境界戦機 〜猛虎伏草〜   作:寒ブリP

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第十六話 逆襲のブラッド。

 

 

 

 

 

 ―1―

 

「……敵の指揮車を破壊、これより残敵の掃討に入ります」

 

 少女の淡々とした声が、暗闇の中に消えていく。

 月光に照らされた広大な森の中、深紅の装甲に包まれた巨人が軍用車を踏みつぶして破壊し。

 周囲を見回して、銃身の長いライフルと真っすぐな刀身のブレードを構え。

 一気に木々の間を駆け出していく。

 

『了解した、そちらは任せた』

 

 背面から伸びたX字のスラスターと腰裏のサブスラスターが目を引く、細身の機体だった。

 頭部には横に伸びたカメラアイが緑色の輝きを放ち。

 肘と膝から先がややすらっと伸びた以外は、人型に非常に近い関節構造をしており。

 片持ち式などの特殊な関節が多いブレンゾン社のアメインとは、明らかに別系譜の機体であることを感じさせる機体だった。

 

「周囲の残敵は6機、造作もないです」

 

 荒れた大地を大きく踏み、スラスターから青白い光を噴射し。

 四方八方からの銃撃を避け、片手でライフルを構えた。

 そして――

 

「死ねぇ北米野郎がぁぁッ!!」

 

 ガササァァッ!!

 深紅の巨人の前に姿を現す、ユーラシア軍のバンイップⅢ。

 緑色の装甲が闇の中から出た瞬間に、構えた専用装備のナイフを大きく突き出し。

 頭部へと、その刃が迫っていく。

 だが――

 

「間合いが遠い」

 

 瞬間。

 振り上げられたブレードの斬撃が、バンイップⅢの腕を根本から切り落とし。

 同時に、胴体に向けてライフルが発射されて機体は少しの間火花を散らすと一気に爆散し。

 

 

「そして殺気を消せていません――0点です」

 

 

 間髪入らずに深紅の巨人は、周囲の木々の間にライフルを数発連射すると。

 

「なっ!?」

 

「バカなぁぁぁ!?」

 

 弾丸は正確に、深紅の巨人を包囲していた五機のバンイップⅢの中心に着弾し。

 けたたましい爆音と共に、閃光が深夜の森をてらして。

 爆散して散らばった機体が、チリチリと音を立てて燃え。

 

 

「……」

 

 

 頭部の『目』にあたる部分に備えられた横一閃の緑色のカメラアイが明滅し、機体の各部の装甲が小さく展開して放熱して。

 爆炎に照らされた深紅の巨人は、自らの手の反応を確かめるように指を蠢かせて。

 

「大尉、こちらは片付けました」

 

 周囲を見回して、背中のスラスターを噴射させて森の中を再び疾駆していく。

 

 その機体の名は『フレイムブリンガー』。

 

 北米軍がブレイディファントムⅢのデータなどを元に開発した、最新鋭のアメインであり。

 全身の新型電磁パルスモーターに搭乗者の脳の反応をダイレクトに伝えて、圧倒的な反応速度と機動力を両立させた新機軸の機体である。

 

 北米軍第二十一独立部隊『サイレントシーカー』はこの機体の性能実証試験を兼ねた広域偵察任務についており、現在の戦闘も九州地方のオセアニア軍との境界線近くで敵の侵攻を隊が発見したかたちで起きたものであった。

 そして――

 

 

「そうか、ならば私も……迅速に終わらせてみせようッ!!」

 

 

 ――濃紺色のパーソナルカラーに染められたフレイムブリンガーが、大地を蹴って大きく飛翔し。

 緑の木々を眼下におさめて、細見の巨体が躍動し。

 

 

「素晴らしい、素晴らしいぞ、機体が意のままに――想像以上に動くッ!!」

 

 

 頭部のメインカメラに横一閃の輝きが走り、腰横にそれぞれ備えられた直刀のブレードを引き抜いて。

 月光を背にして、その巨人は戦意をむき出しにしながら姿勢を一瞬で安定させた。

 

「バカめ丸見えだッ!!」

 

「すさまじい跳躍力だが、それをひけらかしたのが貴様の死因だ北米野郎ッ!!」

 

 森の中に隠れた機体が、一斉に弾丸を吐き出していく。

 マシンガンを両腕に構えた8機のバンイップⅢの集中砲火が跳躍したフレイムブリンガーに迫り。

 

