【本編完結】黒く濁った罪を背負って   作:RH−

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 黒服パート多くなりすぎちゃった……。色々と情報開示するのにこの人便利すぎるっぴ。

 対策委員会編第三章、少し出遅れましたが更新分読了しました。
 いや~、pvのスチルが次々回収されたりアビドスの過去話が明らかになってきたりと最高ですね。同時に作者は本作の設定が根本から崩れる波動を感じて戦々恐々としているのですが。
 まあ、相違点については一応言い訳できる設定を組んでるつもりなんですけどね?


手放されなかった彼女と、掬い切れなかった彼

 

 

「ククッ、取引に応じて頂けて良かったですよ。ここまで譲歩した甲斐がありましたね」

「…………」

 

 キヴォトス某所、とある人物が一時的に拠点として借りているオフィスにて。

 いかにも上機嫌といった様子でにこやかに語りかける色々な意味で黒い大人と、どこまでも冷めた眼でそれを睨みつける薄桃の髪をした少女の姿があった。

 

 対照的な雰囲気の二者の間には薄っぺらな紙が一枚。上部には『契約書』と書かれている。

 

「契約期間を半年にまで短縮し、更にアビドス高校から負担する借金の割合を7割にまで増額。そこに加えて、最新の医療技術の提供まで提示したんですから」

「……で、これで満足?」

「つれないですねぇ。ま、いいでしょう。付いてきてください」

 

 そう言って黒服は立ち上がると、部屋を出て下層へと降りていく。今のホシノの所属は“黒服の企業”であり、黒服はホシノの上司に当たる。その指示に逆らうことはできない。

 それでもただ言いなりになるのは癪に障ったのか、無意識に彼女の視線は鋭くなっていた。

 

「こんな(なり)をしていますが、実は私は研究者なんですよ。あるいは観察者、探究者と言っても良いかもしれませんが」

 

 その様子に気付いているのか気付いていないのか、階段を降りながらも黒服は上機嫌に語りかける。

 

「私が今追い求めている研究テーマは『神秘(mystery)恐怖(terror)の両立』でして」

 

 その内容は専門的であり、何の前知識も持っていないホシノには彼の言っていることが全く理解できなかった。

 しかしながら、一切の返答が返ってこない事を黒服は気にしていないようであるため────語りかける口調を取ってこそいるものの────これは単なる独り言、もしくはこれまでの道程を振り返っているだけなのかもしれない。

 

「『複製(ミメシス)』を通して初めて恐怖を観測した時から気になっていたんですよ。生きている対象にこれは適用できるのだろうか、とね。ですのでキヴォトスでも有数の神秘を持つ貴女を素体として実験を行い、起こる事象を観測する。これが私の計画

 

 ────()()()

 

 

 そこで黒服は言葉を切り、階段を降りる足を止めた。

 まだ一階には到着しておらず、話の内容も中途半端であるというのに諸々の流れを切った黒服にホシノは怪訝な眼を向ける。

 

「ですが、その段階は2年前に通り過ぎてしまいました。『神秘と恐怖の両立は可能である』、という結果だけが手渡されて」

 

 そんなホシノの様子を気にも留めず、相も変わらずに黒服は語り続ける。

 

「当初はその発見に沸き立ちましたが……次第に私は困り果ててしまいました。この学園都市(キヴォトス)というテキストでは存在し得ない筈の見慣れぬ神秘。過程や条件どころか、そもそもの材料さえ分からない実験の中身。あの場にはデカグラマトン第3の預言者であったり生命の危機であったりと考えられる要因が多すぎたのもありますね」

 

 

 そんな中。不意に、何か引っかかるものがあった気がした。

 

 

「話を聞こうにも彼の動きは不規則に過ぎる。今の程度であれば見逃されているようですが、下手なことをして敵対すればその瞬間にゲマトリアが壊滅しかねない。もしアレが絶望してしまえば、キヴォトスの存続自体が危うくなる程度には危険性を有している。あんなモノが紛れ込んでいるとは思ってもいませんでしたよ」

