【本編完結】黒く濁った罪を背負って   作:RH−

12 / 101
今話は解釈違いが発生する可能性が高そうです…………。


生徒の味方(先生)として

 一体どうすれば…………。

 気を抜けばみっともなく頭を掻きむしって爪を噛んでしまいそうだ。ミレニアムの生徒会長としてそんな不合理極まりないことをしている暇は無いのだが。

 

「…………はぁ」

 

 それでもため息が零れてしまうあたり、彼女の心労が相当なものであることが窺えるだろう。

 それもそのはず、管制塔の最上階からエリドゥを眺める彼女の視線の先には、手塩にかけて作り上げた近代的な街並みを完膚なきまで破壊するようなクレーターが見えているのだから。

 

 

 始まりは随分と唐突だった。

 ゲーム開発部に呼ばれただけのはずだった先生がなぜか『名もなき神々の王女』を目覚めさせ、さらには廃墟から連れ出してくれたせいで、計画の前倒しであったりアリスと名付けられた少女の真価を見極めるための策であったりを考えさせられていたある日。

 

 なんの前触れもなく現れた黒ずくめの何者かによって、AMAS計30機余りとエリドゥの一角が破壊された。

 監視カメラが接近者を報告した時は迷い込んだ生徒だろうと思ったそれは、私の想定を遥かに超えた厄災を齎す存在だったのだ。

 

 襲撃はそれだけで終わらず、既に三度にわたって行われている。その全てでエリドゥは壊滅的な被害を与えられ、そして『名もなき神々の王女に手を出すな』という置手紙だけが残された。

 現時点で全体の70%まで完成していたエリドゥは40%程度にまで破壊され、AMASに至っては作成していた機体の8割近くが失われた。

 

 

 ここまでの妨害を受けた時点で当初のプランは破棄せざるを得ない。強力な要塞であり、同時に切り札であるトキのアビ・エシュフの真価を発揮させられるエリドゥがこんな状態なため、そもそも強硬手段が取れなくなったのだ。

 迂闊な事をしてアレの標的がミレニアムにまで飛び火してしまえば……嫌な想定だが、壊滅的な被害を受ける可能性も低くは無いだろうという現状では、都合の良い打開策など浮かぶわけもなく。

 

 

 掲げる到達目標が『名もなき神々の王女』の破壊である以上、アレと敵対するのは必至。だというのに、現時点で私が持ちうる全戦力を投入してもアレに勝てるビジョンが見えてこない。

 単体でも強力な兵器であるはずのAMASを鎧袖一触に薙ぎ払い、非常時のシェルターとしても設計している街を単騎で破壊できる。

 

 生徒会長という役柄上、自校だけでなく他校も含めた所謂『強い』と言われている生徒を数多く見てきたが、その中でもアレは群を抜いている。もはや次元が違うと表現できるほどに。

 

 

 もちろん対抗するためにもアレについては調査している。

 その特徴的な容貌やつい最近騒ぎを起こしていたこともあってかある程度の情報は集まったが……しかし一定以上の情報は得られなかった、というのが現状なのだが。

 名前とアレにまつわる噂は簡単に出てくるのに、それ以外の拠点であったり経歴であったりといった情報が一切得られないのだ。まるで()()()()()()()()()()()()()かのように弱点になり得る情報が見つからないせいで、捉えられたのは都市伝説のような不鮮明な輪郭のみという始末である。

 

 

「…………」

 

 室内を歩き回りながら思考を巡らせる。

 

 マクガフィンと名乗るアレは一体何なのか。

 なぜ名もなき神々の王女を知っているのか。

 どうやってエリドゥの事を探ったのか、そもそもなぜ私の計画を知っているのか。

 アレの振るう力は一体何なのか。

 

 しかし、やはりと言うべきか浮かんでくるのは答えの見えない疑問だけ。

 

「無名の司祭からの刺客? …………違うわね」

 

