ついに波の時間が迫ってきた。準備は可能な限りしてきた。ゲームの通りなら何の問題もなく波を乗り越えられるはずだ。緊張しているのか、自分の心臓が聞こえる。仲間の方を見ると緊張した面持ちだ。それぞれの武器や防具、アイテムを何回も確認している。
ビキン!
時間になった瞬間ガラスが割れたような大きな音が鳴った。
次の瞬間、俺たちは転送された。
最初に目に入ったのは、ひび割れワインレッドに染まった空だ。目線を下げ、周りを見渡すと、俺の仲間と俺以外の勇者とその仲間たちがいた。どうやら無事転送されたようだ。
樹と元康、その仲間たちが波の根源へ向かって走り出す。俺もそれについていこうとしたが、
「リユート村付近です!」
尚文の仲間の声に足を止める。
「どうされました?レン様」
どうして気づかなかったんだ?人里付近で波を起これば、誰かが救助しなければならない。そのためには、戦闘能力のある人が必要、つまり騎士団が必要ではないか。ゲームではどこからか現れた騎士団が勝手に救助活動をしてくれたから、波に集中していたため、完全に失念していた。
「城からこの辺りまで来るのにどのくらいかかる?」
「一時間です」
「仕方ない。先に住民の避難だ。行くぞお前ら!」
俺はほかの勇者たちにも先に住民を避難させるべきだといったが、照明弾を打ち上げたからじきに騎士団が来ると言って、波の根源に行ってしまった。
村に向かって走っていると、どうやら救助を優先することにしたらしい尚文と合流した。
避難誘導をする組と魔物を倒しつつ逃げ遅れた人を助ける組で分けたいが、尚文とラフタリアは悪い噂の絶えない勇者と亜人ということで、あまりそういうのは得意ではないだろう。俺の仲間からだそう。
「フェリー、テルシア、避難誘導をしてくれ。他は逃げ遅れた人を助けつつ、魔物の進軍を抑えるぞ。尚文もそれでいいか?」
「……ああ」
尚文は、俺の提案に従うのが気に食わなかったのか、一瞬断ろうとしていたが、俺の指示自体には反対はなかったらしく短く返事をした。
ちなみにフェリーとテルシアを行かしたのは、俺みたいにコミュ障ではないし、バスターみたいに強面ではないからだ。ウェルトは俺がいつも最初に相談するやつだから残ってもらった。
「エアストスラッシュ!」
俺はスキルを使い、魔物の大軍をまとめて倒す。救助を始めてから30分近くたち、逃げ遅れた人もほぼ全員逃がした。あとはこれ以上魔物が村を荒らしたり、避難している人たちに接近したりしないようにするだけだ。
俺は少し離れたところで戦っている尚文たちのところに移動した。
「尚文!俺たちはボスのところへ行く!村の防衛は任せるぞ!」
「わかった!さっさと行って波を終わらせろ!」
「お前ら行くぞ!」
俺たちは避難誘導を終わらせ合流したテルシアとフェリーもつれて波の根源へ向かった。
「遅いですよ!何をしていたんですか錬さん!」
「村を守ってたんだよ!」
「そんなのは騎士団と尚文さんに任せておけばいいんです。僕たちの役目はボスを早く倒して波を鎮めることですよ」
俺は反論しようと思ったが、波のボスを前にそんなことをしている場合ではないと思いやめた。
俺は前衛二人を連れて元康がいるボスの近くまで移動した。
元康にも樹を同じようなこと言われたが、反論している時間がもったいないため適当に流した。
キメラはそこまで大きくないため、遠距離攻撃の手段があるやつには下げってもらい、勇者の攻撃を軸にキメラの体力を削っていく。
キメラはほぼ知識通りの強さで俺たちのつたない連携でも安定して戦うことができた。このままいけば、時間はかかるが倒せるだろう。
結局数時間かかったが、無事キメラを倒し、波を鎮めることができた。
元康と樹は「楽勝だったな」とか「余裕でしたね」とか言っているが、もっと危機感を持ってほしい。ゲームと違うところもあるんだから、次もゲームの通りの強さのボスが出てくるとも限らない。
あ、そうだ。ボスを倒さないといけないから後回しにしていたが、こいつらに言わないといけないことがあるんだった。
「元康、樹」
「なんだ?」
「なんですか?」
「ボスを倒して波を鎮めることも大切だが村を守ることも大切だろ」
「否定はしませんが、勇者である僕たちがボスを倒さなくてどうするんですか」
「そうだぞ錬。村の防衛なんて尚文と騎士団に任せておけばいいんだよ」
何だその反応は。俺と尚文が村の防衛をしなかったら死人が出てたかもしれないんだぞ。俺は少しイライラしながら続ける。
「今回は村が小さくて城が近かったからなんとかなったが、城から離れたでかい街の近くで波が起こったらどうするんだ?毎回うまくいくとは限らないぞ」
「町にだって、兵士や冒険者がいます。それに波を鎮めなければ無限にわくのですから、最低限の被害は我慢しなければなりません」
「ま、そんなに気になるんなら錬は尚文の野郎と一緒に防衛をしてからボスを倒しにくればいいんじゃないか。今回戦ってみて意外と余裕があったからな」
「……ああ、わかった」
こいつらがどうしてここまで緊張感がないのかわかった。こいつらはこの世界を半ばゲームと思っているんだ。だから最低限の犠牲なんて言葉が出てくんだ。
この世界はゲームじゃないと怒鳴りたい気持ちもあったが、弁の立つ方ではない俺がこいつらの意識を変えるスピーチができるとは思えなかった。
話をするのも面倒くさくなってきた俺は、話を切り上げてボスの解体しに向かった。
「器用だな、お前」
「解体系の技能があるんだ。俺がすごいわけじゃない」
「へー、剣も意外と便利だな。ま、一番強いのは槍だけどな」
「何言ってるんですか?最強は弓ですよ」
「は!?―――」
俺は元康と樹の言い争いを聞きながら、解体系の技能を使いキメラを解体していった。ほしい部位を聞けば、二人は不毛な言い争いをやめ、それぞれの希望を言った。元康は獅子、樹は山羊の頭が欲しいらしい。おれはドラゴンの頭が欲しかったので喧嘩をせずに分けることができた。残った部位は尚文にあげることにしよう。戦っていない尚文に素材を分配するのに樹や元康に反対されたら面倒くさいなと思っていたが、残っていた部位には興味がないのか、それぞれの仲間たちと雑談していた。
「よくやった勇者諸君、今回の波を乗り越えた勇者一行に王様は宴の準備ができているとの事だ。報酬も与えるので来て欲しい」
俺が傷だらけのキメラをなるべく綺麗に解体し一息ついていたら、豪華な鎧を着た騎士(おそらく)が俺たちに向かって言ってきた。
少し離れたところに尚文もいるようだ。今素材を渡そうかと思ったが元康たちが突っかかってきそうなのでやめた。尚文もキメラには気づいている。後日素材を回収しに来るだろう。