【本編完結】黒く濁った罪を背負って   作:RH−

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 次話は来週だと言ったな……あれは嘘だ。
 いやですね、日間をぼんやりと流し見てたらなんか見慣れたタイトルがあったんですよ。拙作なんですけども。しかも日間22位!? うせやろ!? ってびっくりしまして。
 びっくりと嬉しさで頑張ったら頑張れたので、更新できました。

 みなさん、ほんっとうにありがとうございます!!!
 でも流石にこの次の話は期待しないでください、絶対に間に合いません……
 あ、そうだ。一話目のアレなんですけど、透過させて空行に紛れ込ませるんじゃなくて滲ませる形に変えてみました。流石に一々調べんのもめんどくさいよな……と思ったので。
 何について言ってるか分かってる方は特に気にしないでいいです。


ブラックマーケット

「……」

 

 アビドスに滞在する間宿泊しているホテル、そのベッドに腰掛けながら先生は考え事をしていた。

 

 思い返すのは昨日の出来事。

 砂に埋もれたアビドス旧校舎にてホシノの話を聞いた、その少し後。

 

 落ち着いたホシノの「先生、そろそろ帰ろっか? あんまりダラダラしてるとみんなに心配されそうだしね」という提案に乗り、さあ帰ろうかと思った辺り。

 何の気なしに黒く染められた砂漠を見返した先生は、以前縁を結んだミレニアムサイエンススクールのユウカなどであれば分かる事があるかもしれないと思いつき、砂を一部持ち帰ろうと考えたのだ。

 

 そうして砂に手を触れた先生の脳裏を駆け巡った────否、蹂躙した()()()()()()()

 

 

 何かの機械に繋がれたショートヘアの少女。

 

 砕け散る瞳を模したヘイロー。

 

 生徒名簿に刻まれた『行方不明』の文字。

 

 どこか知らない場所で砂に埋もれた、鈍く輝く一枚のカード。

 

 銃痕の刻まれたタブレット状の端末。

 

 

 

 そして。倒れ伏す大人と、それに縋りつくように涙を流す誰か。

 

 

 

 

(あれは一体…………)

 

 まるで昔のことを思い出したかのように、フッと浮かんできた情景たち。

 昨夜はセリカが誘拐されたことで考える暇が無かったが、やはりあれらは異常に過ぎる。

 

 ただの幻覚にしてはやけに鮮明で質の悪いそれら一切に、心当たりは全く無かった。だというのに何か言いようのない不安と焦燥を抱きながら、先生は考える。考え続ける。

 

 

 彼はまだ気付いていない。

 記憶が混線したことで、その本来の持ち主に曖昧にではあるが捕捉されてしまったことを。

 

 青春の物語。そのテクストがごく僅か、ほんの少しだけ解れ始めたことに。

 

 夜は長く、着実に更けていく。深く、深くまで。

 

 

 

────────

 

 ホシノが強襲兵ばりに暴れていたこと以外は凡そ原作通りにセリカの誘拐事件が解決されたことを確認したその2日後。

 約一ヶ月ぶりに俺はブラックマーケットの地を踏みしめていた。

 

 理由は単純、今日は先生たちがブラックマーケットを訪れる日だからだ。とはいえかなり早めにアビドスを出たため、先生たちが来るまではしばらくの猶予がある。

 流石に列車の中まではチェックできていないが、アビドスからブラックマーケットまでの経路上に危険な存在は何も無かった。予定通りならば30分もすれば到着するだろう。

 

「……相変わらず騒がしい場所だ」

 

 十分おきぐらいで定期的に銃撃戦が起こるブラックマーケットを久方ぶりに眺めながら小さく呟く。

 ヒフミが来ていることは確認できた。カイザーの動きも今は落ち着いている。他には……特にないか。

 

 交通機関が使えず、あまり大々的に神秘を使う訳にもいかないため思ったより移動に時間が掛かったが、先入りしたのはこの辺りの確認のためだけじゃない。

 俺自身の野暮用を済ませるためでもある。

 

