【本編完結】黒く濁った罪を背負って   作:RH−

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振り返りと、次への準備:ケセド

「全員揃ったかしら? ……特に問題はなさそうね。それなら始めましょうか」

 

 ケセドの鎮圧を終えて一夜明け、再び特異現象捜査部の部室に集まる面々。

 ただし、今回は少しばかり顔ぶれが変わっている。

 

「アリス、今回は重要な会議ですから余計なタイミングでは喋らないようにしてくださいね」

「大丈夫です、ケイ。だって今回は尋問イベントじゃないですから!」

「これは……どっちです?」

「まあ、何かあったらその都度フォローすればいいさ。それに、この会議はほとんど身内の集まりだしね。そう肩肘を張る必要もないだろう」

 

 わちゃわちゃと会話をしているのは、天童アリスと天童ケイ、それに白石ウタハの三名。

 ケセドの一件で起きたいくつかの事柄について話を聞くために招聘された、そんな面々であった。

 

 

 

「こほん。それでは、会議を始めましょうか。といっても、今回はケイちゃんたちに話を聞くのがメインになりそうですが」

 

 改めて、咳払いと共にヒマリが切り出す。

 普段よりも人口密度が高いからか、はたまた相変わらず仲良しな天童姉妹を眺められたからか。どことなく微笑の浮かべられた顔はツヤツヤしているようにも見える。代わりにエイミは普段よりも暑そうなのだが。

 

「そうね。ただ、一応工場内部に突入してからの話も聞かさせてもらいたいのだけど……いいかしら」

 

 そんなヒマリの言葉に続くのは、同じく天童姉妹のやり取りにほっこりしていた調月リオ。

 最初の頃はアリスを()そうとしていた負い目などもあり複雑な感情を抱いていた彼女だが、今ではすっかり絆された様子である。

 

 ヒマリやセミナーの面々を始めとした他者に頼ることを覚え、さらにはアリスとの関わりやゲヘナでの経験を経て合理以外の道を知った彼女は、今ではゲームに挑戦するぐらいには変化していた。

 そして、そんな彼女の言葉を受けて『それもそうですね』とヒマリが返し、ようやく振り返りは始まるのだった。

 

 

「まず、兵器生産工場へ突入した直後の時点で作戦は崩れ始めていました」

「オートマタ兵が陣形を整えて待ち構えていたのだったかしら」

「ええ、そうです。周囲に監視システムを構築していたのか、外部のオートマタ兵に斥候をさせていたのかは不明ですが……」

 

 そこで一度言葉を切ると、『ケセドの特徴に由来した方法だとは思いますが、残りの預言者についても奇襲は不可能だと想定しておく方が良いでしょうね』とヒマリは締めくくり、話題を次の物へと進める。

 

「ただ、正直それは大した問題ではありませんでした。……その後に発覚した誤算が大きすぎた、と表現する方が正しいでしょうが」

 

 硬い表情で、記録として撮影しておいた映像を再生するヒマリ。

 そこには、如何なる原理か破壊されたオートマタ兵の残骸を別のオートマタ兵が取り込んで、あるいは身に纏って自身の強化に充てている姿がはっきりと映っていた。

 

「……以前の一件におけるDivi:sionと、同様の動き」

 

 口頭での報告は受けていても、実際に映像として見るのとでは重さが異なってくるのだろう。顔を顰めるように記録映像を眺めるリオの顔には、くっきりと『厄介な事になった』と書かれていた。

 

「ええ。これに関しては、C&Cの方々やエイミにも確認し、そして全員があの時と同じだったと答えています。間違いないでしょう」

 

 映像が切り替わり、ネルが足止めに残る事を決めるに至った原因、つまりは最後の一機が映し出される。

 それ以外の全てのケセドの軍勢を取り込みゴリアテと同等かそれ以上の巨体となった姿は、どこまでも異様であった。

 

「……現状、私たちはこの現象に関して一切の知識を有していない。そして、これがDivi:sion固有の特性ではなく再現性のある事象だと言うのなら……私たちはその対策を講じなければならない」

 

 そう言いながら、リオが体の向きを変える。

 姿勢の正されたその正面に立つのは────天童アリスと天童ケイの二人。

 

「ただの天童アリスと天童ケイであることを選んだあなた達にこんな事をお願いするのは、間違いなく恥知らずな行い。詰ってもらっても、恨んでもらっても構わない。それでも良いから……どうか、この現象に関しての知識を私に教えてほしい」

