【本編完結】黒く濁った罪を背負って   作:RH−

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 対策委員会編の前に、今のマクガフィン君の説明用の話です。またの名を設定開示用の閑話とも言う。
 私もなー、さっさと本編入りかったんだけどなー。まあ流石に必要そうだったので。



prologue
prologue


 澄んだ青空に昇る太陽。早朝特有の不純物の混じっていない純粋な空気が漂う中、とある廃ビルの奥から漏れ聞こえる声があった。

 

「────さて、次のニュースは特ダネですよ! なななんとっ、連邦生徒会直属の新組織として超法規的機関『連邦捜査部S.C.H.A.L.E』、通称シャーレが先日発足されたのですっ! シャーレはどんな学園の生徒でも所属させることができ、なおかつ各学園の自治区で一切の制約無しに戦闘活動を行えるというとんでもない組織らしく、さらにさらに、どうやら連邦生徒会長が直々に発足した組織なんだとか!」

「連邦生徒会長といえば、ここ数週間姿を現しておらず失踪したんじゃないかという噂も流れていますが────」

 

 どうやら何かのニュースらしく、周囲の景観には似つかわしくない随分とテンションの上がった声で特ダネとやらを伝えているようだ。

 

「先生が到着したか」

 

 クロノス報道部のニュースに小さく呟くと共に、マクガフィンはラジオの電源を落とした。必要な情報が入手できたというのもあるが、それ以上に動かなければならない事情ができたからである。

 すなわち────

 

「死ねェッ!!」

 

 ここD.U.シラトリ区第2拠点への、おそらく金で雇われたであろうヘルメット団による襲撃である。

 

 

 

 

────────

 

 先陣を切ったのはサブマシンガンを装備したヘルメット団員の一人だった。

 フルオート射撃で気持ち良く放たれる銃弾。「とにかく打てばそのうち当たるだろ」と言わんばかりの雑な攻撃であるが、ほぼ確実にダメージが与えられるという点では悪い選択肢ではない。

 …………消費した弾薬の費用にさえ目を瞑れば、という注釈は付くが。

 

 そんな弾幕に対し、襲撃した相手はまるで最初からこうなることを把握していたかのように落ち着いた様子で突っ込んでくると、そのまま無傷で切り抜けた上で反撃を行ってきた。

 

「はあっ!?」

 

 この程度の攻撃で倒せるとは思っていなかったが、まさか怯みもせずに無傷で突っ切ってくると思っていなかった彼女は反応が遅れてしまう。

 

 その隙は致命的であり、何かに強く引っぱられるような感覚と共に愛銃が奪われたかと思えば、流れるような動きで背後に回った敵が糸らしい感触の何かで腕を縛り上げる。

 意識の間隙を縫うような早技であったというのにその技術は見事なもので、縛られた両腕はまるでビクともしない。

 

「まず一人」

「てめぇっ!」

 

 人質でも取るつもりかと激昂した別の団員が接近しようとすると、瞬きの隙に黒づくめの標的は視界から消えており、気付けば背後から「二人目」という声が聞こえたかと思えば彼女も同じように両腕が縛られていた。

 

「な、なんだよコイツっ!?」

「化け物……」

 

 若干怪しく感じるほどの高額報酬に釣られて依頼を受けてみれば、襲撃相手がとんでもなく強かったことに恐慌状態に陥り始めたヘルメット団。

 依頼主がカイザー系列の企業という大手だったことで彼女たちは心構えも何もできていなかったのだ。

 

 

「お前ら、一旦落ち着け。今んところ敵は遠距離攻撃をしてねーうえ、アタシらは敵を包囲してんだ。距離取って弾丸叩きこみゃあ多少は動きも鈍くなる。分かったか?」

「リ、リーダー。流石っす! 分かりました!!」

 

 しかしどうやらリーダーと呼ばれる少女は違ったようで、冷静に状況を見極めて的確な指示を団員に下す。

 いつも通りの落ち着いた振る舞いに鶴の一声も斯くやと統率を取り戻した団員たちは、すぐさま指示通りに敵から一定の距離を保ちながら飽和射撃を開始した。

 

