夢の中で出会ったドラゴンは病んでいた   作:ドラゴンの夢

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第16話

胸に深々と刺さった爪が私の心臓を貫く。

 

「これで格付けは終わったね?これ以上戦っても勝ち目がないよ君」

「ゴ……ま、まだやれ……ゴフッ!」

 

 私は虎のように大きくなった黒猫に押し倒され心臓を貫かれても闘志は揺るがないが、何度も臓物を裂かれた影響から血反吐を吐き呼吸もままならない。

 そんな私を見下ろす黒猫は口元が裂けて笑みを作り。

 

「どう見ても君の負けだよ。そもそも僕と君じゃ根本から違うのだから戦いにすらならなかったじゃないか」

 

 主様のペットと眷属として格付けの為に戦い挑んだが結果は散々だった。

 単純に人間として闘争もない世界でいた私が、妖怪として命懸けで日々を送っていた黒猫とは地力で大きな差があった。それは生まれついた運動センスを生存の為に磨き続けた野生動物を相手に互いに同等の力を持って戦えば負ける事は明らかだった。

 

 あの化け物を殺して驕っていたのが私の敗因ね……。与えられた力は同じでも私は全然使いこなせていなかった……。

 

 黒猫との戦いは互いの再生能力もあり、手足が吹き飛ぼうと内臓が零れようと瞬時に再生することが出来た為に一見すると互角に見えて、実態はほぼ嬲られ続けたと言ってもいい。

 コンクリートすら容易く粉砕する拳も足も俊敏な黒猫の前ではカスリもせず、その鋭い爪と牙が私の身体を切り刻み続けた。

 結局の所、どんなに切り裂かれても心臓を潰されても死なない私たち眷属同士の戦いは心を折ることでしか決着は着かないのだった。だからこの黒猫は私の心臓を爪で貫いて、身動きの取れないように地面に押し付けているのだ。

 

 心臓が潰れて動かない痛みは想像以上の激痛だった。私の心はまだ折れていないが、黒猫の方はこちらを歯牙にもかけていない。ただ早く諦めてくれないかと言う思いが種族が違っても一目で分かった。

 

「君は神様の三番目。もうそれで良いじゃないか」

「さ、んばんめ……?いちばんは誰なの……?グッ……ッ!」

 

 私の知らない眷属がいることに痛みなど忘れて怒りが湧いた。この黒猫が二番目ならば一番は何者なのだろうか?私の嫉妬心が強い憎悪を掻き立てる。

 見れば黒猫の瞳にも強い嫉妬の炎を宿している。今の私たちは気持ちが同じで通じ合っていた。

 

「さぁ?ただ神様が寝ると何処か遠くの世界に身体が転移して……そこでエンドという存在と交尾してたみたいだよ……うん、自分で言っていて凄い怒りが湧いてくる……僕の神様なのに……ッ!」

「私の主様が他の女と……一体誰なの?」

「分からないよ。ただ凄い強い存在だってことは直感で分かる」

 

 寵愛を受けるエンドと言われる存在にどす黒い感情が流れる。私たちは互いに殺意を漲らせてソレをこの世から抹消したくて堪らない。

 

「分かったわ……私は三番目で良い。ただ一番目を引き摺り降ろしましょう」

「いいよ。僕が一番じゃなければ嫌だから」

「私も一番じゃなければ嫌」

 

 本当ならば互いに排除したいと思っているが、そのエンドという存在が私たちよりも主様にずっと近いならば共同戦線を張ってでもそいつを主様の引き摺り降ろさなければならない。黒猫との因縁なんて後回しだ。

 

 爪が引き抜かれて瞬時に心臓が再生を始める。脈打つ心臓が私の体内の隅々まで血を送り肉体に活力が戻ってくるのを感じて大きく息を吸う。

 

「さて、どうやってそのエンドという存在の情報を集めましょう。そしてどう引きずり降ろしてやろうかしら」

「僕は人間みたいに小賢しくないから、そっちで考えてよ。僕は一応は君との格付けが済んだし神様の下に帰るね」

 

 畜生如きが私に命令するなんて……。

 

 しかし何かを言い返す暇もなく、元の猫の大きさに戻って俊敏に駆けて行く。

 残された私はボロボロになった制服の着替えを取りに来させる為に、薬壺家の使用人に電話を掛ける。私が人身御供であることを知っているのは薬壺家の人間と一部の使用人だけで、それ以外は私を養子となったお嬢様と見られているので都合が良い。

 

 薬壺家が守り神を失って今頃慌ててる頃かしら?その前に奪える物は奪っておかないと。

 

 使用人の電話から聞こえる薬壺家の叫び声と怒鳴り声に頬が緩んだ後、用済みになった私にどういう処分が下される前に行動を始めなければならないと思い気を引き締める。

 

「エンドが先だけど……こっちの復讐もまだ終わってないのよね」

 

 暴飲暴食の太った醜い豚共が、庇護を失い肉体にどんな変調が起きるか楽しみだった。予想が正しければ、彼らが今まで罹るはずだった病が一気に押し寄せるだろう。その時に家の財産をどれだけ多く奪えるかが、今後の主様のお役立ちになるはずだ。

 

「あの畜生には出来ない方法で私は主様に奉仕する。所詮は愛玩ペット。人間の容姿を持たない猫には主様のペット以上の存在になれないわ」

 

