【本編完結】黒く濁った罪を背負って   作:RH−

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あまねく奇跡の始発点 / とある可能性の幕引き
動き出す世界


『────この物語は、今この瞬間を最後に覆された』

 

『解れを見せていた貴様の物語は、いよいよ以てその崩壊を止めることは能わなくなったのだ』

 

────────

 

《D.U.某所》

 

 摩天楼のように空へと伸びる電波塔。その頂上へ腰掛けるように像を編んだ黒ずくめの影が、呟く。

 

「……始まった、か」

 

 キヴォトス各地、計6ヶ所に待機した虚妄のサンクトゥムと、遥か(ソラ)高くに航海する箱舟。砂の海から発掘された本船に、蠢動を開始した一つの企業。

 その総てを神秘の流れと『知識』の力を以て把握した青年は、小さく頷き。

 

「さぁ、最後の舞台に────」

 

 

 ────盛大な、幕引きを。

 

 

 続く言葉は、風に攫われ。

 それに頬を歪めた黒ずくめの青年は────瞬きの間にその像を掻き消し、行動を開始した。

 

 

────────

 

『脈絡、構成、ジャンル、意図、解釈。すなわち物語を、世界を構成する全て、その総てが破壊され────』

 

『その意味は絡み合い、混ざり、撹拌され────統制できない程に褪せてしまった』

 

────────

 

《アビドス高校・本館》

 

 しばらく前、一つの宣言を行った日より常に意識するようになった神秘の流れ。そこに、僅かながら常とは異なる変化を認めた桃色の少女が、椅子から腰を上げる。

 

「これは……今日が、始まりって事かな」

 

 とある先輩を共通の知り合いに持つトリニティの友人から、かねてより話されていた終末の話。それを思い起こしながら、少女は久々に引っぱり出してきたもう一振りの愛銃を撫でる。

 普段とは違う髪型に僅かにズレる重心を修正しながら、少女は────小鳥遊ホシノは、一歩を踏み出した。

 

「待ってて。絶対に、あなたを止めてみせるから」

 

────────

 

『先生よ、心せよ。そして、これまでの物語は全て忘れるが良い』

 

『これからお前の身に起こることは、最早そのような────かつてのような青く透き通った物語からは遠く離れ、そして最早物語とすら呼ぶ事もできぬ物なのだから』

 

────────

 

《ミレニアムサイエンススクール・売店》

 

「────っ! これは……?」

「……姉さんも、感じましたか?」

 

 日課の冒険の最中に売店へと立ち寄った少女と、それに付いて回っていた少女の妹。

 二人は、突如として襲い掛かった奇妙な感覚と共に、日常が崩れ去ったのを理解した。

 

「……ケイ。準備しましょう」

「ですね。ひとまず、私はリオ会長たちに知らせてきます」

 

 なんと形容するべきか分からぬ、不可思議な確信。それに従い、少女たちは行動を開始する。

 無邪気なままではいられない現実の中で、それでも希望を、御伽噺のようなハッピーエンドを掴み取るために。

 

「魔法使いさん……せめて、お礼ぐらいはアリスにも言わせてくださいね?」

 

────────

 

『この先に主人公は無く、悪役は無く、事件は無く、葛藤は無く。脈絡も、構成も、必然性も、何もかもが分解され、縺れあった────どこまでも作為的な、世界』

 

『そうして、果ては意味を失い。力が暴れ回るだけの、どこまでも単純で不条理な世界へと舞台は移り変わる』

 

『嗚呼、そうだ。そうだとも。世界とは、元よりそのように存在していた。覆い隠され、忘れられていただけで。彼の聖人もまた、その世界に呑まれ消え行くのだろう』

 

────────

 

《トリニティ総合学園・ティーパーティー》

 

「……っ! …………なるほど、そうか。いよいよか」

「セイアさん?」

「セイアちゃん、一人で納得しないで、もうちょっとだけ私たちとも会話しよ? 急に呟かれても分かんないよ?」

 

