【本編完結】黒く濁った罪を背負って   作:RH−

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移ろう戦況、終わらぬ騒動

《ゲヘナ学園自治区郊外・ヒノム火山山道》

 

 宵闇に覆われ、深緑の苔や焦げ茶の岩肌が等しく黒々としたシルエットに呑み込まれた山道。その中を、同じ制服に袖を通した幾人もの生徒たちが駆けていた。

 

 少女たちが属する組織の名は『風紀委員会』。

 在籍するゲヘナ学園だけでなくキヴォトス全域でも有数の知名度を誇る、言わずと知れた治安維持組織である。

 

 だが、そんな彼女たちの今の様子には、統率立った動きを得意とする風紀委員会らしさは欠片も見当たらなかった。どころか、その顔には焦燥が滲み、動かされる足もまた周囲に合わせる事の考えない全速力のものであった。

 最低限その手に持つ愛銃のストックを周りにぶつけないように、そしてぶつからないように意識しているぐらいにしか名残が無いと言えば、それがどの程度であるか分かるだろう。

 

「クソッ、今どれくらい経った!?」

「多分4分ぐらい!」

 

 怒鳴り合うとまではいかずともままならない状況への怒りが読み取れる、そんな会話が響く山道を少女らは一心不乱に駆け上がる。

 手遅れにだけはなりませんように、と祈りながら。

 

 

 彼女たちがこうも必死になっているのには理由があった。

 まあ、なんの理由もなく深夜に山道を駆け回るほど酔狂な生徒が風紀委員会に所属しているワケも無いので、それは当然の話なのだが。

 

 とはいえ、その理由自体はそう込み入った内容ではない。

 作戦前の最終確認を行った裾野の辺りから戦場となっている中腹の辺りへと向かう最中に、巨大な人型の影が確認できたというだけである。

 なんの複雑さもない、実にシンプルな話だ。

 

 だが、だ。そこで戦っているのは誰であろうか。

 そう、カイザーPMCである。

 

 そして、カイザーPMCが保有する兵器群のうち遠目でもその巨体が確認できるような機体といえば────代表的なモノが存在している。

 古の神話に伝わる巨人の名を冠する、“ゴリアテ”という兵器が。

 

 さて、ここで問題になるのがゴリアテを相手にまともに対抗できる生徒というのはかなり限られるという点であった。

 少なくとも、温泉開発部では絶対に太刀打ちできない。それこそ、先生の指揮のようなチート染みた助力が無ければ。

 

 故に彼女たちは焦っていたのだった。

 問題児の集まりであっても一応は同じゲヘナ学園の生徒、自分たちの到着が遅れたために重篤な負傷者が出たなんてなっては悔やんでも悔やみきれない。

 

 

 そんな思いと共に駆ける少女たち。

 遂に戦場がはっきりと望める場所にまで辿り着いた彼女らが見たモノは────

 

「……は?」

 

 半壊どころか8割近くが倒れ伏しているのではという()()()()P()M()C()の姿と、派手に火花を上げて崩れるゴリアテの影であった。

 

 パチパチと繰り返される瞬きやゴシゴシと擦られる両の目たち。

 しかし何度見ようとも目の前の惨状は変わらない。揺るがない。

 

 パチパチと爆ぜる火の粉も、ゴロゴロと地に並ぶ沢山のオートマタ兵の姿も、何一つとして。

 

(一体……何が…………?)

 

 少女たちの困惑が重ねられた。

 

 下手人たる温泉開発部の生徒らも無傷とはいかなかったようで、負傷者の姿は複数確認できる。

 ゲリラ戦という戦術の事を思えば、今前線にいる生徒以外にも傷を負って奥に下がった奴らもいるのだろう。

 

(だとしても……)

 

 だとしても、ここまでの力を彼女らは持っていただろうか。

 

 と、そこで。

 風紀委員の姿に気付いたらしい一人の温泉開発部の少女と、視線が交わった。

 

「────ッ!?」

 

 ゾクリ、という呑まれるような感覚は果たしてただの錯覚であったのか。後ずさらなかっただけでも褒めてほしいぐらいだというのが風紀委員の少女の正直な感想であった。

 

 これまでにも例の問題児の集まりが理解不能な事件を起こすことは多々あった。

 時と場所と場合の全てを無視した『温泉開発』に悩まされたこともまた、同様に。

 

