そしてその結果、またアホみたいに伸びてしまって分割投稿することになってしまったんだ……
「えっと……ねぇ、あれ、どういう事?」
人だかりを抜けた先、注目を集めていた対象を見て、頬に朱を注ぎながら黒見セリカが呟く。半ば無意識的に言葉に出ていたそれは、疑問の形をとってこそいるもののどちらかと言えば独り言としての色が強かった。
だからだろうか。傍らに立つ奥空アヤネだけでなく、その他の対策委員会のメンバーからもその疑問に答える声が上がることは無かった。
あるいは、同じ様に頬を染める全員が、同様の疑問に直面していたのかもしれない。
なぜならば、彼女たちの視線の先、人だかりの中央にはスクール水着を身に纏った少女が一人ぽつねんと立っていたのだ。
「い、いや~、もっと伝統と格式を! みたいな感じかと思ってたけど、トリニティって随分進んでるんだね。おじさん、ちょっと若い子にはついてけないや……」
「ちょっと逃げないでよホシノ先輩! 年齢は別に大差ないんだから現実から目を逸らさないでよ! ほら、アヤネちゃんからも何か────って大丈夫!? 顔真っ赤だよ!?」
うまーく自分の一人称を利用して理解できない現実から目を逸らそうとするホシノに、セリカが食いつくようにツッコミを入れる。
そのまま彼女は傍らのアヤネに助けを求めたのだが、しかし耳どころか首元まで真っ赤に染めた少女に助けを出せるだけの余裕は無かったようで。あうあうとうわ言を吐きながら目を回すアヤネは逆にセリカに心配されることになった。
「なんというか……大胆、ですね」
「ん…………」
同じく頬に朱を注ぎ、何とも言えない曖昧な笑みを浮かべるノノミの言葉には、同級生であるシロコがどうにか相槌を返すものの。そちらもそちらで滅多に崩れることのないマイペースが崩されているあたり、相当な衝撃を受けているらしい。
と、そんな一同の方へとスクール水着の少女が視線を向け、近寄り始める。
「え、え? なんで近付いてくんの!?」
「落ち着いて、セリカちゃん。みんな、いざという時は私の後ろに隠れてね」
「ホ、ホシノ先輩……」
ゴクリと唾を飲み込み、身構える少女たち。
臨戦状態とまでは行かずとも、それに準ずる程度には一同に緊張感が満ちる。
と、そんな場に乱入者が現れた。
「や、やっと見つけた! ってハナコ、あんた馬鹿なの!? なんでまたその格好でうろついてんのよ、一回戻ってきたでしょ!? エッチなのはダメなんだからね!? ────て、え? 誰?」
ハナコと呼ばれたスクール水着の少女よりも濃いピンク色の髪をしたその少女は、猫のような目をしながらスク水の少女を問い詰める。
が、そこですぐ近くに見知らぬ生徒の集団を見つけると、急速にその語気は弱まる事となった。人見知りである。
そのまま視線を左右に揺らしながら右往左往する少女。
知らない人の集団を前に心細い気持ちと、今の状態のハナコに体を隠すのは色々とマズいのでは、という理性との間で揺れ動いているのが見て取れるようだ。
「なんだか、猫ちゃんみたいですね」
「ん、たしかに。でも、うちとはちょっと違うみたい」
場に何とも言えない空気が満ちる中、ノノミが呟いた言葉にシロコが短く同意を示す。ちなみにその視線の先には後輩の猫の耳が映っていた。
と、そんな一同の下へ新たなる乱入者たちが現れる。
「はぁ、はぁ……みんな、待ってくださいー!」
「ヒフミ、落ち着いて。ハナコもコハルも目の前にまで来てる」
「あー、ただ、ちょっと手遅れだったみたい?」
対策委員会の面々と知り合いである阿慈谷ヒフミと、彼女へ寄り添うように走る白髪の少女。それに、困ったように笑みを浮かべる先生である。
「先生……と、ヒフミちゃん? えっと、どういう状況?」
「あはは……お久しぶりです。その、これは…………」
「うーん、どう説明しようかな……とりあえず私たちはホシノたちを迎えに来たんだけど…………あ、この子はアズサ。で、あっちにいるのがハナコとコハル。ヒフミは知ってるよね? この4人が補習授業部で────」
「も、もう補習授業部は卒業したわよ!」
一先ず自己紹介を行なうべきかと補習授業部(元)の4人を紹介する先生と、初対面の人に補習を受けていたと暴露され噛みつくコハル。
それをハナコがスク水姿で宥め、余計にコハルが大きな反応を返し、それにアズサが天然を発揮し、その光景を苦笑しながらヒフミが眺める。初見の対策委員会でも普段の姿が見えるほどには、和やかな景色であった。
その後に今度は補習授業部へと対策委員会の面々を先生が紹介し、先のぎこちない空気が払拭されたかと思われたその時。
