【本編完結】黒く濁った罪を背負って   作:RH−

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今週はサプライズ更新は無いからな!? 無いったら無いからな!?


三次試験襲撃 第二幕:変遷

 

 時は数分ほど遡り、セイアたちが合宿所を出た辺り。

 一同は、また別の変化に直面していた。

 

「あぁ……最悪だ。一気に流れが悪い方に傾いた」

「今度はどうしたの、セイア?」

「アリウススクワッドがミカの方に向かっている。おそらくミカに状況を確認するためだろう」

「それは……」

 

 当初の未来では、ミカとアリウススクワッドはそれぞれ別ルートから合宿所へと向かっていた。元々スクワッドには出動命令が出ていなかったが故の別働である。

 そこには、ここまで盤面を操作してきたというベアトリーチェの慢心もあった。最後の最後で多少不確定要素が強くなろうと問題ないだろう、と。

 

 しかし現在の状況は混迷を極めており、最早そんな余裕を持てるほどアリウス分校は優位ではなくなっている。

 現場の判断ではあるが、スクワッドが状況確認のためにミカとコンタクトを取ろうとするのも当然の話であった。もしくは、ミカが裏切ったのか否かを把握するためにであるのかもしれない。

 

 ともかく、アリウススクワッドの4人が大聖堂の方へ……つまりは今ミカがいる辺りへと向かっていることは明確な事実である。

 

 ここで困るのが、ミカとスクワッドの4人が合流するのを他の生徒に見られてしまうことだ。

 現時点でミカとアリウス分校生徒が一緒にいるのをパテル分派の生徒に見られているというのに、その上でアリウスの主力部隊が合流してしまえば言い逃れはできなくなる。

 

 ミカを救おうと────嘗て視た未来の悲劇を防ごうと思うのであれば、これは絶対に止めなければならない。

 

(ただ……マクガフィンがどう動くかが全く視えないのがネックだ)

 

 となると、補習授業部に先回りしてもらってスクワッドを止めてもらうというのが一番現実的な手になる。

 しかしここで問題になってくるのが、マクガフィンという黒ずくめの不確定要素。

 

 彼が何を思ってアリウス分校生徒を解放したのかが読めない以上、彼が次にどう動くのかというのも全く想定できないのだ。極論、このままトリニティを火の海に変えに来るというのも可能性の一つになってしまう。

 おそらく自分たち生徒の味方であるというのがセイアの予想ではあるが、それが正しい保証はどこにもない。そして、その仮説を基にした行動予測もまた。

 

(安全性を取るのであれば……全員で大聖堂へ向かい、ミカとスクワッドを纏めて相手にするべきだろう)

 

 こうなってくると、自分達が散開するという手は多大なリスクを孕むことになる。マクガフィンがどこに現れるかわからない以上、戦力を分散させるというのは各個撃破される危険性を引き上げるからだ。

 

(どうする……確実性を取るか、リターンの大きさを取るか。どちらにすべきだ?)

 

 移動しつつも、セイアは全力で思考を巡らせる。

 散開できる最終ポイントは既にかなり近くなっている。

 

 と、そんな時であった。

 

「セイア。当初の計画のままで行こう」

 

 覚悟を決めた表情で、白髪の少女が口を開いた。

 

「それは……散開するということかい? アズサ」

「うん。セイアとナギサはミカを、私たちはスクワッドをそれぞれ止める」

「しかし────」

「リスクについては分かってる! でも、このままじゃ何もかもが台無しになっちゃうんだ。だったら、私は諦めたくない」

 

 静かに、しかしどこまでも強い瞳で、少女は語る。

 このまま全てが台無しになるのならば、一縷の可能性に賭けてでも挑戦したい、と。

 

「ふふっ、そうだったね。……先生、補習授業部の方は任せてもいいかい?」

「それは構わないけど……セイアとナギサは大丈夫なの?」

「大聖堂の付近にはヒナタの部隊がいる。今はどう動くべきか分からず手をこまねいているようだが、私たちが合流できれば大丈夫だろう。ナギサ、指揮の方は任せる」

「ええ。周囲のアリウス生徒はお任せください。……その代わり、ミカさんは」

「ああ。私が必ず止めてみせる。そのために()()もしたんだしね」

 

 会話が一段落つくと同時に、眼前に分かれ道が迫る。

 

「アズサ、スクワッドは美術館の方を迂回して大聖堂へと向かっている。任せたよ」

「分かった。そっちも、ミカを止めてあげて」

「ああ。────それじゃあ、行こう。目指すべきハッピーエンドへ」

 

