【本編完結】黒く濁った罪を背負って   作:RH−

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温室の外の現実

 

「これは…………」

 

 アリウス分校の自治区。

 褪せてくすんだ灰色ばかりの、おおよそまともな生活環境では無いと一目で分かる街並み。

 崩れていたり蔦などの植物に侵されたりしていない部分を持つ建物の方が少ない、そんな街並み。

 

 それを前にして、言葉を失う四人の少女がいた。

 

 彼女たちはRABBIT小隊、今は廃校となってしまったSRT特殊学園の名を背負い、その夢のために邁進する少女たちである。

 

「本当に、ここで人が暮らしてるの……?」

「キャンプ生活と変わらないんじゃないの、これ」

 

 “荒廃”という言葉の辞書例にでも使えてしまいそうな光景に、ミユとモエが小さく零す。

 その言葉には、信じられないという内心がありありと表れていた。

 

「どうして、こんなになるまで放置されてるんだ……!」

 

 サキは、何のための規則だと、何のための連邦生徒会だと憤りを露わにした。

 少し前に訪れたアビドス自治区でも思った事ではあったが、こちらの方がなお酷い。なにせ、最低限の住宅地の様相さえ保てていないのだから。

 

 そして、残る一人。

 かつて小隊長を任命された、月雪ミヤコは。

 

「…………」

 

 静かに、言葉を失っていた。

 何と言葉を発するべきか……否、そもそも自身がこの光景に何を思っているのか。それすら、分からなくなったのだ。

 

「────っ!」

 

 しかし、少女たちが目の前の光景に絶句しようと────知らなかった現実の一端に衝撃を受けようと、それで時を止めてくれるほど世界は個人に寛容ではない。

 

 雲を裂くように、天上から眩いナニカが現れる。

 

「あれは……」

「多分、光の柱……だよね?」

「うん……眩しくて見え辛いけど、預言者っぽい大型の機械が墜ちてきてる」

 

 突然の変化に、それでも取り乱しはせずにそれぞれ現状を分析するサキ、モエ、ミユの三人。

 その視線の先、自治区入り口から離れた辺りには、空から光の柱が下りて(墜ちて)きていた。

 

 

────────

 

 駆ける。駆ける。

 隊列は崩さずに、それでも最大限の速度で。

 

 前を行くポイントマン(サキ)の合図すらもどかしいと言わんばかりに、全力で。

 駆ける。

 

 光の柱が雲上から現れて、おおよそ時間は5分ほど。

 出現直後に僅かながら逡巡してしまったのが、ここで悪く響いていた。

 

「クソッ……アビドスとはまた別の意味で道が分かりにくいな!」

「RABBIT2! 2時方向の瓦礫の隙間、通れるかも!」

「助かる、RABBIT3!!」

 

 逡巡とは、すなわちどう行動するべきか。

 元々の予定では、現在アリウスの舵取りを行っている“錠前サオリ”なる人物が自治区の案内をしてくれるはずであった。そういう風に約定を交わしていた。

 

 監視の意味合いもあるのだろうとは察していたが、無理を言って自治区の調査を許可してもらったのだ。勝手な振る舞いは、慎むべきだろう。

 しかしながら、その直後に話が変わってしまった。

 

 慌てたように、あるいは動揺したかのように、アリウス生徒が駆けまわり始めたのだ。

 それこそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()かのように。

 

 その瞬間に、RABBIT小隊は行動を開始した。

 これが不測の事態だと言うのなら、あの迎撃は何者かの独断だと言うのなら。自分たちが、動かない訳にはいかない。

 

 繋ぎ手の言に従ってこの地を訪れたとはいえ、RABBIT小隊の目的は『預言者の調査と撃滅』なのだ。幾人かがその動機を変化させようと、その目的自体は変化していない。

 そうでなくとも、SRT特殊学園は市民の平和ための組織なのだ。その“市民”の過去がどうであれ、たとえそれに複雑な感情を向ける隊員がいようと。ここで動かねば、何のためにその名を未だ背負っているのか分からなくなるだろう。

 

