まあエデン条約編全体の話に加えてマクガフィン関連の話まで伝えているわけなんで、どうか大目に見てください。
あと、誤字報告で気付いたんですけど、これまでずっとテクストをテキストと間違えてたんですよね。報告感謝です。
「となると逆に信じられないかもしれないが……おそらくだが、実はマクガフィンは敵ではない。むしろ、彼は私たち生徒を護ろうとしているんだ」
「ああ、うん。やっぱり?」
「やっぱり!?」
深刻な表情で話すものだから何が出てくるのかと身構えてみれば、語られたのは自分の予測とそう変わらない内容であった。
そんなわけで気の抜けた先生は言葉を漏らしたのだが。セイア達からすると、そんなあっさりと納得されるのはまさしく青天の霹靂なわけで。
きっと説明に苦心するのだろうと考えていただけに、その反応は思わず吃驚してしまうぐらいには衝撃的なのであった。
「いや、あのマクガフィンだぞ……? 指名手配犯の」
「ブラックマーケットで有名なマクガフィンだよね。アビドス*1・ミレニアム*2・レッドウィンター*3・百鬼夜行*4・ゲヘナ*5で目撃情報が出てたり指名手配されてたりする」
「……彼、そんなに色々やらかしてたのかい? というか、先生はなんでそんなに詳しいんだい」
「ちょっと色々あってね……」
本当に理解しているのか? と疑問を零すセイアに、あのマクガフィンだよね? と先生が彼に関するあれこれを並べる。
自分でもセイアに語っていた事だが。先生は彼について独自に色々と調べていたため、マクガフィンという存在について一般人よりも遥かに詳しかったりする。
それこそ、こうしてセイアから若干引かれるぐらいに。
「まあ、そのマクガフィンで間違いないよ。とにかく話を進めようか。先生、マクガフィンについて何かおかしく思う点は無かったかい?」
「おかしな点……どうして悪役のように振る舞っているのか、とか?」
「いや、それではないな。他には?」
他には、と聞かれ顎に手を当てる先生。そもそも彼については疑問に思う点が多すぎるのだ。
「じゃあ……どうやってキヴォトスの外から入ってきたのか、とか?」
「キヴォトスの外の存在だったのか!?」
違う? と聞けば、初耳だ! と返される。
どうやら違ったらしい。
「それなら、ヘイローの無い男の人間なのになぜ神秘が使えるのか、とか?」
「ヘイロー無いのか!? よく生き残っているな!?」
これも違うらしい。
「彼が薪浪アヤトじゃなくてマクガフィンと名乗るようになった事件で何が起きたのか?」
「彼の本名、薪浪アヤトって言ったのか!? というかいくらなんでも詳しすぎやしないかい!?」
ツッコミ疲れてか、ゼェハァと肩で息をするセイア。
そういった文化とは馴染みの薄いお嬢様であるために、おそらく慣れていなかったのだろう。
(しかし困った……他に何かあったっけ? ……あ)
「どうして彼の行く先々で毎回のように事件が起こるのか、とか?」
「……若干違うが良しとしよう。正確には、事件が起こるから彼が出向いている、と表現するべきなんだがね」
求めている回答とは違ったようだが、どうやらそれ以上に新しく知った事実を処理する事の方が優先度が高くなったらしい。
どことなく疲れたような調子でセイアは答えを語った。
「事件が起こるから? それって……」
「おそらく予想通りだよ。彼はどうしてか未来を識っているらしい。それも、私ですら視たことのないようなずっと先の未来まで」
「なるほど」
彼について抱いていた疑問のうち一つが氷解したことに、納得の呟きを返す先生。
だから彼はああもタイミング良く事件に介入できていたのか。
「ただ、ここで重要なのが彼の識る未来と私の視る未来では種類が違うという点なんだ」
「種類が違う……というと?」
「そうだね。私の予知が木の枝のうち一番大きなものを見上げるようなものだとすると、彼のそれは一つの物語を眺めるようなものだった、とでも言おうかな。分かりにくい説明ですまない。どうにも感覚的な部分が大きくてね」
「私は、セイアさんの予知はいくつもある可能性から今一番起こりそうな未来を選択して視ている、そしてマクガフィンさんとやらの予知は変わりようのない一続きの
「ああ、まさにそんな感じだね、ミネ。ありがとう」
ミネの補足に頷きながら、先生は事情を自分なりに理解していく。
(マクガフィンとセイアでは同じ『未来予知』でも内実が大きく異なっていた、と。さっきまでの話の流れからするに、セイアが『正史』と呼んでいたのが元々予知夢として視ていた未来っぽいのかな? そして、新しく識った彼の未来予知では、正史とは異なる流れが記されていたと。…………待てよ?)
