パンドラの箱
アトラ・ハシースの箱舟が墜ちた朝から一日が経過して。
まだまだ遠い以前の日常を目指して、少しずつ復興が着手され始めた頃。
「……ね、ホシノちゃん。今日、先生がアビドスに来るって聞いたんだけど、本当?」
「えっと……そう、だけど。どうしたの?」
アビドス高校の一室にて、二人の少女が言葉を交わしていた。
一人は、桃色の長髪に橙と青のオッドアイが特徴的な小柄な少女。すなわち、対策委員会の委員長を務める小鳥遊ホシノ。
もう一人は、浅葱色の長髪が特徴的な金の瞳の少女。すなわち、昏睡の原因となっていた神秘の混線が消え去ったことで目覚めた梔子ユメ。
前者は、一つの事実から必死に目を逸らして大切な先輩が目覚めたことだけを喜ぶようにして、けれどもどう接するべきなのかが掴めていないからこその静かさで。
後者は、そんな後輩────もっとも、今では学年的には両者は同級生になっているのだが────の心の動きが分かるからこそ、そして何よりも内側に抱えたモノが外に出ないように抑え込んでいるからこその静かさで。
二人は、言葉を交わす。
「ちょっとだけ、先生とお話ししたいなって思ってて。いいかな、ホシノちゃん」
「先生の予定次第だけど……たぶん大丈夫だと、思うけど」
「そっか。なら、よかったや」
くすりと、漏れるように息を零して。
浅葱色の少女は笑う。
これまでに一度もホシノが見たことのないような、太陽みたいに眩しいソレではなく、自嘲するような色のソレで。
あるいは────自身の罪深さを懺悔するような色のソレで。
封じられたはずの匣が開くのは。
ハッピーエンドを穢す真実が明かされるのは。
きっと、すぐそこに。
────────
数時間後、やはりアビドス高校の一室。
先生は、言葉を失って固まっていた。
「あなたは……プレナ、パテス?」
遂に目が覚めたらしい梔子ユメの顔を見ようとアビドスに来ていた先生は、しかしそこを訪ねてきた思わぬ二人に言葉を漏らす。
驚いているのは彼だけでなく、シッテムの箱の内側にいるアロナとプラナ、それにホシノとユメもまた。
なぜならば、その二人とはもう一人のシロコとプレナパテスであったのだ。
先生自身が地上へと送り出したシロコは、ともかくとして。別の世界で息絶えて、その上であの箱舟の爆発に巻き込まれたはずのプレナパテスが生きており、更にはその両足で先生たちを訪ねてきたことの驚愕など考えるまでもない。
故の衝撃。
故の硬直。
カチ、カチ、と。壁に掛けられた時計が過ぎ去った時間を告げる音だけが室内に響く。
けれども、その中で誰よりも早く混乱から抜け出した浅葱色の少女は、プレナパテスと目を合わせて頷きを交わした。
交差した思念は密やかに、けれども確かな形を持って。
両者の間にはpathも何も無いはずだというのに互いの思考が分かったのは、きっと両者に共通点があるからこそなのだろう。
あるいは、同族意識かもしれないが。
それを正しく理解して、両者は嫌な笑顔を浮かべた。
その色は苦笑か、自嘲か。
最後の最期まであの青年が望んでいたハッピーエンドを穢してしまう事への嫌悪と、それでも抑えきれない感情とで。
二人は通じ合ったように視線を交差させ。
「……ね、ホシノちゃん。あのもう一人のシロコちゃんに、学校の案内をしてあげてくれないかな」
「学校の、案内?」
「きっと、色々とあると思うから。一緒にお話ししながら、さ」
「……でも、ユメ先輩は何か話があるんじゃ」
「いいからいいから。私の事は気にしないで?」
戸惑うようにするホシノの背を押して、同じく戸惑うようにするシロコにお願いするよう頭を下げて。
ユメは、教室からホシノを送り出した。
残されたのは、先生とプレナパテス、アロナとプラナ、そして梔子ユメの五人。
ひっそりと静まり返った空間で、一つ深呼吸をすると、梔子ユメは言葉を紡いだ。
