翌朝
朝食を終えて、王様からお呼びが掛かるのを待つ。
特にすることもないのでヘルプをもう一度読みながら待っていると、10時過ぎくらいになったかなぁ……と思った頃俺達は呼び出しを受けた。
「勇者様のご来場」
謁見の間の扉が開くと其処には様々な冒険者風の服装をした男女が12人ほど集まっていた。
騎士風の身なりの者もいる。
すごいが勇者がどれほどの立場かわからないから、この待遇が当たり前なのか、王様が気を利かせてくれてるのかわからないな。
「前日の件で勇者の同行者として共に進もうという者を募った。どうやら皆の者も、同行したい勇者が居るようじゃ。さあ、未来の英雄達よ。仕えたい勇者と共に旅立つのだ」
そっちが選ぶ側?と一瞬思ったが、俺たちは戦いの素人なわけだし、武器の相性とかを見て向こうが選んでくれた方がいいか。
選べって言われてもこまるしな。
俺たちは順番にならばされ、ザッザっと仲間達が俺達の方へ歩いてきて各々の後ろに集まっていく。
俺、5人
元康、4人
樹、3人
尚文、0
「ちょっと王様!」
尚文が王様にクレームを入れる。
最初から決まってるんじゃなくて今選ばせただろ。なんだよこの配分は。事情があるのかもしれないが段取り悪いな。
「う、うぬ。さすがにワシもこのような事態が起こるとは思いもせんかった」
「人望がありませんな」
人望がないってどういうことだよ。昨日召喚されたやつに人望なんてあるわけないだろ。大丈夫かあの大臣。
そこへローブを着た男が王様に耳打ちをする。
「ふむ、そんな噂が広まっておるのか……」
「何かあったのですか?」
元康が微妙な顔をして尋ねる。
「ふむ、実はの……勇者殿の中で盾の勇者はこの世界の理に疎いという噂が城内で囁かれているのだそうだ」
「はぁ!?」
「伝承で、勇者とはこの世界の理を理解していると記されている。その条件を満たしていないのではないかとな」
元康が尚文の脇を肘で小突く。
「昨日の雑談、盗み聞きされていたんじゃないか?」
確かに俺は尚文よりこの世界について知っているが、俺よりこの世界に詳しいやつなんか、この世界に何人もいるぞ。多分だが。
本当尚文は運がないな。
「つーか錬! お前5人も居るなら分けてくれよ」
後ろを向くと怯える羊みたいな目で俺に同行したい冒険者が俺の後ろに隠れる。
「あー、尚文とパーティを組んでもいいやつはいないのか?」
俺がそう言ってもピクリとも動かない。そんなに尚文が嫌なのか。
「元康、どう思うよ! これって酷くないか」
「まあ……」
ちなみに元康の仲間は全員女だ。
「偏るとは……なんとも」
樹も困った顔をしつつ、慕ってくれる仲間を拒絶できないと態度で表している。
「均等に3人ずつ分けたほうが良いのでしょうけど……無理矢理では士気に関わりそうですね」
樹の最もな言葉にその場に居る者が頷く。
「だからって、俺は一人で旅立てってか!?」
尚文が焦りと怒りのこもった声で周りに訴えかける。
でもまあ、仕方ないよな。見るからに攻撃力無さそうだもんな、尚文の盾。正直俺だって選ぶ側だったら避けるぞ。
「あ、勇者様、私は盾の勇者様の下へ行っても良いですよ」
元康の部下になりたがった仲間の女性が片手を上げて立候補する。
赤髪の綺麗な女の子だ。
「お? 良いのか?」
「はい」
「他にナオフミ殿の下に行っても良い者はおらんのか?」
シーン……誰も手を上げる気配が無い。
王様は嘆くように溜息を吐いた。
「しょうがあるまい。ナオフミ殿はこれから自身で気に入った仲間をスカウトして人員を補充せよ、月々の援助金を配布するが代価として他の勇者よりも今回の援助金を増やすとしよう」
「は、はい!」
「それでは支度金である。勇者達よ、しっかりと受け取るのだ」
俺達の前に四つの金袋が配られる。
ジャラジャラと重そうな音が聞こえた。
その中で少しだけ大き目の金袋が尚文に渡される。