 最後にもう一度全体を見回してから、俺は街の観察のために登っていたビルを飛び降りた。

 先んじて隣のビルに神秘の糸を刺していたため、その軌道は放物線を描いて加速する。そのまま頂点に到達する少し前に糸を消し、勢いのまましばらく飛んでから反対の腕でまた別のビルに神秘の糸を突き刺す。

 

 それを繰り返していると────見えてきた。D.U.と似たような雰囲気の廃墟たちと瓦礫の山だ。

 立てかけられた扉に刻まれたシンボルが真新しい濃さであることを確認してから糸を消すと、全身で衝撃を逃がしながら着地する。

 

 上から見れば丸分かりだが、この場所に来るまでの経路は全て倒壊したビルなどで塞がれている。

 ここだけでなく全ての店で同じように工作が為されているのだが……アイツはいつもどうやって入っているのだろうか。もしかしたら秘密の通路でもあるのか?

 

 なんてどうでもいい事を考えながら扉の奥の階段を降り切れば、D.U.よりも少し豪華に装飾を施された両開きの戸が目の前に。

 

「いらっしゃいませ。お待ちしていましたよ、マクガフィンさん」

「どーも」

 

 特に感慨も無くその扉を開ければ、バーカウンターの奥でグラスを磨いていた繋ぎ手が挨拶してきた。

 …………口も何も無いのに使うのか? そのグラス。

 

「っと、ちゃんと砂は掃って来てくれましたか? アビドスの砂は風が吹くだけで巻き上がるので、天井とかカーテンとかに付いて掃除が大変なんですよね。気を付けてくださいよ?」

「……」

 

 無言のまま、いつでも動けるように体を半身に構える。

 同時に、睨み付けるように両の眼へと力をこめる。繋ぎ手の一挙手一投足すべてを見落とさないように。

 

「おや、思ったよりいい反応。ああ、以前にも言ったように敵対する気はさらさら無いのでご安心を。そもそもそんな選択肢ありませんしね」

「……どうだか」

「いやいや、貴方が本気になればゲヘナでもトリニティでも一人で潰せるでしょう? そんな相手を敵に回すなんてできるわけないじゃないですか」

「いや流石にそこまではできねえよ」

 

 …………マズいな、完全にペースを崩されてる。

 初手でイニシアチブを握られたせいで無駄な反応が多くなってしまった。確実に俺の目的が今のアビドスに関係していることはバレただろう。

 

 そして今のアビドスといえば、『カイザーが裏から手を回しているせいでアビドス高校は窮地に立たされ、その救援のために先生が赴いた』という状況。

 候補はカイザー・アビドス高校・先生の三択にまで簡単に絞り込めてしまえる。

 

 俺の目的が割れたところで計画に支障をきたすことは無いと思うが……場合によっては繋ぎ手と敵対する可能性も全然ある。

 そうなった時に先生の身柄を抑えられでもしたら非常に困る。

 

 それに、アビドスでは俺はまだ何もしていない。現状ただ監視をしているだけで一切目立っていないはず。だというのにこの短期間で俺の動向を掴めているということは、いずれ俺の過去にまで行きつく危険性がある。

 いや、もしかしたら既に────

 

「これはデモンストレーションと、ちょっとした忠告ですよ」

「忠告?」

「ええ、貴方はブラックマーケットにおいてかなり注目されています。私の場合は独自の情報網もあるからですが、他の組織────それこそカイザーとかですね。あの辺りも本気で探れば貴方がどこに居るのかぐらいは把握できます」

 

 磨いていたグラスを棚に戻し、また別のグラスを取り出しながら繋ぎ手は続きを語る。

 

「なるべく人目に付かない場所を拠点に選んでいるようですが……そういう場所は逆に我々裏側の人間が良く使う場所でもあります。一度そのポイントに気付かれれば、今度は貴方がカイザーに襲撃される番になるでしょうね。そもそも、今でさえ稀に拠点がバレて襲撃されているわけですし」

「……話が回りくどい。結局何が言いたいんだ」

 