「……先生。今から私は、とても酷いことをします。とても、とっても……でも、聞いてほしいの。私以外の誰かに、知っていてほしいの」
「それは、つまり…………」
何かを察したみたいに目を見開く先生に、浅葱色の少女はコクリと頷いて。
────そう。アヤト君の、話。
遂に、青年の全ての歴程が明かされた。
────────
その青年は、どこにでもいる普通な子どもだった。
平々凡々。格別頭がいいわけでもなければ、スポーツができるわけでもない。ましてや超能力だとか魔法だとか、あるいは銃火器だとか。そんな常識外のコトなんて、関わりの無い。
少しだけオタク趣味の気があり、強いて言えば青年の好む小説などの物語にはそれらはあったが……まあ、そんなこと誰にでも当てはまることだろう。
故の、平凡。
目を引く欠点があるわけではないが、目を見張る長所があるわけでもない。
ごくごく一般的な、どこにでもいるような青年。
家族構成も普通。
少しだけお節介ながら優しい母と、どこか大らかに柔らかな父と、たまにけんかをする適当な調子の妹。それに、頑固者のように見えてお調子者な祖父と、そんな祖父を窘めるように尻に敷く祖母。
少しだけ離れた辺りに住む父方の祖父母もまた、優しく温かい。
ごくごく一般的な、ともすれば退屈なまでに平凡な家庭。
交友関係もまた普通。
クラスの先頭に立つようなリーダーシップは無いが、とはいえ狭く深い関係だけを築いているわけでもない。むしろ、どちらかと言えば広く浅くに。
話しかけられれば誰とでも話すし、誰かに酷く嫌われていたりもしない。何人か反りの合わない同級生もいたが、それもまた普通のコト。
そういった相手とはなるべく関わりを減らすように生活するのも含めて、そして特に仲の良い親友がいたことも含めて、やはり平凡。
ごくごく一般的な、ともすれば漫画の背景みたく一緒くたに埋もれてしまうような高校生活。
けれども、そんな青年は平々凡々な日々に幸せを感じていた。
代わり映えの無い生活には、しかし些細ながら確かな変化があった。
何気ない日常の中には、しかし目を向ければ“ほんの少しの奇跡”がたくさんあった。
空想の中で非日常に憧れる事もあったが、やはりそれは空想だからこそで。後から振り返るまでもなく、青年はその日々を幸せに過ごしていた。
それが崩れたのは、やはりいつも通りの中のある日。
平々凡々の皮を被った、非日常の悲劇。
原因が何であったのかは、結局分かりはしなかった。
それを知る由などどこにも無いのだから、当然の事だ。
起きた事実を並べるのならば、青年は帰省中の実家で火事に巻き込まれて、不幸にも命を落とした。
たったの一文でまとめられてしまうような。ただそれだけ。
当人たちには重い事実だろうが、やはりそれもありふれた悲劇だ。ニュース速報が入って、ある程度の人に広まって、それでおしまい。
ああかわいそうに、なんて思ってもらえれば御の字。大抵は何の爪痕も残せずに消費されて、そうして忘れ去られてしまう。良い悪いの話では無く、善悪の話でもなく。
キヴォトスとは違って平和だったその国であっても、火事で命を落とす人間は年で1,000人以上いるのだ。
無情かもしれないが、露悪的であるかもしれないが、やはりそれはありふれた悲劇なのだ。わざわざニュースで流れてきただけの
けれども、青年の普通でない奇跡はここからであった。
道理も、理屈も、ましてや理由でさえも不明ながら彼は“色彩”という不可解に触れ。
そうして、
とはいえ、そこからしばらくはまた普通の日常が過ぎ去って行った。
幸運にもかなり人情の厚い大人に拾われた青年は、3ヶ月ばかりではあるが幸せに過ごしていたのだ。
そこそこ忙しないが充実した日常。
すぐ傍には心を砕いてくれる大人がいて、穏やかなままに時は流れて。嵐の前の静けさかもしれないが、それでも彼は幸せを享受していたのだ。
だが、再び悲劇と共にその日常は消え去った。
そう。2年前に起きた事件は、正しく悲劇であったのだ。
