何度かマクガフィン君視点で『治す』を『直す』と表記してますが、これはあえてのものです。
彼は自分の身体を道具として扱っている部分があるため、その表れです。
「こんにちは、先生。こうしてお会いするのは初めまして、ですね」
招待されたティーパーティーの席。
開放的に開かれたテラスと、そこから覗く美しい学園施設や青い空のコントラスト、そして注ぎ込まれる心地よい日差しが優美さと荘厳さを引き立てるトリニティの聖域。
その場に立ち入った先生にかけられたのは、そんな挨拶であった。
子ども特有の未成熟な柔らかさと、海千山千……とまでは行かずとも海百山百ぐらいの経験はこれまでの生徒会業務で積んできたのであろうと読み取れる静かさ。
その両者が共存した透明感のある声の主は、口に付けていたティーカップを静かに置くと、にこやかに微笑みながら再び口を開く。
「ティーパーティーのホストを務めさせていただいております、桐藤ナギサと申します」
およそ学生らしくない落ち着きと共に自己紹介を行う少女。
背に広げられた大きな翼や華やかな髪飾りと制服も相まって、その姿はパッと見では一枚絵のような美しさを放っていた。
しかし、そんな少女を見て先生が抱いたのは『これは重症かもしれない』というある種正反対な理解であった。
(うまく隠せてはいるけど、視線の移り変わりが早い。それに、僅かに指先も震えている。奥に見えるのは……猜疑心とか、かな)
意識して見ようとしなければ気付けないほど小さな、しかしたしかに存在する揺らぎ。
場の雰囲気もあり、事前情報抜きでは見逃していたのではと思わせるそれであったが、生憎先生はヒナとマコトから色々と情報を貰った後なワケで。
そうとして意識していれば容易く見つけられるぐらいには、ナギサの様子からは不安定さが滲み出ていた。
(隠せているだけマシかもしれないけど、逆に言えば“隠せてしまえる”という事でもある。できる限り目を離さない方が良さそうかな)
これはやはり一筋縄では行かない案件になりそうだと思う先生であったが、とはいえ今は自己紹介の真っ最中。ナギサはそのままの流れで席に着くもう一人の少女の名を告げた。
「そしてこちらは、同じくティーパーティーのメンバー、聖園ミカさんです」
「よろしく、先生☆」
そうして表面上は無邪気に言葉を紡ぐ、薄桃色の髪の少女。
ナギサとは異なりかわいらしくアクセサリーを飾り付けた腰の翼、更にはおそらく彼女がカスタマイズしたのであろう制服には、胸元の青いリボンを代表として要所にリボンやボタン、フリルがあしらわれており、その天真爛漫な表情も相まってまさしく『お転婆なお姫様』というのが似合う様子である。
が、再び先生が抱いたのは『こっちはもっとマズくないか?』という苦い実感であった。
何せうまく化粧や態度で隠しているつもりなようだが、目元には隈が覗いているし、こちらを見る視線にはナギサ以上に疑念が表れているのだ。
更にはその姿からかつてのホシノやリオ、ヒナのような“限界ギリギリ”な気配が滲んでいるとなれば、最早疑うまでもなくマズい状態だと断言できてしまう。
(うーん……想定以上だなぁ、これは)
事態の真相は掴めていないものの、もう一人のティーパーティーであるセイアが襲撃されたのなら残りの二人も良い状態ではないだろうとは予想していたが。
そんな予想を軽々と超えてなお余りあるほどの二人の様子に、流石の先生も普段のにこやかな笑みが強張る。もしかしたら事態はもっと深刻なのかもしれない。
「あらためまして、お初にお目にかかります。私たちがトリニティの生徒会、ティーパーティーです」
「うん、よろしくね」
そんな彼は、言いようのない不安が膨らみ始めたのを感じながらも挨拶を返すのだった。
その後、ミカによる茶々入れを挟みながらも組織としてのティーパーティーや今回自分が呼ばれた原因である『補習授業部』の説明を受けた先生。
最後に何か確認したいことは無いかと尋ねられた彼は、早速とばかりにいくつか探りを入れることにした。
「そういえば、ここに来るまでの間に何度かパトロール中の子たちを見かけたんだけど。何か事件でもあったの?」
