻すると言えるほどに。

 

 だから、今のうちに破壊する。

 

「見えてきたか」

 

 

 一先ずの計画を確認できたあたりで、遠くに近代的な都市が見えてきた。

 まだ完成前の建設途中だと聞いていたが……随分デカいな。今の時点で闇市に匹敵するんじゃないか?

 

 よくもまあここまでの規模の都市を誰にも悟られずに造ったものだと感心しつつも足を進めていると、エリドゥの境界線から少し手前に何かが集団を作っているのを発見できた。

 

 シミ一つない純白の装甲と、その上に黒で刻まれたミレニアムの校章。

 バルカン砲を装備したやや小ぶりな二足歩行型にアサルトライフルを搭載したキャタピラ型、そしてサブマシンガンを持つ大型の一輪型。数えるのも億劫になる程のそれらが、砲口を全てこちらに向けて待機している。

 

 作中でAMASと呼ばれていた、リオが独自に設計した機械兵たち。それらによる無言の警告、といったところだろうか。

 

 今彼女がエリドゥにいて指示を出したのか、それともただプログラムされた挙動なのかは定かでは無いが……黒ずくめの不審者が接近した時の対応としては実に合理的だと言えよう。

 

 

 

 ただ────カイザーPMCの基地を襲撃し回っていた俺からすると、姿を確認できた瞬間に迷わず発砲しない時点で手緩いとしか言いようがない。

 

 

 

 

「それじゃ……始めるか」

 

 自然に歩く動作に紛れて伸ばしていた神秘の糸を収縮させ、予備動作無しにAMASの前列にまで接近。初見では絶対に反応できない挙動に、当然ながら白磁の機兵は対応を遅れさせる。

 感情を持たないからかそれでも一寸遅れで砲身を追いつかせつつあったが、その一寸があれば十分。

 

 両手の指全てから、すなわち俺が自在に扱える最大本数の神秘の糸を振るいAMASの武器を破壊する。

 

 バラバラと崩れるかつて銃であった残骸の中、上限近くまで硬度を高めたからか二脚の小型に関しては両断してしまったようで、そのさらに奥側から銃口を構える無機質な兵の姿を覗かせた。

 

 転瞬、右の人差し指から伸ばしていた糸をコンクリに固定し収縮させる。

 地面に激突しないよう早めに糸を(ほど)く必要があるため移動距離自体は短いものだが、照準を乱れさせる程度であればそれで果たせる。

 

 俺を狙った銃弾が地を抉る音をバックに、着地と同時に折り曲げた足から力を解放。すれ違いざまに先ほど武装を破壊した連中の脚部────キャタピラやタイヤなど────やAR型の連結部を斬り裂くことで完全に無力化。

 

 

 ここでようやく中列以降を含めた残りのAMASが反応し、眼前に迫った排除対象としてその真価を発揮しようとするも。

 

「遅い」

 

 一度イニシアチブを握れた時点で、俺のターンは終わらせない。

 伸ばしたままの十本の糸に破壊した後の残骸を引っかけると、全力でそれを放り投げる。即席の目くらましでありながら質量攻撃としても成立するソレで再び敵兵を攪乱しつつ、その隙に集団の中心へと潜り込む。

 

 再び補足されるまでの間にできる限りのAMASへ糸を引っかけ、発見されたタイミングで拳を握りながら全力で収縮させると────

 

ゴシャンッ!!

 

 無茶苦茶に貼り付けていたせいで機兵たちは衝突しながら引き寄せられた。

 当然ながらその行く先は俺なわけだが、そこは糸を解く事で対処。結果、逆にそれらは俺の前方へと勢いを付けて射出される。

 

 さっきの残骸とは比べ物にならない質量となった二つの塊はSMGを装備した大型のAMAS複数に激突すると、派手な爆発を伴って黒煙の奥に消え去った。

 

 絶望も恐怖も感じない無機質な軍隊はそれでもなお追いすがろうとするが、ここまで攪乱できた時点で第一段階は完了している。

 俺は残りの連中には目もくれずに駆け抜け、ビルへ固定した神秘の糸を使うことでいつもの移動を開始しようと────

 

「……ッ! チッ」

 

 その瞬間、地面が揺れた。

 それだけでなく周囲のビルまでもが移動し始め、俺の行く手を阻もうとする。気付けば左右の抜け道も塞がれていた。

 

 エリドゥの要塞都市としての機能の一つ、敵対者を不利な環境に追い込むための都市再編だ。未完成の段階だというのに既に使えたのか。

 