「……リオも、できるのならばあなた達にはただの生徒として過ごしてほしいと思っています。それができないのは、偏に私たちの力不足です。ですから────」

「はぁ、その辺りを勘違いするほど私も姉さんも馬鹿じゃありません。それに、これは私の変化にも関わる事ですので元から話すつもりでしたし」

 

 深く頭を下げようとするリオを留めるように、そして責任の独り占めを許さないためにヒマリが言葉を続け、それに対して呆れたようにケイが答える。

 今更それが読み取れないほど知らない仲でもないだろうに、と。

 

「まず、Divi:sionが起こしていた現象ですが……そもそもあれは私やアリスの手を離れた“誤作動(エラー)”でした。予測や分析はできますが、私も全てを理解している訳ではないという事を理解しておいてください」

「ええ、それで問題ないわ」

「では、お話ししますが。先ほどエラーだったと言ったように、あれは本来起こり得ない事象でした。Divi:sionにあんな機能は搭載されていませんから」

 

 そうケイが語った内容は、纏めると『アレは外部からの入力によってDivi:sionに発生した謂わば“バグ”であり、そしてケセドはそれを分析して再現したのだろう』といったものであった。

 

「という事は……」

「残念ながら、私も姉さんもあの現象の原理は知りません。おそらく、それを正確に把握していたのはケセドだけでしょうね」

「なるほど。いえ、それだけでも十分すぎる内容です。ありがとうございました」

 

 何の手がかりも無かったのがさっきまでである以上は、話を聞けた現状は比べるべくもなく進展している。メモを取るヒマリの言葉には、深い感謝の念が表れていた。

 しかし、ケイの話はまだ終わったわけではない。むしろ、ここからが彼女の呼ばれた“本題”の部分なのだ。

 

「さて、それでは先ほどの『入力』にも関わるのでさっさと私の変化についても話そうと思いますが……問題無いですね?」

 

 つまり、ケセドとの戦闘に際してケイが打った“博打”について。

 もっと飾らずに言えば、彼女の身体がどうしてアリスと同じ『名もなき神々の王女』のボディに変化したのかについてである。

 

「前提として、Divi:sionの変異と私の変容、それにあのオートマタ兵たちの変性は同じ物を原因としています。即ち────あなた達が“マクガフィン”と呼ぶ存在の神秘です」

「────ッ!」

 

 ここでもその名が出てくるのかと、先生たちの表情が強張るが。それを気にせずに、ケイは続きを語る。

 

「神秘とは何か、については本筋から外れるので割愛させてもらいます。とにかく重要な事は、あの兵器生産工場にはマクガフィンの神秘が嫌というほど漂っていて、それがケセドの軍勢がDivi:sionと同じ現象を起こすためのエネルギーになっていたという事なので」

「その、“嫌というほど”という事は、あの工場内の環境は異常なものであったと……?」

「そうなりますね」

 

 マクガフィンなる者がケセドを援護しようとしていたのか、それ以外の原因があるのかは不明ですが、とヒマリからの質問への回答を終えると、他にも質問が無いかと周囲を見回すケイ。

 とはいえ、先ほどから度々『細部は不明』といった内容の言葉が出ている辺り、彼女も全てを理解しているわけではないのだろう。その表情からは、どことなく不可解な現状への苛立ちが含まれているようにも映った。

 

「端的に言ってしまえば、そのマクガフィンの神秘を取り込んだ事で私の変化は起きました。……こちらも、原理は全くの不明ですが。ああ、理由は切れかけたエネルギーの補充や敵のリソースを切り崩す事などですね」

「……ケイ、流石に無茶をし過ぎよ。本当に、無事でよかったわ」

「今回はリオに全面的に同意ですね。どんな危険性があるかも分からない物を取り込むのは、博打ではなく自殺行為です」

 

 そのまま事の顛末を語り切ったケイに、リオとヒマリが苦言を零す。

 本人もそれがただの嫌味ではなく心配を基にした言葉だと理解しているのだろう、居心地悪げな様子ながら反論は行われない。

 

 しかし、遡ればケイが博打を打つに至った原因の一つに『自分たちの力不足』がある事を理解しているからか。リオもヒマリも、その表情は苦々し気な色に覆われていた。

 

「……」

「……」

 

 室内が、そのまま重い空気に満たされ始める。

 誰も彼もが何と言葉を続けるべきか分からずに口を噤んでしまったからだ。

 

 と、そんな中、パンと一つ乾いた音が辺りに響いた。

 音源は、先生の手元。おそらく手を叩いたのだろう、両手の平を重ねた状態で彼は口を開く。

 