 

 

 2年前、生命の危機、そして()。チリ、と脳内で音を立てて点と点が結び付く。

 

 

「ですが、調べてみればどうやら彼はまだアビドスに並々ならぬ思いがあるようでして。ならばここで騒ぎを起こせば会えるのではないか、と。実際に来てくださっているようで良かったです。薪浪彩土────いえ、今はマクガフィンでしたか」

 

 

 

「お前がやったのかッ! 言えッ!! 何を知っているッッ!!」

 

 

 

 激情に駆られ黒服に掴みかかるホシノ。

 長身な黒服と小柄なホシノとでは身長差はかなりのものになる。しかしそれを忘れさせるほどの気迫を纏った彼女に対し、黒服が選んだのは沈黙であった。

 

「ここまでは、事実を明かさぬまま契約して頂いた貴女への義理立てと謝罪も含めてのサービスです。それ以上を望むのならば、何かしらの対価を差し出して頂かなければ」

「ふざっけんな!」

 

 茶化すようなその言葉に遂に限界を超え、ホシノが右手を振り上げたその瞬間、ビルが大きく揺れた。

 いや、ビルだけでなくアビドスの街全体が揺れている。エントランスにまで駆け下りて外を見れば、街の各所から黒煙が昇ってるのが目に入った。

 耳をすませば、爆発音に交じって逃げ惑う住民たちの悲鳴も聞こえてくる。

 

「ふむ、やはりこうなりましたか。一応滅多なことはしないよう忠告しておいたんですが」

「なんで……どうしてアビドスを攻撃してるんだ!?」

「何故と問われましても。あれは飽くまでもカイザーPMCが行っているだけで、私とは無関係ですし」

「は……?」

「どうやら誤解されているようで。私が所属している組織はカイザーコーポレーションなどではありません。あくまでも利害の一致があったから手を組んでいただけで、私としてはあんな下らない連中に興味はありませんし」

 

 次から次へと押し寄せる怒涛の新情報にホシノの思考が止まる。

 

「しかし、どうするつもりなんでしょうか。私との契約に伴って貴女がアビドス高校を退学し、その結果生徒会は消滅したと彼らは思っているようですが……。そもそも休学中とはいえ生徒会長は残っていますし、貴女も扱いとしては退学ではなく休学になります。この進攻に対する大義名分は無いでしょうし…………」

 

 口ではこう言っているが、彼はアビドス生徒会長がまだ生きているという情報がカイザーコーポレーションに流れないよう巧みに情報操作を行っていた。それは今回のホシノとの契約、その細部の条項に関しても同様である。

 

「度重なる彼からの襲撃や、ブラックマーケットにおける対抗者の発生などで焦っていたようですが…………ここまで暴れれば各学園から睨まれることになりますし、彼からの襲撃もより酷くなるでしょうね。ククッ、まあ私には何の関係もない話ですが」

 

 そう。あくまでもこの一連の騒動はカイザーが暴走した結果であり、自分は無関係だとするために。

 要は体のいいスケープゴートである。

 

「おや?」

「私の、せい……? 私が考え無しだったから、街が、みんなが襲われた…………?」

「ふむ、絶望の感情ですか。恐怖への反転には使えそうですが……私の管理下でそうなられると困りますね」

 

 この惨劇の発端は自分の行動だったと知り、膝をついてうわ言のように謝罪を繰り返すホシノ。このままでは精神が壊れかねないと判断した黒服は、懐から取り出した麻酔薬を使用すると、意識を失った彼女を実験場へと運び出した。

 

 彼に睨まれないよう、壊れ物を扱うように慎重に。

 

 

 

────────

 

