夢の中で出会ったドラゴンは病んでいた   作:ドラゴンの夢

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第9話

「大馬鹿者が!」

「ひぶぅ……ッ!」

 

 夜の夢の中、いつものようにエンド様との逢瀬を楽しむ筈が互いの一日を唇を合わせて伝え合っている最中に衝撃波を伴う咆哮で吹き飛ばされた。

 眷属でなければミンチになっている一撃を食らって僅かにダメージが入るが瞬時に回復して立ち上がるとエンド様は口から火炎を出しながら大変にご立腹である。

 

「我の眷属はユウトだけだ!ゴミのような人間に我の力を与えるな!我は……我の力はユウトだけのものだ!余計なゴミなど増やすでない!今すぐにそのゴミを殺せ!」

「ゴフッ……!!ちょ、ちょっと落ち着いて……」

「眷属を作る意味が分かっていないのか!それは血族を作ること、命の繋がりを持つ事は人間で言う婚姻と同じなのだぞ?!ユウトが我以外と婚姻するなんぞ許せん!」

 

 首元を掴まれてそのまま地面に叩きつけられる。その度に、許せない、許せない、許せない、許せないとうわ言のように呟きながらも俺の身体がひしゃげて血溜まりを作ったところで手を止めて。

 

「ユウト……その眷属にした女を殺せ。我はユウトの魂に余計なモノが混ざることが耐えがたい。その血も肉も魂も全てを焼き尽くしてこの世から消し去ってしまえ」

「そんなこと言われても殺すのは流石に無理だ。終わったら眷属の力を取り除くからそれで勘弁してくれないか?」

 

 押し倒された俺にエンド様の舌が這う。血で濡れた身体を丁寧に拭うようにぴちゃぴちゃと水音を立てて嘗め尽くしながら、うっとりとした瞳で指を絡ませて。

 

「そうか無理か……我の眷属なのに我の命に逆らうとはな。ふはははは……まぁよい、記憶を覗いたが別に他意はなさそうだからな。もし力を与えた理由に――」

 

 爪が肉に食い込み痛みが走る。そして首筋を甘噛みして耳元で、

 

「雌として見ていたことが一因であったのならば、こんな程度じゃ済まさぬぞ。ユウトはもう我のモノなのだから。もし余計な汚れが付いたら我はあらゆる手を尽くしてその汚れを綺麗に落としてやるからな」

 

 魂すらも我が物にするという強い独占欲を秘めた声で囁く。そして甘い蜜のような血で塗れた口内を見せて微笑む。

 

「ユウトには躾けが必要だな。ほら、我の血を飲むが良い」

 

 舌を噛み切り血だらけの唇を重ねて俺に毒を注ぐ。エンド様の底のない欲求と怒りが俺の魂に流れ込み、強烈にエンド様の気持ちを魂に焼き付けられる。

 

  嫉妬、独占欲、孤独、妄執、そして不安と恐怖――エンド様の思いの全てを俺の魂に無理やり理解と共感させられ、また一つエンド様の眷属として泥沼に踏み込む。

 

 そんなに怖いのか……俺が心移りすることが……。

 

 エンド様の心の奥深くにある孤独が、ただのゴミ同然としか思っていない天野天利を恐怖の対象と見ていた。どれだけ強力な力を持っていようと、俺を完全に支配できない事から俺を失うことを恐れ、俺が他の誰かに寄り添う事を心から恐怖していた。

 気が付けばエンド様の身体は僅かに震えて、俺に見捨てられる可能性に怯えていた。何度も唇を重ねて、記憶を覗き見ては心が移り変わらない事にその度に安堵してはより一層俺に対する感情が強くなる。

 俺は唇を離して、記憶と感情の共有を終わらせると、どこか安堵した表情を見せるエンド様は俺の指を握り、

 

「我の心を理解したようだな。それで何か言うことはあるか?聞いてやろう」

 

 どこまでも傲慢で寂しがり屋のエンド様は俺の心を覗いて心底安心している。俺はエンド様の手を握りながら目を合わせて。

 

「最後にはエンド様の元に帰るんだから安心して欲しい」

 

 残りの人生をどんなに寄り道しようと、最後には終焉のエンドという終わりに辿り着く。だからそんなに恐れなくて良いと言葉にすると、エンド様は僅かにむくれながら。

 

「たわけが。眷属たるモノは我の絶対的な忠誠を示すものだ」

 

 何処までも傲慢なエンド様はそのまま背を向けて歩いて行く。その背が俺が後を付けることを求めることを知っているので、こちらもゆっくりと歩みだして今日も夢の中でエンド様と過ごす。

 

 

 

「それで魔法陣の件なんだけど、あれは何なんですか?」

 

 俺の膝枕の上でスニッチで遊ぶエンド様はこちらに視線を一瞬向けて、そのまま緑の蛮族が暴れるゲームを続けながら、

 

「あれは転移陣だ。おそらくどこかの愚か者がユウトを呼び出そうとしたのだろう。我の次に強力なユウトなら欲しがる輩は多いだろうからな」

「欲しがるって……エンド様の次に強い俺を御せると思っているんですかね?世界を崩壊させる化け物を呼び出すようなもんじゃないですか?」

 

 確かに戦力としては最高ではあるが、そんな扱い切れない力をどうするつもりなのだろうか?冷戦時代の核兵器の開発競争より酷い結末を迎えそうだ。

 

「いつの世も不相応な力を求める者は多い。終焉のエンドと呼ばれた我に力を借りようとする馬鹿者たちが大勢いたからな」

「そいつらはどうなりました?」

「全員綺麗サッパリと望む力で滅ぼしてやった。我は救世主ではなく破壊者であることを理解してないものは数千年の間に大勢出てきて笑えたわ」

 

 力そのものに対する憧れでエンド様を信奉する者たちなのだろうが、終焉をもたらすモノなんて破滅願望持ち以外には信奉するのは自殺行為に近い。

 俺はそんな終焉の化身を膝枕して頭を撫でてやりながら。

 

「じゃあ壊して正解だったんですね」

「我の眷属を利用とするモノなど全て滅べばいい。我の伝播する破滅の力で、また転移陣が現れたら術者ごと滅ぼしてやればよい」

「それは……考えておきます」

 

 異界渡りの術もあるので、異世界に呼び出されても自力で帰って来れるだろうが、そんな七面倒な事態は御免なので、現れる度に破壊することを心掛けることにした。どうせ術を使わなければ術者にフィードバックしないので安心だろう。

 

「さてと、スニッチもほどほどにして、ボードゲームでもするか」

 

 赤い点と青い点の刻まれた駒をボードに並べながらエンド様は対面に座る。これはガイスターと言われる、短時間でプレイ出来て心理戦も楽しめるドイツのゲーム。

 

「これ飽きたら何します?」

「チェスか潜水艦ゲームだな。ほら駒を動かせユウト」

 

 エンド様はゲームに滅法強い。というか単純に生きてきた年数が違い過ぎるので、殺し合いでは脳筋戦法の攻撃特化であるが、知略も実は相当優れている。ボードゲームの大会で何度も優勝している俺ですら勝率一割以下なのだから、地頭は天才的なのだ。

 俺は心理戦を仕掛けながら赤いお化けを動かして、

 

「何を賭けますか?」

「どちらが攻めるか賭けよう」

 

 ゲームの後の時間の同衾タイムの主導権を賭けて俺は本気でガイスターに望むのであった。

 

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