「諸君。私は温泉が好きだ」
ゲヘナ市街区・地下。
複雑に張り巡らされた、迷宮のような地下道の一角。
「諸君。私は温泉開発が好きだ」
元は兵器群の倉庫にでもされていたのか、数百人規模の人員が収容できるような大規模な空間にて。
「諸君。私は温泉開発が大好きだ」
壁面下部、取り付けられた電灯が足元だけを青緑に頼りなく照らすような、薄暗いその場所で。
台上に立ち演説を行うのは、暗闇においても尚目立つ臙脂のシャツと白衣を纏った少女。
「単純温泉が好きだ」
「塩化物泉が好きだ」
「炭酸水素塩泉が好きだ」
「硫化塩泉が好きだ」
「二酸化炭素泉が好きだ」
「含鉄泉が好きだ」
「硫黄泉が好きだ」
「酸性泉が好きだ」
「放射能泉が好きだ」
朗々と謳い上げる様に、粛々と託宣を告げる様に、飄々と数年来の旧友へ語りかける様に。
彼女は語る。
「ゲヘナで。レッドウィンターで。ミレニアムで。百鬼夜行で。山海経で。D.U.で。都市で。秘境で。沿岸で。高地で────────このキヴォトスで行われるありとあらゆる温泉開発が大好きだ」
女性としては低く凛とした声が、暗闇を貫いて残響する。
「吹き出た源泉によって地が潤される様を見るのが好きだ。この身を浮き上がらせて尚余りある勢いを持つ間欠泉を見つけた時など心が躍る」
隣合った人間の顔さえ注意して見なければ判別できない空間で、その声は何よりも雄弁に彼女の表情を告げていた。
「地を穿ち掘る炸薬の奏でる調べが響き渡るのが好きだ。腹の底から震わせるような爆破によって鼓膜が麻痺した時など感動すら覚える」
やがて台上を歩き始めたのか、カツカツと硬質な音が鳴り始める。
「我々の邪魔をしようと立ちはだかる治安維持組織を出し抜いた時などはもう堪らない。泣き叫ぶ連中が私の起爆した爆弾の雄叫びと瑞々しい源泉の息吹に絶望するのも最高だ」
軽やかに暗闇を叩く足音と、その調子とは裏腹に低く響く演説の声。この空間を支配するのは、彼女唯一人であった。
「我々の開発した温泉に人々が浸かって喜ぶ様を見るのが好きだ。温泉への称賛など聞いた時は口角が上がるのが抑えられない」
少しずつ、少しずつ高められるボルテージ。それはその場の全ての者達へと伝播し、その感情を昂らせる。
「企業の犬共が荒れ狂う様を見るのが好きだ。そんな連中によって、必死に生み出した温泉が封鎖され取り壊されていく様はとてもとても悲しいものだ」
一転して静かに、悲しみが滲ませられる声。しかしそれは、彼女の言葉に呑まれつつある空間にとってはむしろ鮮烈なアクセントになる。
「指名手配され、自由の代償として治安維持組織に追われ逃亡するのが好きだ。風紀委員長に蹂躙され害虫の様に地べたを這い回るのは屈辱の極みだ」
やがて全員の心が集まったと判断すると、彼女は演説を次のフェーズへと進めた。
「諸君。私は温泉開発を望んでいる」
「諸君。私は無知蒙昧なる敵への反撃を望んでいる」
「諸君。私に付き従う大隊戦友諸君」
「────君達は、一体何を望んでいる?」
演説台の隅、彼女の左右の背後に控えるように佇む黒尽くめと白尽くめの人物。
その片方が手元を操作すると共に、まるで後光を浴びるように彼女が照らされる。
鮮烈に。
鮮麗に。
鮮明に。
まるで暗闇に浮かび上がるが如く、彼女だけが光を浴びる。
「更なる温泉開発を望むか?」
「我々の庭に土足で踏み込んできては好き勝手に荒らし回る怨敵への反逆を望むか?」
「鉄風雷火の限りを尽くし、キヴォトス全土の蛸を殺す烈火の如き戦争を望むか?」
そうして重ねられる問い掛け。
『反撃を!!』
『反逆を!!!』
『鉄槌を!!!!』
その返答は、部屋全体の空気をビリビリと震わせるような一糸乱れぬ大合唱であった。
同好の
「所詮ガキだと高を括るあの連中を叩き起こし、我々の何たるかを刻み付けてやろうではないか」
彼女を照らす光が薄れると共に、その背後にある大きな扉が軋みを上げる。
振り返る彼女の視線の先には、やがてその隙間から登り階段が姿を現した。
再び黒尽くめと白尽くめの人物を左右に従えながら、彼女は踏み出す。
『うおおおぉぉぉぉおおおおおッッッッ!!!!!!』
その背に、200近い友の上げる雄叫びと作業靴の音を引き連れて。
「……ノリノリですね、彼女」
「…………まあ、恐ろしいぐらいに士気は上がってるしいいんじゃないか?」
