夢の中で出会ったドラゴンは病んでいた   作:ドラゴンの夢

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第18話

「街中で魔法ぶっ放すとか狂ってるだろ」

「なんなんでしょうね?ユウト様が止めなければ辺り一帯は大惨事でしたし」

 

 膝に乗ったきなこの声を聞きながら今日の一件がニュースになってないかパソコンで検索する。すると不思議な事にSNSで全く話題にすらなっていなかったので俺は首を傾げる。

 

「ん?なんで全くニュースにも話題にもならないんだ?」

 

 街中で辺り一帯を吹っ飛ばす魔法が未遂に終わったとはいえ、降り注ぐ光の矢に数十もの光弾を目撃した人達は大勢居たはずである。動画も撮られていた可能性も高いく確実にトレンド入りをしていると思ったが、不自然な程にSNSを検索しても今日の事件は出てこない。

 

 情報統制……?現実に怪異が存在している以上は国が無闇に話題が広がらないように制限しているのか?

 

 誰もがスマホを持つ時代にどうやって怪異の存在を一般人に隠し続けることが出来るのか疑問であった。きなこや手魑魅の例を見るに、怪異自体は日常のすぐ裏側に存在する身近なモノである。

 霊視の力がなくても見えるようになるのはきなこで実証済みだ。十三階段に変化したように一般人にも可視化出来る力を持っていた。それなのに――

 

「何で怪異の存在が社会では半信半疑のレベルなんだ?」

 

――一般人のほとんどは怪異など信じていない。これ程までに身近で、その気になれば手持ちのスマホで証拠を撮影できるのに。

 

「人間の心の作用だね」

「どういうことだ?」

 

 そんな疑問を怪異側であるきなこは知っているようだった。

 

「簡単な話。人は見たくないモノは見ない。知りたくないモノは知らないままでいられるように出来ているのさ。つまり怪異側からの接触がない限りは、怪異そのものはよほど特殊な感性でもなければ認識できない。魔法も同じさ」

「個人の認識にそこまで干渉出来るものなのか?動画や写真を後から見たら騒ぎそうなものだが」

「大昔の人は怪異も当たり前のように認識していたんだよ。ただ怪異と接触しても良いことなんてほとんどないから、認識出来ない人間の方が当然、生存率は高くなって。その結果、認識出来る人間は自然淘汰されて、認識できない人間がほとんどになった。多分、動画や写真を後から見ても、本能が認識を拒むから無意識に削除して怪異の証拠なんて残らないんじゃないかな?」

 

 きなこは俺の肩に乗りパソコンを見つめて。

 

「でもまぁ……あのイカれた女みたいに街中で暴れまわったら、生存本能が一時的に怪異や魔法を認識出来るようにはするだろうけどね。その後は自然と人間達は超常的な出来事は忘れて行くのさ」

「認識の問題は理解したが、クレーターのような物的証拠はどうなるんだ?」

 

 あの魔法使いの初撃で出来た大きなクレーター。怪異を認識して忘れる機能が人間に備わっていたとしても、傷跡まで無視できるとは思えない。

 

「そこは人間が適当な現実的な理由付けをして誤魔化すんじゃないかな?僕自身もあそこまで派手な出来事を体験した事ないから分からないや」

 

 あんな出来事がポンポンと日常で発生していたら印象に残るはずだから当然かと思っていたら、ふとした疑問が頭を過ぎる。

 

「そういえば大昔って言ってたが、きなこはそんな長生きをしているのか?」

「僕は生まれて十数年程度だよ。山の神様の暇つぶしに付き合わされて色々と学んだことがあるだけさ」

 

 正確な年数は僕も数えてないから分からないけどね、と笑うきなこは、どうやら俺とそこまで歳の差はないようである。これがもし数百年生きる化け猫であったら、例え眷属でも態度を改めなければならないので良かった。

 

 猫として十数年か生きてるとして……実質、化け猫としての活動期間はそこまで長くないのか……家族とか居るのかな?