「ひとまず、反省は後に回して会議を進めよう。もちろん反省する事は大事だけれど、今は預言者の対応の方が優先度が高い」

 

 本人も色々と思うところはあるのだろう。

 ついさっきまでの表情を思い出せば、その程度の事は容易く予想できる。

 

 けれども、先生はその上で切り替えようと呼びかけたのだ。

 ならば、彼を先生と仰ぐ生徒たちもそれに続く。

 

「そう、ですね。それで、ケイちゃん。特に身体に異変は無いんですね?」

「ええ……それに関しては、問題ありません」

「ああ。私たちでチェックできる範囲内に不具合は何も無かったよ。アリスと同様にブラックボックス化してしまった部分については、分からないけれど。……マイスターとしては不甲斐ないばかりだ」

 

 視線を向けられたウタハもまた、暫定的ながら肯定の言葉を返す。

 最後に続けられた言葉に込められていた感情が後ろ向きなモノばかりではない辺り、エンジニアとしてのプライドが刺激されたのだろう。その姿からは、『いつか絶対に全てを解き明かしてみせる』といった気迫が漏れ出ていた。

 

「まあ、問題無いようなら良かったわ。……ところで、ケイ。もし私の杞憂であるならそれでいいのだけれど、あなたの変化ってもしかして…………」

「ええ。それについても触れるつもりでしたが、プロトコルATRAHASISと非常によく似た……というか殆ど同質の現象でした」

 

 その言葉に、再び室内の空気が張り詰めた物になりかけるも。

 続く『とはいえあれは残滓のような物だと思うので、変わらず私もアリスもプロトコルATRAHASISの実行は不可能です』という言葉でそれは霧散した。

 

 すっかり二人に絆されたからだろう、リオなど露骨に胸をなでおろしている。

 

「とはいえ、どこから情報が広がるか分かりませんし……何より、それがどう歪むんでいるかも分かりません。変に勘違いした輩が出る可能性もあります。私たちの方でも警戒しておきますが…………」

「ええ、私たちの方でも気を付けておきます。……とはいえ、私も姉さんもただで誘拐されたりするつもりはありませんが」

 

 なんてやり取りを最後に、工場突入組からの振り返りは終わりを告げる。

 だがそれがこの会議の終わりも告げるのかと言えば、そうではなく。続けて始まるのは、外部の掃討に当たっていたリオからの情報共有。

 

「こちらは工場内部のような異変は起きなかったのだけど……共有する必要のある物を一つ、発見したの」

 

 そう言ってウタハと頷きを交わすと、リオは背後に置いていた布に包まれた棒状のナニカを机の上に置いた。

 はたして、その布が解かれた下にあった物とは。

 

「デカグラマトンのオートマタ兵……の、腕? それにこっちはDivi:sionのパーツ?」

「ええ」

 

 何か、高エネルギー兵器によって穿たれたかの如き破壊痕を持つそれら。

 呟かれたエイミの疑問に肯定を返しながら、リオはその詳細を話そうとした────のだが、それよりも早く一つ声が上がった。

 発生源は、これまでケイの言いつけを守って静かにしていた天童アリス。驚いたように目を見開きながら、彼女が呟いたのだ。

 

「魔法使いさん……やっぱり、そうなのですね」

 

 その言葉にピクリと反応したのは、アリスの語る『魔法使いさん』の正体に当たりを付けている面々。すなわち、先生、リオ、ヒマリ、ケイの4人である。

 

「アリスちゃん……えっと、その、魔法使いさんは…………」

「大丈夫です、ヒマリ先輩。アリス、知っています。魔法使いさんが、あの黒ずくめの人だっていう事も……指名手配されているっていう、事も」

 

 今度は、“ピクリと”なんてレベルでは収まらない程の反応を見せる4人。

 

 そもそも、先生たちはアリスに『魔法使いさん』の正体を告げていなかったのだ。

 それは何と伝えるべきか分からなかったという葛藤であり、そして知らずに済むのならばその方が良いという愛憐であり、そしてまだそうとは確定していないからという希望でもあった。

 

 そういった感情から、4人はアリスの恩人である『魔法使いさん』についてはなるべく触れないようにしていた。

 それが、いつの間にか彼女は自力で真相に辿り着いていたのだ。それにポーカーフェイスを維持するというのは、当然ながら困難な事だろう。

 

 けれども、そんな4人の内心を知ってか知らずかアリスは続ける。

 

