【本編完結】黒く濁った罪を背負って   作:RH−

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 風紀委員会ってどういう形で運営されてるんですかね。
 治安維持組織として考えれば24時間体制で動いていないとダメですけど、そうなるとシフト制なんかを導入しないと無理がある…………が、彼女たちは学生なわけですし。
 それを言いはじめたら正実とかヴァルキューレなんかもそうですけど、どれくらいのレベルで運営されてるのかがまるで分からないっていう。

 これは……気にしたら負けなタイプかな?
 <ハァ、ハァ……! 敗北者? 取り消せ(ry (強火の幻聴)



進む局面

 

 カツ、カツと静かな廊下に足音を響かせながら、一人少女が歩く。

 

 小柄で華奢な体躯はともすれば小学生なのではと思ってしまうほど。

 抱え込んだ────或いはその身に圧し掛かった()()のせいもあってか、常の怜悧な印象も今ばかりは萎びてしまっているようだ。

 俯きがちに歩を進めるその姿は、地に付きそうなほど伸びた白い髪も相まって酷く沈んでいる。

 

 普段のゲヘナ最強の風紀委員長として畏れられる姿はどこにもなく、そこにあるのは年相応に脆い少女でしかない。

 

 

(なんだか、うまく行かないことばっかり)

 

 

 胸中で自嘲するように呟かれる言葉は、正しく今の彼女の状態を表していた。

 これが他の風紀委員の前であったのならば、気を張る事もできただろう。しかし、生憎と言うべきか当然と言うべきか、時計の短針が真左を過ぎようかという時刻にまで残っている生徒は稀であり。

 さらに言えば、今日は彼女自身が『糸口も掴めたし、今日は色々あった事だから早く帰って休んで』と告げた(命令した)後なわけで。既に建物からは人の気配が消えて久しかった。

 

 その後に続いた自分もすぐに帰るという言葉はどこに行ったのやら、彼女は一人(独り)残って思索に溺れているのだが。

 

 先に言ったように、糸口は掴めた。

 今日は色々とあったからだ。本当に、色々。

 

 昼間はこれまでに経験のない凶悪な立てこもり事件。

 その後も散発的に起こる暴動を鎮圧して回り、ようやく一息つけるかと思えばそのタイミングで押収した薬品の出処が判明し。

 そういえば万魔殿が件の企業絡みでゴタゴタしていなかったか? なんて思い出せば、それがフラグだったみたいに先生から合同で取り掛かるべきではないかと提案され。

 気乗りはしないがどう考えても正当性はそちらにあるし、何よりも先生にそんな事で駄々をこねるような子だと思われたくないと渋々会議の予定を取り付け。

 

 ここしばらくでも中々に忙しない日だったと思う。

 

 

 とはいえこの忙しなさは事態が大きく動いた事の証明でもある。

 先の見えないトンネルに在ったかのようなこの一ヶ月の事を思えば、喜ばしいことであるのは間違いないし疑いようもない。

 

 事実として、殆どの風紀委員は喜びを露わにしていた。

 

 

 だというのに彼女が浮かない顔をしているのは。

 溺れてしまうほどに思索に呑まれているのは。

 

(あんな失敗、本当にいつぶりだっけ……。何、やってんだろな)

 

 立て籠もり事件で起きた一幕以外に、その理由は無いだろう。

 

 

 軽く目を閉じれば────否、目を閉じるまでもなくあの一瞬が有り有りと浮かんでくる。

 

 ゆらり、と倒れ伏した者たちの中から起き上がる一つの影。

 死神の鎌みたいに鈍く光を反射する銃身。

 何もできないまま、引き金は引かれ…………。

 

 自分の撃ち漏らしのせいで、他の誰かが傷付こうとした。

 あんなのはただ運が良かっただけでしかない。明らかな失態だ。

 

 せめて狙われたのが自分ならばまだ良かった。比較してマシだというレベルでしかないが、自分のミスで自分が不利益を被るのなら耐えられた。

 けれども。実際に狙われたのは失敗した自分ではなく、他校から訪れてまで協力してくれている彼女であった。

 