 アレが無名の司祭の手勢ならば、こんな回りくどいことをせずに直接AL-1Sを回収しに向かうはず。あそこまでの力があればミレニアムに襲撃をかけることも不可能ではないのだから。

 

「分からない」

 

 どうにか正体を看破しようと仮説を立てるも、分からない事が多すぎるせいで空振りに終わる。

 武力という面で圧倒的な差があるというのに情報のアドバンテージまで握られている、という現状の厄介さを改めて認識しながらも、リオは考えることを止めない。

 

 

「私は、ミレニアムの生徒会長なんだから」

 

 

 呪いのように呟かれた言葉を聞き届ける“誰か”はどこにもおらず、彼女の重責はどこまでも続いていく────そう、思っていた。

 彼女に協力者と『先生』ができた、あの日までは。

 

 

 

 

 

 

 

────────

 

 

「つまり……「あの存在」の本質は……」

「ええ。アリス、あの子は────」

 

 

「世界を終焉に導く兵器」

「『かわいい後輩』ですよね♪」

 

 ミレニアムプライスも終わったある日のこと、先生(わたし)は普段の笑顔を苦々しいものへと変えていた。

 

 場所はミレニアムタワー内の一室、突然ヒマリに呼び出されたかと思えば「私が合図を出すまで、この部屋で隠れていてください」とだけ言われ。

 きっと何か意味があるのだろうと信じてじっとしゃがんでいれば、呼ばれていない私が聞くのは明らかにマズそうな話が始まり。

 

 そして結論が対立したヒマリとミレニアムの生徒会長────たしかリオと呼ばれていただろうか。彼女たちの口論が始まった、というのが現在である。

 

 

 いい加減、腰と心が痛くなってきたし出てはダメだろうか。

 ……ダメなんだろうなぁ。ヒートアップしてしまっている今、私が姿を現しても話をややこしくするだけだ。

 

 しかしながら、生徒たちが声を荒らげて口論しているというのはかなり心に来るもので。

 

「あなたも分かっているでしょう。『名もなき神々の王女』、あのオーパーツが起動されてしまえば被害はミレニアムだけでは済まないのよ!? キヴォトスが……いえ、世界が終わってしまう。その前に破壊しなければ」

「いいえ、あの子は『アリス』です。世界を滅ぼす『名もなき神々の王女』でも感情を持たない『AL-1S』でもありません。ミレニアムサイエンススクール1年、ゲーム開発部に所属している私たちのかわいい後輩です」

「いい加減にして! 私はそんな詭弁を語るためにこの場を設けたわけじゃないの!!」

「そちらこそ独りで何もかも抱え込んで突っ走るのはいい加減にしたらどうです!? ミレニアムの誇る《全知》である私ならともかく、あなたには抱えきれない重荷というのもあるでしょう!」

 

 それも、この2人は私が廃墟から連れ出したアリスについて言い争っているのだ。だいぶメンタルに来る。

 

「リオ、そもそもあなたには誰かに助けを求める以外の選択肢は無いはずです」

「それは…………」

「強硬手段に出るだけの余力が残されていないから、こうして交渉が決裂したというのに私と非合理な言い争いをしている。そうでしょう? ……そろそろ素直になったらどうです」

 

 痛いところを突かれた、というように言い淀むリオ。

 よく聞けば彼女の声にはどこかくたびれた色が含まれており、相当追い詰められているらしいというのが読み取れる。

 

 

 …………私の知らないところで、生徒が追い詰められていた。それも、きっと頑張れば目の届かせられた場所で。

 久々に自分の力の足りなさを痛感させられた気分だ。

 

 今回こうしてヒマリが手を打っていなければ、おそらく私はリオの苦しみに気付くことができなかった。それどころか、アリスを殺そうとする彼女と敵対していたかもしれない。

 ……いや、正直に言おう。きっと私はリオの敵になってしまっていた。彼女が強硬な姿勢を貫いていれば、そして彼女が追い詰められていることを知らなければ、私はその計画の最大の障害として立ち塞がっていた。

