NEXTジェネレーションズ Day After Tomorrow ~仮面ライダーダークドライブ~ 作:大島海峡
「え……チェイス? 本当の本当に?」
思わず前のめりになった英志は、まるで生き別れた家族との再会のように、張り詰めた声で何度も確かめた。
いや、本当にそれは、生き別れた家族なのだろう。
泊家、そして詩島家にとっては、是が非でも取り戻したい兄のような存在。たとえこれが初対面だったとしても、その両家の感情を、自分は負っている。
返ってきたのは沈黙と、冷たい眼差し。形の良い眉が、わずかに怪訝に歪む。
「あー、ごめん! 名乗り忘れてた。僕は泊英志。泊進ノ介と霧子の息子で、詩島剛の甥っ子……もちろん、ロイミュードのコピーじゃなくて、えっと、分かるかな?」
それぐらいのことはわかるだろうが、あまりに反応がないので、不安になってつい念押しするような調子になってしまう。
やがて返ってきたのは、
「そうか」
という、ただ一言。
それ以上でも以下でもない。
聞きしに勝る無愛想、無口ぶりに、英志はそっと嘆息した。
「ハート」
それに気づいてか気づかずか、チェイスは首を機械的に……まぁ突き詰めれば機械なのだが……旧友へと振り向けた。
「状況を把握している奴と、連絡をとることができた」
というシンプルな調子で言いつつ、英志を指差して言った。
「この人間とのコンタクトを、相手は望んでいる」
と。
「誰だ、そいつは?」
そうハートが問えば、
「……俺の友、らしい」
一瞬の気になる間を置いて答え、彼を「ほう」と感嘆させた。
「お前に、マッハたち以外の友がいたとはな」
「ただ相手も、今は動くことを控えているらしい。明日、その泊英志に面通しをしたいとのことだ」
「まぁ、お前に任せておけば問題ないだろう。俺たちは俺たちで動いてみるとしよう。泊進ノ介の息子、お前もひとまずは家に帰り、目立たぬようにしておくことだ」
「まぁ今、下手に相手を刺激しても状況が良くなることはありませんしね」
と、ブレンがメディックと揉み合いながらも、ようやく頭脳役らしい意見を述べ、英志を納得させた。
無言で踵を返してバイクに戻っていくチェイスに、そのメディックは軽く眉をひそめていた。
「どうかしたか、メディック?」
そう主君に問われたメディックは、悩ましげに頬に掌を寄せて、
「いえ……ただ」
と言葉を濁しつつ言った。
「あのチェイス……なにか違和感があるというか……」
「そうか? 俺には、いつも通りに見えるが」
ハートはきょとんと目を丸くさせて返した。
「たしかにコアのバイタルは間違いなくチェイスのもの。何かしらの処置を施された形跡もありませんわ。でも、わたくしに対して、妙ぉーによそよそしいのが気になりまして」
「いや、ハートや私ならともかく、貴女がチェイスに親しまれる要素なんて元々皆無じゃないですか」
と、辛辣な意見を差し挟んだブレンにムッとした表情を浮かべたメディックは、ブレンのドライバーを完全に奪い取るや、川面に放り込んだ。
「あ、あぁー!? 何するんですかァ~!?」
情けなくも甲高い悲鳴が、時間軸を歪められた世界に響く。
結局その違和感の追及が為されないままに、その日はお開きになったのだった。
~~~
英志は、言われた通りに帰宅した。
幸いにして、住所は同じだったが、そこにあったのは住み慣れた我が家ではなく、懐かしき平屋住宅だった。
敷地の面積も心なしか広くとられており、棟が二つ続きになっている。
「お帰り、英志」
穏やかな口調で言って彼を出迎えたのは、父でも母でもなかった。
「――それっぽいこと父さんが口走ってたから、なんとなく予想はついてたけど」
と小さく口の中で呟き、彼はその老人を玄関先で見つめた。
遺影よりも老け込んで見える。
当然だ。ここはきっと、彼が生き永らえた世界。何も起こらなかったタイムライン。
だから少壮の時分に本来は命を落としていた泊英介は……老人として、祖父として、自分の前に立っている。
そしてその向こう側、キッチンらしいところから、霧子が顔を覗かせた。
「お帰り、どこほっつき歩いてたの? ……あ、お義父さんも、御夕飯、こっちで食べてってください」
「良いのかい? 家族団らんにお邪魔しちゃって」
「お義母さま、慰安旅行でしょう? 御独りでは寂しいじゃないですか」
「じゃあ、お言葉に甘えようかな」
そして完全に陽が沈んだ後に、仕事を終えてきたらしい進ノ介が帰ってきた。
長いテーブルのクロスの上に、シチューやサラダが並び、霧子が器用に四人分取り分ける。そして英志は母に促され、見たこともない炊飯器から炊き立てのご飯を人数分よそう。
「あ、そうだ! 聞いてくれよ親父、こいつなんか変なクルマ買っててさァ」
「あれは違うってっ、あれは……そう、友達から車庫入れ頼まれて!」
「おいっ、ヒトの自動車を運転したのか?」
「まぁ良いじゃないか、ちょっとぐらい見逃してくれてもいいよなぁ、英志?」
「おいおい、元刑事のセリフじゃないだろ、それ?」
「まったく、お義父さんは英志に甘すぎます」
見慣れない食卓、馴れない顔がそこに混じる。
にも関わらず、不思議と会話が弾む。心が軽く、温かくなる。
と同時に、今日の言葉が脳裏に、如何ともしがたく浮かぶ。
――みんな、この現実を受け入れている。ワガママ言ってるのはアンタだけさ
――みんな、喪われたものを取り戻してる。悲劇さえ起こらなければありえた暮らし。人として慎まやかな幸福
――元の暮らしって言うなら、そもそもそれこそが、本来アンタたちが送るべき営みだったはずじゃないか
「……英志?」
会話が途切れたのか。訝しげに『祖父』が英志の様子を覗き込む。
「あ……なんでもないっ。それよりこのシチュー、おいしいね!」
「そう? 普段と変わらないでしょ?」
「ほんっと、今日のお前は変だよなァ」
などと言って、家族は笑い合う。
そうして、異常ながらも和やか一日が、過ぎようとしていた。