境界戦機 〜猛虎伏草〜   作:寒ブリP

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第六話 不倶戴天のコーロギン。

 

 

 ―1―

 

「よし、たどり着いたな……」

 

「ほんと、『サーカス』って感じの柄(がら)だねえ……柄だけは」

 

 しばらく歩いた二人は、巨大な軍事要塞を囲む壁の前まで到達し。

 要塞の背後に、サーカスのテントを模した赤と白のストライプ塗装が施された大型のドームが見えた。

 

(あれが『イエロサーカス』の施設……本当にこんな大掛かりな施設の中で日本人が捕まっているっていうのか?)

 

 軍事要塞の背後にあったため見えづらかったが、かなり巨大な施設でアモウは圧倒されていた。

 

 

 円柱状の建造物であり、四方に備えられた大型の入り口からは哨戒機と思われるバンイップ・ブーメランが出入りして、施設の周辺を歩いていた。

 

(バンイップを余裕で格納できるってことは、だいたい全高40メートル、半径320メートルってところか……重機動メカは入らなそう)

 

 ナナミは一瞥しただけで、そのサイズを看破し。

 このあと、あの施設の中でどうアモウと自分で戦い抜くのかを冷静に思案していた。

 

「スコープドッグなら余裕だな♪」

 

「……なんだって?ストーブ?」

 

「お待ちください、そこの二人――」

 

 二人が平静を装いながら入り口に近づこうとすると、そこに併設されたプレハブのような小屋(こや)の中からピエロの格好をした警備員の男が現れ。

 

「――ここから先は、入場券をもった方でないと入れませんよ」

 

 瞳を細めて、アモウ達を見据えるのだった。

 

 

「あの、すみません……サーカス施設内の電気系統の故障の整備に来た『ブラックロー電子部品製作所』の『キム・アモス』と――」

 

 

 スマホをかざし、アモウたちは身分証明書を見せ。

 

「――『チャン・チョレッギ』でっす♪」

 

「連絡はもらっています、なるほどアジア人か……まったく醤油くさい」

 

 警備員の男は手元のタブレットのカメラでそれをスキャンすると、データを照合させ。

 

「……確かに本人ですね、なるほど入りなさい」

 

 偽造された身分証明書は完全に認証され、男はしぶしぶ『サーカス』施設の入り口の一つを指差すのだった。

 

「ありがとうございます」

 

「まいどー♪」

 

 二人は怪しまれないように平静を装って入り口へと歩いて行き。

 数人の兵士を尻目に、中に入っていく。

 薄暗く大きな入り口の中には、2メートルほどの大きなピエロの置物が鎮座し。

 哨戒用のバンイップ・ブーメランがその入り口内部から、奥へと歩いていき。

 

「『オロチ』、私達が通る道だけでいい、監視カメラをハッキングして、あと……この施設の見取り図は?」

 

 ナナミが取り出したスマホの画面に施設内のマップが表示され。

 

『はいはい、施設内はこんな感じですわ、前もって解析したデータとほぼ同じ……地下にアメインも余裕で入れる大型アリーナがあるみたいですわぁ』

 

 施設内は様々な区画に枝分かれしていたが、アメインが通ることが可能な大型の道はまるでとぐろを巻くようにして地下に伸びており。

 

「アメインをろくでもないことに使うのかよー…引くわー」

 

 地下にはドーム状にくり抜かれた、かなり大きなドーム状の空洞が存在し。

 

「……こんな地下に大きな施設を作って、日本人を見世物にしてるっていうのか?」

 

「まあ、かなり悪趣味なことをやってるんだとは思うけど……」

 

 そこが『サーカス』の『演目(えんもく)』が行われている場所だと、アモウ達は判断した。

 

『この大型アリーナの後ろに施設全体のネットワークをつかさどるメインコンピューターがあるみたいですわ、だからこのアリーナまで辿り着ければ私と『ガイ』様の力で……この施設全体のネットワークを完全掌握できますわ』

 

「囚われてる日本人たちも解放できるってことか?」

 

 アモウの問いを、オロチは肯定した。

 

 

『ええ、基地全体の監視カメラの映像や非人道的な行いなどの蓄積データは全てメインコンピューターが管理していますわ、これを掌握できれば……あとはいかに囚われた日本人に銃口を向けようと彼らは手出しできないはずですわ』

 

 

 椎葉アモウとAI『ガイ』が日本人を開放する時に使う『常套手段』。

 敵の基地やデータをハッキングして、その軍の非道を全世界に暴いていく。

 

「最悪の場合、虐殺映像が全世界に生中継されちゃうからね」

 

 世界を暴(あば)くその行為は、すべての軍から酷く嫌悪され。

 全国のレジスタンス組織の中には、彼のやり方を模倣するものも増えていた。

 