学園敷地内は事前情報よりも長閑な状態ではあったが、正義実現委員会としてハスミが姿勢がすごく悪い子*1と問題事の仲裁をしていたり、自警団としてスズミや元気一杯の子*2がパトロールをしていたりといった場面を見てきた先生は、それを話のタネにしたようだ。
もっとも、これ自体は以前あったらしい襲撃関連の話が出れば上々、それは無理でも彼に関する情報が得られれば十分といったぐらいの心積もりであったが。
実際、返ってきた答えも「お恥ずかしながら、実は自治区内で指名手配犯が暴れ回っておりまして。その対策の一環です」といった当たり障りのないものであり、彼が知りたい情報を得ることはできなかった。
というわけで。ならば、と先生は次の手を打つ事にした。
「そういえば、ティーパーティーは三つの派閥からなるってさっき言っていたけど。もう一人の子はどうしたの?」
すなわち、より直接的な質問をすることでその反応を窺うというものである。
とはいえ、余計な不信感は与えないよう“あくまでも今聞いた情報から疑問を抱いた”というスタンスを取っており、事前情報については気取られないようにしているのだが。
「それは…………」
「セイアちゃんは今、トリニティにいないの。入院中で……」
はたして、その答えは詰まりに詰まった『何かを隠している』とはっきり読めてしまうものであった。
(嘘を吐かれた時の感覚。問題は……どこからが嘘か、か)
「そっか。もし良かったら、お見舞いとか行きたいんだけど……」
「えっと。それ、は…………」
「今は危篤状態なようでして、私たちも面会はできていないんです。……すいません」
今度は言葉を濁したミカに代わってナギサが答える。
(アイコンタクトが無かった事とこの様子からして、示し合わせていたわけではなさそう? もう少し情報が欲しい所だけど……これ以上は不信感を与えかねないか。そもそもやりたくないし)
何が嬉しくてかわいい生徒を自分の手で追い詰めなければならないのか。非常に嫌な気分に支配されながら、先生は潔く引き下がる事にした。
「それはしょうがないね。それじゃあ、今聞きたいのはこれぐらいかな」
「承知しました、また何かあれば聞いてください」
あからさまにほっとした二人の様子に再び罪悪感を刺激されながらも、彼はトリニティの中枢を後にしたのであった。
────────
ティーパーティーのテラスから立ち去ったその足で補習授業部のメンバーを集めに向かいながら、先生は思考を巡らせていた。
(さて、まず私がするべきは……やっぱり事態の全容を掴むところから、かな。それが把握できない限りどう行動するべきかも判別できない)
ゲヘナでの一件で身に染みて教えられた、情報の重要性。
選択肢が増え過ぎた結果動きが鈍る、なんて可能性もあるため一概に『あればあるだけ良い』とは言えないが。しかし情報というのはたしかな価値のあるモノだ。
情報があればこそ周りの動きも予想できるようになるし、適切な対応策も打てるようになる。逆に言えば、それが欠ければ後手に回らさせられ、不利な状況に追い込まれることにもなる。
ゲヘナでは何とか即興のアドリブで解決できたが、それはカスミがくれた情報がどれもクリティカルなものであったからだ。早いうちに事態の全容を掴むことは必須だろう。
(同時に、生徒のメンタルケアも重要だ。特に、ミカとナギサの二人は)
しかしここで無視できないのが、ミカとナギサの様子。
それぞれ隠そうとはしていたようだが、何か問題を抱え込んでいる事はまず間違いない。それを無視してしまえるほど先生は腐っていない以上、そちらを気にする事の重要性も情報収集と同程度には高くなる。
(……なんともまあ、キツくなりそうだ)
トリニティへ降り立ってそう時間は経っていないというのに既に何度目かになる言葉を反芻させる。
早いうちに事態の全容を掴もうと思えば、それこそ今からでも軽く聞き込みを行うなどして手がかりを集める必要があるだろう。
が、そんな行動をあからさまに起こせば、隠し事をしているミカとナギサには相当な負荷がかかるだろうというのは容易く予想できてしまうわけで。下手すれば敵対者として判断されるかもしれない。
彼方を立てれば此方が立たず。
なんとも厳しい案件だ。
(少しずつやっていくしかないか。情報収集も、信頼関係の構築も)
どれだけ複雑に絡み合っていようとも。小さな進歩が無意味に見えても。一つずつ解決していけば、いつかは辿り着けるはずなのだから。
