【本編完結】黒く濁った罪を背負って   作:RH−

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 9評価250人突破感謝です。
 あ、それと。お待たせしました(ヒント:タグ)
 あとあと、今話ちょっと短くなったかもしれません。でもキリが良かったのでね。


盤面は動き

《通功の古聖堂地下・カタコンベ》

 

 黒々とした影が、駆ける。

 不定期に設置された電灯だけが足元を頼りなく照らす、そんな迷路のような道を。真っ黒な影が駆ける。

 

「……」

 

 青年は黙したまま、何も語らずに歩を進める。

 過剰に吸収した神秘を探知に放ち、アリウス分校生徒の痕跡を辿りながら。

 

 果たして、彼の向かう先には何が待ち受けるのか。

 彼は何を目的として、行動を起こしたのか。

 

 きっと、それらは最早関係ないことなのだろう。

 

「着いたか」

 

 静かな表情で顔を上げる青年。

 その先には、荒廃しながらも辛うじて街と分かるような自治区が広がっていた。

 

 

────────

 

《通功の古聖堂地上部・正面広場》

 

「ミネ……後どれぐらい行けるかい?」

「まだまだ。ここが正念場なんです、まだしばらくはお供させていただきますよ」

 

 ひっきりなしにトリニティ・ゲヘナ生へと襲い来るユスティナ聖徒会。

 それらを未来予知によってセイアが顕現直後に撃破(リスキル)し、その手が足りない分をミネが抑え込む事で、トリニティ側の主戦場となっている正面広場は均衡を保っていた。

 

 しかしながら、それを為す二人の表情は浮かないものであった。

 

(本拠に近い分、補給なんかを心配する必要はない。ただ……このまま長引くといつかは崩れるな)

 

 一度立て直されてしまえば、無尽蔵の兵力を有するアリウス分校はこれ以上ないほど厄介な敵となる。

 出鼻こそマクガフィンが派手に動いたおかげで挫けていたようだが……

 

(戦闘開始から既に30分。混乱を鎮めるには十分すぎる時間だ)

 

 事実、ユスティナ聖徒会達に紛れて現れ始めたアリウス分校生徒らに動きの乱れは見えなかった。

 現状は少数であるため抑え込めているが、動員されている生徒がこれだけなワケがない。その全員が問題なく動けるようになってしまえばどうなるか────正直な話、あまり考えたい事ではなかった。

 

(どうにも謎の強化が施されているようだし……ツルギとミカが欠けている状況だと、中々決定打に欠けるな)

 

 トリニティ総合学園の最高戦力として『歩く戦略兵器』などと揶揄されることもあるツルギだが、主戦場となっている正面広場に彼女の姿は無かった。

 

 というのも、現在の彼女はマクガフィンの結界によって避難できなくなった一般生徒を最低限安全の確保できたエリアにまで誘導するために、古聖堂周辺を動き回っているのだ。そのついでに遊撃まで熟してもらっている以上、彼女に『思ったより主戦場が厳しくなったので戻ってきてください』などと口が裂けても言えるワケが無い。

 どちらかと言えば最前線で戦う(暴れる)方が性に合っているであろう彼女を“この場にいる生徒で最も足が疾い”という理由で動かした以上、最低限戻って来るまでの時間は稼がなければ。

 

 そして、そのツルギに匹敵する戦力としてセイアと暴れていたミカもまた、しばらく前に別の戦場に向かってもらったばかりである。

 本人の意向が大きかったとはいえ、送り出した直後にやっぱり戻って来てくれなどと言うのは難しい。

 

(現状、そこまでは切羽詰まっていないからね。それに、あっちもあっちでかなり重要だ。ミカレベルの大駒を向かわせる価値は十分ある)

 

 また、更に状況を厄介にしているのがマクガフィンの展開した結界であった。

 先にも述べたようにコレのせいで生徒の避難が思うように行っていないのだが、その上で外部からの追加戦力の投入までもが不可能になっているというのが現状なのだ。

 

 つまり、トリニティ総合学園、そしてゲヘナ学園というキヴォトスでも最大規模の学園の強みであるマンパワーが、結界で潰されてしまっているのだ。

 謎の強化で手強くなっているアリウス分校生徒と不死身の軍勢であるユスティナ聖徒会を相手にするには、いかに強い生徒が揃っていようと厳しい部分が出てくる。

 

(とはいえ……そのお陰で巡航ミサイルを全く気にせずにいられている以上、その辺りはトレードオフとしか言いようが無いんだがね)

 

 再び上空で咲いた爆炎に顔を照らされながら、セイアは愚痴めいた思考を切り上げる。

 