 カイザーPMCがアビドスの市街地を襲撃し始めた。おそらく、ホシノが黒服との契約に応じたのだろう。

 対策委員会編もいよいよ大詰め。調査パートは終了し、ここからは黒幕として立ちはだかるカイザーPMCとの戦闘が主になってくる。

 

 そんな中、俺はアビドスの街を忙しく動き回っていた。

 目的は単純、無抵抗な弱者を一方的に攻撃できると思っているPMCの連中に、これまで散々煮え湯を飲まされてきた(マクガフィン)という恐怖を思い出させることである。

 

 

 ……少し気取った言い方をしたが、結局のところやっていることは普段とそう変わりない。

 カイザーPMCを襲撃する、それだけである。

 

 

 何せここには俺が散々お世話になった住人たちがまだ沢山残っているのだ。本筋に関わらない舞台裏であるこの場所でなら、俺が暴れたところで物語には影響を与えないはず。

 念には念を入れてアビドス校舎が視界に入らない位置を選んでいるし、誰にも目撃されないように注意して立ち回っている。カイザーの連中には捕捉されるだろうが……そこは既に必要経費として割り切っている。

 

 重要なのは対策委員会、延いては先生に俺の存在が露見しない事。カイザーからのヘイトが増えたところで何の問題もない。

 それに、ここでPMCを間引いておけば最終決戦で先生が楽になる。

 原作での兵力がどのくらいだったのかは分からないが、減らしておいて損することは無いだろう。特に、この世界では俺が定期的にカイザーPMCを襲撃してるのもあるため、組織の規模は変動していると考えられる。できる限り安全択を取っておきたい。

 

 

 そうする事三十分と少し、漸くPMCが撤退を始めた。神秘の探知でアルたち便利屋が合流していることは把握していたが、どうにか一つ目の山場は乗り切れたようで良かった。

 

 

「それじゃ、次の仕込みに移るか」

 

 言葉に出すことで意識を切り替え、俺はアビドス市街地から立ち去った。

 ここからはかなり忙しくなるな。

 

 

────────

 

「ようこそ。お待ちしておりましたよ、先生」

「……」

 

 カイザーPMCが市街地から撤退した夜、先生はホシノにスカウトを持ちかけていたという大人のオフィスを訪ねていた。

 

 扉を開いた先には、待ち構えていたような様子で声をかけてくる異形の姿。慇懃に、そして和やかに声をかける彼とは対照的に、先生の表情は緊張で硬く引き締まっている。

 今相対している大人は、アビドスで引き起こされた数々の事件を陰から操っていた黒幕……だと想定される存在だからだ。

 

「貴方と話したいことは沢山あるのですが…………まずは謝罪をするのが筋ですかね」

「……?」

「意外でならない、という顔ですね」

 

 全く想定していなかったことを言われ、先生は思わず驚愕を顔に出してしまった。自分とは相容れない存在だと思っていたため、てっきり険悪な雰囲気になると思っていたのだ。

 

「おそらく、貴方の想像した私というのは『他者の不幸よりも自己の利益を優先する存在』といった所でしょう。ええ、それは間違いではない。事実、私は自分が行ってきたことを理解していますし、それらを悪いことだとは思っていません。ですが同時に、私の行動が貴方や彼の不興を買うものであり、そして不利益をもたらす物だとも理解しています」

 

 これはそういった意味での謝罪ですと言うと、彼は静かに頭を下げた。

 その行動は子どもたちがするものとはかけ離れており、否応なく彼が『大人』であることを想起させる所作だった。

 

「頭を上げて欲しい。大人げないようだけども、心から悪いとは思っていない謝罪は受け取れない」

「やはりそう仰いますか。では本題へ移りましょう、私────いえ、私たちは貴方と敵対するつもりはありません。むしろ協力関係を築きたいと思っているぐらいです。まあ、敵対するような余裕が無いというのもありますが。とにかく、まずはその事を理解していただきたく」

