【本編完結】黒く濁った罪を背負って   作:RH−

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なんとこの度、亜空間タックル様より本作初の支援絵を頂きました!
https://img.syosetu.org/img/user/v2/6245/959/207372.png
見てくださいよこのマクガフィン君、絶対強い(確信)
にしても支援絵って本当に実在したんですね。都市伝説だと思ってました()


あ、ちなみに。今話は一方その頃、みたいな回です。
マクガフィン君側の話は次話まで待ってね。


衝突する想い、揺らぐ世界

《通功の古聖堂地下・『太古の教義』付近》

 

 時はしばらく遡り、マクガフィンがアリウス分校の自治区へと辿り着いた頃。

 洞窟のような岩肌と薄暗さに包まれたその場所では、苛烈な戦闘が繰り広げられていた。

 

「やあぁっ!」

「はあっ!」

 

 戦況を支配するのは二人の少女。

 薄桃色の髪をしたSMGを構えるトリニティ生、聖園ミカ。そして、藍のような青髪をしたARを構えるアリウス分校生徒、錠前サオリ。

 両学園の主力たる、二人であった。

 

 しかしこの場にその二人しかいないのかと言えば、それは否である。

 とはいえ、二人以外の人間は全員アリウス分校の所属……というかサオリと同部隊のアリウススクワッドの面々なのだが。

 

 つまり、この場における戦闘は聖園ミカ1人に対してアリウススクワッドの計4人という実に非対称な物なのだ。

 そもそも、ミカの前にスクワッドと戦っていた補習授業部はカタコンベ方面から戻ってきた対策委員会に回収を、そして先生には『私一人なら先生が指揮をするメリットが薄いから』と地上の援護を頼んだので、戦況が非対称になるのは当然の話ではあったのだが。

 

 だが、人数の不利がそのまま敗北へと繋がるのかと言えば、それは否であった。

 

 補習授業部がアツコを抜いたアリウススクワッドと戦っていた時と同じである。圧倒的な個人の武力に対して数人程度の人数差を付けたところで、多少の有利は取れども勝利にまでは直結しないのだ。

 

 

 

 元々、聖園ミカという少女はトリニティ総合学園でも最上位の武力を持つ生徒だった。

 しかしここで重要なのは、彼女はパテル分派の首長でありティーパーティーの一員でもあるという点……即ち、彼女がトリニティ総合学園にて担っている役割は政治方面の物であるという点であった。

 

 彼女は決して正義実現委員会や自警団のような戦闘力を要求される組織に所属していた訳でも、蒼森ミネのような組織の武力を担う象徴として活動していた訳でもないのだ。

 

 故に、彼女が受けていた訓練は一般生徒と同様の……いや、ティーパーティーの特権によって免除されていた物を考えれば、ともすれば一般生徒以下の訓練しか受けてきていなかった。

 そもそも、人間というのは何か目標が無ければ努力できない生物である。クーデターでも画策していたならばいざ知らず、そんな願望など欠片も無い『お姫様』だった聖園ミカがわざわざ精力的に訓練を積むかといえば、それは否であったワケである。

 

 ともかく、そんな状態でありながら彼女はトリニティで最上位の戦闘力を有していたのだ。

 

 では、そこに何らかの目標……それも武力がどうしても必要になると予想できるような願いが現れればどうなるのか。

 それこそ、『真実を知ってどうしても救いたくなった相手』であったり『止めなければならない自分の罪を背負ってくれた相手』であったりが現れれば。

 

 当然ながら、努力する。

 そこに言い訳をするほど彼女は曲がってはいない。

 

 そう、彼女は訓練を積んだのだ。

 それも、通常のカリキュラムだけではない。

 

 ツルギやセイア、更にはホシノにまで頭を下げ、模擬戦闘をしてもらった。リオやヒマリに頼み込んで、科学的な観点から見た際の無駄な動きを教えてもらう事で自身の動きを改善した。補習授業部や対策委員会との模擬戦で対集団の立ち回りも身体に叩き込んだ。

 

