【本編完結】黒く濁った罪を背負って   作:RH−

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愉快な奴ら

 

「ハーハッハッハッハ!!! たまにはこういうのもオツなものだな!? そうは思わないかぁ? 兄弟」

「うるっせえええええ!!! 耳元で大声出すんじゃねえよ! てか舌噛むぞ!?」

 

 

 草木も眠る丑三つ時……には少しばかり早い夜更け。

 俺は今、神秘の糸とビル群の壁を使ったいつもの移動法でカイザーPMCから逃走していた。

 

 顔を前に向けた鬼怒川カスミを右肩に担ぐ────つまりは若干変則的なお米様抱っこを彼女にしながら。

 

 ここまでの経緯を纏めると、こうだ。

 ①いくつか分かった事があるということで繋ぎ手に呼び出される

 ②ゲヘナでの奴の店に行く道中で銃撃音が聞こえてくる

 ③見れば、カイザーPMCと温泉開発部(陣形的におそらく撤退中)が戦闘している

 ④殿を務めていたカスミが孤立してヤバそうだったので割って入れば、なぜかカスミが逃げずに俺に(物理的に)乗っかってくる

 ⑤仕方が無いので全力で逃げている ←今ここ

 

 分かりやすくていいなぁ、こんちくしょうめ!! てか誰に対する説明だよ!?

 

「しっかし、かなりの速度で逃げているのに連中もしぶといな…………と、そこの路地に入ってくれ!」

「ああ!?」

「ダストボックスに偽装した地下通路への入り口がある。視界を切って入れば撒けるだろう!」

 

 指示通りに路地に入ってみれば、たしかに蓋の開いたダストボックスがポツンと置かれている。

 

「あれだなっ!? 突っ込むぞ!」

「む、ちょっと待て!? このまま飛び込むつもりか!? 穴は深いぞ────ってあああああ!」

 

 一先ず余裕も無いということで空中から振り子を描いて直接飛び込めば────数秒程の浮遊感の後、固い地面に着地する感覚。

 カスミが言っていた通り穴の深度はかなりあったようで、衝撃を受けた両足がビリビリと痺れていた。軽く骨に罅が入っていそうな感覚もしたため、脚に回す神秘の量を増やして直しておく。

 

 ついでに固定するためにカスミに巻いていた糸を解いてやれば、『お前正気か?』みたいな顔を向けられた。

 

「あの高さを堕落するとは思わなかったぞ!? 君、本当に正気か!?」

 

 訂正、普通に正気かと問われた。

 しかしまあ…………

 

「急に空から降って来た黒ずくめの不審者に飛びつく奴に言われたくねえよ!?」

「それは…………ウム、何はともあれ無事に逃げ出せたのだし、その事を喜ぼうじゃないか! ハーハッハッハッハ!」

 

 どうやらあの高さを自由落下するとは思っていなかったらしく、イメージよりも調子の崩れた雰囲気で答えられる。

 一応カスミに衝撃は行かないように調整はしたのだが……少しばかり顔色が青くなっている辺り、怖かったのかもしれない。

 

 

 ちなみにであるが。重力などが一般的な環境下において自由落下を3秒行うと落下距離は約44mに、5秒まで経過すると落下距離は100mを超える。

 普段からビルを使った空中移動を行っており、更にはエリドゥで高層ビルよりも高く跳び上がっていた彼は忘れているが、常人ならあまり生きた心地がしない経験であろう。

 キヴォトスに適応してしまった彼は忘れてしまっているが。

 

 閑話休題(大事な事なので二回言いました)

 

 

 

 そんな会話を続けること数秒、ようやく普段のペースを取り戻したらしいカスミが不敵な笑みを浮かべ始めた。

 

「しかしまあ、助かったよ。情報通りの腕前じゃないか、()()()()()()君?」

「……へぇ、俺の事知ってたのか」

「おいおい、ここは私たちの庭だぞ? それで気付かれてないというのは些か楽観的すぎるんじゃないかい?」

 