 しかし、そんな風に自分の指示通りに戦況が動いているというのに、リーダーはヘルメットの中で顔をしかめていた。

 

「……なんだあの動き。全くタネが分かんねえ」

 

 

 決して広くはない部屋であるはずなのに、それを全く感じさせない標的の動き。そのカラクリが全く読み取れないのだ。

 

 今だってそうだ。あえて命中させやすい胴体ではなく機動力を削ぐ目的で右足を狙撃したというのに、奴は馬鹿げた速度で後ろに跳ぶことでそれを回避した。

 

 これまでにもふざけた身体能力をした化け物連中────ゲヘナの風紀委員長やトリニティの歩く戦略兵器など────を見てきたことはあるし、なんならそんな奴らに鎮圧されかけて必死に逃げたこともある。伊達にこのヘルメット団のリーダーをしていないのだ。

 だが、今の奴の動きはそんな化け物連中と比べても明らかに異常だ。なにせ、さっきから奴は地面を踏み込まずに跳び回っているのだ。

 

 どんな生物であろうとも跳躍という動作には一度強く地面を踏み込み、そこで蓄えた力を解放するというプロセスが必要である。

 だというのに奴にはその予備動作が全くと言っていいほど存在しない。軽く地面を蹴れば、まるで()()()()()()()()()()()かのように馬鹿げた速度で離れて行くのだ。

 

 飽和射撃に紛れた狙撃に反応できる能力だけでも厄介だというのにさらにこれだ。このままじゃジリ貧でこっちが負けかねない。

 

 

「久々に受ける依頼間違えたかね」

 

 

 そこに拍車をかけているのが相手の装備……というか身に纏っている服である。スーツの上にコートを羽織っているようにも防護服で身を固めているようにも見える真っ黒なそれは、原料に何を使っているのか銃弾が掠っても一切傷が付かないどころか(ほつ)れすらしていないのである。

 頭全体を覆う────これまた真っ黒な────仮面とヘルメットが一体化したようなソレも防御力は同様で、さっきからまるでダメージを与えられていない。

 

 異常な身体能力に圧倒的な防御力、さらに一瞬でこちらを拘束できる手段。勝ち目を見出せる要素がまるでない。

 とはいえ「勝てそうになかったので諦めて逃げ帰ってきました」と言ったところで許されるわけも無いし、下手すればカイザーグループを敵に回しかねない。

 

 ブラックマーケットなどでしか生活できない彼女たちがそんなことになればどうなるかなど火を見るよりも明らかだ。

 

「つってもこのままじゃ大損だしなぁ……」

 

 依頼の失敗はほぼ確定しているのだ。これ以上無駄に弾薬などを消耗するメリットは皆無である。などとボヤいたのが聞こえたのだろうか。膠着状態になりつつあった戦況が一気に動き始める。

 

 

「三、ついでに四人目」

 

 

 銃撃を躱すだけであった標的が突如反攻に出たのだ。

 引き金が引かれる前にどこに銃弾が来るのか分かっているかのような動きで団員に近寄ると、最初の場面の焼き増しのように両腕を拘束。流れるように隣の団員に接近し、彼女が気付く前にそのまま無力化させる。

 

「あの野郎……こっちからの銃撃をパターン化させやがったな」

 

 まるで予定調和のように銃撃をすり抜けて動く標的相手に一度崩れた盤面を立て直す間もなく、他の団員も次々両腕をキラキラと()()()で縛り上げられる。

 

「ようやくタネが割れたってのにおしまいか」

 

 よくよく集中して見ることでどうにか捉えられた相手の手札。周りを見回せばそこかしこに同様の糸が張られているのも分かったが、時すでに遅し。遂に無事な団員は自分一人だけとなってしまった。

 

「参った、降参だ。アタシはどうしても良いから、せめて他のメンバーは見逃してやってくんねえか? ()()()()()()()()