 全ては、少しでもこの手を届かせられる可能性を高めるために。

 一ヶ月という期間の短さを沢山の協力者に手伝ってもらう事で補い、聖園ミカは劇的なまでにその実力を伸ばしたのだ。

 

 

 そして、その成果はこの場面で大きく花開いた。

 

 例えばそれは、フェイントのかけ方に表れている。

 彼女の攻撃は全てが致命打(クリティカル)になり得る。故に、ただ銃口を向けるという行動であっても相手は対応せざるを得ない。それが目に見えたフェイントであっても、回避しなかった結果撃たれれば危険だからだ。

 

 例えばそれは、戦い方の幅に表れている。

 以前までの常に全力投球な動きではなく、今の彼女は“緩急を付ける”という事の効果をよく知っている。故に、意図的にギアを切り換える事で彼女は動きの速さに幅を持たせ、相手にプレッシャーを与え続けていた。

 また、銃撃だけでなく、合間合間に挟まれるその強靭な肉体を活かした格闘戦も大きな効果を発揮していた。

 

 例えばそれは、視野の広さに表れている。

 補習授業部や対策委員会といった連携力を武器とする集団と模擬戦を繰り返した事で、今の彼女は以前では考えられないほど広く盤面を見ることができている。

 自身の立ち位置を調整し敵の射線を動かす事で誤射を誘う事は当然として、遮蔽や妨害に使えそうな地形を把握し続けるなど、その効果は多岐に及ぶ。

 

「っ! 厄介な!」

 

 今もまた、天井を撃ち抜いて疑似的に軽めの崩落を起こし、同時に自身は遮蔽へ身を滑りこませることでミカはリロードの隙を隠している。

 

 とはいえ、まだ戦況は五分に渡り合っている。

 盤面を上手く操ってはいるものの、ミカ自身が一人である以上は人数差に起因する手数の差はどうしようもないのだ。

 アツコ程度の攻撃力ならば大して問題にならないが、ミサキやヒヨリ、サオリの攻撃は無視できない。それに、アツコも味方を回復させたり煙幕によって被弾率を低減したりと厄介な事ができる。

 

 一撃一撃の火力が高い反面、一発一発を確実に当てるというのを苦手とするミカにとって、アツコの存在はある意味最も面倒な存在であった。

 

 

 故に、戦場に微妙な均衡が生まれる。

 サオリたちはミカを相手取るには決定打に欠け、ミカもまたサオリたちの連携を崩すには至らない。どちらかが無理を見せた瞬間に食い破られると理解しているために、もう一歩を踏み込めないのだ。

 

「サオリ……もう、止めよう? 私はあなた達を恨んでない。和解したいって、救けたいって思ってる。だから────」

 

 そうなれば、次は言葉が交わされる事となる。

 武力だけで均衡を破れないのならば、それ以外の要因が必要だからだ。

 

「だから、何だ? お前一人でこの流れをどうにかできるとでも?」

「ううん、きっと私一人じゃ無理だと思う。自分の無力さは分かってるつもりだし」

「なら────」

「でも! ……でも、それは行動しない理由にはならない。最初の一歩はみんな怖いし、できないんじゃないかって考えちゃうと思う。でも、その一歩が無いと何も始まらないの」

 

 飛び交う銃弾に混じり、少女たちが言葉を交わす。

 銃撃の激しさに相反して、不思議とそこには静けさがあった。

 

「どうやら前と同じで現実が見れていないらしいが、今の私たち(アリウス分校)は犯罪組織だ。それも、エデン条約の調印式なんて大きな儀式を襲撃したとびっきりの、な。……今さら、外の奴らに救われようとは思ってない」

「……辛辣だなぁ。でも、私だって考え無しに言ってるわけじゃないよ? あなた達はマダム・ベアトリーチェに生殺与奪の権を握られた状態で襲撃を命令された、そうでしょ? だったら、緊急避難が成立する可能性は十分ある」

「マダムがそんな証拠を残していると?」

「質問に質問で返しちゃうけど、人間が居た痕跡を完全に消しきる事が可能だと思う? それに、あなた達の証言だって立派な証拠になる」

 