 どちらかと言えば『マクガフィン』について知っていながら俺と関わりに来たのか、という意図での言葉だったのだが…………そんな俺の内心を読んでいるのかいないのか、彼女は気安く語りかけてくる。

 

「聞いた話じゃもっと慇懃なタイプかと思っていたんが……案外、そっちのほうが素だったりするのかい? んん?」

「さてね。答える義理は無いだろう?」

「つれない事を言うじゃないか、デートまでした仲だというのに」

「……いや、銃弾が飛び交う逃走劇をデートって言い張るのは無理がないか?」

「あっはは、それもそうだな! しかし、やはり素はそっちの方なんだな、君は」

 

 のらりくらりと話しながら、しかし同時に相手へ探りを入れる。

 どちらかと言えば繋ぎ手に近しいタイプ、どうにもやりづらい手合いだ。

 

 そんなわけで、離脱のために糸を地上へと向かわせていたのだが────

 

 

「────ああ、この場から逃げるだなんて無粋な真似はしないでくれよ? 死ぬほど後悔することになるからな」

 

 

 まるでそれを読んでいたようなカスミの言葉で、それは一旦中断せざるを得なくさせられた。

 

「……何が狙いだ」

「せっかちだなぁ、もっとコミュニケーションを楽しもうじゃないか!」

「もう一度言うぞ。何が狙いだ

 

 普段は抑え込んでいる神秘を少しばかり放出しながら、脅すように質問する。これでも戦闘経験は豊富なんだ、周囲へのプレッシャーのかけ方はよく知っている。

 相手の話に耳を傾けず直接的な武力に訴えかけるというのは、交渉や人心掌握を得意としている奴にはかなり厄介な手だろう。

 

 しかし、俺のそんな目論見はまるで意味を為さなかった。

 

「ははっ、無意味な威嚇はむしろかわいらしく見えてしまうぞ?」

「あ゛?」

「君が生徒相手に手を出さないのは把握しているんだ。それが君の信条なのか別の何かなのかは知らないが、ね?」

「────ッ!?」

 

 どうにか外に出る驚愕は最低限に抑え込む。

 何度か似たような不意打ちを繋ぎ手から受けていた経験がここに来て生きるとは。実に嬉しくない誤算だ。

 

 しかしまあ、このレベルの相手には付け焼き刃の対応は無意味だったようで。

 

「ほうほう、ただの推測だったのだが……案外良い線を行っていたようだな」

「…………参考のために、どこから予想したのか聞いても?」

「流れている噂だよ。例えば『嗾けられたヘルメット団50人を壊滅させた』という噂があったが、『マクガフィンが不良を殺した』という情報はまるで無かった。さらに言えば、その壊滅させられたヘルメット団を調べてみたが……全員無傷で拘束されただけだったと来た」

 

 …………なるほど。

 確かに、そこを調べられたら違和感を持たれてしまうか。物騒な噂については好都合だから放置していたが……盲点だったな。

 

「だが、それだけじゃ論理が飛躍していないか?」

「これだけならそうだっただろう。しかし、同時に君には『カイザーPMCの拠点を襲撃し回っている』という噂も存在した。というわけで、コレについて調べてみればあら不思議。PMCのオートマタ兵や兵器類に関しては容赦なく破壊しているじゃあないか」

「…………完敗だな」

 

 苦虫を煮詰めて煮凝り化した塊を噛み潰したような顔をする。

 流石にその段階まで調べられてしまえば、カスミの推論にも説得力が生まれてしまう。高い諜報力が必要な分、誰にでも真似できるわけではないだろうが……少し迂闊だったな。

 

 満足気に胸を張るカスミを眺めながら、これまでの行動を反省する。まあ、完全に手遅れなんだが。

 