 

 私は『先生』で、リオは『生徒』だというのに。

 

 もちろん、彼女のアリスは消えるべきだという考えに同意することはできない。それに同意するには私はアリスのことを知り過ぎてしまったから。

 私の中で、アリスは既に『名もなき神々の王女』ではなく一人の『生徒』になっているのだ。

 

 そんな生徒の命が奪われるだなんていう事はあってはいけない。

 そして同時に、生徒が誰かの命を奪ってしまうだなんていう事も。

 

 

「セーフハウスは半壊、その上用意していた戦力は大半が無に帰した。この案件は、あなた一人で処理できる範囲をとうの昔に過ぎている。もちろん、私が一人で対処できる範囲も」

「それは……」

「リオ、一度ハッキリと言わなければいつまでもあなたは理解しなさそうなので言います。人が一人で努力したところで、できる事など高が知れているんです。あなたの失敗はそこですね」

「…………」

「確かにあなたの能力は高いでしょう。ええ、そこに関しては私も同意します。ですが、あなたは何もかもを一人で行おうと……他者の多くを“変数”として管理しようとする。それ故にあなたは理解者を、賛同者を得られなかった。それではいけないんです。立ち行かなくなる瞬間が、いずれ訪れることになるんですから」

 

 

 段々と熱が込められつつあった語りをそこで一度切ると、一拍置いてから彼女は口を開く。

 半ば無意識での行動。しかしその一拍は次の言葉を強調する静寂を生み出し、彼女がこの対談で企図していた提案をより鮮烈なものへと昇華させた。

 

 

「ですので。ここで正直に『助けて』と言ってくださるのならば、仕方ありません。この超天才清楚系病弱美少女である私の力を貸してあげましょう。それに、力を貸してくれるのは私だけではありませんよ?」

 

 

 誰かに呼びかけるような声。ようやく、ヒマリから合図をもらえたようだ。

 私はなるべく格好が付くように身を隠していた場所から体を出すと、敵対の意図が無いことを示すためにも笑みを浮かべながら語った。

 

「初めまして、私は先生。信用ならないかもしれないけど……リオが許してくれるのなら、できる限りの力を貸したいと思っている大人だよ」

 

 どうだろうか。最初にかける言葉としては悪くない出来だと思いたい。

 

「なっ、先生!? どうしてここに────いえ、そもそも何故机の下から!?」

「先生…………私は確かに隠れていてくださいとは言いましたが」

 

 しかし、そんな私の思いは必死に目を逸らしていた事実によって無駄になったようだ。

 

 

 そう、私が隠れていた場所は彼女たちが対面して座っていた机の真下だったのだ。

 

 

 待ってくれ、誤解しないで欲しい。

 生徒たちよりも身長の高い私にとって、この部屋には身を隠せる物陰がほとんど無かったのだ。それに、てっきり私は誰かにドッキリでも仕掛ける程度の軽いものだと思っていたのだ。あくまでも、こんな会議を聞かせるためだとは欠片も予想していなかったのである。

 

 もちろん目は固く閉ざしていたし、鼻孔をくすぐる香りも意識から締め出していた。いい香りだなんて欠片ぐらいしか思っていない。

 

 テーブルクロスのようなカバーが掛けられていたのもあって隠れるのに都合が良かっただけで、これは不可抗力なんだ。信じてくれ。

 

 

 そんな意思を込めて二人の目を代わるがわる見つめ返すが…………そこにあるのは頬を染めながらの呆れた視線と、それだけで人を殺せそうな冷ややかな視線だけだった。

 

「シャーレの先生……ゲヘナ風紀委員の足を舐めて回る変態だと聞いた事があったけれど。まさか事実だったなんて」

「流石にこれは超天才清楚系病弱美少女である私にも擁護できませんね」

「はい……ごめんなさい…………」

 

