「勇者様、起きてください」
俺はウェルトの声とドアをたたく音で目を覚ます。
外を見るとまだ起きるには少し早いように思う。わざわざ起こすような時間ではない。
「どうしたんだこんな時間に」
「城の騎士が剣の勇者様を王がお呼びだと言っております」
「何かあったのか?昨日旅立ったばかりだぞ」
「はい。私も詳しくはわかりませんが、レン様にも立ち会って欲しいそうです」
正直昨日来た道を戻るのは嫌なので断りたいが、馬車も用意しているというし、俺のスポンサーは王様なわけだから行くことにした。
俺たちは諸々の準備を終わらし、馬車に乗り込む。
馬車の中で用意していたらしい朝食がわりになるものを食べながら、城へ向かった。
しばらくすると城に着いた。
俺たちは謁見の間まで案内される。そこには尚文以外の勇者とその仲間、王様、大臣がいた。あ、元康の影にいて気付かなかったが尚文の仲間の赤髪のかわいい女の子もいる。
「揃ったか。では冒険者マインよ。辛いとは思うがもう一度何があったか説明してくれるか」
「は、はい…盾の勇者様に強姦されそうになりました。私怖くって。どうか私をあの強姦魔から助けてください!」
マジか!尚文そんなやつだったのか。俺にはそんなふうに見えなかったが。まあ一緒にいた時間も長くないが。
マインは涙を流しながら俺たちに訴えかける。とても嘘を言っているように見えない。
それに勇者や王様に嘘をつくような人を王様が俺たちの仲間にするはずがない。多分本当なんだろ。
まあ、証拠もしっかり提示して欲しいところではあるが。
おそらく尚文が来てから尚文の言い分も聞きながら真偽を確かめるのだろう。
樹と元康は尚文がやったと確信しているのか憤慨している。特に元康は、「尚文、なんてやろうだ!」と初めから怒っていたのにさらに怒っている。
「マイン!」
尚文が謁見の間に兵士に連行されやってきた。なぜかマインの名を呼ぶ尚文の顔は困惑に彩られていた。
「な、なんだよ。その態度」
本当に心当たりがなさそうな態度だな。これは演技なのか?俺程度じゃわからんな。
「本当に身に覚えが無いのか?」
元康が仁王立ちで尚文に詰問する。
「身に覚えってなんだよ……って、あー!お前が枕荒らしだったのか!」
枕荒らし?話を逸らそうとしているのか?
「誰が枕荒らしだ!お前、まさかこんな外道だったとは思いもしなかったぞ!」
「外道?何のことだ?」
尚文の態度を見ていたら本当はやっていないように見えてくるな。まあ、マインを見てたらやっているように見えるんだが。
「して、盾の勇者の罪状は?」
「罪状?何のことだ?」
「うぐ……ひぐ……盾の勇者様はお酒に酔った勢いで突然、私の部屋に入ってきたかと思ったら無理やり押し倒してきて」
「は?」
「盾の勇者様は、「まだ夜は明けてねえぜ」と言って私に迫り、無理やり服を脱がそうとして」
元康の後ろに居たマインが泣きながら尚文を指差して弾劾する。というか尚文そんなダサいセリフを言いながら迫ったのか。
「私、怖くなって……叫び声を上げながら命からがら部屋を出てモトヤス様に助けを求めたんです!」
「え?何言ってんだ?昨日、飯を食い終わった後は部屋で寝てただけだぞ」
「嘘を吐きやがって、じゃあなんでマインはこんなに泣いてるんだよ!」
「何故お前がマインを庇ってるんだ?というかそのくさりかたびらは何処で手に入れた?」
とぼける作戦なのか?というか尚文はなんで下着姿なんだ?わけもわからず連れてこられたという感じだったが、酒で記憶が飛んでいるのか?
「ああ、昨日、一人で飲んでいるマインと酒場で出会ってな、しばらく飲み交わしていると、マインが俺にプレゼントってこのくさりかたびらをくれたんだ」
「は?」
マインにプレゼントされた?どうして元康にプレゼントするんだ?普通パーティメンバーの尚文だろ。
俺はマインの不可解な行動に少しだけ疑念を持つ。
「そうだ!王様!俺、枕荒らし、寝込みに全財産と盾以外の装備品を全部盗まれてしまいました! どうか犯人を捕まえてください」
「黙れ外道!」
王様は尚文の進言を無視して言い放った。
「嫌がる我が国民に性行為を強要するとは許されざる蛮行、勇者でなければ即刻処刑物だ!」
「だから誤解だって言ってるじゃないですか!俺はやってない!」
尚文をもう有罪だと断定しているような言い方だな。この世界ではこんなに早く判決が下るのか?
しかも勇者じゃなかったら極刑って言ってるし、流石にそれはないよな。
「お前!まさか支度金と装備が目当てで有らぬ罪を擦り付けたんだな!」
尚文が初日の人が良さそうな顔から一転した憤怒の形相で元康を睨む。
俺にはこれが逆ギレには見えないが、犯罪者とはこんなものなのか?
「はっ! 強姦魔が何を言ってやがる」
尚文からマインが見えないように元康がマインを庇う。
「ふざけんじゃねえ!どうせ最初から俺の金が目当てだったんだろ!仲間の装備を行き渡らせる為に打ち合わせしたんだ!」
そんな時間はなかったと思うが…。
というか王様はなんで証拠を出さないんだ?今の所マインと元康の主張だけで尚文を裁こうとしている。
こういうのはしっかり証拠もないといけないだろ。どんなに嘘をつかないような状況でも。
というかなんで冒険者のマインの言うことを信じて勇者の尚文のいうことを全て無視するんだ?