爆弾が投下された。
「先生は、ああいう格好の方が好みなの?」
砂狼シロコである。
内心の疑問を素直に吐き出した少女は、一様に固まった周囲を眺めてコテンと可愛らしく首を傾げた。みんなどうしてしまったのだろう、と。
そのまま奇妙な沈黙が続くこと数秒、いよいよ爆弾が爆発した。
「先生、そうなのか?」
「違うからねアズサ!? シロコも! 私の名誉のためにも断言しておくけど、決して私にそんな趣味は無いからね!?」
「あら……合宿中は何度も深夜の逢瀬を重ねたのに、悲しいです」
「ハナコ!?!?」
「先生……それ、本当?」
「だ、大胆ですね……」
「待って! ホシノもノノミも待って!? 若干後ずさらないで!?」
「あ、あんた達何言ってるの!? せ、先生にそんな趣味なんて……趣味、なんて…………と、とにかくエッチなのはダメ! 死刑!!」
「シロコ先輩何言ってるの!? ほら、コハルちゃんも同じように言って────って死刑!? さすがに極端すぎない!?」
「あ、あうぅ……」
「あはは……」
その後もツッコミ疲れたセリカとコハルがくたびれた目で互いの境遇を理解しあったり、どちらかと言えば寡黙なシロコとアズサが妙なシンパシーを感じ合ったり、赤面しっぱなしのアヤネをハナコが嬉々としてからかったりと、賑やかに少女たちはトリニティ校舎へと向かうのだった。
ちなみに先生はこの移動だけでどっと疲れが溜まった感覚がしたらしいが……まあそれは余談だろう。
────────
場所は移り、会議が始まるまでの待機室として外部協力者のために用意された応接間。
先んじてトリニティ入りしていたミレニアム組とそこに合流した対策委員会の面々、それに補習授業部の4人が揃った室内は、旧交を温める会話や新たな縁を深める会話で中々に姦しい事となっていた。
と、そんな部屋の扉を開け、一人の少女が室内へと足を踏み入れる。
大きなキツネの耳が特徴的なその少女は、すぐさま目当ての人物を見つけると真っ直ぐに接近。そのまま可愛らしい声で話しかけた。
「小鳥遊ホシノ……で、合ってるかい? いくつか話したいことがあるんだが」
「おじさんに? えっと、君は────」
「セイア。百合園セイアだ」
その名に聞き覚えがあったホシノは大きく目を見開く。先生と連名で協力要請を送ってきていたトリニティの現生徒会長の名であったからだ。
「それは内密な話ってこと?」
「内密、とまでは行かないかもしれないが、あまり大っぴらに話す内容でもない。おそらく、君にとっても」
「……そっか」
セイアの様子から部屋の外で話したさそうな様子を読み取ると、二人は連れ立って戸口へと歩を進める。
「で、話したいことって?」
そうして出た廊下にて、先に口火を切ったのはホシノの方であった。
昔より人を疑う癖は随分マシになった……というか殆ど改善されているが、しかしその警戒心自体が無くなったわけではない。少しばかり固くなった声が、その内心を告げていた。
対するセイアは一つ深呼吸をすると、どこか緊張した面持ちで「まあまずはこれだろう」と口を開いた。
「一つ、君に
「言伝……?」
『良い……立派な先輩になったね。私はまだしばらく戻れなさそうだけど、後輩と一緒に頑張ってね! 応援してるよ、ホシノちゃん!』
「────え?」
以上だ、と締めるセイアの声も聞こえずに、伝えられた言葉が反芻される。
それぐらいにその言葉は────それを告げられる人物がそう言っていたという事実が、彼女にとっては衝撃的だったのだ。
「いったい────どう、やって。ううん、なんで?」
喉を震わせる嗚咽もそのままに、内心の疑問がポロポロと零れる。
既に視界は滲んでぐちゃぐちゃで、心の中では色んな感情が暴れまわっていた。それでも疑問を口にできたのは、彼女が成長したからなのか、はたまた自制心が消え去るほどにその人が大切だからなのか。
どれかであるのかもしれないし、全部なのかもしれない。
少なくとも、きっとその内心を正確に表現できる者はどこにもいないのだろう。
けれども、その方向性がそう悪くないものなのだということだけは確かだった。
「詳しい理屈は分かっていない。ただ、私は閉じこもっていた夢の中で彼女に────梔子ユメに出会い、そして救われたんだ。この伝言は最後に別れる時に頼まれた」
「……そっか」
「信じられないかもしれないが────」
「ううん、信じるよ。私の心が本物だって……その言葉はユメ先輩の言葉だって叫んでるの。だから、信じるよ」
「そう、か」