 突如変容した未来の光景に小さく呟きながら、キツネ耳の少女が席を立つ。

 

「以前から話していた、色彩の襲来。多分だが、それが始まった」

 

 少しばかり頭に来る言葉を贈られたが、今回は自身にも非があるという事でそれを飲み込むと、少女は端的に状況を共有した。

 しかし、差し迫りつつある状況に反して、その顔に浮かぶのは希望の色。諦めてなるものかという、強い表情であった。

 

「ナギサ、ミカ。行こうか。私たちは、そのために準備してきたのだから……ね?」

「ええ」

「うん!」

 

(……私は嘘吐きにはなりたくないのでね。見ていたまえ、必ず乗り切ってみせるとも)

 

────────

 

『しかして、始めるのだ』

 

『物語と呼ぶに満たない、歪な創作を。世界と呼ぶに満たない、歪な劇場を』

 

『脈絡も、ジャンルも、必然性も、構成も────その全てを逸した状態で』

 

────────

 

《アリウス分校自治区・バシリカ跡地》

 

「……カシス? どうした?」

「サオリさん、すぐにスクワッドの皆さんに連絡を。()()()()

 

 会話の最中に空を見上げて固まった、灰髪の少女。

 その彼女が視線を下ろして口にした言葉に、もう一人の少女は頷きを返答として足早に立ち去って行った。

 

「……アヤトさん。あなたは、どこへ向かうのですか?」

 

 そうして残された灰髪の少女も、崩れ去ったバシリカを最後に一度振り返り、歩み始める。終末が、色彩が襲い来ると言うのならば、彼女にも為すべき事が山のようにあるからだ。

 それが、それこそが彼に救われた者の義務であるからこそ。

 

「あなたが言うのなら、私はこの世界も愛してみせます」

 

 ────でも、どうかお願いです。私は、ここに独り取り残されたくありません。叶うのならば、あなたの旅路へ、私も。

 

 

 呟かれた最後の願いは、風に攫われて消え去って行った。

 

────────

 

『観客も、脚本家も、登場人物ですらも冒涜し、侮辱し、貶める。そんな、沈み行く叛乱の物語を』

 

『今、この瞬間より。始めるのだ』

 

『始まるのだ』

 

 

『総てを覆す、そんな悲劇が』

 

 

『心せよ。そして、抗うと言うのならば全霊を尽くすのだ。ここから先は、貴様の物語ではないのだから』

 

 

 

 

 

────終章 あまねく奇跡の始発点────

 

 

 

 

 

「……今日は、平和みたいだね」

 

 各学園の首脳陣を集めて行われる、キヴォトス非常対策委員会。

 その迎えであるヴァルキューレ生徒の到着を待ちながらD.U.の街並みを眺める先生の顔には、安堵と苦々しさとが6:4ほどでブレンドされた表情が浮かび上がっていた。

 

 そんな彼の脳裏を過ぎるのは、つい一昨日の出来事。

 ここ最近になって度々顔を合わせるようになった、とある少女との会話であった。

 

 

 

「……申し訳ありません。また、先生のお手を煩わせてしまいましたね」

「そんな顔しないで。私は君たちの助けになるためにいるんだから」

 

 前髪で片目を隠した厳格そうな印象の少女が贈る謝辞に、気にしなくていいと連邦生徒会製の外套を羽織った大人が返す。

 場所はD.U.シラトリ区がコーギータウン。電気商店街として有名なそこは、先生も定期的に訪れているなじみ深い場所であった。

 

 しかし、先生と少女────尾刃カンナが立つ一角は、そんな発展した市街地だとは思えないほどに荒れ果てていた。

 原因は単純、しばらく前の『光の柱事件』に際して増加して以降“高止まり”を維持している犯罪による被害である。

 

「ところでカンナ、最近ちゃんと寝れてる? 隈、酷いよ?」

「ご心配、感謝します。ですが、私もヴァルキューレの端くれ。この状況で休むわけにはいかないでしょう。…………まあ、今のヴァルキューレでは、何を言っても説得力は無いかもしれませんが」

