似合わなくはなさそうだと思ったけど、正面切っての直接戦闘が得意な黒服って解釈違いだしそこまでの戦闘力持たせたら収集付かなくなりそうってことでやめましたが。
あ、そうそう。今話は場面切り替えが多くなっちゃったので読み辛いかもですm(_ _)m
それは、なんて事の無いある日の昼下がりのことでした。
モモイにネタ探しのクエストを発注されたアリスは、今日は《ダンジョンアタッカーの勇者》としてミレニアムの自治区端あたりにまで冒険に出ていたのです。
まばらになった建物に人気のない寂れた道路、目を凝らせば遠くには崩れかけのビルも。少し遠出したことで普段は見かけない景色に囲まれながら、何か面白いものはないかあたりを見回していたアリスは、キラキラと光る不思議な糸を見つけました。
風に流されて飛んできたそれは、手に取ってみると煙のように消えてしまいました。まるで手品みたいです。
うすい靄のようになってもその糸は不思議な雰囲気を醸し出していて、アリスはそれがなんなのか気になったので、風上の方へ向かうことにしたのです。
「パンパカパーン! アリスは《探偵勇者》にジョブチェンジしました!」
そうしてしばらくの間道なき道を進むと、不意に広場のように開けた場所が目の前に広がりました。そんな広場を眺めながら、ここまで登ってきた瓦礫の山の上でアリスはくんくんと匂いを探ります。
「事件の香りがします。探偵勇者の目はごまかせませんよ! ……でも、今回は目じゃなくて鼻でしょうか?」
今のアリスは探偵勇者なので、スキル『探偵の嗅覚』があるのです。一見何も無いように見えても、このスキルの前ではどんな事件も見逃されることはありません!
「ふむふむ、こっちの方ですね」
直感の赴くままにあの糸の出どころを探っていると、その先であの人は佇んでいました。
どこか整えられた雰囲気のしたさっきの広場とは違い、力ずくで乱雑に押し広げられたような小さな空間。瓦礫やなんとなく見覚えのある気がする機械の残骸に囲まれたその人は、こちらに背を向けたまま何かを呟いているようでした。
「は? なんでここにアリスが…………!? おかしいだろ!?」
その声は小さすぎて聞き取れませんでしたが、何か困っている気配を感じ取ったアリスは意を決して話しかけることにしたのです。
「どうしたんですか? 何か困ってるのなら、お助け勇者のアリスが助けてあげますよ!」
「…………」
しかし、返ってくる言葉はなく。さっきまでの独り言をやめると、目の前の人はピタリと動きを止めてしまいました。
滅多に経験してこなかった気まずい沈黙にあわあわとしていると、少ししてからその人は振り返って「いや、申し訳ない。こんなところで人に会うとは思ってなかったもので」と話してくれました。
けれど。
アリスはその言葉に答えることができませんでした。
先生と同じ男の人間だったからでしょうか。それとも、初めて会うはずなのにこの人の
いえ、きっとそうではなく。
ただ、この人がとても悲しそうな、辛そうな眼をしていたから。今にも泣きそうな眼をしていたから。
「大丈夫、ですか? 何か、辛いことがあったんですか?」
「…………ッ」
アリスの口からは、気付けば言葉が漏れていました。
こんなにも悲しい瞳をした人を初めて見たからです。こんなにも苦しそうに立っている人を、初めて見たからです。
「君は優しいんだね。……でも大丈夫さ。俺は大丈夫」
やがて、彼は微笑みながらそう答えました。まるで自分に言い聞かせるように。
とても寂しくて儚い、透き通った笑顔でした。
「アリス。誰が何と言おうと、君は勇者だ。だから、君のその誰よりも優しい『勇者』の在り方を失わずに生きていけることを、祈っているよ。ありがとう」
アリスが口を開く前に、それを遮るようにその人は言いました。
優しい口調なのに有無を言わせないような、そんな不思議な雰囲気でした。