「弾丸の発射元さえわかれば……こういう芸当もできるッ!!」

 

 その濃紺色の機体はまるで空中を蹴るかのような挙動と共に背面のスラスターを一気に噴射させ、地上へと加速する。

 圧倒的。

 あまりに圧倒的な加速力で、すべての弾幕の射線上から消え去り。

 

「まずは一機ッ!!」

 

「ぐぁぁぁ!?」

 

 地上に加速した勢いを、そのまま飛び蹴りに乗せ。

 フレイムブリンガーの脚部がバンイップⅢの胴体に大きくめり込んで、濃紺色の機体は反転してスラスターを吹かせて加速し。

 

「なにっ!?誰がやられたっ!?」

 

「そこおおおッ!!」

 

 戸惑うバンイップⅡに一気に肉薄し、直刀のブレードによる横一閃の斬撃を繰り出す。

 

「ば、バカなあああッ!!」

 

 ドゴオオオッ!!

 閃光のような一撃は一気に敵機体を両断し、機体は爆風を背に夜の森の中を疾駆する。

 

「新型機の性能実証のためだ……犠牲になってもらおうッ!!」

 

 フレイムブリンガーは頭部のカメラアイを輝かせると。

 両腕の直刀ブレードを振り上げ、一気に前方に放り投げた――

 

「ぐぁぁぁっ!?な、なんだああッ!?」

 

「これが機械の動きかああッ!?」

 

 二振りの刀は、敵機の頭部を刺し貫き。

 ブレードは首から上を串刺しにしたまま、木に突き刺さり。

 首を失った二体の巨人はフラフラとよろめいて、戦場の中心で完全に無防備な状態と化した。

 そして――

 

 

「直撃させてもらおうッ!!」

 

 

 濃紺色の機体はカメラアイを明滅させ、その無防備な鉄の巨人を見据えると。

 腰裏にマウントしていた強化型ライフルを一瞬で構えて、その引き金を躊躇いなく引くのだった。

 

 ドゴオオオオオオンッ!!

 

 無防備なバンイップⅢの胴体に、強化型ライフルから放たれた弾丸が着弾し。

 その圧倒的な威力は、装甲と内部フレームを一気に粉砕して爆散させ。

 貫通した弾丸は無数の木々を粉砕してなぎ倒して、しばらくして勢いを失って落下した――

 

「さあ、これで――仕上げといこうかッ!!」

 

 フレイムブインガーは木に突き刺さった二振りのブレードを引き抜くと。

 装甲を展開させて放熱しながら、周囲を見回し。

 

 

「黒いパーソナルカラーとその挙動……エース機とみたッ!!」 

 

 

 迫る敵機を前にして、両腕でブレードを構えて。

 大地を蹴り、木々の間を駆けていく。

 その先には――

 

「北米野郎にはもったいないがッ!!」

 

「見せてやろうぜ兄貴ッ!!」

 

「おうさ!!ディード!!ダマンゾ!!奴にデルタテンペストアタックをかけるッ!!」

 

 ――夜の闇に紛れた、3機の黒いバンイップⅢが三角形を象ったフォーメーションでジグザグに加速していく。

 前面の機体は一本の大型直刀ブレードを垂直に構え。

 後方の二機はそれぞれ大型バズーカと大型マシンガンを腰だめに構えながら大地を駆けて左右に散会し、ストームブリンガーを挟撃するかたちで展開していく。

 

 

「キエエエエエエエエエエエエエエイイイイッ!!」

 

 

 左右からの援護射撃を受けつつ、リーダ機らしきバンイップは両腕で構えた大型直刀ブレードを振り上げ。

 一気呵成に振り下ろした斬撃がストームブリンガーを襲う。

 

「薩摩示現流かッ!!?日本人でも……あるまいにッ!!」

 

 ブラッドは一瞬でその太刀筋を読み切る。

 敵の反撃を許さない、初手から全身全霊の一撃で仕留める日本の必殺剣法。

 ストームブリンガーは右腕で横なぎに払った斬撃で、その一撃を受け止める。

 

「馬鹿なッ!?俺様の示現流がッ!?」

 

「一撃必殺を実現させるためのマシンパワーが足りないのだよッ!!」

 

 そして、もう片方のブレードで黒いバンイップの胴体を一瞬で刺し貫くと。

 ズシャアアアアアッ!!

