アムに案内でマドノの両親に会ったグートミューティヒであったが、アムの予想に反して父親は物静かであった。
「貴方がマドノの父親ですね?」
「貴方が……」
グートミューティヒは今までの事を全て話した。
自分が実は捨て子であった事。
自分が赤ん坊の時に星空の勇者の証をマドノに奪われた事。
この事をカプ・レヒレに指摘されるまで気付けなかった事。
その全てを。
その上でマドノの父親が口にしたのは、これまたアムにとっては予想外なものだった。
「やはりそうでしたか……」
「あれ?この前の恨み節は?」
「あれから色々と考えたのです。そもそも、もしこの様な何時死ぬか解らない危険極まりない事が本当に嫌なら、貴方方に渡された星空の勇者の証を突き返す……筈ではないのかと」
その言葉に1番ドキッとしたのはマシカルだった。
「それは、マドノには勇者になってでもやりたい事があったから……という事でしょうか?」
実際、マシカルがマドノ率いる勇者一行の仲間になった最大の理由がそれだった。
勇者の仲間が得られる手柄や名声に目が眩んで、マドノの人となりや本性には目もくれなかった。
だからこそ、マドノが偽物だと疑った事は1度も無かったのである。
だが、マドノの父親は首を横に振った。
「いいえ」
「……いいえぇー!?」
マシカルが目を見開きながら驚く中、グートミューティヒは残酷な推測を口にした。
「それはつまり、難題を押し付けられる事になってでも、マドノは貴方達から逃げたい訳があった。そう言う事ですね?」
「……逃げる?」
そんなグートミューティヒを馬鹿を見る様な目で見ていたマシカルとアムだったが、図星を吐かれたマドノの父親が重々しく口を開いた。
「そう……なのかもしれません」
「あれ?」
否定の言葉を待っていたマシカルにとっては予想外の展開だった。
だが、
「私は、息子達に学者として大成して欲しいと言う思いで厳しく育ててきた心算でした。ですが、今となっては私の独り善がりでしかなかった。息子達の本音や本心に全く向き合わずに見当違いな教育を施した結果、マドノは、あんな事に……」
その言葉に1番ドキッとしたのはアムだった。
今でこそ魔王が言っている事は独裁的な選民主義だと判っているが、それはグートミューティヒに出遭えたからであって自力で辿り着いた結論ではない。
もし、グートミューティヒに出遭えなかったらと思うと、アムの背筋が寒くなる。
それに引き換え、グートミューティヒはマドノの父親の自責の念を無視するかの様に厳しい言葉を次々と口にした。
「それってつまり、マドノが貴方達から逃げた罪を貴方方に擦り付けているだけですよね」
「……なに?」
グートミューティヒの予想外の言葉に一同が驚く。
「マドノの……息子の……罪……」
「貴方方に対して厳しい事を言う様で悪いのですが、貴方方がマドノから逃げたのではない!マドノが貴方方から逃げたのです」
「ですから、その理由は―――」
「では何故、マドノはその事を貴方にぶつけなかった?」
「それは、私が厳しく……」
そこでマドノの父親はハッとさせられた。
確かに、彼はマドノを厳しく育てた。無論、そう言う自負もあった。
だからこそ、彼はマドノの本音や本心を無視したと自覚させられたと思い込んでしまった。
だが違うのだ!
