「……で、どうする? 私は提案した側だから、当然賛成なんだけど」
「えっと……私は、いいんじゃないかなって思う、けど。それに、ダアトお兄さんへの手向け? にもなりますし……」
「…………まあ、そうですね。色々と思うところはありますが、ダアトも預言者ではあります。やりたい事をサポートしてあげるのも、悪くはないでしょう」
「それじゃ決まりだね。あのお方は最後に『好きに生きろ』って言ってくださったんだし、ビナーたちの汚名返上も兼ねて派手にやっちゃおうか」
「はい! その、汚名返上というのはよく分かりませんが……あ、でも、あんまり派手にやっちゃうとゲブラちゃんたちが拗ねちゃうかも……?」
「アイン、気にしないでいいですよ。ソフのいつものやつですから。それと、ゲブラ達は下手に本気を出させると周辺環境まで変えてしまいます。今回は我慢してもらいましょう。……というより、あの程度であればケテル達だけで十分です」
「そ、そうですね!」
「ま、そうだね。それじゃあ、行こっか!」
────────
雲が割れる。
空が晴れる。
緋色を押し返して、青色が戻る。
色彩の襲来による終末の悲劇を、苦難を乗り越える喜劇へと書き換えるように。
「……はぁ、はぁ」
そのきっかけとなった平凡を自称する少女、阿慈谷ヒフミは、青空の下で荒い呼吸を繰り返していた。
全力で叫んだ反動で息を吐く姿は、けれども晴れやかな色に覆われている。
彼女なりに、何か手応えのようなものがあったのかもしれない。
けれども、だからといって律儀に時を止めてくれるほど世界は個人に親身ではない。
ヒーローの変身を待ってくれるのは物語の中の悪役だけであるように、遂に少女の眼前にまで辿り着いたペロロジラもまた。
むしろ、よく宣言が最後まで行えたと思うべきであるのだ。
「あ……」
思わず呆けたように声を漏らしたのは、彼女の親友である白髪の少女。
見惚れるように彼女の宣言へと目を奪われていた少女は、ようやくそこで思い出したのだ。ここが、鉄火場も鉄火場、戦場の最前線であることを。
否、彼女だけでない。
同じくペロロジラの攻略を試みていた他の面々もまた、その神秘的な光景に目を奪われていたのだ。
それ故、気付くのが遅れてしまった。動くのが遅れてしまった。
代償は、今にもヒフミへと放たれようとするペロロジラのビーム攻撃で────
「────っ!?」
刹那、晴れた空を貫くように一条の光芒が突き抜ける。
ただしその発生源はペロロジラではなく上空高くであり、直撃したのはヒフミではなくペロロジラであった。それは、すなわち何らかの存在がペロロジラへと攻撃をしかけたことを示している。
「あれ、は…………」
かくして、青空から飛来するように“冥王星”を冠するソレは地上へと降り立つ。
総身を彩るは、どこか彼の聖人と共通するような純白の装甲。幾度かのブラッシュアップを経て右腕と一体化したレールガンは、たった今弾丸を撃ち放ったかのように砲身から熱を散らしている。
太陽を反射するよう大きく広げられていた翼部パーツを格納し、スラスターの青白い光を中空に引きながらそれは着地した。
巻き上げられた砂埃が、その威容を強調するかのように漂う。くすみの無いその姿を、更に引き立てようとするように。
「ケテル……!」
続いた奇跡は鮮烈に、白磁の光を煌めかせた。
────────
次に変化が起きたのは、第8サンクトゥムであった。
「くっ……!」
空が晴れようとまるで関係が無いかのように、純黒で構成された神性の模造品はその力を振るう。
大気を切り裂く黒の雷は鋭く、ホシノが神秘を用いた上で盾で受けてもわずかに痺れを残すほど。吹き荒れる嵐も含めて、その桁違いの強さを知らしめるようにソレは暴れていた。
(────このままだと)
先頭に立ち敵の攻撃のほとんどを引き受ける桃髪の少女の脳裏に、思考が過ぎる。このペースでは、敵を削り切るよりも先にこちらが瓦解する可能性が高いかもしれない、と。