「────そして。できるのなら、君の中の『もう一人の君』を否定しないであげてほしい。きっと彼女には、生まれ持った使命以外にすがれるものが、まだ何も無いんだ」
その言葉が合図だったかのように、ゴウ、と一陣の強い風が吹き抜ける。
「わわっ」
思わず髪を抑えて目を閉じたアリスが再び目を開いた頃には、そこには誰もいませんでした。
あの人も、見覚えのある気がした機械も残っておらず、そこには瓦礫がうず高く積み上げられた山があるだけ。何の痕跡も残さず、まるで幻だったかのように全てが消えていました。
「────リスー? アリスーー!?」
あの人は何者だったのだろう。なぜあんなにも悲しそうだったのだろう。あの人は何を伝えてくれたのだろう。
次から次に湧いてくる疑問を終わらせたのは、遠くから聞こえたモモイの呼び声でした。
「あ、いたいた。もー、どこまでいってるのー? 心配したよ?」
「……アリス、魔法使いさんに会いました。とても寂しそうな、魔法使いさんに」
「えっ何それ!? すっごいネタになりそう!!」
いつも通りに元気なモモイに手を引かれ、柔らかな夕日に照らされながら、そうしてアリスは部室へと帰るのでした。
────────
「気持ち悪い」
もはや口癖になりつつある言葉を呟きつつ、吐き気をこらえるために瓦礫の陰に座り込む。
今日は────いや、しばらくは何も無いはずだった。
エリドゥへのサボタージュは完了した。divi:sionに関しては《廃墟》の内側で俺が、外側でC&Cが間引いているため事件が起こるのは当分先の話。念のため確認したゲーム開発部も原作と変わりない形で落ち着いていた。
だから、何も無いはずだった。
こんな状況でアリスと遭遇することになるなんて予想できるわけがなかった。
それも、繋ぎ手の店の近くにまで偶然アリスが辿り着いて、丁度そのタイミングでいつもの装備の解れなどを直してもらうために俺が来ていて、さらに偶然空き時間で付近のdivi:sionを処理していた俺と出会うだなんて。
ああ、にしても。「『勇者』の在り方を失わずに生きていけることを、祈っている」? 「君の中の『もう一人の君』を否定しないであげてほしい」? 随分と偽善に満ちた言葉だ。吐き気がする。
────相変わらず御大層なことばっかり吐く口だなぁ? で、オマエは何をやってんだ。
……ハハッ。そりゃそうだ。
「自己嫌悪で吐きそうになってる暇なんて、無いよな」
足に力を入れて無理やり立ち上がる。まだ視界は歪んでいるが、口角を上げることもできた。
最初にこの道を選んだのは俺なんだ。逃げるわけにも折れるわけにもいかない。
────有言実行、期待してるぜぇ?
「ああ、期待していてくれ」
嘲るような自分の声に別れを告げると、俺は一歩を踏み出す。
まずは装備を返してもらって、それに繋ぎ手にこの店を放棄するよう言わなければ。
そんな彼の神秘は、僅かに
────────
「生徒会長なら、分かってくれると思ってたのに…………っ!」
一人の生徒が乱暴に音を立てて生徒会室の扉を閉めるのを、調月リオは静かに眺めていた。
その表情は常と変わらぬ仏頂面であるように見えるが、よく見ると固く引き締められた口は何かを堪えているようにも思える。
「……はぁ。ままならないものね」
先ほどまでセミナーに直談判に来ていたのは『オーパーツ研究部』の部長である。
部員数5人という小規模な部であったが、これまでは部活動の設立要項を満たしていたこともあり楽しく活動していた部だ。話が変わったのはここ最近で、設立要項に活動成果が求められるようになってからだった。
かつては『ヴォルフスエック鋼鉄を用いた合金の開発』や『マンドレイク液の効率的な抽出法』といった様々な研究を行いミレニアムの技術力発展にも寄与したオーパーツ研究部であるが、いかんせん扱う対象が貴重なオーパーツであることや部員数の減少に伴い、この数年間は目立った功績が挙げられていなかったのだ。