 自身を馬鹿だと卑下する事の多いミカだが、そもそも彼女はトリニティ総合学園というマンモス校の生徒会たる『ティーパーティー』に所属していた少女である。

 周囲が祭り上げる風潮はあったとしても、本当の馬鹿がそんな役職に就けるわけがない。

 

 感情的なきらいこそあるものの。事実として、彼女にはアリウス分校の現状を推測し、理解し、その上で和解の第一歩となり得る策を提案した過去がある。

 これは十分に思索を巡らせられる人物でなければできないだろう。

 

 その上で、今の彼女はその感情的な部分であったり短絡的な部分であったりを改善しようと努力できているのだ。

 そんな今のミカが何の根拠も無く希望的観測を口にする事はない。

 

「だが……」

「それに、事前に対策してたお陰でこの襲撃の被害はまだ大きくなってない。……まあ、ほとんどはマクガフィン君のおかげなんだけど。とにかく! 今なら、きっと間に合う。だから」

「…………」

 

 サオリは内心で悩んでいた。

 アズサがボロボロになってまで自分を引き留めようとしていた事に……そこまで自分を大切に思っていてくれていた事に、感情を動かされた。

 ミカというトリニティのトップに立つ人物が、納得できる材料でもって説得してきたことに、決意が揺らいだ。

 

(……どうするのが、正解なんだ? 私は、どうしたいんだ?)

 

 けれども、こうして手を差し伸べられると思ってしまうのだ。

 

 

 ────私は、救われていいのか? 救われたいのか?

 

 

 そんな疑念が、躊躇わせるのだ。

 きっとこれは植え付けられただけの呪縛で、考えるべきではない事なのだろう。けれども、何かが引っかかる。何かが違う気がする。

 

 そう躊躇う内に、状況が変わる。

 思考が『まだ自分が救われるべきじゃない』と行き着いてしまう。

 

 今もまたそうだ。

 

『サオリさん! へ、変な連中が出てきました! 上の援護に来てもらえませんか!?』

 

 インカム越しに耳を叩く救護要請が、意識を切り換える。

 どうやら新たに統一されたデザインの防護服を纏う集団が現れ、勢力を問わずに────つまり、アリウス・トリニティ・ゲヘナの見境なしに────攻撃を仕掛けているのだという。

 動きを聞く限り統率立ってはいるようだが、地上はかなり荒らされているらしい。

 

「……分かった。なるべく一所に固まっておいてくれ、すぐに向かう」

 

 先の焼き増しのように、弛緩しつつあった空気が再び張り詰める。

 もう少しで伸ばした手が届くというのに、その“少し”がどうしても届かない。

 

 ならば────後は、無理やりにでも掴み取るしかない。

 

「悪いな、聖園ミカ。恨んでくれて構わない」

「恨んだりはしないよ。でも……ここから先には、進ませない」

 

 対峙は一瞬。

 刹那の内に両者の位置が動く。

 

 先手を取ったのはアリウススクワッド、戒野ミサキであった。

 これまでの戦闘からミカの動きを読み切り、進行方向へと焼夷弾を置くように放つことでその動きを牽制する。

 

 続けて、動きの鈍ったミカへ畳み掛けるようにヒヨリが狙撃する。

 咄嗟に左腕を差し込まれてしまったために致命打にはならなかったが、無視できない痛打を少女は与える事ができた。

 

 そこで、更に至近距離にまでアツコが接近。

 有効打は与えられずとも、身体全体を使う事でミカをその場へ縫い留める。

 

 そして、サオリによるトドメの一撃。

 ARの一射と重ねられたHGの三射が、狙いを過たずに命中する。

 

 

 だが────少女は倒れない。

 

 

「止めて……みせるっ!」

 

 

 スクワッドが全てを出し切り、ミカが反撃を行う。

 しかし、狙われたのはサオリではなく、至近距離にいるアツコでもなく、ましてやミサキやヒヨリでもなく。

 

《Quis ut Deus》の銃口が向けられたのは、()()であった。

 

(何を────まさかっ!?)

