【本編完結】黒く濁った罪を背負って   作:RH−

80 / 101
 ようやくこの時が来ました。目途が立ちましたので、これより毎日投稿を開始します。
 幕引きまで、どうぞ対戦よろしくお願いします。


 ちなみに久々に独自解釈(考察)成分が強くなってます。


御柱は突き立ち

 カイザーコーポレーションに占領されていたシャーレを先生たちが奪還してからしばらく、少しだけ戒厳令の混乱が鎮まりはじめた頃。

 D.U.が────否、キヴォトスが赤に染まった。

 

 それを、現れた時と同じように忽然と消えたフランシスとの対話を思い出しながら見上げ。

 

「大丈夫。どんな事にも、可能性は残っている。ここからは、私たちの番だよ」

 

 ────待っていて、シロコ。そして、マクガフィン。

 

 宣言するように呟くと、先生は身を翻す。

 行動を起こすために。

 

 “ハッピーエンド”へと、辿り着くために。

 

 その時は、少しずつ迫ってきていた。

 

 

────────

 

 時はしばし流れ、シャーレ屋上。

 対話していた人物が立ち去った事で一人佇むようにしながら、空を見上げる黒スーツの大人がいた。

 

「…………」

 

 沈黙を貫きながら、黙したままに大人は思う。

 

 常の透き通った青など見る影もなく、毒々しい緋色に染められた空。

 星々のように浮かび上がるは、何らかの建物であったはずの無数の瓦礫達。

 各地からは、屹立した反転したサンクトゥムタワーによる軋みが喇叭(ラッパ)のように響いている。

 

 まさしく────まさしく、これ以上ない程までに『終末』という言葉が相応しい光景だと。そう、言ってしまえるだろう。

 

「……これが、色彩。どうやら、少しばかり私たちも過小評価してしまっていたようですね」

 

 成程、あの例外たる青年が聖人にまで成り果てても尚警戒していたわけだ、と。そう、黒スーツの大人は目の前の光景を評する。

 少なくとも、尋常な存在ではこれに抗うまでもなく終わって行くだろう、と。

 

 そして。

 

「それ故にこそ、抗おうとする者は煌めきを放つ……でしょうか」

 

 屋上の淵に立ち、黒服はチラリと地上を見下ろす。

 そこには、Divi:sionの群れが、デカグラマトンの軍勢が、ユスティナ聖徒会の影がいた。無数に、うじゃうじゃと、うようよと。

 

 いっそ、数えるのも馬鹿らしいほどに。

 

 その上で、半ば暴徒と化したカイザーPMCもそこら中に広がっている。もはや事態の収拾など不可能なのではないかと思えるような光景である。

 けれども、その中には渦中へと駆ける背中があった。

 

 つい先ほどまで黒服と会話していた────先生の姿が。

 

 大人のカードを片手に駆ける背中を眺めながら、黒服はポツリと呟く。

 

 

「────嗚呼、成程。ようやく、少しだけ理解できました」

 

 

 彼は思う。

 

 忠告はした、と。

 自身ではなくフランシスが伝えはしたが、抗おうと無意味な徒労に終わる可能性が高いことも共有した、と。

 

 それでも、微塵の迷いもなく先生は進んで行ったのだ。

 

「……先生。貴方は、何度目なのですか? 何度終わり、何度始まり────そして、それでもなお諦められないのですね」

 

 マクガフィンの持つ“ダアト”のテクストは後付けの物である。

 つまり、彼だけの特異な『知識』は、元々彼に宿っていた物なのだ。いくつかの“終わり”の可能性まで含まれた世界(物語)の『知識』は。

 

 そこから導き出した一つの事実を思いながら、黒服は呟く。

 

「数多の悲劇を、絶望を、そして終着に程近いソレを経て……それらを繰り返し続けて、それでもなお」

 

 希望をまだ見出しているからか、呪いが手元に残されているからか。そう胸中で嘯きながら、彼は思う。

 

 閉じた箱庭を。

 繰り返し続ける物語を。

 

 繰り返し続ける、劇場を。

 

「繰り返し続ける一人を中心に置いた、終わらない世界。あるいは、閉じた循環とでも呼ぶべきでしょうか」

 

 メビウスの輪。

 あるいは、三葉結び。

 

 始まりが切り取られ、それ故終わりもなくなった作為的な世界。

 