 しかし、それはここまでの────それこそ、狂気的とでも表現するべき熱が込められたモノではなかったはずだ。

 

 彼女らは知らない。

 開発した温泉やその源泉さえ通り越して、地下水脈そのものから荒らされた彼女らがどれだけの怒りを堪えていたのかを。多大なリスクを払ってまで、闇市でも危険だと言われる人物らに接触するほどの思いを抱いていた事を。

 

 そして、この場所こそがその直接的な原因となる施設が置かれた場所である事を。

 

 どうにか抑え込まれていたそれら様々な要因は、決行前の部長(カスミ)の演説によって完全に爆発してしまっていた。

 一度起爆してしまえば、後はもう止まらない。吹き上がる水飛沫が温泉として溜まり切るまで立ち上り続けるように。

 

 その激情を、遂に反撃できるとなった高揚感を、風紀委員会の少女たちは何一つとして知らない。

 故に、理解できない。

 

 理解できないものは恐ろしい。

 人という生物に備わった根源的な恐怖に、思わず足がすくむ風紀委員の面々。だが、そんな中において前に進み出る者が一人。

 

「これは、あなた達がやったの?」

 

 小柄な肢体と、モコモコとした白髪。

 されど、その可憐な容姿とは裏腹に纏う気質は紛うことなき強者のソレ。

 

 折れかけた心に熱を焼べ、打ち直すように強固にした風紀委員長その人である。

 

「そーだよ。にしても、思ってたよりも早かったね! ヒナ委員長!」

 

 端的な状況確認の問いに答えたのは、温泉開発部の中でも突出した位置に居た一人の少女であった。

 

 燃えるような赤々とした髪と人好きのする快活な笑顔、おおよそこの場には似つかわしくない明るさを纏うその子の名は下倉メグ。

 温泉開発部の開発現場作業班長の役を任ぜられている、部長と共に行動することの多い重役である。

 

 

 彼女もまた他の部員たちと同様、瞳に宿した熱は強固なものであった。が、ヒナはそれに微塵も怯んでいないように質問を重ねる。

 目的、動員されている温泉開発部員の数、おそらくは防弾仕様であろう普段とは異なる防護服や少数ながら何人かの生徒が装備している未確認の兵装の詳細、およびその出処、そして誰がこの作戦を立案したのか。

 

 通常時よりも2割増しの気迫の下のソレであったが、しかし返ってくるのは『今回は答えられないや、ごめんね!』というはぐらかす様な言葉のみ。

 異様な現場の状態もありなるべく避けたくはあったが、いよいよ実力行使に動くべきかとヒナの脳裏に次の手が浮かんだタイミングで────

 

「よし、もう十分かな。それじゃみんな、撤収するよ!! 合流は予定通りポイントデルタで!」

 

 温泉開発部の少女らは凄まじい勢いで撤退を開始した。

 

「なっ────!?」

 

 咄嗟に引き金に指を掛ける風紀委員たち。

 が、そこでまたも彼女らは驚愕に襲われる事となる。

 

 元々仕掛けてあったのか、それともいつの間にか投げ込まれていたのか。彼女らの足元が甲高い音と共に眼球を刺すが如く光を放ったのだ。

 

(閃光弾かッ!)

 

 即座にその正体に気付き腕で目を覆うのは流石の風紀委員であったが、しかしその頃には既に手遅れ。視界は白飛びしたまま、数秒間は使い物にならないと思える状態であった。

 

「クッ────逃がさない!」

「逃げてもっ、無駄だ!!」

 

 誰よりも早く眼を庇ったヒナといち早く混乱から復帰したイオリが愛銃の引き金を押し込んだが、しかし命中したのは僅か数発のみ。

 それも『あだっ!』というような間の抜けた声を上げさせるのみで、引き留められたとは到底思えない手応えばかり。

 

「取り逃したか……」

 

 明らかに普段とは異なる温泉開発部に上手くいなされた事へ歯噛みするヒナだが、しかし彼女らの手はまだ終わっていなかったらしい。

 置き土産のようにメグが立っていたあたりに残されたトランシーバーから、ザザッ、というノイズ交じりに陽気な声が届けられた。

 

『ごめんね~、ヒナ委員長。今回はコッチにも色々と事情があるから、私からは何も話せないんだ! あ、そうそう。そこ、もうちょっとしたら撤去させるから気を付けてね!!』

 

 相も変わらず語られる内容はほとんど一緒だが、しかしその中に一ヶ所だけ紛れた聞き捨てならない言葉。今、彼女は『撤去()()()』と語っただろうか────

 

ドカアァァァァァン!!