 言った後でまんまと繋ぎ手のペースに乗せられていることに気付いた。年季の違いもあるし、こういった交渉事などでは勝てないと分かっている。分かってはいるのだが……やはり良い気分にはなれない。

 とはいえ口から出た言葉を戻せるわけもなく、俺ができるのは顔を顰めつつこれ以上乗せられないように気を張ることぐらいだった。

 

 そんな俺の内心を知ってか知らずか、繋ぎ手は飄々とした態度を崩さずに語りかける。

 

「教えてあげましょうか? 表だけじゃなく、裏側からも露見しにくい拠点の作り方。私はそう言った方面では専門家と名乗れるレベルですしね」

「対価は?」

「日頃のご愛顧への感謝って言ってもいいんですが……それじゃ信用できないですよね?」

「当たり前だ」

 

 このブラックマーケットでタダなんて言葉を信じるような奴は速攻でカモられてお終いだ。毎日が騙し合いと暴力の連続。いかに狡猾に、そして容赦なく立ち回れるかが生存率を左右するような世界である。

 比較的穏やかで常識的な繋ぎ手ではあるが、ブラックマーケットで活動していることには変わりない。互いに腹の内は見せあっていない……というか俺の腹の内を見せられない以上、ビジネス以上の信頼関係など築けようもない。

 

 俺が最低なクソ野郎であることは認めているが、さすがに露悪趣味までは持っていない。罪を懺悔するのは裁かれる最期の時だけで十分なのだ。

 

「なら……そうですね。私を切ってカイザーの側へ付く事の禁止、それにカイザーを潰すために最大限の助力をする事、でどうですか?」

「少し待ってくれ」

「構いませんが、返事はこの場でお願いしますね」

 

 繋ぎ手の提示した条件を精査するが、やはり不審な点は見られない。というか、はっきり言えば俺にとって有利すぎる条件だ。

 俺がカイザーと手を組むことなど太陽が西から昇るよりも有り得ないことだし、潰せるならさっさとカイザーを潰したいというのも常々思っていることだ。そして、そんなことは俺の動向を調べれば簡単に読み取れる。

 

 よって、繋ぎ手がこの条件で得られるものは何も無い。勿論、こうして明文化することでより確実に俺を縛ることはできるが────そんなものが得られる物に数えられるわけがない。

 言うなれば、“循環小数の0.99……”を“整数の1.0”にするだけの作業だ。何のメリットにもならない。

 

 それに対し、繋ぎ手は自分の拠点作成法を晒すことになる。

 一から十まで全てを教えはしないだろうが、それでも拠点を選ぶ際の傾向や偽装手段などは把握されるのだ。同じカイザーと敵対している身でも、繋ぎ手は俺と違って戦闘力を持たない事を考えれば、この情報の価値は大きく変わってくる。

 

 

 そこまでのリスクを抱えてリターンが皆無な選択肢を取る、それも『繋ぎ手』が?

 ナンセンスだ。その可能性こそが皆無だろう。

 

「随分考え込みますね……そんなに魅力が無いですか?」

「…………逆だ。どれだけ考えてもお前の提案は俺の利にしかならない。から、怪しんでいる」

「利はあるじゃないですか、さっき提示した条件」

 

 あえて正直に言うことで反応を伺ってみるも、何の成果も得られずに会話は終わりを告げる。

 ここまで相手の思惑が読めないのならばやはり断るべきだろうか。しかし四六時中カイザーに襲撃されるようになれば、これからの動きは格段に制限されるようになる。

 

「さっきも言ったように、これは日頃から取引して下さっているマクガフィンさんへの感謝のようなものです。そこまで気負わずに考えて貰えばいいですよ? それに、既に貴方には返しきれない恩と負債があるんですから

「…………分かった。『繋ぎ手』、お前の提案を受けよう。ただしこのままじゃ不平等が過ぎる。何か条件を足してくれ、じゃないと俺が安心できない」

 

 悩みはしたが、ここはリスクを承知で踏み込むべきだと俺は判断した。

 自分の保身に走った結果先生や生徒の誰かが傷付いた、なんて笑い話にもならないからだ。

 