「セイア、一つ聞きたいんだけど。いいかな?」
「うん? 別に構わないが……何か気になる事があったかい?」
「どうして、セイアは彼の持つ未来の知識を知っているの?」
ふと疑問に思った点。
セイアと彼との間に接点は無かったはずなのだ。それなのに、どうして彼の未来の知識を彼女も知っているのだろうか。おそらくだが、彼はそんな重要な情報を迂闊に口にするような人物でもないはずなのに。
そう問いかけると、対面のキツネ耳の少女はとても気まずそうな表情をその愛らしい顔に浮かべた。
「うぅむ……やっぱりそこは気になるか」
「ああ、いや。なにかマズい事情があるようだったら、無理してまで聞こうとは思わないけど」
「そういうワケでもなくてね。事情は複雑だし私自身全てを理解できているとは言い難いんだが……単に恥ずかしいという感じなんだ」
「恥ずかしい?」
オウム返しのように呟くと、萌え袖で表情を隠すようにしながらセイアは語り始めてくれた。
彼女が再び立ち上がるきっかけとなった、大切な出来事を。
「先生は、梔子ユメという人物を知っているかい?」
「────っ!! どうして、その名をセイアが……?」
「夢の中で会ったんだ」
夢の中でユメに会った、という絶妙にややこしい文章。
しかし、そんなことが起きたという事はユメも特殊な力を持っていたのだろうか。ホシノは何も言っていなかったが。
「なぜか、というのは分からない。彼女には心当たりがありそうな感じだったが……ともかく、逃げ込んだ夢の世界で私はユメに出会ったんだ」
「逃げ込んだ?」
「ああ。恥ずかしい事だが、しばらく前の私は未来を諦めていたんだ。どう足掻いても似たような
袖に隠された隙間から僅かに朱を注がれた頬が覗いているあたり、どうやら諦めようとしていたことが『恥ずかしい』事らしい。
本気で嫌がっているわけではなさそうだが、しかし彼女が抵抗感を覚えているのは事実。その上で時間の問題があるのも事実であるため、先生は深く追求せずに続きを促す事にした。
「それで、マクガフィンの識る未来とユメとの間に何か関係があったの?」
「未来、というよりユメとマクガフィン自体に何か繋がりがあるようでね。彼女は“パス”と表現していたか……」
「つまり……」
「ああ。その繋がりを辿って、彼の知識が流れ込んできたんだろう。おそらくではあるが、私の『未来を予知する』という神秘も影響したんじゃないかな」
次から次に出てくる新事実に新しい概念、そして無視できない未来の話。この1時間ほどで頭に叩き込まれた情報の量にパンクしそうになるのを感じながら、先生はどうにかそれを理解した。
「つまり、元々マクガフィンは未来を識っていて、それを彼と繋がりがあるらしいユメを通してセイアは知った……って事だよね?」
「百点満点だ。ちなみにだが、その引き金はユメから彼の神秘を一部渡してもらった事だね。どうやら彼の神秘は最上位の癒しに分類される性質を帯びているらしい」
「……へ? …………ちょっと、いや、しばらく待ってもらってもいいかな。頭の中を整理したいんだ」
「まあ、そうなるだろうね……。ここらで一旦休憩を挟もうか」
そう言うと、ティーポットを持ち席を立つセイア。
ミネを伴って向かった先にはキッチンがあるのだろうか、今度はカモミールではなくレモンバームの爽やかな香りがふわりと鼻腔をくすぐった。
「……ふぅ」
