【本編完結】黒く濁った罪を背負って   作:RH−

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 サプラ~イズ♪(鬼怒川カスミ)(約2.5ヶ月ぶり三回目)

 総合評価10,000pt & 10評価50人突破感謝です。これからも頑張りますね。


振り返りと、次への準備:ホド

 ミレニアムサイエンススクール内、特異現象捜査部の部室にて。

 集まった数人の人影が、会話をしていた。

 

「さて、それでは。改めて、振り返りを始めましょうか」

 

 口火を切ったのは、車椅子に座った白髪の少女。つまりは特異現象捜査部の部長である明星ヒマリであった。

 

「そうね。……ただ、その前に一つだけ。改めて、あなた達の尽力に感謝を。事態が最悪にまで至らなかったのは、全てあなた達のお陰よ」

 

 続けて、『業務に差支えしか無いのでいい加減復帰してください』とユウカに懇願され(泣き付かれ)てミレニアム生徒会長に再就任した調月リオが口を開く。

 

「私はそれが仕事ですから。それに、C&Cへのお礼の時に一度受け取りましたので」

「私も別に気にしてないからいいよ。それに、今回はあんまり活躍したわけでもないしね、私」

 

 そんなリオの礼に対し、飛鳥馬トキと和泉元エイミの二人が頭を上げるように答える。とはいえ、その表情が仕方ないというような笑みになっている辺り、リオの堅物な側面も理解しての言葉なのだろう。

 そして、残る最後の一人が────つまりは先生が、締めくくるように言葉を紡ぐ。

 

「うん、みんなリオの力になりたくて頑張っただけだからね。だから、そこまで気にしないで」

 

 ブラックマーケットでの一件を解決し、改めてその振り返りと次への会議をするために集まったメンバーが、この5人であった。

 

 

 

「では、まずは最初から振り返るべきでしょうか」

「そうね。順を追って整理していった方が効率は良いでしょうし」

 

 ヒマリとリオの二人が司会として会話を回すという、この集まりではよく見かける光景と共に、回想が始まる。

 

「事件の発端は先生が私の協力要請を受けてミレニアムを訪れた日、つまりは5日前ですね」

「ええ。その日に、これまで沈黙を貫いていたホドが突如として活性化し、インベイドピラーで地上を侵食しながら脱走を図った。実際に戦ったのはC&Cぐらいだけれど……どんな印象を受けたか聞いてもいいかしら」

 

 ミレニアムに到着した日の慌ただしさを思い出しながら、先生は注意深く会話を聞く。

 色々とドタバタしていた事もあり、あの日の出来事についてはまだ完全には把握できていないからだ。

 

「そうですね……やはり、ミレニアム自治区から脱出する事を第一に行動していたように感じました」

 

 話を振られたトキの答えに、リオが頷きながら当日の物らしき戦闘の映像をホログラムディスプレイに表示させる。

 

「これはギリギリ侵食され切らなかったAMASから抜き取ったログを復元した映像なのだけれど……私も同じように分析しているわ」

 

 見ると、たしかにピラーの配置や侵食された無人兵器の動きは追っ手の撃破ではなく足止めを優先しているように感じられる。

 

「加えて、自治区を出てからの動きもあります。あの日の騒動の目的は、やはり自治区からの脱出で間違いないでしょう」

 

 そこに、ヒマリがいくつかのデータを追加で表示させる。

 ミレニアム自治区を抜け出た後の進行速度とその軌跡、動線上にあった学園の被害などなど……いくつものデータが、3人の発言を裏付けていた。

 

 少なくとも、自治区を出てからのホドは地中をゆっくりと掘り進めて移動するだけで、何か攻撃を試みられない限りは地上に干渉していないのは事実だ。

 

「そして、おおよそ3日の時間をかけてブラックマーケットにまで移動。その後は再度沈黙した……と」

「やはり、こうなるとホドの目的地はブラックマーケットだったと見て間違いないでしょうね」

 

