【本編完結】黒く濁った罪を背負って   作:RH−

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 この世界線では、実はまだデカグラマトンの調査が行われていません。
 それと同レベルのヤバい奴がもっと堂々と暴れていますからね。


舞台の幕は上り始める

 

 

 

 ミレニアム郊外、廃墟の一角。

 

 

 

 ────pathより伝令を確認。

 

 

 

 とある軍需工場の最深部にて。

 

 

 

 ────把握。

 

 

 

 本来ならば調査が行われたはずの、しかしマクガフィンというイレギュラーが混ざり込んだことでノーマークとなってしまった『音にならない聖なる十の言葉』、その預言者が一柱。

 第四のセフィラが、駆動音を高らかに謳わせる。

 

 

 

 

 

  ────これより、『慈悲深き苦痛を持って断罪する裁定者』の名に於いて、新たなる預言者候補へと試練を執り行う。

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻。

 同じく廃墟の一角、水没地区にて。

 

 

 

 ────pathより新たなる伝令を把握。

 

 

 

 最も古い預言者がその四脚を伸ばし、存在し得なかったはずのイレギュラーへと目掛けて歩みを始めた。

 

 

 

 

 

  ────これより、『最もきらびやかに輝く至高の王冠』の名の下、例外たる預言者候補へと試練を与えよう。

 

 

 

 

 

 

 新たなる『天路歴程』の一節が、始まった。

 

 

 

 

────────

 

 

 調月リオが建造したエリドゥ、その中央に位置する管制塔。

 身体強化と神秘の糸をフル活用した高速移動で10分程で到着した俺は、繭のようにアリスを覆っていた糸を解いた。

 

「…………っ」

 

 拘束から解放された彼女は、痛々しいまでに沈んだ様子で膝を抱えていた。

 

 その様子に思わず声を上げそうになるが、どうにかそれを堪えると、俺はアリスを置いて部屋を出る。

 他者の精神世界に侵入する例の装置は確認できた。有線でエリドゥへと接続できるポートはすべて破壊したし、都市の地下にある電力ラインは大半を切断してある。

 

 大丈夫。

 ここまでは計画通りに運んでいる。イレギュラーも無い。例えケイが《プロトコル ATRAHASIS》を実行しようとしても、今のエリドゥでは箱舟を完成させることは難しいだろう。

 捻れて歪んだ終着点へと行き付く可能性は限界まで落としたはず。

 

 

 だというのに、何故だろうか。胸騒ぎが止まらない。

 

 

「気のせいだ」

 

 小さく呟いても不吉な予感はまるで消えない。むしろ強まったほどだ。

 と、そんな時。エリドゥ外周に強度を限界まで落として張り巡らしていた、探知用の神秘の糸が切られた反応があった。

 

「……なんだ?」

 

 しかし、それはミレニアム校舎とは別の方向で。

 

「…………は? おいおいおい、何だコレ」

 

 そして、その方角の糸が全て切れるほどの膨大な数で。

 

 

「ふざけんなよ……なんで! 何でよりにもよって今なんだ!?」

 

 

 急いで屋上まで駆け上がった俺が見たのは、ギチギチと地を埋め尽くすほど密集したケセドの軍勢とdivi:sionが同時に進軍して来ている地獄絵図だった。

 

 

 

 ────────

 

 時は少し遡り、ミレニアム郊外『廃墟』の一角。

 とある大人が臨時の実験場として改造した四階建てのビル、その屋上にて。

 

「ああ……ゴルコンダ、それにデカルコマニー。わざわざ来ていただいてありがとうございます」

「いえ、構いません。もともとわたくしと貴方との共同実験であったのですし」

「そういうこったぁ!!」

 

 銃痕のような右目と亀裂のような口を持つ黒い大人と、首から上を失くしたコートを纏う大人とその手に抱えられた後ろ向きの肖像画が、静かに会話をしていた。

 轟々と吹き荒ぶ風と周囲の喧騒の中では小さな音であるはずなのに、不思議とその声は両者の耳に届く。

 

「それで……これは一体何があったのですか? 黒服」

「その説明は少しばかり長くなってしまいますが……よろしいでしょうか」

「ええ、むしろわたくし達はそのためにここまで来たのですから。しかし、その時間はあるんでしょうか?」

 

 僅かに困惑と不安を滲ませたゴルコンダの疑問だったが、黒服は短く「アレらの関心は私たちには向いてませんので」とだけ答えて事態の説明に移った。

 

「まず、私が蒐集して提供したマクガフィンの神秘。正確にはその残滓とでも呼ぶべき僅かなモノでしたが、アレにはいくつかの要素が混じり合っていました。彼自身の神秘と恐怖、そして後付けで付与されたらしいテクスト……」