 セイアの呼びかけに応えると、一同は二つへと散開したのであった。

 

 

────────

 

「その……大丈夫? アズサ」

「心配してくれてありがとう、コハル。でも、大丈夫。みんなが傍に居てくれるから」

「あらあら、アズサちゃんがそんな熱いことを言ってくれるなんて。これは私たちも頑張らないとですね」

「はい! みんなで力を合わせて、みんなが笑っていられるようなハッピーエンドを目指しましょう!!」

 

 時は進み、アリウススクワッドを奇襲するために息を潜める補習授業部と先生たち。

 その中でも懸ける思いが強いアズサは固い表情をしているが、しかし思い詰めているワケではないらしい。補習授業部として絆を深めたヒフミ、コハル、ハナコとの会話では笑みが浮かんでいるあたりからもそのことが読み取れる。

 

 そうして待つこと数分、やがていくつかの足音が聞こえてきた。

 

「……みんな。それじゃあ、作戦通りに」

 

 先生の声に頷くと、それぞれが事に取り掛かる。

 

 

 

 まず最初に動いたのはヒフミであった。

 慎重に先生が計ったタイミングに従い、身の丈以上の大きなペロロ人形のデコイが展開される。

 続けて一拍遅らせ、視線の集まったペロロ人形の頭上へとアズサがスタングレネードを投擲。

 

 激しい音と光が辺りを蹂躙するのに合わせ、まずは狙撃手を────つまりはヒヨリを落とそうとアズサが駆け出す。

 

 当初組んでいた形とは異なる急造の作戦ではあったが、しかし見事な奇襲である。少なくとも一人……上手く運べば二人目も狙えそうに思えるほど、一連の流れは見事であった。

 

 しかしながら、そんな彼女へと愛銃の引き金を引く一人の少女が。

 

「────ッ! くっ!」

 

 半ば直感的にその動きを感じ取ってアズサが回避すると同時に、閃光弾の音を掻き消すような銃声が響く。

 

 はたして、その銃声の主は。

 

「やはり……やはり裏切っていたか。白洲アズサ」

 

 アリウススクワッドのリーダー、錠前サオリであった。

 

 

「たしかに私はアリウスを裏切った。セイアだって殺していない」

 

 仕切り直すように距離を取り、向かい合う補習授業部とアリウススクワッドの面々。

 ピリピリと一触即発の緊張感が充満する中で、白髪の少女は静かに口を開いた。

 

「……でも、私はそれを間違っているとは思っていない」

「言い訳のつもりか? 今さら自分を正当化しようとでも────」

「だって! だって、おかしいだろう!? 人を殺すために生きるだなんて! いつか死ぬために苦しみながら生きるだなんて!!」

 

 対面したサオリの反論へ噛みつくように、少女はその心を叫ぶ。

 胸もとにギュッと自身の愛銃を抱きしめながら、周囲を覆う夜闇へ必死に抗うように。

 

「たしかに、この世界は苦しいことが溢れている。何もかもが無意味なんじゃないかって……虚しいだけなんじゃないかって思ってしまうこともある。でも────でもっ! それだけじゃないんだ!! それだけだって諦めちゃダメなんだ!!」

「そんな、訳が…………そんな訳がないだろうっ!? アズサ、お前も教えられたはずだ! “全ては虚しい。vanitas vanitatum, どこまで行こうとも、全てはただ虚しいものだet omnia vanitas”と!! それがこの世界の真実なんだ!」

「違うッ!! 私たちはただ押し付けられただけで、世界はそれだけなんかじゃないんだ! きっと私も、サオリたちも笑顔でいられるはずなんだっ!!」

 

 信念を懸けた言葉の応酬は次第に激しくなり、否応なく場の緊張感を高めていく。

 そしてそれが臨界点を迎える頃には、言葉による説得の余地が残ることはない。

 

「アズサ。ぬるま湯に浸かり切ったお前に、この世界の真実を思い出させてやる。私もお前も、日向では生きられないんだ」

「きっとこうなることは分かっていた。……昔は私が手を差し伸べてもらったんだ。だから、次は私がみんなを引っ張り上げるよ」

 

 再びその愛銃を相手へと向け、一度(ひとたび)の決裂を口にする二人。

 ここに、互いの想いを懸けた戦いが始まった。

 

 

────────

 