青年はただ少女を救けようと全力だっただけで。自身の
無知は罪と言うけれども、はたして本当に彼に罪があるのかと言えば、それは間違いなく否であって。あるとすれば、そもそもの発端となった
けれども、彼はそれを分かっていなかった。何も識らなかった。
だから青年は一人、青く透き通った世界の中で、ただ一人黒く濁った罪を背負った。自らを唯一の罪人として、筋書きを歪めて、子ども達の苦痛を
それが、一つの歴程の始まり。
青年が、
そこからは、矢のような早さで日々は過ぎ去って行った。
毎日傷だらけになって、自分で自分に傷を付けて、そうやって青年は強くなっていった。
“血の滲むような”ではなく、“血が吹き出そうと構わずに”努力を重ねて、流れ落ちた血液を道標にして彼は進んで行った。
それは酷く重苦しくて。
それは酷く醜くて。
それは酷く苦くて。
それは酷く濁り切っていて。
でも、何よりも純粋な青年の叫びであった。
矛盾したように、それでいて一貫して。
青年は、一日一日を食らいつくように乗り越えていった。
ああ────そこには、色々な事があった。
ある日は、防御に失敗した焼夷弾に全身を焼き焦がされ。
ある日は、仕掛けられていた対戦車地雷に左足の先を丸ごと吹き飛ばされ。
ある日は、1km以上先からの狙撃に片目を潰され。
幾重にも傷を重ね、それに
そうやって、2年の歳月が経って。
ようやく、
青年が望んだままの。
青年が願っていた通りの。
子ども達を救ってくれる、そんな希望である先生が。
その時になってようやく、青年の精神は少しだけ安定したのだ。自分とは違う救世主が来てくれたぞ、と。ようやく、
だから、青年は更に舞台装置に徹した。
普通の子どもであった心が悲鳴を上げるようだったけれども。それでも、誰からも憎まれる“悪役”を目指して。
それぐらいしか、自分に意義を見出せなかったから。
陰では不安要素を潰して、表ではそう振る舞って。いくつもの自治区を渡った。
アビドスでは、自分が
ミレニアムでは、必要ならばと自己嫌悪を呑み下して一人の少女に言葉を贈って。けれども、万事が望んだ通りとは行かなくって。
ゲヘナでは、いよいよその“悪役”に解れが生まれてしまって。心の奥深くで、酷く苦しんで。
トリニティでは、遂にそのトラウマの箱が開かれてしまって、希死念慮に襲われて。
そして────アリウスで、再び命を落とした。
その瞬間に、薪浪彩土としての生は幕引きを告げたのだ。
でも
先へ進んで、進んで、そして。
この世界に繋ぎ止める軛の全てから解き放たれた青年は、その望みを果たして終わっていった。
これにて幕引き。
その生涯は、最期まで変わらずに貫き通されて終わったのだった。
────────
箱舟に乗り込んだ以降の話からはプレナパテスによる補足も入れられながら、少女は語り切った。
先生の知っていた部分も、先生の知らなかった部分も、その全てを繋ぎ合わせるようにして。
「……ごめんなさい、先生。こんなこと、あの子だってほんの少しも望んでいないのに」
瞳を潤ませながら、ユメは言葉を紡ぐ。
「でも。……でも、誰かに知ってほしかったの。あの子のことを。あの子が必死に頑張っていたことを。これは私のエゴで、きっと誰からも謗られるような最低な行為だけど……それでも。本当に、ごめんなさい」
深く頭を下げる姿は、自己嫌悪へと沈むように。
それでも話したのは、彼女が口にした通りで、そして────きっと、一人で抱えきるには重たすぎたからなのだろう。
誰よりもずっと近くで、青年の歩みを全て見てきたからこそ。少女には、一人分ではなくもはや二人分の想いが伸し掛かっているのだ。
最低最悪な……それこそ、彼の願いを踏みにじるような行動だとしても、吐き出さずにはいられないほどに。
けれども同時に、それはきっといつか明らかになっていた事実でもあるのだろう。