 どうやらリオへの第一印象は『変態』になってしまったようだ。

 ちょっと泣きそうだ。

 

 

 

 

 

 

「ともかく、話を戻しましょう。リオ、あなたはどうするのですか?」

「それは……できるのならあなたの助力は欲しいわ。けれど、私とあなたの結論は────」

「ああもう、だから! 妥協案を探すことも含めて、協力して欲しいと言えばいいんですよ! まだ取り返しのつく段階なんですから! 横領に関しても……責任を取る必要はあるでしょうが、あれほどの脅威が存在したのなら多少の弁明もできる訳ですし」

 

 じれったそうにリオの言葉を遮って言うヒマリ。

 心なしか、その頬はさっきよりも赤くなっているように見える。

 

「ヒマリはリオを助けたいんだね」

「だ、誰がリオを助けたいですって!? 私は何でもかんでも自分一人でできるだなんて思いこんで抱え込もうとするような人なんて大っ嫌いですが!?」

「……ええ。大丈夫よ、私があなたに好かれる行いはしていないという事は理解しているわ」

「ああ~~、もう!」

 

 いつも泰然としているヒマリが呼吸を乱されるという珍しい光景を眺めて頬を緩めていると、決意を固めた表情でリオが頭を下げる。

 

「いまさら図々しいことだと分かっている…………それでも、どうか。ミレニアムのみんなを守るために、私に力を貸してほしい」

「そこまで言うのなら、仕方ありませんね」

「うん、私にできることなら喜んで……ところでヒマリ、顔がにやけているよ」

「なっ!? 気のせいですよ!」

 

 どこか嬉しそうに顔をほころばせているヒマリ。

 少しからかってみると思っていたよりもかなり可愛らしい反応が返ってきた。普段ならこの程度「超天才清楚系病弱美少女である私の笑顔を見たいというのは分かりますが……」ぐらいは言ってきそうだが、やはり今はペースが乱れているらしい。

 

 そんな珍しく年頃の少女らしい表情を見せた彼女をにこやかに見つめていると、その視線に気付いたらしいヒマリにポカポカと叩かれた。

 

「……仲がいいのね」

 

 こうして、どこか抜けた雰囲気で私たちの協力関係は始まったのだった。

 

 

────────

 

 さて、そんなこんなで隔日レベルで定期的に開かれるようになった会議。

 協力関係を築いた初日を含め、今回で三回目となるそれの進捗はどうなのかというと……踊るばかりで中々進まず、というのが実情だった。

 

「あなたは、事態の解決に繋がるのならすぐに短絡的な方法を選ぼうとする癖をどうにか直してください。これで何回目ですか」

「そうは言うけれど、これが最も合理的なのはあなたも分かっているでしょう?」

「だから、その合理だけで物事を推し進めようとするのをやめなさいと言っているんです。ここまで来て『合理的だから』なんて理由で一人で推し進めようとしたら張り倒しますよ」

「まあまあ、いったん落ち着いて」

 

 原因については見て貰えば分かるだろうが……多少強硬であろうとも最短で解決を図ろうとするリオとそれを嫌うヒマリの間で、かなりの頻度で意見が対立するのだ。

 もっぱら私はその間で折衝のまねごとをするのが役割になってしまっている。

 

「そう言うのなら、先生はどう思うのかしら?」

「えっと……?」

「基本的に仲を取り持とうとするばかりで────言い方が悪かったわね、そのことには感謝しているわ。……そうじゃなくって、先生はどういうスタンスで事に当たろうとしているのかしら。意見を交換するためにも、そこのところははっきりさせておいて欲しいのだけれど」

 

 しかし、どうやら今日は私にも別の役回りが求められているようだ。

 もともと私も“クッション役”として協力するつもりではなかったので、その要請に否は無いのだが…………伝え方には気を付けなければならないだろう。そうでなければ、いたずらにリオを傷つけるばかりか再び彼女の暴走を引き起こしてしまいかねない。