「終わりの直前に……失敗が確定するその直前に、舞台は初期地点へと繋がる。ただ一つ、中心となる貴方とそれを記録した『大人のカード』だけが変化しながら。……いえ、もしかすれば、変化しているのはカードだけなのかもしれませんね」

 

 そう。この世界は、繰り返している。

 

 たった一つの可能性を掴むために。

 ただ一つの結末にまで至るために。

 

 無数の失敗を重ね、幾度となく色彩に呑まれながらも。決定的な破局にだけは至らぬよう逃げ続けながら。

 なるほど、色彩がああも混沌と肥大化しているはずだ。あれは、そのまま先生の足跡とほとんど同義なのだから。空を見上げ、黒服はそんな感慨を抱く。

 

「……お気を付けください。おそらく、()()世界は貴方の渡ってきたモノとは全くの別物となっているはずです。それこそ、()へと渡れるかさえ定かでないほどに」

 

 如何なる運命か、その繰り返しの堆積を……どこからも消えているはずの記録(アーカイブ)を知識として有していた青年を思い出しながら、黒スーツの大人は呟く。

 

「便宜上、アカシックレコードと呼称しましたが。中々に因果な物ですね。彼の『知識』は、おそらく色彩由来の物でしょうに。先生のカード以外で記録が残されているとすれば、アレだけなのですし。だというのに、それが真っ向から終末に反抗しているのですから」

 

 ククッ、と皮肉気に笑いながら、そのままに彼は続ける。

 

「先生。このイレギュラーを……いえ、このErrorを好機とするか危機とするかは、貴方の尽力にかかっているでしょう」

 

 なにせ、現時点で既にゲマトリアが想定していた盤面からはかけ離れているのだ。

 それも、先生の視点で見た時にプラスとなる方向性に。なればこそ、此処は分水嶺となるだろう。

 

 そう思考しながらも、同時に黒服は思う。

 自身が行った忠告について。自身が至った“大人のカード”────すなわち“奇跡を必ず起こすオーパーツ”に関する考察について。

 

「……ですが。ですが、しかし。そのカードはあなたの足跡そのものなのでしょう。となれば、それを乱用してしまえば……これまでの繰り返しで積み上げてきたその過去を、絆を使い切れば。引き落とし切れば。その瞬間に、貴方は『不可解な存在』へと成り果てる事になります」

 

 先生の握る『大人のカード』とは、そのまま先生という存在を、その過去の積み重ねを証明する記録と同義であり、そしてその貯蓄そのものである。その使用とは、すなわち彼の命脈を削る行為に他ならない。

 乱用すれば、相応の末路が待っているだろう。

 

 過去を逸し。

 繋がりを逸し。

 文脈を逸し。

 

 何故だかは分からないがそこにある、そんな存在にまで彼は成り下がってしまうのだろう。自身たちとは起源を別にしながらも、自身たちと同じ『不可解な存在』に分類される“ナニカ”へと。

 そう思いながらも、けれども黒服は彼を強く止めようとは思わなかった。自分でも不思議だとは思いながらも。

 

「……どうやら、この幕における私の配役とは、こうして舞台袖から貴方たちを見続けること程度のようですし。精々、祈っておいてみるとしましょう」

 

 ────悠久という言葉でも足りぬ貴方の航海に、せめて得る物がある事を。

 

「これでも、私は貴方に敬意を抱いているつもりですので。少なくとも、私に貴方のような献身は不可能なのですし」

 

 “まあ、それで言えば彼の青年にも同様の敬意は抱いているのですが”、なんて続けて、最後にもう一度ククッと笑って。

 黒服は、舞台袖となるどこかへと立ち去って行くのであった。

 

 

────────

 

 時はしばらく流れ、D.U.全域に出現した色彩の尖兵たちをある程度鎮圧した先生がシャーレに帰還した頃。

 虚妄のサンクトゥム攻略戦と題された作戦の会議が、開始された。

 

「────結論から申し上げますと、あの塔を2週間以内に破壊しなくてはなりません」

 

 通信越しでの参加も含めれば膨大な数になる出席生徒たちは、学園・組織の垣根を超えて終末へと立ち向かおうとする。

 その姿はとても眩しく、きっとこれならばなんとかなると思わせるほどに希望を纏っていた。

 

 だが、しかし。

 事態は、そんな彼女らを待ってくれるほどに悠長ではない。

 

 何故ならば、ずっと前からこの終末の襲来を把握し、その上で自重を捨てた青年が既に行動を開始しているのだから。

 