そうなると予算や器具などの規模を縮小してもらわざるを得ない。
それに反発した部長がさっきまでどうにか処分を撤回させようとセミナーに突撃していた、というのが起こった事のあらましである。
彼女の希望的観測が多分に含まれた言い分────中には『廃墟を探索できれば新たなオーパーツを発見できる』などといった到底認可できない内容もあった────や出ていく直前の失望を露わにした視線を思い出し、どうして理解してもらえないんだろう、どう伝えれば良かったのだろうとリオは思考を巡らせる。
そんな時間の終わりを告げたのは、コンコンという扉をノックする音だった。
「そろそろ定例会議の時間だから呼びに来たんだけど……おじさん、タイミング悪かったかな」
「いえ、問題ないわ」
そのまま扉を開けて室内に入ってきたのは、桃色の髪をした小柄な少女。どこか眠たげなまったりとした声の彼女こそ、リオたちが抱えていた戦力不足という課題を補う最後の同盟者。そして、マクガフィンと並々ならぬ因縁がある人物でもある。
すなわち、アビドス高等学校3年生にしてアビドス廃校対策委員会委員長の小鳥遊ホシノである。
「ところで、ホシノさん」
「どしたの、リオちゃん」
既に何度か顔を合わせていることもあり、完全に打ち解けるとまではいかずとも当初のぎこちなさは解消された二人。
もっとも、ホシノはいつものゆる~い状態であるため、まだ壁が残っているのはリオの側があと一歩踏み込めていないからであるのだが。
「いつもは先生が呼びに来ていたと思うのだけど……何かあったのかしら」
「いや~、実はね。先生、昨日徹夜してたみたいでちょっとしんどそうだったから。代わりに私が呼びに来たんだ。あ、ちゃんと他の子たちには見つからないようにしてるから。そこは安心してね~」
他校の生徒が付き添いも無しに校内を歩き回っていた、というのは中々に扱いに困る問題になる。その上今回はホシノがミレニアムに来ている事情というのは易々と説明できないのだ。
そのことを心配して聞いてみれば、彼女もそこは織り込み済みだったようで。
「それは助かるわ。…………にしても、先生の仕事は溜まっているのかしら。そうなら少し申し訳ないわね」
「ああ、そうじゃなくて。先生、徹夜で新作ゲームを遊んでたみたいでね。グラフィックがー、とか大人気シリーズの最新作でー! って感じですごい勢いで魅力を説明されたけど、おじさん若い子の話はついてけなくって困っちゃったよ」
「はあ…………」
てっきり自分のせいで負担が増えたのだろうと思えば、彼はただゲームをしていただけだったということへの呆れ。
そもそも今だってそこまで余裕のある状況ではないと思うのだけれど違ったのかしら、という疑問。
そんな彼に“らしさ”を感じている自分への驚き。
先生を『若い子』と呼んだけれど、ホシノさんは私と同学年ではなかったかしら? という困惑。
諸々が重なったことで、中途半端な生返事をするしかないリオなのであった。
と、そんな隙を突くかのようにホシノが口を開く。
「ところでリオちゃん。ずいぶん辛そうな顔してたけど、大丈夫?」
「それは……そんなに表情に出てたかしら」
「出てたね~。だからタイミング悪かったかなって思ったんだけどね」
核心を突かれたリオは一瞬ごまかそうとするも、無駄だと諦めて素直に内心を告げた。
この小さな協力者は醸し出す雰囲気とは裏腹に警戒心や観察力が高いらしいというのを、何度かの付き合いで把握しているからである。
「ま、おじさんは部外者だから深くは聞かないけど。でも、あんまり抱え込んじゃダメだよ? ……その辛さは、ちょっとは分かるつもりだからさ」
「それはヒマリにも何度も言われているわ。心配してくれて……その、ありがとう」
「い~よい~よ、このぐらい。相談も先生やヒマリちゃんなら喜んで乗ってくれるだろうし、ちゃんと頼るんだよ? もちろんおじさんも乗るけどね~」