「……俺を知っていたのか」

「全身真っ黒な装束に謎の糸、そんでカイザーに狙われてるってなると候補は限られる。にしてもまさか実在してたとは。都市伝説だと思ってたんだがな」

 

 

 “マクガフィン”

 2年ほど前からブラックマーケットで突如として噂になり始めた謎の存在。常に黒一色の服装をしており、ナイフどころか銃弾を叩き込んでも切れない鋼線のような得物を扱うと言われている、そんな化け物。

 その特徴は、何と言っても流れる噂の物騒さであった。

 

 曰く、カイザーPMCの拠点を襲撃し回っている。

 曰く、(けしか)けられたヘルメット団50人を無傷で壊滅させた。

 曰く、アビドス砂漠の一角を消し飛ばした。

 曰く、ブラックマーケットの不良をオーパーツに造り替えて売りさばいている。

 曰く、いつも着ている服は実は拘束具で、中身は実験で生まれた異形の化け物である。

 曰く、曰く、曰く────。

 

 尾ひれが付きまくって曖昧になっている噂の数々や、それに対して明らかに少なすぎる目撃情報から眉唾だと思っていたのだが……。

 まさか実在していた上こんなとんでもない実力者だったとは。この感じならもしかしたら噂も真実なのかもしれない。

 

 

 ま、ここでお陀仏になるアタシにゃ関係ない話だな。

 

 

 学園に息苦しさを感じて飛び出してから1年と少し。その間に悪さもたくさんしてきたし、自分の末路がまともなものになるとは思っていない。刹那的な楽しさを優先してきたのだし、そのことは既に割り切っていた。

 端的に言って、リーダーと呼ばれる少女は冷めていたのだ。もしくはこれからの生涯を諦めていたと言ってもいい。

 

 ただ、自分に付いてきた他のメンバーまで巻き込みたくは無かった。

 

 そんな思いと共にヘルメットを外し、両手を上げて降参の意を示した彼女をマクガフィンは見定めるようにじっと眺める。

 十字架状にスリットの開いた仮面に隠された彼の表情を窺い知ることはできず、無言の空間の緊張感にリーダーが生唾を飲み込んだ瞬間────

 

 戦意を霧散させたマクガフィンは部屋の隅の方へ歩いて行った。

 

「…………?」

 

 てっきりこのまま拘束されると思っていたリーダーは怪訝な表情になるが、構わずに置いてあった奇跡的に────というより、恐らく意図的に射線を誘導したことで────無事であったバッグをゴソゴソと漁ると、マクガフィンは札束を取り出す。

 

「ん」

「へ……?」

 

 そのまま札束をリーダーに差し出すマクガフィン。

 訳も分からず素っ頓狂な声を出すリーダー。

 さっきまでの緊張感とは別種の絶妙な気まずさに静まり返る空間。

 

「……」

「……」

 

 腕を縛られたまま「どういう状況……?」「お前聞けよ」「ヤダよ、そう言うお前こそ聞けよ」「ちくわ大明神」「何がどうな────誰だ今の」とアイコンタクトを交わすヘルメット団員たち。

 そんな沈黙を破ったのは、この気まずい空間を作ったマクガフィンその人であった。

 

「…………いや、どうせ依頼主はカイザーなんだろ? 失敗した奴らに連中がまともな対応をするとも思えないし、このままじゃそっちは骨折り損のくたびれ儲けだ。その補填ってわけじゃないが……あー、もちろん施しを受けるのが嫌だってなら受け取らないで構わねえけど」

「いやいや、ありがてえし受け取らせてもらうけど……いいのか?」

 

 提示されていた報酬と比べれば雀の涙程度だが、それでも十分な大金。少なくとも消耗した装備類を買い直してもお釣りがくる額だ。

 そんな大金をポンと渡されても反応に困る。そもそもヘルメット団(こっち)はアンタを襲撃したんだぞ?