 

 話す内容を十分に整理すると、私は口を開いた。

 

「そうだね……心情的には、ヒマリと似た感じかな。アリスのヘイローを破壊したくはないし、リオにもそんな罪を背負ってほしくない」

「そう……あなたもそうなのね。…………けれども、他の選択肢が無くなった時にどうするのかは決めておかなければならない。責任を負うものを名乗るなら、先生にも理解できるでしょう」

「うん、それは事実だ。だけどね? それは私が考えるべき事であって、君たちが思い悩む必要はないんだ」

 

 落胆したように目を伏せるリオに語りかける。

 できるだけ優しく、私は君の味方でもあるのだという事を伝えられるように。

 

「…………馬鹿にしているのかしら。私はミレニアムの生徒会長なのよ?」

「でもその前に君は一人の生徒だ。私の守るべき、かわいい生徒なんだ」

「だから目を逸らせばいいと? 自分で考えることを止めた先にあるのは破滅だけよ」

「そうじゃないんだ。そうじゃなくて……私は生徒たちには希望を持って生きていてほしいんだ。学校に通って、勉強をして、友達と何気ない会話を楽しんで。放課後にはどこかに遊びに行ったり、時には喧嘩もしたり。そんな当たり前の、何ものにも代えがたい奇跡(日常)を生きていてほしい」

 

 一度そこで言葉を切ると、一呼吸置きながらリオの顔を見つめる。

 

「もしそれができないというのなら。世界を救う重圧に耐えなければならないだとか、誰かを殺してみんなに恨まれるかもしれない、なんて考えなければならないというのなら。生徒(こども)が、そんなものを抱えなければならないというのなら」

 

 

「それは、先生(わたし)が取るべき責任なんだ」

 

 

「決して。何があろうとも。子ども(君たち)が責任を負うだなんてことは、あってはいけない。それはあくまでも大人が負うべき義務なんだ」

「それは……それは、傲慢に過ぎるわ。あなただって同じ人間で────」

「そしてリオは『生徒』で、私は『先生』だ。……自力で君の苦しみに気付いてあげられなかった私が言っても、信用ならないかもしれないけれど。少しだけ、私に格好を付けさせてほしいな」

 

 そう告げると、リオはどこか呆れたようにしながら口を開いた。

 

「あくまでも、あなたは理想を語り続けるのね」

「うん。たぶん、指導者としてはリオのように合理を重んじる方が良いんだと思う。けれど、私は希望を────奇跡を諦めたくない。きっとどんな状況でも、私は同じ選択をするよ」

「現実を見て、その上でなお理想を目指してあがき続ける。それがあなたなのね」

 

 眩しいものを見るように目を細めると、彼女はそう呟いた。

 

「けれど、やっぱり私はあなたのようにはなれそうにないわ。どうしても、悲観的な想定をしてしまうの。癖みたいなものね」

「そっか…………」

「でも、あなたが希望を語ってくれるというのなら。奇跡を思い出させてくれるというのなら……そうね、隣に居てほしいと思ったわ」

 

 そういう事もあるよね、と語ろうとした私の言葉を遮るように告げられたリオの思い。

 予想だにしていなかったその内容に豆鉄砲を受けた鳩のような表情をしてしまった私へ、薄く微笑みながら彼女は畳みかけるように言の葉を紡いだ。

 

「だから。よろしく頼むわ、先生?」

「う、うん」

 

 ようやく覗かせてくれた笑顔。普段あまり表情を動かさないリオだからこその破壊力、とでも言うのだろうか。

 かつてカイザーPMCの魔の手からホシノを救い出した時のように、安堵やら綺麗さやらで先生はその笑顔に見惚れてしまい────

 