「マドノは、貴方方の思いを肯定した訳でもなければ否定した訳でもない!ただ逃げただけだ!つまり、マドノは貴方の本音や本心に全く向き合わなかったんですよ!」
グートミューティヒのマドノへの厳しい言葉に、マドノの父親は無念の念に支配されてしまった。
「そうか……私は……私が良かれと思って行った事が……マドノを私に反発出来ぬ程の卑屈に変えてしまったと言う事か……」
自責に囚われて泣き崩れるマドノの父親を見て、アムは流石にやり過ぎではないかと思った。
「……本当にこれで良かったのか?」
「辛いかもしれないけど、だからと言って現実から逃げる訳にもいかないからね。それに」
「それに?」
「この方がどの様にマドノに接したかが問題じゃない。マドノがどの様にこの方に接したかが問題なんだ」
そして、グートミューティヒは残念そうにマドノへの恨み節を口にした。
「マドノは、もっとこの方とちゃんと話し合うべきだったな」
マドノの両親が暮らす屋敷を出たグートミューティヒは、改めてマドノから星空の勇者の証を奪還する事を誓った。
「……奪い返そう!」
「それは、今度はお前が星空の勇者になるって事か?と言うか、星空に選ばれたのはお前だったな?」
「いや、そう言う事じゃない」
マシカルにとっては予想外の返答だった。
「え!?星空の勇者に戻る為じゃなかったの!?」
「誰が何と言おうと、僕はもう勇者には憧れない。だって、勇者に成ったら魔王軍に仕えるモンスター達と戦う事を強要されるじゃん。そうなると、魔王軍とは関係無いポケモンまで斃さなきゃいけなくなる。だから、僕は嫌だ」
それを聴いたアムがグートミューティヒを茶化す。
「その時点で、お前は既に勇者だよ偽女」
「え?」
「だってさ、お前は悪癖と化した常識を敵に回してるって事じゃん。ポケモンとやらを守る為に。と言う事は、悪癖と化した悪習に立ち向かえるだけの勇気を既に持ってる事になるじゃん」
「だから僕は勇者だと?」
アムは自信満々に言い放った。
「そう!様々な奴が押し付けた悪習悪癖を否定し壊す。それって生半端な勇気には出来ない事じゃあありませんか!?」
「間違った常識と戦う勇者かぁ……」
グートミューティヒが考え込んだのち、こう告げた。
「なら、僕は勇者になる。ポケモンと人間が共存出来る世界を作る為に!」
ただ、マシカルは1つだけ疑問があった。
「アムに言われて漸く勇者を自覚した様だけど、じゃあ、なんでマドノから星空の勇者の称号を奪おうとした訳?」
グートミューティヒは真顔で答えた。
「マドノに支払わせる為さ。今まで自分の親と全く向き合わなかったツケをね」
それを聴いてドン引きするマシカル。
「ツケかあぁー……あいつ、そう言うの溜まってそうだからなぁー」
「で、その始まりがあのさっき会った両親だと?」
「そう。あいつは……マドノは自分の親から逃げた。あの父親は自分がマドノから逃げたと勘違いしていた様だけど」
その結果をよく知るマシカルはドキッとする。
「……耳が痛いわ。マドノさえいなければ死なずに済んだモンスターも沢山いるのよね?」
今度はアムがちょっと引く。
「痛いとこ突いてくれるわねぇー。ま、マドノに恨みが無い訳じゃないけど、私にとってもここから先は自分のツケとの戦いよ。魔王の選民詐欺を真っ向から否定しなかった頃の私との」
グートミューティヒは決意を新たにする。
「とにかく!これ以上逃げてる場合じゃない!僕達も、マドノ達もな!」
その言葉にアムもマシカルも力強く頷いた。
ただ……
「で……このルカリオ、なんで付いて来てるの?」
「えー!?こいつは私の
「友!?」
それは、グートミューティヒらしからぬ事であった。
グートミューティヒは元々、手持ちのポケモンを育てながら魔王軍と戦う心算でこの冒険を始めた。故に、現地で新たなポケモンを補充すると言う考えには至らなかったのだ。
一応、道中でムウマをゲットしているとは言えである。
もっとカラのモンスターボールを用意するべきだったと後悔するグートミューティヒに対して、マシカルは真っ向から否定した。
「違うわよ。こいつは私の
と言う訳で、ルルと言うルカリオもグートミューティヒの仲間になったのであった……
ルル
分類:ルカリオ
身長:120㎝
体重:54㎏
カプ・レヒレ配下のルカリオ。
元々は星空の勇者の本分をなかなか実行しないグートミューティヒを白魔界に連行する為に動員されたが、『高等魔法の詠唱時間が長い』と言う欠点を克服したいと願うマシカルと一騎打ちをする羽目となった。
だが、気付はマシカルと意気投合してしまい、その縁でグートミューティヒの冒険に同行する事になった。