「元々、どこかでそんな気はしてました。あの黒ずくめの……マクガフィンさん。あの人は、口ではとても酷い事を言っていましたが、けれどもとても優しい手つきでしたから。まるで壊れ物を扱うように……希望を籠めるように、アリスの事を扱っていましたから」

 

 はたして、自身の恩人である『魔法使いさん』と自身の仇敵とも呼べる『マクガフィン』が同一人物だと理解した時。彼女は、何を思ったのだろうか。

 静かな表情を崩さない今のアリスからは、読み取れなかった。

 

「それに……あの時、エリドゥに向かってきていたDivi:sionは誰かに阻まれていました。だからアリスは信じる事にしたんです。あの魔法使いさんが、あの人の本当の姿なんだって。それに、ケイと一緒に取り込んだ魔法使いさんの神秘はとっても優しかったですし」

 

 けれども、彼女はその事実を受け止め、そしてとっくのとうに確と答えを出している。それだけは、間違いなく読み取れる事であった。

 

「そう、だったのね。ごめんなさい、アリス。私は、あなたの事を見くびっていたみたいだったわ」

「アリスを思っての事だったんですよね、リオ会長? だったら、大丈夫です」

 

 そんなアリスの言葉に礼を返すと、改めてリオは机の上のいくつかのパーツについて説明した。

 内容としては『エリドゥ外郭の地面を掘り返していたオートマタ兵が回収しようとしていた物』だというそれは、下手人候補がマクガフィンだけであるため、やはり彼とデカグラマトンの預言者は敵対関係にあるのではないかという結論へと繋げようとしていたらしいのだが。

 

「というのが私から共有しようとしていた事なのだけれど……アリス。さっきの『やっぱり、そうなのですね』という言葉について、教えてもらえないかしら」

 

 それ以上に気になる言葉が出てきたことで、議題はそちらへと移る。

 すなわち、アリスだけが気付いたらしい何かについてへと。

 

 

「昨日の工場には、実は魔法使いさんも来ていたんです。たぶん……アリスたちを、見守ってくれていました」

「────ッ! アリス、それは本当なの!?」

「はい」

 

 正しく、それはアリスにしか把握できない事実であった。

 魔法使いさん……マクガフィンとの関わりがあり、そして彼の神秘(気配)で満たされた工場内でも彼本体のそれを感じ取れる。そんな彼女だけが知ることのできた事実であった。

 おそらく、名もなき神々の王女としての身体もその感知には役立っていたのだろうが。

 

 けれども、だからこそ彼女は理解してしまったのだ。

 

「でも……魔法使いさんは変わっていました」

「それは、精神性がという事? それとも……」

「たぶん、神秘がです。きっと何かがあって、変わってしまったんだと思います」

 

 神秘について有する知識量は少なくとも、それが変化するという事の異常さは理解できる。

 室内の誰もが、体を強張らせた。

 

「とても綺麗で、眩しくて……けれども、とっても寂しい。そんな神秘に、魔法使いさんは覆われていました」

 

 机の上に並べられたオートマタ兵の腕やDivi:sionのパーツを。

 そこに僅かに付着した、かつての『魔法使いさん』の神秘を感じながら。

 

 天童アリスは、静かに話す。

 

「アリスに分かったのは、それだけです。魔法使いさんが、変わってしまった事。ただ、それだけです」

 

 どこまでも強く、優しさを滲ませながら、しかし今にも壊れてしまいそうな儚さに覆われた。

 そんな青年の事を。

 

 

「でも、アリスには分かります。あの人は、きっと止めないと駄目です。どこかで止めてあげないと、いつか……」

 

 

 いつか消えてしまう。

 そんな『聖人』に成り果てた存在の事を。

 

 真実は、きっとすぐそこに。

 

 

────────

 

 場所は移り、D.U.某所の一軒家にて。

 ケセドの鎮圧を終えてから二日の時が経った頃。

 

 現在はそこを拠点にしている4人の少女たちは、中々に険悪なムードで割れていた。

 

「そもそもこれまでがおかしかったんだ! 連邦生徒会がSRTを閉鎖させたっていうのに、その連邦生徒会が任命しただけのお前をずっと隊長にしていたこれまでが!」

 

 原因は、そこまで込み入っていない。

 前回と同様に先生から次に対応する預言者の情報が流れてきたという事で、ミヤコが次の目的地をアビドス砂漠に設定し、そしてそれにサキが反発した。

 