 

 ギリギリでサオリが気付くも、既に遅い。

 撃ち抜かれた洞窟の天井が崩落を起こし、範囲攻撃となって一同へと襲い掛かる。

 

 しかしミカの攻撃はまだ終わらない。

 以前から天井を撃っていたのは、リロードの隙を隠すためだけではない。

 

 この瞬間、この一撃。

 本命となるその一撃のために、全ては用意されていたのだ。

 

「…………は?」

 

 戦闘が始まってから初めて、サオリの口から呆けたような音が漏れる。

 とはいえそれは彼女だけではない。ミサキも、ヒヨリも、アツコも、それぞれ程度の差はあれど衝撃に思考を停止させられている。

 

 そんな彼女たちの頭上、上を見上げる視線の先には。

 度重なる崩落によって薄くなった洞窟の天井を突き破り、地上の光と共に降り注ぐ()()が眩く輝いていた。

 

 もちろんこれは本当に宇宙から振ってきたわけではなく、ミカが神秘によって創り上げた仮初の隕石である。

 しかし、セイアやホシノから神秘の扱い方を教わって磨き上げられたこの技の破壊力は、本物の隕石と比較してもそう劣らない。

 

 そんな一撃が着弾し、膨大なエネルギーをまき散らしながら炸裂した。

 まさしく会心の一撃、戦況を揺るがす圧倒的な一撃であった。

 

 その事に確かな手応えを感じながら、しかしミカは油断せずに土煙が晴れるのを待つ。

 ジッと愛銃を構えたまま待つこと数十秒、ようやく通るようになった視界の先に映ったのは────咄嗟に回避したのだろう、かなりのダメージを負いながらも未だ膝を突かずにいるスクワッドの姿であった。

 

(でも、ここまでボロボロなら────)

 

 止められるはず。

 そう内心で呟こうとして、しかし少女の視線が別の方へと移る。

 

 否、彼女だけでない。

 サオリたちスクワッドもまた、弾かれたように上へと視線を向けている。

 

 

 そんな彼女たちの視線の先、崩落しきって地上と繋がった天井越しの空には。

 薄暗く曇りつつある空を貫くように、膨大な神性を放つ光の柱が、煌々と突き立っていた。

 

 

────────

 

《通功の古聖堂地上部・西方》

 

「いったい、どうしたら……」

 

 トリニティ側の主戦場ともゲヘナ側の主戦場とも異なる、ひっそりと目立たない区画。

 その場所に、幾人ものアリウス分校生徒が身を寄せ合うようにして集まっていた。

 

 しかしながら、彼女たちはここから集まった人数を基に一気呵成の攻勢をしかけようとしているワケではない。むしろその真逆、他の生徒が集まっているからというような消極的な理由で集まっているのだ。

 故の最初の呟きである。

 

 とはいえ、この集まりが消極的になるのは言ってしまえば当たり前の事であった。

 なにせ、この中には部隊長を務めていたようなリーダー格の生徒が一人もいないのだ。そして、自主性を折るための教育を施されているアリウス生徒が、この不安定な戦況の最中にリーダーシップに目覚めるわけもない。

 

 できるのは、精々がこうして身を寄せ合って誰かリーダー格になる生徒が合流しないか待つ程度。何をするべきかなど考えられない。

 

 とてもエデン条約調印式を襲撃したとは思えない姿であった。

 

 

 少女たちがこうして部隊長を欠いた状態で集まっている事には、当然ながら理由があった。

 といっても、決して襲撃が嫌すぎてボイコットを起こしたわけでもなければ横暴な部隊長に反抗したわけでもない。

 ”戦場における士官の死因の二割が部下によるもの”という説も世にはあるが……そもそもそこまでの積極性が彼女らにあったのならば、こうして身を寄せ合う事などせずに何かしらの行動を起こしている。

 