 幸いなことに私は容姿が良い。猫では出来ない多くのアドバンテージを持っている私の目下の敵はエンド言う存在だけ。それだけが主様と私を邪魔する障害物だった。

 

 

 

★★★

 

「どうせあの人間の女は僕がただの愛玩動物で終わると思ってるんだろうね」

 

 街を駆け抜けながらあの女の考えていることはお見通しで僕は心の中で嘲笑してしまう。

 僕はその気になれば人間の女になれる。ただ一度定めたらその姿が僕の人間時の容姿として固定されてしまうから慎重になっていた。僕はまだ神様の好みを知らない。どんな声で、髪で、瞳で、鼻で、口で、肌で、身体で、作り上げる肉体の全ては神様の為に――神様だけの物となるべく形作らなければならない。

 

 人間の容姿についてはまだ僕には分からないことが多すぎる。美醜の価値観からして根本的に違うのだから、僕はより一層慎重に神様の好みになるような肉体を形作らなくちゃ……失敗が許されない勝負は怖いよ。

 

 もし形作った人間の容姿が拒絶されれば、僕はもう愛玩動物以上の存在にはなれない。それだけが今の僕の不安だった。

 エンドと言う存在も気にしているが、僕は絶対に勝てる自信があった。

 

「僕を撫でる手……僕を見る目……僕を包む腕……あれ以上なんて絶対に存在しない。神様に愛されるのにそれ以上を求めるとすれば……交わりたい」

 

 僕の矮小な価値もない血でも神様の仔を残したい。どうしようない本能が僕を突き動かすがそれでも必死に自制した。

 僕にはまだ理想の容姿が完成していないのだから。

 

「全てを作り終えたら……僕は神様に求められる存在になろう。そしてその求めに絶対に答えて……神様と僕との間に愛しい証を作るんだ……僕なら出来る」

 

 心の中に芽生える拒絶の不安を未来への希望で塗り潰しながら下校途中の主様の気配に向けて動き出す。

 

 

★★★

 

 

「■■■――ッ!■■■■■■!?■■?」

「あー……ちょっと待ってね。先輩はこの人の言語分かりますか?」

「分からん。聞いたことない言語だな。どんな言語も一度は聞き覚えあるもんなんだが……」

 

 下校途中、警察官の二人に必死で何かを訴えている金髪の美女を眺めながらパン屋で奈波と買い食いをしていた。

 

「白いフードに金の刺繍ねぇ……どっかの宗教関係者?」

「金髪はともかく……銀色の瞳ってカラコンでも入れてるの?あたしはコンタクトレンズだけは苦手なんだよ」

 

 アツアツのカレーパンを食べながら、どっかの宗教団体のシスターっぽい人と警官のやり取りを遠巻きに眺める。

 シスターっぽい人は必死に何かを伝えようとしているが、警察官たちはその意味を汲み取ろうと頑張るが失敗している。スマホの翻訳アプリも試しているようだが不発のようだ。

 

「ビザ持ってないのかね?それ確かめれば一発だろ」

「あんたは馬鹿だねぇ。持ってないからあんな面倒になってるでしょ」

「次に馬鹿って言ったら腹殴るぞ」

「そんだけで殴るとか将来はDV夫になりそうで怖いねぇー」

 

 いつものやり取りの後に警察官が痺れを切らしたのか交番に連れて行こうとすると――

 

「■■■■■■■■■――ッ!」

 

――それを拒絶したのか手元が光ったかと思うとシスターはその場から逃げ出した。

 

「あっ逃げたね」

「逃げちゃったねー」

 

 当然、後を追うかと思った警官たちはその場で微動だにせずに固まっている。俺はそんな二人の警官を観察して。

 

「あのシスターが魔法使ったね」

「ゴボォ……ゴッゴホッ……何真面目に馬鹿言ってるねん――ンゴッ!」

 

 馬鹿と言ったので俺の無言の腹パンが奈波の腹に突き刺さる。別に本気のパンチではなく軽くドついただけだが思ったよりダメージがあったようだ。

 むせて涙目になりながら脛を全力で蹴っ飛ばされた。

 

「固った!鉄で出来てんのかあんたの足は!」

 

 残念ながら今の俺にはノーダメ―ジで逆に蹴った方が爪先をトントンと地面を叩いて痛みを和らげようとしている。

 

「普段から鍛えてるからその程度の蹴りは――むっ!」

「これもノーダメって逆に怖いんだけど!」

 

 続いて金的を狙った蹴りが見事にクリーンヒットしたが俺は涼しい顔で流して、シスターの方向を見ながら。

 

「世の中には俺の知らない未知なる力を持った存在がいるのか」

「なにいきなり中二病発症してるのあんた?」

「力を持たぬモノには分からないさ。俺の気持ちなんて」

「はい。今のは私に合わせて中二言動してるけど、最初のはガチだったよね」

 

 嫌なツッコミをされたので無言で流して、俺はそのまま家に帰ることにした。奈波はそんな俺に一瞥もくれずカレーパンを食いながら。

 

「今度のバンドのライブを見に来てねー!」

「誰が行くか中二ロックバンドなんて!」

 

 俺は背後を向き手を振ると、奈波も返すように手を振った。

 そしていつものさよならの挨拶は終わり一人で帰ろうとした時に――

 

「■■■■■■■■■?」

「えっ?なに?」

 

――白いフードを被った外国人に呼び止められた。

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