「…………はぁ」

 

 結局、あの後モールから戻ってきた彼女とはあまり話せなかった。

 あれだけ鬼気迫る様子で駆け込んだのだから何かあったはずだが、しかし彼女は先生と少し話すだけで私たちには特に何も言わなかった。

 

(それはそうだよね。あんな失敗をしておいて、信頼なんてされているはずもないし。謝罪も……受け取ってもらえなかったし)

 

 その後の謝罪を「そんな重く受け止めないでいいよ~」なんて軽く流された事すらも、今の彼女にとっては悪いコトのよう。

 

 実際には、彼の二面性────その可能性については混乱を避けるためにも誰彼構わず話せる内容ではなく、そして彼について色々と考えている彼女には謝罪を受け取る余裕もなかったというのが真相なのだが。

 流石にそんな裏事情までは情報を持っていない彼女には、知りようのない真相である。

 

 

 そもそも、それ以外にも彼女は気付いていない。

 数日前からゲヘナで活動し始めた彼女と、一ヶ月もの間パンク寸前にまで追い込まれながらも風紀委員会を支え続けた彼女が同じパフォーマンスを発揮できるわけが無いという、いわば当たり前の事実を。

 

 自分がどれだけ頑張っているのかを。

 

 自分がどれだけ周りに認められ、そして頼りにされながらも心配されているのかを。

 

 

 心と体は密接に関係している。

 体調が崩れれば心は沈むし、心が壊れれば体もつられて悪くなる。

 

 おまけに、彼女は自分を褒めてあげることが…………自分を認めてやることが致命的なまでに苦手な性分なわけで。

 

 元々がそんなであるのに、疲労まで積み重なって追い詰められた彼女がそれらの事実に自覚を得られるかと言えば────まぁ、沈み込んでいる現状を見てもらえば一目瞭然であろう。

 

 

 窓越しから差し込む冷たい月明かりを見上げながら、また一つ小さな溜息を溢す。

 明日も仕事は変わらずあるし、数日後には万魔殿との会議も控えている。早く帰って休まなければ。

 

 なんとかそう切り替えた彼女は、一人トボトボと帰路へ着く。

 果たして、その重荷が軽くなる日は来るのか。

 

 静かな月明かりだけが、そんな彼女の様子を見下ろしていた。

 

 

────────

 

「ジェネラル! D区画に配備していた小隊との連絡が途絶しました!」

「またか!? ……仕方ない、今日は一旦引き上げるよう全部隊に通達しろ」

「よろしいので?」

「いいわけがないだろう!? ただ、これ以上正体不明の敵に一方的に削られるよりは遥かにマシだ」

「…………了解しました」

 

 場所はゲヘナ自治区に置かれたカイザーコンストラクションビルの地下。秘密裏に建造されたカイザーPMCが指揮を行うための大部屋は、現在右へ左への大騒ぎとなっていた。

 というのも、面倒事を引き起こした不良どもを捕らえようと配備していたはずの部隊が次々とその通信を途絶させていたのだ。それも、何が起きたのか報告する間もなく。

 

 明らかな異常事態に、場の全員の脳裏に忌々しい黒ずくめの仇敵の姿が過ぎる。

 しかし、もし奴が襲撃しているとしてだ。果たして一切の連絡も取らせずに全員を壊滅させるなどという芸当が可能なのだろうか。

 それに、疑問点はもう一つある。

 通信が途絶した部隊は、決まってその数秒前に爆破攻撃を受けているのだ。通信機越しに炸裂音が聞こえてくるのだから、それもそこそこの規模の。

 

 マクガフィンは基本的に銃火器は使用しない。

 むしろだからこそ対応に手間取っているのだが…………ともかく、この襲撃が奴によるモノなのか確信が得られていないのが現状なわけで。

 ジェネラルの判断は実に冷静だと言えるだろう。

 

(クソ……なんでこんな事になった)

 

 とはいえ、その内心までが冷静なままなのかと聞かれればそれは否であり。

 抑えようのない苛立ちがその胸中を満たしていたのだった。

 