「それはそうですが。しかし、こうなったらいくつか作戦を修正するべきですかねぇ」
「
「フフッ、それもそうですね」
騒音に紛れたそんなやり取りを聞き取れたのは、果たして当人達以外に存在したのか。
高らかに上げられた笑い声だけが、最後には響き渡るのだった。
「ハーッハッハッハ!!!」
────────
「状況は!?」
「ぐっちゃぐちゃで整理できてない!」
耳を澄ますまでもなくそんな叫び声が聞こえてくるのは、急遽発足した『ゲヘナ
各地から上がってくる報告を必死に食らいつくよう処理しながら、どうにか現状を把握しようとしている場所である。
室内の様相はまさしく阿鼻叫喚、怒号の飛び交う鉄火場そのものな状況であった。
これまでの因縁を忘れて風紀委員と万魔殿の生徒がやり取りしていると言えば、多少はその程度が伝わるであろうか。もちろん、非常時であるが故の一時的な協力体制なのだろうが。
とはいえ、こうでもしなければ手が足りないこともまた事実。
なにせ、今回の戦場は文字通り“ゲヘナ全域”なのだ。これまでの散発的に起こっていた暴動や普段温泉開発部が行っている破壊活動などとは格が違う。
その上で更に厄介なのが、主戦場となっているヒノム火山付近、ゲヘナ学園校舎付近、市街区中央・カイザーコンストラクション支社付近の三ヶ所を含めた全ての戦域において温泉開発部がゲリラ戦を徹底しているという点。
元々温泉開発部の基本戦術はゲリラ戦である。
が、それはここまで徹底した────常にカイザーPMCの動線を予測し、手の薄くなった箇所を即座に、そして的確に攻撃するなんて完成度には無かった。
幾人かの生徒が未確認の武器を装備しているのもあり、背後に誰かがいるのは確実と見ていいだろう。
現時点で纏められた情報からそこまでを分析すると、さて、と先生は思案する。
(まずはどこから対応するべきか……対処のしやすさという面では一番近い校舎付近の戦場だろうけど、市街地の方を放置していると被害がどうなるか予想できない。それに、彼が敵じゃないと決まったわけでもないし)
なぜ温泉開発部とカイザーPMCが衝突しているのか。その原因が掴めていない現状、交渉や説得を試みるのは現実的ではない。
アドリブでこの戦場を無血平定できると考えるほど、先生は思いあがってはいないのだ。
故に、彼が考えるのは三つある主戦場の内どこから攻略すべきか、という点。
説得について考えるのはその材料が揃ってからでも遅くないし、攻略順については考えておいて損はないのだから。
(一番良いのは三ヶ所全てを同時攻略することだけど…………流石に裏目が大きすぎるか)
可能か不可能かで言えば、おそらく可能ではある。
戦力を分散させ小出しにするというのは、戦略としてあまり褒められる上策とは言えない。むしろ下策の代表例と呼ばれるものだ。
所謂、『戦力の逐次投入は愚策』というやつである。多くの人が一度は聞いた事があるだろう。
が、それは足りない戦力を分散させてあれもこれもと手を伸ばした結果、どの戦場でも勝てなくなった場合の話。分散させても尚戦えるだけの戦力が揃っていさえすれば、この手は何の問題も無くなる。
最大効率で幅広く攻略できる分、なんなら良手にさえなるだろう。
それこそ、風紀委員会と万魔殿という大組織二つ分の助力が得られている現状とかなら。
とはいえ、『可能である』という事と『失敗しない』という事は等価ではない。
万に一つでもその危険性があるのならば、熟考を重ねるべきだ。特に、今回のようなしくじった時の影響がどこまで大きくなるか見通せない時などは。
(今入ってきている情報からして、一番規模が大きな戦場は市街区だろう。ヒットアンドアウェイを徹底している温泉開発部の正確な人数は分からないが、カイザーPMCの動員数はかなり多い。パワーローダーやゴリアテまで出ているようだし。それに、
ホログラムディスプレイ上で忙しなく更新される情報に次から次へと目を通しながら、先生は思考する。
(逆に、一番小規模なのは校舎付近か。動きからすると、どちらかと言えばコレは私たちの動きを鈍らせるための攪乱用っぽい? 実際、これだけ近くで戦われると否が応でも意識を割かざるを得ない。ただ……それにしては温泉開発部の動きが消極的な気もする。むしろただのポーズのようにさえ見える。こちらが動けば、案外すぐに引き下がる可能性もあるか?)
