夢の中で出会ったドラゴンは病んでいた   作:ドラゴンの夢

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第17話

「ここが救世主の世界……この高度な建築技術を見るに文明がよほど進んでいますね」

 

 私の目に映る建築群はどれも巨大で整備された舗道を見て文明レベルの違いに圧倒された。鉄の箱に車輪が付いて高速で移動する物体、高価な服に身を包んだ板を眺める人々、そして人間しか居ない街の中。どれもが新鮮でそして私との違いがハッキリと認識出来る。

 

 この世界の人間には魔力が存在しないの……?

 

 行き交う人々を眺めればほとんどが魔力を有しておらず、時折僅かな魔力を持った人間が見つかる程度だった。

 

 魔力がない分だけ、それを補う機械技術が発展したのでしょう。するとこの世界は階層社会ではないのかしら?

 

 魔力を持つ人間と持たない人間では明らかな身分格差のある世界からやってきた身としては、誰もが魔力と言う明らかなアドバンテージを持たない異世界の社会システムに興味があった。

 そして何よりこの誰もが魔力をほとんど有してない世界でなぜ数多の並行世界の中でも最強の人間が産まれるのかという疑問もわき上がる。

 

「ここで召喚陣を破壊された以上は待てば必ず見つかるでしょう。それにしてもやはり浮いてますね」

 

 異世界人の視線がこちらに向けられるのを感じながら、自身の格好を改めてみる。

 勇者を迎えるに相応しい聖女のフードを着て、腰には護身用の短刀に金貨が詰まった袋。そして黒髪黒目がほとんどの世界で金髪で銀の瞳はどうしても目立ってしまう。

 

 幸い誰も視線を向けるだけでこちらに来ませんが……このままでは衛兵のような方達に身分の証明を求められるかも知れませんね。

 

 仮にこの異世界の人間が私たちの世界に来ればすぐにでも衛兵が駆けつけるだろう。私はこの異世界で衛兵に捕まりそうにまった場合の対処法に迷っていた。

 

 これほどの技術が発展した世界でどのような道具を使用する分かりませんね。下手すれば魔法よりも強力な何かを所持している可能性もあります。となると――

 

『■■■■■■■■■■?』

「あっ……」

 

――背後から青い服を着た異世界人の二人に話しかけられた。

 

 統一された服、装備、そして武器と思わしき物を持つ二人の異世界人は一目で衛兵と似た職業であると理解する。

 武装と身体の運び方からして多少は訓練を積んだ人間の動きだった。

 

「あのこの世界でもっとも強き者を探しているのですが?心当たりはありませんか?」

『■■■■■■■■■■、■■■■■■■?』

『■■■■■■■?』

 

 二人の衛兵は互いに顔を見合わせて何事か話し合っている。不審者である私に対して平然と視線を逸らして話す辺りは、この世界の治安は良い方なのだろう。私の世界ならば絶対に衛兵は目を離したりしない。

 

 

 それから何事か尋ねられても内容は分からぬまま話すが互いの会話が一方通行であることを理解して衛兵たちは指を差して何かを言っている。

 

 こっちに来いと言っているのでしょうか?しかし私には使命があるのでこの場を離れる訳にはいきません!

 

「その肉体と乖離せよ――ッ!」

 

 手を伸ばす衛兵たちに向けて私は魔法を放つ。単純な肉体と魂の乖離魔法。一時的に相手の身動きの封じる効果はどうやら通じるらしく、衛兵たちは人形のようにその場に立っている。

 

 今が逃げるチャンス――あっ!?

 

 逃げる寸前である男性が視界に入る。それは今まで見た来た異世界人とは一線を画したオーラを放っており、最強ではないが強者であることは確かだった。

 

 この世界にも偉大なる者程の存在が居るとは……しかしあれは違う。

 

 力は十分に強いが、それでもあの転移陣を破壊した者のような空前絶後の力ではなかった。しかし歴代勇者に匹敵する力の持ち主なので何か知っているかと思い。

 

「あなたはこの世界でもっとも強い人間を知っていますか?」

 

 私は去ろうとする男性の先に回りそう尋ねると、困った表情で笑っていた。

 

 

★★★

 

 

「■■■■■■■■■?」

「えっ?なに?」

 

 帰ろうとしている最中に魔法使いの女性に声を掛けられた。

 言葉は通じないので何を言っているか分からない。何となく背後を振り返れば、関わりたくないといった態度で奈波は素知らぬフリをしている。

 

「あー……何でしょうか?」

「■■■■■■■■■?」

 

 ダメだ、何を言っているのかサッパリ分からん。そもそも銀色の瞳の魔法使いとか一体何者なんだよ。俺はそんな繋がりなんてないぞ。

  

 そんなことを考えているときなこの気配が近付いてくる。俺は振り返ってきなこが曲がり角から姿を現すと――

 

「■■■■■――ッ!」

「ぇっ?ちょ――」

 

 熱い光球が真横を通りすぎ、きなこ目掛けて高速で向かって行く。しかしきなこは何事もないようにスルリと身体を捻って躱す。

 そして爆音と共にコンクリートが大きく爆ぜる。それは大型トラックが地面に激突したかのようなクレーターを作り――

 