「で……そこまで調べたんだ、なんか用があるんだろ?」

「ううむ…………これは話が早いことを喜ぶべきか、それともせっかちなのを残念に思うべきか。君はどう思う?」

「それを本人に振る時点で色々とおかしいと思うんだが」

「さっきから中々鋭いツッコミを入れてくれるじゃないか! 素晴らしいぞ~!」

 

 鬱陶しいぐらいの気安さで背中をバシバシと叩かれる。

 一瞬上に手を持っていきかけていたのは、元々は肩を叩こうと思っていたのだろうか。身長差がある分届かないんだが…………結局鬱陶しいことに変わりない。

 

「ま、この場で立ち止まって話すのも時間がもったいないだろう。付いてきたまえ」

 

 が、そんな俺の内心を知ってか知らずか……いや、この雰囲気なら理解した上で敢えて無視してそうか。カスミは俺を先導するように歩き始める。

 道を頼りなく照らす程度の電灯が足元に付けられているだけだというのに迷いなく進んでいるのを見るに、どうやら相当この地下道に慣れているらしい。

 

 そのまま上機嫌な鼻歌とカツンカツンという二人分の足音が響くこと数秒、妙にねじ曲がった坂道を下りながら、ようやく彼女は口を開いた。

 

「さて。もしかしたら自己紹介は不要かもしれないが、まずは名乗らせてもらおう。私は鬼怒川カスミ、温泉開発部の部長だ」

「それは知っている」

「やはりそうだったか! それなら、私たちが温泉の開発に心血を注いでいることも知っているかな?」

「それも……まあ」

 

 どちらかと言えば温泉開発というよりもテr────

 まるで俺の思考を読んだかのようにクルリとカスミが振り返ってきたので、それ以上は考えないようにしておく。わざわざ言うことでもないし、言ったところで『心外だなぁ!』だとか返されて話が逸れるだけだというのが簡単に読めたからだ。

 

「さて、そんなわけで我々は新たな温泉を開発しようと日々意気込んでいたのだが…………おおよそ一月ほど前だったか。我々の活動に悪影響を及ぼす面倒な連中が現れたんだ」

 

 今度は俺へ顔を向けるように振り返った状態で、後ろ向きに歩を進めるカスミ。

 途中まではニマニマと目を細めていたが、面倒な連中について語り始めた辺りで少しばかり不機嫌さが滲み出ているあたり、どうやら相当腹に据えかねているらしい。

 

 しかし、一月前か……。

 

「ほほう! 心当たりがあるようだな!」

「まあ……どうせカイザーの連中だろ?」

「その通り! 素晴らしいな、ハーハッハッハ!」

 

 時期的にも合致するし、そもそもついさっき温泉開発部とカイザーPMCが戦闘していたのを見たんだ。これで読めなかったら察しが悪すぎるだろう。

 

「連中が好き勝手し始めたせいで私たちは思うように温泉開発ができなくなった。というわけで────っとと、もう到着してしまったか」

「……到着? というか、さっきからどこに向かっていたんだ?」

「上に出れば分かるさ」

 

 そう言ってダボダボの白衣の裾を向けてくるカスミ。

 両腕を上げたその格好的に、抱えて持ち上げろという所だろうか。梯子が取り付けられているとはいえ、入ってきた時と同じようならそれなりの距離を登ることになる。小柄な彼女では面倒だというのは分かるが…………

 

「いくらなんでも不用心過ぎじゃないか?」

「攻撃を仕掛けるならもっと早くにやっているだろう? せっかちなのに妙なところを気にするな、君は」

「分かったよ分かりましたやりますよ!!」

「よろしく頼むぞ! ハーハッハッハッハ!!」

 

 これ以上ごねたところで意味は無いだろう。

 というか、無駄に揶揄われるのが目に見えている。

 

 それでも思う所が無いわけではないので、少しばかりの意趣返しをこめて縦穴を爆速で跳ね上がったのだが。

 地上に出た瞬間、驚愕のせいでコントロールを失った俺は無理な格好で不時着をする事となった。

 