「全部隊の撤退、おそらく完了しました」

「そうか。被害状況は?」

「新たに2部隊の欠落を確認したため、これで6部隊ですね……」

「…………そうか」

 

 それでも部下に当たり散らさないように意識できているあたりに、ジェネラルの『大人』としての矜持が垣間見えるだろう。

 

 そのまま彼は静かに息を吐くと、部下に「少し席を外す。何かあれば連絡を」とだけ告げて部屋を出ていった。一度頭を切り替えるためである。

 

 

「ああ、忌々しい……」

 

 小声で小さく毒づきながら、ジェネラルは過去を想起する。

 一体どこから歯車が狂ったんだ、と。

 

 

 

 

 

 

 始まりは、ゲヘナ地下水脈には一部特殊な効果を発揮する水が流れているという話を聞いたプレジデントの思い付きだった。

 

 先の一件での失敗以降、カイザーコーポレーション全体の業績は右肩下がり。まだ赤字には転じていないが、何か新たな主力が必要なのは明白。

 そんなタイミングで聞いたのが、ゲヘナにて秘密裏に行われた実験*1の結果、地下水を用いて名状しがたい忌まわしい化け物*2が誕生したという話である。

 

 眉唾モノの怪しい噂だとは思ったが、もし真実であったのなら色々と話が変わる。化け物を創り出せる材料だ、その価値は計り知れない。

 水だというのも良い。実験以外にも医薬品、食品など活用先が無数にある。

 

 さらには立地が混沌と無法さで名高いゲヘナ自治区だと来たもんだ。これ以上ない好条件だろう。

 まあ、実際にはその無法さの想定が甘かったせいでとんでもない面倒事に巻き込まれたのだが。

 

 

 ともかく。『ウトナピシュティムの本船』なんていうオカルト染みた代物の発掘に躍起になるぐらいのプレジデントはコレを好機と判断し、カイザーコンストラクションの土地開発事業に紛れて人員を配備したのだった。

 

 

 そうして始まった新事業だが、しばらくの間は悪くなかった。

 食品を使うと面倒な手合いを呼び寄せる危険性があるという事で、まず取り掛かったのは地下水を用いた新薬の開発。

 最初は既存製品へ混ぜて反応を見るといった単純な実験であったが、それだけでもいくつか反応が見られたりと成果はまずまず……どころか上々の出来であった。

 

 しかし。取り掛かり始めた新薬開発についてもこの調子なら、という展望が見え始めたあたりでまず事件が起こった。

 

 治験のバイトとして雇っていた生徒が、研究中の薬を外部に持ち出したのだ。

 一応治験段階にまで進んだ薬────つまりラットへの投与・観察は済んだ薬────であるので、中毒などの危険性はそう高くはない……はず。

 とはいえ、原料の地下水については勝手に使っているのもあるため嬉しい事件では無い。あと普通に契約違反だし。

 

 

 とはいえ、相手はただの生徒である。それも小金稼ぎのため考え無しに行動するような。

 一先ず外部へ漏らしたガキをさっさと捕まえて、見せしめも兼ねて教育してやろうか……なんて余裕さえ当初はあったぐらいだ。

 

 が、そこで第二の事件が起こった。

 

 カイザーコーポレーション不俱戴天の仇、その片割れであるマクガフィンがゲヘナにやって来たのだ。

 

 これはよろしくない。奴にちょっかいを掛けられれば確実に大事(おおごと)になる。

 それに、マクガフィンが来ているという事は彼の相棒である繋ぎ手が動いている可能性もあった。

 

 もしこの件に関する情報を得れば、あのカス野郎は嬉々として騒ぎ立てるのが目に見えている。既に一度痛い目を見ているため、その二の舞はごめんだ。

 

 

 というわけでマクガフィンが去るまで事業規模を縮小させ、それと並行して証拠隠滅を図ろうと使い道の無い薬品────つまりラットへの投与で危険な反応が見られたソレ────を廃棄しようとしたタイミングで、第三の事件が発生した。

