さて、改めまして。対策委員会編、スタートです。
と言っても対策委員会編ではそんなに原作ブレイクは発生しないんですけども。また、原作通りの部分は結構描写を省く予定です。ではどうぞ~m(_ _)m
作者注:本世界線でのホシノは暁のホルス成分が増量してます。解釈違いが発生するかも……?
始まりの日
チュンチュンと小鳥が囀り、ぽかぽかと柔らかく陽が照らす麗らかな朝。道路の隅の方にちらほらときめ細かな砂が溜まっていること以外はどこにでもあるような住宅街にて。
スーツに白を基調とした外套を羽織った一人の人間が倒れていた。
いや、おそらくという前置詞を付けるべきであったか。もしかしたら、スーツ姿で路上に横になって日向ぼっこと洒落込むのが趣味な奇特な人間である可能性も一厘程度はあるかもしれないのだから。
……まあ今回は倒れている方で間違いないのだが。むしろ後者だった場合は存在自体が間違いな類の
ともかく。まだまだ人の動きがピークに達するには早い時間────それこそ、学生が通学し始めるような頃に人が倒れているのだ。異常な事態……というか完全な事案である。
そんな情景を、通報するでも駆け寄って意識の有無を確認するでもなく、妙な既視感と共に眺める人影が一つ。
…………そういえば俺も、一番最初は脱水で倒れたんだったな。
スーツ姿の誰かが倒れている地点からしばらく離れたビルの屋上。明らかに足場に向いていない給水タンクの上に立って、懐かしい記憶を思い出しながら彼は遠目に現場を観察していた。
そう、マクガフィンである。
「んで、柴さんに助けてもらった」
お世話になった恩人の名を呟くと、胸がズキンと痛んだ。
2年前のあの日、何も語らずに「ごめんなさい」とだけ言って出て行った恩知らずの事をあの人はどう思っているだろうか。あれから怪我や病気をせずに過ごされているだろうか。
そんな考えが頭をよぎり、吐き気に襲われる。
逃げ出した屑が何を善人めいたことを考えようとしている。オマエにその資格が残っているわけがないだろう。
衝動に任せて首を掻きむしるが、やはり何の痛みも感じない。
「あぁ、気持ち悪い」
そんなことを考えていると。件のスーツ姿の誰かは通りすがったらしいロードバイクに乗った生徒に背負われ、どこかへ連れていかれるようだ。
顔部分に下手く…………ゲフンゲフン、可愛らしい画風のニコニコ笑顔が描かれた紙を貼り付け、その下にも似たような笑顔を浮かべた誰かは。
ああ、にしても因果なものだ。
俺がマクガフィンになった、丁度その2年後の今日に先生がアビドスに来たのだから。
「…………始まった、か」
その呟きが聞こえたわけでは無いだろうが、先生を背負った少女────砂狼シロコが不意にこちらへと振り返る。
少女の視線の先には、くたびれた外観のビルの屋上と給水タンクがあるだけの、唯ひたすらに寒々しい光景が広がるのみであった。
────────
「……どうかしたの? えっと、シロコ……だよね?」
「ん、なんでもない。気のせいだったみたい」
そう答えるとシロコは再び歩き始めた。
何だろうと思って視線の先を見てみるも、ありふれた風景があるばかり。
気にならないと言えば嘘になるが、本人が気のせいと言った以上詮索するのは憚られた。
そもそも今の自分は救けを求められたアビドスを援助しに行くどころか、その道中で遭難した挙句件のアビドス高校の生徒に助けられている身。そんな状態で図々しく振る舞うなどできるだろうか。いや、できない(反語)。
…………というか改めて考えると、現時点でも生徒に負ぶさってもらっているのだから十分図々しかった。冷静になればなるほど、「大人としてコレはどうなのだろうか」と恥ずかしくなってくる。
が、もう歩けないほど疲弊しているのも事実。
だからこうして運んでもらっているのも仕方のない事なんだ、と必死の自己弁護も虚しく、脳内に呆れたようなアロナの声が響き渡る。
『先生、普通に体力が回復するまで少し待ってもらえば良かったんじゃないですか?』
…………。
普通にそうだった。