先生が得意としているのは戦術指揮である。もちろん戦略立案もできない訳ではないが、得意と言える域には達していない。
だが、彼は『超人』とまで呼ばれた連邦生徒会長が
大局を分析し、戦場の動きから相手の狙いを読み解く程度ならば容易い。
現在はまだ曖昧な直感という形でしかない。しかしここに論理的な説明が追い付くようになれば、あるいは────。
彼が大成する日は近いのかもしれない。
(残るヒノム火山は……立地がネックだな。ちょっと行ってくるなんて距離ではない以上、ある意味ここが一番厄介かもしれな────待て)
そして最後の戦場について考え始めたあたりで、ふと抱いた疑問。
(なんでヒノム火山なんだ?)
カイザーと衝突している以上、カイザーコンストラクション事務所付近で戦闘が起こっている事は分かる。
校舎付近の戦場についても、予想ではあるがその理由は読み解けた。
では、最後の一ヶ所はどうなのか。
先に述べたように、ヒノム火山は中心街から遠く離れている。
移動にも手間のかかるような、辺鄙な場所なのだ。
(わざわざそんな場所で、何故? それに、カイザーPMCも何故ヒノム火山に部隊を配備していたんだ?)
決定的な情報────すなわち、薬の原料は地下水であり、そしてその主要な汲み上げ場所がヒノム火山付近であるという事実────を持ちえないために、その思考はここで打ち切られる事となる。
しかし、散りばめられた僅かな情報から核心へと迫るその速度は恐るべきもの。
────────
《ゲヘナ学園・中庭》
「キキキッ、まずは私たちが先駆けとなる! お前たち、万魔殿とマコト様の恐るべき力を知らしめし、反撃の狼煙を打ち上げようではないかっ!!」
「うおおぉぉぉおおっ!!」
マコトが部下たちへと飛ばす激励と、それに応える万魔殿の生徒たちの声が群青の空へと吸い込まれる。
戦力は十分、士気も上々。戦闘開始前の状態としてはかなり良い分類と言えるだろう。
それを一つの頷きと共に認めると、万魔殿議長である少女は外套を翻しながら先頭を歩み始めた。
温蛸内乱、その戦局が次の段階へと進んだ。
《ゲヘナ学園自治区郊外・ヒノム火山付近》
「みんな……今日は私のせいで色々と心配させたと思う。それでも、まだ私に付いてきてくれる?」
「もちろんです!! 私たちが委員長の下から離れることなんてありません!」
「フフッ……ありがとう、アコ。それに、みんなも」
憑き物が落ちたように柔らかに微笑むヒナと、それに安心したように応える風紀委員の少女たち。
その光景は、鉄火場の近くだとは思えないほど穏やかなものであった。
「それじゃあ────行きましょう」
が、それも委員長たる少女の声によって切り替わる。
例え連日の事件によって疲労が蓄積していようが。ずっと沈んだ様子だった委員長が復調したことに安心していようが……彼女たちは『風紀委員会』である。
ここまで大規模な動乱を前にして、黙っていられるほど枯れても腐ってもいない。
「総員、戦闘用意。最速で終わらせよう」
『はいっ!!!』
街並みの明かりから遠く離れ、天に頂く光輪と星々が鮮明になったその場所には、そんな声が響くのだった。
《ゲヘナ学園自治区・中心街》
「他の場所でも始まったみたいね」
「だねぇ」
タブレット端末を片手に黒髪の長身な少女がした呟きに、橙と青のオッドアイを細めながら別の少女が短く答える。
ジッと息を潜めながら彼女たちが眺めているのは、もはや『蹂躙劇』とでも形容すべき惨状であった。
無数のオートマタ兵や戦車たちが細切れに倒れ伏し、ゴリアテと数機のパワーローダーまでもが残骸として火に包まれ。もはや増援も絶え始めたカイザーコンストラクション事務所前に佇むのは、ただ一人の黒い影。
「今さら聞くような事じゃない気もするけれど……本当に大丈夫なの?」
「ま~、久々に本気で戦わないとダメだとは思うけど。大丈夫だよ、多分」
この一週間ほどで見かける頻度がかなり高くなった鋭い雰囲気を覗かせながら、装備の最終チェックを行うホシノ。真剣さはあるが、不安などはあまり感じていない様子だ。
反面、持ち込めた全兵力である6機のAMASとの接続をチェックしながらもリオの顔は気がかりな色に曇っていた。
