境界戦機 〜猛虎伏草〜   作:寒ブリP

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第九話 アモウの戦い。

 

 

 

 ―1―

 

 ガイのアシストによって、慣れない操作系であるが十全に動かせそうなことを確認すると。

 

「機体各部のアクチュエータ、サーボモーター、放熱機構……すべてフル稼働状態でいい、バッテリーが20分耐えられれば構わない」

 

『ワカッタ、アモー』

 

 アモウはそのまま、ジョーハウンドを立ち上がらせて。

 

(――施設全体のハッキングは今のガイだけでは無理だッ、施設内の日本人を人質にとられたら打つ手がない)

 

 マシンガンを構えさせたまま、機体を旋回させてモニターに映る観客席を見回した。

 

「……一人二人、持っていくか」

 

 政府の要人や、企業の上役。

 スーツやドレスを着た様々な男女が、恐れ慄きながら逃げ回る。

 その中の一人か二人を捕縛して人質にすれば、日本人への攻撃を抑止できる可能性がある。

 一瞬で、彼はそう思案する。

 だが――

 

 

『その必要はないよ、アモウ先輩』

 

 

 ――ジョーハウンドのコクピット内に響く、淡々とした声。

 その声に、アモウは心底驚愕した。

 

「なっ!?な、ナナミっ!?その声は……ナナミなのか!?だ、大丈夫だったのか!?」

 

 捕縛され拷問、もしくは既に惨殺されたものかとばかり思っていた。

 

『たりめーよ先輩、五体満足で可愛らしい顔も現在なのだぜ』

 

 死人の声が聞こえたものかとも、思った。

 だが、違う。

 

『そんなウチは今、コントロールルームに潜入して直接、基地のデータをダウンロードしてるっちゃ』

 

 どのような手段を使ったのか、アモウには皆目見当もつかない。

 だが、その声は確かにナナミのものであり。

 

「……施設のハッキングはできそうか?」

 

 彼女が生きている事実を心の底から喜びつつも、アモウは既に思考を現状打破のためにフル回転させており。

 

『もうやってる、でも奴らもやるもんだ……ハトちゃんがもう異変を基地に伝えてる!!考えたもんだよなあ、通信がジャックされた時のことを考えて超アナログな手段で連絡を取り合うなんてさ……まったく予想外だった」

 

 椎葉アモウも即座に撤退することを考えたが、既に大勢の兵士が動いていて。

 

「ま、とりあえずウチらはさっさと逃げるしかないね!』

 

 再び人質にされるかもしれない、それを懸念しており。

 

「でも、この日本人を残していけない!」

 

『あー、それは大丈夫、最初のプランを流用しちゃおう……ウチは自力で逃げるから、アモウ先輩は自分に降りかかる火の粉だけ考えてけれ!』

 

 そんなアモウを押し切るように、ナナミは言い切って。

 そのまま、通信は切れてしまった。

 

「ちょ、ナナミ……」

 

 その瞬間、大型のアリーナに数十人の兵士が現れ。

 更にはオセアニア軍の正式採用最新式アメイン『バンイップⅢ(スリー)』が3機、現れるのだった。

 

「あれはオセアニア軍の……新型かっ!」

 

 バンイップブーメランのような逆三角形の上半身からは長い腕が伸び、更に原型機と同じく多数の関節をもった脚部を備え。

 跳躍力と機動性に優れたその最新型のアメインは、頭部のカメラアイを光らせてジョーハウンドの周囲に展開し。

 その長い両腕で取り回しの良さそうな短い銃身の新型マシンガンを構えて、砲口を一斉に向けていく――

 

 

『レディースアンドジェントルメーン!!『イエロ・サーカス』を毎度ご利用いただいている紳士淑女の皆様、そしてオセアニアの兵隊の皆様こんにちは、私はレジスタンス組織『鋼のゆりかご』のメンバーのプリチーな超美少女でェす!』

 

 

 ――その瞬間、巨大なアリーナ内部に竹を割ったような声が響いて。

 壁に設置された大型モニターに、光る大型の機械類を背後にしたナナミが表示され。

 一瞬、バンイップⅢと兵士達の動きが止まる。

 

『私達『鋼のゆりかご』はこの残虐非道なる『イエロ・サーカス』をぶっ潰し、日本人を救出するために介入させていただきましたが、その中で不幸にも……可哀想なコーロギン大佐は蜂の巣にされて死んでしまいました、ざまぁないっすね』

 

 施設内放送をジャックしたナナミの声により、兵士達は困惑するが。

 

