「いやあ! さすが勇者だ。前回の被害とは雲泥の差にワシも驚きを隠せんぞ!」
夜になってから開かれた宴で王様が宣言した。
ちなみに今回の波では怪我人こそ出たものの死者は出なかったらしい。
「樹」
異世界の文字を翻訳するスキルをほかの勇者が見つけていないか確認するために樹に話しかけた。
「なんですか?」
「異世界の文字を翻訳するスキルは見つけたか?」
「いえ残念ながら」
「ゲームの知識でそういうのはあるか?」
「ありませんが…もしかして見つけたんですか?」
「いや、子供の勉強用の本を剣に入れてみたりしたんだが、そういうのは出なかった」
「じゃあどうしたんですか?いきなり話しかけてきて」
「翻訳表を作った。まだ途中だがな」
俺が少しどや顔をしながらそう言うと、なぜか樹が俺を疑うような眼をしてきた。
「本当ですか?実は異世界文字理解のスキルを見つけたんじゃないですか?」
失礼な奴だな。もし異世界文字理解のスキルを見つけて、樹に教えない気ならこんな事わざわざ言うわけないだろ。
「わざわざ翻訳表まで作ってそんなことするわけないだろ」
俺はそう言って、樹に翻訳表を渡した。宴の前に取りに行っていたのだ。ちなみに俺は書いて覚えるタイプだから、翻訳表は四つある。
「仲間に手伝ってもらいながら、寝る前にでもコツコツ覚えろよ」
「まあ、気が向いたらやりますよ」
樹はそう言って翻訳表をしまい、仲間と話しに戻っていった。
あれはしないパターンだな。なんとなく見た目から勉強は得意なのかと思っていたが、好きではないらしい。もしかしたら得意でもないかもしれない。
俺が元康と尚文にも翻訳用をあげようと思い、移動をしようとしたら、元康の「決闘だ!」というでかい声が聞こえた。
まだ近くにいた樹が「行ってみましょう」と言うのでついていく。
歩きながら元康の声を聴く。話によるとどうやらラフタリアは奴隷らしい。
樹は、「尚文さん、まさか奴隷を連れていたなんて。許せません」と言いながら速足で元康たちのところへ向かっていった。
「モトヤス殿の話は聞かせてもらった」
俺たちが騒ぎのもとへ着くと同時に人混みがモーゼのように割れて王様が現れる。
「勇者ともあろう者が奴隷を使っているとは……噂でしか聞いていなかったが、モトヤス殿が不服と言うのならワシが命ずる。決闘せよ!」
「知るか。さっさと波の報酬を寄越せ。そうすればこんな場所、俺の方から出てってやるよ!」
尚文は王様の命令を無視して出ていこうとするが、王様の権力によりラフタリアは捕らえられ、尚文は元康と一対一の決闘を余儀なくされた。
ちょうど一緒にいた俺と樹はそろってテラスへと案内された。俺たちはそこで決闘を見に来た観客たちが移動し終えるまで待っていた。
どうしてこの決闘を王様は許したんだろうか?
この国は奴隷制度を容認しているが、勇者である尚文が奴隷を連れているのは外聞が悪いのだろうか?いや、外聞を気にするなら、強姦未遂もなかったことにするはずだ。
だったら、目の前でひどい目にあっていたラフタリアを放っておけなかったとかか?いやこれも違う。ラフタリアは肌に目立った傷はないし血色もいい。髪にも艶がある。服も清潔でまだ新しそうだ。奴隷という立場を考えれば相当大事にされているだろう。奴隷紋という人権を無視したものがあるのだ。もっとひどいことをされている人はいるだろう。
だったら、元康のご機嫌取りか?強姦未遂をした尚文より元康に期待しているならそれもあり得るが、波での戦いを見るに尚文はブレイブスターオンラインの盾職よりステータスは軒並み高そうだ。元康の機嫌を取ってまでちゃんと勇者として戦力の一人に数えられる尚文の不興を買うのか?
わからない。全く分からない。どうして奴隷をかけての決闘を許可したんだ?絶対に悪手だ。王様はそんなこともわからないのか?
「では、これより槍の勇者と盾の勇者の決闘を開始する! 勝敗の有無はトドメを刺す寸前まで追い詰めるか、敗北を認めること」
考え事をしている間に準備は整い、尚文と元康はそれぞれの伝説の武器を構え向き合っている。
審判の合図と同時に両者声を上げながらお互いに向かって走っていく。
やはり尚文は盾職でレベルも俺たちより低いはずなのに防御力が高い。元康のスキルでの攻撃も少し傷をつけられたものの耐えてはいる。
どう反撃するのかと見ていれば、尚文は槍の得意な間合いより内側に入り一気に元康を組み伏せた。
尚文が元康の顔面を殴るがガンという音がかすかに聞こえた。尚文が城の兵士に殴られた時と同じ音だ。効いていないだろう。
その後尚文がマントの中に手を入れたと思ったら、バルーンを取りだし、元康の顔に張り付けた。一体だけではないようで追加で二体だし、一体は顔面に、もう一体は股間に押し付けた。
急に現れた魔物に観衆が悲鳴を上げている。一般人からしたら雑魚のバルーンでも怖いだろうがここには勇者も冒険者も兵士いるため、俺は無視して試合を見守る。
元康が大げさな悲鳴を上げているが、バルーンは少しずつ倒されていっている。尚文はまだ魔物を隠し持っているようだが、それもじき倒されるだろう。
バルーンの攻撃は痛くはあるだろう致命傷ではない。このままいけば、恰好はつかないが元康の勝ちだろう。
そう思っていたら、尚文が不自然によろめいた。見えにくかったが風の魔法だ。
魔法が発生したと思われる方に視線を動かすと、そこには
――――マインがいた。