 

 自嘲するように頬を歪めるカンナに、先生は表情を曇らせる。

 今回の事件は偶然居合わせたために手伝うことができたが、彼にも自分の仕事があるのだ。四六時中付きっ切りで手伝えるワケではない。

 

 それに、そうでなくともここ最近のD.U.は犯罪が頻発しているのだ。今回の爆破テロのような重い事件だって、多くは無いが何度か起こっている。

 その全てに助力するなど、体がいくつあっても足りないだろう。

 

「それに、先生のおかげで随分と負担も減って────失礼。何? 次の事件? 場所は……分かった、すぐに向かう。先生、申し訳ないのですが…………」

「うん、いってらっしゃい。私の方こそ、手伝えなくてごめんね。ちょっとこの後、外せない用事があって」

「いえ、むしろ力を貸していただけている時点でありがたすぎるぐらいですから。それに、次の事件はそう重くはなさそうですしね」

 

 それでは、と足早に立ち去る背中を見送りながら、その口から溜息が漏れる。

 小さな音は、しかし出処である先生の内心を如実に告げていた。

 

(各地で増加した犯罪率に、資金難な状態のヴァルキューレ。……これに関しては、少しずつ解決していくしかないか)

 

 既に解決から2週間ほどが経とうとしている光の柱事件だが、その爪痕はまだまだ色濃く残っていた。

 特に厄介であるのが、ホドの襲来に際してブラックマーケットから溢れ出た────あるいは、脱走した────無数の犯罪者によって、自治区単位ではなくキヴォトス全体で悪化した治安の問題である。

 

 第一波とでも形容するべきその犯罪者たちは、繋ぎ手がブラックマーケットの統制を行った事で、現時点で八割ほどがその身柄を押さえられている。

 しかし、それに呼応して活発化した各地の犯罪者組織に関しては、傑物である彼であっても打てる手がほとんどなかったのだ。それこそが、第二波である。

 そして、一度その流れができてしまえば更に犯罪率は高まってしまう。元は善良な市民であったとしても、悪化した治安に当てられる者はどうしても生まれてしまうのだ。それに加えて不信の芽が生まれてしまえば、後は早い。第三波の完成である。

 

 対して、それを取り締まる側であるヴァルキューレ警察学校は、資金難でまともに装備の更新もできないというのが現状であった。

 数ヶ月ほど前までは、()()()()()()()カイザー製の装備が流れてきたりもしていたらしいが……それも無くなってしまったために、今のヴァルキューレは公安局長であっても現場に駆り出されるほどにギリギリの状態であるらしい。

 

 まあ、それに関しては『狂犬』のネームバリューを活かして犯罪者を牽制しようという目論見もあるのだろうが。

 

 とはいえ、それで手が追い付いているのかと問われれば……正直に言ってしまえば、答えは否であろう。

 今のヴァルキューレ警察学校には、絶望的なまでに色々な物が欠けているのだ。その中でも、武力が欠けているのは特に致命的であった。正義とは尊いモノだが、しかしそこに力が伴わなければそれは妄想に他ならないのだから。

 

 そして、それをカンナ自身も理解しているのだろう。

 自嘲するように笑う彼女の表情を思い出して、先生は更にその表情に影を落とす。

 

「……はぁ」

 

 個人の力ではどうしようもない、組織としての問題。

 下手に手出しをしてしまえば、警察組織とシャーレの癒着問題にまで発展する恐れもある。治安だとか倫理観だとかが先鋭的なキヴォトスであっても、その辺りはやはりデリケートな部分なのだ。

 

 組織としての立場がある以上は、普段以上に考えて行動しなければむしろマイナスに働いてしまう。しかし、苦しんでいる生徒を見て見ぬふりする事もまた論外である。

 

 相反する二つによるジレンマに何度目かも分からぬ溜息を零しながら、先生はシャーレオフィスに帰って行くのであった。

 

 

 

 

 

(キヴォトス各地に発生した高エネルギー反応……混乱を抑えられれば、いいんだけど)

 