険しい表情のままに、少女は続けて検討する。魂の欠片を取り込むことで得たあの人の力を完全に解放するべきか、と。
(ここで問題なのは、周りとのバランスだよね)
一度も試してはいないが、ホシノには不思議と彼の力ならば問題なく使えるという確信があった。
しかし問題になってくるのは、おそらく彼の力を解禁した場合に彼女と周囲とでは隔絶した実力差が生まれてしまう点である。
(……でも、このままじゃジリ貧か)
思考を切り替え、少女が口を開こうとする。深い信頼の色がその顔に浮かび上がり、可能性を掴むための挑戦が、今この瞬間に始まらんとして。
嵐を切り裂いて、極太の熱線がセトの憤怒へと直撃した。
「…………は?」
そのビームに見覚えのある面々────具体的には、対策委員会の少女たち────は、呆けたようにあんぐりと口を開けて固まる。
それだけ、信じられなかったのだ。
けれども、異常はそれだけでは終わらない。
「…………え?」
遥か高空から砂を撒き散らして突き立った見覚えのあるピラーに、今度は便利屋68の面々が動きを固める。
顔に張り付く驚愕の色は、それだけ彼女らにとってソレが印象に残っていた事を示していた。
とはいえ、仕方のない話でもあるだろう。
なにせそれは、幾人もの生徒が先生の下に集って、それでどうにか撃退できた存在の使う道具であるのだから。
そんなわけで固まる少女たちの前に、いよいよその下手人が姿を現す。
砂の海から空へ飛び立とうとするかのように胴体を伸ばし、その顎を大きく開いた白磁の大蛇が砂塵を散らす。
同時に、地下から天まで貫かんとするように機械の触手が伸び、それに掻き分けられるようにして本体たる白磁の機構が砂面を割る。
続けて、いつの間にか現れた夥しい数のデカグラマトンのオートマタ兵が周囲を固め。
『ダアトお兄さんに感謝しなよ? あの人がいなかったら、私たち絶対こんな事してないんだから』
『ええ。ついでに私たちの威光にひれ伏せば完璧ですね』
『ビナーちゃん、ホドちゃん! ま、負けるわけがないけど、頑張ってね! ケセドちゃんも!』
最後に、どこからともなくそんな声が響き渡り。
斯くして、イレギュラーたる最悪の守護者の前には、更なるイレギュラーとなったデカグラマトンの預言者たちが揃ったのであった。
────────
場所は移り、第7サンクトゥム。
倒れ伏す青年の分体は、静かに意識を束ねていた。
(俺は……何を、している?)
損傷に途切れる意識の中で、それでも自問自答は────否、自身への怒りは燃え上がる。
(俺は、どうして子ども達が戦っているのに倒れたままなんだ?)
その答え自体は、実に単純なものである。
ベアトリーチェが神秘だけでなく魂にまでダメージを与えたからだ。色彩に取り込まれたことで可能となったソレは、一切の支障なく効果を発揮したのだ。
欠片程度の魂しか乗せられておらず、さらにその一撃を正面から受けたとなっては、このマクガフィンが無事でいられるワケは無かった。
むしろ、未だ辛うじて像を残せているだけでも十分すぎるぐらいなのだ。意識を薄れさせながらも、それでもどうにか繋ぎ止めている時点で。
(思い出せ。お前は、何のためにここに居る。何のためにここに来た)
だが、そんな事は青年に対して僅かな意味も持たない。
それが、その在り方こそが彼を象徴するが故に。
「ぐっ、ミカ!」
「大丈、夫……! まだ!!」
響く少女らの声を、青年の途切れ途切れの意識が拾う。
刹那、炎が広がった。
「そ、う……だ!」
色は白く、聖人の現し身たる青年を象徴するかのように。
どこまでも眩く、炎が燃え広がる。
「まだ、だ……まだ! 終わらない!!」
絞り出すかの如き声が。掠れ掠れの、今にも消えてしまいそうな声が。
しかし確かな芯を持って周囲へと轟き。
転瞬、その黒ずくめの像へ罅が走る。
ピシリ、と。陽に照らされた部分から、壊れるように、剥離するように。
それでも青年は、マクガフィンは止まらない。
(燃やせ。血も肉も灰も、失った物も、残された物も。全てを燃やしてでも、立ち上がれ。お前は、そのためにこの世界に来たんだ)