 文字に起こせば、たったそれだけ。

 

 しかし少女たちにとっては“それだけ”などではない。

 なにせ、今のところSRTはいいとこなしと表現するべき状態なのだ。憧れでもあるFOX小隊とは違って目立つ活躍もできておらず、結局はシャーレや他校の生徒に助けられて光の柱事件を解決している。

 

 この状況で焦燥感を抱かないというのは、少女たちには────特に、SRTが閉鎖されてから変化していないサキやミヤコには────不可能な話であったのだ。

 

 そして今回、ついにその現状に限界を迎えたサキが爆発した……というのが、この険悪な空気が形成されるまでの流れであった。

 

 

 

「私もお前も、もう同じ立場でしかないはずだ。それなのに、どうしてお前を隊長に立てて命令を聞かなくちゃならないんだ!?」

「それは……」

「そうだ! これまでの失敗も、お前の指揮が悪かったからじゃないのか!?」

「……っ」

 

 感情的ながらも、ある意味サキの言葉は真理を突いている。

 そもそも、これまでがSRT時代の名残をズルズルと引きずってきていただけで、ミヤコが隊長として指揮をする正当性はどこにもないのだ。

 

 信任された訳でもなく上から任命されただけである以上、サキの言葉を否定する事はできない。

 

 加えて、先生という優れた指揮官の存在もある。

 自分たちの障害として見なしている彼に勝るような指揮ができていない以上、サキの非難に反論する事もまた、ミヤコには不可能であった。

 

 実際には、そもそも先生とミヤコとでは経験値や戦場における立ち位置などに大きな差異があるし、そもそもミヤコの指揮の腕は先生が密かに一目置く程度には優れているのだが。

 それらに目を向けられていない以上は、ミヤコが黙り込んでしまうのも当然の事。

 

 だがしかし、それがサキの言葉に反論が出ない事を意味するのかと言えば、それは否であった。

 

「サキ、流石にそれは言い過ぎ」

 

 声の主は、丸眼鏡をかけたグレージュの髪の少女。すなわち、風倉モエ。

 彼女は真っ直ぐと正面からサキを見ると、静かに反論を放った。

 

「……なんだ。お前はミヤコの味方か?」

「いや、そんなつもりはないけど。私はどっちかに肩入れするつもりないし」

「ならさっきのは────」

「────ただ、そもそも私たちの実力は指揮の良し悪しで預言者をどうにかできるような域には無いでしょ。だったら、その責任をミヤコ一人に押し付けるのは違くない?」

 

 被せるようにサキへと放たれた言葉は、そのまま彼女の反論を封殺してしまう程度には鋭く。

 冷や水を浴びせられたかのように、サキは黙り込んだ。

 

「まあ、サキの言葉にも分かる部分はあるけどね。特に、今の私たちに上下関係は無いだろって部分とかは」

「お前はどっちの味方なんだよ……」

「だから言ったでしょ? 私はどっちかに肩入れするつもりないって。まあ、正直上から任命されたって事はミヤコには指揮官としての素質はあるんだろうとは思うけど。でも、それだけだと納得できないんでしょ?」

「それは……いや、そうなんだが」

「ま、だから一回試してみるのも手なんじゃない? その辺りの判断は当事者間でどうぞって感じだけど」

 

 実にさっぱりとした彼女の言葉は、すわ小隊の空中分解も目前かとなっていた空気感をリセットさせる。

 サキも多少は冷静さを取り戻したのか、『私は言いたいことは言い切ったぞ。で、どうするんだ?』といった視線をミヤコに向ける程度で留めるようになった。

 

「……ミユは、どう思いますか?」

「えっと……私は、ミヤコちゃんは頑張ってると思うし、特に不満は無いけど。それに、一昨日の失敗は私の処理が遅れたのが原因だし」

 

 以前よりも格段に自分の意見を口にするようになったミユの言葉を聞きながら、ミヤコは思考する。

 はたして、どう選択するのが正解なのだろうか、と。

 

 何を選ぶのが良いのかを思考して、思考して、思考して。

 彼女が出した結論は────

 

「分かりました。次の預言者に関しては、サキに指揮を任せます。よろしくお願いします」

 

 

 

 斯くして、いくつもの変化を見せながらも舞台は移る。

 次なる預言者は、漸く眠りから覚めた存在にして最初にダアトからの入力を受けた“違いを痛感する静観の理解者”。

 

 いくつもの因縁が始まった彼の地で何が起きるのかは────まだ、分からない。

 

 

 

 

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