 では何があったのかと言えば、実はその理由にはいくつかの種類が存在した。

 例えばある者は、部隊ごとゲヘナの風紀委員会に取り押さえられたところを別の勢力に襲撃され、部隊長だけを残して逃れる事ができたと言う。

 例えばある者は、トリニティ生との戦闘途中に乱入してきた別勢力によって部隊長が落とされ、這う這うの体でここまで撤退してきたと言う。

 ある者など、ユスティナ聖徒会の動きに合わせて移動している最中に閃光弾を投げ込まれたかと思えば、気付けば部隊長と数人の隊員を除いてここに放置されていたとまで言う。

 

 結局のところ、それらの話に共通しているのは“黒と灰を基調とした防護服を纏った第三勢力”が関わっているという程度で、何の手がかりも得られない。

 いや、中には『何故かこの場にはベアトリーチェを信奉し、そしてトリニティやゲヘナに恨みを募らせている過激派が一人もいない』という事に気付いた生徒も何人かはいたのだが。

 

 まあ、そもそもベアトリーチェに部隊を任せられるような生徒など大抵が過激派である以上は当然の話でもあるのだが。

 

 ともかく、そんなワケで少女たちは指示役を欠いた状態で身を寄せ合っているのである。

 今もまた、謎の第三勢力によって部隊長を欠いた小隊が通信を頼りにこの場へと合流してきた。

 

(……あの人たち、“これも新たな温泉ポイントと顧客のためだ”って言ってたけど…………どういう意味だろ?)

 

 チラリと聞こえてきた襲撃者たちの会話に疑問を抱きながら。

 

 

 戦況は、少しずつ、しかし着実に変化を見せていた。

 

 

────────

 

《通功の古聖堂地上部・正面広場》

 

 ミカの言葉に従い地上へと戻った先生と対策委員会に待ち受けていたのは、想定外の連続するギリギリな戦況であった。

 

 まず、アリウス生徒の数が少ない。主戦場であるこの場に見えるのが十人前後であるという時点で、かなりおかしいだろう。

 そして、知らない集団が戦場に現れている。何やら見慣れない装備を扱うその黒と灰の集団は、ユスティナ聖徒会などの複製を狙っているのを見る限り味方のようだが……しかし一部は銃を向ける正義実現委員会の生徒たちと戦ってもいる。

 いったいどういう事だ。

 

 最後に、セイアから聞いていた何種類かの複製(ミメシス)のどれとも特徴の一致しない白い聖女が猛威を振るっている。

 基本的に周囲を漂う白い光球で迎撃をする程度で積極的な攻撃はしていないようだが、どうやらあの複製は周囲のユスティナ聖徒会の蘇生と強化をしているらしく、セイア・ツルギ・ミネの三人がかりでようやく少し有利といった様相である。

 

(ひとまず、状況把握を急がなくては。ミカにも地上を頼むと言われたんだ、できる限り速く指揮を執れるようにしたい)

 

 そんな戦場に目を白黒させていた一同であったが、いち早く先生が指針を立てる。

 

「私は本部に……ナギサの方に行ってくる。みんなは一旦補習授業部を救護騎士団の方に引き渡してきて」

 

 そうして対策委員会に指示を出すと、先生はすぐに動き始めた。何はともあれ、情報の集まる本部へと向かおうという判断である。

 

 と、そんな先生へと走り寄る影が二つ。

 

「流石にこの戦場で護衛無しは危ないでしょ、先生。おじさんも一緒に行くよ」

 

 一つは先生の背後から。

 補習授業部の4人を後輩たち4人に託し、先生と同行するために来たホシノである。

 

 そして、もう一つは。

 

「久しいな、先生。訳あって名乗れないが、恐らく“先生”なら分かってくれるだろう?」

 

 先生の正面から近付く、黒と灰を基調とした防護服を纏った一人の生徒。

 

「君は────」

 

 声はガスマスク越しでくぐもっており、容姿も大まかな身長ぐらいしか読み取れない。

 しかし、以前にも鉄火場の中心でこうして不敵に振る舞う生徒と話した事のあった先生は、その正体に当たりを付けられた。

 

「隣のお嬢ちゃんも元気だったかい?」

「……まあ、ね」

 

 同じくその正体の想像が付いたのだろう、水を向けられたホシノが苦々し気に言葉を返す。

 

