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『あれは各国が開発している戦略級機動兵器『オーバードアメイン』、『椎葉アモウ』と『メイレスケンブ斬』そして……『アメインゴースト』が生み出した新型兵器だ』
――通信機から流れたナナミの声は、理解しがたい事実を彼に伝えていた。
「……なんだって?」
アモウは耳を疑った。
まったく心当たりがなかったからだ。
「俺とケンブ斬と、アメインゴーストが生み出した……どういうことだナナミ」
『そのままの意味だよ、各勢力圏の軍隊にとって『アメインゴースト』と『ケンブ斬』の尋常じゃない戦闘力は脅威でしかなかった……だから開発したのさ、その二つを完封できるような、圧倒的な力をもった機動兵器を』
その説明で、アモウは納得した。
確かに『関西決戦』にて、ケンブ斬は破壊された。
だが、その戦闘で敵陣に与えた損害は計り知れないものがあった。
そこに至るまでにも、ケンブ斬は各勢力圏のアメインの多くを破壊し、基地を壊滅に追いやってきた。
だから、対抗策として新兵器が現れるのも自然な流れではあると理解できた。
「……それで、あんな馬鹿デカいものを作ったのか?」
だが、それにしてもその兵器のスケールに驚きが隠せない。
通常のアメインの倍以上の体躯と重装甲は、機動兵器としてはいささか過剰とも思えた。
『普通の人間が椎葉アモウの駆るケンブ斬を完封するためには最低でもあれくらいのデカさが必要になったんでしょ、ゴーストの装甲をブチ抜くためケンブ斬に巨大刀が装備されたように……今度はケンブ斬の巨大刀でも通用せずパワー負けしない機体が生み出された、それだけだよ』
ナナミの冷静な解説で、アモウはふと思い出す。
確かに、圧倒的な力で迫られる恐怖はいまだに身体の中に……細胞の一つ一つの中に残っている。
アメイン『ゴースト』および『ゴーストMkⅡ』。
非常識な装甲であらゆる攻撃を弾き、大量の爆弾による炸裂にも傷一つつかず。
常にリミッターが外れた超出力による挙動とパワーで他の機体を寄せ付けず、追い詰めた場合は迷いなく自爆を敢行する。
メイレスを駆り3年以上の歳月が経ち、強敵を相手に苦戦を強いられたことも数知れない。
だが、あれほどまでに力の差が隔絶された理不尽な相手は未だに現れていない。
それを装備で、武装で、巨体で圧倒できるならば。
人間はあれほどまでに巨大なものを作ってしまうのだ。
『死ねぇ!!死ね死ね椎葉アモウ!!兄貴をぶっ殺しやがったテメェは……さっさと肉片になっちまえェッ!!』
あの荒れ狂うように挙動する巨体は、そのような恐怖が生み出したものであり。
自身もかつてのゴーストと同じような存在として認識されている事実を、アモウは複雑な気持ちで呑み込むのだった。
『喰らえええッ!!』
ドガガガガガガガガッ!!
バキイイッ!!ドガシャァァンッ!!
ボーダーキングはその巨体を走らせ、機体下部の銃火器を放射してケンブ斬に迫る。
大型のガトリングガンをはじめとする弾丸の嵐が恐竜のような体躯の前面から放射されていく。
「なんて……なんて火力だっ!?このままじゃジリ貧だッ!!」
アスファルトの大地を疾駆し、ケンブ斬はそのすべてをすんでの所で回避する。
苛烈な、あまりに苛烈な鉛の雨を避け。
背後から迫るボーダーキングを振り向いて確認する間もなく、アモウは機体全体のスラスターを噴射させる。
(この機体でも避けきるのが精一杯で、日本人の住む街がこれ以上壊されるのは……見てられないっ!!)