 そんな思いを込めて、さっきまでのピリピリした空気が嘘のように穏やかになったマクガフィンを見る。

 

「誰にでもってわけじゃない。話も通じないタイプの奴らには相応の対応をする。ただ、あんたはそうじゃ無かったし、さらに言えば仲間を守ろうとした」

「………………アンタ、良い奴なんだな」

 

 

「はぁ? 俺が良い奴? んな訳ねーだろ。俺はただのクソ野郎だ」

 

 

 なにか地雷を踏んだのだろうか。さっきまでのどこか柔らかな雰囲気が霧散し、凍えるほど冷たい声でマクガフィンは吐き捨てた。

 そのままラジオをバッグに放り込んでそれを引っ掴むと、マクガフィンは出口の方へと向かう。

 

「20分ぐらいしたらこの拠点は爆破する。しばらくしたら拘束は解いてやるから、さっさと仲間を連れて離れな。…………それと、さっきのは八つ当たりみたいなもんだ。悪かった」

 

 そう呟くと、振り返ることなく彼は立ち去ったのだった。

 

 

────────

 

 D.U.シラトリ区第2拠点から十分離れた辺りで、ヘルメット団を拘束していた神秘で構築した糸を解く。これでさっさと立ち去るだろう。

 正直、リーダーの感じからするとあの場で解放しても問題なさそうだったが……話はそう単純なものではないのだ。なにせ今の俺は様々な勢力に狙われている状態なのだから。

 

 能力の確認を兼ねてたびたび襲撃しているカイザーグループは勿論のこと、そこから派生してブラックマーケットの組織がいくつか、それに────基本的に近寄らないようにしていたためおそらくだが────アビドス高校。もしかしたらカイザー経由で黒服にも狙われているかもしれない。

 こんな具合なのだし警戒しすぎる位で丁度良いだろう。

 

「そろそろ20分経つか」

 

 改めて拠点に張り巡らせていた神秘の糸に意識を向けると、どうやら忠告通りに彼女たちは立ち去った後らしい。部屋の周囲も含めて人の気配が無くなっていることが確認できた。

 というわけで糸に込めていた神秘を過剰に励起させると、内向きに崩落するように暴発させる。

 

 爆発の威力やタイミングなどそこそこシビアな調整が求められる作業だが────上手くいったな。これで証拠隠滅は完了した。

 

 

 思えばこの2年間で神秘の扱いも随分上達したものだ。

 

 そう、あの日────俺が救いようの無いクソ野郎になったあの日から、既に2年の歳月が経過したのである。

 この2年間はとにかく忙しかった。金や拠点のような生きるために必要不可欠なものから、装備や戦闘スタイルといったこれからの活動に必須なものまで片っ端から準備し、その後はひたすら神秘の操作技術を向上させ続け……。

 気付けばもう『先生』が到着していた。

 

 

 俺にお似合いな薄っぺらな2年間の振り返りを終えると、今も移動に使っている“神秘の糸”へとちらりと視線を向ける。

 

 

 これがその月日の集大成であり、今の俺の全てと表現してもいい武器だ。

 さっきも言ったようにあの頃の俺には不足しているものが多すぎた。それを補うために考え付いたのが神秘を糸状に出力し、それを使うという方法なのである。

 

 

 この方法の利点は何よりもまず神秘の出力を制限できるという点にある。糸という細い形で構築する以上、込められる神秘の上限値は限られたものになる。

 つまり、この形式を取っている限りユメ先輩の時のように誰かを巻き込んで傷付ける可能性はゼロになるのだ。

 また、物理的な鋼線を使ってるわけでは無いため巻き取り機は不要であり、そのため故障などで戦えなくなることもあり得ない。それでいて神秘そのもので構成されているため単純な物理攻撃での破壊は困難。ついでに発見もされ辛い。

 まさに一挙両得というやつである。

 

 キヴォトスは銃火器で溢れ返っているため中~遠距離用の戦闘手段を求めていた俺にとって、“神秘の糸”は願ったり叶ったりな代物だったのだ。

 

 

 それだけでなく、神秘の糸は汎用性もかなり高い。

 戦闘において中~遠距離に柔軟に対応できるのは勿論、密度を上げればビルの壁や鉄骨も斬り裂ける。

 屋内であれば足元に張り巡らせて即席のトラップも作れるし、屋外であれば今のように壁に刺して固定することで移動手段としても使える。

 