 治験のバイトが今度はその危険な薬剤を持ち出しやがったのだ。

 

 もうそこからは制御不能であった。

 

 中毒性は高く理性のはたらきも阻害するというのに、潜在能力を引き出すというだけで薬品は一瞬で広まり。

 事の規模が大きくなりすぎたせいで風紀委員の活動が活発になり、監視網が厳しくなったため自分たちの活動はし辛くなり。

 そのくせ忌々しいマクガフィンはそこら中に出没するし、最近では『温泉開発部』だとかいう妙な連中に絡まれ始めるし。

 

 トドメにシャーレまで出張ってきたという事で、さあどうしたものかというのがカイザーの現状なのであった。

 

 

 

「捕捉されるのは仕方ないとして、いっそのこと大々的に不良共を捕らえるか? …………無いな。上手く行けば証拠は丸ごと消せるが、裏目が大きすぎる」

 

 いつになく短絡的な発想に、軽く頭を振る。

 大人ならば、ビジネスの場でどれだけ頭に来る事があろうと耐えるべし。それが仕事だ。

 

 自分に言い聞かせながら軽く深呼吸をすることで切り替えると、改めてクリアになった頭で次の手をどうするかジェネラルは考える。

 

(それはそれとして……いざという時に責任を被せられるよう子会社(生贄)を用意しておかねばな)

 

 念のため、保身の策も併せながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分ほど時を遡り、ゲヘナ自治区のとあるビル屋上にて。

 夜闇に目立つ臙脂色のシャツとダボダボの白衣が特徴的な少女が、猫のように目を細めながら眼下の景色を眺めていた。

 

「…………む? どうやら退いていくようだぞ。どうするんだ?」

 

 白衣の裾に隠れているため分かりずらいが、おそらくトランシーバーのような通信機をその手に握っているのだろう。彼女は手を口元へ近付けて言葉を送る。

 

『放置でいいでしょう。こちらは姿を晒してませんし、狙いが時間稼ぎにある以上わざわざ追うメリットが無いので。マクガフィンさんもそれで構いませんね?』

 

 僅かな空白の後に返ってきた声は、布越しでもはっきりと聞き取れるほどクリアなもの。送り手の胡散臭さまで感じられるほどであった。

 

『まあ構わん。欲を言えばもう少し削っておきたかったが……これに関しては向こうの判断が早かったか』

 

 またまた僅かに沈黙が空白を作ってから、スピーカー越しに届けられる言の葉たち。

 直前までの声が何もかもが計画通りといった余裕に溢れていたのに対し、こちらは少し不服そうな色であった。一段とくぐもって聞こえるのは彼が仮面をつけているからだろう。

 

「今更カッコつけてもこの通信は身内しかいないんだから無意味だと思うぞ?」

『ブフッ』

『やかましい』

 

 思わず頭に浮かんだツッコミを呟いたのは気が緩んでしまっているからだろうか。

 一般に出回っている市販品よりも高性能な通信機はそんな小さな声も容赦なく拾ったようで、間髪入れずに声が返ってくる。

 

「おやおやぁ? 繋ぎ手君だけでなく私まで『身内』に含めてくれてるんだなぁ、優しいじゃないか」

『…………もう好きにしろ』

 

 ノイズ交じりにくぐもった声でも分かるぐらい、辟易と顔を顰めていると読み取れる声。

 それでもしっかりと返事は返しているあたり、律儀というかなんというか。

 

(やはり、随分と変わった人物だ)

 

 今度は胸中に留めて、そんな感想を零してみる。

 

 これまで出会ってきた人々の中で、彼は一二を争うぐらい変わっていると彼女は思う。

 さっきの応答を聞けばわかる通り、彼は自分の絡み方に“鬱陶しい”と感じている。が、これまでの感覚からして、同時にそれを“好ましい” とも感じている……ように思える。

 

 とはいえ、それだけならば普通にいる程度の人物だ。

 飾らずに言えば、素直になれない性格。

 

 しかし、彼の場合はその上に歪さが積み重なっている。

 