 故に、少女たちは駆ける。

 荒廃した街並みを、土地勘など欠片も存在しない自治区を、全力を以て。

 

 そうして辿り着いた先、既に光の柱が消失して2分ほどが経過した場所には。

 まるで眠るように、一人の少女が横たえられていた。

 

「────っ!!」

 

 まさか、と一同の脳裏に過ぎる、最悪の想定。

 このキヴォトスの日常において遠く彼方へと押しやられた、けれども確かに残っている概念。

 

 “死”。

 

 いかにヘイローの加護があろうと、預言者が相手となれば万が一は有り得る。

 そもそも、預言者とは何をしてくるか全くの未知数な存在なのだ。人智を超えた存在に、いつも通りの日常など適応できるはずもない。

 

「良かった……脈はある」

 

 周囲を警戒しつつも駆け寄り、その首元に触れたサキが安堵の息を漏らす。

 外傷が無いあたり原因は不明だが、本当に少女は眠っているだけのようだ。汗でびっしょりのその身体を再び安静な姿勢に戻すと、改めて一同は周囲を見回す。

 

「……いないね」

「いない、な」

 

 何か大きな物が着地したような跡は残っているが、肝心の預言者の姿はどこにも残っていない。

 どころか、戦闘痕のような痕跡すら残っていない。

 

 もっとも、それに関しては、移動中に銃撃の音がまるで聞こえてこなかった事から覚悟はしていたのだが。

 とはいえ、移動の痕跡まで残っていないとなれば不可解さも高まるというもの。それこそ、着地跡が無ければ先の光景は幻覚だったのではないかと思ってしまう程には、辺りには何も残されていなかった。

 

 しかしそんな中、モエが零す。

 

「あの瓦礫の山……何なんだろ」

 

 ある程度開けているこの場所から少しだけ離れた辺りに、まるで大規模な建物をそのまま崩落させたかのような瓦礫の山ができていたのだ。

 僅かに覗く残骸の傾向からして、ソレはどうにも周囲の住居とはまた違った建物だったように見える。

 

「……行ってみるか」

 

 どうにか痕跡を見つけようという探求心か、はたまた無知故の関心か。

 ゴクリと唾を呑み込みながら、サキが踏み出す。アリウス生徒の誰もが近寄らない、()()()()()()()()()()()()()その場所へ。

 

 一歩を踏み出し、二歩目が続き。

 そして三歩目が────

 

「あの……あそこに近付くのは、やめた方がいいですよ?」

 

 背後から響いたそんな声に、止められた。

 振り返ってみれば、そこには道中でも見かけたような一般的なアリウスの様相をした一人の生徒が。

 

「……何者だ。何が目的だ」

「え? いやあの、だから、あの辺りは……バシリカがあった辺りは、私たちアリウスの子でも近付く事を避けてる場所なんです。危険すぎるので…………」

 

 サキの誰何に、少女は戸惑ったように返す。

 その様子はまるで状況を理解できていないようで、どちらかと言えば非力な生徒のように見えた。

 

 だが、そんな筈がないのだ。

 なにせ、この少女はRABBIT小隊の誰にも気取られずに背後を取ったのだから。いくらあの瓦礫の方に注意が向いていたとしても、見知らぬ土地でそこまで不用心になるほど彼女たちは馬鹿ではない。

 

 更に言えば、この少女はRABBIT小隊が即座に無力化する事ができない距離を常に保っているのだ。ひっそりと数歩動いたミユにさえ合わせて。

 会話の際の身振り手振りに混ぜる事で動きを誤魔化しているようだが、これが尋常な手合いであるわけがない。

 

「もう一度聞くぞ。お前は、何だ」

 

 今度はそれぞれに愛銃を構えての、詰問。

 答えなければ撃つという意思に溢れたそれに、少女は焦ったような演技をしばらく続け……やがて観念したのか、肩を竦めて答えた。

 

「……あらら。流石に露骨すぎたかね? ま、時間も無かったし、しゃーないっちゃしゃーないんだけども」

「これが最後通牒だ。お前が何者か、答えろ」

「おっと、事を構えるつもりはないんだ、勘弁してくれ。()()俺の役割はただの時間稼ぎだから、戦闘能力は欠片程度しかないしな」

 