「誰も殺させはしない、絶対に『オロチ』と『ガイ』を闘技場まで送り届ける……だから、頼むぞ『オロチ』」

 

 椎葉アモウは『北陸戦線の英雄』の異名で呼ばれてはいるが、実質的には権力だけ持たぬ『水戸黄門』のように諸国の悪をくじいていく存在として日本人には認知され。

 反面、日本人を虐げる者達には恐怖の対象として認知されていた――

 

『了解ですわアモウ様♪』

 

「なに色気(いろけ)づいた声だしてんのさ……まあいいや、行こうアモウ先輩」

 

 信頼されて嬉しそうに返すオロチに、ナナミはやや引いた態度で告げ。

 

「あ、ああ……」

 

 アモウはそんな二人を尻目に、そのまま巨大な通路を歩いていく。

 アメインが横三列に並んでも歩行できるほどの通路はどんどん地下へと下っていき、アモウ達は端に設置された人間用の歩道を歩き。

 そんな三人を、黄色味を帯びた灯りが照らしていく。

 

「……酒場(バー)があるのか」

 

「ちゃんと娯楽施設みたいになってんだね」

 

 しばらく歩くと、歩道の横に大型の扉が見えて。

 酒のマークと『BAR』と書かれた看板がその上に掲げられていた。

 スーツや帽子をかぶった身なりの良い老人が、若く派手なドレスを着た愛人らしき少女を連れてその中に入っていく。

 そのほかにも、身なりのいい人たちが数人入っていき。

 扉から中を覗くと、薄暗く落ち着いた雰囲気の食堂の中はそれなりに人が入っていて。

 

「カジノやコンビニもあるぞ?」

 

「どこにでもあるなあコンビニ」

 

 少し歩いていくと、カジノらしき施設やコンビニなどに通じる扉も通路に併設されていて。

 

「……こんなもの作る時間と労力と土地があるなら、普通に軍事要塞のほうをもっと大きく作ればいいのにな」

 

 ここは本当に要塞に併設された施設の地下なのかと、アモウは首を傾げてしまっていた。

 

「そこはまあ、軍人や要人たちだって人間だから娯楽が必要なんでしょ……日本人を虐げるって娯楽がさ」

 

「最悪だな」

 

「そこは同意するよ、先輩」

 

 嫌悪感を抱きながら吐き捨てるアモウに、ナナミはうんうんと頷き。

 地下に繋がる道をしばらく歩いていると。

 

「…誰かいる」

 

「やり過ごすぞ」

 

 すぐさま、二人は通路の先から歩いてくる人影に気付き。

 オレンジ色の灯りに照らされた人影は、ゆっくりと。

 

「おやおやおや、誰かいますネェ」

 

 しかし、二人を確実に見つめてふらふらと歩を進めて。

 

 

「客人かな?いや……その身なりと臭いは作業員の方ですな、ぐふふ」

 

 

 黒いシルクハットを被った、小太りの男のシルエットがあらわになるのだった。

 帽子を乗せた丸い坊主頭、まっすぐに見開かれた大きな瞳と太い眉。

 小さく横に大きな身体に黒い燕尾服(えんびふく)をまとい。

 乾いた笑顔を貼り付けて、先の曲がったステッキの先端を地面につけて両手で持ち。

 その異様な雰囲気をかもしだす男に、アモウ達は表情など態度に出ないよう警戒した。

 

「はい、オイラたちは『ブラックロー電子部品製作所』の……』

 

 カツンッ!!

 言葉を連ねようとした瞬間、ステッキで地面を小突き。

 

「いえいえ名乗りは結構、施設の故障を直しにきた技術者の名前を覚えても仕方ありませんからネ、ですがあなた方はワタシの名前とこの素敵な場所をしっかり覚えてくだサイ」

 

 ニヤリと笑うと、並んだ金歯がぎらぎらと輝いて。

 

 

「この施設は軍の人々や要人が心を癒すために大切な施設、『鋼乃雑技団(イエロサーカス)』、ワタシは団長を務めている『タヴェル・コーロギン』大佐デス」

 

 

 宝石や金の指輪が無数にはめられた指でシルクハットを抑えながら、小さく頭を下げた。

 

「あ、あのオイラたち故障箇所もわかってますし、二人で行けるんですが……」

 

 アモウは困惑する。

 施設の長を釘づけにできるのはいいが、監視されたままでは潜入がままならない。

 

「いやいやいやいやァかまわないデス!!たとえ作業員であろうと、この地に訪れた方々を案内するのが私の流儀……それとも、私がいたら何か不都合なのデスか?」

 

 なんとか、引き離そうとするが男はかなり強く食い下がり。

 

(……気づいているのか?こいつ)

 

