境界戦機 〜猛虎伏草〜   作:寒ブリP

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第四話 潜入、要塞都市。

 

 

 

 ―1―

 

 

(ここが要塞都市か……なんとか中に入れたけど、街自体はまだ日本の風景って感じがするな)

 

 

 翌日。

 耳長で目の細い、鼻に脂が溜まって黒ぶちの丸い眼鏡をしたアジア系の変装をした椎葉アモウは、いかにも整備士といった装いのベージュのつなぎを身にまとい。

 黒いハンチング帽子を被り、真昼の青空を仰ぐと。

 

(なんとか突貫で変装してみたけど、バレてないよな…?)

 

 雑居ビルが立ち並ぶオセアニア連合の要塞都市内部の街を歩いていた。

 周りを行き交いするサラリーマンらしき人並みや、銃を背負った緑色の軍服の軍人達を横目で確認して。

 全高9メートルの巨大な鉄の壁で、完全に周囲を囲まれた街を進んでいく。

 

 

(外国の軍人が闊歩してるのも日本では『普通』になったんだよな……俺の前の世代では『普通』じゃなかったはずなのに)

 

 

 ビルや様々な家屋が立ち並ぶ街の向こうには『要塞都市』という名に恥じない、レーダーなどが四方に設置されたホールケーキのような形状の大型の軍事施設が鎮座しており。

 街や施設のところどころに緑色の逆三角形のボディと逆関節の足をもつ巨大な二足足の機動兵器『バンイップ・ブーメラン』が鎮座しており。

 すでに、他国の軍隊がこの街に『根(ね)』を下ろして完全に支配しているということが嫌でも理解できた。

 

(あれが、ここのオセアニア軍の拠点か……『鋼の雑技団(イエロサーカス)』の施設はあれの近くにあるはずだけど)

 

 事前にスマホやミスズ博士から送られてきた情報を思い出し、そこかしこにいる憲兵に怪しまれないように歩いていく。

 

 椎葉アモウは慎重だった。

 

 AI『ガイ』の幼体の力を使い、中華とオーストラリアのハーフという出自の技術士という設定の電子パスポートと身分証明書を偽造し。

 『イエロサーカス』施設内の機材トラブルを軍のコンピューターにハッキングしてでっち上げ、街の入り口の検問所を突破し。

 そして現在、AI『ガイ』も力を使ったために数時間の機能停止状態に陥っており。

 その身ひとつで、敵の本陣まで潜入しなければいけなかった。

 

 

「おい、お前……何をしてる?」

 

 

 警戒しつつも、周りに興味がないような振る舞いを心掛けていたが。

 しかし、強い語気の声がアモウを背後から呼びかけ。

 

「えっ?」

 

 心臓が、強く脈打つのを感じた。

 振り返るとそこには、二人組の憲兵がいた。

 

「あまり見ない顔だな?身分証を提示しろ」

 

 金髪のショートヘアといかつい顔と非常に高い身長が高圧的な、中年の男性軍人と。

 

「妙な真似はするなよ、この街は我々オセアニア軍が治安を維持している要塞都市だ……逃げ場所はどこにもない」

 

 茶髪のウェーブヘアとキツそうな顔が特徴的な、若い女性軍人。

 二人ともオセアニア軍の緑色の軍服に腰に銃をぶら下げており、訝しげな表情でアモウを見つめていた。

 

「お、オイラは電気技術士のキム・アモスだ、この街には施設の電気トラブルの修理に来たんだ」

 

 へらへらとした笑顔を作りながら、アモウはつらつらと偽りの設定を語る。

 こんなことは得意ではなかったが何回かやっていくうちに、慣れてしまった。

 このような事態は何度か経験済みだった。

 

「なるほど中華とのハーフか、訛(なまり)がすごいな……」

 

「水ギョーザの臭いがしそうだな、それにその細い瞳で周りが見えるのか?」

 

 蔑みを込めた表情で、二人はアモウの姿を見回して。

 

「たくましいオセアニアの兵隊さんが見えますね…あはは、すみません」

 

 アモウはなんとかバレないように、その視線に耐えて。

 ヘソに力を入れて、平静を装う。

 

「ハーフのくせに媚びやがって、まあいい……さっさと行け」

 

「機械に油の代わりにラー油をさしてくれるなよ?ハーフ」

 

 ベンッ!!

 たっぷりの嫌味を言い、女性兵士に尻を蹴られ。

 

「あいてっ!?」

 

 アモウは大きくよろけながらも、姿勢をすぐに直して。

 

 

「は、はは……気をつけます、それでは」

 

 

 そのまま、疑われないようよぼよぼと歩いていく。

 しばらく歩いて、後ろからの視線がなくなったと感じて振り返り。

 やっと、兵士二人がいなくなったのを確認してため息をもらした。

 

 

「……わりと力込めて蹴りやがって」

 

 

 尻がヒリヒリと痛むが、泣き言を言ってられない。

 表通りを歩いて、憲兵たちの視線に耐え。

 ビルの谷間を、静かにかけ抜けていく。

 すると――

 

 

「やぁっほ~!キム〜!元気かい?」

 

 

 快活な声が背後から響いて、アモウは振り返る。

 

「こ、声でかッ?」

 

 そこには、腰まで伸びたクリーム色のウェーブヘアが特徴的な美少女が立っていた。

 

「へっ?そっかなあ?ってかその変装クオリティ高っ……いいねぇー」

 

 大きな胸と太ももが目を引く身体に紺色のシャツにピンクと白の柄の目立つジャケットを羽織り、深緑のハーフパンツを履いた少女はにこにこと笑顔を浮かべて、アモウをジロジロと見回す。