「ナオフミ殿には銀貨800枚、他の勇者殿には600枚用意した。これで装備を整え、旅立つが良い」
「「「「は!」」」」
俺達と仲間はそれぞれ敬礼し、謁見を終えた。
それから謁見の間を出ると、それぞれの自己紹介を始める。
名前は冒険者風のやつがバスター、女の格闘家みたいなやつがテルシア、騎士風の身なりのやつがウェルト、狩人風の身なりのやつがフェリー、鎧のでかいやつがマルドだ。
俺はとりあえずゲームにあった安い武器屋に行くことにした。
「この町で評判の武器屋とかはあるか?」
会話としてなんとなく聴く。
「そうですね。エルハルトという方が営んでいる武器屋が一番品揃えがよく質もいいと聞きます」
俺の質問にウェルトが答える。名前で覚えているわけではないので位置で教えてもらうと、ゲームの時は普通の武器屋だったところだ。
やはりここは現実でゲームとの差異は多くあるということだろうか。あとで行ってみよう。
そんなことを考えていたら目的の場所に着いたが、店はなかった。
「ないな」
「そうですね」
俺の独り言にウェルトが反応する。
「とりあえずさっきウェルトが言っていた店に行く」
俺はそう言って歩きだすとマルドがこの世界に詳しいんじゃないのかと独り言を言っている。
そんなこと言われても困るんだが。
まあ、これからはゲームの知識が間違っていることもこれまで以上に意識しよう。
エルハルトの武器屋に着く。
「いらっしゃい」
扉を開くとスキンヘッドで筋骨隆々のいかにも武器屋の店主といった見た目の男がいた。
品揃えはゲームの時より少しいい気がする。
武器と防具が並べられている様はVRで見ていたが、実際の方がなんとなく迫力がある。
「お、その武器を見るに今度は剣の勇者様か」
「俺以外にも勇者が来たのか?」
「ああ、さっき盾の勇者様がかわいい嬢ちゃんと一緒にきたぞ。ちょうど出て行ったところだ」
尚文も来ているってことはいい店なのかもな。店主もいい人そうだし。
「おい!この方は剣の勇者様だぞ!なんだその口の聞き方は!」
急にマルドはキレだす。おい、そんなことでいちいちキレんなよ。少し感じ悪いと思っていたが、ヤバいやつなのか?
それとも勇者ってのはそんなに地位が高いのか?
「マルド言い過ぎだぞ。そんなことでいちいち怒らなくていい」
「しかしこいつは勇者様に…」
とそのあと少しぐちぐち言っていたがなんとか宥めた。
「すまねえなぁ。敬語は慣れなくてよ」
「構わない。それより防具を売ってくれ。皮の軽くて、なるべく安いやつだ」
「あいよ、ちょっと待ってな」
そう言って店主は防具を取りに行った。手持ち無沙汰になった俺は近くにあった剣を握ってみる。
するとウェポンコピーが発動しましたと出てくる。
ヘルプも出てきたので少し読んでみると、どうやら名前の通り店売りの剣をコピーできるらしい。剣も買おうか迷っていたがこれならだいぶ節約できるな。
ただ、店主にはバレないようにしないとな。さっきみたいにいらない諍いを起こしたくない。
悪いことをしている気分だが、品がなくなったわけじゃないんだから、まあいいだろ。
あ、伝説の武器以外装備できないというヘルプもある。コピーするからあんまり関係ないな。
「これなんてどうだ?」
そんなことを考えていたら、店主が皮の防具を持ってきてくれた。
「ああ、それでいい」
良し悪しなんてまだよくわからんが。
ここで金を払おうとしたがふと思う。この世界には値切りは存在するのだろうか?今回は安いのでそのまま払うがあとでウェルトかバスターかフェリーあたりに聴いてみよう。テルシアは女で話しにくいし、マルドとはあんまり話したくない。
「その服は余り戦いには向かなそうだがインナーもつけるか?」
「ああ、頼む」
「よしわかった。ここで着ていくかい?」
「ああ」
俺がそういうと更衣室に案内してくれた。俺が着替えて戻ると、
「おお!様になってるじゃねぇか。さっきから思ってたがあんちゃん意外と鍛えてるな。似合ってるぜ」