もしかしたら部外者の方が話しやすいこともあるかもしれないしね、と話しながらホシノは傍らの長身な少女を見上げる。
自分の声かけに効果があったのかは分からないが、その相好がわずかに崩れていることを見て取ると、彼女は「この感じならそこまで心配いらなかったかな?」と考えた。
「それじゃ、行こっか」
となればここで話し込む意味もあまり無い。他の生徒会役員がいないことは確認して来ているが、何かの拍子で戻ってくる可能性もあるのだから。
「あの……」
しかし、そんな彼女を呼び止める声が一つ。
当然ながら室内にはホシノとリオの二人しかいないため、声を上げたのは部屋の主たる生徒会長である。
「それなら、相談に乗ってもらえないかしら…………」
まさか彼女が自分に、それもこんなすぐに相談をするとは思っていなかったホシノは驚きを露わにしながら振り返る。
しかし、その視線の先のリオもまた驚いたような表情である辺り────どうやらこれは半ば無意識での行動だったらしい。
「その、あなたもアビドスで後輩たちを率いている、のよね。どういう心構えでやっているのかしら」
「……ちょっと落ち着こっか。質問があいまいになっちゃってるよ」
「そうね、ごめんなさい」
スー、ハーと深呼吸をして考えをまとめると、リオは再び口を開いた。
「私はミレニアムの生徒会長として、みんなのためになる事をしているつもり。……けれど、『合理的すぎて怖い』、『あなたには人の心が分からない』と言われることもあって」
「それで、どうすればいいのか分かんなくなっちゃった?」
「いえ。もともと、『誰に理解されなくとも私は私にできることをやる』というのは決まっているの。ただ、やっぱり先生のように希望を語れる方がみんなの支えになれるのかしらって」
「うーん…………なるほどなぁ」
唸りながら、これは難しい問題だとホシノは考える。そもそも、自分自身が後輩たちに『先輩』としての姿を見せられているか怪しいとすら思っているのだ。他人にその心構えを問われても、自分も教えてほしいぐらいだというのが正直な感想である。
しかし、部外者である自分にわざわざ相談してくれた彼女には応えてあげたい。
ユメ先輩ならどう言うだろうか。先生なら、何を語るのだろうか。
ぐるぐると考えてみるも、やっぱり答えは『分からない』に尽きる。
ならば。
「リオちゃんは、おじさんが一年生だった頃の……生徒会の副会長だった頃の話は知ってるんだっけ?」
「……一通り調べさせてもらっている。気を悪くしたなら、謝罪するわ」
「ああいや、そうじゃなくって。その時の生徒会長…………ユメって名前なんだけどね。ユメ先輩は、その名前の通りすっごい夢見がちな人だったの。いっつも希望を語って、些細な日常の一コマを奇跡だなんて言って。何回も『夢なんか見てないで現実を見てください!』なんて生意気なこと言っちゃったりしたっけな。…………まあ、たまに私も一緒になってバカみたいなことやってたんだけどね」
「……? えっと、話の流れが…………」
相談内容とは関わりの無さそうな思い出語りをされて困惑するリオ。
「────けどね。どれだけイライラしたり、リオちゃんみたいに現実的になって欲しいって思っても、アビドス生徒会は私とユメ先輩で『アビドス生徒会』だったんだ」
しかし、ホシノはそんなリオの困惑を他所に話し続ける。
分からない先生やユメ先輩の言いそうなことではなく、他ならない『自分自身』の話を。
「リーダーの形って色々あると思う。どれが正解でどれが間違いだ、とかじゃなくってね」
「…………」
「ユメ先輩や先生みたいに奇跡を夢見る人もいれば、リオちゃんみたいに現実的に考えるタイプもある。でも、どんなリーダーにも支えてくれる人が、一緒に頑張ってくれる人が居ると思うんだ」
「……っ!」
目を見開いた彼女の脳内に誰の顔が浮かんでいるのかは、ホシノには分からない。
今目の前にいる自分かもしれないし、先生やヒマリちゃんかもしれないし、これまで一緒に活動してきたセミナーの子たちかもしれない。