「にしても、ほんと変わらないんだから、ユメ先輩。自分だって大変な状態なのに、人に手を差し伸べて救けて……ああ、もう。うへへ」
流れる涙もそのままに、しかしどこまでも嬉しそうに笑う少女。
花が綻ぶようなその笑顔を前に、セイアは彼女の動揺が収まるのを静かに待つのであった。
「ごめんね、セイアちゃん。それと、ありがとう」
「礼には及ばないさ。私だってあの人に救われた恩を返しただけなんだから」
「それで……たしか話したいことは“いくつか”って言ってたよね。まだ、何かあるの?」
数分ほど時計の針が進み、再びホシノが口火を切る。
しかしながら、その声音からは疑心が大きく薄れていた。彼女にとって、セイアは既にある種の恩人という位置付けになっていたのだ。
そこには、ユメについて語るセイアの様子に隠し切れない親愛の色が表れていたことも多分に影響していた。
何はともあれ、質問を向けられれば話は進み、議題は次の物へと移る。
すなわち────
「マクガフィンについて……?」
「ああ。たしか、君は先生と共に彼が単なる敵対者ではない……というか、味方の可能性があると仮説を立てていたと聞いているんだが。相違ないかい?」
「あー……たしかにこのトリニティの状況だと信じられないかもしれないけど────」
「いや、そうではなくてね。むしろトリニティ内、というか各派閥のトップ層でも似たような結論が出ている」
てっきり自分と先生との間にあった疑念に対して質問されるのかと思えばそうではなく。むしろその真逆のような事を言われたために、では何を話すのかと首を傾げるホシノ。
そんな彼女に告げられたのは、セイアとミカが聞いた彼の叫びであった。
「そんな事を、あの人が……?」
「信じ難いかもしれないが」
遭遇した機会は片手で数えられる程度とはいえ、その中でマクガフィンが感情を露わに叫ぶというのは一度として無かった。たまに口調がブレる事こそあったものの、基本的に彼は慇懃無礼な振る舞いを徹底していたからだ。
しかしながら、その内容にいくつか思い当たる点があることもまた事実である。
「それで、いくつか質問をしたいんだが……まず、この言葉に心当たりは?」
「思い上がりじゃなければ、“あの子の目の前であの人を奪った”って言うのは私とユメ先輩のことだと思う。でも……」
「悲劇や物語といった言葉については、私に心当たりがある。これは後の会議でも話すつもりだが、どうやら彼は未来を物語のような形で識っているらしいんだ」
「未来を……」
荒唐無稽な話であるが、同時にこれまでの彼との邂逅を思い起こせばある種の得心も付く。彼が姿を現すのは、それぐらいにはいつも良いタイミングばかりであったのだ。
「なら、マクガフィンはユメ先輩に何かが起こる未来を……?」
「じゃないかと私は睨んでる。そして、その過程で何かの事故が起きた」
「そういえば……たしか、黒服────ゲマトリアって組織の大人が、あの事件には『デカグラマトン第3の預言者』が関わってるって言ってた」
事故という言葉に、かつて黒服が語っていた話を思い出すホシノ。
信用できない人物の言葉であり、無警戒に受け入れるワケにはいかないが。もしかすれば、あれは真実であったのかもしれない。
「デカグラマトン……」
「何か知ってるの?」
「いや、全く聞き覚えの無い名前だ。トリニティの歴史書なんかには詳しい自信があったんだが……」
「そっか。先生も分からないって言ってたし……」
たしかな進展を見せながらも、しかし核心にまでは踏み込めない。
何度目になるかも分からないソレに歯噛みしながらも、ホシノは一つ息を吐くと進展があったという事実を喜ぶことにした。
(ちょっとずつではあるけど、真相には近付けている。きっといつかは────)
「ひとまず、話しておきたかった内容はこんなものかな。時間を取らせてすまなかったね」
「ううん、全然。むしろありがとう」
立ち去るセイアの背を見送りながら、ホシノは待機室へと戻るのだった。
「あれ? ホシノ先輩、どこかに行ってたんですか?」
「ちょ~っとお散歩にね、ノノミちゃん。でも、いい感じのお昼寝スポットは無かったや」
「ブレないですね……でも、何か良いことがあったんじゃないですか?」
「え?」
「だって、ちょっと嬉しそうですよ?」
「……うへへ、敵わないなぁ。実は、ちょっと信じられない話かもしれないけどね────」
────────
「さて。時間が来たことだし、参加者も揃っている。会議を始めさせてもらおうか」
時は流れ、ついに会議が始まる。