 何故ならば。

 カスミが指定した地下通路の出口は、繋ぎ手の店の目の前にあったのだ。

 

「……おい、どういうつもりだ」

「ん? 何か問題があったか? 君の目的地もここだったろう?」

 

 背を向けるようにして佇む小柄な彼女へと問いかけるも、返ってくるのは煙に巻くような言葉のみ。

 

 ゲヘナで表立って行動していた俺と違い、繋ぎ手は隠密行動にかなりの気を使っていた。もともと各地を転々として活動するほど用心深いアイツがそこまでやって、ボロが出るとは思えない。

 一体どうやってここまでの情報を探ったのか。

 

 そういった意図も込めながら睨むが、やはり彼女は飄々としたまま。いっそのこと────

 

「ああ、さっきも言ったが妙な事はやめておきたまえ。話は最後まで聞くものだ……じゃないと、死ぬほど後悔することになるぞ?」

「アンタに何ができるってんだ」

「取り引きさ。私にも君にも益のある、そんな取り引き…………どうだい、話を聞く気になったかな?」

 

 なんとなく感じた嫌な予感に従い、とりあえず展開しておいた糸を解いておく。

 ついでに体から力も抜いてやれば、ウンウンと満足げに対面の彼女は頷いた。

 

「うむ、重畳重畳。さて、それじゃあ話の続きといこうか。なぁに、そう長くはしないさ」

「……で、続きは?」

「ははっ、やはりせっかちだなぁ。仕方ない、簡潔にまとめるとしよう。さっきも言った通り、カイザーが好き勝手したせいで我々の活動は妨げられてしまったわけだ。温泉開発という至上の活動が、だ。となれば、どうするかは決まってるだろう?」

「おい。おいおい、まさかだが…………」

 

 ついさっき見かけた────というか割り込んだ場面を思い出す。つまりカイザーPMCと温泉開発部が退却戦を繰り広げていた場面だ。

 

「我々にとって絶対に譲ることのできない一線を踏み越えられたのだ。黙っているわけが無いだろう?」

 

 果たして、カスミの答えは予想していた通りであった。

 いくらなんでもイかれてんじゃないかとも思うが……ゲヘナ生で尚且つ指名手配犯だもんなぁ…………。

 

「というわけで、取り引きだ。私たちの戦いに付き合ってくれないかい、マクガフィン君? その分、私たちも君に協力しようじゃないか」

「……ちなみにだが。断ったらどうなる?」

 

 ここまで用意周到に準備しておいて、逃げ道を残しているわけが無いだろう。そんな諦めと共に聞いてみれば、案の定と言うべきか、彼女は嫌らしく笑いかけながら答えた。

 

「その場合は……そうだな。まずは君に関する情報────ああ、どうやら隠したがっているらしい決して生徒を傷つけないというのも含めて、だね。その全てを公表しようか。手始めに……そうだな。ちょうどゲヘナに来ているシャーレの『先生』、彼にでも伝えてみようか」

「…………」

「ああ、それと。たとえ君の協力が無かったとしても私たちはカイザーと戦うぞ? 勝算が見えなかろうと、クレバーな生存になど興味はないからな」

 

 

 個人的な分析にはなるが、温泉開発部の強みというのは膨大な部員数とカスミの求心力によって繰り広げられる大規模なゲリラ戦にある。

 他にも、部員全員が滅多な事ではへこたれないという精神性や部長の冷静な分析と突飛な発想から立てられる作戦であったりもあるだろうが……重要なのは、部員個々人の実力はそう高くはないという点だ。

 

 実際、俺が覚えている限りでは温泉開発部の名有り(ネームド)生徒はカスミとメグの二人だけで、他は所謂モブちゃんと呼ばれる一般的な生徒だったはず。

 

 その上で、少し前に見た温泉開発部の撤退戦を考えれば…………おそらく、勝算はかなり薄くなるだろう。もちろん、目の前の彼女がタダでやられるほど素直な相手ではないとは思うが。