昨日の俺の仲間の反応から勇者は相当地位が高そうだったが。
まあ、ここは異世界だから異世界特有の技術で真実がわかるのかもしれないが。そうならそう言うだろ。
「僕は同情の余地は無いと思います。錬さんもそう思いますよね?」
俺がそう考えていると樹が尚文を有罪と決めつけ、同意を求めてくる。
「…俺は証拠が足りないと思う。俺の元いた国では女が泣いただけで罪に問うのは難しい」
「マインがこんなに泣いてるんぞ!尚文を庇うのか!?」
「そうですよ!錬さん!」
「俺は事実を言っただけだ。尚文を庇ったわけじゃない。俺もこの状況でマインが嘘をつくとは思えないが、日本じゃその言い分は通らない」
「……確かにそれも一理あります。王様証拠は他にあるんですか?」
「おい!樹まで!」
「証拠があれば尚文さんだって言い逃れできないのですからいいじゃないですか」
「それは…そうだが……」
「ふむ、ワシも少しことを急ぎすぎた。伝説の勇者が冒険者初日に罪を犯したと聞き少し動揺しておった。あれを持ってきてくれ」
「ハッ」
王様がそう言うと兵士が奥から何か持ってくる。女性ものの下着のようだ。
「盾の勇者様の部屋にこのようなものが…」
「きゃあ!」
「す、すみません!」
「そんな物起きた時に部屋になかったぞ!」
マインが悲鳴をあげ兵士が下着を取り下げる。尚文は否定する。
「おそらく盾の勇者が冒険者マインに襲いかかった後、手に持ったまま部屋に帰ったのだろう。さらには、マインの悲鳴を聞いたと言う宿の者や盾の勇者がひどく酔っていたと言う証言する者も出ている」
「だから、酒なんて飲んでねえって言ってんだろ!そもそも俺は酒に酔ったことなんてねえよ!」
王様の提示した証拠でマインの言うことの信憑性が増す。尚文は否定したが、第三者からの証言がこんなにも出ているんだ。ほぼ有罪確定だ。
「やっぱりマインを強姦しようとしたんだな!尚文!錬もこれで納得しただろ!」
「だから俺はやってない!」
尚文はこちらを期待するような目で見てくる。その目を見ると尚文はやってないんじゃないかと思うがここまで証拠があるんならやっぱり尚文は怪しい。
王様が嘘をつく理由もないから、証言を聞いたわけではないが本当のことなんだろう。
「…強姦未遂の目撃証言があるのが一番だが、ここまで証拠があるんなら…まあ、十中八九冤罪ではないだろう」
「僕も納得です。異世界に来てまでこんなことしようとするとは、最低ですね」
尚文が絶望したような表情を浮かべる。その後、最初に見た時よりもすごい憤怒の表情を浮かべる。普通に怖い。
「……いいぜ、もうどうでもいい。さっさと俺を元の世界に返せば良いだろ?で、新しい盾の勇者でも召喚しろ!」
「自分の責務をちゃんと果たさず、女性と無理やり関係を結ぼうし、都合が悪くなったら逃げる、ですか」
「帰れ帰れ!こんなことする奴を勇者仲間にしてられねえ!」
尚文から圧を感じる。これが殺気というやつだろうか。逆恨みでここまで憤慨する辺な奴には見えなかったんだけどな……
「さあ!さっさと元の世界に戻せ!」
すると王様は腕を組んで唸った。
「こんな事をする勇者など即刻送還したい所だが、方法が無い。再召喚するには全ての勇者が死亡した時のみだと研究者は語っておる」
「……」
「そんな……」
「う、嘘だろ……」
マジか!いやまあ帰ろうとはそれほど思っていなかったが、結構ショックだな。
「このままじゃ帰れないだと!何時まで掴んでんだコラ!」
尚文は乱暴に騎士の拘束を剥がす。
「おい!抵抗する気か!」
「暴れねえよ!」
騎士の一人が尚文を殴る。
ガン!
良い音がした。人を殴った時に出る音ではない。
尚文はそれほど痛がっていないが騎士の方は手を押さえ痛がっていた。
尚文は少なくとも俺より防御力が高いらしい。
「で?王様、俺に対する罰は何だよ?」
尚文が王様に尋ねる。というかもう判決が下るのか?早くないか?
「……今のところ、波に対する対抗手段として存在しておるから罪は無い。だが……既にお前の罪は国民に知れ渡っている。それが罰だ。我が国で雇用職に就けると思うなよ」
「あーあー、ありがたいお言葉デスネー!」
つまりギルドで仕事は受けられないということだ。
「1ヵ月後の波には召集する。例え罪人でも貴様は盾の勇者なのだ。役目から逃れられん」
「分かってる!俺は弱いんでね。時間が惜しいんだよ!」
尚文は歩き出そうとして何かに気付いたのか振り返る。
「ホラよ!これが欲しかったんだろ!」
尚文は盾に隠していたらしい銀貨を元康に投げつける。
「うわ!何するんだ、お前――!」
尚文が謁見の間から出ていった。
俺は尚文が出ていったところを見つめる。日本基準で言ったら判決を出すのが早すぎるがここは異世界だからそんなもんなのかもしれない。
尚文の態度は最後まで自分はやっていないというものだった。
俺は冤罪を主張する犯人というものを見たのは今日が初めてなので、どうしても尚文は犯人じゃないのかもしれないと思ってしまう。
本当ならもっと時間をかけて調べるべきと主張するべきだったかもしれない。
少し俺の中でモヤモヤが残っている。