 ここに来てからかなりの時間を消費しているのもある。既に先生たちもブラックマーケットに降り立っているだろう。そのため、できるならさっさと彼らの監視に戻っておきたかったのだ。

 

 とはいえ、そんな願望は叶わなかったのだが。

 

「なら、今からとびっきり迷惑をかけるのでそれをチャラにするってことで」

「は?」

 

 俺の気の抜けた声とほぼ同時に響き渡る轟音。

 数瞬遅れて襲い来る、体を芯から揺らすような衝撃波。

 

「……」

「いや~、カイザーに続いて貴方まで動きを見せたってことでアビドスを探っていたら連中に見つかっちゃいまして。いつの間にかココも補足されてたようで、PMCを差し向けられてたんですよね」

 

 その後も断続的に襲い来る音と衝撃を背に繋ぎ手を見やれば、奴はそんな舐めたことを口にした。

 

「という訳で。私がブラックマーケットを脱出するまでの間、頼めますか?」

「ふっざけんな、テメェ端っからそのつもりだったな!?」

「ハハハ、まさかそんな」

 

 

 だああぁぁぁあああ、結局一から十までコイツの手のひらの上じゃねえか!

 

 

「それじゃ、暫く雲隠れするつもりなのでコレを。私への連絡手段と、この前預けられた金を隠してる場所を書いた紙です。それと、ここは破棄するので好きに暴れてもらって結構ですよ」

「…………分かったから早よ行け」

「では、後は任せました~」

 

 最後にとんでもない厄介事を押し付けると、繋ぎ手はカウンターの奥にあった隠し扉から更に地下へと潜っていった。

 

「ハァ…………」

 

 愚痴の一つや二つでも付いて気を紛らわせたいが、流石にそこまでの時間は無い。溜息一つでどうにか溜飲を飲み込むと、俺は入ってきた扉から地上へと向かうのだった。

 

 こうなったら八つ当たりも兼ねて最大限暴れ散らかしてやろうか。

 

 

────────

 

 時は少し遡り、マクガフィンが繋ぎ手と密談を始めたあたり。

 到着したブラックマーケットの規模に呆気に取られていた先生と対策委員会の面々は、早速とばかりに騒動に巻き込まれていた。

 

 丁度先生たちの近くでスケバンに追われていたトリニティ総合学園の生徒、阿慈谷ヒフミ。何やら困っている雰囲気であった彼女を助ければ、その流れのままスケバン集団との戦闘になってしまったのだ。

 

「なんだアイツら、全然倒せねえ!?」

「人数じゃこっちの方が勝ってんのに何で!?」

「一旦撤退するぞ!」

 

 とはいえ人数は5人と少なくとも地力は高く、連携も慣れている対策委員会。そこに正確無比な先生の指揮が加わり、更には協調性もありデコイの展開もできるヒフミが合流した一行に対し、碌な支援も受けられていないスケバンたちが勝てるかと言われればそんな訳は無く。

 

 そんなこんなで二度目の戦闘を終えた一同が、これ以上騒ぎを大きくしてマーケットガードに捕捉される前に逃げようかと動き始めた頃のことである。

 

「うわぁっ!? なに!?」

「凄い音ですね……」

「この音、C-4爆薬?」

「随分派手に暴れてる人が居るみたいだけど、これもブラックマーケットじゃ普通なの? ヒフミちゃん」

「いえ……さすがにここまでの騒ぎは滅多にないはずです」

 

 何の前触れもなく、大量の爆弾を一気に爆破させたような轟音が鳴り響いたのだ。音の響きからして自分たちがいる辺りからは離れているようだが、はっきりと鼓膜を震わせるソレに周囲も慌ただしくなり始める。

 

『爆破音の出どころ、推定できました。おそらく、ここから北東に500mほど離れたあたりだと思われます!』

「ありがとう、アヤネ。ところで、その辺りには何か建物があったりする?」

『いえ、先生。ざっと調べた限りでは何も無い廃墟地区のはずですが……』

「なるほど。みんな、このままだと人の波に飲まれかねないし、一旦離れようか」

 