 

 

 とはいえ、だ。

 ここまで色々と策略を巡らせられるカスミが、勝ち目が薄いことを計算できていないはずが無い。カイザー相手に喧嘩を売ったとして、負けた後にどんな目に遭うのかも。

 

 普通に考えれば、さっきの発言はブラフだろうが。

 カスミの言葉には、強い決意が籠められていたように思えた。コイツならば間違いなく実行すると思わせるような、強い決意が。

 そうなってくると、断った時の裏目が大きすぎる。

 

 この先の計画は確実に大きく歪められることになるし、下手すれば温泉開発部から重傷者が出ることになる。

 俺が手を貸さなかったせいで、だ。

 

 

「君ならばどの選択が最も利になるか、分からないではないだろう? さぁ、どうする?」

 

 

 ニマニマと笑顔を浮かべながら語りかけられる。まるで獲物を追い込んだ捕食者のようだ。

 

 ……まぁ、仕方ないか。

 最初から最後まで計算ずくだったんじゃないか、なんてことを思いながら、静かに両手を上げる。

 

「降参だ。分ぁーったよ、協力する」

「二言は無いな?」

「そこまで落ちちゃいねーよ。それに、連中が嫌いなのは俺も同じだしな」

「素晴らしい! これからよろしく頼むぞ、共犯者君! ハーハッハッハッハ!!」

 

 再び隣に回り込んだカスミにベシベシと背中を叩かれながら、一先ず俺は繋ぎ手にどう言い訳をしようか考えるのだった。

 

 

 

 

────────

 

「で。これ、どういう状況なんです? マクガフィンさん」

 

 カスミとの邂逅から約一時間後、俺は繋ぎ手にジットリとした視線を向けられていた。

 目じゃなくて単眼レンズのはずなのにこんなにジト目感がでるんだなぁ、なんて気を抜くとすぐに現実逃避をしてしまいそうだ。

 

 状況は単純。取り引きに応じた直後に、俺が良い言い訳を思いつく間もなくカスミが繋ぎ手の店に突入しただけである。

 そのせいで、今の俺は親にやっていなかった夏休みの宿題を突き付けられているような気分だ。

 

 ちなみに、事の発端となった彼女はバーカウンターの椅子に座って鼻歌交じりに葡萄ジュースに舌鼓を打っている。チラチラとこちらに楽し気な視線を向けている辺り、絶対に確信犯だ。ちくしょうめ。

 てかおい、目合っただろ今。おい、笑ってんじゃねえぞ。てめえのせいだからな?

 

 なんて視線を送っていると、カスミはしょうがないなあという風に肩をすくめた。

 

「マスター! アルコールは無いのか?」

「誰がマスターですか! というかあっても出すわけないでしょう!?」

「ほほう、意外と常識的なんだな。ハーハッハッハ!」

 

 ああ、一瞬でも期待した俺が馬鹿だったよ。

 ご機嫌な笑い声を聞きながら、俺は静かに天を仰ぐのだった。ちくしょうめ。

 

 

 

 あの後、結局満足したらしいカスミが俺の言い訳……もとい説明に加わったことで、繋ぎ手にもおおよその事情は共有することができた。

 できた……のだが。

 

「では、改めて調査報告をしようと思うんですが…………」

 

 相変わらず、繋ぎ手の視線には『本当にこの人と手を組むんですか? マジなんですか?』という成分が色濃く表れていた。

 まあ、その気持ちはよく分かる。だって言葉を選ばなかったら扇動者だもんな。そりゃ正気を疑うよ。

 

 つってもコレ以外に選択肢が無えんだ、しゃーないだろ。なんか端から俺は目付けられてたらしいし。

 

「どうしたんだい? 急に黙り込んで」

「いや、原因筆頭は貴女なんですけどね」

「うん? 私が何かしたか?」

「…………いえ、なんでもないです」

「随分妙なことを言うんだな! ハーハッハッハ!」

 