トリニティ総合学園の大きな校舎の中、最大の広さを誇るその会議室には錚々たる顔ぶれが揃っていた。
「司会進行についてはトリニティ総合学園よりティーパーティー現ホストである私、百合園セイアが務めさせていただく。改めて、よろしく頼む」
そう切り出すと礼をするキツネ耳の少女。
やはり緊張しているのだろうか、その口調は普段よりも一層固くなっているようにも思える。
「続けて、簡単にではあるが参加者の紹介をさせてもらう。同じくティーパーティーの桐藤ナギサ、そして聖園ミカだ」
セイアの紹介に応え、席を立ち礼をするナギサとミカ。
共に真剣な表情で行われた一連の所作は、トリニティという巨大な学園を率いる指導者としての気品に溢れていた。
さらに続けて、正義実現委員会より出席している剣先ツルギ、救護騎士団より出席している蒼森ミネ、シスターフッドより出席している歌住サクラコ、補習授業部より出席している浦和ハナコと白洲アズサの名が呼ばれ、それぞれに一礼をする。
「そして。外部協力者として、連邦捜査部『シャーレ』より来ていただいている先生と、その先生の推薦で協力をお願いした方々……」
トリニティ内の生徒の紹介が終われば、次は外部人員の紹介に移る。
先生を始めとし、リオやヒマリ、対策委員会の面々の名が呼び上げられた。
「最後に────ゲヘナ学園の羽沼マコト議長と空崎ヒナ風紀委員長だ」
『通信越しという形ではあるが、よろしく頼もう』
『この会議が実りのある物になるよう、協力させてもらうわ』
そして最後に、ディスプレイ越しにマコトとヒナの名が呼ばれ、参加者の紹介が終わる。
総勢18名、ほぼ全員が何かしらの役職に就いている、まさしく錚々たる顔ぶれであった。
「それでは────改めてアリウス分校およびマクガフィンへの対策会議……仮称『調印式防衛会議』を始めさせてもらう」
ティーカップの底が何度か顔を覗かせた頃、ようやくセイアからの現状説明────主にアリウス分校に関わる部分に比重を置かれていた────が終わる。
「以上が、これまでの話だ。何か質問などがあれば、遠慮なく聞いてほしい」
アリウス分校の成立といった背景知識も補足しながらだったからだろうか、少しばかり長くなった説明に疲れを覗かせながらセイアが締めると、さっそくとばかりに手が挙がった。
調月リオである。
「質問というか、確認に近しいものなのだけれど。私たち外部協力者の役割はマクガフィンへの対応、だけなのよね」
「ああ。要請自体もその内容で送らさせてもらっているからね……もしかして、力を貸そうと思っていただけたのかい?」
「彼を相手にするのがメインだから、多少知恵を貸す程度になるかもしれないけれどね」
「気持ちはありがたいが、これはトリニティの内輪の話だからね。事前準備で少し、とかならともかく……どうしようもならなくなったりしない限り、できれば私たちだけで済ませたい案件なんだ。さっきの説明に関しては────」
「不測の事態に陥った時にも、一貫した対応をアリウス分校に取れるようにするため……だよね?」
「その通りだ、小鳥遊ホシノ。だから、さっきの話はどちらかと言えば情報共有としての側面が強かったものだね」
リオやホシノだけでなく、ヒナやマコト、トリニティのメンバーからも声が飛び交いつつ、質疑応答は一旦の終わりにまで進む。
「さて、ひとまず質問は出尽くしたかな? よし、それじゃあ次の議題ということで────先生、小鳥遊ホシノ、それに調月リオの三名から話を聞かせてもらう事になっている。頼めるかい?」
「ええ。ここからはマクガフィンについてという事で、私の方でいくつか資料を作らさせていただきました」
続けてもう一つの対策対象であるマクガフィンにへと議題が移ると、今度はリオが話を始める。
エデン条約はトリニティ総合学園とゲヘナ学園の間の話であるというのに彼女が進行を務めることになったのは、偏にその実績からであった。
つまり、ミレニアム・ゲヘナと複数回マクガフィンと相対しており、更に情報をまとめるのも得意ということで白羽の矢が立ったのだ。
「まず、これが私が調べられる限りで明らかになったマクガフィンの経歴となっております。ここで注目すべきは────」
会議は踊らず、着実に歩みを見せる。
はたして進む先に至るのは、彼女らの目指すハッピーエンドか、はたまた。
今はまだ、誰にも分からない。
最後になりましたが、虚無の異停 さん、英鈍 さん、くろゆみ さん、八雲 彩香 さん、光の狂信者ペニーワイズ@シングレ買った さん、石炭 さん、評価付与ありがとうございました!