 

 ちなみにこの移動には種類があり、さっきの戦闘で使っていたように固定した神秘の糸を収縮させることで無理矢理体を引っ張る短距離用のものと、今やっているように遠心力を使ってターザンよろしく宙を移動する長距離用のものとを使い分けている。

 …………もっとも、後者の方法は目立ちすぎるため人気のない廃墟街などでしか使えないのだが。

 

 閑話休題。

 

 

 ともかく、これで“神秘の糸”の利便性については大体理解してもらえただろう。

 

 

 そしてこれと体外に放出した神秘を固定する技術を組み合わせて作ったのが今の俺(マクガフィン)の代名詞となっている黒の衣服だ。

 もともと特注の防刃・防弾機能の付いていた装備に、神秘の糸を『縫い合わせ』て強化したこの服はかなりの防御力を誇る。その性能はもはや異常と言っていいほどであり、ヘルメット団やスケバンたちの銃撃はもちろん、数世代ほど型落ちではあったがカイザーPMCの戦車による砲撃でさえも無傷で耐えきったぐらいだ。

 とはいえ維持するために少量ではあるが常に神秘を消耗するし、一月以上放置してしまうと糸が解けてしまうため予備も含めて定期的なメンテナンスが必要ではあるが。

 

 しかし、逆に言えばその程度の労力で俺に欠けていた防御力が補えるのだ。十分すぎる成果と言えるだろう。

 ……まあ、たとえ傷を受けたところである程度は神秘で直せるんだが。なんなら既に数えきれないぐらいには自分を直してるし。

 

 

 なんていう風に戦闘関連の振り返りを終えた辺りで、ちょうど目的地に着いたようだ。

 放物線を描いて綺麗に着地したマクガフィンは、余計な回想に耽っていた意識を切り替えながら、改めて見慣れた廃ビルを眺めた。

 

 

 周囲の廃墟と同じく植物に侵食されボロボロに朽ちた外壁。当然ながら無事な窓ガラスは一つも残っておらず、その奥の薄暗い景観を存分に堪能できるようになっている。入り口があったであろう辺りなどグチャグチャに崩落しており、その瓦礫の側面にはどこかの民家から飛んできたのか木製の扉がめり込んでいる有様だ。

 

 躊躇なくその扉を引っ張れば、奥に広がるのは明らかに整備されている様子のコンクリートで作られた下り階段。

 

 軽く周囲を見回してから、マクガフィンは内側へと足を進める。

 当然ながら、支えが無くなったドアは軋んだ音を立てながら閉まり、階段は入り口の隙間から入り込む僅かな日の光が頼りなく照らすだけとなった。

 

 

 そんな中をカツン、カツンと足音を立てながら降りると────見えてきた。

 丁度俺の目線の高さ辺りに、菱形とその内側に縦に引き伸ばされた3段の階段のようなシンボルが描かれた、ついさっき通った上の入り口と似た材質の扉だ。

 

 

 ヘルメット団の襲撃というアクシデントこそあったが、今日は元々ここに来ている奴と会う予定だったのだ。

 

「いらっしゃ────ああ、マクガフィンさんでしたか。少し早かったですね」

「襲撃に遭ってな。予定より早く拠点を出なければならなくなったんだ」

「それはまた災難でしたね。襲撃した側が」

 

 デカグラマトンの軍勢ぐらいしか見た事のなかったキヴォトスでは珍しい真っ白なボディに、こいつ以外に着ている住民のいない全身を覆う白のガラベーヤ。顔部分は、カイザープレジデントやオートマタ兵のような装甲に覆われたタイプでも一般市民のような液晶に表情を出力する物でもなく、半透明の強化ガラスの奥に鮮やかな緑に光る大きな単眼レンズが覗く無骨なもの。