 

 そう思った瞬間に地下から響き渡る炸裂音。

 相当量の爆薬が起爆したと分かるそれは、地面を挟んだことで腹の底を揺らす様な音こそ薄れていたものの、代わりに足元を盛大に揺らすことでその脅威を告げていた。

 

「っ! 総員、退避!! 崩落する可能性がある!」

 

 鋭い声に従い駆け出す部下たちの殿に付くヒナ。

 地表に走った亀裂の隙間から何かの施設を見た彼女の表情には、隠し切れない切迫の色が浮かぶのだった。

 

(妙な戦域に、謎の施設。それに、過剰レベルで配置されていたカイザーPMC。この一連の事件……まだ何か見落としている事がある?)

 

 

────────

 

《ゲヘナ学園自治区・中心街》

 

 街灯や電子公告など普段周囲を照らしているはずの明かりが数を減らし、代わりに飛び散る火花や延焼する戦車などによる明かりに照らされた道路。

 大きく開けたその三車線の中央で、睨み合うように立つ二人分の人影があった。

 

 炎の赤を背に、夜闇の色に溶けそうなほど全身を黒に包まれた彼の名はマクガフィン。後ろ暗い者が集うブラックマーケットの中でもトップクラスに危険な存在であり、そしてこの惨状を生み出した張本人でもある。

 それに対し、比較的無事であった現代的な明かりを背に立つのは柔らかな桃色の髪と小柄な体躯が特徴的な少女。夜闇を裂くように橙と青のオッドアイを覗かせる、小鳥遊ホシノである。

 

「やぁ、そろそろ来ると思っていたよ。良い夜、と言うには少しばかり騒がしいかもしれないが……まあ悪くはない夜だ。それで、わざわざこんな所まで来た要件は?」

 

 先に口火を切ったのは青年の側であった。

 いつか見たように、彼は役でも演じているかのように仰々しく、そして慇懃に語りかける。

 

「うーん……おじさんはもうちょっと星が見えるような夜の方が好みだけど。まあ、ようやく君に会えたっていう点では悪くない夜かもしれないねぇ」

 

 それに応えるように軽口を投げ返すホシノ。

 しかし、その剽軽な口ぶりとは裏腹に纏う気配は獰猛な獣のように鋭いモノであった。

 

「ほう……私と戦うために遥々アビドスの砂漠を超えてここまで来たと? それはまた、ハハッ、随分光栄な事だ」

 

 その気迫に気付いているのかいないのか、小馬鹿にするように鼻で笑うマクガフィン。

 しかしながら、そうしながらもまるで隙が見えないのは流石と言うべきなのだろう。

 

 厄介な相手だと再分析をするホシノであったが、やはり彼にとって彼女の存在はそう意識するべき対象ではないのだろうか。

 軽く視線を外し、周囲に目を向けながら黒づくめの人物は口を開いた。

 

「ふむ、周りに隠れているのはAMASか。ということは調月リオも来ていると。その程度の機構では無意味だと一度見せてやったつもりだったのだが……まあ、それを私が気にしてやる義理は無いか。それに、頼りになる先生殿が居れば多少は変わるかもしれんしな」

 

 ホシノから見ても上手く配置に着いたAMASであったが、向かい立つ彼には既知の事実であったらしい。更には後方から出ていない先生の事まで言い当てられてしまった。

 とはいえ、その程度で揺らぐほど今の彼女は()()ではない。

 

「ま、そういうわけだよ。…………ってなわけで、今回は逃がさないよ。何を目的として動いているのか、なんで私を助けるのか、そして二年前のあの日に何が起こったのか。すべて話してもらう」

 

 むしろ『望むところだ』と戦意を滾らせるぐらいには、今のホシノは決意に満たされていた。

 そんな気持ちの良いまでに真っ直ぐな覚悟を受け、いよいよ彼は小馬鹿にするような態度を改め────なかった。

 

「『()()()()()』? 異な事を言うものだ。私が逃げていたのではない。正確には……君たちが私を留めるだけの力を持たなかった、だろう? それこそ、こんな風に

 