 回想を終え、改めて今から待ち受けている非常対策委員会へと先生は思いを馳せる。これ以上ヴァルキューレに負荷が掛からなければ良いのだが、と。

 と、ちょうどそのタイミングで迎えの生徒が到着したようで。

 

「お迎えに上がりました、先生」

「ここから先は、連邦生徒会の本部であるサンクトゥムタワーにまで私たちが警護いたします」

 

 先生は、背後から聞こえた声に従って屋上へと向かう。

 丁度そのタイミングでとある青年が行動を開始したことになど、欠片も気付かずに。

 

 

「……そういえば。移動で戦術輸送ヘリを使うなんて、なんだか豪華だね」

 

 ヘリに乗り込んだ辺りで、ふと、思い出したように先生が呟く。

 ヴァルキューレにここまでの余裕はあったろうか、という内心の疑問がそのまま零れ出たソレは、音量の小ささに反してどこまでも鋭かった。

 それを受け、護衛を名乗る少女らは少しばかり詰まりながらも言葉を返す。

 

「……ええ、警察学校ですので。忙しくはありますが、まだ余力も残っていますしね」

 

 だがしかし、その返答は悪手であったようで。

 

「…………ねぇ。一つ、聞きたいんだけど。君たちは誰? ヴァルキューレの生徒じゃ、ないよね?」

 

 スッ、と切り替わったかのように纏う雰囲気を一変させた先生が、鋭い視線を向けながら疑問を口にした。ただし、その質問の奥には確信が横たわっている。

 すなわち、これが生徒に扮した何者かであるという確信が。

 

 はたして、その答えは。

 

 一斉に変装を解き、その銃口を向ける迷彩柄の機兵の姿が物語っていた。

 

「カイザーPMC……!!」

「勘がいいじゃないか先生。だが、少し気付くのが遅かったがな」

 

 かつて、アビドスにて何度も目にした相手。

 それを前にした先生がその正体を呼ぶも、それはPMCの語る通り遅すぎた。なにせ、彼はヘリの内部という閉所で、更に多人数に包囲されているのだ。一部の生徒ならばともかく、彼にこの包囲を抜けることは不可能だろう。

 

(……クソッ、迂闊だった! どうする? 何か方法は────)

 

 急速に回り始めた思考に脳が熱を持ち、打開策を探る。

 しかし、その瞬間に。

 

 声が、響いた。

 

 

「いやぁ、本当に。心から同意するぜ? 気付くのが遅すぎて遅すぎて、ネタバラシの時間が先に来ちまったんだからなぁ」

 

 

 嘲る調子を隠しもせずに、しかしどこまでも楽しそうな声。

 見れば、いつの間にか座席に腰かけるように黒ずくめの影が。

 

「なっ、マクガフィン……!?」

「いったいどうやって!?」

「馬鹿な! 警戒は完璧だったはずだ!」

 

 驚愕を口にしながらも、PMCの兵士は銃口の向きを変更するが。それは、事ここに至っては悠長に過ぎた。

 あるいは……彼の語る通り、何もかもが遅すぎた。

 

「はい、おしまいっと。雑魚で助かったぜ、ありがとな?」

 

 一秒と経たず、ヘリ内部のPMCがその四肢を捥がれて無力化される。

 続けてその懐から通信機を回収すると、彼は先生へと視線を向けた。

 

「マクガフィン……君は────」

「あーっと、悪いがダラダラ話せる余裕はないんでな。それに、しばらくは先生の出る幕も無い。というわけで、一旦おねんねしといてくれや」

 

 目線が合った感覚から先生が問いかけを口にしようとするも、しかしそれよりも早くマクガフィンが行動する。

 いかなる方法か痛みもなく薄れ始める意識の中で彼が最後に思ったのは、いったい何が起こりつつあるのだろう、なんて素朴過ぎる疑問であった。

 

 

────────

 

 同時刻、D.U.内のとある廃墟にて。

 不知火カヤは、内心のストレスを隠し切れないままに対面の大人と会話をしていた。

 