 次にホドの動きが変化したタイミングにまで時系列を進め、次なる疑問を提唱するヒマリとリオ。

 すなわち────“ホドはブラックマーケットで何をしたのか、あるいは何をしようとしていたのか”。

 

 現状他のデカグラマトンの預言者は大きな移動はしていないが、これが分からなければその状態が続くかも予想できない。

 また、単純な話としても相手の目的が分かっていないというのはよろしくない。故に、少女たちは頭を悩ませるのだが……やはりその答えは見えてこない。

 

 そもそも相手が人智を超えた存在である以上は、仕方のない話でもあったが。

 

 と、そんな踊るばかりになりつつあった議論に一石が投じられる。つまりは残る一人、先生である。

 

「もしかしたら、なんだけど」

「先生、何か心当たりがあるの?」

「少し前のエデン条約について、覚えてるかな。あの時、光の柱が出現したタイミングで声が聞こえたんだ」

 

 エイミの質問に対し、先生は自身が持つデカグラマトンに関する情報のうち最も重要な物を挙げる。

 つまり、先生と一部の────おそらくは強い神秘を宿した────生徒にのみ聞こえた謎の演説である。

 

「ああ、ホシノさんやゲヘナの風紀委員長などが耳にしたという……」

「そう、それ。実は、あの中には『我らが新たなる同胞』って言葉が含まれてたんだ」

 

 その言葉に、そういえばと頷くリオとヒマリ。たしかに、聞かせてもらった内容にはそんな言葉が含まれていたはずだ。

 

「そして、一本目の……つまり、多分だけど『光の柱事件』のきっかけになった柱が出現したのは、アリウス分校の自治区だった」

「つまり、先生は……」

 

 おそらく彼が言わんとしている事を理解したのだろう。リオがポツリと呟いた言葉に、先生は頷きながら続きを語った。

 

「あの時、アリウスの自治区にいたのは数人のアリウス生徒とベアトリーチェ、そしてマクガフィンだった。そして、あの後に一瞬だけ見かけたマクガフィンは白色になっていた。付け加えるなら────ブラックマーケットはマクガフィンの本拠地でもある」

「マクガフィンとデカグラマトンには、関わりが……いや、マクガフィンはデカグラマトンの預言者、なの?」

「…………考えるべき可能性ではあるでしょうね」

 

 室内の空気が重くなりながらも、しかし続けられる言葉は無い。

 否定も肯定も、どちらをするにも根拠となる材料が足りていないからである。デカグラマトンやマクガフィンについては当然として、アリウス分校についても未だトリニティの一部生徒しか関われていない現状では、それも仕方のない事ではあったが。

 

 が、そんな中一人の少女が思い起こす。

 今はミレニアム生徒として生活している天童アリスに纏わる一件において、とある人物が語っていた話を。

 

「あの……よろしいでしょうか」

「ん? どうかしたの、トキ」

「たしか、以前ホシノさんが黒服なる人物から聞いた話によれば、マクガフィンはデカグラマトン第三の預言者と戦っていたのではなかったでしょうか」

「あ……」

 

 そういえばそうだったと声を漏らす一同。

 補足程度で語られたために忘れかけていたが、たしかに彼女はそう語っていた。

 

「じゃあ……『新たなる同胞』っていうのはまた別にいるって事?」

「いえ、それは早計かと。その黒服なる人物の発言が嘘である可能性もありますし」

「ええ。それに、敵対していたからこそ手元に引き込んだという線もあるわ」

 

 再び、議論が活発に動き始める。

 考えられる可能性はいくつもあるが、少なくともその“可能性”すら出ていなかったさっきまでよりは遥かにマシだ。

 

 ならばと、先生も改めて言葉を紡ぐ。

 

「その、一ついいかな」

「どうなさいました? 先生」

「黒服が嘘を吐いている可能性についてだけど、私はその線は薄いんじゃないかって思うんだ」

 

 少しだけ、怪訝な空気に満たされる室内。

 先生に対する信頼度はかなり高くなっているが、それはそれとして黒服はゲマトリアのメンバーなのだ。ならば、その発言は信じるよりも疑う方が姿勢としては正しいだろう。

 