 場所は移り、トリニティ大聖堂手前の広場。

 月明かりが照り映えるその場は、混沌としながら静寂に満たされていた。

 

 一見相反しているようにも思えるそれらが共存している、その理由自体は簡単なものである。誰にとっても想定外な状況と極度の緊張によって、誰もが言葉を発せずに思考を巡らせているからだ。

 

 ただ一人、この状況を作り上げた人物を除いて。

 

「ふむ、失敗したか。どうにも、ここしばらく上手く行かない事ばかりだな」

 

 尖塔の上という距離の離れた場所に立っているはずなのに何故か聞き取れる、そんな声で黒ずくめの怪人が語る。

 いっそ腹が立ってくるほどの慇懃さで。まるですべての黒幕であるかのように。

 

「マ、マクガフィン……?」

「うん? 誰かは知らないが、どうやら随分と私の名は知れ渡っているようだな。いかにも、私がこの襲撃を企てたマクガフィンだが……何か私に用かね?」

 

 その声に体の硬直が解けたのか、パテル分派の生徒たちの一人が怪人の名を呼んだ。

 掠れるとまではいかずとも、酷く震えて聞き取り辛いであろう誰何。その呼びかけに、しかしマクガフィンは気さくとも表現できるほどの丁寧さで答える。

 

 自分こそが黒幕である、と。

 

「は? いや、え? この襲撃はミカさんが企図したって、さっき……」

 

 目に見えて困惑を露わにするパテル分派の少女たち。

 ついさっき聞いた話と全く違う話を聞かされたのだ、それもおかしな事ではないのだろう。

 

「おやおや、あんなお粗末な話を信じるとは……どうやらトップの頭がお花畑だとその下もまた残念なことになってしまうらしい」

 

 と、そんな少女らへ直球の侮辱を放つマクガフィン。

 そのまま『なんと嘆かわしいことか』と続ける彼にいよいよ少女たちが激昂しそうになったタイミングで、さらに黒ずくめの怪人は語る。

 

「そもそもの話として……君たちは本当に聖園ミカがこんなクーデターを画策する人物だと思っているのか? 周りに持て囃されていたとはいえ、一派閥の首長を務めていた人物が?」

「それは……だって」

「本人がそう言ったから? ハッ、それで何も考えずに納得しようとするあたり、本当に残念な頭をしているらしい」

「は、はぁ?」

「それか、ここで聖園ミカを非難しておけば自分たちは違うように扱われるでも考えているのか……いずれにせよナンセンスだな」

 

 思い当たることでもあったのか、パテル分派の少女たちはグッと押し黙る。

 しかし、睨め上げるように向けられる視線には『ならば何が真相なのか言ってみろ』という色が強く浮かんでいた。

 

 それを一つの頷きと共に認めると、マクガフィンは数秒の沈黙を以って口を開く。既に、状況は彼に支配されていた。

 

「そもそも、聖園ミカが最初に掲げていたのは『和解』だ。とはいえその対象はアリウス分校だったのだがな」

「アリウス、分校?」

「今襲撃を起こしている生徒たちだ。端的に言えば、過去にトリニティによって排斥された学園だな。お優しいことに、我らがお姫様はそんな者たちへ手を差し伸べようとしたのだ」

「はぁ? じゃあなんで今こんな騒ぎが起きてるのよ」

 

 所々に皮肉を入れながらも、企み事を話す子どものようにマクガフィンは語る。しかしながら、その中には見過ごせない疑問点があった。

 聖園ミカが和解のためにアリウス分校とやらへ接触したのなら、どうしてこんなクーデターが起きているのか、という点だ。

 

 故にパテル分派の少女は質問をしたのだが。

 それの何が可笑しかったのか、何故かマクガフィンは大笑いを始める。我慢ならないと言わんばかりに。

 

「な、なにがおかしいのよ」

「ああ、いや、申し訳ない。あれほど上手く行ったのは傑作だったのでな」

「はあ?」

「聖園ミカは和解のためにアリウス分校へと接触した。かつてトリニティに排斥された────トリニティへ恨みを募らせているアリウス分校に、な。後は単純だ。その憎悪を軽く刺激し、ついでに計画を渡してやればいい」

 

 心の底から可笑しそうに、楽しそうにマクガフィンは語る。

 場の空気は彼に完全に呑み込まれ、最早それに疑問や反論を呈する事ができる者は誰もいなかった。できなくなるような気色を彼が放っていたのだ。

 