「まったく、良いご身分ですね? そちらの都合が悪くなったから子ウサギタウンから手を引いたというのに、都合が良くなれば一方的に連絡してくるんですから」

「そうカリカリするものではない。それに、理由についても共有しただろう? 子ウサギタウンの再開発に失敗すれば、最悪我々の屋台骨が揺らぎかねなかったのだ。仕方ないだろう」

 

 そう肩を竦めるカイザージェネラルに、不快感をそのまま表情に出力するカヤ。

 今回の連絡の際に言われた『我々にとって君が必要なように、君にとっても我々は必要だろう?』という言葉も含めて、どうにも足元を見られているという感覚が彼女のプライドを刺激したのだろう。

 

 しかし、そんな彼女が不満を続けるよりも先に状況が動く。

 

『あー、もっしもーっし。ジェネラルくん見ってるー?』

 

 カイザージェネラルが耳に着けた通信機から響く、明らかにPMCの言葉として相応しくない調子の声。そして、嘲りを前面に押し出した台詞。

 それが指す事とは、すなわち────

 

「先生の確保に失敗したか……計画の修正が必要だな」

 

 元々可能性として挙がっていたからだろう、ジェネラルの様子は忌々し気ながらも焦りはしていない。

 とはいえ、それもその瞬間までの事だったのだが。

 

『今からぁ、お前らの計画を…………』

「無茶苦茶にしてやろうと思いまーす」

「……は?」

 

 インカム越しの言葉を継ぐように声が響き、同時に何か硬い物が崩れ落ちるような音が連続する。

 間の抜けた声と共に振り返れば、そこには黒ずくめの影と破壊されたPMCの残骸が。

 

「どうやってここを────いや、それよりも外の兵は」

「おいおい、自分じゃなくて他の心配をできるたぁ……随分と余裕だな?」

「こうなっては、そもそも私の生存など考えるまでもないだろう。ならば、せめて残る組織のために行動する方が合理的じゃないかね?」

「達観してんなぁ……って、あー、そういう事か。お前、影武者か。やるじゃねえか、そこまで読んでなかったぜ」

 

 それだけ言って、興味を失ったかのようにカイザージェネラルの影武者を切り捨てるマクガフィン。

 そうして黒ずくめの青年が歩を進める先には、この場にただ一人残された少女が。

 

「ひっ……ひぃっ! な、何なんですあなたは! 目的は!? 私に傷一つでも付ければ連邦生徒会が黙ってませ────ひっ、近付かないでください! いや、殺さないで……!」

 

 防衛室長という立場上、目の前の相手についてある程度知っているのだろう。その上で、実際にその力を目の前で実演されたという事で、少女は涙目で命乞いを始めた。

 なんとも憐れみを誘う様子である。

 

 が、対するマクガフィンと言えば、それに何の感慨を覚えた様子もなく歩を進めている。実際、彼に少女へ危害を加えるつもりはないのだから、それも当然ではあるのだが。

 それに、そうでなくとも彼は少女について色々と知っているのだ。命乞いに多少心が痛みはするが、言ってしまえばその程度でしかない。

 

「あー、俺は万が一にでもあんたがカイザーに殺されたら困るから来ただけなんだが……ま、これでちょっとは懲りてくれればいいんだがなぁ…………」

 

 少女、不知火カヤが最後に耳にしたのは、どことなく先を案じるような響きのマクガフィンの言葉であった。

 

 

 

「さて、どうすっかね」

 

 とりあえず意識を奪った少女を俵担ぎにしながら、青年が短く零す。

 

(ジェネラル本体は……ちっとばかし遠いな。カヤを送り届けた後だと、活動限界の方が先に来るか)

 

 まったく想定していなかった角度からのイレギュラーに詰めが甘かったかと頭を掻きながら、黒ずくめの影はひとまず最初の役割を果たそうと廃墟を立ち去るのだった。

 

「ま、フィードバックは入れてるし本体がどうにかするだろ。……いや、案外こうなったら一旦静観を決め込むか?」

 