(生徒たちみんなが笑っていられるような、ハッピーエンドに)
希望を胸に、固くなっていた表情を崩して柔らかく微笑む。
足が止まったところを見るに、どうやら彼は目的地に到着したらしい。
そのままギィッ、と僅かな軋みと共に扉を引き開けると、視界に映るのは古風さと優美さの共存した教室の景色。アビドスともミレニアムとも異なる、どちらかと言えばゲヘナが近しいと表現できる華やかさだ。
その中に一人、目的の生徒を見つけると、先生は呆れと安堵とが混ざった絶妙な気分になりながら声をかけた。
「やっぱり……!」
「あ、あはは……こんにちは、先生」
非常に特徴的な……というか特徴的としか形容できない大きなバッグを左の肩に、そしてピンクと白で可愛らしく色付けられた愛銃を右の肩に下げた、柔らかな亜麻色の髪の少女。
彼女────阿慈谷ヒフミは、非常に気まずげな調子で先生の声に答えたのだった。
「あの、これはその、やむを得ない事情がありまして……」
眉尻を下げ、頼りなさそうに両の人差し指をちょんちょんと突き合わせるヒフミ。
そんな彼女が語ったのは、要約すると“大好きなペロロのゲリラ公演のためにテストをサボった”という『そっかぁ、ヒフミだもんね。しょうがないね』と不本意ながら納得してしまう内容であった。
が、しかしここで先生に電流が奔る。
(あれ? 今ってたしか自治区への出入りって取り締まられてなかったっけ?)
「あ、あはは……。たしかに正義実現委員会の方がいらっしゃったので、こう、その監視網を避けるように……頑張ったら抜けられちゃったと言いますか…………あはは」
(ダメじゃん!! 監視網に穴があるのもそれを突いて自治区を抜け出すのも! ダメじゃん!!!)
思わず頭を抱える先生に、ヒフミは右の頬を人差し指で掻いて気まずげな様子。一体この子の熱意はどこから湧いてきているのだろうか。
顔見知りの生徒が思わぬ伏兵であった事に、彼は「まあ、うん。これから頑張ろっか」と返すしかできないのだった。
この時の先生は知りもしなかった。
それから一時間も経たない内に、これ以上の衝撃に見舞われることを。そして、より一層事態の複雑さを理解する事を。
────────
「う~~~~ん…………」
「……」
夢と現、その狭間……と表現するには些か夢としての成分が強い世界にて。
「うぬぬぬぬぬ………………」
「……」
二人の少女が向かい合って席に座っていた。
「う~~~~~~~~~」
「……いい加減、早く引いてくれないかい? 確率は二分の一で変わらないんだし」
少女の片方、大きなキツネの耳が特徴的な少女が、呆れたような調子で口を開く。ダボダボな萌え袖に隠されたその手には、二枚のカードが握られている。
もう一人の少女はそんな彼女の言葉へ覚悟を決めたように「……分かった、セイアちゃん」と答えると、その内の片方を勢いよく引き抜いた。
「バ、ババだぁ~」
が、即座にその勢いを失って崩れ落ちる。
既に数えきれないほど繰り広げられた光景だ。
二人の少女が興じていたのはトランプを用いた遊戯の一つ、おおよそトランプを知る者ならば誰でも知っているのではと言えるほど基本的なソレ────すなわち、ババ抜きであった。
「……ほら、まだ勝負はついていないんだからさ。そこまで落胆する事はないんじゃないかい?」
崩れ落ちた対面の少女に、セイアは気まずげに声をかけた。
ゲームとはいえ一応は対戦相手の自分が励ますのも妙な話ではないか? とは思わなくもなかったが、あまりにもその姿から無念さが醸し出されていたからだ。
小難しい言い回しをよく行いはするが、なんだかんだ助言などのおせっかいを焼いてしまう優しい彼女に、改めて対面の少女は「そうだね。きっとまだ道はあるはず!」と背筋を起こした。
そうしてシャッフルされた二枚の札。
どちらかがセイアの手にある『J』、11番に対応するカードであり、そしてどちらかが先ほど彼女の手に渡った『Joker』、ババのカードとなっている。
「さて……どちらが正解かな?」
それに手を伸ばしながら、こっそりと視線を彼女の顔へと向けるセイア。
まずは右のカード。
(特に変化なし……いや、少しばかり口角が上がっているか?)