「さっきの対応から、なんとなくそれは読み取れた。それで、あなた達は一体何者なの?」

「おっと、自己紹介を忘れていましたか。失礼」

 

 そう言って彼────『黒服』は自己紹介を行う。

 自分と同じキヴォトスの外側の存在であること、『ゲマトリア』という名を借りた組織に所属していること、彼らは『不可解な存在』であることなど、僅かながらも重要な情報が含まれたそれを語り終えると、黒服は一つの提案をしてきた。

 

「ダメ元での提案ですが……私たちと手を組むつもりはありませんか?」

「微塵も無い」

「ククッ、やはりそうですか」

 

 逼迫した状況に焦りを感じている先生とは対照的に、黒服は飄々とした楽し気な態度を崩さない。

 

 初めはここまで盤面を操作してきたからこその余裕かと思っていたが、それにしては『先生』への反応が軽すぎるように思える。

 それこそ、自分が有利だから油断しているのではなく、勝ち上がった後に他者のゲームを観戦しているような軽薄さだと先生は思った。

 

 そこに一抹の不安がよぎる。まさか、もうホシノは────

 

「……随分と余裕があるんだね」

「ええ。自慢ではないですが、私がアビドスでやりたかった事は既に8割ほど完了していますので」

「ホシノは無事なんだろうね?」

 

 本気の怒気を込めて睨みつけると、彼は心外だと言わんばかりに手を上げた。

 

「まさか私が小鳥遊ホシノを害すると? そこまで愚かになったつもりは無いのですが」

「…………? どういう意味?」

「おや。あそこまで彼のことを探っておいて、まだ把握していないと? ……驚きましたね。まあいいでしょう、ホシノはアビドス砂漠のPMC基地、その中央の実験室にいます。無事かどうかはご自分の目で確認してもらえれば」

 

 質問には答えなかったが、黒服はホシノの居場所をすんなりと開示した。

 ……正直、かなり怪しい。彼の行動の意図が全く読めないのだ。

 

「申し訳ないけど、今の貴方は信用できそうにない。一体何が目的?」

「フム、それでは交換条件といきましょう。実のところ、私も貴方の行動が何のための物なのか分からないのです。その事に答えて頂ければ、私も私の目的を話しましょう」

「……分かった」

 

 貴方には理解できないかもしれないけれど、と先生は語り始めた。

 『子どもたちの苦しみに対して、責任を取る大人が誰もいなかった』こと、『大人とは、責任を負う存在である』こと、そして何よりも『自分は先生である』ということ。

 

「……なるほど、それが貴方の在り方なのですね。やはり私には理解できないようです」

「けど、反論はしないんだね」

「全てを理解できるだなんて思うほど自惚れてはいませんからね。この世界には私たち以上に不可解な存在もいるわけですし」

 

 予想していた通り、彼の口から同意の言葉が出てくることは無かった。そのことに少しばかりの寂しさを感じつつも、否定の言葉が返ってこなかっただけで十分かと思い直すと、先生は改めて問いかけた。

 

「それで、貴方の目的は何なの?」

「一言で言えば、とある人物と会うことです。先ほど私は研究者であると話しましたが、覚えておいでですか? それは結構。私の研究テーマは『神秘と恐怖の両立』でして、彼はそれを果たした存在なんです。今はどうやら恐怖の性質は使っていないようですが……それも含めて話を聞いてみたかったんですよ」

「その、とある人物っていうのは────」

 

 アビドスに関係ある人なのか、関係があるとしてもここまでの騒動を起こさなければならなかったのか、という問いは割り込むように語られた言葉で途切れてしまった。

 

 

「マクガフィン────いえ、薪浪彩土と言った方が伝わりやすいでしょうか。貴方も調べていた人物ですよ」

 

 

 思わぬ場所で出てきた名前に一瞬だけ先生の思考が止まる。それでも直ぐに持ち直すと、そのまま先生は絞り出すように質問した。

 