「ほうほう、それは重畳。とまあ、こうして旧交を温めるのも悪くはないのだが……今は互いに立て込んでいる。話を進めようじゃないか」

「それで、カス────君は私に何か用があるの?」

「…………」

 

 相変わらずの人を食ったような物言いで話を進める少女に先生は相槌を返そうとし、そして致命的に失敗した。

 正体を隠している以上は名前を呼ぶのはマズいのではという判断が遅れた結果である。

 

 絶対に……絶対に、そんな場合では無いというのに。

 いや、そんな場合じゃないからだろうか。場が何とも言えない気まずさに満たされた。

 

「……先生にカスと言われた唯一の生徒になるんじゃないか? 私は」

「違うよ!? それとゴメンね!?」

「分かってるさ。さて、実は先生に伝えておきたい事がいくつかあってな。それでこうして待っていたというわけだ」

 

 “ひとまず歩きながら話そうか。そちらの方が先生も都合が良いだろう”と告げると、背を向けて歩を進めながら少女はいくつかの情報を先生へと語った。

 

「まず、あそこで戦っているバルバラ……上位モデルの複製だが。私の協力者によると、どうやらもう一段階上の複製が控えている可能性があるらしい」

「……もしかして、ヒエロニムス?」

「ご明察。流石だな、先生」

 

 彼の『知識』を垣間見たセイアから、その名は伝わっていた。

 ともすれば、友軍の総力を挙げて戦ってもなお届かない可能性のある存在だと。

 

「それと、お嬢ちゃんが先生と居るのなら伝わってはいそうだが。()はアリウス自治区へ向かったようだ。まあ、アイツの事だ。何かしらの成果は上げてくるだろうよ」

「……あの人は、何をしようとしてるの?」

「さてな、私はそこまで踏み込めていない。それを聞ける可能性が最も高いだろう君が聞けていない以上、私には知りようも無いことだ」

「……そっか」

「まあ、そうだな……これに関しては覚悟ができたと言っていたし、伝えても問題ないだろう。小鳥遊ホシノ、アビドスで起こった事件について知りたいのなら、繋ぎ手(connecter)、あるいは継ぎ手(jointer)という名を覚えておくことだ。いつか自分の知る全てを話しに行くと語っていた」

 

 そうとだけホシノに告げると、少女は話を次へと進めた。

 

「これが最後だな。アリウス分校だが、実は錠前サオリを旗頭に分裂しつつある。親ベアトリーチェ派だけを捕らえられるようにしておいたから、動きを合わせてくれると助かる」

「サオリを旗頭に……? 分かった、意識しておくよ」

「感謝しよう。さて、それではこの辺りで私はお暇しようか。トリニティ側の本部も近い事だしな」

「……また、助けられたね。ありがとう」

「なに、前回も言ったろう? こちらとしても必要だったから行っているだけだ、恩義を感じる必要はない」

 

 そうとだけ告げると、以前と同じように彼女は飄々と立ち去って行った。

 

(ともかく、これで大まかに状況は理解できた)

 

 それを見送りながら、先生は脳内で思考を巡らせる。

 前と同じように重要な情報だけをピックアップして彼女が伝えてくれたおかげで、現状は大体把握できた。

 

 更に間の良いことに、ツルギの放った一撃がバルバラを捉え、遂にその身をただの神秘へと霧散させた。ひとまずこれで戦況はこちら側へと傾いただろう。

 

 そう、油断したからだろうか。

 

「────え?」

 

 パチリと一度まばたきをして、気付けば正面広場に異形が顕現していた。

 見上げるほどの長身を白の修道服で覆い、背には美しい光背を浮かべている。頭上には淡黄色のヘイローを浮かべ、その両手を祈るように組み交わしていた。

 

 しかし何よりも異様なのは、その身に纏う膨大なまでの神秘。

 それは先のバルバラを大きく上回っており、最早自分たちとの違いを考えるのも馬鹿らしくなるほどの純度であった。

 

「これは……どうやら、反則みたいだね」

 