では、次は左のカード。
(…………さすがに分かりやすすぎやしないかい? 目が泳ぎまくっているじゃないか)
容赦なく左のカードが引き抜かれる。
はたして、その結果は。
「ひぃん、また負けちゃった~」
先の光景の焼き増しのように崩れ落ちた少女と、セイアがテーブルに放った二枚の『J』のカードが勝敗を如実に告げていた。
これでセイアの5連勝である。
「……君、さすがに分かりやすすぎないかい? もう少しポーカーフェイスとか意識したまえよ…………」
ここはどちらかと言えばセイアの『夢』としての側面が強い空間ではある。つまり、やろうと思えばイカサマでもなんでもできてしまうのだが。
そんなものの必要性が欠片も見当たらないぐらいには、対面の少女は分かりやすすぎた。
それこそ、ババ抜きだけで5連勝してしまうぐらいには。
「そ、そんなにかなぁ」
「そんなに、だよ」
「そんなにかぁ~」
真面目にやっているつもりというのもあってか余りその自覚が無いらしく、軽く反駁する少女。とはいえ、勝負の結果が自分の連敗である事には違いない。
その上で対戦相手に語られたとなれば、まあ、認めないわけにはいかないワケで。
セイアの呆れた調子に彼女は納得の言葉を返すのだった。
だが、しかし。今度は人差し指の先をちょんちょんと突き合わせながら言い訳を語り始める少女。懲りないと肩をすくめるべきか、はたまた諦めが悪いと感心すべきか、そんな様子である。
とはいえその瞳は右へ左へと元気に泳ぎ回っているあたり、その言い訳が苦しいものだというのは理解しているらしい。
「私、どちらかというと人を疑うよりも信じたいっていうか……ほら、だから騙すのは気乗りしないっていうか…………」
「何も懸かっていないゲームなんだからもっと気楽にやりたまえよ……というか、君、そこまで杓子定規な堅物じゃないだろう」
「は、はうぅ……」
案の定セイアにバッサリと切り捨てられると、彼女は弱々しく声を漏らしながら肩を落とした。なんとも憐れみを誘う姿である。
実際のところは、口ではこう言いながらもセイアはそこまで不満を抱えているわけではなかったりするのだが。
望む望まないに係わらず未来を見てしまう彼女にとって、この手の勝負事は熱くなるには些か薄っぺらなものであり、なんならこうして駄弁りながら過ごすのも存外悪くないと思っているぐらいだ。
裏表のない彼女の調子に絆されつつあった、とも言えた。
が、対面の少女はそんなセイアの内心には想像も及ばないのか、眉尻を下げたままの申し訳なさげな様子。
実際問題、ここまで勝敗が一方的になってしまえば却って退屈になるのが普通であるため、残念さよりも申し訳なさが強くなっているのだろう。
「ごめんね、セイアちゃん……」
「……別に謝罪は求めちゃいないさ。それに、こうして過ごすのも悪くはないんだし」
「セイアちゃん?」
「なんでもない!」
あけすけな彼女の調子に引っ張られたのか、ごにょごにょと零してしまった本音を誤魔化す。
別段聞かれて困るような内容ではないが、改めてそれを聞かれると考えると……なんというか、まあ、恥ずかしさを感じるワケで。こそばゆさに珍しく強くなった語尾が、その内心を告げていた。
「にしても……セイアちゃん強いね、結局ほとんど勝てなかったや」
「多少は得意だとは自負しているが、どちらかと言えば君が分かりやすすぎるほうが強くなかったかい?」
「えへへ……」
ここまで分かりやすく照れたように後頭部を掻かれると、別に褒めてないとも言い辛くなってしまうのだな。
薬にはならないが、頑張れば毒になりそうなトリビアがセイアの脳内に浮かんでくる。こう、記憶容量を無駄に消費するようなタイプの毒だ。
そんな、明後日ぐらいの方向へと思考が逸れ始めたタイミングであった。
「う~ん、でも、やっぱり私は人を疑ったり騙したりするより人を信じたいかな。だって、そっちの方が素敵じゃない?」