 それどころか挑発まで重ねながら、こっそりと回していた神秘の糸を視界外から放つマクガフィン。それは自身に注意を向けさせる一連の言動も相まって見事なものであった。

 

 これまでにも数多の強者が、そして過去にホシノも一度捕らえられた鮮やかな手法。

 それを再現するかのような奇襲はその結果も同じものを用意するかと思わせたが、しかしその先に待ち受けていたのは眩いマズルフラッシュとSG特有の乾いた銃声であった。

 

「────ほう」

 

 散弾を浴びて散り散りに消える糸を見て、初めてマクガフィンがその態度を変える。

 同時に、仮面の隙間から漏れた興味深そうな声が耳朶を打つ。

 

「私だってバカじゃないんだ。何度か見れば種は分かるし、何度も同じ失態を繰り返したりはしない」

「なるほどなるほど、流石に『暁のホルス』相手に侮り過ぎていたか。謝罪しよう」

「まるで思ってなさそうな言葉をどうも」

 

 少しずつ高まっていた場の緊張感が、一連の攻防を終えて爆発的な速度へと変貌する。

 表面上はさっきまでと変わらず会話を交わしつつ、ソレを肌を焼くような感覚で認めた両者が改めて視線を交える。

 

 

 ────来る!

 

 

 果たしてそれを思ったのはどちらであったのか。

 刹那の内に互いの間にあった距離がゼロにまで縮み、激しい戦闘が始まった。

 

 

 

 

 

(一々重たいしやりづらいけど────行けるっ! 戦えるっ!!)

 

 黒づくめの怪人が振るう両の(かいな)を盾で受け、視界外から襲い来る糸を迎撃しながら、ホシノは確かな手応えを感じていた。

 それ自体は戦闘が成立しているというだけの事実であるはずだが、しかしこれまではまるで手の届かない存在のように感ぜられていたのだ。それこそ、彼が言っていた通りに。

 

 その事を思えば、ただの事実も喜ぶべき奇跡のようなものに変化する。

 

 今もまた、振り抜かれた右の拳から一拍遅れてしなるように襲ってきた糸を撃ち抜くことができた。

 追撃として掬い上げるように叩き付けられた左足の後ろ回し蹴りを盾で受け流しつつ、ホシノの顔に勝気な笑みが浮かぶ。戦況は互角といった様相であるが、少しずつ天秤がこちら側へと傾き始めているからだ。

 

 

 この戦闘が始まる少し前、ホシノはマクガフィンの戦闘力について分析を行っていた。

 すなわち、なぜ彼はヘルメット団やスケバンたちだけでなくカイザーPMCにまで勝ち続けられているのか、という点についてである。

 

 過去にこの全てと戦った事のあるホシノには分かる。

 一度の戦闘で勝ち抜くのならともかく、2年近い期間を勝ち続けるというのは至難の業だ。カイザーPMCはもちろん、ヘルメット団やスケバンにも『数の暴力』という明確な危険性がある。

 

 いくら突出した強さがあろうと、囲んで叩かれればいずれ斃れる日が来るはずなのだ。

 しかし彼はただの一度も敗走をしていない。

 

 その原因こそが、彼の振るう得物の特殊性。すなわち、実体を持つほど凝縮させた神秘による鋼線である。

 もちろん、それ以外にも彼自身の実力や対多数を想定した戦闘スタイルなどもあるのだろうが。

 

 この世界には『神秘』という力が存在している……らしい。

 らしいというのは、自分自身は神秘について十分な知識を持っていないからだ。その存在について聞かされたのがあの忌々しい大人(黒服)との僅かな会話だけであったのだから、然もありなんと言ったところではあるが。

 

 とはいえ、断片であろうと奴の言葉にはいくつもの情報が含まれていた。

 そこから類推していけば、自分やC&Cの部長のような所謂“強い”生徒は多くの神秘を有している事や、半ば無意識で行っていた愛銃へ力を籠めることで行う強力な攻撃に消費していたのが神秘である事など、いくつかの事実が見えてくる。

 

 ここで注目するべきなのが最後に挙げた事実、普段使いしている愛銃には神秘を籠められるというヤツだ。

 それ自体は『神秘』という言葉を知らずとも誰でも行っている普通の事であるが、ではその籠めている力を愛銃を媒介せずに体外へ放出できるか、と聞かれればそれは否であろう。