もはや全身にまで広がった罅は、彼のかわりに悲鳴を上げるよう音を立てる。
それでも。
それでも、マクガフィンは止まらない。
(そうだ、燃やせ。流浪の時は既に終わっている。迷うな、自らを薪としろ。残る神秘も────そして)
「この、魂も!!」
軋む意識を、震える魂を、その全てを懸けて。
子ども達のために立つのが、彼の見定めた自分自身であるからこそ。
宣言に従い、炎が更に強まる。
総身を舐めるように昇り立つは、まるで焚刑のソレであるかのように。
けれども、それは青年の終わりを告げるものではない。何故ならば、彼は未だ強く立っているのだ。
火に舐められた下から、
「────もう一度。いいや、何度でも」
立ち昇るは、剥離した神秘の輝きか、燃え上がる魂の煌めきか。
差し込む陽光を背に、その光を無数の色に反射させながら。
全てを束ね、総てを燃やしながら。
青年が、立ち上がる。
「マクガフィン、さん……?」
はたして、それはどれ程の神性であるのだろうか。片手で編み上げた結界でベアトリーチェを拘束した姿を見て、少女たちは思う。
巨大すぎるが故に何も感じなくなったソレを、その原因を無意識に理解しながら、薄桃髪の少女がその名を呼んだ。けれどもその顔にあるのは、彼が再び立ち上がったことへの喜びではなく、どこまでも深い不安の色。
その事に、身を案じられているという事実に少しだけ頬を緩めながら、けれども青年は何も答えずに一歩を踏み出した。
もう、その身に残された時間は僅かだけであるからこそ。
赤、青、黄、緑と、白から始まり無数の彩りへと分岐する燐光を漂わせながら、その煌めきを土に還すよう薄れさせながら、いつかの再誕とは似て非なる光を纏いながら。
今一度、罪なき者をその身を以て救う者────『聖人』として、マクガフィンはその手に力を束ねるのであった。
────────
変化は地上だけではなく、色彩の内側でも。
第7サンクトゥムにて彼自身の分体が起こした一つの奇跡に応じるかのように、それは起きた。
(あぁ……なるほど、これが“色彩”なのか)
抽出された色彩そのものを叩き込まれ、全身を蝋のように恐怖で固められた青年が、そんな実感を抱く。
そこには、その内側には、いくつもの感情があった。
それは喜びであり。
それは怒りであり。
それは哀しみであり。
それは楽しみであり。
色彩に触れて、呑み込まれた────保存された。そんな、きっとどこかで生きていたはずの誰かの思い。感情。
それは、保存された時のままに巡っていた。いつかの日のままに、ぐるぐると。
けれども、色彩とはすなわちある種の終末と同義の存在であるが故に。
そこに遺された感情には、偏りがあった。
悲嘆。苦痛。慟哭。憤怒。嫉妬。疑問。怨嗟。
絶望。絶望。絶望。絶望。絶望。絶望。絶望。
暗く、昏く、どこまでも濁り切った純色の感情たち。終わりを目前に誰かが抱いた、どこまでも生々しい記憶たち。
未だ命のある存在を呪い、幸福を羨み、その熱を奪い去ろうとする憎悪。
覚める事の無い熱に満たされ、然れどどうしようもない程に冷たくなってしまったソレらは……なるほど、触れた者の本質を捻じ曲げる力もあるのだろう。
それに足を絡めとられ、覆いかぶさられながら。漂うようにその中を浮かびながら、青年は思う。
(でも、ごめんな)
憐れみと、そしてほんの少しばかりの申し訳なさを。
そして────それでも、と、彼は進むのだ。
「俺は、君らと一緒に眠ってやる事はできないんだ」
言葉は短く、端的なまでに。
だが、それで十分なのだ。今さら、余計な装飾を施された言葉など必要ないのだから。
編まれた像の中心、魂に熱が宿る。
白い光が鼓動を刻み、その色を波動として広げる。
混ざり合って、いつかの色が黒に覆われるように消えてしまったそこで。
どこかにあったはずの、“こんな終わりには至らないでくれ”という願いが掠れてしまったそこで。