 アモウは思考を巡らせた。

 どう反応するのがベストなのか。

 

 何回も場数を踏んだが、それでも心理戦は苦手である。

 

 どう頑張ってもまだ彼は少年であり、何十年も経験を積んできた人間達とは埋め難い差がある。

 相手は見た目こそただの下品な成金であるが、ただ者ではない異様な存在感を感じさせる。

 対処を間違えたら、厄介極まる展開になるのは火を見るよりも明らかだった。

 

「いいえ、まったく♪素敵な殿方に案内していただけてとても嬉しいナ♪」

 

 思案して反応が遅れたアモウの前にナナミがずい、と出て。

 ニコニコと自然な笑顔を浮かべ、手を合わせて感謝の意を伝えていた。

 

「ぐふふ、そうでしょうお嬢さん……まあ、そういうことだからさっさとついてくるデスよ」

 

「はーい♪」

 

 ナナミの反応にすっかり気をよくした様子の男は二人を誘導するように背を向けて歩き出し。

 

「……ありがとう」

 

「いえいえ」

 

 アモウは小声で、ナナミに謝意を述べるのだった。

 

 

「この『イエロ・サーカス』の施設は2年前に完成した巨大要塞の隣に同時期に建てられマシタ、目的はこの街の周囲の日本人テロリスト及び反抗勢力の人間を収容し、利用するためデス」

 

 

 男は上機嫌で語りながら歩きだし、二人もその小さな背のあとに続いていく。

 

「日本人は非常に良い資源(しげん)デス、売って良し、解体(バラ)して良し、遊んで良し……我ら『イエロサーカス』はオセアニア軍の中で汚れ仕事を一手に引き受けていますが、メンバーの皆は自分の仕事を転職だと思っていマス、もちろんワタシを含めてね」

 

 オレンジ色の灯りで、三つの影が地面に落ちて。

 

「……資源」

 

 ギリリ、と歯を噛み締めるアモウ。

 

「ええ資源です、若い子供は臓器移植のための資源、男は労働力、女は娯楽用……『日本人』は神が我らに与えたもうた資源なのデスよ」

 

 もう、その言葉だけで不倶戴天(ふぐだいてん)の仇(てき)だと確信した。

 血の気が引いていくのが、わかった。

 

「ああ、ちょうどそこが臓器を移植するための医療ブロックになりマスね、そしてあそこがジャパニーズシャブシャブ屋、その隣のルームが『輸出用』に仕分けられた日本人の保管場所デスね」

 

 通路の横にある大型の扉の数々を、コーロギンはステッキで指して説明をしていく。

 扉の上にはネオンの看板がピカピカと輝いて、妖しい雰囲気を醸し出し。

 男は良心の呵責(かしゃく)はまったく感じさせない軽快な足どりと微笑みを浮かべた。

 

「シャブシャブ屋は、ウチみたいな美少女がたくさんいる感じなんですかね~?」

 

「フハハハッ、まあそうなりマスねえ……まあ日本人の身体に興奮できる感覚がワタシには理解できませんが、いくら雑に扱っても良心が痛まないのはいいのデスがね」

 

「さっすが団長、つえ~♪劣等種なんて眼中にないんだネ!」

 

「そうデスよ、日本人は日本人でしかないのデス」

 

 機嫌よく話すコーロギンをおだてつつ、ナナミはアモウに目配せする。

 大丈夫か?といった表情だった。

 

(ああ、まだ……まだ大丈夫だ、今しっぽを出すわけにはいかない、みんなを助けるためには)

 

 耐えられそうか?といった意味合いで視線を送る彼女に、アモウは深く頷いてみせた。

 そうこうしているうちに、通路の先にかなりの人だかりが見えてきて。

 ガヤガヤと話す声が響いてきた。

 

「うちの孫、やっと臓器移植してもらって明日退院ですじゃ……じゃが日本人の臓器など、ワシは不本意なんじゃがのう」

 

「それはありますねえ……」

 

「昨日買った日本人のメスは本当に従順で良かったよ」

 

「そうなんですか?うちのは反抗的だから常に鞭を振るってますよ、ハハハ」

 

 アメイン用の大型通路もその人だかりの先の、巨大なシャッターにつながっており。

 

(オウオウ、トー横よりも終わってンなあ……)

 

 赤と白のストライプ柄のシャッターの前では、ポップコーンやジュース、ホットドッグやビールなどの屋台が並んでいた。

 

 

「さて……ここから先がサーカスの中心部である『大型アリーナ』になりマス、眺めの良い客席から見下ろす円形のアリーナは迫力は満点デス!!」

 

 

 その人々を掻き分けるように、三人は歩いていく――

 

「おお、団長!!いつも楽しいショーをありがとう!この前の鉄骨綱渡りは最高だったよ!」

 

