結局のその後は、ふらついた尚文はもともとステータス差がある元康を抑えきれず、バルーンをすべて倒され、首元に槍を突き付けられた。
尚文は元康の仲間のマインの不正を主張しているが、元康はとぼけているのか本当に気づいていないのか、それを否定している。
「罪人の勇者の言葉など信じる必要はない。槍の勇者よ!そなたの勝利だ!」
マジか!確実に見える位置にいた王様が元康の勝利を宣言した。なんか今日は変なことばっかり言うな王様。
「さすがですわ、モトヤス様!」
どうどうと不正を働くし、悪びれもしない。性格も冒険初日と二日目から変わっているように見える。どうにも怪しい奴だ。
「ふむ、さすがは我が娘、マルティの選んだ勇者だ」
へ~あいつ王女だったんだ。ということは、王様の不可解な行動も馬鹿な娘をかばう親ばかだったってことか?
……ん?王女?不正?庇う王様?
王女、不正、庇う王様。王女、不正、庇う王様。
いや、そんなまさか。可能性が出てきただけだ。そうただの可能性だ。
俺は一旦考え事を中断して尚文たちの方を見る。今ラフタリアの奴隷紋が解除されようとしていた。
奴隷紋を解除されたラフタリアは元康の方に歩いていき、元康をビンタした。
ラフタリアはいかに自分が大事にされてきたか、それに自分がどれほど感謝しているかを元康に言い放ち、尚文の方を歩いていく。
「く、来るな!」
尚文の反応はラフタリアが奴隷でなくても自分のもとに来てくれてうれしいというものではなく、何かに恐怖しているようだった。
……尚文の言動は強姦未遂の犯人として辻褄が合わないことが多い。
「噂を聞きました……ナオフミ様が仲間に無理やり関係を迫った、最低な勇者だという話を」
「あ、ああ。そいつは性犯罪者だ!君だって性奴隷にされていたんだから分かるだろう」
「なんでそうなるんですか!ナオフミ様は一度だって私に迫った事なんて無いんですからね!」
ラフタリアは尚文の手を掴む。
「は、放せ!」
「ナオフミ様……私はどうしたら、アナタに信頼して頂けるのですか?」
「手を放せ!俺はやってない!」
尚文の叫び声は、俺には嘘に聞こえなかった。
ラフタリアは尚文を優しく抱きしめる。
「どうか怒りを静めてくださいナオフミ様。どうか、アナタに信じていただく為に耳をお貸しください」
「……え?」
「逆らえない奴隷しか信じられませんか?ならこれから私達が出会ったあの場所に行って呪いを掛けてください」
「う、嘘だ。そう言ってまた騙すつもりなんだ!」
「私は何があろうとも、ナオフミ様を信じております」
「黙れ! また、お前達は俺に罪を着せるつもりなんだ!」
「……私は、ナオフミ様が噂のように誰かに関係を強要したとは思っていません。アナタはそんな事をするような人ではありません」
「世界中の全てがナオフミ様がやったと責め立てようとも、私は違うと……何度だって、ナオフミ様はそんな事をやっていないと言います」
酔って強姦未遂をして、それに一か月もの間逆切れしているやつが、奴隷の少女にこんなにも信頼されるものだろうか?
もとは優しい性格だったのに冤罪にかけられて、怒りが表情や態度ににじみ出ていたが、奴隷の少女に深く信頼されるほどに生来の性格通りやさしく接していた。そう考える方が自然ではないだろうか?
「錬さん、どうやらラフタリアさんと尚文さんはただの奴隷とその主人という関係ではなかったようです。このままでも大丈夫に見えますが、一応元康さんの反則負けを進言しに行きましょう」
「ああ、わかった」
樹の言うように俺も一応元康の反則負けにしておいた方がいいかと思っていたので、すぐに返事をして、樹を一緒に移動を開始した。
「どうか、信じてください。私は、ナオフミ様が何も罪を犯していないと確信しています。貴重な薬を分け与え、私の命を救い、生きる術と戦い方を教えてくださった偉大なる盾の勇者様……私はアナタの剣、例えどんな苦行の道であろうとも付き従います」
尚文たちの会話も聞こえる位置に来た当たりでラフタリアのずいぶん男前なセリフが耳に入る。
「どうか、信じられないのなら、私を奴隷にでも何にでもしてください。しがみ付いてだって絶対に付いていきますから」
「くっ……う……うう……」
尚文の嗚咽が聞こえた。
ラフタリアの尚文への信頼の深さ。それを言葉にして伝えられた尚文の反応。どう見ても尚文が強姦未遂を犯したように見えなかった。
ここまでくれば俺ももうほぼ確信した。強姦未遂の件は冤罪で尚文は無実だ。
こんな杜撰な冤罪事件も見抜けなかった自分への失望、被害者である尚文への懺悔、意図的に冤罪事件を起こした王と王女への嫌悪感、俺は今までの波風の立たない人生の中で一番気分が悪かった。
「先ほどの決闘、元康さんあなたの反則負けですよ」
「はぁ!?」
樹が人混みをかき分けて尚文や元康たちのもとへ向かい告げる。
「上からはっきり見えていましたよ。元康さんの仲間が尚文さんに向けて風の魔法を撃つところが」
「いや、だって……みんなが違うって」
「王様に黙らされているんですよ。目を見てわかりませんか?」
「……そうなのか?」
元康が観衆に視線を向けるが、位置的に魔法を撃つところがはっきり見えそうなやつらを中心に顔を逸らす。
「でもコイツは魔物を俺に」
「攻撃力が無いんだ。それくらいは認めてやれよ」
樹と一緒に来た俺も加勢しる。
「だけど……コイツ!俺の顔と股間を集中狙いして――」
「知識のない尚文よりレベルもステータスも自分の方が上とわかった上で、決闘を挑んだんだろ?それぐらい許してやれ」
元康は俺たちの言葉を聞き、諦めたかのように肩を落とす。
「お前もさっきのラフタリアと尚文のやり取りを見ていただろ。ラフタリアをわざわざ奴隷から解放してやる必要なんてなかったんだよ」
「チッ……後味が悪いな。ラフタリアちゃんが洗脳されている疑惑もあるんだぞ」
それは負け惜しみだよな?本気で思ってないよな?本気ならマジでやばいぞ。
「あれを見て、まだそれが言えるなんてすごいですよ」
「そうだな」
尚文は俺たちの話の間もラフタリアに抱きしめられていた。
元康や樹が帰っていったため、観衆もそれに続いて城に戻っていった。尚文と少し話がしたかったができるような状態には見えないし、王と王女に聞かれるのも憚れるため俺も観衆に紛れて城に歩いていった。
「……ちぇっ!おもしろくなーい」
「ふむ……非常に遺憾な結果だな」
後ろからかすかに王女と王の声が聞こえた。
ある意味期待を裏切らないセリフだ。