「そこまでは一度確認しましたね。もっとも、テクストに関しては要素として小さすぎたのかまるで読み解けませんでしたが。力及ばず申し訳ない」

「貴方で理解できなければ誰にも判読できませんよ、気にしないでください」

 

 ここで一度言葉を切ると、黒服は視線を下方に向けて続きを語った。

 どうやら、前提知識の確認は終わったらしい。

 

「さて、問題は製作した『神秘の激発』を不可解な軍隊へと使用した結果でした」

「そこからは知りませんね……何が起こったのですか?」

「廃墟から溢れただけの木偶であったはずが、崩壊の直前に起動を果たしたのですよ」

「ッ!? それは…………」

 

 動揺を露わにするゴルコンダ。

 普段は喧しく合いの手を入れているデカルコマニーも珍しく静かに聞き入っている。

 

「アレらは本来、『名もなき神々の王女』の命の下に駆動するはずの守護者です。決して、単体で自律的に稼働するような代物ではありません。ではなぜ彼の神秘と反応したのか……私はソレを恐怖と接触したからだと仮定しました」

「理由を聞いても?」

「単純な話です。調べたところ『名もなき神々の王女』を造り上げた無名の司祭、彼らは“色彩”と接触────あるいは利用をしていた可能性が高い。そして、色彩が齎す物の代表例といえば『神秘(mystery)の反転』……すなわち“恐怖(terror)”そのもの」

「つまり、無名の守護者は色彩との接触でも稼働できると?」

 

 話の流れを読んだゴルコンダの質問であったが、しかし黒服はかぶりを振った。

 

「いえ。私の結論としては、誤作動を起こすのではないかと。アレらはあくまでも軍隊、指揮官の存在が必要なんでしょう」

「それは誤作動と言うよりも……」

「ええ。“暴走”、そう言っても問題ないでしょうね」

 

 ここで凡その事態の全容を掴んだゴルコンダとデカルコマニーが、屋上の(へり)に立って地上を見下ろした。

 

「黒服……まさか貴方は」

「少しばかり興味がそそられまして。『神秘の激発』で色々と実験をし、恐怖のみを抽出して無名の守護者へと照射してみたんですよ。すると、暴走した守護者に脱走されまして。実験場所は厳重に封鎖していたはずなんですがねぇ…………」

 

 そこまで語ると、改めてデカルコマニーの横に立った黒服は同じように地上へと視線を向ける。

 

 

 その先には、無数に蠢くdivi:sionの姿が。

 

 

「どうやら脱走した守護者を核として他の個体まで感応されてしまったようで。ご覧のように、王女を求めて動き始めてしまったんですよ」

「…………」

 

 笑いを堪えるようにしながら、黒服はそう締めくくった。もはや笑うしかなかったのかもしれないが。

 そして、全てを聞き終えたゴルコンダは静かに唖然としていた。その姿ゆえ彼の表情は窺えないが、呆れているのがありありと読める辺り、何と返すべきか悩んでいるのかもしれない。

 

「どういうこったぁ……」

 

 結果、デカルコマニーが上げた実に珍しい戸惑いの声だけが風に攫われて流れていったのだった。

 

 

 

────────

 

 場所はさらに移り、ミレニアム生徒会『セミナー』の会議室。

 そこでは、ヴェリタスの部室崩落やその後の戦闘などで受けた傷────その大半は奇跡的に軽いものだけであった────を手当てした生徒たちが、それぞれの組織ごとに集団を作って着席していた。

 また、室内には事件の現場にはいなかったセミナー役員の早瀬ユウカ・生塩ノア・黒崎コユキの3名も前側の席に座っている。

 

「全員揃ったかしら。それじゃあ、会議を始めさせてもらうわ。進行は私、ミレニアム生徒会長の調月リオと────」

「『特異現象捜査部』部長の明星ヒマリ、そして────」

「連邦捜査部『シャーレ』の先生。私たち3人で行わせてもらうね」

 

 そうして室内の顔ぶれを確認すると、最前列で向かい合うように立ったリオが口を開いた。

 傍らの壁面と一体になったホワイトボードには、「犯罪者マクガフィンによる本校生徒の誘拐事件、及び『名もなき神々の王女』・『key』対策会議」と表題が映写されている。

 そのホワイトボードを挟んだ反対側には車椅子に腰掛けたヒマリと先生が立っており、同じく集まった生徒たちへと挨拶を行っていた。

 

 

 対する他の生徒たちは、不仲で有名なリオとヒマリが並び立っていること、そして普段は柔らかな微笑を絶やさない先生が真面目な表情を覗かせていることに緊張感を高めていた。

 もっとも、セミナーの3名やホシノ、それにエイミやトキといった以前から事情を話されていた一部の生徒たちは、また別の意味でその表情を強張らせていたのだが。

 