 

 少なくとも自分はできなかったし、まるでできる気配も見えなかった。

 何かが自分と彼の神秘では違うのだろう。

 

 殆どの生徒が知らないであろう『神秘』という概念。その上でそれを体外にアウトプットされて作成された得物となれば、対応できる者は基本いないであろう。

 これが彼の持つ絶対的なアドバンテージの正体だ。

 

 が、ここで重要なのは彼がいかに異端であるかという点ではなく、神秘の鋼線に関する知識とそれを捉える方法さえあれば彼の強さを突き崩せるという点である。

 

 幸い、自分にはその実例を見る機会が何度もあった。まだ慣れはしないが、彼の得物の全貌を見る事はできている。

 この時点で、戦闘は互いの地力を比べ合うモノへと変化した。

 

 その上で勝負の推移を傾かせているのが、ホシノにはリオと先生という頼れる協力者がいるという事実。

 

 マクガフィンの攻撃で姿勢が崩れたタイミング、装填した弾を打ち切ってリロードを挟むタイミング、あるいは防御の処理が遅れ始めたタイミングといったおよそ隙になり得る瞬間に必ず横槍を入れる白磁の機兵。

 それだけでなく、常に視界の端に陣取り『油断すれば撃つぞ』とプレッシャーをかけてまでいる。

 

 先生の指揮も相まって、AMASの存在は決して無視できない脅威となっていた。

 

(これなら……そろそろギアを上げても大丈夫かな?)

 

「先生、リオちゃん、いける?」

 

 戦闘が開始してからまだ5分も経過していないが、あの二人ならばこのスピードにも慣れる頃だろう。

 そんな信頼と共に通信機へ送った問いへの答えは、短くも頼もしい肯定の言葉たちであった。

 

「なら────行こっかぁッ!!」

 

 牙を見せるように頬を吊り上げ、ホシノがギアを引き上げる。

 ドンッ、と鈍く音を立てながら粉塵を巻き上げる踏み込みは、ともすればコンクリートに罅を入れたのではと思わせるほど力強いもの。

 

 周囲の景色が流れるように過ぎ去る中、視界の中央に映る彼の下へと一息に距離を詰める。

 

「────なっ!?」

 

 これまでより数段加速したその速度に、思わず声を漏らすマクガフィン。

 それでも即座に糸を飛ばして退避しようとするのは流石であったが、それをみすみす見逃すホシノではない。

 

 上方に伸ばそうとした右腕をショットガンの銃身で叩き落し、その勢いを利用しての回し蹴り。

 それ自体は防御されるが、そこまでは織り込み済みだ。ここで重要なのは、防御させることで相手の動きを縫い留めた事。

 

 その隙を見逃さず、身体に染み付いた動きと共に愛銃の照準が合わせられる。

 

「クッ────」

「まずは一撃……喰らえッ!!」

 

 意識的に神秘を籠め、桃色に染まった散弾を叩き付ける。

 

 いつまでもナメている相手への反撃の狼煙としてはかなり上出来なものだろう。

 そんな確かな手応えと共に彼女が見たのは、撃ち放ったはずの弾丸がポロポロと無力に地へ落ちる光景であった。

 

「境を別つ布……境布(きょうふ)とでも名付けようか。まあ、これ以降その名を使うかは分からんが」

「嘘……でしょ?」

「今のは久々に危なかった。咄嗟の防御が間に合わなければ、手傷は避けられなかっただろう。AMASとの連携も見事なものだ」

 

 両手の間に展開していた布状のソレを神秘の糸へと解きながら彼が語る。

 その姿に先程までとは違う気配を察知したホシノが、ショックを振り払って距離を取る。

 

 その姿を見送りつつ拳を握ったり開いたりしていたマクガフィンの存在感が、急激に膨れ上がった。

 

 

「良いだろう。君たちを脅威と認め、少しばかり本気を出すとしようじゃないか」

 

 

 身体強化(b o o s t) 50%(half halt)。呟かれた言葉と共に跳ね上がった彼の身体能力が、戦闘が第二幕へと切り替わった事を告げる。

 

 

 まだまだ、深夜の動乱は終わりそうにない────────

 

 

 




最後になりましたが、ノラーク さん、無名野ナナ氏 さん、ティーさん さん、評価付与ありがとうございました
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