【本編完結】黒く濁った罪を背負って   作:RH−

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新章開幕。対戦よろしくお願いします


エデン条約編・第一幕 自由と混沌の序曲
overture


 

「ゲヘナできな臭い動きがある?」

「ええ。表向きはカイザーコンストラクションによる土地開発事業という風になっていますが、PMCの出入りがあったりと何か企んでそうな感じなんですよね」

 

 パヴァーヌをどうにか────色々とイレギュラーは連続したものの────完遂したある日、俺は繋ぎ手にそんな話をされていた。

 場所は以前も使用したD.U.郊外の店舗、エデン条約を三ヶ月後に控えたある日の事であった。

 

 

 

「ほら、連中って無駄に諦め悪くてしぶとくて、上層部から末端の隅々まで真っ黒で人目のない所でカサカサ動くことが得意で、その上とにかく不快なことで有名じゃないですか」

「絶妙に悪意があるというか……とある害虫を連想させるような説明だな」

「ちゃんと意図したとおりに伝わっているようで嬉しい限りですね」

 

 もしコイツの顔がディスプレイに表情を出力するタイプだったなら、確実に[∩∩]という風になっていただろう。そう断言できるような声色であった。

 いやまあ連中がゴキブリじみたしぶとさだっていうのは同意するが。

 

「そんな訳で、アビドスの一件以降も目は光らせてたんですよ。余計な事されて損失受けたくないですし」

「……どちらかと言えば連中が隙を見せた瞬間にまたタレコミ入れるためだろ。てかそれに関しては前からずっとやってただろ」

「人聞きが悪いですねぇ、私がそんな性格の悪いことをすると? この表情を見てくださいよ、とっても純粋でしょう?」

「機械部分が覗いてるって事ならある意味純粋だろうな」

 

 強化ガラスの奥に単眼レンズが見えてる顔からどう表情を読み解けっていうんだよ。

 

「ほら、純粋でしょう? いやー、マクガフィンさんにまで同意してもらえるとは」

「…………」

「おや、黙り込んでどうしたので?」

「……はぁ、そろそろ話を進めてもらってもいいか?」

 

 繋ぎ手がこういう雰囲気の時は、話半分であしらいながら会話を円滑に進めるべき。

 これまでの付き合いで学んだコイツに関する最重要項目である。

 

「つれませんねぇ……ま、いいでしょう。本題という事で、連中が何を企んでるのか調べたいので力を貸してくれませんか?」

「……具体的には?」

「カイザーに圧をかける形で私から注意を逸らしてもらえればそれで」

「フム……」

 

 口元に右手を当てながら思考を回す。

 

 エデン条約を三ヶ月後に控えているという現状からも分かるように、おそらくもうしばらくすればエデン条約編第一章────つまり、補習授業部関連の話が始まる。

 この時期にゲヘナで活動をするというのは……はっきり言えばかなりのリスクだろう。ゲヘナは勿論トリニティからも警戒されることになるし、何かしらのイレギュラーに繋がる可能性も高い。

 

 反面、ゲヘナでカイザーが何かしらを企むというのは原作では無かった流れであり、コレを放置する事もまたかなりのリスクになると予想できる。

 連中がロクでもないことしか仕出かさないというのは、この世界に降り立ってからさらに強めた認識だ。ゲームでは描写されていなかった事を知る機会が多かったのもあり、そういった部分における連中への信頼度はかなり高い。

 

 実に嬉しくない事に。

 

 とにかく、繋ぎ手が“きな臭い”と表現したということは相当怪しい動きをしていると見ていいだろう。

 その上でさっき挙げたメリットデメリットを勘案すると…………乗った方が良さそうか。

 

 

 同じイレギュラーでも、原因が俺にある方が色々と対処しやすいだろう。

 それに、俺が物語の本筋に関わろうとすれば想定外が多発するというのはパヴァーヌで理解した。それならある程度やりたいように動いた方がプラスになる。

 

