夢の中で出会ったドラゴンは病んでいた   作:ドラゴンの夢

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第20話

「……ん。もっと舌を使わんか……む、いいぞ……」

 

 再び寝て夢の中で目覚めて俺がする仕事はお腹の子に力を注ぐことだった。

 エンド様と唇を合わせて力を貰い、それを体内で何十倍にも高めてお腹の子に注ぐ。ぴったりと互いに身体を寄せてくっ付いた俺達は、ひたすら互いを求めてお腹の子の成長の為に身も心も捧げる。

 

 今では正面から互いに抱き合い、唇が重なる水音だけが虚無の世界に響いていた。

 

 肉体も魂も溶けてまるで一つの生命体になったかのような感覚の中で、俺達は本能のままに力を分け合い、高め合い、そしてお腹の子に注ぎ続ける。今ではあれだけ暴れていたのに母親の胎内で安らぎを得て眠っているようだった。

 

「あぁ……予想外に我が仔の成長が早い……もっと我の中で眠ってもいいのだぞ」

「俺達がこれだけ注いでたらそりゃ大きくなりますよ。それにしても大きすぎませんかね?」

 

 順調に大きくなるお腹はこのままでは正面から愛し合えないので、エンド様の背後に回り俺の膝の上に座らせる。エンド様が頭を斜めに上げて求めるのでそれに応える。

 

 今のエンド様のお腹は臨月よりも更に大きくなっているように感じる。エンド様は俺の視線に気付いたのか、蕩けたように笑いながら。

 

「ふはは、人間の赤子と違って産まれてすぐに自力で歩ける程に成長しているのだ。言葉も我らの記憶を覗いてもう学習はしておる。人間と違ってすぐに環境に適応するのだぞ?」

「産まれてすぐに喋れるのか……というか記憶も覗かれてるんですか?」

「当たり前だ。我の記憶とユウトの記憶の両方を継承しておる。ただ知識だけで経験がないので、色々と直接教えてやらんといかんがな……ふふ、どうやら起きたようだ」

 

 その言葉にお腹を見れば、まるで胎内にエイリアンでもいるかのようにお腹がボコボコと動いている。

 

「くっ……ッ!ンッ……良いぞ!元気よく暴れるが良い……ッ!我の胎はそんな簡単に壊れないからな」

 

 エンド様は被虐の喜びに目覚めてしまったのか、お腹の子の大暴れに苦痛で顔を歪めながらも赤らめて笑っている。本当に愛おしくて愛おしくて堪らない様子だ。

 俺はエンド様の頭を撫でながら、

 

「この調子じゃ今日中に産まれちゃいそうですね」

「非常に名残惜しい気がするが……ここまで育つのが早いとは嬉しい誤算だ」

 

 黒銀の髪を撫でながら俺の子を育ててくれるエンド様を愛しく抱きしめる。

 そのまま大人しく抱きしめられるエンド様と共に再びお腹の子の成長の為に力を注ぐのを続けるのだった。

 

 

 

 それから体感で四時間経った時。

 

「そろそろ産まれるぞ」

「えっ?!産まれるんですか!でもエンド様は全然体調が変わらないようですが……」

 

 何気ない会話のようなノリで出産が始まるというエンド様に慌てふためくと。

 

「ユウトは何を言っておるのだ……我は終焉のエンドだぞ?出産時の痛みなど人間からすれば蚊に刺されるのと変わらん程度の痛痒だ」

 

 呆れた顔で俺に馬乗りになり、大きなお腹に手を添えさせられる。とっくに破水は始まっており、俺のお腹の上は濡れ始めて。

 

「このまま虚無の中で産むのは相応しくない。父親の血肉の上で産まれる方がまだマシであろう。ほら、父親としてしっかりと我が仔の誕生の時を見るのだ」

 

 まさかの分娩台扱いである。

 

 ちょっ……えー……マジで俺のお腹の上で産むのか……。いや虚無の中で産まれるよりはマシだろうけど……うわ、ちょっと大きすぎない……?

 

「ぐっ……流石に腹の中で育て過ぎたか……ッ!それに力も抑えずに産まれようとするから……産道が裂け始め……がぐぁぁぁぁぁ!!」

「ちょっ……力を込めすぎて……ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 恋人繋ぎで手を握っていたが、痛みからエンド様はとんでもない力で俺の手を握り潰す。メキメキと骨が飛び出て血が飛び散る中、産道から血の洪水が始まり徐々に頭が出てきて這い出るように幼子が現れる。

 

 生まれてすぐ歩けるようになるって……本当にこの大きさの肉体でよくエンド様は耐えられたな……。

 

 三歳児程まで成長した俺達の子は、黒銀の長い髪に黒曜石の瞳を携えた可愛い女の子だった。父親と母親の噴き出る血に染まり、不思議そうな顔で俺を見つめ。

 

「おとーさん。大好き」

 

 ほっぺにキスをして首を抱きしめてくる。その光景を見ていたエンド様は、

 

「ほら、我もお母様だぞ。ユウトばかりに抱き着いてないで我にも……ほら」

 

 出産の疲労すらも瞬時に回復するエンド様は娘にそうねだる。

 ちらりと産まれた娘はエンド様を見た後に抱き着く腕を離して、エンド様の乳房に吸い付き母乳を吸い始めた。

 

「おぉ……これだ……この得も知れぬ極上の至福……好きなだけ吸うのだぞ?」

 

 恍惚とした表情で娘を抱くエンド様はしばらく余韻に浸ったあと。

 

「ほら、父親にも言ったように我にも言う事があるだろう?」

「おかーさん。大好き?」

「ふはは!そうだ!そうだぞ!そういえば名前を決めてなかったな。ユウト!何か考えてあるか!」

 

 娘の大好きが疑問形だったのを全く気にせずに喜ぶエンド様は俺に尋ねるので考えていた名前をとりあえず言ってみることにする。

 

「芽吹いた愛の子ですから、芽愛(めあ)でどうでしょうか?」

「メアか……うむ、それでよい!」

 

 即断即決のエンド様はメアを抱きあげながら。

 

「我の仔であるお主の名前はメアだ!これからメアと名乗るがよい!」

「め……あ……?メア……私の名前?」

「そうだ!終焉のエンドである我の末裔だ!これからメアにも終焉の素晴らしさをたっぷりと体験させてやるからな!」

 

 自分の娘に終焉を教えようとするのは情操教育上どうなんだと思いながら、俺は高校二年で父親になった衝撃を受け止めながら。

 

「エンド様。産まれたばっかりなので、少し休ませてあげましょう」

「そうだな!こんなに素晴らしい我が娘と対話をする時間はたくさんある。今日は父親と母親の間で癒しを得るがよい!」

 

 エンド様は横になり、俺も娘を間に挟んでメアの濡れた身体をタオルで拭いてやる。

 

「今日は生まれて初めての眠りを体験しような」

「うん……おとーさんと一緒に寝る」

 

 さり気なくエンド様を無視するメアに持ってきた布団を敷いて親子三人で初めての睡眠を取るのだった。その時に伸ばされた手に掴まれる感触から、

 

 それにしても凄まじいなぁ……エンド様も俺も比じゃない位の力だ。こりゃ癇癪起こしたら大惨事になるぞ……。

 

 小さな手に感じる巨大な終焉の力の中で、俺は無意識にメアの身体を抱いていた。そして――

 

「おとーさんは……メアの大切な大切な宝物。誰にも絶対に渡さないからね」

 

――両親の記憶を覗いた時に母親とは違い、純粋に世界に終焉をもたらす娘を案ずる父親に対してメアは強い執着をその身に宿すのであった。

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