「…………え? こ、これはっ!? 報告です! 虚妄のサンクトゥムの反応が、計三ヶ所分消失しました!!」

 

 混乱は深く、展開される動乱もまた。

 少女たちが作戦を開始できるのは、まだしばらく先の事であった。

 

 

────────

 

「……で、これでいいのか?」

 

 ホド、ケセド、ビナーの預言者ハシゴ旅を終えた俺は、背後の賑やかな三人娘に問いかけを投げていた。

 

「無名の司祭の力に汚染されてたとはいえ……ビナーちゃん達がこんなあっさりと…………」

「ま、まあまあ。相手はあのお方でさえ畏れたダアトなんだし、しょうがないよ。────ちょっと、アインが消沈しちゃったじゃん! どうしてくれんの!?」

「はあ……?」

「まったくもってその通りです! どうしてくれるんですか!? これはもう、私たちの研究を手伝ってもらうしかないですね!!」

「はあ!?」

 

 アイン、ソフ、オウルと名乗ったこのガキンチョ三人娘達は、あのクソ自販機デカグラマトンの同胞のようなものらしい。

 突然ケテルに乗って空から降りてきた時は驚いたが、その登場やヘイローの無い真っ白な体などを見れば、ある程度受け入れられた。

 

 で、その上でこっちにも利のある取り引きを持ちかけられたからこうして同行しているわけなんだが…………

 

「ほら、早くなんとかしてよ!」

「いや、なんでそんな事を俺が……」

 

 どうにも、この奔放さというか挑発的な調子というかに振り回されている気がしなくもない。

 そして何が腹立つかと言えば、確実に俺が手を出さないのを理解した上でコイツらはこの振る舞いをしていることだ。とはいえ、こんな明らかに小学生レベルの女児を相手に何かをするわけにもいかない。

 

 結果、こうして毎回俺が折れる羽目になっているのだ。

 

(……これもこれでやっぱりマズくないか?)

 

 なんて思いながらも、やはりこうもしょんぼりしたロリを前に何もしないワケにもいかず。

 

「あー、その、なんだ。ホドはピラーを展開する前に叩いたし、そもそもケセドは相性的に俺が有利だし……ビナーもそこそこ苦戦はしたから。だから、まあ、あっさり倒したってわけでもない、ぞ……?」

「そ、そうですよね! ホドちゃんもケセドちゃんもビナーちゃんも、ちゃんと強いですよね!」

 

 途中からこれでいいのか? という疑問に襲われて微妙な調子になった慰めは、どうやら効果はあったようで。

 むん、と言わんばかりに胸元で両拳を握るアインの姿からは、沈んだ様子は消え去っていた。

 

「……で、そろそろ聞きたいんだけど、預言者組の奪取はできたのか?」

「pathの再確保なら既に終わっていますよ? あなたがアインをたぶらかしている間に」

「…………まあ、それならいい」

「え、否定しないの? ……まさか本気でアインのこと狙ってるの? それはちょっと引くんだけど……いや、いくらダアトお兄さんでも…………」

「たしか、こういう存在を人間では“ロリコン”と呼ぶのだったでしょうか。アイン、早くダアトお兄さんから離れましょう」

「反応しなかったらしなかったでこうなんのかよ! なんだお前ら!?」

 

 正気を取り戻したらしいビナーからどこか同情的な生暖かい視線を向けられつつ、俺はやいのやいの言ってくる三人娘に言い返すのだった。

 すぐそこまで迫りつつあった危機に、まるで気付きもせずに。

 

 

────────

 

 駆ける。

 桃色のポニーテールが、夜空を裂く綺羅星のように砂色の地平へと軌跡を煌めかせる。

 

 

 駆ける、駆ける。

 その一歩ごとに爆ぜる砂面の衝撃は、いっそ異常なまでに強く。傍目から見れば、ともすれば地雷が連続して爆ぜているのではと思ってしまうほど。

 

 

 駆ける、駆ける、駆ける。

 けれども、その全てが尚もどかしいと言わんばかりに。少女は、焦燥も露わに砂漠の中を行く。

 

 

 奇しくも二年の歳月を遡り、とある青年が一つの奇跡を為した始まりの日のように────しかし、それすらも霞むほどの速度で、専心で以て少女は駆ける。

 

「まだ……っ、もっと! もっと速くッ!!!」

 