「まだ完全には信じられないのだけれど……
「うーん、多分?」
「多分って……」
「それも含めて今から確認するつもり、かな~。まぁ、大丈夫だよ。だって────」
丁度二人ともが作業を終えたタイミングで、カツカツと足音が近付いてくる。
連日の激務の中でも皺ひとつなく整えられたスーツ。
その上に羽織る外套は染みひとつない白が眩しく、そこに差された青の線が目を集めるアクセントになっている。
彼が指揮を執る際に起動されるタブレット端末には各地の戦況が逐次更新されており、現在進行形でそれに合わせて全体の戦略を修正しているようだ。
しかしながら、そんな重労働を行いながらも表情には余裕のある笑みが浮かべられている。
ただの強がりなのかもしれないが、しかしそれが強い安心感をもたらしている事もまた事実。
「遅れてごめん。私の方も準備は終わったから、いつでも行けるよ」
そんな彼を見て僅かに相好を崩しながら、ホシノがリオへと語りかける。
「私たちには先生がいるんだから。ね?」
「まあ、そうね」
返答は短く、しかし同じ結論に至った事を如実に告げるモノ。
「それじゃあ。私たちも始めようか」
「りょーかい」
「ええ」
ここに、最後の戦線の火蓋が切って落とされた。
結局、先生が選んだ手は主要戦域の同時攻略であった。
ただし、そのために分散させた人員は非常に非対称なものであったが。
ゲヘナ学園校舎付近に万魔殿が、ヒノム火山付近に風紀委員会が、そして市街区に先生・ホシノ・リオのシャーレ組が配備されたことを考えれば、そのアンバランスさがよく分かるだろう。
もっとも、単純な総戦力という面で測れば案外良いバランスになっているかもしれないが。
もちろんの事だが、この振り分けにはいくつか理由がある。
まず大前提にあるのが、連携を取れない組み合わせがあるという点。
まあ、万魔殿と風紀委員会の事であるのだが。シャーレ組は三人ともオールマイティに動けるぐらいには安定感がある。
この二組織は一時的に肩を並べてはいるが、それは訓練などを積んだ上での代物ではなく非常事態に起因したものでしかない。つまり、混成部隊など作ったところで上手な連携など期待しようがないのだ。
それならば、初めから独立させておいた方が普段通りのパフォーマンスを発揮できる分よっぽど良い。
その上で『校舎付近の温泉開発部の動きが消極的であること』、『ヒノム火山付近に増援を送ることは困難であるため、確実に鎮圧できる戦力が必要であること』を踏まえると、万魔殿と風紀委員会の振り分けは決まってくる。
市街区の方に万魔殿の部隊を配備することも考えなかったわけではないが……問題は、そこで暴れている彼が明らかに多対一の戦闘に慣れているという点。
常に一人でカイザーPMCと戦い、そして勝利までしている彼を相手にしようと思うと……ハッキリ言ってしまえば、万魔殿では力不足だ。
自分には何も見えないが、どうやら彼は鋼線のようなものを得物にしているようだし、それによる範囲攻撃で一掃されてしまうだろう。
そうなるぐらいならば、あえて最小限の人数で挑むことで巻き添えの心配を減らす方が効率が良い。
例えば────キヴォトスでもトップクラスの潜在能力を持ち、そして火力役と防御役の両方を高い水準で熟せる人物などで。
それに、これはホシノ自身の希望でもある。
これまでの因縁に決着を付けるために。どうして何度も自分を助けたのか聞くために。
そして何よりも、2年前のあの日に何が起こったのかを知るために。
そう語る彼女の瞳には、確かな覚悟が表れていた。
ならば否はない。
危険性など百も承知。彼の戦闘力を考えれば、紛れもなく狂気の沙汰だ。
しかし────生憎、自分は生徒相手に『どんな時でも奇跡を諦めない』と語るような人物なわけで。
今の自分は捉え方によっては無責任に映るだろう。
子どもに夢だけでなく現実も見せなければ『先生』ではない、そんなありがたいご意見まで聞こえてきそうだ。
ああ、確かにそうだろうさ。夢だけで生きられるほど世界は丸くできちゃいない。
だが。