「そうか?ありがとう」
鍛えていることに気づかれてそれを褒めてくれるというのは嬉しいな。カッコつけてそんなことないと思うけどなぁみたいなニュアンスの返事をしちゃったけど。
俺たちはそのあと、仲間の防具や武器はどうするか少し話して、もう少しあとに買おうという結論を出して店を出た。
俺はさっきの疑問をウェルトに質問した。
「この辺では値切りはするのか?俺の住んでいたところはなかったんだが」
「そうですね。相場より高く売られていることが多いので基本的には。先ほどの方はだいぶおまけしてくれていましたので私も何も言いませんでしたが」
ウェルトがそう俺に答える。
見た目に似合わずエルハルトいいやつだな。場合によってはまた寄ろう。
俺はそのあと冒険に必要そうなものを、冒険者をしていたらしいバスターたちに聞きながら揃えた。
俺たちは街の外で少し魔物と戦いながら、ゲームでは効率の良かった隣町に行くことにした。
地形や街の場所、魔物の分布が同じならVRゲームのおかげで迷わず安全に行けるが、仲間になるべく確認をとるつもりだ。ゲームと違ったら悲惨だからな。
城門を抜けると見渡す限り草原が続いていた。
何度も言うがVRでも同じような風景は見たが、現実の方が迫力がある気がする。
俺はまずバルーンと戦おうと思い、辺りを見渡す。
「まずはバルーンと戦おうと思う。俺の知識では雑魚だが、あってるか?」
そう聞くと仲間全員が同意した。
バルーンを見つけた。3体いるな。多分いけるだろ。そう思い、俺は仲間に合図を出し、ゲームと同じ要領で1人でバルーンに走っていく。
「ハッ!」
バルーンは俺の攻撃を受け、パンッと破裂した。残り2体も同じように破裂させる。
合流した仲間にすごいとやたら褒められた。お世辞に聞こえるが、お世辞も言われないよりマシか。
俺はバルーンの死骸?を剣に入れる。どうやらまだ足りないようだが、今日のうちに変化させられるようになるだろう。
俺たちは、動物っぽくない魔物と戦いながら、隣街を目指す。
その間いくつかの剣を解放した。レベルもいくつか上がり武器屋でコピーしたのが何個か変化させられるようになった。
試しにバルーンソードの能力解放を道中にしたが、予想通り能力アップ系だった。
ブレイブスターオンラインでは、こう言うのは余り重要ではなかったが、ここは現実で時間も余ってる。こう言うちまちましたこともやっていこう。
あと、ゲームの通り熟練度システムもあった。ヘルプでも読んでいたのであるとはおもっていたが、実際に確認することができた。
道中気になったことはなるべく聞くことにした。
始めに俺の剣の腕はどのくらいなのか聴いた。誰に聞けばいいのかわからないので全員に向けて質問する。
「俺の剣の腕はどのくらいだ?日本、元の世界では遊びでしかやったことがないんだが」
日本ではゲームとはいえ一対一なら大体の相手に勝つことができた。少し自信過剰かもしれないが決して悪くはないと思うんだが。
俺の問いにはフェリーが答えてくれた。俺のパーティで剣を使っているのはウェルトとフェリーでウェルトは魔法も兼任していると言った感じだ。フェリーは弓も使うが、剣も得意らしい。
「初心者の域は確実に超えていると思いますよ。僕もそれなりの剣の腕があると思いますが、剣の勇者様にはかなわないかもしれません」
褒めてくれるのはうれしいが、後半は多分お世辞だな。フェリーの戦っている姿を少し見たが、きれいな太刀筋だったし、身のこなしもよかった。
これ以上聞くのも面倒だし、勝手に剣の腕は普通だと思っておこう。フェリーと俺を比べて特別悪かったわけでもないしな。
ちなみにだが、バスターとマルドはは斧を使って戦うらしい。テルシアは小手をつけていた。
俺は次の質問に移る。
「話は変わるが、熟練度システムはお前らにもあるのか?」
すると全員が否定した。