「たしかに、いつかは終わってしまうんだろう。いつかは、君たちのように全てを呪うようになるのかもしれない。でも、それだけじゃないんだ」
伝播する熱は柔らかく、照らし出す光は温かい。
青年の本質が、否定ではなく肯定にあるが故に。
「後に託す想いは、続く子たちに幸せでいてくれっていう気持ちは。きっとあるし、きっとあったはずなんだ」
人間とは、一側面だけで語れるほど単純な生物ではない。
羨みながら祝福することもあるし、嫌いながら背中を押してやることもある。それらは、矛盾なく両立できるものなのだ。
「だから、俺は進むよ。いつか生ある全てを呪うのだとしても、今この瞬間、俺は子ども達にハッピーエンドを贈りたいから。ほろ苦い結末で終わってしまうあの子にも、世界は
いつの間にか、青年の周囲には彼の物以外の光が漂っていた。
それは弱く、儚く、ともすれば外の黒色に呑まれて消えてしまいそうなほどで。けれども、たしかにそこにある
「────っ、はは。うん、そうだね。だったら、一緒に行こうか」
その光に、その色に────純粋に他の幸福を想うその祈りに、数秒ほど目を見開いて。
青年はそう言って、包み込むように誰かたちの願いを抱きしめた。きっとどこかにあった、そして、きっとどこかに繋がっていく。そんな、いくつもの願いを。
斯くして光は満ち、色は束ねられた。
其れなるは新たなる色彩。いくつもの願いを呑み込み、然れどその全てを肯定する眩き白光。無数の光
「もう一回……いや、そうだね。何回だって立ち上がろう。さあ、一緒に行こうか」
答える声はなく、しかし青年の周りを虹のように漂う光が揺らめく。
たった今この瞬間をもって、マクガフィンは思い描いた理想の“マクガフィン”として完成した。
きっと、その終着点はすぐそこに。
────────
同時刻、第7サンクトゥム。
炎として自らの全てを燃やす白き聖人が、一息の間に駆け出す。
制止の声も案じる視線も振り切って、子ども達の敵の下へと。
討つべき敵の下へと。
「ベアトリーチェ! お前だけは、ここで殺し切る!!」
『やってみろォォォ! マクガフィン!!!』
滑るように地を駆ける軌跡は、白い炎を残して瞬く。
残り僅かな蝋燭が最後に強く火を燃やすよう、どこまでも鮮烈に。
そして、遂にベアトリーチェの至近距離で強く踏み込んだ青年は────跳び上がる直前、大きく叫んだ。
とある少女の名を。遥か高空から飛び降りてきた、別れを済ませたはずの少女の名を。
「カシス!!」
「はい!!」
今さら都合が良いと、本当に酷いことをしていると理解しながらも、マクガフィンは迷いなくその名を叫び。
その信頼を、青年が自分を頼ってくれたことを喜ぶように少女が応え。
刹那、ベアトリーチェを中心に両者が衝突する。
『ギィィィィアァァァァァアアア!!!』
あらゆる神秘を貫く槍と、その魂さえ燃やし上げる事で輝きを増した聖人の神秘。
その中心に置かれれば、たとえそれがどんな存在であろうと無事には済まない。
上げられる醜悪な絶叫は、彼と彼女の攻撃の凄まじさを表していた。
だが、そのまま綺麗に終わってくれるほどソレは容易い存在ではない。
枯れ枝のような右腕が伸ばされるは────頭上。せめて道連れにでもと、槍を握る少女へとベアトリーチェが掌を掲げ。
「ベアトリーチェ! これ以上────」
「────余計な事は、させないよ!」
刹那、正確無比なARとSMGの狙撃が襲い掛かる。
錠前サオリと聖園ミカ、かつてベアトリーチェに大きく運命を歪められた二人の覚悟が乗せられたそれは、敵から反撃の芽を完全に奪い去った。
「これで、終わりだぁぁぁあああ!!!」
最後に、強く叫びながら青年が腕を振り抜き────
今度こそ、ベアトリーチェの残骸は完全にこの世界から消え去った。
────────
場所は再び、色彩の内側。
ピシリ、という小さな音を始まりに、十字架状に突き立った恐怖の塊に罅が走る。
内側から零れ出るは、眩いまでの白き光。
封じたはずの、呑み込んだはずの青年が未だ終わっていない事を示す輝き。