 それは例えば二面性。

 さっきも垣間見えた『慇懃に振る舞うマクガフィン』と、素の性格である『口調は荒いが相手の事を想う青年』という二面。

 カイザーPMCを相手にする時のような『敵対者には容赦しない冷酷さ』と、生徒を相手取る時の『傷の一つも付けないようにする歪な優しさ』の二面。

 

 そして、どれだけ鬱陶しくとも反応は返す真面目さと、時折片鱗を覗かせる自罰的な部分。

 

(ま、これ以上は踏み込まない方が安全か)

 

 普段の軽薄でウザったらしい絡み方を見ていると意外に思うかもしれないが、彼女は非常に計算高く、そして他人(ヒト)の感情の機微には敏感な人物であった。

 むしろ普段の振る舞いは“敢えてそうしている”というだけであり、『相手はどういった事象に反応を示すのか』『どこまでやれば相手は激昂するのか』といった分析を行うための手段であると言うべきであろうか。

 

 だからこそ、彼女は早い段階から彼の歪みや踏み込んではいけない領域について察していた。特に後者については迂闊に触れれば文字通り()()()()()()レベルで危険だと。

 もちろん、それは上手く彼の素を引き出せたからというのも多分にあるのだろうが。

 

(それに、歪んでいようが関係は無いか)

 

 軽く唇で弧を描く。

 そもそも自分だって『温泉開発(追い求める唯一つ)』以外は些事だと言えるような人間なのだ。誰かの歪みを見つけた程度で態々あげつらう事でもない。大なり小なり、誰にでもそんなものはあるのだし。

 

 少なくとも彼らは自分の目的に反する存在ではない。今はそれでいい。

 彼らとの関係はただの一過性のモノになる予定であるのだし、これ以上を考えるのはそうでなくなった時で問題ない。

 

 そう結論付けると、彼女は弧を描いていた口を開く。

 いつも通り、鬱陶しくふてぶてしく言葉を放つために。

 

「いやあ、にしても武器商人が協力者にいると動きやすくて仕方ないな。部員のみんなも普段以上のパフォーマンスを引き出せているようだし」

『…………いや、私は別に武器商人ではないんですけど』

『でもあながち間違いでもないだろ』

『ちょっ、マクガフィンさん!? 貴方どっちの味方なんです!?』

『挙げるとすれば俺は俺の味方だ』

「やっぱり君たちは愉快でいいな! ハーッハッハッハ!!」

 

 

 

────────

 

 そんなこんなで、その後もいくつか事件が起きては解決されながらも時は過ぎ行き。

 4日ほどの空白を挟んだその日、ゲヘナ学園本校舎の一室は朝からピリピリと張り詰めた緊張感によって支配されていた。

 

 その部屋が別段何か特徴があるというわけではない。ただの会議室であり、必要書類さえ提出すれば誰でも利用できる普通の部屋である。

 では何故そんな状態になっているのかと言えば…………

 

「以上が、私たち風紀委員会が入手した情報です」

 

 現在会議室を利用している顔ぶれによるもの、それ以外に何も無いだろう。

 

 

 

 会議室前面に取り付けられたホワイトボードに向かい合うよう、凹の字型に配置された複数の長机。

 プロジェクターでホワイトボードに映写された資料へ向かって右側に並ぶのは、風紀委員会の中枢メンバー。報告のために前へ出ているアコを除いたヒナ、イオリ、チナツが席についている。

 

 そしてそれに向かい合うように座っているのが万魔殿の中枢メンバーたち。マコトを上座に置き、その隣にイロハ、サツキ、チアキの順で控えている。流石に真面目な会議という事でイブキは欠席のようだ。

 ……あるいは、かわいいイブキを風紀委員になど会わせてなるものかとどこかの生徒会長が動いたのかもしれないが。

 

 最後に、ホワイトボードの正面に座るのがシャーレからの出向組。先生を中央に据え、右側にホシノが、そして左側にリオが腰を下ろしている。

 

 