あの時の自分は何を考えていたのだろう。生徒が飲んでいたエナジードリンクに直接口を付けて飲み、さらには「汗をかいているから」と恥じらう少女に「むしろいい匂いがする」などと返し…………普通にセクハラだな、うん。
その上、今の状態は端的に言えば「女子高生に無理矢理負ぶさる成人男性」というもの。
完全に事案ですありがとうございました。
事実、アビドス高校の校舎に近付くにつれてポツポツと現れ始めた住民たちは一様に怪訝な眼を向け、そのうち何人かはヴァルキューレへ通報するためかスマホを構えていた。
その様子に対し、シロコはと言えば「みんなどうしたんだろう……普段は挨拶してくれるのに」と呟く程度で、何も気付いていないようだ。
「…………そろそろ体力も戻ったし、私も自分で歩くよ。ありがとう、シロコ」
このままでは流石にシャレにならないと、なるべく平静を装ってシロコに話しかける。
「別にもうすぐ着くから大丈夫。遠慮しないでいい」
しかし残念。素の先生への親密度が高く、さらにこの状態に慣れ始めたシロコにはそんな遠回しな言葉は伝わらない。
……まぁもしかしたら伝わった上で気付いていないフリをされている可能性もあるのだが。
「いやいやいやいや遠慮じゃなくて、その……そう! 流石に“大人”としてこの状態はどうかって思ってね」
「ん……分かった。でも、無理はしないでね?」
「うん! ありがとう!」
『先生……なにやってるんですか…………』
マクガフィンが離れた後にはこんな一幕があったとか無かったとか。
さて、そんなこんなで辿り着いたアビドス高校。
早速の歓迎とばかりにヘルメット団が襲撃を仕掛けてくるなどアクシデントはあったものの、どうにかそれもアビドス高校の生徒たちと協力することで退けられた先生たちは、改めて自己紹介を行っていた。
「私は、委員会で書記とオペレーターを担当している1年のアヤネ……」
先生の隣で戦闘のオペレートを熟していた赤い眼鏡の少女がまず口を開く。どうやら戦闘だけでなく会議などの進行もアヤネがやっているらしく、慣れた様子で他の部員も紹介してくれた。
「こちらは同じく1年のセリカ、2年のノノミ先輩とシロコ先輩。そして、こちらは委員長の、3年のホシノ先輩です」
それぞれアヤネの紹介に合わせて一言二言の挨拶をしてくれる。どの子も気さくに話してくれているのを見るに、悪感情は持たれていないようだ。
シロコには初対面でセクハラしてしまったのもありヒヤヒヤしていたのだが……むしろこんな良い子にセクハラしたことに心が苦しくなってきた。これはここからの働きで取り返さなければ。
「それで、『対策委員会』っていうのは一体……?」
決意も新たに疑問に思った点を質問する先生。
その問いに対して対策委員会の面々がしてくれた説明によれば、どうやらこの委員会は衰退してしまったアビドスを蘇らせるために有志が集った部活であり、アビドス高校の
しかしアビドス生徒で活動しているのはこの5人だけであり、学園都市の住民も以前より遥かに少なくなったうえ最近ではどこから来たのかヘルメット団が学校を襲撃しはじめる始末。
このままでは治安が悪化し、今でも残ってくれている住民たちにまで被害が及ぶかもしれない。しかしこれ以上の策は人手が足りず、補給品も心もとない現状では校舎を防衛するので精一杯だった、というのがここまでの話のようだ。
他の生徒についての説明の際にシロコがホシノの方へ目を向けていたのが少し気になったが、まあ嘘は言われていないだろう。
…………嘘は言っていないが問題の全部を話してもいない、という方が正確かもしれないが。
何となくそのことを察しつつも、先生の表情は揺らがない。出会ったその日に全部をさらけ出すだなんて、どだい無理な話だ。だから今自分がするべきことは、そのことに不満を抱くのではなく少しでも生徒の信頼を掴めるように行動すること。
ホシノのヘルメット団の前哨基地を襲撃するという提案に同意しながら、先生はそう結論付けた。
────────
時は少し進み、ヘルメット団の前哨基地襲撃を成功させた一行が帰還した少し後。