 カウンターの奥から皮肉を交えて話しかけてくる気安さに反してブラックマーケットでも上位に食い込む有力者であり、そしてブラックマーケット内から外部の大企業と交易を執り行える────すなわち、ブラックマーケットに拠点を構えながらも外部からの信頼を獲得している稀有な人材。

 同時にカイザーグループと真っ向から対立している珍しい存在でもある。

 

 名を────

 

「『connecter(繋ぎ手)』」

「はいはい、ジョークはこの辺りにしましょうか。それで、用件は?」

「オーパーツの売却だ」

「つまりいつも通りってことですね」

 

 大仰に肩をすくめる白ずくめの男を無視して、黒ずくめの青年はバッグからアンティキティラ装置や古代の電池、ヴォルフスエック鋼鉄といったオーパーツを取り出す。

 

 オーパーツや装甲に使えそうな素材を売却し、それに対し金銭や特殊な装備・情報などを払う。それが、『繋ぎ手』がマクガフィンに声を掛けた頃から今まで続いているこの2者の関係であった。

 

「相変わらず凄い純度ですねー。一体どうやったらこんな代物を大量に持ってこれるんですかね」

「企業秘密だ」

 

 軽く睨みながら言えば、おお怖い怖いと言いながら再び肩をすくめられる。

 表情というものが存在しないため声色からでしか判断できないが、恐らく向こうも本気で探ろうとはしていないのだろう。その気ならば何も語らずに調査するだろうし、それができるだけの能力も人脈も持っているのだ。

 

 つまりはいつものじゃれ合いの延長線、突っつくネタがあったから突っついたといったところか。

 

 

 余談ではあるが、実はこのオーパーツの供給元はビナーの残骸だったりする。マクガフィンの神秘によって汚染・破壊されはしたものの無事なパーツはそこそこ残っており、汚染されただけならば神秘を取り除いて元に戻すこともできるため、こうして彼の貴重な収入源となっているのである。

 自分を破壊した上その残骸を資金源にされているなどと知れば────感情があるのならば、という仮定の下だが────きっとビナーは怒り狂って辺りが不毛の地になるまで暴れまわるだろう。あな恐ろしや。

 もっとも、普段ビナーが活動しているのはアビドス砂漠であるため元々不毛の地なのだが。

 

 閑話休題。

 

 

「私としては良い取引ができてますし、何でも構いませんけどね。いやー、あの時貴方を勧誘した私は良い判断をしましたね、ほんと。まさか噂みたいに誰かをオーパーツにしてるわけじゃないでしょうし。…………ないですよね?」

「あるわけ無えだろっ! 大体なんだあの訳の分かんねえ噂のオンパレードは、俺は歴とした人間で異形の化け物じゃねえっての」

「といってもその仮面の下を知ってる存在はかなり少ないですし、仕方ないのでは? 振る舞いもかなりぶっきらぼうですし」

「…………まさか俺に仮面を外して愛想を振り撒けって言うんじゃ無いだろうな」

 

 さっきとは違い割と本気で睨みつけると、『繋ぎ手』はたっぷりと間をおいてから口を開いた。

 

「はい!!」

「……」

「あら、怒りました? この程度で怒ってたら禿げますよ?」

「残念ながら俺の頭にはお前の真っ白つるつるとは違ってまだ髪は残ってるし、減ってもいない」

 

 私は呆れていますという雰囲気を前面に押し出しながら皮肉で返すが、対面の“真っ白つるつる”は大して堪えた様子も無くカラカラと笑う。実に楽しげな様子である。

 

「……はぁ、査定はまだ終わらないのか」

「だってなんかいつもより量多いじゃないですか。そりゃ時間も掛かりますよ。特にマクガフィンさんが持ち込んでくるものはどれも品質が良いので、ちょっとの傷も見逃せないですし」

「だったら口よりも手を動かしてほしいんだが」

「査定っていうのは手じゃなくて目で行うんですよ? おめでとうございます、一つ新しい学びを得られましたね」

 

 一度ぶん殴って分からせてやるべきかもしれない。

 そんな通算何度目になるかも分からない命題を真剣に考え始めたところで査定結果が告げられた。

 