(ミネに案内されている間から、重要な話をされそうだとは思っていたけど……流石にこれは想定外だなぁ)
まだ話は終わっていないというのにお腹いっぱいな現状に、自然と苦笑が浮かぶ。
トリニティで起きた事件の話、これから起こり得る悲劇の話、そしてまさかのマクガフィンの話。一歩一歩少しずつ、着実に進めるしかないと思っていたのが、いつの間にか大幅に進んでしまったようだ。
悪いコトでは無いのだが。
ある程度の平静さと整理された脳内を取り戻せた辺りで、火傷をしないようティーポットを慎重に運ぶセイアとシマエナガを大事そうに両手で包んだミネが帰ってきた。
ミネの表情が綻んでいるのは、リビングに充満した爽やかなレモンバームの香りが原因なのか、それともかわいいシマエナガがそうなのか。
張り詰めた表情をしていただけに、こういった年相応の少女の顔を見れたのはやはり嬉しい。
(気合い、入れるか)
軽く両頬を叩き、意識を切り換える。
「さて、それじゃあ。続きを話してもいいかい?」
「うん。よろしくね」
改めて空になった3つ分のティーカップに淡い黄色の液体が注がれ、柔らかな湯気が浮かび上がった。
口を付けると、レモンに似た爽やかな香りが突き抜けると共にじんわりとした温かさが体に広がる。やはり普段から紅茶を嗜んでいるだけあってか、素人目にもかなりの完成度だと分かるぐらいに美味しい。
「さて。まずは……先生は、ユメについてどれくらいの事を把握しているんだい?」
「アビドス高校の生徒会長を務めていた事、2年前に何らかの事件に巻き込まれて昏睡状態になっている事……それに、後輩からよく慕われている先輩だったって事ぐらいかな」
「十分だよ。それで、ここからは私の推測の部分が大きくなってしまうんだがね。おそらくだが、2年前の事件でユメはマクガフィン────あの頃は薪浪アヤトか? ともかく、彼に助けられた。しかしその際、何かしらの事故が起きてしまったんだ」
「その結果、ユメとマクガフィンとの間に繋がりが生まれた……ってことかな?」
「ご名答。その影響で彼女は昏睡状態になってしまったが、しかし彼から神秘が供給されているためにユメは無事に今日まで生きている、というのが私の予想だ。実際、彼女もマクガフィンに救けられたと零していたしね」
「なるほど……」
自分の持つ情報と照らし合わせて矛盾点が無いか確認してみるが、ぱっと見の範囲ではおかしな点は見当たらない。それに、自身の直感もこれが正しいと告げている。
少なくとも、暫定真相として扱えるだけの整合性はありそうだ。
「じゃあ……マクガフィンが悪役を演じているのはその事故の反動、とか?」
「可能性は十分あると思うよ。とはいえ、真相は当人達に確かめるしかないんだが」
「それに、どれだけ崇高な考えを基にしていようと、今マクガフィンが行っているのは紛れもない犯罪行為です。お二方には何か思う所があるようですが、これ以上の罪を重ねさせないためにも捕縛の必要はあるかと」
「まあ……そうなるね、ミネ。捕らえられるか否かは別問題として」
一歩引いた位置からの冷静なミネの意見に、しかし皮肉気に肩をすくめるセイア。
とはいえ、ミネ自身もそれがどれほど困難なのかは理解しているのだろう。彼女の態度に何か言い返したりはせず、むしろその表情を曇らせることで同意を示していた。
「ひとまず、私からマクガフィンに関して共有しておきたいことはこれぐらいかな。それじゃあ、話を戻してもいいかい?」