「いや、あの時ほど上手く行ったのは初めてだったよ。見事に百合園セイアは襲撃され、聖園ミカは自責の念でエデン条約を潰そうと動き、桐藤ナギサは疑心暗鬼に呑まれて暴走した。後は一人ずつティーパーティーを消していけばトリニティを潰せる……そう、思っていたんだがなぁ。まったく、いつから計算が狂ったのか」

「こ、このゲス野郎が……っ!!」

「うん? なら、そのゲス野郎にいいように踊らされていた君たちは何になるんだい?」

 

 彼の語る筋書きを理解したパテル分派の少女の一人が堪えきれずに叫ぶも、対するマクガフィンに堪えた様子は無い。むしろ、楽しげに馬鹿にし返すほどだ。

 事実、一種の喜びを感じてはいるのだろう。彼の描いた筋書き通りに事が運んでいるのだから。

 

「まったくもって……本当に、いつから計画が狂ったのか。襲撃者が裏切った時か? それとも、シャーレの先生が来た時か?」

 

 そのままの調子で、つらつらと諳んじるように黒ずくめの青年は語る。

 どれだけパテルの少女たちから罵倒されようと。

 どれだけミカやアリウスの少女たちから戸惑いの視線を向けられようと。

 

 淀みなく、躊躇いなく。

 どこまでも滔々と、マクガフィンは語り続ける。

 

 

(……なんとも、嫌な手を打ってくれるじゃないか)

 

 そんな彼の長広舌を聞きながら、キツネ耳の少女は内心で毒づいていた。

 場の流れがどうにもならないぐらいに固まり切ってしまったのを理解したからである。

 

(人間というのは、受け入れがたい真実より分かりやすい(信じやすい)話を信じるものだ。特に、あそこの生徒たちはその傾向が強いらしい)

 

 それこそ、事件の犯人は自分たちの派閥のトップではなく別の黒幕で、自分たちが持て囃していた人物はその犯罪者に嵌められていたのだ、とかいうような話とか。

 そういった分かりやすいストーリーを、人は好むのだ。

 

 更に言えば、マクガフィンは彼女たちの目の前で自分たちティーパーティーを襲撃し、そしてミカはそれから自分たちを護ったのだ。こうなってしまえば、後から何を言ったところで流れは変えられない。

 

(……いや、一応手が無いわけではないのか)

 

 全ての事実を包み隠さず公開すれば、場の流れは変えられるかもしれない。そんな事を思い付き、大きく顔を顰めるセイア。

 

(何もかもを台無しにする最低な手じゃないか。……まったく、本当に嫌な事をしてくれる)

 

 やはり、この場の流れは変えられない。

 というより、そもそもある意味では変える必要自体が無いのだ。なにせ、このまま放っておけば一連の事件の黒幕はマクガフィンになるのだから。

 

 本来なら自分たちと一切の関係がない指名手配犯に、一つ罪状が追加される。たったそれだけで、補習授業部にまつわる不祥事の大半に方が付く。

 それを止める理由がどこにあるのだろうか。

 

(……そのまま、全ての罪を持っていくつもりか? 神話に伝わる聖人のように)

 

 まったくもって度し難い。

 それでは、結局のところ何も変わっていないじゃないか。

 

 浮かび上がるムカムカとした感情に、セイアの眉根に寄る皺が深くなる。

 たしかに、自分たちは笑顔でいられるのだろう。なにせ、自分は既にこうして目覚めており、ナギサは正史ほどの悪さをしておらず、ミカもトリニティの裏切り者の烙印を背負わずに済むのだ。

 

 きっと、アズサやアリウス分校に対しても何か手を用意しているのだろう。

 少なくとも、2年以上前から彼は計画を立てているのだ。そのために力を付け、マクガフィンという存在を作り上げ、こうしてトリニティに干渉しているのだ。

 

 きっと、自分たちが苦しまず済むように計画を立てているのだろう。

 

(だが……だが、君はどうするんだ? 私たちの罪を背負って、君はどこに行くんだ?)

 

 しかし、そうしたとして。

 マクガフィンと名乗る彼の青年は、どこに行き着くというのだろうか。

 

 悲劇は持ち去られ、後には喜劇だけが残される。

 ならば、彼に残るものは何だ?