「っと、終わりましたね。額は────ざっとこのぐらいですかね。いつも通り現金一括ですか?」

「いや、少し遠出する予定だから半分は置いといてくれ。しばらくしたらまた来る」

「おや、良いので? バックれるかもしれませんよ」

 

 驚いた様子の中に僅かに猜疑心を混ぜた様子で質問をする繋ぎ手。

 

「無いだろ。それは両方にとってデメリットしかない」

 

 俺にとって繋ぎ手は専売契約を取っている重要な取引相手だ。同時に、ブラックマーケットにおける繋ぎ手の力がここまで増大した要因の何割かは俺から流れた大量のオーパーツにあるため、向こうにとっても俺は重要な取引相手なことに変わりない。

 ここで金を持ち逃げするメリットとこれからの取引の機会を消失するデメリット。その程度の勘定ができない程こいつは馬鹿じゃない。

 

 

 それに、ここで金を持ってバックれるのは“マクガフィン”に敵対することに他ならない。そうなれば────殺しはしないが容赦するつもりも無い。俺の持ちうる全ての手段を使って確実に潰す。

 特にコイツは俺の情報を持ちすぎているのだ。薪浪彩土やアビドスに繋がるようなボロは出していないが、敵対されたなら絶対に野放しにできない。

 

「てっきり信頼を勝ち取れたのかと思ったんですが……絶対そんなこと考えてないですよね。後、敵対する予定は無いので殺気も収めてください」

()()はしているぞ?」

「今日はいつもより刺々しいですねぇ。ところで話は全然変わるんですけど、ハリネズミって可愛いですよね」

 

 …………。

 用事は済ませたしさっさと帰るか。

 

「ああ、そんなに怒らないでくださいよ。それと、次の店は本拠地(ブラックマーケット)の方に変更するのでよろしくお願いしますね」

「ん? 予定じゃアビドスじゃなかったか?」

「それが、しばらく前からあの辺りでカイザーの動きが活発になってるんですよね。鬱陶しいことこの上ないですよ、まったく。私がこうして各地を転々としなければならないのも連中のせいですし、さっさと潰れてくれませんかね」

「……まあ分かった。ブラックマーケットだな」

 

 本来の予定とは少しずれるが…………ブラックマーケットなら問題は無いだろう。どうせ行く予定もあったし。

 繋ぎ手の「またのご利用お待ちしておりまーす」という最後までペースを崩さない気の抜けた声に、背を向けたまま手をヒラヒラと振ることで応え、階段を上って外に出る。

 

「眩し」

 

 薄暗い階段との明暗差に軽くボヤいたところで、ふと気付く。

 

 口角が上がっていた。

 

「気持ち悪いな」

 

 首を出血しかねない勢いで引っ搔くが、麻痺した痛覚は何の刺激も伝えない。放っておけばこの傷も神秘のせいで一日もあれば癒えてしまう。

 今だけはそのことを疎ましく思いながら、マクガフィンは行動を開始したのだった。

 

 




 というわけでマクガフィン君の現状説明回でした。
 ビジュアルのイメージはボンドルド(メイドインアビス) + 衛宮切嗣(fate/zero)、戦闘スタイルのイメージはウォルター(HELLSING)って感じ。途中で出た移動手段に関してはスパイダーマンとか立体機動装置をイメージして頂ければ分かりやすいかと。
 ちなみに訓練の結果マクガフィン君の神秘量は2年間で数倍に膨れ上がっているため、汎用性が高く対処しにくい鋼線術や謎装備による防御力と相まって戦闘能力に関しては化け物レベルになってます。ついでに言えば肉体の修復速度もキヴォトス人換算で6割ぐらいにまでなっていたり。まあこの2年間ずっと精神オワコン状態で死にかけるような訓練ばっかやってたりしてたからね。
 とはいえユメ先輩の件もあって生徒たち相手に本気で戦うことはまずないんですけど。

 最後になりましたが、いちごっちさん Rukinaさん 評価付与ありがとうございます! めちゃくちゃ励みになります!!
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