微妙になった空気を切り換えるように手を叩くと、そのままの流れでセイアが話の区切りを宣言する。
実際問題、これ以上議論したところで推測以外の結論が出るとも思えない。先生は了承の言葉を返した。
「うん。たしか……話はエデン条約調印式の襲撃の次に起こる事件について、だったっけ」
「ああ。とはいえ、今度の事件の主舞台はトリニティではなくてね」
「それじゃあ……」
どうしてここで議題に上がるのか。そんな疑問は、割り込むように告げられたセイアの言葉で尻すぼみに消え去ることになった。
非常に納得できる回答であったからである。
「アリウス分校さ」
なんてことのないようにその名を語ったが、しかし彼女の表情には僅かに緊張の色が浮かんでいた。
彼女にとっても、アリウス分校の存在は無視できるほど軽いものではないのだろう。
あるいは、何か思う所でもあるのか。
「そもそも、先生はアリウス分校がどういった事になっているのかは知っているかい?」
「いや……第一回公会議で排斥されて、今はキヴォトスのどこかで身を潜めているってことぐらいしか」
「まあ、だろうね。そもそも彼女らには自分たちの情報が外部に漏れないように教育されているわけだし」
「……教育?」
「ああ、
不快感も露わに、吐き捨てるよう言葉を紡ぐセイア。
既に話を聞かされているのであろうミネも似たような表情なあたり、まあ、ロクな事じゃないんだろう。
補習授業部と過ごした期間で、アズサを観察して抱いた疑念。
ああ、まったく。実に嫌な予感が当たってしまったようだ。
「詳しく、聞かせてもらえないかな」
「……そう怖い顔をしないでくれ。ちゃんと全て話す」
なるべく平静さを保てるように意識したのだが、しかしそれは上手くいかなかったらしい。
(落ち着け。今は冷静に話を聞くタイミングだ。怒りを出すのは、その時で構わないんだ。落ち着け)
「……どうやら察しが付いているみたいだね。アズサの様子から予想していたのかな?」
「正直、当たっていてほしくはなかったけどね。それで、アリウス分校の状況はどれぐらい悪いの?」
「月並みな表現にはなるが、最低レベルと言う他ないね。娯楽どころか食料も衣服も足りていないような状況に追い込まれ、その苦痛をトリニティやゲヘナのせいだと刷り込まれている。その上で人を殺す方法を教え込まれていると来れば……まあ、どれだけ言葉を飾っても地獄のようなものだ」
まあ、かつての私たちの大本が彼女らを排斥したのが根本にある以上は、その教えが完全に的外れだとも言い切れないんだがね。
再び吐き捨てたその言葉に籠められた思いは、懺悔か、嫌悪か、それとも憤怒か。
どれであっても最悪だ。先生はそう思った。
「ちなみにだが。それを行っているアリウス分校の生徒会長、ベアトリーチェという大人の目的は、アリウス分校を利用して何らかの儀式を行う事だ」
「……は?」
「おそらくだが、彼女はアリウス分校の事など便利な私兵程度にしか見ていない」
いつの間にか握りしめていた拳を、一本一本指を開くように無理矢理開く。こうでもしなければ、何か物に当たってしまいそうだと思ったからだ。
それでも怒気は抑えられない。子どもたちを劣悪な環境に押し込め、恨みを植え付け、更には人殺しの方法まで教え込む。
そうまでして為そうとしているのが、儀式だと?
そんな事を仕出かしておいて、子どもたちは唯の私兵程度だと?