 ともかく、そんなワケでトリニティ側の主戦場となっている正面広場における最大戦力はセイアになっているのである。

 しかしながら、これ自体はそうおかしな事ではない。

 

 しばらく前ならいざ知らず。現在のセイアはリアルタイムで未来を予知して最速で先の先を取り続ける、そんな紛う事なき強者なのだ。

 加えてミカやツルギ、それにホシノというキヴォトスでも最高峰に位置する生徒たちと模擬戦を繰り返し、かつてはサブウェポンとして拳銃を扱っていたホシノから色々と教わった今のセイアは、それこそトリニティ以外の学園でなら『最強』を名乗れる位には強くなっている。

 

 故に、彼女が居れば戦線が大きく崩れる事は無いという考えは間違っていない。

 

 では、なぜセイアとミネの表情は浮かない物になっているのか。

 その理由こそが────

 

「セイアさんっ! 四時の方向から来ました!!」

「こっちでも視えてる! 周りのカバーは任せたよ、ミネ!!」

 

 ユスティナ聖徒会に紛れて現れ始めた異形、アンブロジウスであった。

 

 

 

 見上げるほどの中性的な長身を黒々とした修道服で覆われた人型。しかし本来顔があるべき場所にあるのは深淵のような黒い穴であり、その指先もまた凶悪な爪に彩られている。

 その背には幾何学的な光背が青白く浮かんでおり、禍々しい見た目ながらその姿からはどこか神秘性を感じさせた。

 もしかすれば、それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のお陰なのかもしれないが。

 

「よっと」

 

 そんなアンブロジウスが向けた右手の先、自身の周囲に漂い始めた青白いエネルギーの渦をギリギリまで引き付けて躱しながら、セイアは最低限動きの邪魔になるユスティナ聖徒会を処理する。

 二丁拳銃の手数の多さを存分に発揮しながら立ち回るキツネ耳の少女に対し、黒々とした聖人は今度は機械的な動きで左腕を掲げた。

 

 その動きに従い炎のように揺らめく神秘が左手の先に纏わりつき、大振りな動きと共に5つに分かれて放射。着弾地点が派手に爆ぜ、数秒間滞留する青白い豪炎が周囲を煌々と照らす。

 

「一々派手でっ────羨ましい限りだな!!」

 

 先んじてその攻撃を視ていたセイアはその間をひらりと舞うように躱し、一気に距離を詰めて反撃を行おうとする────

 

「っ!」

 

 が、それより先にアンブロジウスの両手が祈るように組み交わされた。

 咄嗟に防御姿勢を取ったセイアへと容赦なく衝撃波が襲い掛かり、華奢な身体を吹き飛ばす。

 

 しかし、全方位に及んだその衝撃波の真価はノックバックには無い。

 大した威力のないソレは、しかしその淵源となった神秘の力を色濃く発現していたのだ。

 

 即ち、死者が蘇るという奇跡の力を。

 

「ああもう、鬱陶しいな!」

 

 忌々し気に文句を漏らすセイアの周囲を、一度消したはずのユスティナ聖徒会が取り囲む。

 

 再顕現したのではない。

 セイアに撃ち抜かれてその像を溶かしながらも残されていた神秘の残滓が、アンブロジウスの放った衝撃波によって再生したのだ。

 

 平たく言ってしまえば、全体蘇生技である。

 

 元々不死の軍勢としての物量があったユスティナ聖徒会に、タイムロスの無い即時復活まで付いてしまった。それが意味するものは、その字面よりも遥かに重たい。

 つまるところは、友軍の士気に対する影響である。

 

 元々最悪の場合は先の見えない戦闘になるとは知らされていたが、言葉として聞くのといざ目の当たりにするのとでは深刻さが異なる。

 その上で予期せぬ存在による全体蘇生技だ。このままアンブロジウスに好きにさせてしまえば、下手すれば戦線が崩壊しかねない。

 

 

 そんなわけで、セイアは周囲のユスティナ聖徒会を放置してでも先にアンブロジウスを叩こうとするのだが。

 その動きを読んでいたかのように黒々とした“複製”は右手を少女へと向け、彼女をロックオンした単体攻撃を行う。

 

「チィッ!」

 

 とはいえ相手は『預言の大天使』とまで呼ばれた少女である。

 アリウス生徒と同じく視え辛いとはいえ予知にその姿は映っているし、そもそも既に何体かのアンブロジウスを彼女は屠った後なのだ。予備動作から攻撃を読む程度、造作もない。

 

 しかし鬱陶しい事に変わりはなく、更には回避した先にユスティナ聖徒会が殺到してくるとなれば舌打ちもしたくなってくるというもの。

 

 今も、左右から挟むように跳びかかってきたユスティナ聖徒会を交差させた両腕に握った拳銃で撃ち抜きながら、少女はその端正な顔を歪める。防戦一方、とまでは行かなくとも、着実に時間を稼がれてしまっているからだ。

 そして、それこそがセイアが今懸念している事であった。

 

(処理の遅れはマズい……向こう(アリウス)の物量が無限である以上、どれだけ友軍の消耗を抑えられるかが戦況を左右するというのに…………っ!)