 

 ふてぶてしく語りかけるカスミに、頭が痛いという様相で答える繋ぎ手。

 アイツがペースを崩されるというのは珍しいと思ったが、考えればこの場で最も弱いのは繋ぎ手なのだしそうなるのも仕方が無いか。

 うん、後でちゃんと謝っておこう。

 

 そんな場の雰囲気を理解した上で踏み倒しながら、再び彼女が口を開く。

 

「なに、そこまで嫌がる必要はない。単純な戦力という点では及ぶべくもないが、温泉開発部(私たち)には豊富な人手と情報網がある。君らにとっても悪いようにはならないさ。それに……高名な繋ぎ手君とは別口の、生徒だからこそ得られる情報というのはあっても悪くないだろう?」

「……むしろそこまで計算した上でコンタクトを取ってきた事の方がダルいんですけど。というか私のことまでご存知だったんですね、鬼怒川カスミさん?」

「おや、私の名を知っていたのか。まるで有名人になったような気分だな!」

「逆に貴女レベルの凄い(ヤバい)人が有名じゃなかったらどうするんですか」

「む、そうは言うがな。それならそこの彼の方がよっぽどじゃないか?」

 

 おい。なんで俺に飛び火してるんだ。

 あとお前はなんでそんなに悩んでんだ繋ぎ手。

 

「…………それもそうでしたね」

「おい」

「そうだろう! 人と違う自覚ぐらいはあるが、大企業に武力で勝負を挑んで、そのうえ個人で押し勝つほどじゃあないからな!! ハーハッハッハ!」

「おい」

「おや、案外話が通じるじゃないですか」

 

 おい。

 

「さて。それじゃあ早速、セールスポイントの情報についてお聞きしたいんですが。ぶっちゃけ、今ゲヘナ(ここ)で起こってる諸々の騒動についてどれくらい把握してるんですか?」

「全てを完璧に、とまではいかないが……そうだな、7から8割程度は把握しているつもりだ」

 

 なんで俺をダシにして意気投合した上、シームレスに会談に移ってるんだよ。

 せめてツッコミぐらいは受け取ってくれ。

 

「となると、カイザーが実験に使っている材料についてもご存知で?」

「ああ、地下水脈の事だろう?」

「…………続きを伺っても?」

「む、知らなかったのか。いや、私も詳しいところは専門外という訳で知らないのだがな。どうやら、特定の条件を整えると地下水に妙な効能が生まれるらしい。それを利用して連中は実験をしているという話だが…………最も重要なのは、連中が地下水脈を弄り回ったせいで温泉ポイントが減少したということだ!」

「なるほど」

 

 最後の発言は適当に受け流して、考え込むように顎に手を当てる繋ぎ手。

 “ゆ゛る゛さ゛ん゛!!”と言わんばかりに顔を顰め、バンバンと机を叩くカスミ。

 前提や修飾語を色々すっ飛ばした会話に付いていけず、ただの置き物になった俺。

 

 どうしてこうなった。

 

 

「ああ、連中が失敗作をばら撒いたことで治安が急激に悪化した事も知っているが……まあ、正直に言ってしまえばこっちはどうでもいいな。私たちには特に害も無いし、むしろ風紀委員長の動きを拘束してくれている分ありがたいまである」

「あー、それについてなんですがね。実は、カイザーもカイザーでこの状況は想定外だったようで」

「ほほう?」

 

 どうにか理解できた内容を纏めると、二人の会話の中身はこんな感じだろうか。

 ①カイザー製薬が新製品開発の原料にゲヘナの地下水脈に目を付ける

 ②色々と実験を行ったが、俺と繋ぎ手が嗅ぎつけてきたため一先ず証拠隠滅に失敗作を廃棄した

 ③治験に参加していたゲヘナ生が廃棄品を持ち出してばら撒く

 ④びっくりするほどワンダーランド ←今ここ

 

 え? 最後が投げやりになってるって?