 戯けた言動を繰り返すナニカに、サキが引き金を引く。

 口調が変わったタイミングで纏う気配まで大きく変わった辺り、確実にアリウスの生徒ではないだろう。

 

 そんな目論見の下の牽制射は、しかし。

 

「消えた……!?」

 

 相手がその場から消えた事で、空を切る事となった。

 

「容赦ねーのな。それに冷静だ。もうちっと前なら追加で一分ぐらいは攪乱できただろうに……成長を喜ぶべきか、あるいは残念に思うべきか。どっちかねぇ?」

 

 声は再び、背後から。

 

「……っ!」

 

 即座に振り向き、クイックショットを叩き込む。

 今度は牽制用ではなく、確実に手傷を与えるための物。

 

 同時にミユが気配を薄れさせながら接近し、モエが携帯していた手榴弾を構える。

 

 ────が。

 

 その全員の動きが、途中で止まった。

 目の前の光景が信じられなくて、固まってしまったのだ。

 

「っとと、もう時間か。擬態も剥がれたし……ま、これ以上はコア()の方が持たねーし、それにどうやらあっちも終わったみたいだしな」

 

 そんな風に変わらぬ調子で零すソレの姿が、ノイズが混じったかのようにぶれる。

 否、その像を擬態用のアリウス生徒から、より消耗の少ない本来の姿へと編み直す。

 

「……マクガ、フィン」

「ん? なんで俺の名を……ってそっか、闇市で軽く姿を見せてたか」

 

 果たして、現れた姿は。

 黒ずくめの、謎多き犯罪者であった。

 

「待て! お前はいったい────」

「おいおい、さっき言ったろ? 時間切れだって」

 

 “ん? 時間だとしか言ってなかったか?”なんて続けて、クハハ、と最後に一つ笑って。

 その姿が、黒い影が、眩しい光の球になって瓦礫の方へと飛んで行く。

 

 そして、それが瓦礫の山に触れるか触れないかの辺りで────

 

「っ! なんだ……これ…………!?」

 

 その奥側からナニカが押し入ってこようとするかのような感覚と、不快な波動が溢れ出る。

 ただしそれは一瞬の物。続けて浴びれば発狂でもしてしまいそうな感覚ではあったが、それは即座に何かに封じられるかのように弱まっていった。

 

「マクガフィン……いったい、何を?」

 

 少しだけふらつく体を支え直し、少女たちは瓦礫の奥へと視線を向ける。

 もう、軽々にあそこへと近付こうという気は起きなかった。

 

 

────────

 

 三十分ほど時が経過し、場所は普段サオリが執務室として使用している部屋にて。

 

「まずは、勝手な行動をした事を謝らせてもらう。済まなかった」

「いや、それに関しては構わない。こちらの不手際もあったし、何よりそのお陰でカシスの安全を確保できたんだからな」

 

 アリウス自治区に来てからやけに口数が少なくなったミヤコに代わり、サキがサオリと会話をする。両者ともに固い口調がデフォルトであるため分かりにくいが、しかしそこに険悪な色の一切は無かった。

 そのままの流れでデカグラマトンの預言者やバシリカ跡地に関する情報が交換され、しばらく。

 

「……という事は、結局あのバシリカとやらがあった場所で何が起きたのかは不明なのか」

「申し訳ないが」

「いや、崩落の際に現場にいた生徒たちが、誰一人として口を割らなかったんだろ? なら、仕方のない話だ」

 

 そんな会話を最後に、室内に沈黙が満ちる。

 両者ともに、微妙な関係性に何と言葉を交わすべきか分からないのだ。

 

 先までは、情報交換という分かりやすい命題があったために問題なかったが。それも終わってしまえば、必然的に沈黙が室内を支配するのみ。

 カチ、カチ、と時計の秒針が健気に回る音が、一同の間をすり抜けるように響いた。

 

 しかし、そんな気まずい時間もすぐに終わる。

 ドタドタと駆ける音と共に、報せが入ったのだ。

 