 

 端的に換言してしまえば、彼女には派手さが不足しているのだ。

 

 そもそも、ツルギやミカに並ぶ強者となった彼女であったが、その強さは対人戦に大きく振り切っている。

 徹底的に先の先を取る事で相手へ何もさせずに勝ち切るという戦闘スタイルもそうだが、何よりも二人と異なり分かりやすい火力というのをセイアは有していないのだ。

 

 得物が得物(拳銃)であるため仕方のない部分もあるが、やはりその差異は大きい。

 こういったいわゆる『化物殺し』を為すには決定打に欠けるため、時間をかけて少しずつ削るしか彼女には方法がないのである。

 

(とは言っても予知のアドバンテージを活かすなら手数は欲しいし、私の身体じゃ拳銃以上の武器を両手持ちするのは現実的じゃない。ああもう、ついでに身長も欲しかったぞ、ユメ!)

 

 内心で愚痴を溢しながらも周囲を固めた計6体のユスティナ聖徒会をヘッドショットで処理し、ノータイムでアンブロジウスの方へと駆け出す少女。

 周囲の確認などを行わない無拍子に近しい動きである。

 

 とはいえそれは閉ざした左目に映る予知の光景を基にした行動であり、決して迂闊さの発露ではない。事実、未だ数多く残るユスティナ聖徒会はその動きに反応が遅れていた。

 

 時に瓦礫を足場に宙を跳び、時にスライディングするように地を滑り、そのままアンブロジウスへと小柄な影が疾駆する。

 しかし、そんな彼女の前に割り込むように複数のユスティナ聖徒会が現れる。銃撃が躱されるのならば体で止めようという判断であった。

 

 だが少女は止まらない。

 駆ける速度を落としさえしない。

 

 敵が複数であるように、彼女もまた一人で戦っているワケではないからだ。

 

「参りっ────ます!!」

「完璧だよ、ミネ」

 

 空から降り注ぐようにミネが着地し、セイアの前に立ち塞がっていたユスティナ聖徒会を引き寄せる。

 僅かにできあがった空白へ身を滑り込ませるように進みながら、キツネ耳の少女は行き掛けの駄賃とばかりに2・3体ほどの修道女の影を銃撃。層の薄くなったユスティナ聖徒会を更にミネが撃破する。

 

 すると、再びアンブロジウスが両の手を祈るように組み交わした。このままでは足止めにならないと判断したのだろう。

 しかし────

 

「悪いね。それはもう視えてるんだ」

 

 瓦礫と近くのユスティナ聖徒会を利用し、三段跳びの要領で宙に跳ぶ少女。

 その足先を掠めるように、しかし決して直撃しない位置を衝撃波が通過する。

 

 ならば、とアンブロジウスは今度は左腕を掲げ、神秘の炎熱を放とうとするも。

 

「遅い。もう少し早く動きたまえ」

「──、──っ!?」

 

 左手を持ち上げた瞬間に銃弾が直撃。

 声にならない声で驚愕を示しながら、聖人の複製は弾かれた左手を見る。

 

「戦闘中によそ見とは……頂けないなっ!」

 

 声と共に、着地した少女が弾かれたように駆け出し、アンブロジウスへと大きく接近する。

 

 最初にあった20メートルほどの距離は見る影も無くなり、最早手を伸ばせば届いてしまうのではという間合い。

 そしてそれは、彼女のテリトリーであった。

 

 

 まずは手近なところにある右腕を、左右の拳銃で一発ずつ速射。

 続けて一歩分後退し、振り下ろされる左腕を回避。

 さらにそれを足場にすることで大きく跳躍。アンブロジウスの頭上を飛び越える。

 

「フッ────」

 

 入り過ぎた力を吐く息と共に抜き、流れるように連射。

 一切過たず命中した計6発の銃弾が、アンブロジウスの背後に浮かぶ十字架を破壊した。

 これに激昂した黒い影は周囲に見境なく神秘を放ち、下手人へ裁きを下そうとするも────

 

「よっ、ほっ、と」

 