「黒服……貴方は2年前の事件について何か知ってるの?」

「多少は。とはいえ貴方と大して差は無いでしょうし、何よりもまだ仮説段階でしかない事を話すのは私の美学に反します」

 

 言外にこれ以上の内容は話さないと告げる黒服。

 先生はせめて分かっている事実だけでもなんとか聞き出そうとしたものの、のらりくらりと上手くかわされ、そうしている内にかなりの時間が経過してしまい。

 

「そろそろいい時間になりますが、良いので? 貴方が『先生』だというのなら、他にもやるべきことがあるように思えるのですが」

「……そうだね、今日はここで引き下がっておくよ」

「ククッ、そう気落ちなさらずに。また貴方と語り合えるのを楽しみにしていますよ。ああ、そうそう。ホシノの奪還にはカイザーPMCの妨害があると思われますが、私はそれに関与していませんので。その点は悪しからず」

「…………分かったよ」

 

 そうして『大人の密談』は終わったのだった。

 最後に少しばかりの不穏さを伴いながら。

 

 

 

「────それと。『大人のカード』、アレは使いすぎない方が良いですよ。薄っすらとしか知らない私ですら、その危険性が理解できてしまう代物なんですから」

 

 

 

「……忠告、感謝しておくよ」

 

 

 

────────

 

 同時刻。

 アビドス砂漠に数多く存在する廃墟の一つを臨時のセーフポイントとして利用しながら、マクガフィンはとある人物へ電話をかけていた。

 

『あの~、私、数日前に雲隠れするって言ったと思うんですけど』

「知らん」

 

 もちろんと言うべきか、相手は繋ぎ手である。

 

『まあ連絡が来るとしたらそろそろかと思ってましたし、構いませんが……それで、ご依頼は?』

「諜報だ。ゲヘナの風紀委員長、それとトリニティが動くかもしれん。読み通りにアビドスへ向かってくるようなら連絡は不要だが、もし動きが無いようなら知らせてくれ。期間は明日の朝から昼まで、報酬は次のオーパーツ査定から差し引いてくれ」

『はいはいっと』

 

 予約も何も無しにする依頼にしてはかなり無茶なものであるが、話すマクガフィンにも応える繋ぎ手にも淀みは無い。この二者の間では、こういった無茶ぶりが飛び交うことがままあるからだ。

 

 故に両者とも常のペースを崩さず、マクガフィンは自分の作業を、繋ぎ手は次の拠点への移動を続けながら通話を継続する。

 

『ところで、こんな依頼を通すってことはそろそろ大きく動くって事ですか? それなら、ついでにこの前サービスさせて(廃品回収して)もらった爆弾も使っといて(廃棄しといて)もらえませんかね。丁度いいですし』

「おい、今何か読み方おかしくなかったか? いや、まあ。元から使う気ではあったが……」

 

 マクガフィンが忙しなくしている作業、それが今話題に出た爆弾への細工である。

 

 この繋ぎ手特製の爆弾は、とにかく火力を突き詰めた結果生まれた産業廃棄物である。

 一から厳選した素材にマクガフィンの協力のもと神秘を込めることで完成したソレの威力は折り紙付きであり、2発当てればどんな戦車の装甲でも完全に破壊し切れるほどだ。

 

 

 それだけで済めば良かったのだが、問題はその効果範囲にあった。

 そう、シンプルにクソ広いのである。投擲して使うと自爆のリスクが生まれるぐらいには有効範囲が広いのである。

 

 馬鹿みたいな威力の爆発が、これまた馬鹿みたいな範囲にまで届く爆弾。

 普通に危険すぎるしテロリストの手に渡れば確実に面倒になるということで繋ぎ手の倉庫の肥やしになっていたのだが…………。

 