「オーケイ。その依頼、乗った」

「助かります。随分とコソコソ動いてるみたいなんで、私一人だと少し不安だったんですよね」

「……あんま気を抜きすぎるなよ? PMCならともかく、風紀委員にまで出てこられると流石に骨が折れる」

「生徒さん相手には絶対に本気出しませんもんね、マクガフィンさん。ま、できる限り手早く済ませられるようにします」

「そうしてくれ」

 

 そう言って席を立とうとしたのだが、しかし出鼻を挫くかのように繋ぎ手が口を開いた。

 ……口を開いた? まあ、とにかく話しかけられた。

 

「それじゃ、行きましょうか」

 

 なんていう風に。

 

「…………確認したいんだが。今、これから出発するって言ったか?」

「……? 難聴ですか?」

「なんで心の底から不思議そうにしてんだ……?」

 

 

 疑問って声と仕草だけでここまで表現できたんだ。

 毒にも薬にもならないトリビアが自然と浮かんでくる。

 

「たしか先週ぐらいに『暫くは大した予定はない』って言ってたじゃないですか。今からでも行けるでしょう?」

「行けるか行けないかで言えば行けるんだが、可能と実行の間には大きな隔たりがあるもんなんだぞ」

「マクガフィンさん、知らないようなので教えてあげます。今できる事は今やらないと後悔するんですよ? 先達からのアドバイスです」

「やかましいわ」

 

 どうしてこう、コイツは『ああ言えばこう言う』を体現したような奴なんだろうか。

 

「いや結構マジな話、手遅れになる前にさっさと動いときたいんですよね。頼めませんか?」

「……普段から無茶振りしてる俺にそれは卑怯だろ。分かったよ」

「感謝します」

 

 

 そんなわけで、俺は繋ぎ手とゲヘナに行くことになったのだった。

 

 

────────

 

「うーん……」

『どうしましょう、先生』

 

 シャーレオフィス内の執務室にて、先生はアロナと相談をしていた。

 というのも、生徒から寄せられる依頼の内そこそこ大きそうな規模のものがダブルブッキングを起こしていたのだ。

 

 

 一つはゲヘナ学園生徒会である万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)からの依頼で、生徒会長────名前は羽沼マコトといっただろうか────が暴走してカイザーコーポレーションに喧嘩を売ろうとしているので、それを止めるのを手伝ってほしいというもの。

 文面からするとマコトが暴走するのはいつもの事らしいが、問題は今なお大企業としての格を保っているカイザーを相手にしようとしていること、そして何か情報を得ているのかいつになく頑なであることなのだとか。

 現状は無理矢理押さえつけることで対処しているが、一度落ち着いて話し合いをしたいのでその協力をお願いできないか、というのが依頼の詳細のようだ。

 加えて、もしかしたらその後のカイザーへの対応についても協力をお願いするかもしれない、とも依頼文には書かれていた。

 

 

 そしてもう一つが、同じくゲヘナ学園の風紀委員会からの依頼。ここ一ヶ月ほどで生徒が凶暴化する事案が多発し手が回らなくなっているため、その補助をお願いできないか、というものだ。

 もともと治安が良いとはお世辞にも言えないゲヘナ自治区であったが、どうやら今回はそれに輪をかけて暴れ回る生徒が多いらしく、更にはこれまで大して問題を起こしてこなかった生徒までもが凶暴化しているのだとか。

 その上、なぜか騒動を起こす生徒が以前よりも皆強くなっているせいでキャパオーバーを起こしているらしい。

 

 そして極めつけが、数週間前から自治区内で黒ずくめの不審者の目撃情報が多発し始めていること。

 どうやら、ヒナはこの人物を近頃ブラックマーケットで話題の“マクガフィン”だと睨んでいるらしく…………その心労もあっていつも以上に彼女は疲労しているので、どうにか負担を軽減するためにも協力をお願いできないか、というのが依頼の詳細らしい。

 

 