(夢を諦めて。奥底にある熱から目を逸らして、現実を見た気になって賢しらに振る舞う。そんな生徒の姿など────そんな子どもたちで溢れた世界など、私は見たくない)
子どもの夢を、希望を否定する大人に、何の価値があるのか。
違うだろう。
大人が果たすべき責任は、子どもが一切の
そのためならば、私は
喩えこの身を代償に捧げることになろうとも。
顔を上げる。
その左手に握られた『大人のカード』が、彼の決意に応えるようにキラリと光を反射した。
────────
《ゲヘナ自治区・ゲヘナ学園校舎付近》
「校舎付近隊より本部へ。万魔殿の部隊を確認した、作戦をA-2へと進める。オーバー」
『了解だ。事前に確認した通り、捕縛される前に撤退するように。オーバー』
部長が新たに連れてきた二人の協力者の内一人、繋ぎ手なる人物から配備された無線機。
これまで自分たちが使っていた市販品とは比べ物にならないほど高性能なソレから耳を離しつつ、中隊長の役を任命された少女は思考を回していた。
(ふう、現状は概ね────というかほぼ10割想定通りか。いや……むしろ想定通りすぎて不気味だな)
伝えられた作戦は複数のパターンに柔軟に対応できるよういくつかあったのだが、Aが頭文字となる作戦は基礎となる作戦であり、そこからイレギュラーに合わせてB・C・Dと進むようになっていた。
つまり、現状は全くの想定通りという事。
それこそ、逆に疑念を覚えてしまうほどに。
(いかんいかん、余計な想像をしては。にしても、作戦立案に一人加わるだけでここまで変わるのか。それに、どうやらもう一人の協力者はとんでもない実力者みたいだし……部長は凄いな、ホント)
明らかに荒事に慣れた裏社会の住民、それもかなりの上澄みであることは読み解けたが、それにしてもここまで実力を見せられたら『大人とはこうも凄いのか』と感嘆の念を抱かざるを得ない。
とはいえ最終的にその尊敬が向かう先が『そんな人材をスカウトしてきた部長すげー』になる辺り、実に温泉開発部らしくはあるのだが。
『遊撃隊Ⅰより報告~。風紀委員がヒノム火山、シャーレの3人組が中央の方へ向かってま~す。オーバー』
『完全に想定通りだな、ハーッハッハ! それじゃあ諸君、撤収するまでの間で最大限荒らし回ってやろうじゃないか』
『『了解!!』』
なんて考えていたところで、追加の報告が伝えられた。
どうやら、作戦はAのまま終わりそうだ。
(ここまで来ると……逆に笑えて来るな)
「中隊長! 虎丸が出てきました!」
「よし、前線のメンバーを入れ替えろ! 落とされた味方の回収も忘れるなよ! 虎丸で硬めの連中が間引かれたら後は砲撃で一掃しようとするはずだ!! 退却の準備も始めておけ!」
「はいっ!」
生徒会長である羽沼マコトの指示のもと砲撃の準備がされていることを確認すると、温泉開発部の少女たちは退却を開始し出す。
同時に、前線に出てきた棗イロハの操る重戦車『虎丸』がその主砲から大火力の攻撃を開始した。
想定通りに盾を装備したカイザーPMCを始めとした耐久性を売りにしている連中がその餌食になるのを横目に、悠々と退却する温泉開発部の少女たち。
勿論ながら、それは露骨に分かるほどのものではなく丁寧に進められているのだが、しかし前線に居る者らにはバレてしまう。
「お前らっ、どこに────うおおおっ!?」
「はっ、ザマーミロ」
が、気付いた者が騒ぎ立てるよりも先に爆弾がその口をふさぐため、その退却が露呈する事は無く。今もまた、哀れなカイザーPMCが一人地面を舐める事となった。
そうして時が進むことおよそ5分ほど。
遂に準備を終えた砲撃が、未だ混迷を極める戦場を蹂躙し始める。
「よし。それじゃあ私たちも下がるぞ!」
それを確認すると、最後の嫌がらせとして戦場に先んじて仕掛けておいた地雷を全て起爆して撤退指示を下す中隊長。
そのまま、彼女たちは砲撃の影に隠れて退却し切ったのであった。
最後になりましたが、おかろっと さん、クロノワール@90153 さん、馬酔木鳳仙花 さん、SCP-███-██ さん、夜桜刹那 さん、白沢 恵 さん、L_notR さん、kurotou_1182 さん、桜白狐 さん、評価付与ありがとうございました!