 何故かマクガフィンが預けていたお金の隠し場所に一緒に置いてあったのだ。

 というわけで、大きすぎる被害や思わぬ事故を避けるためにも爆発の威力がなるべく地面に向かうよう手を加える、というのが今彼が行っている作業である。

 

『あ、使うんですね。カイザーがどんな反応をしてくれるのか今から楽しみですよ』

「……流石にそのまま使ったりはしねえぞ?」

『あらら残念。あ、もちろんジョークですよ、ジョーク』

 

 どこまでが本気なのか読めない調子で戯ける繋ぎ手。

 常識と良識に当てはめて考えるならば間違いなくジョークのはずなのだが、実は本気でしたと言われても納得できそうなソレに溜息一つで返答する。

 

「お前本っ当にカイザー嫌いだな。いやまあ分かるけど」

『そりゃそうでしょう、一体何年前から私が逃亡生活してると思ってんですか。その原因筆頭なんて中指立てるしかないでしょう?』

「…………確かお前とカイザーの対立ってお前の側からケンカ吹っ掛けたんじゃなかったっけ」

『おっと急に電波の調子が』

「流石に苦しすぎんだろその言い訳」

『んじゃ老化で耳が遠くなったって設定にしますか?』

 

 なんて馬鹿みたいな会話をしている間に時は進み。

 

『おや、夜明けですね。知っていますか? アビドスで見る夜明けは、空だけじゃなく地面も朝日で輝くのでとても綺麗なんです。私も気に入っている景色なので、是非見てみて下さい』

「……知っているよ。それじゃ、依頼した件は頼んだぞ」

『ええ、確かに承りました。ではこの辺りで』

 

 東から光が差し込み始めたのに合わせて、マクガフィンと繋ぎ手の通話は終わりを告げたのだった。

 

 

 

────────

 

「敵発見、攻撃を始めています!」

「兵力を集結させろ、北と東からもだ! 全戦力でもってひき潰せ!!」

「了か────ッ!? 北方に、少数ですが兵力を確認! あれは…………ふ、風紀委員長!? ゲヘナの風紀委員長です!」

 

 カイザーPMC基地の指令室にて全体の指揮を行う理事。

 昨日大々的に行動を起こしたため、反撃が今日来ることは想定していた。そのため多少のイレギュラーにも問題ないよう、依頼に就いていないカイザーPMCの全兵力を彼は集結させていたのだが、早速とばかりに想定外な増援が相手側に現れてしまったようだ。

 

「なんだと!? ……仕方ない、北は切り捨てろ。警戒用の部隊だ、元々大した戦力は配備していない。遅滞戦闘で最大限時間を稼がせろ!」

 

 彼女が敵の切り札だと考えた理事は、北方の戦力を切り捨てる判断を下したようだ。ゲヘナの風紀委員長といえばキヴォトスでもトップクラスの武力として名が知れているからである。

 普通に考えれば、そう予想してしまうのも無理はない。

 

 

 とはいえ、想定外はこれだけで終わることは無く、むしろここからより酷くなっていくのだが。

 

 

「それよりもアビドスの連中だ。あいつらさえ潰せば────ッ!? 何が起きた!?」

 

 突如として基地全体を襲う謎の揺れ。

 2年前からめっきり見なくなっていた地震や砂嵐が脳裏によぎったPMC理事が吠えるように指示すると、基地内の監視に当たっていた一人が絞り出すように報告を挙げた。

 

「……原因は不明ですが、戦車格納庫が複数箇所崩落しています。映像を見るかぎり柱から崩れているため、これらの格納庫から戦車を出すのは不可能かと」

「拠点内の防衛に当たっている部隊からの伝令です! 何者かに襲撃を受けていると!」

「ほ、報告! 拠点内の監視カメラが片っ端から破壊されています! 下手人は…………マ、マクガフィン!? なんでアイツが!?」

「前線から伝令! 敵戦力に増援を確認、L118による砲撃を受けていると!!」

「L118ってトリニティの兵器じゃないのか!? なんでだ!?」

 