現時点で先生たちが得ている情報を繋ぎ合わせれば、多少の欠落はあれどその歴程の全ては詳らかにできる。そして、プレナパテスもまたある程度の真実を識る者だ。
彼もまたマクガフィンに救われた存在であり、そして、一瞬だがかなり深い場所にまでpathが繋がってしまった存在であるのだから。
斯くして真実は明かされた。
受け止める側である先生は、どうにかそれを嚥下しようとして────
教室の外で、何かが落ちるような物音がした。
僅かになびくように見えたのは、桃色の長髪。
「ホシノちゃんっ!?」
悲痛な声が響いて、けれども駆け出す足音は止まらなかった。
────────
「────」
暑い。
寒い。
「────」
痛い。
重い。
苦しい。
「────。────ぁ、あああああ!」
苦しい。
苦しい。
苦しい。
苦しい。
リフレインする。
フラッシュバックする。
あの人の言葉が。
あの人の姿が。
あの人の優しさが。
最後に触れ合えた、あの人の温もりが。
『ホシノ。“人は一人で生きていけない”、その考えを君が失わずにいられるように祈っておくよ』
『俺はユメ先輩を殺した。俺がユメ先輩を殺した。それが事実で、それだけが事実なんだ』
『俺は
『そこに物語がある以上、誰かが悪にならなくちゃいけない。なら、それは俺が適任なんだよ』
『どうか、俺を赦そうとしないでくれ』
『ごめんな、ホシノ』
『────俺は、この生涯は間違いなく幸せだった』
『大丈夫だよ、ホシノ。君は強い子だ。きっとまた笑える。紛れ込んだだけの俺なんかに足を取られないで、自由に生きていけるさ』
苦しい。
耳鳴りが止まない。
すぐそこに居るような幻聴が、生々しく掠れて聞こえる。
『────バイバイ、ホシノ。きっと、幸せになってね』
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!」
消えない。消えない。消えない。
息が切れるほど走って、意識が眩むほど走って、何かから逃げるように走って、それなのに消えない。ずっと聞こえる。耳から離れない。脳裡に焼き付いて離れない。
あの人の笑顔が。
最期に見せた、あの人の笑顔が。
ずっとずっと焼き付いて、何をしていてもフラッシュバックしている。
なんだこれは。
なんなんだこれは。
なんで私は生きている?
なんであの人は死んでしまった?
苦しい。なんで。
苦しい。どうして。
苦しい。苦しい。苦しい。
全部、全部。
何もかもが、私のせいだ。
あの人が舞台装置になるきっかけはなんだった?
私だ。
あの日、あの人がユメ先輩を傷付けたんだと決めつけた私だ。手を掴むんじゃなくて、拳を向けようとした私だ。
あの人が逃げ道を失くした理由はなんだった?
私だ。
何も知らずに筋違いな恨みを抱いた私のせいだ。
あの人が死んだ理由はなんだった?
私だ。
あの日、カタコンベであの人を止め切れなかった私だ。まだ次があるだなんて甘い考えで必死になり切れてなかった私のせいで、あの人はアリウスにまで行ってしまったんだ。
あの人が完全に消え去ることになった理由はなんだった?
私だ。
箱舟であの人を引き留められなかった私のせいだ。もっと必死に、命を擲つつもりででも戦えなかった私のせいだ。
私のせいで、誰よりも死ぬ事を怖がっていたはずのあの人は死んだんだ。何回も、何回も。
────じゃあ、あの人の不幸の理由は? あの人を悲劇のままに殺したのは誰だ?
私だ。
私以外にいない。
「私が……私がぁっ!」
全部、そうだ。
全部、きっかけは私だった。私のせいで、あの人は死んでしまったんだ。
私が、殺したんだ。
リフレインする。
フラッシュバックする。
あの人の言葉が。あの人の抱えていたモノが。
あの人が遺したモノが。
────ホシノ。“人は一人で生きていけない”、その考えを君が失わずにいられるように祈っておくよ。
あなたを一人ぼっちにさせたのは、私なのに?