「カシスさんの意識が……戻りましたっ!」

「分かった、すぐに行く。……RABBIT小隊のみなさんも」

「ああ。同行していいようなら、一緒に行かせてほしい」

 

 斯くして、一同は向かう事になる。

 このアリウスの地において、最も()の真実に近しい少女が横になった部屋へと。

 

 “それ”を知ってしまうのは、きっともうすぐ。

 

 

 

「……カシス。増援が遅れた事、本当に済まなかった」

「いえ……短期決戦を選んだのは、私ですから…………」

 

 一人用の病室と呼ぶには広すぎ、しかし四人用ほどの広さも無い。

 そんな室内で十数人ほどのアリウス生に取り囲まれていた少女は、サオリの言葉にリクライニングのベッドを起こして答えた。

 

 多少衰弱している様子はあれど、どうやら受け答えもできないほど弱っているというワケではないらしい。謝罪を固辞する姿からは、確かな生命力が窺えた。

 

「それで……何があったんだ? 申し訳ないが、何の手がかりも残って無くてな…………」

 

 そんなやり取りをしばらく続け、音を上げたように肩を竦めたサオリが問い掛ける。

 これ以上謝罪の押し付け合いをしたところで無駄だと判断したらしい。

 

「最初は……何か、大きな物が飛んできているのが視えたんです。……ほら、サオリさんは、私の眼が変わった事は知ってるでしょう?」

 

 そう言って、自身の眼を左の人差し指で示すカシス。

 深い群青の虹彩に曙色の瞳孔が重なった瞳は確かに特徴的ではあるが……おそらく指している事柄は別なのだろう。そう視線を向けるRABBIT小隊へとサオリが行った説明は、纏めると『カシスの眼は神秘を視ることができる』という事らしい。

 

「それで……つまり、預言者の神秘が視えたから迎撃したって事でいいの?」

「はい。外から来た人には、信じられないかもしれませんが……」

「いや、私たちも預言者絡みの事件で何度も異常なものを見てきたからな。今更その程度を言われても、驚きはしないさ」

 

 予想できた事のあらましをモエが確認し、サキがそれを信じると肯定する。

 ミユもまた、治り切っていない人見知りが発動したのか言葉を発しこそしないものの、コクコクと頷く事でサキに同意を示している。

 

 となれば、事態の共有に関しては一段落ついてくる。

 もちろん、預言者に関する話やカシスが相対した預言者の見た目など、細々としたアレコレは残っているが……少なくとも、“細々とした”と言える事でしかない。

 

 つまりは、それ以上に重要な話が残っているのだ。

 すなわち────

 

「……お前たちがあまり話したがっていない事は理解している。だが、こうなっては置いておく事はできない。だから、聞かせてもらうぞ」

 

 ────あの場所、バシリカで何があったのか。

 

 固い表情で、サオリが質問する。

 どことなく悔恨が混ざっているようにも見えるその顔は、もっと穏便に話を聞きたかったという内心の表れだろうか。

 

 とはいえ、彼女が口にした通り、最早この質問をこれ以上先延ばしにはできない。知らなければ、適切な対応もできないのだから。

 そして、それは自分で『あの預言者はバシリカ跡地を目掛けて来ていた』と口にしたカシスも理解しているのだろう。

 

 数秒ばかりの逡巡の後、彼女は覚悟を決めたように一つ頷いた。

 

「…………分かりました」

「カシスさん……いいん、ですか?」

「流石に、これ以上は限界です。それに……さっきも言った通り、隠す理由の半分はもう無いから」

 

 サオリ達が来るよりも前、おそらくカシスが目覚める前から室内にいた少女たち────アリウス内部の呼び方で言うのなら、“天使派”の少女たち────の言葉にそう返すと、一度だけまばたきを挟み、カシスは再度口を開いた。

 

 

「あの場所で……バシリカがあった場所で、何があったのか。端的に言ってしまえば、ある人が死んで、蘇りました」

 

 

 その信じられない言葉に……あるいは、信じる事を心が拒むような荒唐無稽な内容に、RABBIT小隊の空気が固まる。

 キヴォトスにおける“死”とはそれだけ日常から離れている概念であり、そして死人が蘇るなんていうのはそれだけ常識から離れている言葉であったのだ。

 