 まさしく“錚々たる顔ぶれ”という表現が似合う面々であるが、わざわざ集まっていったい彼女たちは何を話し合っているのか。

 それについては、ホワイトボードの左上に大きく書かれた『ゲヘナ自治区の急激な治安悪化及びその原因について』という議題を見てもらえば簡単に理解できるだろう。

 

 まあ、つまる所、ある時から増え始めた暴動を起こす不良生徒たちとその原因である薬物、そしてそれを製造したカイザーコーポレーションについてである。

 

 

 さて、そんなわけで報告を終えたアコがカツカツと足音を立てて席へ戻る。

 そのままヒナの隣の空席に着き数秒、しかし誰も動かずに壁に掛けられた時計だけがカチカチと無機質に物音を立てた。

 

 本来ならばこの後は万魔殿からの報告へと続くはずなのだが。対面の誰もが席を立つ気配が無いことに疑問を抱いたアコが、いよいよどうしたのかと口を開こうとしたその時に。

 万魔殿議長である少女が、言葉を放った。

 

 

「それだけか?」

 

 

 静かな空間に響き渡る声。

 低く怜悧な印象を与えるその音色は、そのまま室内の温度を凍り付かせた。

 

「は?」

 

 思わずアコの口からドスの効いた単音が漏れる。

 チナツ、イオリもまた、声を出す事こそ自制したものの明確な敵意を込めた視線を対面へと送っていた。

 

「ちょっ、マコト先輩!? 何言ってるんですか!?」

 

 しかしそれは風紀委員会側だけでなく万魔殿の彼女たちにとっても想定外だったようで。

 サツキ、チアキは表情を固め、イロハは傍らのマコトへと小声で問いかけを行っている。

 

 だが彼女は止まらなかった。

 

「その程度の情報、このマコト様はとっくの昔に手に入れていた。それに、物的証拠についても別口で押さえてある」

「……何が、言いたいんですか」

「お前に言っているのではない。空崎ヒナ、貴様に言っているんだ。やはり風紀委員の協力など必要ない、この件はマコト様一人で解決してみせる。…………おい、だんまりか。何か言い返したりしないのか」

「羽沼マコトッ、貴様ぁっ!」

 

 ヒナにかかる負担を誰よりも近くで見てきたからこそ、その言葉は我慢ならなかった。

 声を上げたアコだけではない。イオリも、チナツも、自分たちの力が足りないばかりにヒナへの負担が重くなっていることを自覚しているが故に、それは許せるラインを踏み越えていた。

 

 けれども、今にも掴みかからんとする彼女たちよりも先に小さな声が。

 

 

「いい。もういい。あなたがそう言うのなら、私はこの件を降りる。後は勝手にして頂戴」

 

 

 室内で誰よりも小さな影、つまりヒナである。

 彼女は俯いたままそう告げると、静かに席を立って部屋を出ていく。追いかるように部屋を出たアコたちへ「付いてこないで。一人にして」と命令して。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、マコト先輩! どうするんです!?」

 

 声を挟む余裕もない急激な展開に置いて行かれた万魔殿とシャーレの面々。

 イロハの問い詰める声だけが虚しく響くが、しかし出ていってしまった彼女たちが戻ってくることはない。限界が近かった彼女へトドメを刺してしまったのはマコトなのだから。

 

「…………わたしは、何をやっているんだろうな」

「え?」

「すまない、イロハ。しばらく席を外す」

「は?」

 

 そんな中、静かに瞑目していたマコトまでもがそう告げて部屋を出ようとした。

 当然ながら引き留めようとする万魔殿の面々だが、しかし彼女はその声を無視して足早に進んで行き────────

 そのままイロハ達の声までもが遠ざかり、ついに残るのはシャーレからの出向組だけとなった会議室。

 

「…………これは、どうするのかしら」

「……どうしようねぇ」

 

 そこには、カチカチと一定のペースを無機質に奏でる壁時計の音と共に、リオとホシノの声が静かに響くだけであった。

 

 

 

*1
※料理です

*2
※かわいいパンケーキです




当然ながら、マコト様の行動には理由があります。
彼女も彼女で色々と考えて、影響を受けていたりするんです。
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