けれど、きっと彼女だけの思い出が浮かんでいるはずだとホシノは思った。
「だから、リオちゃん一人でどう振る舞うべきか悩むんじゃなくて。支えてくれる人たちと、『セミナー』として一緒に考えて頑張ればいいんじゃないかな。リオちゃんは一人じゃないんだしね」
「私は一人じゃ、ない」
「でしょ?」
────なんて当たり前のことだろう。そして、どうして自分はこんな自明な事を忘れていたのだろう。
「そうね、そうだったわね。ありがとう、ホシノ」
「うへ、おじさんが助けになれたのなら何よりだよ」
差し当たっては、今取り掛かっていることについて後輩たちに打ち明けてみようか。もちろん、コユキには心からの謝罪と何かしらの補填が必要だろうが。
新しくできた小さな友人と歩きながら、調月リオはそう考えたのだった。
────────
そんなこんなで時は過ぎ行き。
その日、マクガフィンはミレニアムの校舎付近で身を潜めていた。
「いよいよだ」
ヴェリタスが数日前にdivi:sionをいくつか回収したのは確認している。
そして、今日先生がミレニアムに来ていることも。
事が起こるのは間違いなく今日だ。
「────ッ!!」
その時。探知用のために薄く撒いていた神秘が、divi:sionの起動を確認した。
閉ざしていた瞼を開き、クラウチングスタートで蓄えていた力を一気に解放する。崩壊までに僅かに存在するタイムラグ、その間に接近しきるためだ。
────第一段階、完了。
狙い通りケイが《光の剣》を撃ち放つ前に俺の射程内にまで近付けた。
瞬間、貫くような光が壁の向こう側から溢れ始める。目を刺すかの如き眩さであるが、周囲に広げた神秘である程度の状況を把握できる俺にとっては大した脅威にならない。
もっとも、汚染を避けるためにも神秘の密度はかなり薄くしてあるのだが。
それでもここまで近寄れれば十分だ。
まずは室内に広げていた神秘を膜のように収束させ、光の剣の破壊をなるべく上方向に誘導する。ヴェリタスやゲーム開発部ではアレが直撃するとかなり危険だからだ。
次に、天井が崩落したことで降り注ぐ瓦礫を神秘の糸で周囲に散らす。
といっても、干渉できるのは糸で除けやすい小さな破片ではなく頭に当たるとマズそうな大きいものだけだ。多少は瓦礫にも当たってもらわなければ怪しまれてしまう。
そんな選別作業をしていると。
「────! チッ」
モモイの頭上に、小柄な彼女なら容易く押しつぶせるようなサイズの物が降り注いできた。
……今の出力でアレは対処できないな。
素早くそう判断すると、モモイを糸で引っ張ることで対処する。
多少怪しまれてしまうだろうが……こればっかりは仕方ない。ゲーム開発部の再起にはモモイの存在が必要不可欠だし、そもそも俺が彼女たちに傷付いてほしくない。
ここまでの処置を済ませると、煙が晴れるまでに一度撤収して物陰に隠れる。ここでの俺は『生徒を救ける味方』などではないからだ。
そうしていると、《光の剣》を放とうとするケイを止めるようにC&Cが到着し戦闘を開始した。相変わらず
「まだか……?」
起動したdivi:sionに見事な連携で食い下がるC&Cだが、先生の指揮が無いからか戦況はほぼ互角といった様相。このままでは機械と違って疲労のあるC&Cがジリ貧になるだろう。
────この後の筋書きは滅茶苦茶になるが、最悪の場合は俺が出るべきだろうか。
そう思った辺りで、騒ぎを聞きつけたのかリオとヒマリがAMASを引き連れて現れた。
そして、その後ろには息の切れた体を
「……なん、で」
は? なんでホシノがここに?
おかしい。エデン条約と違ってパヴァーヌではホシノの登場は一切なかったはず。まだ覚えている原作の記憶をどれだけひっくり返してもこの場にホシノが居る説明は見当たらない。
いったい何が起きて────どこかにイレギュラーが────────ッ!!