先程までの和やかな雰囲気はどこへ消えたのか、部室はギスギスとした空気で満たされていた。
ついうっかりといった具合にセリカが零したアビドス高校の『重要な問題』────即ち借金返済。それを先生に打ち明けるか否かで反対派であった彼女が飛び出していった事もさることながら、その際に叫ばれた
「今まで大人たちが、この学校がどうなるかなんて気に留めたことなんてあった!? 借金の事だけじゃない、
という言葉以降能面のような無表情となったホシノの放つ重圧によって、部室内は控えめに言っても最悪といった様相であった。
しかしこのまま立っていても何も始まらない。
「えっと…………それで、借金っていうのは?」
流石にこの状態で自分から聞くのはどうかとも思ったが、自分は先生であり、生徒を護り導く責任がある。ならばまずは事情について知るべきだろう。
もちろんセリカのように話したくなかったり、話すにしても心構えが必要だったりするのなら無理強いをするつもりはなかったが。
そんな先生の質問に、おずおずとではあったがアヤネが口を開いた。
「その……簡潔に言ってしまえば、このアビドス高校には借金があるんです。それも、少しの額ではなくて億単位で」
「今、5億4000万ぐらいだっけ?」
「5億3900万ですね。この借金を返済できなければ、私たちは廃校手続きを取らざるを得ません」
高校生とはいえまだまだ幼い子どもが扱うにはあまりにも大きすぎる金額。目の前の生徒たちがそんな重い借金を抱えている事実に、先生は唖然とする。
しかしアヤネとシロコの説明にはまだ続きがあった。
「ほとんどの生徒は返済を諦めて、この学校と街を捨てて去ってしまいました。住民の方たちも、ここ数年の流出量は減っていますが……それでも以前に比べると遥かに少なくなっており、場所によってはゴーストタウンのようになっている場所も」
「さっきのヘルメット団が使ってた場所もそう」
「一体どうして、そんな額の借金を……?」
「借金をすることになった理由ですか? それは────」
そう言ってアヤネが続けたのは、このアビドス自治区で数十年にも及ぶ間起こっていた砂嵐と、その対応のために悪質な金融業者からお金を借りることになったという話だった。
「最近になってようやく返済の兆しが見えてきましたが、以前は利子分を帳消しにするだけでも手一杯だったそうで……」
「それで、膨大な量の借金になってしまった、と」
「はい……」
俯き、沈痛な表情でアヤネはそう締めくくった。
ギスギスした空気から今度は気まずい重苦しさに満たされた室内。誰もが黙ってしまったことで衣擦れの音でさえよく聞こえるようになったその場所で、先生は意を決してさらにもう一歩踏み込むことにした。
ホシノの雰囲気が一変した原因と思われる言葉────すなわち、“ユメ”という人物について質問したのだ。
「ユメさん……ですか」
「えっと、それは」
しかしやはりと言うべきか、先程までよりも更に輪をかけて歯切れ悪くなる2人。チラチラとホシノを見ていることからおそらく彼女の関係者なのだろうが、そのホシノが何も語らない以上どうすべきか分からない、といった所だろうか。
仕方ない。気にならないと言えば嘘になるが、生徒が話したがっていないのに自分の好奇心を優先して無理に聞くのは先生のやることじゃない。ここは一旦引き下がって、いつか話してもらえるようになるまで待つべきだろう。
そう思って口を開こうとした辺りで、不意にホシノが動いた。
「先生、ちょっと付いてきてもらっていいかな」
それだけ言って対策委員会の部室から出ていくホシノ。セリカのように駆け出して行ったのではないためすぐに追いつけたが、変わらず無表情のまま歩く様は少し不気味でもある。
数歩後ろを歩くアヤネとシロコの2人も神妙な表情であり、この先に一体何が待ち構えているのだろうかと先生が思い始めたあたりで、ホシノたちの足が止まった。どうやら目的地に着いたようだ。
「『特殊医務室』?」
「ユメ先輩、入るね」