 

(決まっている。決まり切っている。そんなものは明白に過ぎる)

 

 何も良いものなど残りはしない。

 ただどこまでも黒々とした、濁り切った罪業だけが積み上がるだけだ。

 

(ああ。そんな事を許してなるものか)

 

 自分自身のためにも。

 そして、希望を思い出させてくれたあの人のためにも。

 

 このままでは、自分が知っていた未来と大差ないモノにしか行き着かない。

 結局は、誰かが悲劇の犠牲になることになる。

 

 自分から望んでそう行動しているのだとしても、それを認めてやるわけにはいかない。そもそも、自分はそんな結末を叩き壊してやるために動いているのだから。

 

(何か……何か手はないか?)

 

 必死に思考を回し、手立てがないか探すセイア。

 しかし、場の流れはそんな彼女を置いて更に進んで行く。彼の望む方へと。

 

「────ッ!!」

 

 この作戦が始まってからずっと観測し続けている未来に、再び大きくノイズが走った。

 更新された景色には、パテル分派の少女らへと空から降り注ぐ瓦礫の雨が映っている。

 

「ナギサっ、ヒナタっ! あの生徒たちの避難をっ!!」

 

 それを認めると、セイアは即座に指示を出した。

 当たらないように調整はしてあったようだが、あんな攻撃をされればマクガフィンの心証は更に悪くなる。現時点でもかなりマズいというのに、だ。

 

(させてなるものか、そんな事)

 

「ほう……百合園セイア。貴様、視えているな」

 

 と、その指示を出し終えた直後。

 興味深そうなマクガフィンにセイアは話しかけられた。

 

 見上げた視線の先では、何かに引っ張り上げられたかのような放物線を描きながらもその途中で奇妙に勢いを失った瓦礫が、そのままに地面へと落下している。

 おそらく登場時の攻撃も同じようにしていたのだろう。

 

「見えているとは……何を指しているのか主語が曖昧だな」

 

 視界の端でパテルの生徒たちが離れていくのを確認しながら、時間稼ぎの意も込めて言葉を返す。

 現状人手が全く足りていないのだ。最低でもヒナタたちが戻ってくるまでは迂闊に動けない以上、少しでも開戦までの時間を引き延ばさなければ。

 

「分かっているだろうに。にしても、起きていても視えるようになっているとは。何かあったのかい?」

 

 そんな彼女の狙いに気付いているのかいないのか、マクガフィンは変わらずに語りかける。

 しかしながら、ようやく合わせられた視線には明確に警戒の色が滲み出ているとセイアは思った。

 

(なら……まずはそこを突いてみるか)

 

「まあ、色々とあってね。にしても、随分と饒舌じゃないか。そんなに君の識る未来とズレることが怖いかい?」

「…………何を言っているのか、抽象的に過ぎるな」

「なら、先の言葉を返してあげよう。『分かっているだろうに』、とね」

 

 普段通りの態度を────つまりは全てを見通しているかのような超然とした振る舞いを意識するセイアに、仮面の下で苦々し気な表情を作るマクガフィン。

 そのまま数秒ほど視線がぶつかり合うが、やがて一つため息をつくと、黒ずくめの青年は再びその両腕を上へと引き上げた。

 

「まぁ、いい。まあいいさ。何処でそれを知ったのかも、どうやってそれを知ったのかも。問答はもう十分だろう?」

 

 指揮者のようなその動きに従い、再び宙へと瓦礫が舞い上がる。

 

 そして。

 その軌道が頂点に達した辺りで、掲げられた腕が振り下ろされた。

 

「なにせ、これで終わるのだか────ほう?」

 

 役目は終わったと空を覆う瓦礫の雨へ背を向けようとしたマクガフィンであったが、しかしその動きは途中で止められる事となる。

 広範囲に広げた攻撃のうち、誰かしらに当たりそうな軌道の物が全て破壊されたからだ。

 

 元々誰かに当たるようなら動きを逸らさせるつもりではあったが。まさか撃墜されるとは思っていなかったマクガフィンは、その下手人を見て目を見張る。

 

 なぜならば。

 それを為した人物は。

 

「百合園……セイアッ…………」

 

 萌え袖を捲り上げるように固定し、露わになった両手に二挺の拳銃を構えた、この場で最も非力だと思われていたキツネ耳の少女であったからだ。

 

()()は知らないだろう、マクガフィン? ……まだまだ話は終わらせないさ」

 

 夜は深く、より色濃く更け続ける。

 その夜半の騒動と共に。

 

 

 




最後になりましたが、SPEAR-5 さん、赤棚柔らか さん、benitubaki さん、評価付与ありがとうございました!
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