 しょうがねえだろそもそも前提知識が無えんだから。付いていけるわけねーだろ。

 

 こういう時は仮面を付けているのがありがたい。表情を見られないからな。

 元々こんな事を目的に付けているわけじゃないはずなんだが……まあいいだろ。

 

「なるほど。となると、だ」

「ええ。非常に面倒なことになりましたね」

「…………」

 

 どうやら話はさらに進んだらしく、二人の表情が少しばかり険しくなる。

 というわけで、一先ず余計な事は言わずに『分かってますよ』というポージングを取っていたのだが。

 

「「分かっていますか(るかい)? マクガフィンさん(くん)」」

「………………」

 

 揃ってほぼ同時にこちらへ顔を向け、異口同音に問いを放つ二人。

 これは……めんどくさくなるやつだな?

 

「おいおいおい。お~いおいおいおい、まさかとは思うが理解していないなんてことは言わないよな? マクガフィン君」

「ええ。まさかそんなカッコつけたポーズをしておいて理解してないなんて……いやぁ、マクガフィンさんに限ってそんな事はないですよね。ごめんなさいごめんなさい」

「……分かってないので説明をオネガイシマス」

 

 スルリと掛けていた椅子から降りて、俺の肩に寄り掛かりながら煽ってくるカスミ。

 その流れを受けて、純度百パーセントの皮肉と共に同じく嫌らしく煽ってくる繋ぎ手。

 

 何でお前らこんなすぐに連携取ってきてんだよ。

 

「ウム、正直でよろしい! ハーハッハッハ!!」

「……そりゃどうも」

 

 なんて茶番を挟みながらもされた説明。

 それによると、今回の案件は手っ取り早く解決できる手法が無いのだとか。

 

 というのも、元々の予定ではどうせカイザーが碌でもない事をやっているんだろうから、それを調べてタレコミすれば済むと思っていたらしい。

 しかし、詳しく調べてみれば今回は生徒のやらかしも事件の発端になっていると来た。

 

 となると、カイザーの認可されていない地下資源の利用であったりを公表してしまえば、連中も反撃として契約違反や損害の責任をゲヘナ側へと追及する可能性があるのだとか。

 

 ざっと試算するだけでも現時点で一連の暴動の被害総額は七桁を超えており、その上でカイザー系列の施設も複数被害に遭っていた。

 実行した生徒は確定で矯正局送り、下手すればそれ以上…………つまりは退学措置にまで発展する危険性がある。

 

「とまあ、そんなわけで迂闊に動けなくなったんですよね」

「やらかしたのは自己責任だ、私には何ら関係ない……と普段なら私も言うんだがなぁ。流石に最悪のパターンが最悪すぎるし、そこまで血も涙も無いわけじゃない。さて、どうしたものか」

 

 犠牲に目を瞑れば簡単に解決できるが、犠牲を許容しなければ解決が難しい。そして、その『犠牲』の程度はかなり重度。

 端的に換言すれば、彼方を立てれば此方が立たずの究極形。

 

 切れ者の二人でも頭を悩まさせられているのは、そういう理由なのだった。

 

「…………」

 

 俺に期待されているのは作戦立案ではなく実動力。盤面を文字通りに破壊する“暴”としての側面だろうが、説明されたからには何かしらの解決策が無いか考えてみる。

 

 

 

 

 そうして、三者三様の思考で沈黙の帳が下ろされた室内。

 定期的に誰かから案が出される事で破られながらも、その静寂は夜と共に続くのであった。

 

 




最後になりましたが、117117 さん、タスマニア さん、ハスの葉 さん、赤と青のエボルトォ さん、先生の刺身 さん、マジカル芋けんぴ さん、評価付与ありがとうございました!
でもまだまだ評価お待ちしてますよ(小声)
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