 人混みの中から男の声が響いて。

 

「いつもごひいきに、今日は『猿狩り』を予定していマスので楽しみにしてください」

 

「はははっ、『猿狩り』は迫力があっていいですなあ!」

 

「今日は『猿狩り』かあ!日本人が慌てふためく姿を見るのは最高に楽しいぜ!!」

 

「はははっ、ありがとうございマス」

 

 コーロギンは返答しつつ、シャッターの横の壁に埋め込まれたモニターに顔を近づけ。

 顔と生体認証により、その大型シャッターを開閉させた。

 

 

「さて、そろそろ開演デス――」

 

 

 シャッターが開くと黒い壁に包まれた円形のコロシアム型の会場があらわになり。

 演目を行うアリーナの四方には真っ赤な炎を燃やす松明(たいまつ)が備えられ。

 天井から放射線状に色とりどりのサーカスフラッグが吊るされ。

 いかにも『サーカス』然としたその空間の中に、アモウは地獄を見た。

 

 

「あ、あれは……」

 

 

 アリーナの中央には、ボロボロの囚人服を着た日本人が9人並べられ。

 その周囲にはマシンガンを携帯したピエロが数人取り囲んでおり。

 彼らの前には北米軍の量産型アメインであるはずの『ジョーハウンド』が銃を携行した状態でそびえ立っていた。

 

 

「フハハ、あれが今日の演目である『猿狩り』デス!アメインが猿を追い回す楽しいショーになりマス、10分間逃げ切ったものには恩赦として自由が約束されてマス!まあ、逃げ切ったものなどこの2年間で……一匹もいませんが!」

 

 

 両手を広げて、コーロギンは邪悪な笑みを浮かべ。

 絶句するアモウたちを見据えて、挑発的な視線を送った。

 

 

「なんてコトを――そう思ったでショウ?椎葉アモウ」

 

 

 そして、アモウにステッキの先を向け。

 勝ち誇ったように笑う。

 

「なっ!?」

 

 アモウが反応した瞬間には、すでに対処できる状態ではなかった。

 

 

「おっと動くな、動けば今すぐあの日本人たちを殺しマス」

 

 

 コーロギンが日本人たちを指差すと、彼らの前に立ったジョーハウンドは携行していたライフルを構え。

 その銃口が日本人たちに向けられ、既にアリーナに集められていた観客達の喝采がワッと響いた。

 

「いつから……バレてたわけ?」

 

 苦々しい表情で、ナナミは吐き捨て。

 次の瞬間には、周囲の群衆の合間を縫って一つの影が彼女の背後に現れた。

 

 

「最初からだ愚か者、コーロギン様は貴様たちがこの施設に足を踏み入れた瞬間に……貴様たちの正体を看破していたのだ」

 

 

 それは、黒髪をポニーテールにまとめた女忍者だった。

 大きな胸とスレンダーな身体に忍装束を纏い、美しい顔は無表情で切れ目の瞳は冷たい輝きを放ち。

 

「動くなよ、もう少しいたぶってから殺してやる」

 

 その手に持った小刀を、ナナミの首筋に向けた。

 

「誰だよ、新キャラならまず名乗れよ」

 

 ナナミは降参の意思を表明するように両手を挙げて、苦笑いを浮かべつつ。

 冷たくそう言い放ち。

 

 

「元(もと)上州忍軍(じょうしゅうにんぐん)部隊長……影断(かげたち)ツルギ、貴様を殺すものだ」

 

 

 女忍者はナナミの首筋に小刀を向けたまま、冷たい笑みを浮かべて名乗り。

 

「裏切り者のクソ日本人かよ、マジで死んどけよ……ぐっ!?」

 

「生殺与奪の権はこちらが握っている、もうしゃべるな不細工が」

 

 吐き捨てたナナミの首を腕で絞めて、ツルギと名乗った女はコーロギンに目配せをして。

 

「ああ、そちらの女は他のサーカスメンバーと一緒にいたぶって殺せばいい……その映像ももちろん『イエロサーカス』のメンバーシップ会員の皆様に配信する、本当に日本人とは素晴らしい資源デスよ♪」

 

 アモウも両手を挙げて、降参の意を表明した。

 するしかなかった。

 

「くっ……」

 

 日本人を人質にとられてしまっては、こうするしかない。

 今自分が動けば、ナナミと9人の日本人が死ぬ。

 そう思うからこそ、彼は即断する。

 

 

「なあ、そう思うだろう?『北陸戦線の英雄』サン?』

 

 

 そんな彼を嘲笑いながら、男は周りに集結したピエロ達に指示を出していき。

 アモウは屈強なピエロ達に連れられ、アリーナの中央へと連行されていった――

 

 

 つづく

 

 

 

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