 

「ぐばああああああッ!?」

 

 刺し貫いた機体を盾代わりに、バズーカの弾頭を防いで。

 次の瞬間には、爆散する機体の横からストームブリンガーが飛び出して――

 

 

「あっ兄貴ィ!?くそおおおッ!!」

 

 

 バズーカを連射するバンイップⅢの懐に、一瞬にして潜り込み。

 振り上げられた斬撃は両腕を一気に切断し、胸部に直刀ブレードが突き刺され。

 黒いオイルが血のように噴射され。

 返り血を浴びたような濃紺色の機体は、暗闇の中で身を屈めて。

 

 

「さあ、これで――仕上げだッ!!」

 

 

 全身のスラスターを噴射させて跳躍し、大型マシンガンを連射するバンイップⅢの上に乗り上げ。

 その首元にねじ込むように、ブレードを振り下ろた――

 

 

「グエン!!ディード!!くそおおぉおおッ!!」

 

 

 コクピットを正確に刺突する一撃で、機体は完全に動かなくなり。

 膝から崩れ落ちた敵機から離れて、ストームブリンガーは再び全身の装甲を展開して放熱し。

 

 

「こちらも片づけた、帰投する――」

 

 

 大きく天を仰ぐと、木々の間を再び駆けていく。

 

 

(まだだ、この程度の力では……彼を止められないッ!!やはり私では……ダメなのかッ!?)

 

 

 夜の闇の中に、濃紺色の機体が溶けていき。

 森の中は再び静寂が支配していく。

 

 月光はすでに、黒い雲によって閉ざされ。

 冷たい風が木々と黒煙を揺らしていった――

 

 

 ―2―

 

 

(この機体をもってしても……彼に勝てる気がしないな)

 

 数十分後。

 9基のアメイン用ハンガーが備えられた、北米軍の大型格納庫。

 その奥には、物々しいフルフェイスタイプのヘルメットで素顔を隠した男がパイロットスーツ姿に立っており。

 ハンガーに立てかけられ、整備員のチェックを受けていくフレイムブリンガーを見上げていた。

 

 

(フレイムブリンガー、人と神経接続して稼動するさまは『アメイン』に近いが反応速度自体はこちらの方が速いはずなのに……この機体でさえも、彼と『ケンブ斬』に勝てるビジョンが浮かんでこない)

 

 

 物々しくもサイバーパンク感あふれる、ヘルメットだった。

 フルフェイスタイプヘルメットは口元がガスマスクのような形状であり、三角形の装甲が貼り付けられた前面部の周囲には緑色のメインカメラが6つ備えられ。

 

『……歯がゆいな』

 

 そのヘルメットがただの酔狂ではなく、『彼』の生命維持装置を兼ねていることを表すかのように。

 機械音で再現された『彼』の声が、作業音が響く格納庫内にこぼれて消えた。

 

 

 彼の名は『ブラッド・ワット大尉』。

 北米軍の大尉であり、アメイン部隊を指揮し自らも戦場でアメインを駆り日本のレジスタンスや他勢力と戦い。

 北陸戦線では『ブレイディファントム』を駆り、椎葉アモウと対決を果たし。

 

 そして北米軍が敗北した『関西決戦』では『ブレイディファントムⅡ』を駆り、椎葉アモウの『メイレスケンブ斬最終仕様』と『死闘』を繰り広げ。

 その末、敗北し。

 彼は生死の境を彷徨い、北米軍の特別技術研究所の手によって身体機能の一部をヘルメットで補助するかたちで復活し。

 そして、現在に至る。

 

「お疲れ様です、大尉」

 

 淡々とした声色が、基地内に響く。

 ブラッドのもとにすらっとした体躯に深紅のパイロットスーツを着込んだ少女がとことこと歩み寄り、慣れた所作で敬礼をした。

 美しい銀色のストレートヘアと、赤い瞳の少女だった。

 そして人形のような整った、冷たい印象を受ける顔立ち。

 

『ああ、押切(おしきり)曹長もよくやってくれた』

 

「いえ、私はそれぐらいしかやれることがないので」

 

 彼女は北米軍の特別技術研究所が調整した強化人間『調整者(ちょうせいしゃ)』である、『押切(おしきり)アンゼ』特務曹長。

 

 人間の反応速度や技量を、投薬や外科手術などにより人為的に底上げして作り上げられた、人道から外れた存在。

 