「さて、まずはついさっき起こった事件について纏める……と行きたいところなのだけれど。前提として、この一件には色々と込み入った事情が絡み合っているの」

「というわけで、まず最初に前提知識を共有しておきます。みなさん、配布した資料の一ページ目を」

 

 

 そう切り出されて話されたのは、ここにいる全ての生徒と多かれ少なかれ関わりを持っていたアリスについて。

 天真爛漫なゲーム開発部の一員としての彼女ではなく、その出生…………つまり、廃墟に眠っていた『名もなき神々の王女』としての話であった。

 

「以上が、天童アリスの正体、その()()()よ」

「そんな……」

「アリスちゃんが、世界を滅ぼす…………?」

「何かの間違いじゃ……」

 

 そんな予想だにしなかった話に騒然となり始める会議室。

 あえて落ち着くまで待つべきだと黙った進行の三人だが、しかしそんな中でも全員に響き渡る声が上げられた。

 

「んなコトは関係無え、アイツはただ無邪気なだけのチビだ」

「そうだよ! アリスちゃんとすごした時間が嘘なわけないじゃん!! それに、まだ話は終わってないんでしょ!? 会長!」

 

 C&C部長の美甘ネルと、ゲーム開発部の才羽モモイの二人である。

 両者とも核心を突く言葉を叫ぶと、リオへと目を向ける。他の生徒たちもまた、彼女たちの言葉で冷静さを取り戻したようだ。

 

「ええ。先の事実を踏まえた上で私たちが出した結論は、天童アリスは天童アリスであるということ」

「つまり、アリスちゃん自身には世界を滅ぼす意図は存在しないという事ですね」

「えっと……前後の文脈がかみ合ってないような気がするんだけど、部長」

「そう難しいことではありませんよ、チーちゃん。あの子は世界を滅ぼす『AL-1S』ではなく、ただの『アリスちゃん』だということです」

 

 なんとなく理解できるようで理解できないヒマリの返事に、一同の首が軽く傾けられる。

 すると、その隣から更なる補足が続けられた。先生である。

 

「つまり、同じ体ではあるけれど『名もなき神々の王女』と『アリス』は別の存在だっていうのが私たちの出した結論っていうことだね」

「何が原因で『天童アリス』の人格が生まれたのかは分からない。バグが発生したのか、奇跡が起こったのか……けれど、天童アリスという生徒自体には世界を滅ぼす危険はない。その根拠が、次に話す内容よ」

 

 

 続けて資料をめくるように言うと、リオは『名もなき神々の王女』に関する更なる情報を話し始める。

 すなわち。王女を起動するための修行者、『key』についてである。

 

「そこに纏めたように、世界を滅ぼす“プロトコルATRAHASIS”の実行にはいくつかの要因が必要になっている。『key』によるシーケンスの呼び出しと、『王女』による実行の承認…………私たちはアリスがそれをする危険性は無いと判断したわ」

「正直に言えばいいでしょうに……アリスちゃんを信じたくなったと」

「……ヒマリ。あまり茶々を入れないでちょうだい」

「あら、これは失礼しました」

 

 なんだかんだヒマリの言葉は否定されていないのだが、あえて言うのもアレかと思った先生は何も言わずにいるのだった。

 ただし、生暖かい視線は向けたが。

 

 同じような視線が他の生徒たち────ヒマリやホシノ、トキ、ノアなど────からも向けられた事で若干の居心地の悪さを感じたのか、コホンと咳ばらいを一つ挟むと、リオは説明を続けた。

 

「とにかく。現状最も危険なのはkeyが無理矢理にでもプロトコルを実行しようとすることで、その可能性もあまり低くはないの」

「事実として、つい先ほどの事件でも《不可解な軍隊(divi:sion)》と接触したことでkeyが表層に出てきたわけですしね」

「あ、あれってやっぱりアリスちゃんじゃなかったんだ……」

 

 少しずつ自分たちを襲った事件の全容が掴めてきたことで、納得と安堵を表情に浮かべるゲーム開発部の3人。アリスとの関わりが特に深かったこともあり、色々と心配だったのだろう。

 

「さて、ここまでがアリスに関する前提知識なのだけれど、理解はしてもらえたかしら…………問題無いようね。それなら次は、今事件の下手人である『マクガフィン』についてね」

「それに関しては、おじさんから説明したほうがいいかな?」

「……そうね。できるのなら、ホシノ自身から話してもらえる方が説明しやすいでしょうけど…………大丈夫なの?」

「だいじょーぶ、心配ありがとね」

 

 と、そこで前に出たホシノとリオの会話を遮るように手が挙げられる。

 

「あの、質問よろしいでしょうか。……先の事件から思っていましたが、そちらの方は一体?」

 

