境界戦機 〜猛虎伏草〜   作:寒ブリP

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第三話 その名は『鋼の雑技団(イエロサーカス)』。

 

 

 

 ―1―

 

『……『鋼の雑技団(イエロサーカス)』?』

 

 数時間後。

 アモウはレドガーに貸し与えられた、広い個室のベッドに横たわり。

 薄暗く深夜の静寂の中、スマホで通話をしていた。

 もちろん、彼のもつスマホは高性能な自律支援型AI『ガイ』の恩恵により、通信の傍受(ぼうじゅ)が非常に難しくなっており。

 更に部屋に盗聴器の類の有無の確認は、既にこの場所に来た直後に行っていた。

 

「ええ、レドガーさんは確かにそう言っていました……ミスズさんは何か知りませんか?」

 

 そんな用心をしてまで彼が連絡をとっていた相手、それはAI『ガイ』達を作った女性『槙(まき)・ミスズ・アネット』であった。

 

『そうね、聞いたこともないけど……確かその街はアメイン製造プラントもあり、都市の四方八方にアメインの駐機所があるって情報は協力機構で見たことがあるわね』

 

 AI開発機関『トライヴェクタ』の代表であり、現在は機関ごと『新日本協力機構』の所属となっており。

 一人旅を続けている椎葉アモウを陰ながら応援する、支援者の一人である。

 

 

『荒事(あらごと)になるなら、生きて帰れないかもしれないわよ』

 

 

 冷静な声色で、アネットは告げ。

 

「……それは分かっています」

 

 アモウは天井を見上げながら、瞳を閉じた。

 

『まあ、そう言っても……アモウくんは止められないんだろうから、こっちも何かあった時のための『準備』はしておくわね』

 

 やれやれといった様子で返すアネットに、アモウは感謝の念を抱いた。

 少し他人の気持ちに疎(うと)いところがある人だが、基本的に善人で色々と世話になることばかりで。

 

「ありがとうございます、ミスズさん」

 

 自分の旅や、人間が生きるということは……他の人と繋がっているからこそできるのだと、彼は実感していた。

 

『うわぁっ!?』

 

 と、思った矢先にスマホから彼女の奇声が響いて。

 

「なっ!?ど、どうしたんですかミスズさん!?」

 

 変なところがある人だというのは重々承知だが、いきなりだったので流石にアモウも戸惑い。

 

『い、いや~あの、うん、ちょっと準備をしようと思ったんだけどトラブルというか、なんというか……』

 

「何かあったんですか?」

 

 少し言いづらそうにするミスズに対し、アモウは心配そうな声色で問いかける。

 何でもズケズケと言う人が、ここまで狼狽するのは珍しかった。

 

『私達『新日本協力機構』の応援要請で動いてくれる現地協力員が、アモウ君がいる九州(ところ)では殆ど今出払っちゃっててね……』

 

 

「……無理そうですかね」

 

 今までも、日本人を助けようとすると殆どが荒事(あらごと)になり『新日本協力機構』をはじめ、日本各所のレジスタンス組織の支援を受けることは多くあった。

 

 協力を受けられなくとも、今はスマホに内蔵している相棒である AI『ガイ』との連携で何とか切り抜けることも出来るだろう。

 

 だが『ガイ』は2年半前の『北陸戦線』の戦いにて傷つき、赤子(あかご)のような『幼体(ようたい)』へと退行してしまっている。

 以前は街中のテレビモニタをジャックしたり、軍のコンピューターのセキュリティを突破しハッキングしたり、様々なことができたが、現在はその一部が制限されている。

 

 

 要塞化した都市の中で生身で荒事を乗り切るのには、やや心もとなかった。

 

 

 それでも、『イエロサーカス』を訪問する気持ちは一ミリも変わらないのではあるが――

 

『いや、協力員はいるんだけど……性格に難ありというか、ね』

 

「大丈夫です、協力してくれるならどんな人でも、ありがたいですから」

 

 本当に言いづらそうに言うので、アモウは即答してしまっていた。

 今は協力員がどんな人間であろうと支援を受けられるならば、それでいい。

 だが――

 

『……い、言ったよねアモウ君?大丈夫なんだね?言質(げんち)とったからね?』

 

「え?」

 

 ――ミスズは、かなり強く念押しをしてきて。

 思わず、アモウはベッドから身を起こして座っていた。

 

 

『アモウ君が大丈夫って言ったから、その子達に任せるけど……アモウ君、自分の身は自分で守ってね?』

 

 

 念押しに次ぐ、念押し。

 そして謎の警告。

 

「……はぁっ!?」

 

 そこまで言われると、普通に不安を煽られて。

 

「ちょっと待ってくださいミスズさん、いったいどんな人が――」

 

 精神的にかなり肝が据わったはずのアモウも、思わずすっ頓狂な声をもらしてしまっていた。

 

「じゃ、私は熊井さん達と準備するから、おやすみ!」

 

 ブチッ!!

 

「ちょっ!?」

 

 問いかけた瞬間、スマホの通話を切られて。

 夜の静寂が、暗い部屋の中に戻っていた。

 

「……相変わらずだな、あの人は」

 

 思わず、そう呟いてしまっていた。

 つかみどころの無い人だとは常に思っていたが、今回は流石に不安を煽られた。

 

 

「……どんな協力員なんだよ」

 

 全身がサイボーグの殺人鬼でも来るのだろうか。

 そんなことを考えながら、椎葉アモウは再びベッドに横たわり。

 

 

「ゴステロみたいなやつが来たら、助けてくれよな……ガイ」

 

 

 スマホに映る幼い身体の相棒『ガイ』を見つめて、苦笑するのだった。

 相棒(ガイ)は身体を丸めて、眠る。

 

『……アモー』

 

 かつて様々な言葉を交わした相棒が現在言える言葉は、限りなく少ない。

 だが、椎葉アモウはそれでも、彼に名を呼ばれるのが嬉しくて。

 しばらく画面を見つめていると、意識は泥の中に沈んでいくかのように消えていき。

 気づかないうちに、彼は相棒と共に眠りについていた――

 

 

 つづく

 

 

 

 

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