 叫ぶ声に応えるよう神秘が煌めき、更にギアが引き上げられる。

 もはや惨状とも呼べるその軌跡は、表現するならば“意思を持って動く砂嵐”だろうか。叩かれた大気が波動のように広がる姿は、畏怖や恐怖を通り越してある種の美しさすら伴いつつあった。

 

 だがしかし、それら一切の外的な事柄を気にも留めずに少女は駆ける。

 現在の状況が状況であるためにその手には彼女の愛銃、Eye of Horusが握られている。が、彼女が愛用しているもう一振りの装備、すなわち“IRON HORUS”の銘が刻まれた盾はその手に収まっていない。

 どこにあるのかと言えば、それは防弾チョッキの背面である。そこに畳まれた形で背負われるように盾は収められていた。

 

 とはいえ、これもそうおかしな事ではない。

 なにせ、今の彼女は道中で遭遇する可能性のある存在に対し時間を割くつもりがないのだ。加えて今回の彼女は単独行動、背後に護るべき後輩がいるワケでもない。

 

 となれば、空気抵抗の大きい盾をわざわざ展開して構えておく意味は薄くなる。

 

 ────ついでに言えば。

 今この瞬間に限ってしまえば、少女はとある先輩を失う前の性質に戻りつつあった。

 

 いくつも重なったその余裕を奪う事件、付いてくる者もいない一人きりという状況、そして何よりも久々に引っぱり出してきたその頃の装備類。

 それらが、彼女の攻撃的な性質を呼び起こしているのだ。

 

 

「邪魔だ、退け」

 

 

 道中にいた10体ほどのDivi:sionを、速度の一切を緩めることなく少女は壊滅させる。

 まさしく二年前の小鳥遊ホシノを……“暁のホルス”の名を彷彿とさせる姿である。

 

 とはいえ、今回に限ってはそれも悪くは作用していない。

 彼女の行く先、数分前に先生から伝えられた“虚妄のサンクトゥム”の反応があった場所────もっと言えば、そこにいるであろう目的たる青年は、今では『知識』の力を扱うことができるようになっているのだ。

 

 となれば、この行軍は短ければ短いほどに良い。

 気付かれるよりも先に、あるいは気付かれたとしても逃亡が間に合わない内に、彼女はマクガフィンの下にまで辿り着かなければならないのだから。

 

 それに、これは彼女の個人的な願望だけによるものではない。

 なにせ、原理こそ不明ではあるが、アリウスの一件にて彼は“恐怖”に干渉することができると分かっているのだ。となれば、色彩によって反転させられたであろうシロコを戻すため、という意味合いも含めてマクガフィンの存在は重要となる。

 

 それこそ、いるかも分からない『百鬼夜行の大予言者・クズノハ』なる存在よりも遥かに。

 

 “巧遅は拙速に如かず”……と言うワケではないが、少女がこうして急いでいるのはそういう理由であった。

 

 

 そうして10分も経たぬうちに100km以上の距離をホシノが踏破した先、いつぞやのビナーが目印のように蜷局を巻いているそこには。

 顔も見た事のない真っ白な幼女を抱えるようにして、なでりこなでりこと頭を撫でまわすマクガフィン(黒ずくめの不審者)の姿があった。

 

 

「はぁ?」

 

 

 衝突の時まで────残り、数秒。

 

 

────────

 

 時は少しだけ遡り、守護者となっていたビナーが倒され、アビドス砂漠に突き立った『虚妄のサンクトゥム』が崩壊した頃。

 

「……で、これで本当に大丈夫なんだろうな」

 

 マクガフィンはアイン、ソフ、オウルの三人へと問い掛けていた。

 仮面越しにあっても分かるのは、その疑わしい視線。質問の文面も含めて、その内心が透けて見えるようだった。

 

「聞き捨てなりませんね。私たちの技術が信用ならないと?」

 

 それにムッとしたように返すのはオウル。

 目元を隠しているために表情はうまく読み取れないが、しかしその不満ははっきりと外に出ていた。

 

「私たち、その辺の人間ごときじゃ理解もできない事やってるんだけどー? その辺り、ちゃんと理解してるの?」

 

 続けて、ソフが口を開き。

 そして最後にアインが遠慮がちにコクコクと頷く事で、全員が意思表示を終える。

 

「あー……別に軽んじるつもりはなかったんだが、まあ、悪かったよ。一応、pathは取り返せてるみたいだしな」

「最初からそう言っておけばいいんですよ、まったく」

 