 その一つがきっかけであったかのように各所から挙がる報告たち。

 そのどれもが想定の範囲から完全に逸脱したものであり、『癇癪を起こしたガキを潰すだけの簡単な作戦』という当初の予定は最早見る影もないほどに崩れ去っていた。

 

「理事っ! 敵の進攻が早すぎます! このままだと残り数分で旧アビドス本館にまでたどり着かれます、指示をっ!!」

「があああぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!!」

 

 もはや濃厚となった敗戦の二文字に、カイザーPMC理事ができるのは癇癪を起したように叫び散らすことだけであった。

 

 

 

────────

 

「……上手くいったか」

 

 傷を負いながらもアビドス本館に辿り着いた対策委員会と先生に「おかえり」と言われ、ホシノが「ただいま」と笑う。原作で何度も繰り返し見た瞬間を遠目で確認すると、俺はとある場所へ向かうために踵を返した。

 

 反省点はいくつもあるが、概ね上手くいったようで良かった。最後に基地を襲撃していた姿をヒフ────ファウストに見られたのだけはマズかったが。

 あれだって一瞬しか見られていない上、すぐに立ち去ったため見間違いだと思われている事を期待したいが……最悪を想定して記憶にとどめておくべきだろうな。

 

「許さん……何故、何故私があんなガキどもに…………」

 

 そうして暫く歩いていると、這いずるように動く黒くて大きな物体が目に入る。

 こう言うとゴキブリみたいだが、残念ながらカイザーPMC理事だ。

 

 傷を負いながらも必死に彼が向かう先には、俺の記憶にも存在しない兵器が鎮座していた。

 

 

 白を基調としつつ、各所に橙と黒のラインが入った巨大な機体。

 ゴリアテよりも全長は低いようだが、その分スタイリッシュなデザインになっており、機動力もこちらの方が高そうな印象を受ける。各所には兵装としてマシンガンやミサイルポッドが取り付けられており、背面からはレールガンらしき装備が伸びているようにも見える。

 

 このタイミングになっても理事が諦めていなかった様子と併せて考えると、おそらくこれが連中の切り札なのだろう。ビナーの脅威が無かったことで開発できた新兵器といった所だろうか。

 

「ダメじゃないか。ここでの物語はハッピーエンドで幕を下ろしたんだ。いつまでも醜く舞台にしがみ付くものじゃあない、だろう?」

「ヒッ、ヒィッ!? マクガ────」

 

 当然ながらそんなものをただ眺めているわけが無い。硬度を上げた神秘の糸でバラバラに斬り裂くと、そのまま背後から理事に話しかける。

 随分と(マクガフィン)を恐れてくれているようで大いに結構。このまま一生動きを見せないでいて欲しいものだ。

 

 

 軽く攻撃して気絶させた理事を放り捨てると、今度こそ俺はアビドスから立ち去ったのだった。

 




 書ききれなかった裏話
 この時のマクガフィンはホシノが随分憔悴しているのを確認しているのでかなり機嫌が悪かったりします。
 そのため黒服は今接触するのは危険すぎると判断し、遠目で観察してデータを収集するに止めたらしい。

 最後になりましたが、Cherry_toho さん、はるもこ さん、れいもち さん、夕焼サイダー さん、haru12 さん、Aoiss さん、gunso さん、カンテラ さん、kazu2bros さん、お茶の子さいさい さん、银堡垒 さん、1鍵 さん、ミサイルの雨をくらえ! さん、四葉五実 さん、光ノ さん、曙 晴 さん、カワキ さん、mir さん、消費豚 さん、まなうあ さん、曇らせが日々の糧 さん、nkm302 さん、ナギンヌ さん、オワタの行進曲 さん、byanana さん、評価付与ありがとうございます! 遂にバーの右端にまで色が付いてウレシイウレシイネ……!
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