 いくらかは脚部を破壊して機動力を奪ったとはいえ、背後にはまだ20機近い数のAMASが残っている。俺の神秘だと重装甲を破壊し切るのは面倒だ。そうしている間に増援が来ないとも限らない。

 さて、どうしようか。

 

 そんな思考を回し始めたあたりで気付く。

 俺を取り囲むように動いたビル、その窓々から固定砲台の銃口が覗いていることに。

 

「やるねぇ…………」

 

 原作には一切描写のなかった機能。

 “要塞”都市という名を考えればあってもおかしくないが、完全に想定から抜け落ちていた。思えば途中からAMASもこちらへ追い込もうとしていたようだし、おそらくこれが彼女の策だったのだろう。

 これだけの飽和火力ならば、ヒナのような並外れた耐久力を持つ生徒であろうとも落としきれる。そう断言できる数の砲身が俺を睨みつけていた。

 

 

 はっ、むしろ好都合だ。

 

 

 ニィッ、と獣性を示す笑みを浮かべると、俺はそれらが駆動するのをじっと待つ。獲物を狩ったと思った瞬間が、最も警戒の緩むタイミングだからだ。

 やがて駆動音が耳に届き、マズルフラッシュが煌めくその瞬間────

 

身体強化(b o o s t) 120%(over limit)

 

 須臾にして俺は空を飛んでいた。

 やったことは単純明快。身体に神秘を回して強化し、その脚力とビルに付けたままだった糸の引き上げる力で跳び上がっただけである。

 

 一瞬とはいえ許容上限を超えた強化をしたせいで体は軋んでいるが、代わりに得られた人外の膂力でコンクリはひび割れ、生じた風圧でAMASの残骸が吹き飛んでいるのが確認できた。

 が、おそらくリオはそれどころではないだろう。

 

 今彼女は唐突に表れた襲撃者を、ヘイローを破壊しない程度の飽和射撃で無力化するために必死に調整している最中だからだ。

 まあ俺は当たり所によっては銃弾一発で死ぬため、その気遣いの意味は無いんだが。

 

「もうちょっと奥からするつもりだったが…………まあいいか」

 

 ビルよりも高く跳び上がったまま、体勢を整える。体の正面が地面を向くようにし、左手を添えながら右腕を真っ直ぐ伸ばす。

 ちょうどビナーと戦った時と同じような形だ。

 

 この辺り一帯には戦闘の余波で俺の神秘が散らばっている。探知用にも使えるソレで誰も近くに居ないことを確認すると、伸ばした腕の先に神秘を凝縮させ────

 

「フッ」

 

 吐き出す息と同時に解放。

 スタングレネードを数百倍にしたかのような眩い光が周囲を照らし、そのまま全てを呑み込んでいく。

 

「こんなもんかな」

 

 ある程度地表に近付いた辺りで放出をやめ、クレーターのようになった地面にゆっくりと着地する。

 周囲に広がっていたはずの近代的な都市は消え去っており、そこにあるのは抉られた大地の見せる土の()()のみ。

 

 …………やっぱり今回も汚染はされてない、か。ならあれはビナーの神秘が原因だった可能性が高いか。

 

 そんな事をぼんやりと考えながら周囲に漂う俺の神秘を取り込むと、懐から葉書サイズの紙を取り出して地面に突き刺しておく。

 

『名もなき神々の王女に手を出すな』

 

 そう書かれた置手紙を残すと、マクガフィンは外套の裾を翻して立ち去っていくのだった。

 

 

 




 作中でも語ってますけど、やっぱりリオの決断ってミレニアムに住む全員の事を考えれば正しいと思うんですよね。少なくとも『指導者が情に流された結果国が滅びました』、なんてなったら誰もが「何やってんの?」って思うはずです。てか私は確実にそう思います。
 もちろん、言葉にかなり棘があったのはありますし、合理的に事を運ぼうとするあまり情を軽視してしまっているあたりは良くないと思いますが。それでも高校生が世界のために人を殺すっていう重荷を背負わされていることを考えれば「そりゃ多少はそうなるよね」と擁護できる範囲ですし。
 若干悪役として描くっていう脚本の意図が見え隠れしてるのも含めて、どうも私は彼女の事を悪く言いたくは無いんですよね。何回も言ってる通り、彼女の決断自体は間違ってないんですから。
 皆さんはどう思いますか?



 最後になりましたが、あいかさた さん、そーう さん、TRTRMG さん、Πνευμα さん、カマキリムジン さん、メイプルアルパカ さん、ああああああああああああああああああ さん、評価付与ありがとうございます!
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