「……っ」
この少女は、なんて事のないタイミングでこんな風に核心を突いてくるのだ。不意を打つように、心からそう思っているとはっきり理解できてしまうような事を語るのだ。
「人を信じる……ね」
「でしょ?」
今の自分は、
どちらかと言えば、諦めたと表現するのが正しい状態だ。
故に、彼女の語った文脈からは少しずれている。
だというのに、こうしてその言葉が刺さってしまっているのは。
(まだ諦めきれていない、とでも? 馬鹿馬鹿しい。奇跡を信じたところで、その瞬間だけ救われたような気になるだけだ)
全ては必然の集まりでしかない。
奇跡も運命も、彼女にとっては偶然にさえなる事はできない。全ては、
「……世界には、信じたところで意味のないことが無数に溢れている。人を信じれば騙されるし、奇跡を信じれば無意味に終わる。何かを信じるというのは、何かに裏切られるという事とほとんど同義だ。それでも、君は『信じたい』と……そんな綺麗事を言うのかい?」
気付けば、言葉が零れ落ちていた。
自分でも驚くほど平坦で、それでいて感情の熱が籠った言葉だった。
(……何をムキになっているんだ、私は。彼女はそう思うという話でしかないのだし、私には何の関係も無いだろうに)
言い切った後になって、自己嫌悪で顔が歪んだ。
本当に、何をやっているんだ私は。
とはいえ、彼女には起きる事象を視る事はできても起きた事象を打ち消す様な事はできない。少しばかり険悪になった場の雰囲気を戻すことはできないのだ。
「う~ん、別に私はそこまで難しいことは考えてなくて。たしかに、きっと世界にはどうにもならない事はあるし、悪い人もいるんだと思う。でも、それだけじゃないでしょ? 頑張れば解決できること、みんなで力を合わせれば達成できること、信頼に応えてくれる良い人。きっと沢山あるはずだし、沢山いるはずなの。だから、私は信じたいって思うかな」
「裏切るより裏切られる人に、とでも?」
随分と立派な事で。
そんな皮肉はどうにか飲み込んだが、しかしそれだけで棘が消えたりはしない。だというのに、彼女はそれを受けても微塵も揺らがなかった。
「そこまでは言い切れないかな。騙されたら悲しいし、それで後輩に迷惑をかけたら申し訳ないとも思う。でもね、やっぱり世界は
「────ッ!! どうして……どうして、そんな事を言い切れる!? 何度も騙されてきたんだろう!? 痛い目を見て学習できないほど馬鹿なわけでもないだろう!? だというのに────」
「だって、
はっきりと、これ以上ないぐらいに断言された言葉。
声を荒らげる自分の様子にも一切動じずに、真っ直ぐにその目は向けられている。その表情には、その眼には、嘘も誤魔化しも無く、ただただ確かな実感が籠められていた。
「セイアちゃん。どれだけ絶望的な状況でも。自分でも『もう無理だ』って泣き言を零しちゃうぐらい諦めちゃっても、奇跡は起きるんだよ」
一種の神聖さすら伴いながら、彼女は告げる。
気付けば、一歩後ずさっていた。
(どうして、どうしてそんな事を言える? なんでそんな真っ直ぐに信じられる?)
分からない。判らない。解らない。
だから、逃げ出した。
「……君には分からないさ。私の苦しみ…………真の絶望を」
対話を打ち切って、自分だけの領域へと走り去る。
彼女は、きっと何をどう変えても悲劇にしか行き付かないという絶望を知らないのだ。だから、あんな風に言い切れるのだ。
そんな風に言い聞かせながら。
後に残されたのは、椅子やテーブルを創っていた主が消え去った事で殺風景に戻った白い空間と、そこで「なにか、気に障ること言っちゃったかなぁ……?」と頬を掻く一人の少女だけであった。
最後になりましたが、大霊夢帝国 さん、佐々木砥治郎 さん、箱フグ さん、評価付与ありがとうございました!