 しかし、先生も根拠無くそんな事を口にしたわけではない。

 むしろ、彼にしかない根拠があるからこそ会話に割り込んだのだ。

 

「2年前の事件があった現場の写真は、みんなもホシノに見せてもらっていたと思うけど……実は、私は現場にまで行った事があるんだ」

 

 そう、キヴォトスに着任して初めての大きな案件の最中で起きた、不可解な現象。黒に染まったあの場所の砂に触れた際に垣間見えた、自身の物ではない筈の断片的な記憶。

 少なくとも、ただの兵器によって付けられた傷跡ではあんな事は起きないだろう。

 

 それに。

 

「色彩の恐怖(Terror)に侵されたベアトリーチェと対面して分かったけど、あの跡地には恐怖が漂っていた」

「────っ! それは、本当なんですか!?」

「本当に薄っすらとだけどね。どちらかと言うと、多分あの傷跡が刻まれる時に恐怖が少し含まれてたんだと思う。それが地表から放出された事で、結果としてあの場所に漂ってたって形だね」

 

 先生の言葉に、なるほどとヒマリは頷く。

 

「そのような異様な事になっているからこそ、2年前の事件には人智を外れた存在が関わっている。先生はそう仰いたいわけですね」

「そうだね。それと、マクガフィンがあそこまで派手な傷跡を残すような戦いをするって事は相手もそれ相応の者になるはずっていうのもあるかな」

「事実として、アビドス砂漠には一つ光の柱が立っているわけですし……なるほど、こうなると黒服とやらの言葉にも一定の信憑性は生まれますか」

 

 納得した様子を見せたのはヒマリだけでなく、リオ、トキ、エイミもまた理解を示す頷きをする。

 

「先生の言いたいことは理解したわ。それで……とりあえずそろそろ話を進めようかと思うのだけれど、何か異論はあるかしら。これ以上は仮定に仮定を重ねる事になりかねないわけだし」

「特にないかな」

「はい、私も」

「では────次は、ホドの鎮圧と現状についてですね」

 

 活性化したホドの鎮圧において共闘したSRT特殊学園のRABBIT小隊やゲヘナ学園の便利屋68、美食研究会、それに現地協力者として手を貸してくれた繋ぎ手。

 そして、最終的に未知の素材で構成された外殻を造ってその中に閉じこもったホド。

 

 いくつかの話を改めて押さえながら、議論は終着点へと着実に進んでいった。

 

「追い込まれたホドが外殻に閉じこもった段階で、ホドの放出していた光の柱は消失。同時に、確認できる反応は活性化前よりも弱まった状態にまで遷移した」

「未だ油断はできませんが、少なくともホドの鎮圧は果たせたと考えて良いでしょうね」

 

 ここで言葉を切ると、ヒマリは『特異現象捜査部』の部長として続きを語った。

 すなわち────

 

「さて、となると次はどの預言者の調査に向かうのか、という話になりますが。少々予定を変更して、ミレニアム郊外の『廃墟』に立つ片方を対象としたいと思っています」

 

 ホドの次に調査する預言者についてである。

 

「一応、理由を聞いてもいいかな」

「その預言者が、デカグラマトンの使役する軍勢の生産を担っているからです」

 

 元々の予定がどうだったのかは知らないが、変更したという事は何かしらの理由があるのだろう。

 そんな予想を基にした先生の質問に、ヒマリは待ってましたと言わんばかりに答えた。

 

「以前から進めていた調査によって、廃墟の兵器生産工場の生産システムAIがデカグラマトンの預言者となっている事は分かっていました。それでも、当初は市街地付近で活動しているアビドス砂漠の預言者を優先するつもりだったのですが……」

「ホドの鎮圧において現れたオートマタ兵は、私たちの想定以上に脅威的だったの」

「というわけで、これ以上の兵力を生産されるよりも先に叩くべきと判断しました。もちろん、対策委員会のみなさんにも相談した上での結論です」

 

 そういう事ならば否やはないと、先生は改めて了承の言葉を返す。元から協力する気満々ではあったが。

 