 アヤネが調べてくれた情報を聞き、考えを整理するためにも人ごみの中心から抜け出すことを提案する先生。

 周囲に当てられて冷静さを失おうとしていた一行は、普段と変わりない先生の様子とその指示に従い人の波から離れることにしたようだ。

 

 

 

 

 

「ふぅ……早めに抜け出しておいてよかったね」

「だね~」

 

 あれから十分以上は経過しているはずだというのに、まだ散発的に炸裂している大規模な破壊音にパニックになって駆け回っているスケバンやヘルメット団たち。

 情報が錯綜しているらしく、誰もが滅茶苦茶な方向へ逃げようとするせいかブラックマーケットは混迷を極めていた。

 

「あの様子じゃ、もしかしたらホシノ先輩は流されちゃうかもしれませんね☆」

「いくらおじさんが小柄だからって、そこまではいかないよ~?」

「でも、見失うぐらいはしてたかも」

 

 冗談を交わせる程度には余裕の戻ってきたノノミたちの雑談を聞きながら、先生はこの狂騒の原因に考えを巡らせていた。

 

 ブラックマーケットに詳しいヒフミが言うには、この規模の戦闘というのはかなり珍しいらしい。とはいえ、荒事に慣れているはずのここの住民たちがそれだけでここまでパニックに陥るだろうか。

 

 気になるのはそれだけではない。

 ここまで避難する道中、すれ違う人が口々に言っていた『マクガフィンが暴れているらしい』という言葉。文脈からして、マクガフィンというのはおそらく人名……あるいは組織名なのだろうが、全く聞き覚えのない名前である。唯一ヒフミだけがこの名前を聞くと表情を強張らせていたが────

 

「そういえば、すれ違う人たちがみんな言ってた『マクガフィン』だっけ? あれって何なんだろ」

「初めて聞く言葉」

『気になって私も調べてみましたが……めぼしい情報は見つかりませんでした』

 

 そんな事を考えていると、タイミングよくセリカが話題に出したようだ。

 

「私も初めて聞いたけど、ヒフミは何か知ってる?」

 

 これ幸いと流れに乗っかり、自然な流れでヒフミに話を回す。そうすると、彼女は何とも言えない表情をしながらマクガフィンについて説明してくれた。

 

「私も詳しくは知らないんですけど……どうやらブラックマーケットに流れている噂らしいです」

「噂?」

「はい。全身黒ずくめの格好で、ブラックマーケットでもトップクラスに危険な人物なんだとか。中にはカイザーPMCの基地を襲撃し回っているだとか、人間を造りかえてオーパーツにしている、みたいな噂もありました。どちらかと言えば都市伝説のような物でしたし、怖くなったのでその辺りで調べるのは止めましたが…………」

 

 明らかに物騒すぎる噂に固まる一同。

 二つ目の噂は都市伝説じみた眉唾ものだと切って捨てられるが、一つ目に関しては事実である可能性も存在する。更にヒフミの口ぶりではそれ以外にも噂はあるようだ。

 

「カイザーPMC……民間(Private)軍事(Military)会社(Company)ということは、正式な訓練を受けた集団ですよね……? それを襲撃し回っている…………」

「それってそんなにヤバいことなの?」

「滅茶苦茶ヤバい」

「そうだね~。分かりやすく例えるなら、一人で軍隊の拠点に襲撃をかけているってことだからね。それも複数回」

 

 いまいちその危険性が掴めていなかったセリカもホシノの説明で理解できたようで、目に見えるほど顔を引きつらせた。他の面々も似たような様子である。

 もちろん、先生も含めて。

 

「あはは……ネットの掲示板で見かけただけの話なので、きっとただの噂ですよ。きっと」

 

 どこか願望を込めたようにヒフミは締めたが、今こうして騒ぎになっている以上『マクガフィン』という人物が存在していることは事実である。

 そして、ここにまで音が聞こえてくるような戦闘を長時間行っている事もまた揺らぎようのない事実である。

 