 しかし、RABBIT小隊ではないもう一人は……他学園よりも幾分“死”が身近なアリウス分校の生徒である、錠前サオリは。衝撃を受けども思考が止まるまでは行かず、そのままとある予想にまで辿り着いてしまった。

 

 なにせ、彼女はあの日()がアリウス分校の自治区へと向かったのを見ていたのだ。そして、今回の一件においても()はRABBIT小隊の前に姿を現したと言う。

 更に言えば、彼女はミカを通じてティーパーティー内における()の話もいくつか聞かされていた。

 

 となれば、予想が付いてしまう。

 辿り着いてしまう。

 

「その『死んだある人』っていうのは……まさか、マクガフィンなのか?」

 

 返答は、小さな首肯のみ。

 音さえ無いそれが、しかし何よりも雄弁に事実を示していた。

 

 天を仰ぐように右手で目元を抑え、耐え切れなくなったかのようにサオリがへたり込む。

 かつてベアトリーチェが計画していた『アツコを生贄に使う何か』と、調印式の日に異形となって現れた彼女の姿。それに、“天使派”の生徒たちの普段の様子。

 

 いくつもの事前情報が、彼女を事態の真相にまで至らせたのだ。

 おおよそ考え付く限りで最悪の、しかし有り得ると思えてしまうソレに。なるほど、この少女たちが『天使様』をあそこまで崇拝するようになるわけだ。

 

 そんな、どこか場違いな、それでいて酷く冷静な思考が、サオリの脳裏を過ぎる。

 ハハ、なんて諦観に満ちた乾いた笑いが、室内に響いた。

 

 

 けれども、真相に至れたのは彼女だけである。

 RABBIT小隊の4人は、何も分からない。

 

 かつて白ずくめの大人が語ったように、彼女たちにはその真実を理解できるだけの土壌が足りていないのだ。有している知識量、あるいは精神的な余裕。もしくはその価値観にあるべき()()()が。

 まあ、今ではほとんどの隊員は知識が足りていないだけで、既にそれ以外の要件は満たしているのだが。

 

 ともかく。

 ある意味最も肝心な知識が足りていない以上、RABBIT小隊の4人にはサオリの質問も、カシスの肯定も、何もかもが理解できない。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。マクガフィンって、あのマクガフィンだよな。指名手配犯の」

「はい。たぶん、一般的にはそちらの方が有名だと思います」

「それがどうして────」

「────マクガフィンさんが、単なる犯罪者ではないから。あの人は、私たち子どものために立ってくれる人だから。そう言ったら、どうしますか?」

 

 射貫くような、まっすぐに意思を乗せられた瞳。

 ベッドに背を預けているような弱った状態のはずなのに、なぜか目を逸らす事のできない強い瞳。

 

 思わず、足が一歩後ろに退こうとしてしまう。

 

「いや、え? だって、マクガフィンは犯罪者で……でも、子どもの味方? そんなの…………」

「人間とは、矛盾なく一貫していられる生物ですか?」

 

 続けようとした“矛盾”という言葉は奪われ、次なる問いとして返された。

 

「……私は、あの人の過去を何も知りません。あの人が隠しているソレを、知ろうとも思いません」

 

 二の句を継げず閉口する4人に、独り言のようにカシスは続ける。

 瞼が下ろされた事で見えなくなった瞳は、けれどもきっと変わらぬ強さを保っている。漠然と、4人ともがそう理解した。

 

「……でも。でも、あの日私をあの人が救ってくれたのは、事実です。誰でもないあの人に、私は救われたんです。だから、それを否定する事だけは、やめてくださいね?」

 

 ────自分でも何をするか、分かりませんから。

 

 再び開かれた瞳には、強い、まるで業火を纏う薪のような強い意志と。

 どろどろとした感情が、深く()打っていた。

 

 

 




最後になりましたが、麻婆羅舞 さん、天狼院雄 さん、Senophas さん、musuk0 さん、評価付与ありがとうございました!
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