「一応ステータスを開いて確認してみてくれ」
「……すみません。やはりありませんでした」
ウェルトが答える。
「じゃあ、勇者の力で俺だけ強くなっていくってことか?ステータス差が開くばかりだと思うんだが」
「いえ、伝承では勇者の仲間も常人とは比べ物にならない力を持っていたとありますので、勇者の仲間には何らかの恩恵があると思われます」
なるほど。ウェルトたちが才能があるように見えるのに意外とレベルが低いのはそういう理由か。
あまりにステータス差ができれば、俺の効率が悪くなるか、仲間を危険に晒すかのどちらかになるので別れてレベルを上げることも考えていたが、それなら一緒に行動した方がいいな。
「次はリポップ、魔物の発生原因についてだ。俺の世界では、魔物は創作物の中にしか出てこないが、その発生原因は主に二つだ。空気が悪いところに自然発生するパターンと、普通に生態系に組み込まれているパターンだ。この世界ではどっちだ?」
「後者ですね。中には自然に発生する種もいますが、ほとんどが複雑な生態系の一部です。ですので……」
「わかってる。生態系が変わるほどには狩らないようにする」
ここは効率に大きく関わるから、ゲームと同じであってほしかった。まあ、嘆いても仕方ない。
俺は気持ちを切り替えて、日本にいた頃は全くしてこなかった連携についても少し話し合いながら進むことにした。
実際に少しやってみたが、連携は正直いって全然ダメだった。主に俺が。仲間はそんなことないと言っていたが、気を遣っているだけだろう。
ここで日本で一匹狼をしていた弊害が出てしまった。ゲームは楽しむものだったからそれで良かったが、流石に異世界でそれはできない。連携の練習は正直言ってストレスだが、ゲームでも結局数は力だった。めんどくさがらずに行こう。
ちなみに俺の次に連携ができていなかったのはマルドだ。あいつは言ってはなんだが協調性に欠ける。そっちが俺に合わせろとか言ってたし。
俺たちは隣町につき、宿を取った。
「おい、この方は剣の勇者様だぞ!一番いい部屋を用意しろ!」
「で、ですが、もうその部屋は他のお客様が……」
「なら追い出せばいいだろ!」
「マルド、無茶を言うな。そういうのはやめろ」
「ですが―――」
その後も少し言い争ったが意外とすぐやめた。流石に俺がこういう行為を好ましく思っていないのがわかったらしい。
俺は宿で飯を食いながら考える。マルドは解雇した方がいいのかもしれない。今日だけで2回も問題を起こしている。起こした理由もしょうもない。連携もあいつのせいで無駄な不和を生んでいる。俺の心象も悪い。でも、俺はリーダーとかやったことないからなー。俺程度の判断で解雇してもいいものかとか考えてしまう。まあ、その辺はおいおい考えていこう。
「剣の勇者様、酒は飲まないんですかい?」
俺がそんなことを考えているとバスターに酒は飲まないのか聞かれた。
俺は前世も含めれば結構な年数生きているが、何気に酒を飲んだことがない。しかしどちらかといえば舌が子供なので、美味しくないだろうと思っている。
試しに飲んでみたがやっぱり美味しくない。
「…そんなに好きな味じゃないな。正直ジュースの方が好きだ」
「そいつぁ残念ですねぇ。酒を通して親睦を深めようと思ってたんですがねぇ」
バスターはいかにも酔っ払いっぽい変な抑揚のついたしゃべり方で俺にそう言った後、笑いながら移動し、ほかの仲間に絡んでいた。
俺以外は酒が好きなようでみんな飲んでる。特にマルドとバスターは豪快だ。バスターは冒険者だったらしいからわかるが、マルドはどうなんだ?騎士っぽい見た目をしてるくせに騎士っぽくないやつだ。
俺は食べ終わったらすぐ部屋に戻った。体もどちらかといえば疲れてるし、いつも以上に会話をしたので精神的にも疲れた。早めに寝ることにした。日課の筋トレは今日は今日は休みにしよう。
布団に入れば比較的すぐに眠りに落ちた。