ああ、そうか。この場のイレギュラーなど一つしかない。
「身から出た錆、ってか?」
俺が出没したからホシノがミレニアムに来た。おそらくそういう事だろう。
俺が最悪な気分になっている間にも先生の指揮の下divi:sionは着実に数を減らしていく。
それは、描いた筋書きでの俺の出番が刻々と迫っていることを示している。原作におけるリオのように『名もなき神々の王女』について語り、大団円前の最後の悪役として動くという役割が、近付いていることを。
「────いいさ。やってやるさ」
もうとっくの昔に引き返せる地点は踏み越えてるんだ。2年前のあの時に。
なら、俺は俺のやるべきだと思ったことをするだけだ。それ以外の選択肢は無いんだから。
「始めよう」
三文も惜しむような茶番劇の開演だ。
────────
それは突然の事だった。
「お見事、お見事。素晴らしいね」
先生たちがその場にいた全てのdivi:sionを鎮圧し、残すは妖しげな雰囲気を纏ったアリスだけとなった、その時。
パチパチという乾いた拍手の音と共に、謎の人物が瓦礫の上に姿を現したのだ。
スラリとした線の細くも子どもとは違って成熟した肉体。凹凸の少ないその体は彼が女性でない事を如実に告げていた。
全身にスーツのようにも見える黒の衣服を重ねて纏っており、その上にはこれまた黒を基調として何本か紫の線が入った外套を羽織っているようだ。どことなく防護服で身を固めているような印象も受ける、不思議な装束である。
顔部分には仮面とヘルメットが一体化したような特徴的な装備を付けており、その素顔を望むことは叶わない。十字架状のスリットが前面に付けられているが、はたしてその瞳に映されているのは何なのか。
総評として不気味で陰気な印象の誰か。それが瓦礫の山頂からいつの間にか先生たちを見下ろしていたのだ。
「マクガフィンッッ!!!」
それに一番に反応したのは、桃色の髪と橙と青のオッドアイが特徴的な少女。普段のおっとりとした雰囲気を捨て去り、獰猛な猫科の獣のような表情で彼女は叫ぶ。
「いや、驚いたよ。少数とはいえ守護者たちを短時間で処理できる戦力が存在したとは」
しかし、その姿が視界に入っていないのか。
マクガフィンと呼ばれた黒ずくめの存在は調子を変えずに語りかける。
「少しばかり目障りではあるが…………『王女』を目覚めさせてくれた功績もあるか」
ゲーム開発部やヴェリタスは場の雰囲気に飲まれて立ち竦むのみ。
荒事に慣れているC&Cもまた、目の前の怪人から感じられるプレッシャーと嫌な気配から様子を窺っている。
一方のリオやヒマリ、先生といった事情を知っている者はといえば、むしろ相手の脅威を知っているがゆえに動くことができない。
一瞬にして場の空気を掌握したマクガフィンは、そのまま流れるように語った。
「それに、どうにも指揮官の腕も大きいように思える。あるいはそのオーパーツ────『シッテムの箱』の力、か?」
「…………あなたは一体何者?」
これまでの活動で比較的名の通ってきた先生自身とは異なり、戦場における彼の命綱であり秘中の秘である『シッテムの箱』まで知られていることに警戒心を露わにする先生。
数歩踏み出しその背に生徒たちを隠すようにしながら、彼はマクガフィンへと問いかける。
「何者か? なるほど、それは非常に難しい問いだが…………それはこの場で意味を持つ主題ではない。重要なのは私は遂に目覚めた王女を迎えに上がったこと、ただそれだけだ」
「……っ」
常よりも固い先生の声にも動じずに、まるで役でも演じているかの如く大仰に、そして慇懃に彼は振る舞う。
決して核心には触れさせないその飄々とした態度は、先生にかつて自分とは相容れないと思わせた真っ黒な大人を思い起こさせた。しかし、マクガフィンはそれに輪をかけて底が見えない。
黒服は最低限の礼儀は通そうとしていた、というのもあるのかもしれないが。
それに警戒心を強めた先生の眼が、知らず鋭いものへと変化した。彼の目論見通りに。
ピリピリとした空気が場を満たし始める。先生は険しい表情を崩さず、既にホシノは《Eye of Horus》の銃口を向けているほどだ。リオやヒマリ、C&Cの面々もまたそれぞれに様子を窺いながらすぐに動けるように構えている。
そんな空気に耐えきれなくなったのだろうか。
ゲーム開発部の一人、才羽ミドリが叫んだ。
「いったい何なの!? 変なロボットは暴れ出すし、お姉ちゃんは見つかんないし、アリスちゃんは変になったまま────」