 C&Cが一人。コールサインゼロスリー、室笠アカネである。

 彼女は普段の物腰柔らかな雰囲気のまま、室内の大半が疑問に思っていたことを質問したのだ。

 

「ああ、ごめんなさい、説明がまだだったわね。彼女は小鳥遊ホシノ、アビドス高等学校の3年生よ」

「リオ、『先生の紹介で私たちに力を貸してくれている協力者だ』という一番大事な部分が抜けていますよ。……私も焦っていますし、気持ちは分かりますが。少し落ち着きましょう?」

「……そうね、気が逸っていたらしいわ。ありがとう、ヒマリ」

 

 最初は衝突することも多かった二人が、こんな会話をするようにまでなった。

 その過程を誰よりも間近で見ていた先生は、ついほろりとしそうになってしまう。逼迫した状況ではあるが、この調子で力を合わせられれば、きっと────

 

「つまり、そちらのホシノさんは信頼できる方なんですね?」

「それについては私が保証するよ。ホシノは仲間思いの頼れる子だからね」

 

 少しばかり逸れ始めていた思考を切り上げると、どこかむず痒そうにしているリオとヒマリの代わりに先生は答える。

 生徒会長と《全知》として名高い彼女達だけでなく先生までもがそう断言したことで、ひとまずは場の流れはホシノの話を聞く方向へと移ったようだ。

 

「それじゃ、話させてもらってもいいかな? ……実は私とマクガフィンにはちょーっと因縁があってね。ここから話す内容も、私の体験談が主になってくるの。だから、あんまり言いふらしたりはしないでね?」

 

 そう言って語られたのは、2年前の事件からつい最近起こった騒動に至るまでの話たちであった。

 

 柴大将の名前であったりカイザーPMCとのいざこざであったりといったマクガフィンと関わりの薄い部分は伏せて、アビドス旧校舎付近の黒い砂面など適宜写真を交えながらの説明。その他にもユメに関する詳細などあまり触れられたくない部分もぼかしたソレであったが、流石に語る内容と量もあってかそれなりに時間がかかってしまった。

 しかし、焦っている面々も含めて誰もそこに文句は言わなかった。

 

 

 ただ静かに彼女の話を噛みしめ、更なる覚悟を決める。それだけであったのだ。

 

「以上が、おじさんから話せる内容かな」

「ありがとう、ホシノ」

「うへ。これぐらいお礼を言われるようなことじゃないって、先生」

 

 隣に立つホシノを小声で労われば、彼女は気丈に笑い返す。

 

 ────本当に、強い子だ。

 

 それを見て先生もまた、決意を強めるのであった。

 

 そうして遂に共有しておくべき全ての情報が行き渡ったことを確認すると、ミレニアム生徒会長である彼女はその務めを果たすべく一歩前へと踏み出す。

 

 

「さて。改めて、今回の事件の危険性が理解してもらえたと思うわ。それでも、私はミレニアムを……キヴォトスを守るために、そして友人の助けになるためにも────アリスを取り返し、マクガフィンを捕えたい。どうか、協力を」

 

 

「怖くはありますけど……アリスちゃんを、ゲーム開発部の仲間を助けるためなら…………!!」

「ひっさびさに気に入る依頼じゃねえか。お前ら! C&Cの力、見せてやんぞ!!」

「部長はやる気みたいだし、ヴェリタス(ウチ)としてもアリスは仲良くしてた子になるからね。任せてよ」

「会長が助けを求めるなんて滅多にないことですし、この件に関して私やノア、コユキは前々から協力してましたからね。それに、アリスちゃんのためですしね」

「おや、丁度いいタイミングだったらしい。アリスと一緒に持ち去られたレールガンの反応を割り出した……会長の言っていた通り、『エリドゥ』とやらの座標と一致したよ。ああ、要請についてはもちろんエンジニア部も協力させてもらうよ」

 

 頭を下げたリオに対してそこら中からかけられる了承の声。

 

 先んじて連絡していたエンジニア部も揃い、こうして────『アリス奪還作戦』は始まったのだった。

 

 




最後になりましたが、アドバン さん、名無しのミリオタ さん、エレノア・リリー さん、たら0221 さん、ワロシ さん、豚缶本 さん、オメガモンX抗体 さん、あざまる水産 さん、読書民 さん、しらたきのやま さん、kaito172 さん、斬月乱火 さん、抱月38 さん、おかしょう さん、ゴールデンウラガ さん、邪神イリス さん、アカウント1 さん、はらまかない さん、とう/tou さん、ワイドキング さん、黒外套の猟兵 さん、スプライト・工兵 さん、評価付与ありがとうございました!
急にいっぱい増えてたりいつの間にか日間2桁台に再浮上してたりびっくりしました(粉蜜柑)
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