NEXTジェネレーションズ Day After Tomorrow ~仮面ライダーダークドライブ~ 作:大島海峡
「それって……まさか」
それに相応する言葉を選ぶのならば――並行同位体。
多岐にわたるという仮面ライダーの世界。その別の世界線における同一の、だが違う道筋をたどった個体。
かつて自分が出逢った『天空寺アユム』がそうであったように。
「でも、だとすればさっ……そんなあんたの友達って、誰?」
いや、そもそもなぜ完全に他人であるはずの己に、この世界の再生に、手を貸そうとするのか。
「それは、オレも聞いておきたいな」
と、低く沈んで、淀んだ少年の声が真正面から聞こえて来た。
あらためて前方へと向き直れば、そこにはシンジが――否、歪められたダークドライブの姿がある。
「なんで、お前らみたいなイレギュラーが沸いて来てやがる」
その口ぶりから、チェイスやハートたちは彼にとっても招かれざる客らしく、露骨な苛立ちが垣間見えた。
「おそらく、世界の崩壊の兆しだ」
邪険に視られていることを気にした風はなく、ただ問われたことに淡々と、もうひとりのチェイスは答えた。
「お前による無茶な時間改変。そしてそれの影響を受けなかった泊英志の存在。相反する存在によって時間軸は乱れ、破壊された俺たちのコアがこの世界に吸い寄せられ、復活した」
そして、と間を置きつつも、感情の起伏なく続けた。
「その矛盾を抱えたままでいれば、いずれこの世界は崩壊する」
チェイスは嘘を吐けるロイミュードではない。迂闊なことは口走らない。
であればこそ――その言葉は、きっと誰かから聞かされた事実だ。
そのことは、英志のみならず、この暴挙が最善手と信じていたシンジにとっても衝撃であったらしい。毀れかけた仮面の奥、息を呑む音が聞こえた。
だが、言葉ひとつで、その事実をもってしても、翻意させるには至らないらしい。
「だったら、結局アンタらを消せば良いってことじゃないか」
と剣呑なことを宣うとともに、殺気を総身より立ち上らせる。
「ふざけるな……! こんな世界が認められるわけがないっ」
「ふざけてんのはアンタだッ!」
ベルトを巻く英志に、ダークドライブの影は喝を叩きつけた。
「そりゃアンタは幸せに今を過ごせたら良いだろうさ! アンタの時代を救えた気になってればなっ! でもオレは、二〇五五年、今から二十年後の人間だ! そこじゃ情報技術はすでに人の手に取り扱える範疇を逸脱し、自律的に進化したAIは人類の駆逐を選択した!」
「……っ」
「グレートデミア、オーマジオウ、ポセイドン、人工イマジン、ディアブロ、ゼイン、ジャマト、グリオン、全人類仮面ライダー化計画! 世界の危機なんてそこら中に転がってた! そのたびに世界は傷ついていった! そしてその多くは人間の愚かしさが招いたことだ! それでも、人は分不相応に力を求めた! 技術を進めた! イタチごっこを止めなかった! そんな人類に、他ならぬ世界の文明を担う人工知能それ自体が見切りをつけたのさ! 世界の破滅にはもう仮面ライダーもロイミュードも無かった!」
そう捲し立てながら、距離を詰めてくる。
「なぁ、感情で突っ走るんじゃなくて、立ち止まって頭で考えろよッ! 破滅することが確定した未来よりオレの作った何も変わらない今の方が、よっぽど良いに決まってるだろ!?」
それを跳ね除けるように大手を振った英志はシフトブレスに緑のシフトカーをセットする。
と同時に、今日に至るまでのことが思い起こされる。
幸福な親子関係を築く、剛や霧子。
失ったはずの父と暮らせる進ノ介。
自分が認められ、受け入れられる職場。
祖父のいる、古めかしくも暖かな食卓。
復活したチェイスたちロイミュード。
「……っ、変身!」
それを振り払い、英志はシフトブレスを上下させる。
〈Drive! Type Technic!〉
相手が技術を蔑まんとするのなら、あえて技術で勝負する。
そう意気込む英志の身体をロボティックな装甲が覆う。
だが、最後にタイヤが首元に装着されようとした直後、その衝撃によって装甲を吹き飛ばされ、彼の身体は地を転がった。
「なんで……っ!?」
咽こみながら困惑する英志の前に、チェイスが割って入った。
「今のお前には、激しい動揺が見られる。そのような精神状態では、変身など出来はしない」
と、冷ややかかつ客観的に答える彼の手には、刃を抜いたサーベルのような装備が握られている。
形状としては、ダークドライブのブレイドガンナーと酷似している。いや、そもそもそれが先行機なのだが。
〈Break Up〉
ブレイクガンナー。そのマズルを掌で押し潰すようにすると、十字を切ったチェイスの身体を、鉄鋼が覆う。
改造バイクをそのまま人の形にしたかのような、紫色の異形の怪人。輝くオレンジのアイライト。それが、彼の進化型ロイミュードたる姿だった。
「
と、シンジもその名は知っているらしく、ガンナーの銃口を無言で向けられても怖じた様子もなく、
「悲しいね。かつては死神として恐れられたアンタも、未来じゃ型落ちのスクラップだ」
と、声ばかりは憐れむような調子で言った。
「そんなの、オレが直接相手にするまでもない。そんなに『次』を見たいのなら、見せてやる」
シンジの指先が、自身に胴にかかる、ベルトの溝に触れる。
その表面に、年号がデジタル形式で、そして次から次へと浮かび上がる。
『2003』『2015』『2024』。
彼の身体から離れたその『時』が、空中に浮かび上がって混ざり合い、アラームのような音とともに、ゲートを形作る。
黒い網をかけたような、蒙昧な闇と繋がるその向こう側から、ひとりの男が現れた。
黒いジャケットに赤いシャツ、そして黒いネクタイを締めた男。髪量は多く、耳をすべて覆い隠すほど。どこか陰鬱とした眼差しが、よろよろと起き上がる英志のベルトへと向けられた。
「これを使え。別のアンタの力だ」
と、その男の横面にシンジは、おのが手に呼び出された銀色のベルトとスマートフォンのようなデバイスを差し出した。
漫然とそれを受け取った彼は、不慣れな手つきで画面を起動。
〈Standing by〉
タッチパネルに番号を入力すると、待機音が鳴り響く。
それを聴く彼の表情が険しく、歴戦の強者のような顔へと移り変わり、やがて握りしめたデバイスを天へと突き出した。
「――変身!」
〈Complete〉
ドライバーにスマートフォンをセットすると、血管を想わせる動線が彼に絡みつく。
生成される銀色のプレートと黒いボディスーツが、それによって繋ぎ合わされる。
頑健に補強された上半身。駆け巡る真紅のライン。その上で、蛍火のように、黄色い眼差しが閃く。
「教えてやれ、仮面ライダーネクストファイズ……テクノロジーの差は、意志だけじゃ覆しようがないってことをな」
暗い絶望を込めてそう呟くと、
「まぁな」
と、虚無の空間から現れたその仮面ライダーは投げやり気味に返した。
その力、神か悪魔か――
「教えてやれ、仮面ライダーネクストファイズ……テクノロジーの差は、意志だけじゃ覆しようがないってことをな」
「まぁ(別にそんなこともないけど)な」