周囲のビルが跳弾で破壊されていき、闇世の中に爆炎と黒煙が立ち上る。
「なんとかならないのか……ナナミ!!」
思わず、アモウは機体の開発者であるナナミに問いかけていた。
「リミッターを……外すしかないな」
そして、返答するナナミの言葉にアモウは戸惑う。
「リミッター解除?けど、あれは……」
搭乗者への安全装置を外し、機体の全能力を開放する『リミッター解除』及び『フル・ブースト状態』。
アメイン『ゴースト』と互角に戦い他の機体を圧倒するその力は、搭乗者に大きな負担をかける。
それ故に苛烈を極めて『北陸戦線』ですら使われず、その後も『関西決戦』にて使われるまで封印されていた機構。
その使用を、ナナミは推奨するのだった。
『大丈夫だ先輩、二式はケンブ斬を進化させた機体……かつてのケンブ斬の『フル・ブースト』状態をパイロットの負担を格段に軽減したまま発動できる』
「なにっ?……そんなことが可能なのか?」
機体を走らせたまま、その説明にアモウは驚愕する。
『コクピット周りを新素材の衝撃吸収シートで固めて、新型の機体骨格とショックアブソーバーを使い、本体を新素材で刷新した『ガイ』の処理能力でリミッター解除時の反動と衝撃を最大限に緩和させることに成功した小千谷ナナミ謹製(きんせい)の超技術だにゃ、やってみな……飛ぶぞ?』
「……あの『力』をもう一度使うことになるのか」
コクピット内に小さく表示されていく、その機構の詳細を一瞥してアモウは呟く。
『エクス・ブースト』。
ナナミが説明した新たな『フル・ブースト』機構の名前が表示され、赤色に明滅する発動ボタンが出現した。
『確かにこのシステムは今の段階だと発動時間はまだ問題はあるし発動後は10分しか稼働できない、けどさっさとやらないと……ヤバみざわだろ?』
「そうだな、これ以上街に被害を出すわけにもいかない……一気にカタをつけるッ!!」
機体を一気に走らせ、更にビルを跳躍して飛び越え。
検問所がある巨大な街の出入り口と壁が見える大きな車道へと出て、ケンブ斬はそのカメラアイを真っ赤に輝かせていく。
「ケンブ斬ニ式……モード『エクス・ブースト』起動!!』
『おうっ!行くじぇッ!』
アモウは発動ボタンを押し込むと、覚悟を決めて操作レバーを再び握りしめる。
その叫びに呼応し、コクピットに表示された幼体のガイの身体がメラメラと燃え盛っていき。
闇夜に立つケンブ斬は全身の装甲の隙間から真っ赤な輝きを放ち、各間接の横に備えられたセンサーランプが緑色から金色に変わっていく。
そして。
『こけおどしをッ!!この……猿めがァァァア!!』
ボーダーキングの巨体が大きく跳ねて、全身のスラスターを全開にして突撃してくる。
周囲のビルを粉砕しながら一直線に加速した鉄塊が、ケンブ斬に着弾する瞬間。
その一撃は、大きく空を切った。
『なにイっ!?』
ボーダーキングは周囲を見回す。
機体各部の高精度センサーによる索敵、それを大型コクピット内に収納した6人のサブパイロットで把握する方式のオーバードアメイン。
そこからの超反応による迎撃であらゆる敵を撃滅するコンセプトの戦略兵器は、その一瞬完全に隙だらけになっていた。
センサーが、ケンブ斬を捉えられなかったのだ。
『これは……どういうことだッ!?そこかっ!!』
その巨体を翻し、尻尾の先に備えられた大型ドリルを振り乱し。
機体は、センサーが拾った熱源を攻撃する。
だが――
「でええええいッ!!」
ケンブ斬は雷鳴の如き速度で地面を加速し、しなるボーダーキングの尻尾の攻撃を避け。
ズザシュウウウウッ!!
『馬鹿なッ!?』
同時に、大地を跳躍した勢いで振り上げた巨大刀の斬撃が尻尾の根本を一気に斬り落とし。
ケンブ斬はその巨体を蹴って更に加速し、凄まじい速度で巨獣と距離をとっていく――
『背中の試作レールガンも『エクス・ブースト』状態なら装甲ごとぶち抜けるよ!』
「わかった――使わせてもらうッ!!」
地面に荒々しく着地しながらも、ケンブ斬は姿勢を一瞬で安定させ。
その背中の中央に備えられた巨大なレールガンをサブアームなどで保持しながら、右腕で構えた。
二つ折りに収納されていた砲身が一つとなり機体の全高とほぼ同じ長さとなった砲身を、鉄の巨獣に向け。
「当たれえええッ!!」
真っ赤に輝くカメラアイで立ち塞がる巨大な獣を見据えると、ケンブ斬はそのトリガーを引いた。
ドシュルルルッ!!
『なっ……ぐがっ!?』
ドガァァァッッ!!