 最後の言葉を聞き届けた者は、誰も居なかった。

 

 

────────

 

 各地に散りばめた分体からのフィードバックを受けながら、砂漠に立つ青年はその一部始終を眺めていた。

 堕とされた先生が、“はじまりの君”と邂逅したことを。いよいよ、世界が始発点へと加速し始めたことを。

 

「ま、俺にとっちゃそこが終着点になるんだがな」

 

 数秒ほど肩が竦められた後、コクリとその頭が一度下げられる。

 

「首尾は上々。多少のイレギュラーはあったが……それもそれで悪くない。俺が干渉するのは致命的な部分だけで十分だからな」

 

 現時点での計画との乖離具合と、今後の見通しとを確認し。

 少なくとも先生の物語は問題なく進行できると判断すると、黒ずくめの青年は踵を返した。

 

 最後に、少し前に治癒を完了させた彼にとっての“はじまりの君”の方へと少しだけ視線を向け、青年は一歩を踏み出す。

 

「待ってな、プレナパテス()()。それと、色彩(もう一人)の俺。もうちょっとしたら、こっちから乗り込んでやるからな」

 

 物語は動く。

 世界は動く。

 

 それぞれの願いが交錯し、選択が衝突し────何れ至る結末にまで。

 

 波乱を予兆するかの如き砂嵐に飲まれながら、誰にともなく青年は呟いた。

 

 

 

「さて、子ども達みんなのハッピーエンドのために。頑張りますかね」

 

 

 

 今度は風にも負けずに響いた言葉へ頷くと、黒ずくめの像は解けて消える。

 今一度、D.U.へと戻るために。

 

 後に残されたのは、どこへ行くでもない砂嵐と、とある少女の愛車である水色の自転車のみ。

 物語の終着点がどこになるのかは、現時点ではまだまだ未知数のままであった。

 

 




 前話の感想に「なぜ繋ぎ手はユメ先輩の生存をマクガフィンに伝えなかったのか」という質問がありまして、その際の返信が不十分だったかな、と思いましたのでこの場を借りて説明させていただきます。
 興味が無い方はこの後書きは読み飛ばしていただいて大丈夫です。

 ではまず大前提として、繋ぎ手はマクガフィンの精神状態を誰よりも理解していました。つまりはちょっとしたキッカケで首を吊りかねない状況だったと分かっていたわけです。
 そのため、ユメ先輩の生存がどう作用するのか……もっと言えば悪く作用した場合に彼がどんな行動を取るか予想できない、というのが繋ぎ手にとっての懸念点でした。
 分かりやすく言えば、プラスに作用すれば良いですが、マイナスに作用した際にそのまま自死を選択するのでは、と心配していたのです。実際、再誕前の彼だと8割ぐらいの確率でマイナスに作用しますし、そのパターンの5割くらいでは「俺のやってる事って自己満足の塊みたいな物だし、ユメ先輩が生きてるならこれ以上余計な事をしでかす前にさっさと死んだ方がいいんじゃない?」ってホシノに裁かれに行ってます。もしくは一人で首を吊ってます。

 そしてもう一つの懸念は、そこまで踏み込んでしまえば今の関係性は維持できなくなるだろう、という点でした。
 こっちもまた、マイナスに作用した場合にマクガフィンとの繋がりが切れかねないというのが心配だったわけです。なにせ、マクガフィンと協力関係を築けていたのは彼だけでしたから。それが切れてしまえば、マクガフィンは完全に天涯孤独となってしまいます。

 で、これらを考えると、下手に触れるのではなく外部からの変化を待ちながら現状を維持する方がいいのではないか、という結論に彼は至ったワケです。
 とはいえ、一言で言ってしまえば臆病だっただけですし、事実だけを見れば彼が戦犯なのは間違いないんですが。それでも、彼なりに考えた結果の行動だったというのだけは伝えておきたかったので、こうして長々と書かせていただきました。
 ではではー。



最後になりましたが、烈光雷光ピカっと閃光 さん、評価付与ありがとうございました!
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