ホシノの言葉と共に開かれた扉の先。そこにあったのは、一人用よりは少しサイズの大きなベッドとそこに複雑に繋がれた沢山の機械類、そしてその上で横になる一人の少女の姿であった。
瞬間、先生の身を激烈な違和感が襲う。
この景色を見るのは間違いなく初めてで、それは当たり前なことであるというのに、その“初めて見る”という事にどうしようもなく違和感を覚えるのだ。
まるで、本来はこの場所で見るものは見慣れているはずだと。何度も何度も
これまでにも、アビドス自治区を訪れてから違和感を抱くことは何度かあった。前哨基地から撤退するヘルメット団が「務めも果たせない生徒会長を後生大事に抱えてるくせに!」と捨て台詞を残した瞬間や、それに対してホシノが執拗に追撃を加えた時。
それに、ついさっきの借金の額を聞いたタイミング。
ただ、今回のそれはこれまでとは文字通り次元が違った。
それこそ『コレは有り得ない。この少女が今この瞬間に、この場所に居るという事象は起こり得ない』と感じるレベルなのだ。
一体何がどうなっているのか────
────いや、今はこんな馬鹿らしい事を考えている場合じゃないだろう。
軽く頭を振ることで気を取り直し、先生は改めてユメと呼ばれた少女を眺めた。
年の頃は18歳あたりだろうか、身に付けた病衣と似た浅葱色の髪をしている。そのヘイローは消えているようだが、心電図は一定のリズムを描いているため、おそらく生きてはいるのだろう。
「彼女が?」
「そう、ユメ先輩。おじさんたち対策委員会以外の唯一のアビドス生徒。でも怪我の療養で休学中なんだけどね」
ホシノは3年生で、そのホシノが先輩と呼んでいるということは…………。
この少女はどれだけの間この部屋で療養しているのだろうか。
「一体何があったのか、聞いてもいい……かな?」
「ユメ先輩に何があったか、か~。うーん」
「あぁ、もし話し辛いようなら無理しないで」
「うへ、ありがとね。でも、実際のところ詳しい所は分かってないんだよね。私が見つけた時にはユメ先輩は既に吐血して倒れた状態で、それ以降2年間ずっとこのまま」
「2年間も!?」
想像よりも遥かに長い期間に驚く先生。しかしその言葉を否定する者は誰もおらず、その嫌な沈黙がホシノの言葉が真実であることを如実に告げていた。
「何か、手掛かりは……?」
先生は、思わず零してしまったその言葉をすぐに後悔することになった。
部室での重圧が子どものままごとであったかのようなプレッシャーをホシノが放ったのだ。それはこの場の重力が数倍になったのではないかと思わせる程で、気の弱い生徒ならこれだけで逃げ出すと断言できてしまうぐらいだった。
事実、脳内には『せ、先生!? とんでもなくヤバそうですよ!? あわわわ、どうすれば』とアロナの慌てる声が響いていた。
「ホシノ先輩、落ち着いて。先生が怖がってる」
「…………ごめん。抑えようとは思ってるんだけど、あの時の事を思い出すとどうしてもね」
「いえ、別に責めているわけじゃないですし。ね、シロコ先輩」
「ん。ユメさんと面識があるのはホシノ先輩だけだし、現場を見たのもホシノ先輩だけ。怒るのも仕方ない」
幸いなことにシロコとアヤネが取り成してくれたおかげでその雰囲気はすぐに霧散したが、それは本来なら迂闊に地雷を踏み抜いた自分がやるべき事だった。
「私の方こそごめん、ホシノ。ずかずかと踏み込んでいい部分じゃなかったよね。それに、2人もありがとう」
「うへ、おじさんはそんなに気にしてないからそこまで畏まらないで大丈夫だよ」
「私も、そんな大したことはしてませんから」
「うん、問題ない」
慌てたように3人は返してくれたが、許されたからといって終わらせていい話じゃない。気を付けなければ。
「それで、手掛かりだったっけ。実は無いわけじゃないんだよね」
「たしか、現場に人が居たんだっけ?」
「そー、といってもすぐに逃げられちゃったんだけどね。そうそう、先生と同じ男で……多分私と同い年ぐらいだったんじゃないかな。目立つはずなのに目撃情報も無いし、アイツに関しては今も調査中だね」
改めてホシノは手掛かりになり得る存在について語ってくれたが、その眼には憎悪に囚われている様子や憤怒に彩られている様子は無い。