 

『時間がないので手短に説明しますが、我々は既にこのコンピュータールームからこの施設で行われていたすべての残虐行為のデータを奪取しました、もちろん……あなた方利用客の顧客リストもです』

 

 

 その一言で、逃げ惑う観客たちの顔色が変わった。

 恐怖に歪んでいた観衆たちは、それぞれが顔を見回して。

 そして、自分が行ってきたことを思い返していた――

 

『現在、『イエロ・サーカス』団長を殺した『北陸戦線の英雄』椎葉アモウを追うためにアメイン部隊が総力をあげてこの施設に投入されることでしょう、それは彼が打ち破ります』

 

 ――そんな観客たちのどよめきなど知らん、といった声色で意気揚々とナナミが言い切る。

 

「か、簡単に言う!」

 

 非常に簡単に断言され、アモウはコクピットの中で思わず叫んでいた。

 現在、自身が乗っているジョーハウンドは既に2年半前に『八咫烏』でレジスタンスたちが使っていた段階で型落ちの機体であり、火力や機動力、俊敏性などの性能全体が周囲を取り囲む新型の『バンイップⅢ』と2世代ほどの差がある。

 純粋に数の差ですり潰されるかもしれないのに、彼女は本当に簡単に言い切っていた。

 

 

『しかし、罪もなくここに捕えられているすべての日本人にこれ以上、手を出したときには……この顧客リストを全世界に公開します』

 

 

 そして、ナナミは死刑宣告の気分で言い切り。

 巨大モニターを見つめていた、スーツを着た中年の男女が訝し気な表情を見せた。

 

「そんな約束、守られるはずがないじゃない!」

 

「その通りだ!!お前ら日本人など……日本人など信用できるかッ!!」

 

 避難に遅れた男女二人は、不満を爆発させるが。

 

『うるせーぞアイアンビーチ社・副社長『エレゴス・ヘンリー』!!お前ら、思う存分日本人をいじめ殺してくれたんだから今さら文句言えると思うなボケカス、さっさと帰って寝ろや!!』

 

「ぐ、ぐぬぬ……」

 

 本名と役職を言われ、男は歯がゆさを痛感しながらも観客席から待避した。

 日本人に対する差別が横行する社会ではあるが、それでも大っぴらに差別主義者のレッテルを貼られることは社会的な地位を失うリスクがあり。

 

『そうだ、それでいい幼児性愛者(ロリコン)どもに食人(カニバリズム)趣向者ども、日本人を使って歪んだ欲望を発散したお前らに慈悲はねえ』

 

 日本人を虐殺する娯楽施設を利用していたことが暴露されることは、何としてでも避けたかった。

 

『ごほん……まあ安心してください、この施設内の日本人に手を出さずに全員を解放した場合、この顧客データは永劫に表舞台に出さずに削除することを『鋼のゆりかご』はあなた方に約束しましよう』

 

 だから、退避する観客たちは皆がそのスマホで軍に連絡をとり。

 彼女の要求を呑むことを強要した。

 議員や大企業の上役達の指示を、軍は絶対に無視できない。

 だから、本来ならばこの施設の情報を全て手に入れた段階でアモウ達は勝利したようなものだったのだが――

 

『そして『イエロ・サーカス』の全てのデータは現在、椎葉アモウの持つスマホ端末に移行されました!彼をこの街から脱出する前に倒すことができれば、施設の悪行は再び闇の中です!』

 

 ――彼女の言葉を聞いて、アモウは耳を疑った。

 

「あんっ!?」

 

 正気を疑うような提案だった。

 

『さて、この演目『英雄狩り』はどのような結果になるのでしょうか!今からリアルタイム配信を行いますので、ぜひぜひ皆さまご覧ください!』

 

 あまりに常軌を逸したその言葉に、逃げ惑う観客もバンイップⅢを駆るパイロット達も、その場にいた兵士達も唖然として顔を見合わせていた。

 そして――

 

「ふっ!ふざけんなよッ!!」

 

 コクピット内で、アモウは思わず叫んでいた。

 理屈は分かる。

 全てのデータがすべてスマホ端末に移された、というのは確実にブラフであろう。

 だが、そのブラフで施設内のすべての軍人たちの意識を『自分(アモウ)』に向けることができる――

 

『まあ、軍は誰に指示を受けてもアモウ先輩だけは絶対に許さないだろうから……派手に立ち回って、日本人を守ってください!』

 

 ――混乱により、施設内の日本人から注意を逸らすことができる。

 それだけのために、ナナミはこの突飛な提案を施設内や施設外の街中に放送したのだった――

 

「今、俺が乗ってるのジョーハウンドだぞ!?」

 

 顔を見合わせたあと新型マシンガンを再び構えた3機のバンイップⅢが、アモウのジョーハウンドに詰め寄り。

 そのカメラアイを輝かせて、一気にその引金を引いていく。

 

『大丈夫ですって!勝敗はアメインの性能のみで決まらず、搭乗者の技量のみで決まらず……結果のみがすべて、でしょう!?』

 

 バババババババババッ!!