「ふざけている……」
抑えきれない感情が言葉となって漏れ出すが、しかしセイアとミネは同意を示すだけであった。それだけ、腹に据えかねる物があるのだろう。
「先生。これで、今回の案件がどれだけ重要なものかは分かってもらえたと思う。その上で改めてお願いしたい。私たちに、力を貸してくれ」
「もちろんだよ。頼まれなくたって協力するさ」
若干食い気味に応える先生。
その瞳には、さっきまでよりも数段強くなった意志の光が煌めいていた。
「さて、それじゃあ早速これからどう行動していくか話したいんだが。先生はどうしたい?」
「パッと思いつく範囲だと……そうだね、まずはナギサとミカに事情を説明してこちら側に引き入れる。その上で、ツルギとサクラコにも協力を要請する、とかかな。それと調印式の件についてはゲヘナにも連絡しておかないとね」
細かい戦術についてはともかくとして、大まかな戦略についてはそう悩むことも無く思いつく。
文字通りのトリニティの総力を挙げて事に当たるのだ。
「うん、全体としては同意だね。ただ、いくつか変更したい箇所があるかな」
「それは?」
「補習授業部にも真相を共有する事────それと、ミカにはしばらくの間コンタクトを取らない事だ」
「…………セイア。理由を聞いてもいいかな」
真剣な表情で先生がセイアに向き合う。
理由を尋ねる冷静さこそ保っていたものの、しかしその表情は険しいものになっていた。
なにせ、前半部分はともかくとして、後半部分についてはミカにかかる負荷も考えると中々納得できる内容では無いのだ。
「補習授業部に関しては、彼女らも完全に無関係でないという訳ではないからだ。アズサがどうするのか、そして
「……それについては、まあ、理解できるよ。補習授業部の、特にハナコとアズサの能力は抜きんでているわけだし」
遠回しながらも、早くミカの側の説明をするように促す先生。
微塵も揺るがない真剣な表情には、静かな迫力が乗っていた。
「ミカに説明しない理由については、いくつか存在する。意趣返しだとか嫌がらせみたいな下らない話ではない」
そう話されたセイアの説明は、大別すると二つの要素からなっていた。
まず一つは、ミカの精神状態がボロボロになっている事。
そもそも。現在の彼女の視点では、和平のために接触したはずのアリウス分校が、自分の軽はずみな行動を利用して友人を殺したのだ。
“巻き込んでしまった”アズサに対する感情もあれば、“襲撃の下手人である”アズサに対する感情もある。アリウス分校に関しても同様だ。
むしろそうでなければ、現在もアリウス分校と繋がりを持ち続ける事などできない。
現実逃避のために最初の願いは『エデン条約を潰すこと』だったのだと偽っているとはいえ、今のミカのメンタルは不安定と表現する他ない。
そして。セイアの予想では、自分の生存を告げれば彼女は気が抜けて何もかもを投げ出そうとする可能性があるのだとか。
そうなってしまうとアリウス分校に自身の生存を気取られてしまう。
また、三次試験の襲撃を起こさせることでアリウス分校を捕えたいというのもあるようだ。
なんにせよ、『アリウス分校の行動を自身の識る未来通りに固定させる』というのが一つの目的らしい。
そして、もう一つは。
「マクガフィンが……予知に映らない?」
「ああ。そもそも、彼は私が元々視ていた正史の未来どころか、彼が識っているらしい未来にすら存在していないんだ」
「それは、どういう?」
「詳細は私にも分からない。ちなみにだが、今の私の予知にも彼は映っていない。彼の行動によって変化した未来こそ視えはするが……肝心の彼自体が視えない以上はほとんど役に立たないだろうね」
困ったように肩をすくめるセイアは、その口ぶりほど困った様子ではなかった。未来が視えようと視えまいと為す事は変わらないと決意しているからだろう。
「そんなわけで、これ以上不確定要素を増やしたくないんだ」
「……」
「先生。私はこの一連の事件を確実に、そして完全に解決したい。たとえ心無い畜生だと罵られることになろうと。後で必ずミカには謝罪する。……だから、どうか力を貸してくれ」