「コホン……その、いい雰囲気のところ申し訳ないのですが。そろそろ本題に戻らさせてもらってもよろしいでしょうか?」

「あ、ああ。そうだね」

 

 そんな先生の硬直はどこか気まずげなヒマリの言葉で霧散したのだった。

 

 

 

「さて、ひとまずアリスちゃんに関しては経過観察に留める……といった形で良さそうですが」

「そこは私も異論はないわ。今のところは下手に手を出すメリットも無いわけだし」

「…………」

「先生? 何やら硬い顔をしておられますが、どうかしましたか?」

「うーん、ちょっとね」

 

 改めて進行し始めた会議。

 議題として挙がったアリスについて少し考え事をしていると、どうやらそれが表情に出ていたようで、ヒマリに質問されてしまった。

 

「まだ言うのかって感じかもしれないけど……どうしてもアリスが世界を滅ぼすとは思えなくってね」

「それは……そうですね」

「まあ、そういった兆候が一切見られていないという点は同意するわ」

 

 そう。アリスが世界を滅ぼす『名もなき神々の王女』だというのが、どうしても腑に落ちないのである。

 今のアリスはどれだけ注意深く見ても“おてんばな少女”としか表現できない子どもで、誰かが傷付けば自分の事のように心を痛められる優しい子なのだ。

 

 もちろん、リオの言っていることを疑っているわけではない。『廃墟』という未だ謎多き場所でアリスを目覚めさせ連れ出したのは自分なので、その異常さはよく理解しているつもりだ。

 それ以降も、人並外れた膂力や傷の治癒速度などを見る機会は多くあったのだし。

 

 

 しかし、むしろそのチグハグさが釈然としないとでも言えばいいだろうか。『彼女ならできるのかもしれない』とは思うが、『実際に彼女がするのか』と聞かれれば否だと思うのだ。

 どうやら二人もそのことには違和感を覚えているようで、同意を示してくれた。

 

「何か……それこそ、アリス以外の要因が『名もなき神々の王女』には必要だって言われた方が納得できるというか…………」

「アリスちゃん以外の────」

「────要因!」

 

 そんな考えを整理するためにも独り言を呟いていると、どうやらそれが聞こえたらしいヒマリとリオが大きな反応を示した。

 

「リオ、何かそれらしい情報は残っていましたか?」

「……思い出せる範囲では無いわ。けれど調べる価値はありそうね」

「ええ。私の方からも手掛かりを探してみます」

 

 突然の大声に私は驚いたのだが、どうやら二人はそれが気にならないぐらい興奮しているようで。私を置いたまま早口で会話を進めている。

 私のどうでもいいような呟きが踊るばかりだった会議を進展させたのならそれは嬉しいが……その流れに付いていけずに蚊帳の外となってしまったのは少し残念だ。

 

 とはいえ新たな手掛かりを調査するという結論が出てしまえばその勢いも止まってしまうもので。

 急に大きな声を出したことに僅かばかりの恥ずかしさを覚えつつもリオとヒマリは先生にその結論について説明すると、次の議題へと移るのだった。

 

「……」

「……」

「……」

 

 が、ここで再び沈黙が場を支配する。

 何故か? 次の議題────即ち『マクガフィン』という謎多き襲撃者について、単純に誰も話せる内容が無いのだ。

 

 これでも以前よりも分かっていることは遥かに多くなっている。先生が黒服から聞いた話も含めて、アビドスで得たマクガフィンに関する情報を共有したからである。もちろん、ホシノやユメに絡むようなセンシティブな内容はぼかして、だが。

 しかし、『マクガフィン』だけでなく『薪浪アヤト』についての調査もヒットする情報はとても少なく、やはりその痕跡は念入りに消されているらしいという結論が出るばかりで空振りに終わった。

 

 判明した事実といえば、『カイザーPMCの拠点を襲撃し回っている』だとか『嗾けられたヘルメット団50人を無傷で壊滅させた』といった、おおよそ都市伝説であってほしかった噂が真実であったことぐらい。