 けたたましい銃撃音と眩いマズルフラッシュを放ちながら、無数の弾丸が放たれ。

 

「意味がわからねえッ!!」

 

 ジョーハウンドはその弾丸の嵐を、横に駆けてすべて避け。

 

「でも、やるしか……ないんだよなッ!!」

 

 片手で持ったマシンガンをアリーナ上部に向けて連射し。

 

「なっ!?ジョーハウンドの動きかよッ!?」

 

「全部避けやがるッ!!」

 

 照明が爆発してバンイップⅢたちの下に落下して、弾丸は更にスプリンクラー装置に着弾し。

 

「ぐあっ!?」

 

 スプリンクラー装置は天井から水を勢いよく放って、その混乱に乗じてジョーハウンドはバンイップたちの側面に回り込んでいた――

 

「パイロットの練度(れんど)が低いッ!!」

 

 ――ジョーハウンドが連射したマシンガンが、真っ直ぐにバンイップⅢの一体の頭部を消し飛ばし。

 

「カメラがやられたッ!?なっ――」

 

 次の瞬間。

 頭部を失い、バランスを崩した機体の眼前にジョーハウンドが肉迫し。

 

「遅いッ!!」

 

 マシンガンの銃口を胸部に密着させ、そのまま弾丸を一気に放つ。

 ドドドドドドドドドドッ!!

 ドドドッ!!

 

「――ぎやぁあッ!?」

 

 鉛の塊がすべて着弾し、装甲を穿ち、内部をえぐり。

 原型がなくなるほどに胸部がひしゃげたバンイップⅢは、そのまま地面に倒れ込んだ――

 

「くそっ!!よくもッ!!」

 

 バンイップⅢのパイロット達は憎々しく叫びながらも、近距離による新型マシンガンを連射する。

 数メートルの距離しかない、至近距離での射撃。

 

「猿に鉛(なまり)をプレゼントしてやるぜええッ!!」

 

 素人でも当たるその間合いであり、彼らは勝利を確信する。

 だが――

 

「なんで当たらねえんだッ!?」

 

 ――二機のバンイップの新型マシンガンを持つ腕は、上方に大きく振り上げられ。

 新型マシンガンの弾丸は天井にすべて着弾していく――

 

「操作を受け付けてないッ!?」

 

「まさか、機体がジャックされて――」

 

 ――パイロット達がその異変に気付いた時には、ジョーハウンドは大破したバンイップⅢの持っていた新型マシンガンを拾い上げて構え。

 すれ違いさまに新型マシンガンを連射し、放たれた弾丸は二機のバンイップⅢをハチの巣にしていく。

 

「今のガイでも、これぐらいのことはできるッ」

 

 オイルを血液のように垂れ流して膝をついていく二機を尻目に、ジョーハウンドは駆けていき。

 足元の兵士達の銃撃をものともせず、アリーナの出口へと向かって加速する。

 

「し、新型のバンイップ3機が……ジョーハウンドに、嘘だろぉッ!?」

 

 その光景の一部始終を目撃していた兵士の一人が、思わず叫ぶ。

 そして、あまりに手早く手馴れた動作で始末した旧型機と、それを駆る『北陸戦線の英雄』の操作技量に恐怖した――

 

『……鬼つええ』

 

 ジョーハウンドのコクピットに、ナナミの感嘆の声が漏れていく。

 格上の機体に対して、冷静に立ち回り。

 そして臆せず接近して、AIのジャミング能力も使い、使えるものを全て使って撃破していく。

 それは多くの死線を超えてきたエースパイロットの技量と、自立思考型AIと共に戦ってきた少年だからこそできる戦いであり。

 

『強い強いとは聞いてたけどさ……想像以上じゃん♩』

 

 ナナミは素直に、その少年の強さに胸を躍らせていた――

 

「強くなきゃ生き残れなかった……それだけだよ」

 

 ――アモウは、そんな彼女の反応に淡々と返し。

 モニターに映し出される、ジョーハウンドの機体各部の消耗具合を確認していた。

 