 悠々とリロードを挟みながら舞う少女を捉える事はできず、それどころか距離を引き離す事さえ叶わない。

 そうこうしている内に、セイアのリロードが完了する。

 

 それは即ち、彼女の攻勢が再び始まるという事であった。

 

 やたらめったらに撃ち放たれる青白い爆炎を小刻みなステップで回避し、再度接近。

 そのまま牽制射として放った二発分の銃弾でアンブロジウスの動きを止める。

 

 即座に再起動した聖人の複製が右手を差し向けるが、少女の周囲に神秘が集まるよりも彼女の銃撃の方が遥かに早い。

 少し前の焼き増しのように、今度は右手が弾かれる。

 

 そして……そうなってしまえば、後は早い。

 左右の引き金がそれぞれ4度引かれ、合計8発の弾丸がその胸部に吸い込まれる。

 

 最後に、首を垂れるように力なく沈んだ頭部へと照準が合わせられ────

 

「チェックメイトだ」

 

 呟きと同時に放たれた一撃が、その命脈を断ち切る。

 どこまでも鮮やかな戦闘であった。

 

 

「……ふぅ」

 

 額を伝う一滴の汗を拭いながら、小さな口から安堵の息が漏れる。

 完封できる相手ではあるが、それが警戒に値しないという訳ではない。むしろツルギやミカのように分かりやすい火力を持たない分、完封できなければ押し切られる可能性が高いのだ。

 

 それ故の、安堵であった。

 

(これまでの傾向からして、アンブロジウスの復活までは10分ほどのインターバルがあるはず。その間でどれだけ戦線を押し返せるかの勝負だな……)

 

 しかし、戦場において『気の緩み』とはある意味最大の難敵であり、そして事態の悪化を引き起こす呼び水でもある。

 

「ぐっ……!」

 

 噛み殺されてくぐもった悲鳴と、何かが大きく吹き飛ばされるような轟音。

 振り向けば、そこには蒼い髪をした少女の姿が。

 

「ミネっ!?」

「大丈夫、ですッ!! それより敵を!」

 

 切羽詰まった返事と殆ど同時に、眩い光が周囲を照らす。

 果たして、その中心に立っていたのは。

 

「聖女バルバラ……の、複製か?」

 

 ユスティナ聖徒会と同デザインのガスマスクを付けた、修道女。

 しかしながらその装束は通常のユスティナ聖徒会とは異なり、ボディラインのくっきりと浮き出た拘束具じみたラバースーツであり、更には両の手に握られた得物もまた異なる。

 

 しかし何よりも異様なのは、その全身に白く罅が入っている事であった。

 否。

 

(罅が……進行している?)

 

 現在進行形で、全身に走る白い線が広がっているのだ。

 まるで、その内に在るものが────本質が、外に出ようとしているかのように。

 

 蝶が蛹から羽化するかのように、雛が殻を破り産声を上げようとしてるかのように。

 

「ッ!!」

 

 そこまで思考が行き付き、咄嗟に両手の拳銃を向けるセイア。

 しかし、それは少し遅すぎた。

 

「────■■■■」

 

 何か理解できない……理解してはならない言葉を呟かれ、バルバラの複製から網膜を焼くかのような光が放たれる。

 

 数秒の後、やがて光が薄れた頃に、立っていたのは────

 

「おいおい、冗談じゃないぞ…………」

 

 ユスティナ聖徒会とも、現在のシスターフッドとも異なる、純白の生地へ金糸の意匠を施された法衣を纏った……一人の修道女。

 両の手に握られていたはずの銃火器は見当たらず、しかしその周囲を守護するかのように巡る二つの光球が膨大なエネルギーを放つ。

 その顔を覆っていたはずの無骨なガスマスクは砕け散り、前髪に隠されながらも神聖さを湛えた美しい素顔が露わになっていた。

 

 ゾッとするほどの神性がかえって無機質ささえ感じさせるままに、バルバラが閉ざしていた瞳を開く。

 

「────────」

 

 不完全ながらも聖者のテクストを持ち合わせた青年の神秘を素体に用いられた事で、圧倒的なまでにその完成度を高めた“複製(ミメシス)”。

 完全なる『聖女』────バルバラ。

 

「ハ、ハハハ……」

 

 ツルギから避難完了の通信が入るのも耳に入らぬままに、乾いた笑い声を漏らすセイアは暴力的な神性と向き合うのだった。

 

 

 




最後になりましたが、虚無の異停 さん、あるぬん さん、Ygd さん、夜霧 さん、tukiyoru さん、サッカーミア さん、評価付与ありがとうございました!
前書きで9評価250人の感謝をしましたが、まだまだ評価お待ちしてます! ください!!(直球の乞食)
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