『確かに君は我々の軍が人道に反した実験で作り上げた兵士だ、だが……今はその力が必要だ』

 

 以前であれば、そのような存在には憤慨していたであろうブラッドであるが。

 しかし今は、その歪な力をも彼は肯定するしかない。

 頼らざるを得ないのだ。

 

「そうなのですか」

 

 冷たい表情を崩さず、押切はブラッドの顔を見上げた。

 生命維持装置を兼ねたヘルメットに包まれた彼の表情は、誰にもうかがい知ることはできないが。

 

 

『押切曹長も何度も記録映像を見せられただろう?関西決戦での椎葉アモウの戦闘……そして、各地に眠っていたレジスタンスたちの力を』

 

 

 その機械音で再現された声色は口惜しさと自信に対するふがいなさに対する憤懣が込められているように、少女は感じた。

 

 

「ええ、椎葉アモウの駆る『メイレスケンブ斬』が一個師団を蹴散らした戦闘はまさに鬼神と呼ぶにふさわしいのでしょう、それに呼応するかのように各レジスタンスたちのエースも活躍した……北米軍が私たち『調整者』を次々に実践投入する契機となった戦闘だと思います」

 

 

 忘れようもない。

 恥ずかしながら、はじめてケンブ斬の戦闘映像を見た彼女は体の震えを感じてしまっていたのだ。

 本能で理解でしたのだ。

 圧倒的な強さの器(スケール)をもつ存在だと、映像で見ただけで理解したのだ。

 

 

「あれを安全に倒すには戦術核などの大量破壊兵器か、都市部の人間たちを人質にするしかないでしょう」

 

 

 北米軍の軍人のほとんどが、あの日――関西決戦での惨敗を経た後から同じ認識をした。

 あの戦いも、戦術核さえ使えれば。

 大量破壊兵器さえ使えれば、レジスタンスを一網打尽にできた。

 

 だが、それは日本の経済支援を建前にしている北米軍にとっての敗北に他ならない。

 

『ああ、だが――そのやり方は国際情勢や本国の世論が許さない』

 

 熱核兵器の使用や民間人を人質とした作戦を行った場合、リスクが高すぎる。

 ほかの3勢力が完全協力し、北米軍への徹底抗戦を行う可能性も高く。

 

 

『十数年の間、一進一退を続けてきた境界戦は危ういパワーバランスと本国国民の理解の上で成り立っている、だからこそ北米軍はレジスタンスに対して正攻法に近いかたちでの討伐作戦をするしかないのさ』

 

 

 今はおとなしく支配を受け入れている日本人たちすべてが敵となる最悪のケースすら起こりうる。

 

「脳の外科手術と肉体強化と薬物投与で完成する私たち『調整者』のほうが、まだ存在が暴露されたとしてもリスクが低い……そういうことですよね」

 

『ああ、そういうことになるな』

 

 腕を組んで、ブラッドは押切を見据えて言い切った。

 若い。

 あまりに若すぎる。

 健康で操作技能適性の高い16歳の少女の身体にメスを入れて改造処置を受け、訓練により命令に従う人格へと矯正し。

 氷のような戦闘兵器としての彼女を作り出した。

 

(……納得するしかない、そして中途半端な優しさは彼女も自分も傷つける、まったく嫌な仕事だ)

 

 以前のような、歪な真っ直ぐさを失い。

 だが、それでもアメインに魅せられ戦うことしかできない男は戦うしかない。

 戦いの中に、意味を見出すしかないのだ。

 

「すべては国益のため、そういうことですね大尉」

 

「私たちは、大尉についていきます」

 

 そうこう会話をしていると、制服姿のソフィア・ルイス中尉とハーディー准尉が現れ。

 きびきびと敬礼し、決意を込めた表情で彼を見つめた。

 

 

『……まったく、私は上司思いの部下をもった』

 

 

 ヘルメットから歪な呼吸音が響いて。

 しかし、その声色はやや柔らかく。

 

 

「すまないな、二人とも……そして押切曹長」

 

 

 彼が申し訳なさそうにそう告げると、押切は表情を崩さないまま頷いて。

 

 

「アンゼ曹長と呼んでください大尉、私だけ部外者感が出ているのは……60点です」

 

 だが、やや不服そうにそう告げて。

 

 

『……まったく、手厳しいな』

 

 

 物々しいヘルメットを被った男は、格納庫の隅でやれやれと肩をすくめるのだった。

 

 つづく

 

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