 

「ところで、きなこは猫として生きていた時に番は居たのか?」

「えっ?!あっ……ぼ、僕は元々霊力が高かったから怖がって雄は寄り付かなかったよ!」

「そうか……」

 

 不老不死の俺がこれからの人生で多くの別れを人よりも多く経験する事を憂いて、きなこに家族を失うとはどういうことなのか知りたかったが、猫は元より一人で生きて行く生物みたいなので参考にならなかった。

 

「それよりもユウト様はどんな雌が好みなのかな?」

「藪から棒になんだ、きなこ?」

「いや、番の話をされたらユウト様はどんな人を番にしたいのかなって思ってね」

 

 きなこが早口でそう捲し立てるので、俺は理想の女性像を思い浮かべて。

 

「美人でマトモな感性を持ってる女の人かなぁ……」

 

 何ともありきたりでつまらない回答をすると――

 

「美人ってどうな感じかな?」「髪の色は?」「瞳の色は?」「鼻筋はどんな感じ?」「唇は厚い方、薄い方?」「体格は?」「胸の大きさは?」「陰毛は?」「マトモな感性って具体的には?」「例えば――」

「待て待て待て!そんないきなり言われても俺は困る」

 

――理想の伴侶像を知りたがるきなこに俺は歯止めを掛ける。

 

「そんな一気に言われたって、俺自身も理想を具体的に説明は簡単に出来ない」

「それじゃあ、俳優でもアイドルでも良いから理想に近い雌の写真をパソコンで見せてよ」

「うーん。それならこれかなぁ……」

 

 俺はスレンダーな体型に、ショートカットの中性的な美人をフォルダから画面に映す。

 

 強気な瞳はカメラを射抜くような鋭い眼光、薄桃色の小さな唇を一文字に結び、そして細身ながらも締まりのある筋肉をしている胸が控えめな水着の女性。それを食い入るようにきなこは見つめて。

 

「この雌の肉体の何処に欲情するのかな?」

「強気、ショートな髪型、細身ながらも筋肉がしっかりと付いて肉体的にも精神的にも芯の強そうな雰囲気。引っ張ってくれそうなタイプが俺の好みだ」

 

 猫相手に何を真面目に理想の女性像を語っているんだと気分になりながらも、俺の性癖を次々と暴露していく。きなこはそれを笑わずに真剣な表情で頷きながら、いくつもの俺の好みの女性の写真を眺め。

 

「そうか……ユウト様の好みの雌はそんな人間なんだね。うん、よく分かった」

 

 ひとしきり俺の好みと性癖を把握した後にそう言って俺の膝に乗り――

 

「……ッ!来てるね、あのイカれた女」

「なんで俺たちを追跡してるんだ……あの魔法使い」

 

――互いにあの魔法使いの女の気配を察知した。

 

 距離は三百メートル程。ゆっくりとだが確実にこちらに近付いてくる来る気配にきなこは顔を上げて。

 

「僕が始末しようか?」

「殺すのはマズいだろ……いや、でも先にきなこの事を殺そうとしたからなぁ……」

 

 きなこの実力的にも魔法使いの女に殺される可能性は皆無であるので、積極的に人を殺すのは何処か躊躇いを覚えて。

 

「ちょっと俺が話してくるわ」

 

 ベランダへの窓を開けて欄干に立つ。夕暮れの街は金色に輝きとても綺麗な反面、闇が濃くなり百鬼夜行の気配がした。

 

「言葉も通じない狂女にどうするのですか、ユウト様?」

「とりあえず色々と試して見るよ」

 

 ベランダで俺を見上げるきなこにそう言うが、頭の中は完全にノープランだった。そもそも言葉も通じないので、ボディランゲージすら限界があると思っていると――

 

「あっ……」

「あれま……」

 

――クラクションの鳴る音と共に何かがぶつかる音、そしてその何かがガラスにぶつかり砕け散る音が街中に響いた。

 

「…………………………………」

 

 俺ときなこは互いに顔を見合わせて事故現場に急いで急行すると。

 

「おぅ……魔法使いも物理には勝てないのかぁ……」

「グチャグチャだね。何で生きてるのか不思議な位」

 

 手足があらぬ方向に曲がり、内臓をぶちまけた魔法使いがコンビニの窓ガラスをぶち破り陳列棚に突き刺さっていた。誰がどうても即死は免れないような惨状でも、魔法使いの気配からは死の気配はせずに少なくとも死には直結しないので無事であるようだ。

 

 俺はきなこを頭に乗せて野次馬の群れに紛れて観察していると、救急車がやってきてそのままグチャグチャの魔法使いの女は運ばれていった。なぜか救急車はサイレンを鳴らさずに怪我人を運搬していく。

 

 俺は遠ざかる救急車を眺めて。

 