────俺はユメ先輩を殺した。俺がユメ先輩を殺した。それが事実で、それだけが事実なんだ。
そんな事実なんてどこにも無い。あなたがあそこまで苦しむ必要性は、どこにもなかったんだ。
────俺は
あなたはたしかに生きている人で、そして私の恩人だった。それを否定させたのは、私だった。
────そこに物語がある以上、誰かが悪にならなくちゃいけない。なら、それは俺が適任なんだよ。
たとえそれが真実なのだとしても、あなた以上に“悪”の似合わない人なんていない。
────どうか、俺を赦そうとしないでくれ。
懺悔しなければならない罪なんて、あの人のどこにもなかった。
────ごめんな、ホシノ。
違う。謝らなくちゃいけないのは、誰でもない私自身だ。赦されないのは私だ。
────俺は、この生涯は間違いなく幸せだった。
悲劇でしかない生涯のどこに幸せがあった。あんな末路を幸せに思わさせてしまったのは誰だ。
────大丈夫だよ、ホシノ。君は強い子だ。きっとまた笑える。紛れ込んだだけの俺なんかに足を取られないで、自由に生きていけるさ。
やめて。私を赦そうとしないで。
誰よりもあなたの足を掴むようにして、あなたを贖罪と殉教の道に縛り付けた私を。どうか、そんな言葉を投げないで。
────バイバイ、ホシノ。きっと、幸せになってね。
もう、
誰よりも優しくて、誰よりも私たちの事を想ってくれていたあの人を殺したんだ。
「ああぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!!」
こんな声を出して、何になる?
ほら、笑えよ。なあ、笑えよ。
あの人は私に笑えと言ったんだ。きっと幸せになってと言ったんだ。
そう残して逝ったんだ。
なら、笑えよ。
あの人を殺したんだ、せめて笑えよ。
「でき、ないよっ! こんな、こんなぁっ!!」
箱舟から地上に逃がされて、ずっと苦しかった。
届かなかった事が。
止められなかった事が。
責められなかった事が。
優しくされる事が。
苦しくて、苦しくて、だから目を逸らしてありもしない可能性に縋った。
消え去ったpathの事を考えないようにして、きっとどこかで生きているはずなんだって。
あるわけが、ないだろう。
そんな都合の良い現実が。そんな安直な奇跡が。
「ああぁぁぁぁぁあああああ! ごめん、なさいっ。ごめんなさい」
苦しい。
呼吸も、思考も、感情も、何もかもが苦しい。
私を構成する何もかもが苦しい。
でも赦されない。投げ出す事は。逃げ出す事は。
だって、ここまで来てしまったんだから。手遅れになってしまったんだから。
なあ、なんで私は生きているんだ?
なんで私はここにいるんだ?
死ぬべきじゃなかった人を殺して、それで。なんで、私は生きている?
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!! ああ、ああぁぁああ────」
私が。
私だ。
何もかも。
苦しい。
「────あ」
不意に。優しく、包み込まれるような柔らかさ。
感触は一つ、背後から。
「ごめん……ごめんね、ホシノちゃん。ごめんなさい」
「ユメ、先輩…………」
ユメ先輩だって辛いはずなのに。苦しいはずなのに。
「ごめん、なさい……! ごめんなさいっ!!」
「うん、ごめんね。ごめんね……!」
誰もいない砂漠の中。
数少ないあの人の痕跡である砂に埋もれた旧校舎で、私はただひたすらに泣き続けた。ユメ先輩と一緒に。
ずっと、ずっと。
最後になりましたが、 ん、理解できぬ さん、天狼院雄 さん、黒兎之天神 さん、ナマケモノ7 さん、おおかむ さん、nanunu さん、六ツ矢サイダー さん、地鶏 さん、評価付与ありがとうございました!