 

「ありがとうございます。……現在、ブラックマーケット付近でホドが活動したことで各地に犯罪者が移動し、結果としてキヴォトス各地での治安悪化が問題になり始めています。改めて、可能な限り速やかにこの事件を解決しましょう」

 

 

 タイムリミットが更に短くなったことを告げるヒマリの締めの言葉に、一同はそれぞれに返事をするのだった。

 

 

────────

 

「ミヤコちゃん……? どうかしたの?」

 

 リビング。何の変哲もない光景の中で、一人の少女が疑問を零した。

 視線の先には、スマホを片手に顎に手を当てて悩むそぶりを見せる白髪の少女が。

 

「ミユ。いえ、別に大したことでは……あるのですが。実は先生から、連絡が」

「なんだ、またか。分かってるだろうが、この場所の事は」

「教えてませんよ。教える気もありません」

 

 別の少女からの念押しのような言葉には若干食い気味に答えつつ。

 しかし少女は悩む様子を消しはしない。

 

 と、その会話が聞こえていたのか、別の少女がリビングの戸を開けながら一同へと話しかける。

 

「なになに、なんかあったの?」

 

 何があったのか、以前までのどこか燻ぶった様子が無くなり、協調的な姿勢を見せることもあまり珍しく無くなってきた少女。

 RABBIT小隊の最後の一人であるそんな彼女は、むしろトラブルを期待するかのような眼差しで問いを口にした。

 

「ミヤコちゃんが、先生から連絡があったとかで……」

「なんだ、いつものじゃん。どうせ内容も『ちゃんとご飯食べてる?』とか保護者みたいなやつでしょ?」

「いえ。今回は、少しばかり毛色が違いまして」

「次に調査する光の柱の場所……? え、これって」

 

 否定の返答と共にミヤコがモモトークの内容を見せると、他の隊員は眉根に皺を寄せて考える。

 つまりは、数秒前のミヤコと同じ状態である。

 

「ええ。わざわざ最後に『君たちもまだ光の柱の調査をするのなら、一緒にどう?』なんて事まで言われました」

 

 反応は三者三様。

 サキは先生を信頼していないがために湧き上がる反骨精神で顔をしかめ、ミユは結局先生の目的が分からないがために困惑し。

 

 そして。

 

「別にいいんじゃない? 協力する事になっても」

 

 モエは、ただ一人好意的な反応を示した。

 

「本気か!? そもそも、アイツと協力したら手柄はシャーレの物になるだろ!」

「まあ確かに“SRT復活のための功績集め”って最初の目的は遠ざかるかもだけどさ……でも、また同じようなデカブツが出てきたとして、私たちだけで対処できる?」

「それは……」

「もし失敗したら、それは逆にSRTの立場を悪くする事になる。それに、先生なら手柄を独り占めなんて事はしないんじゃない?」

 

 静寂。

 サキはモエの言葉に反論できるだけの説得力を持たず、モエはこれ以上の発言は余計な事になると口を閉ざし。結果として、リビングは沈黙の空白に満たされる事になった。

 

 と、その中で、一人の少女が口を開く。

 自分の中で両者の言葉をそれぞれに咀嚼し、答えを出した少女である。

 

「……今回は、モエの言う通りですね。最後の一言はともかく、私たちだけであのホドなる存在の鎮圧は不可能でした。認めるのは非常に癪ですが、先生の力が無ければ危なかったでしょう」

 

 功績だけでなく自分たちの安全なども考慮し、ミヤコは判断を下す。

 反論は、誰からも上がらなかった。

 

 

 ────次の目的地はミレニアム郊外、『廃墟』です。皆さん、準備してください。

 

 

 リビングに声が響き渡り、各員の表情が引き締まった凛々しさに彩られる。

 それぞれの思惑の下、舞台が次の幕へと移った。

 

 

 




最後になりましたが、蓮のそのっち さん、七哥 さん、パトブルペル さん、ゆずっこ さん、弓ヶハマー さん、maaaanju さん、評価付与ありがとうございました!
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