「帰ろうか、きなこ」

「うん。ユウト様」

 

 お喋り好きなおばさんたちの話し声が聞こえてきた。どうやら四つん這いで道路を横断していたせいで、運転手は気付かずに轢いてしまったらしい。奇行のせいで加害者になってしまった運転手が可哀想と同情するような声が届いてくる。

 なんだか知らないが、あの魔法使いも当分は動けないからほっといて良いだろう。

 

 偶然にも事態を処理してくれたトラックの運転手に感謝しつつ家に帰るのだった。

 

 

 

★★★

 

 

「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「ちょっ……えっ?どうしたんですか、エンド様?」

 

 あれからダラダラと自室で過ごして夢の世界に来た瞬間に目にしたのは、エンド様がお腹を抑えながら絶叫する姿だった。

 たった一日もしない内に衰弱しきったエンド様は、俺を見て弱弱しく笑い。

 

「ふは、ははは……。ユウト……お前の仔は本当に凄まじいな。今にも我が壊れてしまいそうだ」

「俺の子が居るんですね……そのお腹に」

「あぁ……見れば分かるだろうに。我とユウトの仔は我々を凌ぐ力を持っておる」

 

 こちらに手を伸ばして倒れそうになるエンド様を支えて、俺は僅かに膨らんだお腹に手を触れる。

 

 これは…………こんなまだ胎児とも言えない状態でこんな力を持つなんて……ッ!

 

 触れただけで手が灼け尽されそうな滅びの力を伴い、その力が脈動する度にエンド様は苦しそうに呻き声を上げて、そして慈しみの表情でお腹を撫でる。

 

「いい仔……良い仔だ。お主の気持ちが分かるぞ……ふはは、力が欲しいのか――ンッ」

 

 エンド様の力を吸い取ってなお、お腹の子は力を求めていた。もはや力の全てを限界まで搾り取られたエンド様はそれでも子に栄養を注ごうとして俺にキスをする。

 そして残されたエンド様の力を俺の身体に注いで、それが俺の中で何十倍にも増幅する。それを感じ取ったエンド様は俺の手を自身のお腹に添えさせて。

 

「さぁ……愛しい我が子に栄養を注いでやってくれ。この食いしん坊は今にも我を食らい尽くして自滅しそうで心配なのだ」

「分かった……グッ……ッ!ァッ……ッ!」

 

 エンド様からキスをさせられ流れ込む母性の強さに俺は頷くことしか出来ず、言われるがまま力を注ぐと俺達の子は恐ろしい速度で力を吸い上げる。

 宇宙すらも滅ぼすエンド様の力を奪い尽くすだけでは足りず、底なしの食欲が俺の手を通して貪り始める。だが、余力が出来たエンド様は俺に唇を合わせて、人工呼吸をするように俺を通して増幅した力を子に注ぎながら蕩けた表情でお腹に触る俺の手に重ねる。

 

「どうだ?凄まじいだろう?――んっ!……ぷはっ!我が子は母親より父親の力の方がお好みのようだな。我が嫉妬する程に今までになく喜んでいる!」

「大丈夫なんですか?!このままじゃ共倒れになっちゃいますよ!」

 

 エンド様と俺で力を注いでやっと安定してくるお腹の子に不安を覚えると、エンド様は何も心配要らないという表情で、

 

「ユウトが居れば……我も我が仔も大丈夫だ。我が注いだ力をユウトが何十倍にして我が仔に与える。おかげで……ほら、落ち着いているだろう?」

 

 徐々に収まるお腹の子の力への欲求を感じながら、余裕が出来たおかげでエンド様はやっと休めるのか目を瞑り。

 

「疲労で眠るのは久しぶりだ……我が回復するまでの間は我が仔に力を注ぐのを絶やすのではないぞ。我に似てすぐに機嫌が悪くなるからな…………あとは任せた」

 

 そう言って俺に寄り掛かるエンド様は眠り始め。俺は言われるがままにお腹の子に力を注いで落ち着かせながらもまた少しだけ膨らんだお腹を見て。

 

「エンド様を超える終焉の仔が産まれそうだな……うん。父親ながら子供にどう接すれば良いのか本当に悩んで来た!」

 

 出来れば性格はエンド様似の傲慢な子ではなく、俺のようなことなかれ主義で怠惰な子であることを願いながら、俺の注ぐ力に喜びを感じる我が子を必死であやすのであった。

 

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