境界戦機 〜猛虎伏草〜   作:寒ブリP

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第十話 夜の闇の中で。

 

 

 

 ―1―

 

「なるほど、了解した……ああ、わかった、プランCだね」

 

 高い塀に囲まれ、薄暗い光を闇夜に放つ要塞都市。

 その付近の村で廃墟となった自動車工場の中に身を隠していた、アメイン用大型特殊運搬車両。

 本体車両の後部に牽引されたアメインを一機格納できる台座が二台連結した、長大な車両の運転席。

 

「ああ、わかってるよナナミ、『ゲンリャク』も当然準備しておく……ああ、そうだね、分かった」

 

 戦闘指揮や様々な電子部品に囲まれた四畳ほどのスペースに備えられたシートに深々と座りながら、真田アラタはスマホで通信をしていた。

 

「ああ、じゃあ切るよ――あっそ、アンタの心配はしてないよ、うん」

 

 黒いタンクトップと半ズボンというラフな姿の彼は、スマホをポケットにねじ込むとその銀色の髪をかき分けて。

 

 

「あぁ〜ついに!ついに!ついにアモウさんに会えるんだ!!……あぁ〜やっば、どうしよ怖い」

 

 

 白い頬を紅潮させ、両手で顔を隠して荒くなった呼吸を整えていた。

 

 

「俺はお前が怖いわ」

 

 

 その隣の運転席に座った瀬川ユウシロウは、やや呆れたようにそう呟いて。

 長い黒髪をオールバックにして首の後ろで一本に結んだ彼は、その整った顔の濁った光を映す瞳を細めて。

 深緑のカットソーと紺色のズボンをまとった彼は、シフトレバーとハンドルを操作して、大型特殊運搬車両を動かしていく――

 

「なンでだよ!憧れの人に会えて嬉しいけど……失礼しないか、失敗しないか、ドン引かれないかとかの不安で怖くなる気持ちがわかんねーのかよっ」

 

 窓の外には暗闇の中に沈む寂れた村が見えて。

 

 

「その熱量が怖い」

 

 

 ユウシロウは、その光景を絶望の色に染まった瞳で見つめて呟いた。

 彼の故郷の小さな街も、彼が生まれた25年ほど前からこの村と同じように寂れ切っていて。

 6年前に境界戦の主戦場となり全土が焼失し、結婚を誓い合った少女は彼の目の前で転倒したアメインに潰されて死んだ。

 それから、絶望の中でずっと戦い続けてきた。

 

「だが……普通に羨ましい」

 

 自分から希望を奪い尽くした『敵』を、日本を貶めたすべてを倒すため。

 復讐こそが、彼のモチベーションであった。

 

 

「ケッ、相変わらずしめっぽいオッサンだよ……それより、プランCだよプランC!もっとアクセル踏んでよ!」

 

 

 そんな彼を急かしながら、アラタは腕を組んで頬を膨らませた。

 

「プランCか、状況的にちょっと余裕がなさそうな感じか?」

 

 ユウシロウはまったく気に留める様子もなく、冷静に車を操作して。

 荒れた旧国道のアスファルトの上を、巨大な車両が直進していく。

 

「どうやらタイミング的にもう時間がないらしいや――このまま要塞都市の門をぶっ壊して、この車両を戦場に突撃させて破棄する」

 

「ずいぶん勿体ないことをするよな」

 

 ユウシロウは少し苦々しい表情を浮かべて、言い切った。

 アメイン用の特殊運搬車両に限らず、軍事用の装備というものはどれもこれもが非常に高価であり。

 『鋼のゆりかご』をはじめとする各レジスタンスとしては、出来る限り長く使用したい貴重なものであり。

 使い捨てにする作戦は忌避されて当然だった。

 

「仕方ないだろ、『ケンブ斬』をアモウさんに届けることがボクたちの今回の任務なんだから――それに特殊車両なら他の軍のヤツを略奪すればいいしさ」

 

 しかし、事が事だけに仕方ないこととも彼らは理解していた。

 そしてアラタは、憧れの人物に会える高揚感も手伝ってか非常に楽観的に言ってみせるのだった。

 

「まあ、それはそうだな――ここで『北陸戦線の英雄』椎葉アモウを失うこととなったら、日本の損失だからな」

 

「アモウさんがそんな雑魚なわけねーだろっ!」

 

「……やっぱりお前怖いわ」

 

 たとえ話すら通じず憤慨する助手席の少年に呆れつつ、ユウシロウは視界の先に現れていく要塞都市の壁を見据えて瞳を細め。

 

「待ってくださいアモウさん……ボクが必ずあなたにケンブ斬を届けますからねッ」

 

 少年もまた、胸に強く熱い想いを秘めて。

 戦いの渦中へと飛び込む覚悟を決めて、瞳を見開いていた。

 

「俺達が、だろ……」

 

 夜の闇の中を、大型の車両が駆けていき。

 その荷台に格納されていた、大きな布を被った二機のアメインは覚醒の時を静かに待っていた――

 

 

 

 

 つづく

 

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