顎に手を当て考える先生。
(セイアの話からして……最悪の未来ではセイアが死亡、ミカは自責の念に駆られ、更にはナギサの安否も不明になる。その上で、アリウス分校の問題もある)
合理的に見れば、セイアの明かした計画に利があるのは確実だ。
確実だが、しかし感情が納得したくないと文句を言っている事もまた事実。
揺れ悩んでいるのが、自分でもはっきりと分かった。
「それに、先生。君自身の問題もある」
「……私の?」
「調印式で君が撃たれると言ったろう? 複数の学園から慕われているシャーレの先生が撃たれたとなれば、アリウス分校の心象は最低レベルにまで落ち込む。彼女らも救うには、先生には無事でいてもらわないと困るんだ」
「…………なるほど」
流石にそこまでの根拠を示されて反対できるほど、先生は大局を見れない訳ではない。
なにせ、今こうして未来を視る事のできるセイアが自由に動けている、という事実は大きなアドバンテージになっているのだ。いわばジョーカーとなっているセイアをアリウス分校に晒すメリットなどあるはずもない。
とはいえ、やはり感情が首を縦に振らせるのを躊躇わせた。
この手は『トリニティ・ゲヘナ・アリウス分校を救うためにミカに苦しむことを強いる』という、悪く言えば“最大多数の最大幸福を取るために少数を切り捨てる”事の具現なのだ。
「先生。君の理想の事を思えば、納得しかねるというのも理解できる。だが、それでも私は成し遂げたいんだ。全ての責は私に預けてくれていい。だから、頼む」
「…………分かった。でも、ミカには三次試験の襲撃が終わり次第に事情を話してほしい。ごめん、それだけは譲れないんだ」
三次試験の襲撃後か……と難しい表情をするセイアに、しかし先生は物怖じせずに語る。
この手にメリットが無いわけではないんだ、と。
「まず、このタイミングで姿を現す事を考えれば各勢力からの助力が期待できる。本来のホストであるセイアと、現ホスト代行のナギサが手を組めるんだから」
「……なるほど、ティーパーティーの過半数を占められる訳か。派手に動くことにはなるが、それならミカによる妨害工作も無視できる」
「そして、襲撃のタイミングが分かっている上それだけの戦力を揃えられれば……襲撃に来たアリウス分校の生徒を一気に保護できる可能性はかなり大きくなるはず」
「更にマクガフィンによる干渉にも対応しやすくなる、と。…………たしかに悪くないね」
冷静な表情でミネと顔を合わせ、特に不具合が無いか確認すると、セイアは納得を示した。
実際、先生の提示したメリットというのは無視できるものではない。
そもそも、マクガフィンに対抗しようと思えば正義実現委員会のリソースは大部分をそちらへと割かなければならなくなる。
となると当然ながら他が手薄になるのだが、救護騎士団だけでなくシスターフッドの助力まで得られるのであればその問題は解決できるのだ。
もちろん、そのためにはシスターフッドへ全ての事情を明かした上で協力してもらえるよう手を尽くさなければならないのだが。
とはいえ、彼の干渉が確実だと予測できる現状では、その程度の労力で協力者が増えるのならば何の問題にもならない。
先に自分でも言っていたが、失敗するわけにはいかないのだ。
最後に何か不備が無いか振り返ると、セイアは頷いて手を差し出した。
「いいね。それで行こう」
「ごめんね、私のわがままで」
「構わないさ。そもそもの発端は私のわがままになるわけだし、ちゃんと利があるから賛同したんだ。それじゃあ……これからよろしく頼むよ、先生」
「よろこんで」
夜更けの空、その端から黄金の光が昇り始めた頃、先生とセイアは握手を交わしたのだった。
最後になりましたが、人間936380364 さん、アグル さん、八海山 さん、ザリチュ さん、サンドリョン さん、まっつん203 さん、ricedamenakoda さん、鸞凰 さん、EggNИ さん、ななな5629 さん、刻翔 さん、アルカンドラ さん、評価付与ありがとうございました!