 同じゲヘナ学園なのだし纏めて解決できないものかとも思うが、噂によれば万魔殿と風紀委員会は険悪な仲のようであり、更にはどちらも本気で対処しなければマズそうな案件であるため。

 さてどうしたものか、と先生はアロナと額を寄せ合わせているわけである。

 

 

「流石に一人じゃ手が足りないよね……」

『おそらくですが、そうなるかと。せめて同じ案件が依頼されていたのなら良かったんですが……』

「まあ、そこは仕方ないね」

 

 アロナも言っているように万魔殿と風紀委員会からの依頼が同じ内容であったのなら、シャーレも含めた三組織での合同作戦、という形で一気に解決することもできたのだが。

 少なくともパッと見た限りでは繋がる点の無い内容であるために、選べるのはどちらかしかないというのが現状だ。

 

 カイザーという名前に嫌な予感を覚えている先生としては、治安悪化の原因が例の企業にあったとしてもおかしくない…………というかむしろ納得できそうだというのが正直な感想であるが。

 とはいえ、これはただの先入観による決めつけでしかない。

 

 それで動いてしまうのは、子どもたちに見せるべき“大人”の姿ではないだろう。

 

 そこは先生にとって譲れない一線である。

 が。同時に『生徒たち全員の味方』を目指す先生としては、どちらかの依頼を選ぶ────つまり、どちらかの願いを切り捨てるというのも論外なわけで。

 

「うーん…………」

 

 そんなわけで先生は頭を悩ませているのだ。

 どちらもが危急の案件というのもまた、その悩みに拍車をかけていた。というか依頼が届いてから既に一日ほど経ちそうになっているため、そろそろ返事をして可能なら移動まで開始しておきたいぐらいなわけで。

 

 と、そこで。

 先生のスマホがピロンという通知音と共にその存在を主張する。生徒の誰かからモモトークが届いたようだ。

 

 あまり余裕が無い現状、優先度を付けるとしたら明らかに依頼をどうするかを考えるべきなのだが。丁度視界の端あたりに端末を置いていたのもあり、先生はロック画面に表示された通知を読んでしまう。

 

 どうやら差出人はリオのようで、以前行った相談────内容は、ミレニアムでの一件で共に行動することの多かったホシノ、トキと一緒に遊びに行くのだが服装であったりはどういうものが良いのか、という実に平和的なものだった────に対するお礼のようだった。

 

 生徒会長を辞したという事もあり、時間的余裕の多くなった彼女からはこういった些細な相談を受ける機会が増えていた。

 おそらく、先の一件を経験した事で心境に変化が生まれ、これまで不要と切り捨ててきた物事に挑戦しているのだろう。自分がその一助になれているのなら、嬉しい限りである。

 

 そんな風に口元を綻ばせていた先生に、一つのひらめきが舞い降りる。

 自分一人では手が足りないというのなら、誰かに力を貸してもらえばいい話だろう、と。

 

(いや、しかし……生徒会からの依頼とあっては政治的な問題も絡むだろう。部員の誰を選出するかも含めて、色々と交渉しなければ。それでも、光明が見えてきたかもしれない)

 

「アロナ、ちょっと思いついたことがあるんだけど────」

 

 

 先生が二人のシャーレ部員を引き連れてゲヘナに降り立つ、二日ほど前の一幕であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 斯くして配役は出揃い、舞台の幕は開かれた。

 緩やかに、然れど着実に広がっていた誤差はここに来て更なる乖離を見せ始める。

 

 或る者は救い、或る者は完成し、そして或る者は疑い。

 そんな長い、楽園へと続く長い長い舞台が、始まった。

 

 

 

 

 

 




 キリが良いので一旦切ります。
 ただこれだけだと短すぎるんで、今日の更新はまだあります。


 最後になりましたが、made in par さん、サバの味噌煮汁かけ卵 さん、カラスの巣 さん、ダブステップの真髄 さん、イボッチ さん、名も無き管理職 さん、評価付与ありがとうございました!
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