それは一見良いことであるように見える。しかし、先生はその事をむしろ危ういように感じた。
なにせあんなプレッシャーを放つほどなのだ。ホシノにとってユメが大切な存在であることは間違いないだろう。だというのに、今のホシノはその感情を抑え込めてしまっている。
これが良い状態だなどと、たとえ口が裂けたとしても言うわけにはいかない。
ホシノのメンタルケアも重要な課題だと先生が心のメモ帳に加えていたところ、ふと疑問に思う点が目についた。
「あれ……2年間も昏睡していたにしては、やけに血色がいいような?」
そう。ユメの姿は、普通の人間がただ眠っているだけなように見えるほど健康体なのだ。
通常、寝たきりの人間というのは肉体が弱っていくものである。
普段の日常生活では意識していない事だが、あらゆる物体には常に重力の負荷が掛かっている。そのため、この状態下で身体を動かすという事は単純に筋肉や関節を動かす以上の意味合いを持つこととなる。
なぜならその負荷は体の外側だけでなく内側、つまり臓器を含めたありとあらゆる部位にまで及ぶのだ。だからこそ、重力に逆らって動くという事は文字通り“全身”へ負荷が掛かることを意味し、健康や体力を維持する上で必要不可欠な要素となる。
長々と語ったが、早い話、適度に運動している人の方がしてない人より健康になるということだ。
寝たきりの人間というのは、その運動どころか「立つ、座る、歩く」といった日常的な動作すら熟すことができない。そうなると身体能力は低下し、内臓の機能も低下する。
使われない筋肉は衰えると共に全身は痩せ細り、骨と皮が目立つ節くれ立ったものへと変化し────最終的には肉体が生命活動を維持することが出来なくなるほど弱り果てる、というのはそれなりに聞く話だ。
2年も寝たきりのままということは確実にそういった症状が出ているはずで、何なら生きているだけで奇跡的だと言えるだろう。
だというのに、目の前の少女からはその兆候が見受けられない。僅かに覗く手足にはしっかりと肉がついており、その肌には艶もあるのだ。
「不思議だよね、ユメ先輩の姿は2年前のあの日からずっと変わってないんだ。お医者さんも『全くもって分からない、奇跡みたいだ』ってお手上げだった」
「…………」
「こんな奇跡なんていらないのに。ただ目が覚めて、あの頃のように笑ってくれるだけで……それだけで、私はいいのに」
学校を襲撃するヘルメット団に莫大な借金、さらには2年もの間昏睡しているユメ。そこに加えて精神的に大きな負荷の掛かっている対策委員会の面々。
初めての大きな案件だというのに何だかハードだなぁと思いながら、先生は改めて大人としての“責任”を果たそうと決意を固めるのだった。
────────
アビドス自治区の中心街を遠く外れた、今は打ち捨てられたアビドス旧校舎のすぐ傍。
砂漠本来の明るく灰色がかった黄色────いわゆる砂色と呼ばれるソレとは全く異なる、大地に黒々と刻まれた直線状の傷を眺めながら、俺は花を供えていた。
普段の月命日とは違い、今回はタツナミソウだけでなくデルフィニウムも供えている。年に一度の命日だからだ。
デルフィニウムの花弁は淡い水色をしている。あの日、血の
それでも、この花の色を見れば改めて思い出せる。再確認できる。
だから俺はこの時間が案外嫌いじゃない。
脳髄から全身を飽和する罪悪感が。胸中を満たす自己嫌悪が。直ぐにでも首を掻き切ってしまいたくなるこの衝動が。そして、どうしようもなく込み上げてくる死への恐怖が。
「…………」
何も語らずに踵を返す。
そもそも何かを語る必要はない。安っぽい言い訳も、自分に酔ったような戯言も。
改めて、この身は決意で満たされた。
そうして去り行く背中を、強い風と陽が落ちたことで急激に冷え込み始めた砂漠は眺めていた。その上に置かれた、小さな水色と共に。
ずっと、ずっと。
仔大猩々 さん、シトリン さん、もんろ さん、夜市よい さん、わけみたま さん、評価付与ありがとうございます!