「アリスじゃないッ!! 『名もなき神々の王女』様っ! だッ!!!」
パニックになった彼女の言葉を遮るようにがなり立てるマクガフィン。どこか狂気じみたそれはまさしく豹変という言葉が似合うようで、仮面の奥では目を剥いているのが容易に想像できた。
「ああ、忌まわしい。忌まわしい! その方を誰だと心得てるんだッ!? 司祭がたの遺した他ならぬ『名もなき神々の王女』様だぞッッ!? それを『アリス』だとッ!?」
一触即発。
頭を掻きむしるように叫ぶ彼を前に、誰もがその言葉を浮かべた。
しかし、状況は更に悪くなる。
「……あれ? ここは一体…………ミドリ、ユズ、何があったんですか?」
アリスの意識が戻ったのだ。
どうやら先ほどまでの記憶は無いようで、彼女は傍に居たミドリとユズに質問をしている。
────マズい。
先生の脳内に警鐘が鳴り響く。
事態の全容は掴めていないが、伝え方に注意しなければこの事件はアリスの心に傷を作ってしまうだろう。そしてこの場には『名もなき神々の王女』を狂信している人物がいる。
そこまで思い至った先生が口を開こうとするも、それは既に手遅れであった。
「ああ、何という。なんと嘆かわしいことか。王女よ、記憶があられないのですか!?」
「王女……アリスのことですか? アリスは王女じゃなくて勇者ですよ?」
「いいえ。貴女は……貴女様こそが世界を滅ぼす『名もなき神々の王女』様なのです」
「え…………」
マクガフィンの言葉にアリスの目が見開かれる。
「アリス、よく聞いて。君は────」
「だからアリスではないと言っているだろうっ!? その方は世界を滅ぼさんと生まれた『名もなき神々の王女』様だッ!!」
「世界を、滅ぼす……?」
「ええ、ええ。この景色こそ貴女様が成し遂げたこと! 全てを破壊し無に帰す、王女としての────」
彼がそこまで言ったところで、辺りに乾いたショットガンの銃声が響き渡る。
「ごちゃごちゃうるさいなぁ。オマエは敵なんだろ?」
我慢の限界が訪れたのか、遂にホシノが引き金を引いたのだ。
「フッ、ハハッ。ああ、そうだ。そうだとも。俺は
嗤いながら、マクガフィンが一歩踏み出す。
未だ状況を飲み込めていないアリス以外の誰もがこれから始まるであろう戦闘に身構えた。唯ひたすらに高まる緊張感に、誰かがゴクリと唾を飲み込んだ音が鳴り────────
転瞬。
マクガフィンの姿が掻き消え、同時にそれぞれに愛銃を構えていた生徒たちが何かに足を取られたかのように転倒した。
当然ながら彼女たちは直ぐに起き上がろうとする。が、どうやってか両手を後ろ手に縛られたらしく、ジタバタと藻掻くしかできないようだ。
そして、マクガフィンはどこへ行ったのかと言えば。
「さあ、王女よ。早く箱舟の創造に取り掛かりましょう」
「あ、ああ……」
一人悠々とアリスの下にまでたどり着いていたのだった。
「これを……アリスが、やったのですか? アリスのせいで、みんなが傷付いて、襲われて…………」
「何を心を痛めておられるのですか? この程度ほんの序章です。なにせ、貴女の力は世界を滅ぼすものなん────」
「それ以上は許さないよ、マクガフィン」
隠れて待機していたトキやエイミも含めた全員が拘束されたことを把握しても。『シッテムの箱』による防御しかその身を守るものが無いことを認識しても、それでも先生はマクガフィンの言葉を遮った。
それだけは言わせてはならないと思ったから。
「威勢のいいことだな、先生? ……そうだな。コレが《青春の物語》だと言うのならば、好きに抗ってみせるが良い。私は『アトラ・ハシースの箱舟』の創造に取り掛からせてもらう」
そう言い残し、マクガフィンは俯いたままのアリスを連れ去っていく。
何もできずに残された先生たちにできたのは、無力感に唇を噛むことだけであった。
うーん、冒頭のアリス視点はこんな感じで良いのかしら。なーんかエミュできてない気がするんですよね……。
どうやれば上手く書けんだろ…………理解できぬ。
< 驕るな────!! 貴様のような木っ端の二次創作者が、完璧なエミュをできるなどと……驕るな────!!!(強火の幻聴)
最後になりましたが、読書民 さん、Kairi2112 さん、RIZE.DUMMY さん、モカフラッペ さん、ふくもってぃ さん、黒ひげ危機一発 さん、
ユートム さん、未昇 さん、綾辻 深月 さん、レイ・ブラドル・ドラニス さん、nataneaoil さん、kappa0809884 さん、猛者必死 さん、海鍋セイタ さん、評価付与ありがとうございました。