 本当に欲しい『なぜ名もなき神々の王女について知っているのか』、『何を目的にエリドゥを襲撃したのか』といった情報は手掛かりすら掴めず、ただ相手との戦力差が明らかになるばかりの現状では、黙り込んでしまうのも仕方のない話であろう。

 

「ん……?」

 

 ふと、そんな沈黙を破るように先生の端末が音を立てた。

 そのピロンという通知音に反応して見れば、どうやらモモトークで誰かがチャットを送ってきたようだ。誰だろうかと通知を見た先生は途端にニヤリと口角を上げると、怪訝な表情の二人へと語りかける。

 

「マクガフィンに関してだけど……頼りになる協力者ができそうだよ」

 

 彼の視線の先には、『ホシノ』という3文字が表示されていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 これは個人的な解釈なんですが、ヒマリはリオそのものを嫌っているんではなく『何でも一人で抱え込もうとする』部分であったり、『一から十まで管理下に置こうとする』部分を嫌ってるんじゃないかなって思うんですよね。

 デカグラタンマン調査なんかでは協力できていたわけですし。

 

 始発点編で辛辣になっていたのはかわいがっている後輩を殺されかけたからで、もし計画段階で踏みとどまれたならあそこまでにはならないんじゃないかなぁ。

 

 なので、この世界線では『マクガフィンっていう問題が更に積み重なった結果見てられなくなった+彼が脅威として暴れ回った結果リオの対処にも理解できる部分ができた』ってことでヒマリが助けを出したって感じでいかせてもらいます。いやだって避けられるなら生徒がいがみ合うような展開って避けたいじゃないですか。

 …………ところで、これってやっぱり“キャラ崩壊”のタグ付けるべきですかね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 ミレニアム某所、『廃墟』にほど近い区画にて。

 コツコツと音を立てながら歩く大人の影が一つ、存在した。

 

「アビドスでは機会に恵まれませんでしたが……今回こそお話を伺いたいものです」

 

 片方の手で白とスカイマゼンタを基調としたクラゲらしき印象を受ける機械を引きずり、反対の手ではペンライトのようにも見える細長い円柱形の何かを弄びながら、彼は独り言を零す。

 

「使い捨てにしては効果は中々。しかし材料が限られていることを考えると……費用対効果はイマイチですか。それに、《不可解な軍隊》相手には想定外の副作用も見られましたし」

 

 クルクルと回していた棒状の何かを懐にしまいながらそう呟くと、真っ黒な大人は再び歩を進め始める。

 

 その脳裏に浮かべるのはついさっき行ったばかりの実験。僅かに収集できた彼の神秘────その残滓とも呼ぶべきモノを原料にゴルコンダ・デカルコマニーと共同で開発した爆破兵器、『神秘の激発』をdivi:sionへと使用した結果。

 王女に呼び寄せられて溢れ出しただけで起動命令も出されていないはずのソレは、彼の神秘に破壊される前に一瞬だけ完全起動を果たしたのだ。

 

 周囲に純粋なエネルギーを放出するだけの兵器としてデザインした『神秘の激発』では起こり得ない反応である。

 その分析のためにも無駄にかさばるdivi:sionを引きずりながら、どこか楽し気な様子で彼は拠点へと戻っているのだ。

 

「ああ、実に興味深い」

 

 

 世界に紛れ込んだ、小さな砂粒。

 それによって生まれた運命の歯車の歪みは、着実に大きくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




THE TOWER XVI さん、クロノワール@90153 さん、ハーメルンをハールメンと読み間違えた馬鹿 さん、ミズミズミミズ さん、シュラバスキー さん、旋風士 さん、ヨッシー2号 さん、PJM さん、シャッガイ さん、未完のねここ さん、評価付与ありがとうございます!
感想・ここすき含めて日々の励みになってます!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。