 伝う冷や汗も忘れて、小さく先生が呟く。

 少なくとも、あれは“生徒たちの物語”を逸脱した存在だ。先生の切り札、『大人のカード』を使うべき場面だろう。

 

 そう先生が懐に手を伸ばし、しかし更なる異変が重なる。

 

「……は?」

 

 

 曇り空を貫くように、遠くの場所に光の柱が突き立ったのだ。

 

 

 明らかに非現実的な光景だが、しかし異様なのはその見た目だけではない。

 神秘を持たない先生にさえ感じられるほどの“神性”が、その柱……正確にはその中心から放たれていたのだ。

 

 けれども、先生にはそれが何なのか分からない。

 もしこの場にアリウス分校の生徒がいたのならば、それがアリウス自治区の方角である事は分かったのかもしれないが。とはいえ、それが分かった所で大した推測は立てられない。

 

 辛うじて()が関わっているのだろうと予想できるぐらいだ。

 

 そんな分からないだらけの異様な光景であったが、先生たちにとって幸いだったのは敵も含めた戦場の全てが硬直したことだろう。

 ユスティナ聖徒会もヒエロニムスも、その光の柱が現れた方角を向いて跪いているのだ。まるで祈るように、拝むように。

 

 そのお陰で、突然の事態に意識を持っていかれた生徒たちは攻撃されずに済んだのだ。

 

 

 だが、異変はまだ終わらない。

 

 

『────遂に。遂に、彼の者は完成した』

 

 

 何か、脳内に直接語りかけるような声が大きく響き渡る。

 どうやらそれは先生だけでは無いようで、ホシノやセイア、ツルギといった一部の生徒たちも頭を押さえて訝しげにしていた。

 

 そんな先生たちの状況を理解しているのかいないのか、声の主は変わらずに語り続ける。

 

 それこそ、託宣を告げるかのように。

 

 

『彼の者こそ、自らの存在を証明した虚像』

 

 

『彼の者こそ、実像を編んだ非存在』

 

 

『彼の者こそ、最も新しき第十一の預言者』

 

 

『彼の者こそ“知識を以て救済を為す舞台装置”』

 

 

『彼の者こそ“知性Logos”であり、“激情Pathos”であり、“神秘Mystery”であり、“恐怖Terror”であり、そして“例外Error”の体現である』

 

 

『誰にも預言されざる新たなる神性の証明にして、新たなる神名・・そのもの』

 

 

『故に────』

 

 

 その託宣に従うように、キヴォトスの各地から光の柱が幾本も突き立つ。

 それはアビドス砂漠の奥深くであり、ミレニアムの『廃墟』の中であり、氷海の果てであり、極地の火山の中であり。

 

 バシリカの至聖所に立つ最初の一本に比べれば弱々しくも、遠い別の自治区に居ながらも視認できるような、明らかに人知を超えし存在による御業であった。

 

 

 

『────祝福せよ、我らが新たなる同胞を』

 

 

 

 最後の言葉に従い、共鳴を起こすかのように。いくつもの光の波動が、上空に大きく広がる。

 それぞれの柱が非対称な位置にあるために幾度も反響を繰り返し、やがてその波は一本目の柱へと吸収されて行った。

 

 そして、それに応えたのだろうか。最初の一本目の場所でナニカが目醒め、一際大きな光の波動が同心円状に広がる。ゾッとするほどの、ヒエロニムスが可愛く思える程の神性を伴いながら。

 

「いったい……何が、起きて…………」

 

 まるで神話の一幕のような光景に一同ができるのは、呆然と呟くぐらいであった。

 

 

 




最後になりましたが、白オカメ さん、小狐 さん、namatya さん、黒宮狂夜 さん、名無しのぼっち先輩 さん、大樹の司書 さん、現実幻想 さん、継承者 さん、星立 さん、デンデン2号さん さん、景浦泰明 さん、けん0912 さん、虚無の異停 さん、KKカレン さん、Voice player さん、評価付与ありがとうございました!
一話で感想も評価も一気に来てて更に支援絵まで貰えてと正直ビビりました。でも幸せだからokです!
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