 

「ってか耳が尖っててちょーウケるんですけど♪」

 

 瞳は黒くきらきらと輝いて、つけまつげも長く。

 その手には、食料が入ってパンパンになったコンビニのレジ袋が握られていた。

 

「ちょ、き、君がミスズさんの言ってた『例の子』?応援は間に合ったのか……ってか、こ、声でかいって!」

 

 潜入捜査の最中だというのにまったく声を抑える様子のない彼女に戸惑いつつも、アモウは問いかける。

 すると彼女はくるりと身を翻(ひるがえ)して、親指でグッドサインを作って。

 

 

「うん、ウチがミスズに頼まれた『協力者』の一人、『小地谷(おぢや)ナナミ』だよ、『北陸戦線の英雄』サン♪」

 

 

 その先端につけたれたピンク色のネイルがキラキラと輝いて。

 アモウはクラクラと目眩(めまい)がするのを感じていた。

 

 

「ほ、本当に頼むから声を抑えてくれ……これは命のかかった潜入捜査なんだ」

 

 

 ミスズ博士が念を押した理由がわかった気がする。

 普通に潜入捜査には向かない、問題児過ぎる。

 ピンク色のジャケットやクリーム色のウェーブヘアはかなり一目(ひとめ)を引き、その溌剌(はつらつ)としたよく通る声も今はデメリットでしかない。

 正直、一人で行ったほうがマシだった。

 

 ミスズ博士はいよいよ、女子高生の読者モデルでもよこしたのか?

 

 そう、アモウは思ってしまった。

 

 まーたやりやがったのか、あの女ァ。

 

 そう、恨めしく思ってしまってもいた。

 だが――

 

 

「あー大丈夫っしょ、このあたりの憲兵は全部、検問所(けんもんじょ)近くに誘導しておいたよ」

 

 

 自慢げにナナミは黒いスマホを取り出し、その画面にはこの要塞都市の全体マップと憲兵たちの動きが表示され。

 彼女の言う通りに憲兵たちは確かに先ほどアモウが通った検問所の近くに集合しているようだった。

 

「えっ……?」

 

 思わず呆気にとられたアモウをよそに、ナナミは説明を続けていく。

 

「憲兵ひとりひとりの通信機と検問所にオセアニア軍の上層部からの司令を偽造して出してやったんだよ、『街の外から要人が緊急来訪するので、検問所近くを集中して警戒せよ』ってね、疑わずに命令通りに動く兵隊さんばかりでホント笑っちゃうよね〜」

 

「……ハッキングか」

 

 ナナミはその問いに、頷いて返した。

 

「ウチのアイレス『オロチ』は優秀だからねー、その程度の芸当は昼飯前なのサン♪」

 

 彼女の見せつけたスマホのマップが消失すると、デフォルメされた白い蛇のキャラクターが出現し。

 表示された白い蛇『オロチ』はその切れ長の瞳を細め、長い身体でとぐろを巻いて。

 

『どうも、『オロチ』と申しますですの……ナナミが馴れ馴れしくてすみませんですの』

 

 ペコペコと、その頭を下げていた。

 

「『オロチ』……ミスズさんの送ってくれたデータにあった『次世代自律思考型AI』の一つか」

 

 アモウは今朝、ミスズ博士から送られてきたデータを思い出していた。

 『次世代自律思考型AI』。

 それはアモウの相棒である自立志向型AI(アイレス)『ガイ』などをベースにして、更なる機能向上を目的に作られた新型のAI(アイレス)であり。

 現在では三種類までが完成した、とデータには表記されていた。

 

「そそ、ウチがちょちょっと改良したからハッキング能力もかなり高くなってるよ、あの『ゴースト』にも引けを取らないくらいにはね!」

 

「……それは心強いな」

 

 その『オロチ』のハッキング能力の高さに、アモウは心底感心していた。

 都市全体のネットワークにアクセスし、司令部からの司令を偽造して兵士ひとりひとりの通信機に送る。

 そのレベルのハッキング能力は全盛期の『ガイ』でもかなりの能力リソースを使い、使用中は他の作業がおぼつかなくなる。

 

『私とアモウ先輩の『ガイ』様が頑張れば、基地全体をハッキングできると思いますの』

 

 だが、眼前の『オロチ』はそれを難なくこなし。

 

 

「……ミスズさんには『協力者に気をつけろ』って言われてたけど、普通に有能じゃないか」

 

 

 そんなAIを『ちょちょっと』改良した、と告げるナナミも普通に優秀だとアモウは感心し。

 ミスズ博士の言うことをいちいち気にしていた自分が悪いのか、とも思っていた。

 

「あー……ヤバいのはもう一人の方っていうか……まあいいや」

 

「え……?」

 

「それよりさぁ、アモウ先輩はお腹すいてない?そこのコンビニでたくさん買い物してきたから……一緒に食べようだぜ?」

 

 何か言いづらそうに言葉を濁したナナミは、片手でたくさんの食糧が入ったコンビニの袋を差し出し。

 

「昔から、腹が減っては戦はできないとかいうじゃん?あっちに公園あるし、食べちゃおうよ♪」

 

「わ、わかった……じゃあもらうか」

 

 スマホで確認すると、時計は既に昼の12時を過ぎており。

 腹もやや空いてきたアモウは、『イエロサーカス』の施設に突入前に食事することを選択した。

 

 修羅場は、この二年半で何度もくぐってきた。

 

 戦いを前にして、食事がとれないほど緊張することもなく。

 何より、今回の相棒(バディ)であるナナミと良く話をしておきたかった――

 

 

 

 

 つづく

 

 

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