 いかに“あの”マクガフィンと言えど、こうも孤立無援の同調圧力に襲われれば無視はできないようで。

 今回は文句も何も無しに彼は謝罪を口にしたのだが、対するオウルの返事はゲシゲシと足を蹴りながらの憎まれ口であった。

 

 少しだけ……ほんの少しだけ、マクガフィンのメンタルにダメージが入る。なにせ、この三人組は────特に、ソフとオウルの二人は────最初からずっとこんな調子なのだ。

 振り回され続ければ、疲れも溜まってくるものだろう。

 

 が、そんな彼の内心を理解しているのかいないのか。

 幼女たちはそのままの調子を維持し続ける。

 

「というかさー、分からないなら余計な事言わなきゃいいのに。それか教えてってお願いするか。人間ってそういうところあるよね」

「うぐっ」

 

 なんとも“あるある”な事に対し、ソフが文句を口にする。

 つい先ほどの言葉もあってか、マクガフィンが小さく呻いた。

 

「まったくもってその通りですね。妙なところで意地を張ろうとするから人間は愚かなんですよ。そのくせ変に達観しはじめたりしますし……本当に救いようがないですよね」

「うっ」

 

 珍しくソフの言葉に全面的な同意を示しながら、オウルが続けるように文句を言う。

 こちらにも覚えがあるのか、再びマクガフィンが小さく声を漏らす。

 

 心なしか背中が煤けて見えるようだ。

 

 しかし、捨てる神あれば拾う神ありとも言うように、救いはまだ残されていた。

 そう、アインである。

 

「で、でもダアトお兄さんは人間から預言者にまでなったんですし……それに、優しいですし!」

 

 三人の中では最も柔らかい性格をしている彼女は、どうしてか気落ちし始めたマクガフィンへとフォローを入れた。

 そんな彼女なりの精一杯の励ましは、その純真な心が窺えるようにまっすぐであり。他二人の態度との“高低差”もあってか、青年にとっては地獄に垂れ下がる蜘蛛の糸のようにさえ思えた。

 

「ああ……アイン、もうお前だけだよ…………ほんと優しいなぁ」

「うぇ、えへへ」

 

 そんなわけで、マクガフィンがアインをなでりこなでりこと撫でくり回していた時の事だった。

 

 

「はぁ?」

 

 

 やけにドスの効いた声と、銃を構えるような硬質な音が辺りに響いた。

 

「…………」

 

 ギギギ、と、数時間前の焼き増しのように。

 壊れたロボットみたく、ぎこちない動作で黒ずくめの青年が振り返る。

 

 その、先には────

 

「へぇー。マクガフィンさんって、そーいう子が好みだったんだ」

 

 彼にとって聞き馴染んだ声の主が、しかし一度も見た事のないような据わった眼で立っていた。

 

「あの、ホシノ。いやホシノさん。ちょっと待ってほしい。これは……そう、誤解なんだ。信じてくれ、俺たちは分かり合えるはずなんだ」

 

 ダラダラダラダラと、今の彼にとっては無駄でしかないはずの冷や汗が流れ落ちる。無くなったはずの心臓がバクバクと音を立てているようだ。

 

 しかし、そんな彼への返答は無慈悲にも。

 

「別に、私は何も誤解してないよ。好みは自由だしね~。まあ、ちょっと近寄らないでほしいって思うけど」

「うぐっ!! なんか最近こんな感じのこと多くねぇかなぁ!?」

「……まー、さすがにさっきのは嘘だけど。でも、バラしてほしくなかったら…………分かるよね?」

「ねえ君そんなスラスラ脅迫するような子だっけ!?」

「じゃあ君のせいで変えられちゃったんだよ。責任取って? ね?」

 

 畜生めェェェェ、なんて少しばかり滑稽な悲鳴を号砲として、その場における戦闘は始まるのだった。

 なお、その際にマクガフィンに『はよ行け! 巻き込まれても知らんぞ!!』と逃がされたアイン、ソフ、オウルの三人は、彼に可哀そうな物に向ける視線と気持ち悪い物に向ける視線とが混ざったような目を向けていたらしいが……まあ、それは余談であろう。

 

 きっと。たぶん。

 

 

 




最後になりましたが、kasu192837465 さん、朝武 将臣 さん、評価付与ありがとうございました!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。