電磁加速により放たれたレールガンの弾頭が、ボーダーキングの右の前足を根本から完全に吹き飛ばす。
爆散した部位を切り落としながら、鉄の獣は残る三脚で器用に姿勢を即座に直し。
『ば、バカなっ!?この……このボーダーキングの装甲を抜いただと!?椎葉アモン!!貴様ぁ!!』
機体から、男の咆哮が響き。
巨体は全身の火力を全て解放させ、前方に弾丸の嵐を吹かせていく。
大型ガトリングガン。
連装機関砲。
レーザー砲。
『やらせはせん!!俺は兄貴の……貴様に蹂躙された全ての者の仇を討たねばならんのだ!!』
鋼の獣が放つ鉄の雨は、周囲の建物を一気に粉砕して。
『だから大人しく……くたばれぇッ!!』
レールガンを背中に再び背負ったケンブ斬へと迫る。
その罵声を聞き流しつつ、アモウはこれ以上の戦闘は街が壊滅すると冷静に判断し。
「いくぞガイ!!これで決める!!」
決着をつけるために、機体のレバーを握りしめ。
自身の隣に表示されている、炎をまとった幼体ガイへと視線を移した――
『オウ!!ヤッチマエー!!』
次の瞬間。
ケンブ斬は全身のスラスターを一気に吹かせて大きく跳躍し。
弾丸の嵐の範囲の外、ボーダーキングのはるか頭上へとその身を飛ばした。
『バカめ!!一気に……消し飛ばすッ!!』
その行為を前に、スティル・コーロギンは勝利を確信した。
これ以上機体のスラスターをいくら吹かしたとしても、上空にいる以上は地に足をつけているときより格段に身動きがとれなくなる。
ボーダーキングの弾幕と、その装甲とパワーで今度こそ仕留めきれる。
そう判断した彼は、ボーダーキングの身体を大きく屈ませ。
一気に大地を蹴って、頭上目掛けて跳躍させた。
だが――
『パワー全開!!イケルゾ、アモー!!』
次の瞬間、弾丸を放射する寸前のボーダーキングの頭上で、ケンブ斬は全身のスラスターを一気に放射させ。
全身から炎のような輝きを放ちながら、鋼の巨獣に真っ向から向かっていく――
「真(シン)バルディッシュ・ブレイカー!!」
『イケエエエエエエエエエエエッ!!』
――真っ赤に輝く右腕による鉄拳が、ボーダーキングの顔面に着弾し。
バキイイイイイイイイイイッ!!
装甲に、腕が大きくめり込み。
『な、これは……バカなッ!?ぐあああああああああッ!?』
ドゴゴゴゴゴゴゴォオオオオオオッ!!
即座に巨大な鋼の全身は空気を入れた風船のように一気に膨れ上がり。
その形を保てずに、爆散した。
『対オーバーアメイン用粉砕兵器、『真(シン)バルディッシュ・ブレイカー』……腕部シリンダー周りにパワーを集約させ、武道の『発勁(はっけい)』を元にした打撃で敵機体内部に120%の威力で放つ、ケンブ斬二式の新兵装だ』
巨大な装甲やパーツが雨となって降り注ぐ街の中、ケンブ斬は大地に着地しながら、全身の装甲をスライドさせて隙間から放熱し。
『君たちの『バルディッシュ・ブレイカー』から着想を得て、本格的な兵装にしたんだけど……お気に召したかな?』
通信機から流れるナナミの声を聞きつつも、アモウはようやく大きく息を吸って。
慣れた手つきでケンブ斬を走らせ、街の巨大な門へと駆け込ませていく。
巨大な門は既に原型をとどめないほどに破壊されており、そこで立ち往生していた兵士たちもケンブ斬が迫ってくると蜘蛛の子を散らすように四方に逃げていった――
「ああ、最小限のパワーで最大限の威力が出せるし、これなら敵がどれほど装甲をまとっても内部破壊できる、大したもんだよナナミ」
『ハハハッ、そこまで褒められると嬉しいねえ、私ももう街から出れそうだから……先輩もささっと逃げてちょうだい』
鉄の巨獣が暴れまわった街の被害は大きく、ボロボロになったビルが崩落して。
いたるところで火事が発生していく街から、ケンブ斬が飛び出していく――
「ああ、わかった、礼を言っておくよナナミ、君のおかげで助かった……とりあえず、最後まで気をつけてくれ」
『あいよ、先輩』
気安い声色のナナミとの通信が切れると、アモウはコクピット内に表示された幼体ガイに視線を移し。
「ガイもありがとう……俺だけじゃ絶対に勝てなかった、もう休んでくれ」
『ヘヘッ、タリメーヨ……バブブ』
再び眠りにつく相棒を前に、アモウは憂いを帯びた笑みを浮かべ。
(いつか、絶対に元に戻してやるからな……ガイ)
けたたましくも、最高の相棒であるガイが元の知性を取り戻す日を夢見て。
今はただただ、目の前の過酷な現実と向き合う。
それが今の彼の生きる目的であり、覚悟を新たに少年の乗る機体は夜の闇の中に消えていくのだった。
つづく