「■■■■■――ッ!」

「させるか……ッ!オラッ!」

 

――第二射は俺が思いっきり蹴り上げて上空に逸らす。

 

 すかさずきなこが虎のような巨体になり魔法使いに襲い掛かろうとすると。

 

「■■■■■――ッ!」

 

 半透明な壁が出現して俺ときなこから身を守ろうとするが、そのままきなこが体当たりして壁をぶち壊した。

 

「一体何なのさ、君?!」

「――ッ!」

 

 そのまま勢いを落とさずにきなこはタックルを決めて魔法使いを吹き飛ばす。

 しかし戦闘慣れしているのかその場で瞬時に立て直して光球が数十も飛び、そして上空から雨(あられ)のように光の矢が降り注ぐ。

 

「何考えてんだ、てめぇ!」

 

 ここは街のど真ん中。人通りの多い場所で広範囲に爆撃するように魔法を放つ大馬鹿者に怒鳴るが一切周囲の人間を気にせずに魔法使う手を止めない。

 

 チッ……こんな人混みで魔法なんてもん晒しやがって……ッ!

 

「万象喰い」

「……■■■?■■■■――ッ!」

 

 

 俺がそう唱えると向かってくる魔法の全ては消滅した。あらゆる対象を膨大な魔力で磨り潰すという力任せの脳筋魔法であるがこんな場面だと大活躍だ。

 

「少し死ね」

「ァ…………」

 

 あとはトドメに殺気を向けるだけで全ては終わった。

 世界を滅ぼすエンド様の眷属である俺の殺意はただ向けるだけで相手は死ぬ。世界の最上位存在でなければ耐えられない殺意にただの人間が耐えられるはずもなく、加減したとはいえ気絶した魔法使いを見て。

 

「やっべー……周りの人間にはバレてないみたいだけど……きなこ。お前はちょっと家に戻ってろ」

「分かったよ」

 

 この場で俺は魔法を使ったが誰にも見られてない。というか見れない。

 詠唱した瞬間に魔法が掻き消えて、俺が睨んだだけで対象は気を失った。この状況で俺がやったと判断するのは状況的に不可能だろう。ただ光球を蹴り飛ばしたのは見られた気がするのが不安であるが。

 

「俺も逃げるか」

 

 巨大な虎と謎の魔法使いの戦いに巻き込まれたフリをして俺はその場を後にする。残るのは魔法使いの死体と地面が抉れた破壊跡のみ。

 周囲に集まる人間に紛れて俺はその場から脱出して、背後を見ると野次馬が大量に集まっていた。

 

「爆発があった場所に野次馬が出来るって平和ボケってレベルじゃねぇぞ……」

 

 テロかも知れない現場に駆け寄る人間の危機感のなさにドン引きする。その場から逃げ出す人間も居るが、逆に集まる人間の数の方が圧倒的に多い。

 

「もう少し危機感持った方が良いんじゃないかな?」

 

 俺はそんな野次馬たちを尻目に家に逃げかえるのだった。

 

 

★★★

 

――ドクンッ!

 

 心臓が強く鼓動を刻み始めて、意識が覚醒した。

 私はすぐさま起き上がり周囲を見回せば異世界の人間達が板をこちらに向けていた。そして動揺の声が響く中で――

 

「あの方が勇者様でしたか……ふふふ、見つけました」

 

――私は静かに笑った。

 

 聖女のフードを着ている限りはあらゆる呪いを跳ね返す筈が……まさか殺気だけで私の気を失わせるとは、少し加減されてもあれ程とは……。

 

 僅かに心臓が止まったがすぐに動き出す程度の殺気。本来なら倒れた私を誰かが介抱すると思って向けたものが、誰も助けには来なかったので自力で目覚める事になったようだった。

 私はせっかく加護のある聖女のフードが力を少し失ったことを残念に思いながらも。

 

「まさか魔族がこの世界に居るとは……しかもあれ程の化け物が」

 

 曲がり角から出てきた黒猫の力は明らかに常軌を逸した力を保持していた。初手から全力で周囲の被害を顧みずに放った魔法であるがその全ては勇者様に防がれた。

 

 あの黒猫とはどんな関係か分かりませんが……もしかしてこの世界では魔族が人間と共存しているのでしょうか?……それはいけませんね。穢れた化け物は全て滅ぼすべきなのに。

 

 聖女としてあらゆる魔を滅してきた私からすれば、たとえ世界が違っても滅ぼすべき対象は変わらない。魔物は全て殺すのが私の務めなのだから。

 周囲に集まる異世界人はもはや視界に入らなかった。近付く者は全て私の魔法で黙らせて、勇者様の気配を探る為に地面を這う。

 

 僅かな痕跡……そして魔の気配……勇者様はこっちですね。

 

 そのまま犬のように地面に頭を擦り付けながら、私は勇者様を追跡する。魔物の気配もするがそれは全て後回しだ――なぜなら、

 

「――勇者様が全てを終わらしてくれる」

 

 この世すら滅ぼす力を持つ存在を前にして私は救済の時は来たのだと恍惚とした気分で確実に勇者様を追跡するのだった。

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