 それはつまり、先の噂に一定の信憑性が生まれるということで────

 

 

「ん? あれって、もしかして……私たちから利息を受け取っている銀行員じゃない!?」

 

 そんな思考を打ち切るようにセリカの叫び声が耳に届く。

 なんだ? と思い顔を上げれば、その先では今朝にも見たカイザーローンの男がやけに焦った様子で闇銀行へ駆け込んでいた。

 

 セリカだけでなくホシノやノノミ、シロコも同意を示しているため、おそらくあの車は今朝アビドス高校から受け取った利息を積み込んでいたものだろう。

 自分たちが払っていた借金がそのまま犯罪者の資金源になっていたことに対策委員会は激昂するも、しかし輸送車の走行ルートが完全にオフラインで管理されていたこともあり、その証拠は得られなかった。

 

 このまま指を咥えて見ているだけしかないのかと諦観が芽生える一同を他所に、件の銀行員は手続きを済ませていく。

 しかしそんな彼はどうやら冷静さを欠いているらしく、離れた位置の先生たちにも声が聞こえるような音量で会話をしていた。

 

「急いでください!!」

「……何をそんなに焦っているんだ? そもそも本日の集金はもっと後の予定だったはずだ」

「マクガフィンが暴れているんですよ! ここまでもかなり飛ばして来たっていうのに、最後の最後でしくじったなんてなったら、私の首は…………」

「わ、分かったから! 店の前で暴れるな!」

 

 そんな光景を見て、ふとヒフミが呟く。

 

「今サインしている集金確認の書類……あれを見られれば、証拠になりませんか? ……あぁ、でももう中に入っていっちゃいます…………」

 

 その一言に光明を見た対策委員会と先生は怪しげな表情で頷き合い────ついでに先生は鞄の中に丁度顔を隠せそうなサイズの紙袋が入れっぱになっていたことに悪戯気な笑みを浮かべた。

 

 

 かくして、ブラックマーケットでは本日二度目となる騒動が巻き起こされることとなったのだった。

 その日から『覆面水着団』なる珍妙な組織と、その冷徹なリーダーである『ファウスト』の噂が真しやかに語られるようになったのだが……それはまあ余談であろう。

 

 なお、その一部には『ゲヘナ学園の非常に凶悪な指名手配犯とは盃を交わした仲である』*1だとか『マクガフィンの騒動もファウストの仕業であり、両者は協力関係にある』などという本体よりも尾ひれの方が大きくなった話もあったりしたのだが…………これ以上は何処かの誰かが胃を痛めそうなので辞めておこう。*2

 

 

*1
「な、なんですってー!?」

*2
「ヒフミ、さん…………?」「あはは……」




 実はカイザーが差し向けた部隊はかなりガチだったため、対策委員会が銀行強盗(シロコ)している間に裏ではマクガフィン君が血で血を洗うような戦闘をしていたりしたんですが……冗長になりそうだし入れるスペースは無いし綺麗に〆られたし、の三段活用で描写は消え去りました。
 決して戦闘描写が面倒くさかったとかではない、イイネ?

 ところで、今話序盤の存在しない記憶、途中で原作の描写通りのものに直したんですがその前は↓みたいな感じにしてたんですよね。


 ヘイローの消え去った小柄な少女。

 誰もいない砂漠に半ばまで埋もれた水色のリボン。

 何もかもが撤去され、ベッドだけが残された病室に置かれた赤色のメガネ。

 どことも知れぬ場所に落ちている、赤黒い何かがこびり付いたどこかの企業のカード。


 結構気に入ってた描写だったんで供養がてら置いとくんですけど、皆さんはどっちの方が好きですかね?



 最後になりましたが、名無しの傭兵 さん、hbdbmpfomcnljh さん、Pooto さん、レーザー投げナイフ さん、文才の無い本の虫 さん、マイルド愉悦部 さん、烙陽 さん、評価付与ありがとうございます! 日々の活力ですわ……割とマジで
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