 

「ナナミ、このままだと10分もたない……街の外まで逃げられそうにないぞ」

 

 

 出力と反応速度を最大まで上げた状態での駆動は、想像以上に機体に負担をかけていて。

 アモウは冷静に、自分が追い詰められていることを彼女に伝えた。

 

『ははっ、大丈夫っすよ先輩、ちゃんと用意しておきましたよ――『北陸戦線の英雄』の乗るべき機体を』

 

 しかし、返ってくるナナミの声は非常に嬉しそうであり。

 

「まさか……ケンブ斬かッ!?」

 

 その言葉に、アモウは思わず目を見開いて。

 1年前の『関西決戦』にて大破したはずの愛機の名を、叫んだ。

 

『ええ、そのまさかですよアモウ先輩、あなたの愛機である『メイレスケンブ斬』は超プリチーなヒロインの私が蘇らせました』

 

 通路を駆けていくジョーハウンドのコクピット内に、意気揚々としたナナミの声が響き。

 

『もうすぐこの施設の外に届くはずです、だからそんなクソ施設……ちゃっちゃと脱出してください!!』

 

「……ああッ!!」

 

 アモウは力強く返答しつつ、機体を加速させていく。

 新型機が待機しているならば、もうこの機体に用はない。

 心置きなくフルブースト状態で稼動させて、通路を駆け抜けていく。

 

「来たぞッ!!あの機体だ!!」

 

「消し飛ばしてやれッ!!」

 

 そうしていると、狭い通路に再び3機編隊のバンイップⅢが出現し。

 3機は試作型の大型レーザー砲を肩に担いで、その砲口をジョーハウンドに向けていく――

 

 

「どけええええッ!!」

 

 それは、一瞬の攻防だった。

 アモウは再び、ガイのハッキングによりバンイップⅢの手元を狂わせ。

 

「機体のコントロールがッ!!これが……自立思考型AIの力かっ!?」

 

 その大型レーザー砲は地面に照準を向けて発射され。

 3機の側面の歩道を踏みつぶしながら、ジョーハウンドは彼らとすれ違い。

 新型マシンガンを持った腕を、肩越しに背後に構えて背後に天井に連射していく。

 

「ぐぬあああっ!?」

 

 崩落する、天井。

 それに巻き込まれる形で、三機は瓦礫の中に埋もれて爆発して。

 その爆炎と閃光を背に、ジョーハウンドは更に加速し。

 

「もう少しだ、もう少しで出口だ……もってくれよッ!!」

 

 施設の出口を、真っ直ぐに目指していき。

 やがて、薄暗い大型通路の終わりが見えていく。

 そして――

 

「なッ!?この反応は――まずいッ!!」

 

 ――思わず、アモウは計器類やセンサー類を見回す。

 ジョーハウンドが通路を飛び出し、既に日が落ちた闇の中へと身を投げ。

 そしてアスファルトの大地の上に着陸した。

 その、瞬間だった。

 

「そこまでだなッ!!椎葉アモウ――」

 

 施設の周囲には、30機近くのバンイップⅢが展開しており。

 更にその隙間を縫うようにして、旧型のバンイップ・ブーメランが無数に直立し。

 おぞましいほどの銃器が、闇夜の中でぎらぎらと鈍い光りを。

 アモウの視界を緑色の鋼が埋め尽くして、彼の額に思わず冷たい汗が流れた――

 

 

「――貴様が『イエロ・サーカス』のデータを本当にもっているかどうかは問題ではない、今まで散々……我々の邪魔をした貴様を俺達は許しはしない!!この第12アメイン大隊の全戦力をもって貴様を粉砕するッ!!」

 

 

 ――その緑色の機体の中央に、ピンク、黒、黄色、青、赤のそれぞれのパーソナルカラーに染められた5機のバンイップⅢがそろい踏みして。

 リーダー格らしき赤いバンイップⅢのパイロットの野太い声が戦場に響いて、その機体は自らの全長に近い大きさの巨大剣を構え。

 その切っ先を、アモウのジョーハウンドに向け。

 赤い機体は足元のアスファルトに生えたタンポポを踏みつぶして、その頭部のカメラアイが真っ赤に輝いていく。

 

 

 つづく

 

 




【登場機体解説】

バンイップⅢレッド


【挿絵表示】


バンイップⅢブルー


【挿絵表示】


バンイップⅢイエロー


【挿絵表示】


バンイップⅢブラック


【挿絵表示】


バンイップⅢピンク


【挿絵表示】
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