『ノミコメ、イソゲ』
それに気付いた色彩のマクガフィンが行動を起こそうとするも、事ここに至ってそれは悠長に過ぎた。
ガシャン、と硬質な音を響かせながら恐怖が粉々に砕け、青年の光が遮るものなく解き放たれる。
その煌めきは、色彩の内側にあって一切翳らないもの。
周囲の黒色を押し返し、そこに埋没してしまったいつかの願いを汲み上げるもの。
どこまでも純粋で、それ故何物よりも尊い希望の光。
『────Apollyon』
しかし、それを指を咥えて待っている色彩ではない。
先の焼き増しのように、破滅を冠する災禍の技が解き放たれる。それも一つではなく、全方位から無数に。
ああ、だがしかし。
実現できないからこそ“理想”と呼ばれるソレを完成させてしまった彼には、もはやその程度の黒色ではまるで足りない。そも、その技では彼を打倒する事など絶対にできないのだ。
「悪いな。天路歴程は、既に終わらせてるんだ」
アポリオン、あるいはアバドン。
それは黙示録における終末に顕現する天使の名。蝗の群れを率いて現れ、人々に5ヶ月間の苦しみを与える蝗害の神格。
それは時にルシファーとも同一視される堕天使の一人。奈落の鍵を管理し、千年の間サタンを封じ込めていた奈落の主。
そして────それは、天路歴程の題を与えられた物語に登場する悪魔の名。主人公の前に、その歴程の果てに立ち塞がり、苦難を与える存在の名。
故に、だからこそ。
天路歴程を終え、自らを徒人から最高位の神格にまで昇華させたマクガフィンに、その技は意味を為さない。ほんの僅かにも。
白き青年が腕を一振りし、それで全ては砕け散った。
立つのはただ一人、暗闇の中でなおも輝く新たなる色彩のみ。
ここに、戦いは終わりを迎えた。
────────
各地で連続する変化は、アトラ・ハシースの箱舟においても。
黒で覆われたその場所に、抗うように光が生まれる。
「ま、だ……!」
シロコ*テラーから放たれた恐怖の波動を切り裂いて、砂狼シロコが立ち上がる。
声はか細く、けれども芯には欠片も揺らがない強さが。
「まだ!!」
その全身は傷だらけであった。
火傷、裂傷、打撲、ありとあらゆる種類の傷が、その身を苛むように広がっていた。
だがそれでも、その瞳に宿る熱は、光は、欠片も弱まっていない。むしろ、苦境においてなお輝きを増すように強まってさえいた。
それが、それこそが彼女の『強さ』なのだろう。
まだまだ、少女たちの物語は終わらない。
悠久の時であろうと、諦めない限りそれは続くのだから。
────────
場所は戻り、色彩の内側。
先の激突が嘘であったかのように静寂に満たされながら、言葉を交わす存在がいた。
『……いやぁ、最後に世話かけたな』
「まあ、いいさ。終わり良ければなんとやら、ってわけじゃないけどな」
弱々しく倒れ伏すは、色彩の支配から逃れた黒色のマクガフィン。それが、対照的な白色に総身を彩られた青年へと言葉を贈る。
答える白き色彩は、気負った様子もなく。自然体なままでいる姿は、かつての不安定さが完全に消え去ったことを示していた。
『それじゃあ、後は任せ────』
その様子へ少しだけシニカルに頬を歪めると、黒色の青年は遺言となる最後の言葉を紡ごうとして……遮られるように、話しかけられた。
「何言ってんだ、お前も行くんだよ」
『……は?』
呆けた単音に答えはなく、その代わりに黒のマクガフィンは腕を掴んで引き上げられる。
「お前も俺なんだ、最後まで見届けたいだろ? それに、今の俺は願いを束ねる存在みたいだからな」
『……お前、イカれてんな。だがまあ、うん、いいな。最高だ』
「んじゃ、いくぞ」
薄れ行く黒色の像が粒子へと霧散し、白色の像へと呑み込まれる。
斯くして、地上にて欠けた魂は再び満たされた。色彩として完全にその身を成り立たせた青年は、踵を返して踏み出す。
向かう先は────とある少女が居る場所へ。
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